シナリオ詳細
イレギュラーズの悪夢
完了
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オープニング
たとえ、世界最強の魔王を倒したとしても、それまでに得た経験値というものは決してなくなることはないように。
勇者は、それまでに失った仲間や、初めてゴブリンの首を切り落とした時の生々しい感触を覚えている。
たとえ、世界でいちばんの天才だと褒め称えられていたとしても、それまでにあった失敗が無かったことにはならないように。
博士は奇妙奇天烈奇怪にして不可解な人物として槍玉にあげられ、誰にも評価されずにゴミ箱へと、研究レポートが捨てられていた日々を嘆いたことを覚えている。
たとえ、大切に椿の花を押し花にしたとしても、切り落とした事実が無かったことにはならないように。
蝶よ花よと可愛がられ、淑やかな美しい女は、その美しさ故に、恋心を悪戯に弄ばれ、初めてを手折られ、女としての人生と社会的地位を奪われては、花街で暮らす毎日の夜、過去を嘆くように。
イレギュラーズという者もまた、この世界の住民であれ、異世界が召喚された者であれ、誰からも経験や過去からは逃れられないのだ。
●
「『悪魔の本』というのが見つかりました」
それは、カストルでもポルックスでもない、『何か』の声。確かに目の前にその人物は立っているのだが、顔を認識できない。
訝しげにするイレギュラーズに、中世的な声のそれは手を振った。なんでも、彼――男性として仮定したわけでも、女性として仮定したわけでもなく――いわく、彼自身は『顔のない境界案内人』なのだという。
「そういうわけなのでお気になさらず。……して、この『悪夢の本』なのですが、実はこれまでも何度か逃げておりましてね。対処法が編み出されたのですが……」
彼曰く、『悪夢の本』は、悪夢を餌としている。故に、悪夢を見なければ空腹に耐えられず、逃げ出してしまうのだという。物語が他の『悪夢』という名の物語を餌にしている事に奇妙がるものもいたが、100万、1000万、否、それ以上にこの境界図書館には『物語』が眠っている。そのうちの一冊が多少おかしくとも、そういうこともあるだろう。
「……大変申し訳ないのですが、そこでみなさんには、悪夢を見てもらい、この物語が逃げ出さないようにしていただきたいと思います」
なんで嫌な依頼なんだ、とイレギュラーズは眉をしかめたが、仕事なら仕方ない。顔のない境界案内人は、仕事を引き受けてくれるという彼らの言葉に雰囲気を輝かせ――表情がわからないが――喜んだ。
「いやぁ、助かります。お礼に、終わったら美味しい食べ物をなんでも用意しておきますから。頑張ってください」
(――え? いまなんでもって言った?)
カストルとポルックスは、嫌な予感がしたようで、巻き込まれないようにと早々に逃げ出した。いくら境界案内人仲間といえど、我が身は惜しいのである。
その様子に気付いているのか、いないのか。
顔のない境界案内人はにこりと笑って、一同にしおりを差し出した。この本に挟まれていたものだという。これを持っていると、悪夢を見ることが確定的になり、同時に、悪夢を食べてくれるのだとか。
「ちなみに、食べられた悪夢はしばらくは見ずに済むので、メリットが完全にない、と言うわけではないのです」
それを早く言ってくれ、とイレギュラーズは再びため息をついたのだった。
- イレギュラーズの悪夢完了
- NM名蛇穴 典雅
- 種別ラリー(LN)
- 難易度-
- 冒険終了日時2020年07月20日 14時11分
- 章数2章
- 総採用数8人
- 参加費50RC
第1章
第1章 第1節
雨が、降っていた。窓ガラスを叩く音が室内に響き渡る。じっとりとした湿度が、肌を不愉快に撫で付けた。
突然、室内が明るく晒された。雷。響き渡る轟音。『己喰い』Luxuria ちゃん(p3p006468)はハッと振り返る。そこにいたのは――Luxuria、己自身であった。
腹部に深々と突き刺さる刃物の感覚。痛みより先に、熱いと感じた。吹き出すのは鉄の香りがする緋色の液体。燃えている、燃えている、燃えて――
――世界が巻き戻る。
再び鳴り響く雷の音。腹部を守るようにして振り返ったLuxuriaを嘲笑うように、もう一人のLuxuriaは無防備なその白い首筋に、荒縄を掛ける。
聞こえるのは縄の音? あるいは、喉から漏れるわずかな息だろうか。……ギッ、ギ、ギィ、ギ――
――嗚呼、また、世界は巻き戻る。
死を拒絶するように伸ばしたLuxuriaの腕を、それは簡単に掴みとり、まるで赤子が人形で遊ぶかのようにして無邪気に振り回す。
夜はまだ長い。痛い、痛い。待ってほしい。そちらに、腕は、曲がらな――
――ゴキリ。
嗚呼、世界は、また。
ぼんやりと絶望に染まるLuxuriaの顔を白魚の指が撫で付けた。愛おしそうにそれは頬を滑らせたあと、謝罪するかのように唇を重ね。組み敷いたLuxuriaの純潔を穢す。聖域を侵される。
――穴という穴から液体を漏らし、Luxuriaはそっと世界から思考を遮断した。
成否
成功
第1章 第2節
「ねぇ、████。どこにいくの?」
この問いかけも何度目だろうか。大人は静かにイレギュラーズに―― 『草刈りマスター』アシェン・ディチェット(p3p008621)に答えを返さない。
『草刈りマスター』アシェン・ディチェット(p3p008621)はこの後どうなるのか、もうわかっている。見上げれば大人はこちらに視線を一切向けず、アシェンの歩幅に合わせるでもなく、ただ、淡々と歩を進めていた。
ああ、足が痛い。でも、ここで止まったら。私は████に置いていかれてしまう。
――いや。いや。いや。
ただ、愛してると言って欲しかった。
ただ、その温もりのそばにいたかった。
それだけなのに。けれど、『理想』を叶えてはくれない。だってこれは――『悪夢』なのだから。思わず手をぎゅっと握り返し、「大丈夫」と、「これからも一緒」と、「愛している」と言ってほしくて見つめた。
「さぁ、ついた」
目の前にあるのは、薄暗い路地裏。重々しい雰囲気に首を振る。……置いていかないで。
けれど、アシェンを拾ってくれたその人は、黙ってするりとアシェンの手からするりと丁寧に離れていった。
嘆きの言葉をいくらぶつけても、返ってくるのは無責任な『君なら1人でもうまくやれる。幸せを祈ってる』と言う言葉だけで。
絞り出したノイズが、誰が発した音なのかを理解するのに、数刻を要した。彼女の頭上にだけ雨雲が現れたかのような惨状であった。
成否
成功
第1章 第3節
常日頃から、家族とは一体なんだろうと思っていた『新たな可能性』カルウェット コーラス(p3p008549)だったが、夢の中では家族がいた。
誰だろうと首を傾げていると、母親らしい女性が笑いながら『ねぼすけさんがいるらしいわ』と男に告げれば、父親らしいそれは『そろそろ起きないと母さんのスープが飲めなくなるぞ。俺が全部飲んじまうからな』と揶揄った。
レガシーゼロであるカルウェットだったが、何故だが夢の中ではお腹が空いて、母親の作ったスープを飲みはじめた。暖かで優しい味だった。
昼は父親の仕事を手伝った。傘を作る仕事をしているらしい彼はみるみるうちに作り上げるが、カルウェットは上手にできなくて、何本か骨を折ってしまった。けれど、父親は怒ることなく笑って頭を撫でてくれた。硬くて大きい温かな手だった。
カルウェットはほんのりと胸の中が温まる心地でいた。夜に家族で3人で眠るのが当たり前のような感覚でいた。それが彼にとっての『日常』だと錯覚した。うとうととまどろみはじめた頃、ノックが聞こえた。顔を見合わせる両親。しかし無視することもできず、父親が扉へ向かう。
――彼はそこで思い出した。これが『悪夢』である事を。
目の前で父親の首が飛ぶ。母親は必死になってカルウェットを守るために衣装ダンスに押し込んだ。その後に、響き渡る、悲鳴。
カルウェットは家族を失った。2つの意味で。
成否
成功
第1章 第4節
静謐な空間に今日も2人は彼らだけの空間を楽しんでいた。ただ、男が愛おしそうにその手をグリーフ・ロス(p3p008615)の頬に滑らせては目を細める。優しい手が体温を残して離れていく。
グリーフは彼に愛されるために生み出された。彼の感情を埋め合わせるために作られた。
彼の投げかける言葉や仕草は愛のあるものであることには変わりなく。
だから、グリーフは錯覚していたのだ。
――自分自身が愛されているのだと。
刷り込まれた記憶。愛しまれる日々。故に自分が愛されないだなんて疑いもしなかったグリーフが、男の言葉のままに瞳を開けた瞬間に。
「よくも、よくも騙したな……!?」
誰よりも愛しんでくれていた『彼』がグリーフに向けた『憎悪』にたじろいだ。……どうして? あんなに愛し合っていたのに。ふと見つめた『彼』の瞳に映った色。
それは、記憶と違う、真っ赤な瞳。
――error
→深刻な障害が発生しました
嫌だ、と誰かが言った。
嘘だ、と誰かが言った。
それが『彼』のものなのか、それとも、グリーフのものなのか。わからない。ただ、理解したことはひとつだけあった。
彼に愛されるために生み出されたグリーフは、彼に愛されることはなかった。存在意義を失った彼はもはや誰にも必要とされることはないだろう
2度と、あの温かな手のひらが自身に触れる事も、あの優しい言葉が鼓膜を揺らす事も、なによりも欲される事も無いのだ。
成否
成功
第1章 第5節
『危魔道士』キンタ・マーニ・ギニーギ(p3p008742)は目の前の現実にがくりと膝をついた。
それは数時間前のこと。キンタがターゲットにしているのは『握りがいのある』男のシンボルをもっている男である。
改めて記載しておくが、キンタは別に同性愛者では無い。ただ、キンタの存在理由、自我の確立として選んだ先が『男のシンボルを握ること』だったのだ。
今日はやたらと女が目につく。仕方がないのでグランドサイズではなくとも人並みには大きさのある『男のシンボル』をターゲットに、街角の衛兵に狙いを定めた。
玄人でなければ見逃してしまうような、圧倒的な素早さで、キンタが手を伸ばす。しかし、その手は空虚をつかんだ。
「!?」
嗚呼、なんたることだ。衛兵はニューハーフだったのだ。『男のシンボル』を自らの意思で捨て、新たなる人生、新たなる階層へ進んだものだったのだ。
「ま、まさか」
嫌な予感がして、キンタはあたりにいる男だと思われる外見の民草全てに手を伸ばす。
――ない
――ない
――どこにもない!
「ワシ以外全ての人間がおなごかニューハーフになっとるやないかぁぁい!! ワシが握るタマはどこにあるんじゃぁぁぁぁい!!!!! ワシが極めると決めた道『握道』は閉ざされてしまうんか!?」
響き渡るのはまさしく絶叫。
そして、キンタの目の前は真っ暗になった。
成否
成功
第1章 第6節
「……であるからして、神隠しと呼ばれる現象はプラズマ現象と、元素の組み合わせにより発生した化学現象であると立証されました」
どこかの白衣を纏った男が高らかに宣言した瞬間、自分の中にある『何か』が、スッと消えていくのを感じ取った。それは質量のあるものではおおよそなかったが、けれど、自分という存在を確立するにおいて必要なものだった。
神隠しの正体は暴かれた。人が知恵をふりしぼり、それらしい解を与えてしまった。信仰を無くして久しい現在において、神々に神通力などという物はほとんどなくなってしまっていたが、件の発表が行われた今、神隠しは起こらず、少しづつそんな怪異があったことも忘れ去られてしまうだろう。せいぜい作り話だと笑われるだけだ。
『半人半鬼の神隠し』三上 華(p3p006388)はそれでもと期待を込めて、隣に立っていた人間を見つめた。
「ええと……誰だっけ?」
けれど、返ってきた言葉は残酷な物で。
嫌だ、消えたくない。忘れないで。誰か、オレを覚えていて。神隠しとしてじゃなくていい。だれか、オレを、████を忘れないで。
「オレだよ、████だよ」
耳を疑った。もはや、世界すら、████を名前で認識してはくれないのだ。唇から発した言葉はノイズになって空中に霧散する。
「オレは████だ。……オレは?」
消されていく。その現実に耐えられなくなった████は、その旨に銀のナイフを突き立てた。
成否
成功
第1章 第7節
なんだ。今日も失敗か。そう思いながらも、どこか安堵すら感じている自分に嘲笑しながら、『極夜』ペッカート・D・パッツィーア(p3p005201)は目の前の人間を見た。
優しくて、明るくて、騙されやすい、どこまでもオヒトヨシ。でもどんなに俺に誘惑されても最後の最後で乗ってこない。無欲なやつだった。
だから、死ぬ直前に言い返してやるつもりだった。死んでも、また。転生したら、会ってくれる? ……と。
嗚呼、もっと早く言えば良かった。
「ォォォォオオオ」
目の前の人間が歪む。腕は捻れ、両足は切断され血がぶわりと噴き出した。甲高い悲鳴が頭に響く。目の前の肉塊から無数の手が生え、身体が作り替えられていく。ぎょろりとした幾百もの目玉がチグハグな方向を見たのちに、こちらを見つめ直した。
あいつは綺麗だったから天界に利用された。……馬鹿なやつ。あれだけ俺が騙されないように訓練してやったのに。
……なのに、俺を殺すための『生きる兵器』にされるだなんて。
助けて欲しいと伸ばした手を、声を、振り切った。俺はアイツを救えない。異形になったこの子に、もはや来世などないだろう。あったところできっと、俺を恨むに違いない。
否、いっそ、恨んでくれた方が良かった。
「こんなことなら意地でも堕としとけばよかったなぁ」
その声が震えていたのは、聞かないことにして。両断したトモダチが崩れ落ちていくのを、静かに見守った。
成否
成功
第1章 第8節
『躾のなってないワガママ娘』メリー・フローラ・アベル(p3p007440)におおよそ敵はいなかった。楯突く先生は魔法で痛めつければ素直に従ったし、暇つぶしに、生徒の尻に火を灯してかけっこさせた。ご飯が気に食わなければ両親を駆り立てて新鮮な肉で作ったステーキを作らせたし、フカフカのベットで毎日素敵な日常を過ごしていた。
ある日のこと。月曜日の朝は甘くて美味しいパンケーキにとびきりのベリーと生クリームで彩った食事でなければならないのに、両親はうっかり火曜日な予定であるフレンチトーストを出してきた。
「今日は月曜日よ! イチゴのパンケーキって何度言えば理解できるの!?」
いつも通り、両親の頬が2倍に腫れ上がるまで壁に叩きつけようとした。……が。
魔法が使えない。
それを理解した両親は獣のようにメリーに襲いかかった。
――生意気な小娘め! 魔法さえなければお前なんて、あのクソ忌々しいゴキブリより酷い目に合わせてやる!
いくら悲鳴を上げても、脅しても、謝罪をしても、殴る手は止まらない。なんとか隙をついて転がるように家の外へ逃げ出せば、何人もの奴隷がいる学校へ向かっていった。が。
どこで噂を聞いたのだろう。校庭の真ん中にはメリーの机が置いてあった。花瓶に一輪、猛毒であろう紫の花が飾られている。
振り返れば、街の人や近所の子供、世界の全てがメリーに矛を向けて。駐在警官の銃弾が彼女の心臓を撃ち抜いた。
成否
成功
第1章 第9節
――イレギュラーズは、目を覚ました。
おはよう、と顔のない境界案内人が優しく声をかける。
気分が安らぐようにだろうか。イレギュラーズの眠っていた部屋には香が炊いてあった。隣の部屋にはとびきりのご飯やスイーツを用意したという。
「『悪夢の本』は無事に書庫へ収まりました。ご協力感謝致します」
NMコメント
うちの子のかわいそうな姿が見たいという人向けのラリーシナリオです。
存分にかわいそうな目にあってください。
安心してください、夢ですから。
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