PandoraPartyProject

シナリオ詳細

かささぎの 渡せる橋に おく霜の

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 1年に1度の逢瀬。限られた時間の再開。星の川に引き裂かれた2人の物語をふと思い出す。
 女が目を開いてもそこには天井があるばかりで、夜空など見えやしない。いいや、夜空など久しく見ていなかった。
 体調の崩し始めに『夜風はお身体に障りますよ』と言われてから、ずっとだ。
(あの方が待っているのに)
 薄く目を開いた女は誰もが見てわかるほどに衰弱している。体は痩せ細り、肌は血色が悪く、瞳はただ虚ろで。
 長くないだろうと皆が、そして誰よりも自分がそう思っていた。
 死が近いからこそ逢いたくて。
 死が近いからこそ逢いたくなくて。
(あの方に幻滅されてしまうわ)
 健康だった以前とは程遠い、愛する人には見せられない姿。落胆する彼のことを見たくなかったし、女としての矜持がこの姿を見せたがらなかった。
 だから──彼が来ても、追い返してしまったのだ。

 もう貴方には逢えません。
 だから二度と訪れないで。

 そのような伝言をさせれば、彼は言葉通り再び現れることもなく。1年後の星の川を見る前に、女はこの世を去っていった。



「未練、と言うのかな」
 その男はイレギュラーズへ苦笑を浮かべてみせる。数年前より傷心の男は、此度の依頼人であるようだ。
「あの時無理にでも逢いにいって、この想いを伝えればよかったんだ。別れが覆せない定めだったとしても……そうすれば、きっと、彼女は1人で逝かずにすんだ」
 寂しく逝ったのだと聞いた、と男は俯く。愛する女は少ない使用人たちに囲まれて、闘病の末に亡くなったのだと。
「だから、遅いのかもしれないけれど。毎年この日に墓参りに行って、話すんだ」
 この1年間で何があったのか、星瞬く一夜をかけて。
 星の川に橋が渡る今宵ならば、彼女にだって会えるかもしれない。そんな小さな期待と、そんなわけもないという現実に挟まれながら男は毎年墓へ向かうのだそうだ。
「その道中、最近は妖の類が出没するらしいんだ。まあ見ての通り、僕は戦えないから逢えばたちまち彼女と再開というわけで」
 逢えるぶんには悪くないが、彼岸へ行ったら彼女に怒られてしまいそうだ。自分の墓参り前に自身が来るとはどういうことか、と。
 その話を聞く限り、生前の女は比較的気の強い者であったように思えるが──そこは依頼に関係ないのだから、敢えて深くは掘るまい。
「妖は群れで行動していると聞いているよ。獣のような風体で、目が3つあるんだ」
 3つ目の妖怪はヒトを殺して死骸を食べたことがあるらしい。ヒトの血肉に飢えており、周辺に住む村人ですらその生息域には絶対近づいてはならないとされている。
「それでも行くのかって聞かれれば行くさ。だって、彼女に逢うためだからね」
 よろしく頼むよ、イレギュラーズ。男はそう言って、笑いかけた。

GMコメント

●成功条件
 男を目的地まで連れて行く

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。不明点もあります。

●エネミー
・多眼狼×10
 たがんろう。三つ目の妖です。狼のような姿ですが、額にも目が存在します。通常の瞳以外では過去や未来などを視ると言いますが詳細は定かでありません。夜にのみ出没します。
 群れで行動し、ヒトの味を覚えたのか攻撃的な傾向にあります。噛み付く、引っ掻く他、食いちぎられないよう気をつけて下さい。
 攻撃には毒のような穢れを含んでおり、瞳に魅入られることもあるでしょう。攻撃力はありますが防御技術に弱いです。

・食らいつく:地肉を自らの栄養にします。【流血】【HP回復100】
・遠吠え:遠くまでよく響きます。【無】【混乱】【???】

●経路
 山の麓から中腹まで登ります。ひたすら上り坂です。
 足元はあまり良くなく、道というほど道も整備されていません。
 夕方から向かい始めるため、明かりの類が必要でしょう。

●NPC
・依頼人『千歳』
 護衛対象のヤオヨロズ。男性です。戦えません。
 亡き恋人の墓参りに行きます。

●ご挨拶
 愁と申します。カムイグラの七夕です。
 帰りの護衛は不要ということなので、行ったら帰るもよし、星空を眺めるもよし。好きに過ごして下さい。
 ご縁がございましたら、よろしくお願い致します。

  • かささぎの 渡せる橋に おく霜の完了
  • GM名
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年07月26日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

アルペストゥス(p3p000029)
煌雷竜
レスト・リゾート(p3p003959)
にゃんこツアーコンダクター
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
カイト(p3p007128)
雨夜の映し身
ルカ・ガンビーノ(p3p007268)
運命砕き
シュヴァイツァー(p3p008543)
宗教風の恋
アルテラ・サン(p3p008555)
花榮・しきみ(p3p008719)
お姉様の鮫

リプレイ


 ──七夕に雨が降るのは、逢えぬ悲しみが空から降るからなのだと言う。
「まあ、殊勝な心掛けならきっと降らねぇ筈さ」
 『雨夜の惨劇』カイト(p3p007128)は空を見上げて小さく笑みを浮かべる。空には今のところ、雲ひとつとして見えない。
「はは、それだといいんだけれど」
「安心しな。お前さんの墓参り、必ず果たさせてやるからよ」
 千歳の苦笑いはこれまでそのような事があったのだと思わせるに十分だ。『黒狼』ルカ・ガンビーノ(p3p007268)は彼と、他のイレギュラーズたちへ行くぜと顎をしゃくって山道を示す。道中には魔物も出ると言うのだから、のんびりしていては夜が明けてしまうかもしれない。
「先頭は任せてっ!」
 そう告げて木に炎を撒いたのは『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)だ。『宗教風の恋』シュヴァイツァー(p3p008543)のメカ子ロリババアが草を踏み鳴らした後にそれは着き、炎を赤く揺らめかせる。千歳は最初こそ慌てた様子であったが、炎が木々を燃やさないと気づくと不思議そうに焔へ視線を向けた。焔がギフトによる燃えない炎なのだと告げれば納得したように頷き、墓へと向けて彼女に続き山道を登り始める。
「未だ思フは想い人、ですか」
「んふふ、今でもその子の事を大切に思っているのね~」
 小さく呟いたアルテラ・サン(p3p008555)に頷き、『夢色観光旅行』レスト・リゾート(p3p003959)は鋭い聴力で不自然な音が聞こえないかと耳をそばだてながらふぅわり笑った。
「男気溢れるね。あとは自分でも戦えれば完璧なんだが」
 ガスマスク越しに視線を向けたシュヴァイツァーに千歳は「そればかりは才がなくて」と眉尻を下げる。聞けば、彼は文官として働いているのだそうだ。
「なら代わりに、恋人の惚気でも聴かせてもらおうか」
「惚気? はは、恥ずかしいな。それじゃあ……」
 照れ笑いを浮かべる千歳は懐かしむように目を細める。その心には死んでも尚想い人が中心にいるようだ。その想いは自らを縛る鎖ともなっているようだが、アルテラはそれでも美しいと感じずにはいられない。
(恋、ですか……)
 彼がゆっくりと語り始めた惚気話を聞きながら『荊棘』花榮・しきみ(p3p008719)はそっと視線を巡らせる。夜目の利く目薬のおかげで視界はそこそこ良いが、今のところ敵らしい敵も見当たらない。それは髪留めから生まれた蝶の式神も同様のようだ。空を見上げれば木々に隠れながらも満点の星空が覗いている。
(星とは、運命をも表すと言われておりますね)
 天上に散らばる星の如く、命が無数に散らばると言うのであれば──それもきっと、定めなのかもしれないとしきみは思う。
 一同の最後尾をのしのしと歩きながら進む『煌雷竜』アルペストゥス(p3p000029)は辺りを見回し、自身らが使う非戦闘系超能力しか察知しないことを確かめると小さく目を伏せる。束の間、ほんの少しだけ。その合間にも一同の足は進み、話も盛り上がる。レストは彼女のことを話して幸せそうな、それでいてどこか陰りのある千歳へ口を開いた。
「毎年お墓参りを欠かさないのだものね。これからも、千歳ちゃんが経験するたくさんの出来事を、聞かせてあげなきゃね~」
 そうだねと答える千歳に、しかし一瞬の逡巡があったことをレストは見逃さない。もやもやと胸の内にわだかまっていた違和感が、勘違いではないのだと確信させられる。
(やっぱり……お墓参りをしたら、千歳ちゃんは)
 おかしいと思ったのだ。山に魔物が出るのであれば、行きも帰りも護衛を頼んで当然である。往路で必ず魔物が出現するとも限らないし、そこで確実に倒せるとも限らない。手負いの状態で逃げられる可能性だってあるのだ。にも拘わらず千歳は往路のみの護衛を依頼した。
 墓参りさえできたのなら──あとはその身がどうなろうと良いのだろう。
「──! グルルル……!」
 突然弾かれたようにアルペストゥスが顔を上げ、唸り声をあげる。同時に聞こえた遠吠えは思っているよりも近く、一同ははっと緊張の糸を張り巡らせた。
「わる~い狼さんの登場かしら~?」
「そのようですね」
 ふわふわとした声で、かくりと首を傾げるレストに頷くしきみ。シュヴァイツァーは武器を指に引っ掛けながら視線を巡らせる。自身がまだまだ弱いのだと自覚はある、故に様々なことを考えて動かなければならない。
「皆、あちらにひらけた場所がある」
 その視界に言葉通りの場を見つけたシュヴァイツァーは淡々と皆を促した。足場の良くない場所であるのなら、せめてなるべく広い方が戦いやすいだろう。
 そうして動く間にも超聴力を持つ者たちには獣の息遣いやガサガサと草をかき分ける音が聞こえてくる。焔が辺りへ光源を撒くと同時、影が一同の前へと降り立った。
「おいで! 千歳くんの邪魔はさせないよ!」
 槍を構える焔に複数の唸り声が重なり、飛び掛かっていく。躱して受け止めてもなお鋭い牙は炎より深い赤を滲ませた。
「テメェら、半端な覚悟でコイツの邪魔するんじゃあねえぞ」
 低い声、次いで咆哮にも似た雄たけび。狼たちは一瞬の怯みを見せたものの、隙にもならない内に立て直す。そして引く気はないらしい。ならばブチのめすだけだと振り回すルカの武器は本来両手で扱うはずだが──彼は片手で力任せに振っていた。ぶおん、と風を切る音が響く。
「んふふ~。千歳ちゃん、おばさんから離れちゃダメよ~」
 その傍らでレストはさあ寄って寄ってと千歳を背中へ隠した。依頼人を傷1つつけさせるものかとその手に丈夫な旅行鞄を構え、向かってくる狼の爪や牙を鞄でいなしていく。ぴ、と掠めた爪が赤い筋を作るが気にしてはいられない。レストたちの方を向く狼へ別個体からの唸り声が向けられた。
「グルルル……!」
 アルペストゥスの威嚇と共に放たれる魔弾。四肢に力を込めた古代竜の一撃が狼を苦しみの中へと突き落す。苦しみにもがく狼からは、それでも『食べたい』という感情の色が消えない。けれどイレギュラーズたちとしては食べられるわけにも、食べさせるわけにもいかず。その感情はぶつかり合う他ないのだ。
 苦しんだ狼は遠吠えをしようとその息を吸い込むが、上を向いても思うような声は出ない。カイトがその口端を挙げる。
「今はただ、弔いに行く1人の男の為に──黙り続けな」
 吠えられぬと悟った狼が口を閉じると同時、その空から黒鴉が急降下してくる。ただの鴉ではない、しきみの式符より呼び出されし冥闇の黒鴉だ。直後、アルテラの足元が太陽ばりに煌めいた。魔法陣より飛び出した聖なる光は狼へと真っすぐに飛んでいく。
「フフフッ……眩しいでしょう、我が太陽の光は」
 眩しさで言えば聖光より魔法陣の方が眩しかっただろう。そこへシュヴァイツァーは飛び込み、手元の武器をぶん回す。敵を穿つのはその刀身、ではなく振り回して漏れ出す炎だ。悪人に罰が必ず下されるように、その火は奇跡的な回避力を見せない限り当たりに向かう。
 けれども狼たちとてそう易々と逃げかえることはない。目の前のモノは美味しさを知ってしまった肉──ごちそうなのだから。
 焔は自らの運命を苛烈に燃やして立ち上がる。すかさずその傷を治癒したアルテラは、1匹の狼が大きく息を吸った姿を視界の端に捉えた。
「しまっ──」
 その言葉をかき消すような遠吠え。直後にルカが狼の首を切り落とす。けれども発された音はもはや回収できない。
(さて、何をして来るか)
 カイトがレーダーを掛けようとした直後、何かを察したような狼が飛び掛かってくる。食らいつかれた腕を乱暴に振り回し、その牙を引きはがすとカイトは冷たき墓標を狼へと咲かせた。
「レストおばさん、引き続き庇い役は任せたよ」
「んふふ、頑張っちゃうわ~。皆も息切れしないようにね~」
 レストの言葉が警戒、困惑、あるいは混乱していた一同落ち着かせ、立て直す号令となる。シュヴァイツァーは片袖の魚を振り回しながら先ほどの遠吠えに考えを巡らせた。
(遠吠えの効果はなんだ)
 これがただ混乱させるためだけなら良い。けれどもこの胸騒ぎがそれだけではないと告げている。援軍か、それとも強化か、回復ということも考えられるだろう。いずれにしてもその場面に遭遇しないと分からない。
 少なくとも狼たちについた傷が癒える様子は見られない。回復ではなさそうだ。そして変わらず手こずらされているが、先ほど以上ではない──少なくとも体感上はそうだ──ことに強化もイマイチ頷きかねる。
「だとすれば、援軍だ」
 シュヴァイツァーの言葉に頷く仲間たち。数が増えると言ってもイレギュラーズのすることは変わらない。千歳を守り、敵を退けるだけである。
「尻尾巻いて逃げるなら今のうちだ」
 ルカが強烈な乱撃で血の雨を降らせる。しきみもまた白鴉を生み出すと一直線に飛び掛からせた。相手の死を確実に見分け、その視線は別の方向へ。
「来たようですね。ですが申し訳ございません、去るか──然もなくば死んでいただけませるでせうか?」
 援軍到着。比較的数も少ないのが幸いか。しきみは式符を手に目を細める。
 人が愛しい恋しいという感情を持つように、人を喰らう彼らとて色恋の感情は持つのかもしれない。立場が違えば同じように人を屠っていたかもしれないが、今のしきみは人間の味方なのだ。
 アルテラの足元が、ひいてはその格好良いポーズを隠す勢いで魔法陣が光り、しきみへと賦活術を掛ける。焔の振るう刀から炎の斬撃が飛び、狼を切り刻んで燃やしていく。苦鳴の声はやがて聞こえなくなった。
「……グゥウ――!」
 ばさりと4枚の翼を広げて羽ばたいたアルペストゥスは、大きく息を吸い込む。彼が先天的に持つ超自然的能力は雷。それは自由自在な落雷、放電だけではない。気づいた焔が軽やかに木の幹を蹴り、敵の付近から離脱していく。
 どう伝わってきているか聞かれれば難しいけれど、あの感情は心地よくないとアルペストゥスは感じ取った。嫌なものは誰だって近づけたくないもの。故に排除し、自然の理に準え喰らってしまおうと。
「グラアアアァァウッ!!」
 吐き出したそれは一条の雷撃となって地上へ落ち、走っていく。その直線状にいた狼を呑み込み、貫いて──彼らの身を焦がした。



 あそこだ、と千歳は告げた。イレギュラーズが示されるままにそちらを向くと、開けた夜空の下にいくつもの墓標が見える。柔らかな土を踏みしめそこまで辿り着くと焔は落ちていた木の枝に炎を灯した。燃える事のない松明だ。
「これ、どうぞ。ボクは先に帰り道の確認をしておくね」
 ここまでくればオーダークリアは変わらない。焔は墓に眠る彼女と千歳の2人きりにしたほうが良いだろうと踵を返す。同じように踵を返そうとしたカイトは、しかし千歳の方を振り返った。
「せめて悲しくて空から雨を降らすような真似はすんじゃねぇぞ。そんなのは望んじゃ居ないだろうしな」
 誰が、などとは口にしない。それでも伝わるから。過ぎた話をどうこう言っても仕方ないが、未来の事であればまだ変えられるとカイトは釘を差したのだ。
(ま、会瀬を邪魔する『雨降らし』が言うことでもねぇがなァ)
 小さく肩を竦めるカイトだが、彼と同じような事を想定する者は他にもいる。
「そうですね。この輝かしき空に昇る日はいつか来るかもしれない」
 けれど今日ではないと続けるアルテラ。その言葉に千歳は目を瞬かせ空を見上げる。宝石箱のような煌めく夜空は見上げたとて、彼に何かを返してくれるわけではないけれど。
「……ちゃんと天寿を全うしてから向かいなさい。貴方の愛した人のように」
 その命を終わらせてしまうような、つまらない事を起こさないためにアルテラが告げる。千歳の脇でアルペストゥスがグルル、と小さく鳴いた。まるで「行こう」と言うように。
 彼女の眠る墓はもう目前で、千歳は持ってきていた花を添えると両手を合わせる。暫しすると両手はそのままに、彼は空を見上げた。墓に立てかけた火がゆらりと揺れ、千歳の穏やかな表情を映す。そこに滲んだ情はアルペストゥスにとって、とても心地の良いものに思えて──アルペストゥスは大きな体で周囲の墓を壊してしまわないよう丸くなると、千歳と同じように星空を見上げた。
(きらきら流れ星、見つからないかしらね~?)
 そんな墓地から少し離れて、レストもまた星を見上げる。千歳と彼女の逢瀬は邪魔するつもりもなかったが、満足するまで眺めたら一緒に山を下りるつもりだ。
「このまま夜も更けてくるでせうね」
「そうね~。あ!」
 しきみの言葉に頷いていたレストはきらりと光ったものに声を上げるも、あっという間にそれは流れて消えてしまう。流れている間に3回願い事を繰り返すと叶うとも言われるが、もうちょっとのんびり流れてくれないと繰り返す事すらできやしない。
「もう1回流れてくれないかしら~」
 わくわくと空を見上げるレストの傍らで、しきみはそっと墓地の方へ視線を向けた。暗がりに小さく灯っているのは焔の残した炎か。あちらにも仲間が残っているし、千歳も彼女との逢瀬だけに集中できるだろう。
(とこしえに愛を伝える……なんと立派でせう)
 あんな人が恋人であったのならば、死んだ彼女も大層幸せだったのだろう。そう思うとシュヴァイツァーは小さくため息も出る。彼女は誰もいない場所で星を眺めていた。その手には装着していたガスマスクがある。人に見られたくはないが、星空は直に堪能したかったのだ。
 過去を悔やむことも、死者を羨むことも決して褒められた行為ではない。ましてやその後を追おうなど言語道断、そのようなことをしようとすれば仲間たちが真っ先に止めていることだろう。けれどそこまで想われる女性が羨ましくて仕方がないのは、事実だ。
 まだ見ぬ運命の人を想って、シュヴァイツァーは再びため息をついた。

 千歳の墓参りはかなり長い時間をかけて行われた。それこそ月が動き、星々の輝きが少し薄れてくるまで。1年間という長い期間のことを語るのならばそれこそひと晩でもなければ足りない──もしかしたらひと晩あっても足りなかったかもしれない。けれども千歳は両手を下ろすと、ゆっくり立ち上がって振り返った。
「帰るよ」
 星々の見守る空の下、織姫の繰糸は確かに千歳を『こちら側』へ繋ぎとめてくれたらしい。アルペストゥスは首をもたげ、乗ってと言うように千歳の傍へ行く。彼の背へ乗った千歳へルカは声をかけた。
「今すぐたぁ言わねえよ。でもいつかは亡くなった恋人の事を忘れろ」
「それは……」
「無理なら忘れなくていい。新しい女を愛せ。前を向けってことだ」
 ルカの言葉は一見厳しいように思えるかもしれない。けれども死んだ女の事を考えればそうも言いたくなるものだ。亡くなった女に操立てて晩年を独り過ごすなど、彼岸へ渡った女が知れば何と思うか。少なくともルカはその操立てに喜ぶなどとは思えない。
「きっと恋人は『自分のせいでそんな事をさせちまったって嘆くぜ。独りで寂しく逝ったって女が、愛した人を同じ目に遭わせたがるたぁ思えねえ」
 千歳ははっとしたようにルカを見て、それから首を巡らせ背後を──愛した女が眠る墓を見る。彼はそのまま黙祷するように目を瞑るとルカへ視線を戻し、そうだねと呟いた。
「いつか……そのうち。お爺さんになってしまう前には」
「グゥルルル」
 アルペストゥスは背に乗る千歳の言葉へ応えるように小さく唸り、振り落とさないようゆっくりと移動を始める。空はますます白けて、もう少しすれば太陽が昇るのだろう。

 ──そう。今日が終わって、明日が始まるのだ。

成否

成功

MVP

ルカ・ガンビーノ(p3p007268)
運命砕き

状態異常

炎堂 焔(p3p004727)[重傷]
炎の御子

あとがき

 お疲れさまでした、イレギュラーズ。
 来年もまた向かうのかはわかりませんが、千歳はその内あの墓地へ向かわなくなるのでしょう。忘却故ではなく、前を向くがために。

 それでは、またのご縁をお待ちしております。

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