PandoraPartyProject

シナリオ詳細

みんないっしょに。みんなおなじに。

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 伸ばした手が、掴もおうとする女性の肩を引き裂いた。
 ひいひいと叫ぶ彼女から滴る夥しい血液。けたたましく叫び、尚も逃げようとする彼女に手を差し伸べようとする者は誰も居らず。
 当然だ。何故と言って、襲われているのは彼女だけではない。
 ――その日、一つの村は、突如現れたゴブリンたちに因る襲撃を受けていたのだ。
 村の男衆が狩りに出かけた間を縫っての事だった。女子供と老人しか居ない村は抵抗する術を碌に持たず、彼らの蹂躙を以て村は滅びの憂き目を見ていたのだ。

 ――いやだ。いやだ。
 ――いたい、くるしい、しにたくない。
 ――どうか。だれか。たすけて。

 響く声に、村の老人の一人が顔を覆った。
 何故斯様な目に合うのか。我らはどれほどの罪を犯したというのか。
 思考の最中にも、悲鳴がまた一つ。
 老人が顔を上げた。腕を掴まれた女性が半狂乱に叫ぶさまを見て、今ひとたびだけ、萎びた身体に活を入れた。
 慟哭を置き去りにして、今は唯、救える限りの人を救おうと。
 転がっていた角材を手に。非力ながらも精いっぱいの力で振るったそれを、叩きつけられたゴブリンは何の痛痒も示さぬ顔で。
 老人が「逃げろ」と言った。自分が気を引いているうちにと、何度も角材を振るいながら。
 ゴブリンは、最初それに対して抵抗を見せなかったが――本当に、それは『最初』のうちだけで。
 数分と立たず、それを振り払おうと、空いた片腕を振った。ただそれだけ。
 ただそれだけで、角材を持った老人は腕をへし折られ、地に叩きつけられて、死んだ。
 それを見たゴブリンが静止して、逃げ損ねた女性の側は、悲痛な叫び声をただ上げて。
 何かに苦しむように、ゴブリンが頭を抱えた。唸り、頭を振って……それを終えた後、臨む視界に捕らえたままの女性を入れる。
 自らを掴む手から逃げ出そうとした女性の腕は、既に擦り切れ、破れた皮膚から血が溢れていた。暗い瞳のゴブリンは、最早それに対し何も言葉を発さぬまま、ゆっくりとその腕を引っ張る。
 千切れてしまわぬように、今生きているこの女が、壊れてしまわないようにと。
 ――悲鳴。悲鳴、悲鳴、悲鳴、悲鳴、悲鳴、
 一つの村を埋め尽くしていたそれが、完全に絶えるのは、もう少しだけ後の話。


 村一つを襲撃したゴブリンたちを退治してくれ、と言う依頼が届いたのは、それから約二日が過ぎた頃だった。
『本来は』依頼の詳細が書かれた資料を渡されたジェック・アーロン (p3p004755)は――たった一枚の羊皮紙を前に(当然と言うべきか)顔をしかめた。
「……これだけ?」
「仕方がないのよ。緊急性を伴う依頼だったから、此方としても依頼にウラが無いかを確認する時間しかなかったの」
 苦笑する『色彩の魔女』プルー・ビビットカラー(p3n000004)。これまで多くの依頼を特異運命座標達に出してきたベテランの言葉ともなれば、ジェックの側も反発しかねる……のだが。

 ――村がゴブリンの群れに襲われた。数と構成、不明。練度と装備、不明。村を襲った理由、不明。

 流石に、ただ受けるにはリスクが過ぎる。
 そう思ったジェックが、否、とプルーの瞳を見て気づくまでには、時間はかからなかった。
「……これ、受けさせない気?」
「ええ」
 あっさりと言うものである。目を丸くしたジェックに対して、微か、眦を閉じたプルーは、訥々と言葉を発する。
「村からすれば一大事なのは解るわ。受けなければ、凡そ多大な人命が失われることも。
 けれど、この依頼には単純な不透明性だけじゃなくて、もっと何か――恐ろしい理由が内包されている気がして」
 歴戦の情報屋の言葉を前にしては、ジェックも返す言葉を持たない。
 ……そうして、沈黙。
 黙考し続けていたジェックは、それまで手に持っていた依頼の資料を折りたたんでは懐に収めると、プルーに背を向けて歩き出す。
「……ジェック」
 例え、一度。
 一度でも依頼を受ければ、特異運命座標達はその依頼に於いて、ハイ・ルールに縛られることとなる。
 例えそれがどれほど困難なものであろうと、どれほど――残酷なものであろうと、だ。
 去り行く背に手を伸ばしたプルーへと、ジェックは。
「今更、ちょっとくらい辛い依頼で引き下がるほど、アタシもヤワじゃないよ」
 ――嘗て、自らの手に掛けた『家族』を思い出しながら、とう呟いた。


 ――おうい、みんな、狩りから帰ったぞ。
 今日は沢山の獲物を取れたんだ。いつもよりご馳走になるぞ。
 おいおい、どうして逃げるんだ。何に驚くんだ。
 みんな、おれたちの顔を忘れちまったのか。
 逃げないでくれ。おれだよ。思いだしてくれよ。あれ、おかしいな。
 どうしてお前のうでは、こんなにかんたんにとれちまうんだ。
 そんちょう、おかしいよ。こいつらこんなにも、からだがもろくなっているんだ。
 そんちょう、どうしたんだ。どうしておれをなぐるんだよ。
 やめてくれよ、そんちょう。ああ、ああ、そんちょうも。
 うでが、まがっちまった。あたまが、くだけちまった。
 なおしてあげないとなあ。むらのみんな、びょうきなんだ。
 ――だから、なあ。『みんな』。
 かりからもどってきたばかりで、つかれてるだろうけど。
 みんなで、なおしてあげよう。
 くびをねじって、あたまをたたいて。
 そうすれば、みんな、もとにもどってくれるさ。

 ほら、そんちょうも、たおれたみんなも、おきあがって。
 おれたちと、おなじにすがたに、なっただろう?

GMコメント

 GMの田辺です。
 この度はリクエストをいただき、誠にありがとうございます。
 以下、シナリオ詳細。

●成功条件
・『ゴブリン』の撃退。

●場所
『幻想』内某所の村。人口は100人前後。時間帯は昼。
 下記『ゴブリン』は村全体に散らばって村人を探しています。
 シナリオ開始時、参加者の皆さんと村までの距離は自由に設定してくださって構いません。

●敵
『ゴブリン』
 緑色の肌、小柄な身体に見合わぬ強靭な皮膚と膂力が特徴のモンスターです。数は不明。
 現在は襲撃した村の内部を徘徊しており、無事な村人を見つけては彼らを殺害しています。
 目的は不明、装備や練度なども不明。
 また、現時点に於いて「村人の死体は確認できておりません」。
 これをどのように受け取るかは、PCの皆様にお任せいたします。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

●その他
 本依頼に於いて、重傷を負ったPCは×××××の恐れがあります。
 これは、依頼結果が失敗以下となった場合、より××××となる可能性もあります。



 それでは、どうぞよろしくお願いいたします。

  • みんないっしょに。みんなおなじに。完了
  • GM名田辺正彦
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年07月27日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費---RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)
私のイノリ
ジェック・アーロン(p3p004755)
冠位狙撃者
白薊 小夜(p3p006668)
永夜
フィーネ・ヴィユノーク・シュネーブラウ(p3p006734)
薊の傍らに
シャルティエ・F・クラリウス(p3p006902)
花に願いを
ベルフラウ・ヴァン・ローゼンイスタフ(p3p007867)
雷神
フーリエ=ゼノバルディア(p3p008339)
超☆宇宙魔王
ハンス・キングスレー(p3p008418)
運命射手

リプレイ


「……前情報で状況が不透明な部分が多いのが、なんとも不安な感じじゃの」
 依頼に在った村の外にて、偵察班の帰りを待つ『超☆宇宙魔王』フーリエ=ゼノバルディア(p3p008339)の表情は訝しげだ。
 残る待機班の面々も、その感情は同じく。
 此度、村を襲ったとされるゴブリンの撃退を命じられた特異運命座標達は、その情報の余りの拙さに行き場の無い思考を巡らせることしかできずにいる。
「同感だな。村の襲撃自体は兎も角……被害者の死体が一つも無いとは」
 悪寒が、首の裏を焼くように走る。それを軽くさする『戦神凱歌』ベルフラウ・ヴァン・ローゼンイスタフ(p3p007867)は、遥か遠方に見える村に視線を遣る。
「……フィーネ、いい? 何かあっても無理はしないで」
「はい。お姉様も、無理はしないでくださいね?」
 一方は物憂げな表情で、他方は拭えぬ不安を隠せぬままに。
『盲御前』白薊 小夜(p3p006668)の言葉に頷きながらも、その懸念をそのまま返す『支える者』フィーネ・ヴィユノーク・シュネーブラウ(p3p006734)。
 特異運命座標である以上――否、「そういう生き方」を選んだ以上、小夜もフィーネも、大小こそあれど危険の伴う依頼を選り好みすることはできない。
 だが、今回の依頼はそういった類の危険性ではなく……言ってしまえば不気味さが際立っている。
「……でも、だからって助けを求める人達を見殺しにはできないよ……!」
 その怯懦を、声に出して振り払おうとする『 Cavaliere coraggioso』シャルティエ・F・クラリウス(p3p006902)に、否定を返す者は居ない。
 有するスキルを介して、未だ助けを求める声はシャルティエの元に届いている。通してそれは、未だ救うことのできる命があるということ。
「騎士として」。それを自らに強く戒めて呟く彼に、応える声は、上方から。
「だね。この依頼……プルーが止めたのはきっと正しい。
 けど、聞いちゃったからには……受けざるを得ないでしょ」
『虚刃流直弟』ハンス・キングスレー(p3p008418)に抱えられる形で上空から偵察を行ってきた『お姉チャン』ジェック・アーロン(p3p004755)が、そう言ってゆったりと地面に降ろされる。
「……上から見た村内にはゴブリンの姿だけで、村人は見えませんでした。
 宛てなく村の外に逃げたか……村内に居るとすれば恐らく建物の中に隠れて、助けが来るのを待っているのではないでしょうか」
 一拍遅れて、ハンスも。持ち帰ってきたであろう情報を待つ待機班の面々に、彼は即座に情報を開示する。
 無力な村人が襲撃から最低二日間もの長期間を外に出て助けを待つとは思えない以上、妥当な推測と言える。
「分布は?」
「数は大分……それこそ七か八十ほどは。そのゴブリン側も常に家の中を出入りして、村人を探しているみたいです。
 一つ所に留まらない、と言う意味では、手薄な場所や固まっている場所を狙うのは難しいかと。家屋や地形の配置は記録しましたが」
 問うたベルフラウに答えるハンス。得られた情報の少なさに対して、已む無しと首を振った彼女は、仲間たちに視線で問う。
「……先ず、優先的に家屋を捜索して、無事な村人を見つけては逃がす。その後にゴブリンの撃退、でいいかな?」
 言葉にして、ジェックが、声も無く頷いた仲間たちは、そうして村に足を向ける。
「……首を斬る。
 処刑人(わたし)がすることはそれだけだけど」
 その間際、『宝飾眼の処刑人』シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)がぽつりとつぶやいた。
 その首は、果たして誰のものなのかを、問うことだけは止めたままで。


「……?」
「邪魔っ!」
 ふい、と最初に此方を見たゴブリンが、ハンスの突撃で吹き飛んだ。
 速力をそのまま威力に変えたブルーコメット・TSは会敵した相手に甚大なダメージを与えたものの、一撃で倒すには力不足だった。起き上がる緑の小躯に、スカイウェザーの青年は臍を噛む。
「あの数を相手に、出し惜しみするなとは言えんが……」
 続き、フーリエが。裂いた自身の腕から零れる血に祝詞を乗せ、仲間たちの気力を時と共に補填していく。
「後を憂えて今を危地に追いやることはないようにの!」
「ええ。言われなくとも」
 返した小夜の抜刀。弄花を介した舞菊、命を賭けた享楽を通し、鮮やかに薙いだ仕込み刀が集まり始めたゴブリン達を次々と切り裂く、が。
(……小鬼の討伐依頼は、何度か受けたけど)
 最初に違和感を感じたのは、盲人である小夜だからこそ感じるそれだった。
 体臭、或いは切り伏せた後の血液の匂い、其処に伴う獣じみた不浄が、彼らからは感じられない。
「……やはり、奇妙な」
 二種のスキルによって付与と庇護を同時に行いながら呟くベルフラウの言葉も、彼女が有する役割が故に意味がある。
 襲い来るゴブリン達は彼らに対する殺意を持ち、此方に素手で殴りかかってきたり首を絞めたりといった行動を取ってくるのだが。
「悪意が、無い……?」
 歌い、謳う。天使の歌によりゴブリン達の殴打で傷つく仲間たちを癒す傍ら、自身に問うようなフィーネの言葉は、ベルフラウの思考と合致した。
 例えば、親しい友人が髪についた埃を取ってくれるように。
 例えば、親が子の衣服の乱れを正そうとしてくれるように。
 憎いから、邪魔だから。そういった悪意、害意が存在しない。
 それは、この命の取り合いに於いて、逆に恐ろしいことだ。思わず、ひゅっと呼吸したフィーネの表情は、最初のそれよりいくらか青ざめていて。
「……居た!」
 じりじりと迫る、真実と言う名のナニカ。
 それを振り払うようなシキの声は、恐らくこの場に於いて一番の朗報となったろう。
 戦闘の檄音から、特異運命座標達の居場所は村中のゴブリン達に知れ渡りつつある。
 加速度的に増え往く緑肌の小鬼達への対処に追われる特異運命座標達に、残された時間は然程多くなかった。
「――――――な」
 痩せ細ったゴブリンが、少女の首を絞めていた。
 がくがくと震える矮躯。それを眼前に臨むゴブリンの笑みを見たジェックの行動は、早かった。
「……止めろ!」
 握る銃把。虚を突かれながらも定めた照準に違いはなく。
 頭蓋に撃ち込んだ銃弾に対し、がくんと態勢を崩し、その手を離したゴブリンへ、立て直しを許さぬシキの刃が振り下ろされた。
 王の道、続き、H・ブランディッシュ。ローレット内でも高い実力を誇る二人が、スキルを惜しまず使っても、どうにか敵の一体を打倒しうる程度。
 未だ、倒しきれていない敵は数多くいる。それらに対処することは果たして叶うのかと危惧しながら、けれど、今だけは。
「大丈夫!?」
「……ぅ、あ」
 残された子供を、誰よりも早く抱え上げたのはシャルティエだった。
 十にも成らぬであろう幼いその子は、だらりと垂れた首を動かし、シャルティエよりも先に、死んだゴブリンを見て――ぼろぼろと涙を零した。
「……いやだ」
「え?」
「お兄ちゃんたち、いやだ!
 ひとごろし! お母さんを返して! 返してよ!」
 終ぞ、わんわんと泣き出す子供に対して、シャルティエの表情が停止する。
「……おかあ、さん?」
 鸚鵡返しに問うたジェックは、ゴブリンの死体よりも、その子供から目が離せない。
 ……だって、ほら。
「『へんなかっこ』のお兄ちゃんも、お姉ちゃんも。
 みんな、みんな、どっかいっちゃえばいいんだ!」
 折れているはずの首が、何の治療も施さずに、元の真っすぐな姿勢を取り戻している。
 ――その色を、緑色に変えながら。
「おかあさん、いってたのに。
 わたしも、みんなといっしょになれば、もと、もっ、もとどどおり、だて」
 緑色が広がっていく。手足の爪が鋭く、頭髪が抜け落ち、耳が大きく、横に長くなっていって。
「へんなはだのぃろ。めののいろ。
 いしょになればいいいいいのに。いのに。のの」
 動かぬまま、呆然と変化を見つめていたシャルティエの首に、軈て「少女だったゴブリン」の手が伸ばされ――


 敵を侮りすぎていた、と言う部分は大きい。
 練度の低さ、殆どが非装備であるという要素、それを差し引いても殆ど村一つ分と言える数のゴブリンを相手を二の次に置き、村人の救出を第一にしたという点が。
 村内に突入後、生存者の救助を優先すると言う作戦の方針が、特異運命座標達の陥穽だ。
 捜索、乃至救助の間に攻撃手が減る事態が発生してしまう、当初の作戦通り、事前の偵察で無事な村人の位置全てを確認できていれば兎も角、そうでなかった今回は全ての家屋をしらみつぶしに探す必要があり、その手間は想定よりも大きくなってしまった。
 結果的に見つかった生存者の数名は、ハンスの運搬性能によって全員が村の外に脱出することが成功するが……彼らを見つけ、救出するまでの間に、特異運命座標達の存在に気付いたゴブリン達は、最早村中に居る殆どの数となっていた。
 そして今やその殆どは、自身らに対する脅威であろう特異運命座標達を倒すためか、或いは新たな仲間に加えるために、次々と迫りつつある。
 この数の対処は難しい。単純な手数の差も元より、陣形の問題である。
 村内に散らばっていたゴブリン達が特異運命座標達の存在する一点に集まるということは、彼らの場所によっては事実上の包囲と同義だ。
 自然、前後衛の意味が殆ど無くなる。カバーリングを担当するベルフラウとシャルティエの庇護下に在るものを除けば、当座の安全すら保障された者も無く。
「……嗚、呼」
 近づくゴブリンを盾で払う。がら空きになった胴体を、しかしシャルティエは斬ることができなかった。
「今、僕が、殺せば……」
 眼前のゴブリンが、先ほど手を伸ばされ、突き飛ばした少女の姿と重なる。
 それを――迷いなく切り伏せたシキは、はあとため息を吐いて彼を見た。
「さっさと倒すよ。依頼に背くわけじゃ無いだろう?」
 心を知り、その存在を認め――だが自らの内にだけは否定する彼女の瞳に、迷いはない。
 そんなシキに、必死に追い縋るがごとく。
「解ってる、そんなことは……!!」
 撃ち込んだ『釘』が、居並ぶゴブリンを貫く。黄金銃穿。未だ残る多数の敵を少しでも多く削ろうとするジェックが、自ら唇を噛んで意気を損なわぬよう胸中で叫んだ。
(気を逸らすな、目を逸らすな。
 また足を引っ張るつもりか、ジェック・『アーロン』!)
 ……一同の負傷は少なくない。
 それを少しでも和らげようと、喉が擦り切れるまで歌う覚悟のフィーネとて、限界は着々と近づいており――何より。
「ええい、余の波動を何度も受けながら、尚もぞろぞろと……!」
 語るフーリエ。ゴブリンの大元を理解し、それでも情に流されることないまま「可能な限り殺害には至らしめずに拘束」という妥協点を探る彼女が、何度目かの超☆魔王波を撃ち込む。
 が、彼女の術式は確かに一定数のゴブリンを倒しても、戦況を劇的に変えるとは言い難い。
 つまり、それがもう一つの苦境の理由。
 大多数による事実上の包囲陣系に対して、貫通属性や超至近距離での範囲攻撃のみと言う複数攻撃の手段は、想定よりも奏功していないと言うこと。
 或いは戦闘を主軸に作戦を組み立て、それが上手く機能する条件を整えれば、凡そ知性の低いゴブリン達にはこれらの攻撃も絶大な効果を伴ったであろうが、それも今となっては手遅れな話だ。
「攻撃に集中しろ! 防御は此方で引き受ける!」
 叫ぶベルフラウの言葉も、平時のそれより些か頼りないのは致し方ない。
(膂力まで人外になっているとはな……!)
 戦場賛歌による攻撃誘因は碌な抵抗力を持たないゴブリンたちには確かに効果を示すが、彼女とてその耐久力が無尽蔵というわけではない。
 加速度的に減る体力。この攻撃誘導はベルフラウが倒れるまでの時間稼ぎに過ぎないことを、一同が理解した。
(……声に、出したい)
 思い、ハンスが脚甲から真空の刃を生み出した。
 中空を舞ったそれはゴブリンの一体に当たっては、夥しい鮮血と共にその片腕を吹き飛ばす。
(自分は悪くない、これは罪じゃない。
 依頼だから、知り得なかったから。そう言って、理解を示さない人は、きっと少ない)

 ――妻は違うんですちょっと調子が悪いだけで直ぐにパパがママを食べてママがパパといっしょの顔にお姉ちゃんを殺さないで助けて助けて私も変わってしまったあの子も――

「……でも」
 嗚咽と共に吐き出したかった心情を、堪える。
 無事な村人を運搬する役目を持ったハンスは、その過程で村人に助けを請われることが誰よりも多かった。それは村人自身だけではなく――変化してしまった知己に対しても。
 特異運命座標は万能ではない。手遅れとなったすべてに対してできることはただ、その思いを汲んでやることだけ。
「……戦う術を持たない女子供を手に掛けたこともある」
 苦境を強いられる最中、それでも耐え続け、じりじりと彼我の戦力差を均していく特異運命座標の戦いぶりは、地力と経験の差から来るものだろう。
「例え"何で"あろうと、私は斬るのみ――」
 血塗れの姿を気にも留めず、誰ともない告解の如く呟く小夜の呼吸は、しかし荒い。
 村一つを相手取った戦闘で消耗を免れ得たものは居ない。庇い手を務めるベルフラウ達は勿論のこと、パンドラを消費していないものがこの戦場では少ないくらいである。
 先にも言った通り、前後衛を問わない戦闘に於いて、体力的リソースを失いやすいものは自然と絞られてくる。
 これに対して流動的にカバーリングができる態勢を整えていたベルフラウとシャルティエは、体力の少ない者たちを順に庇い、その間にフィーネの回復を飛ばすという形で戦線を構築できていたが、戦闘が後半に差し掛かった時、それが遂に乱れる時が来た。
「……あ」
 声が漏れたのは、ジェック。
 負傷が募り、更にカバーが空いた隙を縫われた。
 眼前に迫るゴブリンの手。振り払う事も叶わず、彼女の首は掴まれ、めりめりと引きちぎられる――
「ジェック、さんっ!!」
 ――その筈、だった。
「フィー……!」
 突き飛ばされる身体。ジェックの身代わりとなった猫耳のウォーカーは、その頭部を掴まれ、みしみしという気味の悪い音を周囲に響かせる。
「っ、フィーネ……!!」
 にたりと笑ったゴブリンを、切り伏せる小夜。
 縛るゴブリンから解き放たれ、眩むフィーネの身体を抱きしめた彼女は、其処で、息を呑む。
「……『見ないで』、おねえ、さま」
 盲人である小夜に、そう呟くフィーネ。
 ゴブリンに掴まれた際に出来たのであろう左の「眼窩」は、瞬く間に修復されていく。
「わたし、おねえさまを……いっしょに、したく、ない」
 その虹彩を、濁った金に。
 その周囲の皮膚を、淀んだ緑色に、変えながら。

 ――慟哭が、その場を満たした。


「……撤退だ!」
 シキが叫び、それと共に一同は包囲の薄い部分に攻撃を集中させて突破を図る。
 粘りに粘った戦闘は、結果として最初の頃よりゴブリンの数を大きく削っていた。無事な者が負傷の大きい者を抱え、一同は必死に村の外へと脱出する。
「……あ、れ」
 村から距離を取って、どれほどの時が立ったのか。
 偵察の時にも役立てた、類い稀なる視力を持つジェックが、最初に気づいたのは……徐々に村を後にする、ゴブリンたちの姿。
「向こうも、去っていった?」
「邪魔者が消えたからか、『いっしょにする』村人が居なくなったからか……は、余らには解りかねるのう」
 信じられない、という声音のハンスに、返すフーリエも思案顔だ。
 ともあれ、ゴブリンたちが村から去った以上、「撃退」という当初の目的は達成できたといえる。
 ……払った代償は、少なくなかったが。
「今は、早くローレットに――!」
 言ったのは、小夜であり、他の仲間たちも同様だ。
 その身に有するパンドラが故か、あるいは別の理由か、未だ侵食らしい侵食を受けていないフィーネの意識は、その負傷の度合いもあって取り戻されてはいない。
 そして、「もう一人」。
「……手早く頼む。『この腕』を抑えるのも、限界に近い」
 誰よりも攻撃をひきつけ、仲間のダメージを背負い続けたベルフラウの片腕もまた、醜悪な姿に変異しつつあった。
 脂汗を垂らしつつ、それでも笑いながら言ったベルフラウに、シャルティエは泣きながら得物を振るい――彼女の意識を、刈り取った。
「……ごめん、なさい」
 ゴブリンの腕はそのままに。後頭部を殴りベルフラウを気絶させたシャルティエは、彼女に、また自身が救うことのできなかった――否、「害すること」しかできなかった村人に、懺悔の言葉を繰り返すことしかできなかった。



 後日。
 ベルフラウとフィーネはローレットに帰還後、数日間の時をかけて変異した箇所の治療に成功する。
 ただし、その間――彼女たちは自室に籠り続け、自身を治療する医師を除き、人前に出ることは決してなかった。

 ――まっしろのはだ、きらきらのめのいろ。よくひびくこえ。

 それが、何故か。

 ――みんなみんなみにくいから、ほら、いっしょにしちゃおうよ。

 彼女たちは現在も、その理由を語ることはない。

 ――くびをちぎろう。あたまをくだこう。さあ、とびらをひらいて、みんなを、みんなを、いっしょにににににににににににに

成否

成功

MVP

なし

状態異常

フィーネ・ヴィユノーク・シュネーブラウ(p3p006734)[重傷]
薊の傍らに
ベルフラウ・ヴァン・ローゼンイスタフ(p3p007867)[重傷]
雷神

あとがき

フィーネ(p3p006734)様に称号、「小鬼の左目」を、
ベルフラウ(p3p007867)様に称号「小鬼の右腕」を付与致します。
ご参加、有難うございました。

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