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シナリオ詳細

イレギュラーズの悪夢

完了

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オープニング

 たとえ、世界最強の魔王を倒したとしても、それまでに得た経験値というものは決してなくなることはないように。

 勇者は、それまでに失った仲間や、初めてゴブリンの首を切り落とした時の生々しい感触を覚えている。

 たとえ、世界でいちばんの天才だと褒め称えられていたとしても、それまでにあった失敗が無かったことにはならないように。

 博士は奇妙奇天烈奇怪にして不可解な人物として槍玉にあげられ、誰にも評価されずにゴミ箱へと、研究レポートが捨てられていた日々を嘆いたことを覚えている。

 たとえ、大切に椿の花を押し花にしたとしても、切り落とした事実が無かったことにはならないように。

 蝶よ花よと可愛がられ、淑やかな美しい女は、その美しさ故に、恋心を悪戯に弄ばれ、初めてを手折られ、女としての人生と社会的地位を奪われては、花街で暮らす毎日の夜、過去を嘆くように。

 イレギュラーズという者もまた、この世界の住民であれ、異世界が召喚された者であれ、誰からも経験や過去からは逃れられないのだ。



「『悪魔の本』というのが見つかりました」

 それは、カストルでもポルックスでもない、『何か』の声。確かに目の前にその人物は立っているのだが、顔を認識できない。
 訝しげにするイレギュラーズに、中世的な声のそれは手を振った。なんでも、彼――男性として仮定したわけでも、女性として仮定したわけでもなく――いわく、彼自身は『顔のない境界案内人』なのだという。

「そういうわけなのでお気になさらず。……して、この『悪夢の本』なのですが、実はこれまでも何度か逃げておりましてね。対処法が編み出されたのですが……」


 彼曰く、『悪夢の本』は、悪夢を餌としている。故に、悪夢を見なければ空腹に耐えられず、逃げ出してしまうのだという。物語が他の『悪夢』という名の物語を餌にしている事に奇妙がるものもいたが、100万、1000万、否、それ以上にこの境界図書館には『物語』が眠っている。そのうちの一冊が多少おかしくとも、そういうこともあるだろう。

「……大変申し訳ないのですが、そこでみなさんには、悪夢を見てもらい、この物語が逃げ出さないようにしていただきたいと思います」

 なんで嫌な依頼なんだ、とイレギュラーズは眉をしかめたが、仕事なら仕方ない。顔のない境界案内人は、仕事を引き受けてくれるという彼らの言葉に雰囲気を輝かせ――表情がわからないが――喜んだ。

「いやぁ、助かります。お礼に、終わったら美味しい食べ物をなんでも用意しておきますから。頑張ってください」

(――え? いまなんでもって言った?)

 カストルとポルックスは、嫌な予感がしたようで、巻き込まれないようにと早々に逃げ出した。いくら境界案内人仲間といえど、我が身は惜しいのである。

 その様子に気付いているのか、いないのか。

 顔のない境界案内人はにこりと笑って、一同にしおりを差し出した。この本に挟まれていたものだという。これを持っていると、悪夢を見ることが確定的になり、同時に、悪夢を食べてくれるのだとか。

「ちなみに、食べられた悪夢はしばらくは見ずに済むので、メリットが完全にない、と言うわけではないのです」

 それを早く言ってくれ、とイレギュラーズは再びため息をついたのだった。

NMコメント

うちの子のかわいそうな姿が見たいという人向けのラリーシナリオです。
存分にかわいそうな目にあってください。
安心してください、夢ですから。

  • イレギュラーズの悪夢完了
  • NM名蛇穴 典雅
  • 種別ラリー(LN)
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年07月20日 14時11分
  • 章数2章
  • 総採用数8人
  • 参加費50RC

第2章

第2章 第1節

 顔のない境界案内人が用意した食事はとても美味で、悪夢によって乾いた心が少し癒されたイレギュラーズは日々に戻る。

 ……あの悪夢はしばらく、もう見ないだろう。

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