PandoraPartyProject

シナリオ詳細

凋落

完了

参加者 : 8 人

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オープニング


 雪室小町はその美貌と類稀なる和歌(うた)の才能により、宮仕えとなるだろうと噂される乙女であった。代々は治部省へと勤める家人達の中でも、より一層の期待を背負っていた。何せ、帝――そう呼ばれていた旅人の青年――は妻が居らず、政にばかり精を出す。最近はと言えば、鬼人種の青年とけがれの一族の双子と共に過ごす事が多かった。雪室小町程の美貌となれば、帝に御子が誕生すると迄、人々は好き好きに口にしていた。無論、雪室小町とて、そうやって噂されることは悪い気はしなかった。そして、治部省の小役人に落ち着く実家が自身が召し上げられることでその地位を確立させられるかもしれないという期待さえ抱いていた。
 ――だが、帝が眠りについてその期待は泡と化す。
 現状はと言えば巫女姫と呼ばれる美しい乙女がその座につき、彼女を補佐する――いや、実質的に八百万らから見れば『最高権力者だ』――天香・長胤が治世を取り纏めている。変化を求め、鬼人と八百万との関係を改善しようとしていた帝とは対照的な政治の訪れに、中務卿の離脱とカムイグラは様変わりした者だ。
 雪室小町の抱いていた期待など、叶う訳もない。つまり、彼女は召し上げられる事が現時点では不可能なのだ。巫女姫はどうやら心に決めた者が居るのか日々、彼女への愛情を募らせ、天香は自身の権力を肥大化させるべく役人に自身の身内を当てがった。小役人程度で終わるのは何時もの通り、ではあるが、歌人として花開き、帝の側で雪室の娘として役に立つという夢は最早、無に課したのである。
 そう感じてからだろうか、雪室小町には変化が訪れた。その美貌は霞始め、老婆の如く肌が罅割れた。あの伸び伸びと響く美しい声音は嗄れ、美しいぬばたまの髪でさえ白髪が混じり出す。彼女は落魄れた、と人々は噂した。
 それは一人の女の夢が枯れたという事であったのだろう。雪室小町はその姿を老婆の様に変化させ、そして夜毎にその命が続くことを恨んだのだそうだ。しかし、彼女の目の前に咲き誇る妖桜はその美しさを損ねる事はない。
 嗚呼、私にも春が来ていたならば、この美しさは桜のように変わらなかったのでしょうか。そう思えば、酷く憎いけれど――私に遺された希望の様な気がして、この花を失いたくはないのです。

 うつそみの 人がながめる 花桜 春過ぎ去りて 色かはりゆく。


 オーダーはと言えば簡単であった、妖を退治してくれ、と言う。
 しかし問題であったのは雪室小町と呼ばれる雪室氏の娘がその妖を大層気に入っており、退治を拒むのだという。
 その妖は桜。万年咲き誇る美しい妖。人の命を吸い上げ、そしてその花を咲かせるのだという。
 雪室小町は遅かれ早かれ老婆の様に化したであろう、と情報屋は言った。彼女の側に存在する美しい桜こそが、彼女の命を吸い取っていたのだから。

GMコメント

 夏あかねです。和歌入門ってずっと調べてます。

●成功条件
 妖桜の討伐

●現場情報
 雪室邸。邸内は妖退治の為と人払いが済んでいますが、雪室小町が桜の花と共に在ります。
 すっかり落魄れてからという者の彼女の兄も父も手出しができない状況のようです。

●妖桜
 雪室邸に咲いている散る事のない桜。未だに美しく咲き誇っています。巨大な樹であり、人の命を蝕み力と化します。
 雪室小町が傍に存在する場合は常時、再生状態となります。
 特出すべきは全ての攻撃がHP、APの吸収を行えるという事でしょう。
 広範囲への攻撃が可能であり、複数対象への攻撃を得意としています。

●雪室小町
 雪室氏の娘、本名を吉野と言います。人の噂となるほどに美しいと絶賛されるその容貌は、勝手な事ですが帝の妻となるべきだとさえ言われていました。
 そうして讃えられたことも今は過去の栄光、帝が眠りについてから噂の対象がほかに映った事で実家に引きこもり和歌を詠むこともやめたそうです。
 唯一心の支えであった妖桜の側で過ごしていたようですが、妖桜にその命を吸われ老婆の如き容貌へと変化してしまいました……。
 彼女は妖桜との戦闘の際に傍にそのまま置いて居れば妖桜の養分となり朽ちて亡くなります。また、老婆となった自身の事を愛する者など誰も居ないと泣きぬれているために死を望んでいるかのようにも見受けられます。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

  • 凋落完了
  • GM名夏あかね
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年07月24日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

亘理 義弘(p3p000398)
侠骨の拳
夜乃 幻(p3p000824)
『幻狼』夢幻の奇術師
楔 アカツキ(p3p001209)
踏み出す一歩
イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)
黒撃
天之空・ミーナ(p3p005003)
貴女達の為に
湖宝 卵丸(p3p006737)
蒼蘭海賊団団長
ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)
私の航海誌
アカツキ・アマギ(p3p008034)
焔雀護

リプレイ


 毎夜、毎夜、袖を濡らす――嗚呼、庭先に咲いた花桜とて美しいと口にされようとも、季節変わって散る時になれば人は皆、そうとは言って下さらぬのね、と恨み言を口にした。雪室小町は――雪室家の姫君、吉野は美しい女であった。その美貌を褒め称えた『小町』の呼び名は彼女を称えた物だったのかと『業壊掌』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)は新たな文化に触れるように口にした。その小町という呼び名が彼女にとっての誉れであり、誇りであり、そして負担であったのか。
「コマチって美人に付く名前なんだってね。それがこんなコトになって辛かったんだろうけれど」
 美人にはやっぱり笑顔が似合うと口にすれば『蒼蘭海賊団団長』湖宝 卵丸(p3p006737)は大きく頷いた。
「どんなに絶望したからって、死んだら何にもならないんだぞ……それに付け込む妖の思い通りにもさせないんだからなっ!!」
 卵丸の言うとおり、雪室小町は酷く絶望している。その美貌を誉れとしていた彼女は帝の妻となるべく育った、育てられた、そして、期待された。『そうならなかった』事が彼女を絶望させたのだとするならば『『幻狼』夢幻の奇術師』夜乃 幻(p3p000824)に言わせれば「思い通りにならなかったから」という雪室小町の心こそが妖の付け入る隙を与えた、と。
「彼女にとっての思い描く理想はあの桜だったのでしょうね。
 自分の思い描く理想である妖桜に魅せられてしまったのですね」
 狂い咲き、決して散る事のない満開の桜。その妖艶なる美貌は衰える事など知りたくは無かった自身の理想の形であったのだろうか。
「妖桜退治、オーダー委細承知したのじゃ」
 大きく頷いたのは『放火犯』アカツキ・アマギ(p3p008034)。炎に魅入られし彼女は木を燃やすのは得意分野とでも言うように大きく頷く。
「時は移ろうもの。ひと時として同じ時間はない。後ろに戻ろうとも前に進むしかない。
 しかし、共に時を歩んでくれる者はいたはずだ……後悔は失って初めて気付くもの。これ以上の後悔を増やす前に、気付いて欲しいものだな」
『踏み出す一歩』楔 アカツキ(p3p001209)の言葉に、同じ名を持つ少女は頷いた。ならば、父や兄が雪室小町を――吉野姫を心配していると文に一筆認めて貰う事は出来ないだろうかと打診していた。
「やれやれ、単純なようで難しい問題だよなぁコレは……愛する者がいない、なんて事はありえないんだけどね」
 アカツキ・アマギが兄や父の文を、と求めたように姫には彼女の家族が心配している事だろうと『傍らへ共に』天之空・ミーナ(p3p005003)は憂う。だと、言うのに父や兄が求める権力を与える事ができなかったと泣くのだから――心優しい姫君は言葉に惑わされ、泣き続けたというのか。
「桜の下には死体が眠っていて、その養分を吸って綺麗に咲く、とはよく言うが、今回は生きた人間が命を吸われている状態だ。出来る限り助けてやりてえ。……噂で心を痛めるなんてのは、面白くねえ事だしよ」
 彼女は、吉野姫は『そうあるべき』を求められて育った姫君であったという『義に篤く』亘理 義弘(p3p000398)はため息を混じらせた。そうして、雪室の邸を進んでいけば咲き誇る鮮やかな桜は静かに揺れていた。


 妖桜にしなだれかかる様に、女が一人。まるで折れた枝のようにひっそりとその身を慰めるが様に桜の雨の下で目を伏せている女の姿を双眸に映しこんでから、『私の航海誌』ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)は目を瞠った。美しいと巷で噂された女の姿からは余りに懸け離れていた。それが妖であり、女にとっての絶望か。
「雪室小町さん。あなたにとって大切なもの、命より大切に感じるものを否定は致しません」
 ゆっくりと、言葉にすれば雪室小町が顔を上げる。その胡乱な黒い瞳はただ、ただ、悲しげだ。
「しかし、人は一人で生きているわけではありません。あなたを大切に想う人、その心まで踏み躙ることは、誰にも許されないのです……そう、それはあなた自身であっても!!」
 堂々と、そう言った。しなだれ掛かる女を抱く様にして桜はその枝をばちり、と打つ。最早動くそぶりも見せず桜と共に過ごす女を養分とし闘う力を使用する妖桜。義弘は彼女と桜を切り離さねばならぬと桜を受け止めた。
「雪室小町ーー吉野か。俺達が宮中の人間と繋がっていて、帝を助けるように動いている。
 そして、お前の事を助けて欲しいという仕事請けて来たんだ。言葉は分かるか? 理解できるか?」
 薄い、女の唇から嗄れた声が漏れる。「誰」と。宮中の人間――その部分に栄光と花開かせようとした女は食い付いてくると義弘は踏んでいたのだ。
「中務卿……建葉・晴明だ」
 鬼人種である彼が中務卿として帝と懇意にしているという事は八百万たちの中でも有名な話だ。帝はけがれの巫女や建葉の嫡男とも交友を深め、共存を目指していたと妃となるべき教育の中でも聞いていたからだ。
「……――彼の方は、お上は助かるのですか?」
 切なげに、女はそう言った。顔さえも見た事も無い男にこうして『噂』と『言葉』で淡い恋心を寄せているのか。
 その言葉に『頷く』にはまだ自身らはこの国について知らないのかもしれないと義弘は感じた。だが、そうして見せるというように強く彼は頷くのみだ。砂駆と共に桜の前へと歩んだミーナは「お前の父や兄が『帝を救うために活動している』私達にお前を救う事を頼んできたんだ」と告げた。
「帝の事だって、イレギュラーズが必ず助ける」
「ええ……お上の無事を、お祈りしておりますわ――」
 けれど、と雪室小町は目を伏せた。自身は最早枯れるだけの花。帝の傍へと行くことはできぬと桜の幹にそっと掌を添える。
(桜舞うサクラは馬刺しか燻製に……)
 和歌(うた)を愛するというならば、説得だって和歌で、とそう卵丸は考えた――だが、その文化にはまだ浅い彼は混乱したように桜へと向かう。
「和歌は卵丸あんまりよくわからないし、皆に任せるんだぞ、けっ、決してセンスが絶望的なわけじゃないんだからなっ」
 だから、桜の事は任せろと、堂々と卵丸はそう言った。朱の刻印に魔力を巡らせて、「吉野」とアカツキ・アマギはそう言った。楔 アカツキはこちらに敵意を向ける桜を見据え、彼女をサポートするように前へと送る。
「初めましてじゃな、妾はアカツキ・アマギ。手紙の配達人……みたいなものじゃ」
 文を、その手に携えた。見慣れた手蹟(て)。父のものである事に気づいて雪室小町はお父様と呟いた。
「このまま桜の傍に居ると命を吸われて死んでしまうのじゃ。父と兄、それから中務卿が妾達の身元は保証してくれよう。信頼しては……くれんかの?」
 その言葉に、妖と桜を見つめた雪室は「だからこそ、このように妖艶に咲いているのですか」と首傾ぐ。
「――花桜 実(じつ)を残せず 散りゆくは 過去に囚われ 悔いのみぞ残す」
 楔 アカツキはそう言った。一見すれば吉野の後悔を詠ったようにも聞こえるが、実は結果ではなく真心の事。これは、吉野に思いが伝わらぬまま彼女を失う事になった父と兄の事を詠ったと彼は静かにそう言った。
「表面に見えるものが全てではない。少し見方を変えるだけでも、違う景色が見えてくるだろう
 この桜もそうだ。美しく咲き誇っているように見えるがそれは見た目だけ。
 何をどうすることで、その姿を保っているのか。そう考えると、悍ましい物に見えて来ないか?」
「……私を、喰らっていると?」
 その言葉に、二人のアカツキは頷いた。穏やかに対話を行う雪室小町とは対照的に自身の『餌』を奪われる事を恐れるように妖桜は更にその凶行を増してゆく。
「サクラがキレイなのはサクラ自身がキレイだからだよ。そこのまがい物みたいな、他から奪った美しさなんかじゃないから愛される花なんだよ」
 イグナートのその言葉に目を臥せった雪室小町は静かに息を吐いた。紛い物の美しさに縋る自身を恨むかのようにさめざめと涙を隠した老婆の如き彼女の声は最早美しく詠うのを忘れてしまったかのよう。
「そもそも貴方は帝に愛されるためだけに歌を覚えたのですか?
 うつそみの 人がながめる 花桜 移ろわぬ桜 いとあひなし――」
 幻は詠った。雪室小町に和歌の楽しさを思い出して欲しいと、そう願いをこめて、彼女が言葉を返してくれるように、願うように。
「誰でも 想い通わす人 居ることを ……忘れるべからず 家族といふものを」
 雪室小町は幻を見やる。のびのびと詠う美しい宵の蝶。その姿にちりりとした憎らしさを感じたのは自身にはその美貌は存在しなかったからであろうか。
「雪室小町さん……」
 ウィズィは精一杯の気持ちをこめて、と息を吸った。舞う桜の花弁の下、『散り行くさま』を作り出し、その花弁を手にして口を開く。
「‪散る花の 川落ち入りて 果つるとも をしむこころは 知られざらまし」
 栄華を損ねて散った花。川に落ちて果てるその存在を惜しみ愛しむ人がいることを、その心を、雪室小町は知らぬ侭に女としての『価値』のみで認めさせんとしていたのか。そうではない、と告げる父と兄の手紙を手にしてから雪室は「ああ」と声を震わせた。美しくのびのびと詠う事さえ無くなった栄光の花。
「和歌は最初から権力の道具だったの?」
 卵丸のその言葉に、雪室小町は息を飲んだ。彼女に和歌を詠う幻を見るその黒い瞳は光を帯びていく。泣き出しそうなほどに細められた彼女の返歌を待つ様に幻は笑みを深めた。
「詠いませんか」
「……詠って良いのでしょうか」
 幻に、頭を振った美しささえ無くし、妖にも縋った自身に人がために詠っても良いのかと小町はそう問いかける。からりと笑ったイグナートは「じゃあ」と首を傾いだ。
「これも何かのエンだからね。このバケザクラを吹っ飛ばしたらコマチの若返りの方法でも探しに行こうよ! どう?」
「――」
「ああ、悪かねぇな。どうだ? 桜から離れて見ていろよ」
 イグナートの言葉に義弘が頷いた。雪室小町は本当に、と唇を振るわせる。それが『出来るか』分からなくとも、その言葉に縋りたくなってしまった。
「その才能で詠む事が好きなら、ドロドロした思いも全部和歌に込めたら、皆目が離せなくなると思うんだぞ」
 微笑んだ卵丸にミーナはゆっくりと、手を差し伸べた。傍らのパカダクラに身を委ねれば遠くへ逃げ果せる事ができるとそう促して。
「桜華、散らぬ世など、ありにけり、人の涙も、乾ききる夜……即興で作ったからあんた程上手じゃねぇがな。聞かせてくれよ、あんたの歌を」
 幻がそっと雪室小町の背に手を添えた。詠う事もできずにぼろりと涙を流した彼女を庇うようにミーナは叫んだ。目の前の桜は、美しくも命を散らして咲き誇る。
「さあ、かかってこいよ。私の命なら幾ら吸い取っても尽きやしねぇぜ!」


 雪室小町が去った今、桜に手加減など不要であると義弘は踏み込んだ。
「命懸け 背負う桜は 傷だらけ 我が世の春を 生き抜く為に」と己の命の道を詠えば、その拳に力をこめる。命を懸けて背負う桜は尚も美しい。戦いこそが己の命であるというように義弘は桜の枝垂れを受け止めた。花弁が覆う視界に桃の色をも厭う様に花を散らす。
 吹き荒れる風の中、嵐の如く花弁は舞い踊り――義弘のその背の『花』をも鮮やかに見せる。
「さあ、Step on it!! 人の命など吸わせはしません!」
 その拳を固める、ウィズィはその手に馴染んだ特注品――けれど、抱える事がもっと出来るようになった武器を手に突き進む。迷わない様に、走り出す。
 ウィズィは窮地に陥れば陥るほどにその焦燥が自身を尚、強くさせる。それは誰かの思いを背負い、誰かを守るための彼女の心(おもい)は生き様として力と変化する。雪室小町に見せ付けると彼女が戦うそれは、アカツキ・アマギの背からその様子を覗いた小町にとっても奇異なる物として移っただろう。どうして、他が為に傷を厭わず闘えるのだろうか。
「海賊の瞳からは逃れられないんだぞ。穴を穿て……轟天GO! 花弁も幹も凍てつかせ、六六六式」
 奔る卵丸は無限大のロマンと勇気で攻撃を重ね続ける。ウィズィと義弘はその背で語る。
 鮮やかなる花を受け止めながらミーナはその花が『養分』を失った事で最早、咲く事を諦めたように感じた。
「吉野さん――雪室小町は大層な才媛であると聞いたのじゃ。
 素晴らしい和歌を詠むと巷に轟いておるなど、本当に凄いことじゃと思う。
 誇るべきことじゃと思うし、妾が逆立ちしても出来ぬことじゃ」
 柔らかに微笑んだアカツキ・アマギ。楔 アカツキは『彼女が得意とすること』を見せて欲しいと乞うた。人の命を食い物にするこの桜の種さえ残さぬように燃やして欲しい。
 そう告げた言葉に頷いてから、赤々と炎が包み込む。その色を見て、雪室小町は項垂れた。
 自分の化身のように感じた縋る花がその姿を消したのだ――
「そのような方を妾は心底尊敬するのじゃよ。
 そんな貴方がここで朽ちていくのはとても惜しいと思う。
 じゃから、妾達に貴方を助けさせては貰えないじゃろうか?」
「助けるーー……?」
 どのように、救えるというのだろうか、と。そうパカダクラの背に手を添えていた雪室小町は囁いた。鮮やかなる桜は焔に巻かれ、赤い花びらを纏わせているようにも思う。
「散る間際とは、斯くも美しいのならば私も、そうあれるのでしょうか……」
「貴方の和歌が貴方にとって夢の片翼であったというのなら、まだ終わってはおらぬ。
 眠りの呪いを受けた帝にも届くような、素晴らしい和歌を詠んでほしいのじゃ。
 そのついでにちょっぴり和歌を教えてもらえたりするとありがたいのじゃ」
 和歌を、とそう告げる。この儘『燃え落ちる』のは花も自身も同じであろうと涙を流した雪室小町の背に手を添えて柔らかにイグナートは微笑んだ。
「キミが美しいとウワサされたのはキミ自身が夢を抱いていて、美しくあろうとして、様々を学んで、ヒトの心に響くウタをウタっていたからだよ。ミカドが居なくなったって、それが変わったりはしないと思うよ」
「けれど、私は女房にさえなれず、このような老婆になったのです」
「なら、戻れる方法を探そう。ダイジョウブ、オレたちは得意だから。
 それに、オレはワガママだから嫌だって言ってもムリヤリ背中を押すよ!」
 ――夏の風 海より来たり 豊穣の 佳人の嘆き 吹き飛ばしけり。
 からりと笑ったイグナートは新風たるイレギュラーズを受け入れて笑ってくれと小町に手を伸ばす。
 老婆の如く、姿を化した女は、ただの静かに息を吐き出した。
 元に戻れぬとしても、詠っていよう。そして、彼らの為に和歌を送ろうと、そう勇気図蹴られるような気がしたのだ。
「春は来ん 必ず誰にでも 貴方にも……。
 川流れ 人はおびゆれり 溺ほるを 桜の如く 移ろひならばや」
 枯れ落ちた桜を見やり幻はそう言った。その木はもう以前のように花開く事は無いだろう――

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 花の色は 移りにけりな。

 ご参加ありがとうございました。

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