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シナリオ詳細

桜の歌姫、奏でるは月の夜の夢

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●黄金の稲穂、まろびでる邪悪
 重く首を垂れる黄金の稲穂が一面に広がっている。
 ざぁざぁと音を鳴らす稲穂の間で静かに彼女は佇んでいた。
 目を閉じて、風に身を任せれば、涼し気な風と稲穂の靡く音が心地よく鼓膜をうつ。
 黄金の稲穂の中に佇めば、彼女の綺麗な桜色の髪もあってどことなく幻想的な雰囲気が満ちている。
「ん……今日もいい天気といい風ですね」
 風に乗って伝わる足音に目を開く。
「お姉さーん!」
「はい、なんでしょうか」
 走り寄ってきた童女へと微笑み、そっと視線を合わせるように屈んであげれば、童女は目を輝かせる。
「あのね、今日もお琴とお歌を聞かせてほしいの!」
「いいですよ。行きましょうか」
「わぁーい!」
 嬉しそうに走っていく童女を少しばかり見つめた後、彼女もまた、歩みを進めた。

「桜のお嬢ちゃん、今日は良いイノシシが採れたんだ。良かったらどうだい?」
「ちょっとあんた、桜さんも用事っつうもんがあんだよ!」
 童女に連れられるような形で歩いていれば、村のそこらじゅうで声を掛けられる。
 女――光焔 桜はそれにまた後でと返しつつ、童女に着いていった。
 その後ろを自然と人の道が出来ていく。
 終着点である村の集会所に着くころには十余人にも膨れ上がった団体さんが出来上がっていた。
「おお、光焔様、お越しいただきありがとうございます。
 本日も村の衆が着いてきておりますな……ほっほっほっ。
 ご迷惑ではございませんでしたか?」
 老人の鬼人種が笑えば、桜はゆっくりと首を振る。
「いえ、大丈夫ですよ。私の歌と琴で心が休まるのであれば、どうしてお断りなどできるでしょうか」
「それは良かった……ささ、奥へどうぞ。お琴の方は昨日の通りに置いてあります故」
「分かりました。ありがとうございます」
 老人に案内される形で桜は部屋の中央、畳の上に琴の置かれた小さなステージへと進み、精錬された所作で着座する。
 やがて奏でられた曲は春の到来を喜び、豊穣を願う祝詞でもある、とある一曲。
 静かでありながら、温かみのある音と共に桜の声で発せられる清涼な歌声が集会所に満ちていく。
 その日もまた、なんて事のない一日だった。
 穏やかな音色に身を委ねる人々を眺めながら、桜は心の内でほうと息を吐いた。


 それに気づいたのは本当に偶然だった。
 何となく寝つきが悪く、目を覚ましたところで、外から喧騒を感じたのだ。
 がらりと戸を開けて外に出れば、数人の大人たちが松明を片手に叫んでいる。
 聞き覚えのあるその単語は、昼間に集会所へ案内してくれた童女の名だ。
 周囲を見渡し、ちょうど童女の母親を見つけて走り寄る。
「どうしたのでしょうか?」
「あっ、光焔様! 実は、私の娘が家に帰ってこないんです!
 夕方に外で遊んでくると行っていたのですが、それ以来……」
「分かりました。私も探しましょう。奥様は一旦お家へ。彼女が帰ってくるかもしれません――ッ!!」
 言い切るよりも前、村の外から音がした。
「奥様、直ぐに近頃来たという神使の方々へご連絡を。資金であれば私がお出ししいたします」
 そういうや、うめき声のようなソレと、幼子の悲鳴のような何か。半ば反射で身を躍らせ走り出す。
 村の外、黄金の稲穂満ちる田畑は光に照らされていた。

 その中心、3m程はあろうか、大男――のように見えるナニカが剣を振り上げていた。
 刹那、桜は弓を引いた。薄明りの中を桜色の矢が走り、大男の腕を打ち抜いた。
 その着弾を見るよりも前に疾走、大男の眼前に踊りこむと同時、そこにいた尻もちをついた童女を抱き上げ離脱する。

「光焔様、先程のうめき声のようなものは……」
「あれが私がこの村に来た理由でしょう。
 複数の亡霊がこの村の近くで目撃され、それが皆この村に向かっていたのです。
 しかし実際に来てみて亡霊の姿が見えませんでした」
 老人の問いかけに桜が答えると、老人は目を見開いた。
「という事はもしや……」
「ええ、恐らくはあれが付近の亡霊を食らい、成長を続けていたのです。
 今回、あの子が巻き込まれたのは――恐らくは偶然でしょう」
「しかし、明日からは危険なのでは……」
「いえ、これまで襲ってこなかったという事は、何かしらの準備をしているのでしょう。
 恐らくはもう少し足止めは可能です。そのため、直ぐにでも神使の方々に連絡を……」
「はい、そちらはすでに……光焔様は……」
「私は彼らが来るまで、あの者を足止めします」
「し、しかし……!」
「そのために、来たのです」
 そう言って、桜はその美しい顔に覚悟を滲ませた。
「ご連絡をお願いします。……それと、もし可能であればなのですが。
 私から一人、会ってみたい彼らの仲間がいるのです」
「その者の名をお聞かせください」
「はい、名前は――」

GMコメント

こんばんは、春野紅葉です。
カムイグラ関連の関係者さんからのご依頼です。
亡霊をぶちのめしましょう。

●オーダー
亡霊の討伐

●戦場
 稲穂で満ちる広大な畑部分です。見晴らしは良好です。
 稲穂に潜めば一応は隠れ蓑にもなるでしょう。

●エネミーデータ
【彷徨える亡霊】
近隣に発生する亡霊を吸収、合併を続けて巨大化しつつある亡霊です。
3mほどの体躯をした、鎧武者のような姿をしており、日本刀のようなものを握っています。
現段階であればさほどの危険もなく討伐可能程度の敵です。

戦闘開始と共に鬼火のような何かを複数召喚してきます。

豊富なHP、物理、神秘共に高い攻撃能力を有し、
命中、回避、防技、抵抗、機動力などは平均的、それ以外は低めです。

<使用スキル>
・打ち下ろし(A):物近単 威力中 【崩れ】
・薙ぎ払い(A):物近扇 威力中 【呪縛】
・多段鬼火(A):神遠単 威力中 【業炎】

●味方NPCデータ
【『桜の歌姫』光焔 桜(こうえん さくら)】
ユーリエ・シュトラール(p3p001160)さんの関係者さんです。
『霞帝』健在の御世は兵部省に身を置き、弓の名手として名を馳せている人物でした。
今回は辺境のある村に亡霊を追って訪れ、事件に遭遇しました。

イレギュラーズの到着時、既に会敵済みであり、消耗が見られます。

戦闘においては『例えどんなに遠くにある的でも正確に当てる』と評される弓の腕を武器に、
中~超遠距離までをカバーする他、歌によりバフ、ヒールを行なってくれます。


●その他
戦闘終了後は桜さんによる歌と琴の演奏での慰労会が開かれるそうです。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

  • 桜の歌姫、奏でるは月の夜の夢完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年07月17日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

日向 葵(p3p000366)
紅眼のエースストライカー
銀城 黒羽(p3p000505)
ユーリエ・シュトラール(p3p001160)
優愛の吸血種
ロゼット=テイ(p3p004150)
砂漠に燈る智恵
ルカ・ガンビーノ(p3p007268)
運命砕き
小金井・正純(p3p008000)
ただの女
ヴァージニア・エメリー・イースデイル(p3p008559)
魔術令嬢
篠崎 升麻(p3p008630)
童心万華

リプレイ


 亡霊の意識を村から離すように桜は自らの立ち位置を変えながら戦闘を続けていた。
 手に魔力を集め、矢を作る。その速度はかなり遅くなりつつあり、疲弊は明らかだった。
(このままでは打ち止め……どうしましょうか)
 亡霊の周囲を回る多数の鬼火が、桜へと殺到し、その体に少なくない火をもたらした。
 「くっ……」
 痛みに思わず患部を抑えた時、背中を越え、閃光が走った。
「おーでけぇでけぇ、亡霊が亡霊を取り込むなんて事もあるんスね」
 まっすぐに走り抜けた白き流星――それを描く1つのサッカーボールが、鎧武者の防御の隙を突いて痛撃を叩き込み、跳ね返る。
 バウンドしながら返ってきたグローリーミーティアSYを足で遊びながら、『紅眼のエースストライカー』日向 葵(p3p000366)は振り返りつつある敵を眺めて感心する。
(まぁ、その分、的がデカくてオレとしては問題はないっスけど)
「……いや待てよ、亡霊って流す血あるんスか?」
 ボールを転がしながら敵を見上げ、ふとそんなことを思う。見れば、血が流れている様子はない。
 葵の横で、相手に興味を示すのは『黒狼』ルカ・ガンビーノ(p3p007268)である。
(やっこさんにも興味はあるが…女性をいたぶるのは感心しねえな。
 花は桜木たぁ言うが…こんなとこで散らせるのは惜しい良い女だ)
 ルカは桜の前へ立つと、黒犬(偽&誤)を構えた。
「下がって態勢を立て直しなお嬢ちゃん。ここは俺らが引き受けるぜ」
「あ、ああ……ありがとう……直ぐに戻ってきます」
 背中越しにかけられた声に桜が下がっていくのを稲穂の揺れで感じながら、ルカは亡霊の周囲を回る鬼火に視線を向ける。
「まずはその邪魔な火からだ!」
 走り抜けると共に、鬼火の一つ一つを叩き切っていく。
 幾つかはふわりと動いて当たらなかったが、切り裂かれた幾つかが消滅した。
 目的地にたどり着いたイレギュラーズ達でも後衛、『月光』ロゼット=テイ(p3p004150)は亡霊を見上げていた。
(なんかでかいの出て来たな、なにあれ)
 あれが今回の討伐目標であろう。分かっていても見上げてぼんやりと思わずにはいられない。
「亡霊ってのは喰いあってデカくなったりするものなんだねえ。存外面倒」
 こちらへ向かってくる桜を見止めながらぽつりと呟けば、瞳を象る銀の指輪を媒介に己の調和を桜へと注いでいく。
 銀城 黒羽(p3p000505)は自らの感情を封じ込め、纏鎧の闘気法【剛毅の型】――黄金に輝く鎧を身にまとう。
(同種を食って成長した亡霊か。ただの亡霊なら今までにも何度かやり合ったことはあるが、ここまでデカいのは稀だ)
 敵を見上げるようにしながら、振ってきた日本刀を両手で受ける。
 同時、亡霊の周囲を回る鬼火を狙って溢れだした闘気を向ける。
 金色の闘気はまるで鎖のように鬼火の複数を絡めとる。
「さて、亡霊退治は巫女として手を抜けませんね!」
 アルテマルナティックの弦の調子を確かめながら『星満ちて』小金井・正純(p3p008000)はいうや、弓を構えた。
 放たれた矢は真っすぐに鬼火の一つを撃ち抜いた。
 そんな彼女の表情が少しばかり晴れやかに見えるのは気のせいではないのだろう。
「大丈夫ですか? もう少しだけ我慢しててくださいね」
 『優愛の吸血種』ユーリエ・シュトラール(p3p001160)は後退してきた桜を見ると、自らの活力を根源とする朱色の結界を張り巡らせる。
 桜の身体に纏わりついていた呪縛がほどけ、少しずつ顔色が良くなっていく。
「ありがとう……優しい光ですね……」
 そう言って微笑む桜にユーリエも笑みを返す。
「一見風光明媚に見えるこの国も、なかなか難儀な状況に置かれているようですね」
 巨大化した亡霊を見ながら『魔術令嬢』ヴァージニア・エメリー・イースデイル(p3p008559)はふと呟いた。
 ところ変われば、出てくるものが違うと言えど、往々にして完全な平和というのも難しいのかと考えつつも、魔導書へと魔力を込めていく。
 やがて、魔導書が電を帯び、バチバチと音を立て、光を放ち始める。
 詠唱と共に放たれた一条の雷撃が、仄暗くなりつつある稲穂の大地を彩り、鬼火と亡霊をまっすぐに貫くように走り抜けた。
(この国って、そういうのが横行し易い環境にでもなってんのかねぇ?)
「ともかく、まずはセオリー通り、周囲の鬱陶しいヤツから片付けっかねぇ!」
 そんなヴァージニアと似た感想を抱く『特異運命座標』篠崎 升麻(p3p008630)は敵の眼前に躍り出ると、敢えて目立つように動きを見せる。
「ほーれほれ、鬼さんこちらってな!」
 そんな様子に亡霊が升麻へと意識を向け、日本刀を振るう。
 升麻はそれをぎりぎり受け止めると、弾くように返した。ずきりと受けた手にしびれが走る。
「あのジョーちゃん、こいつを1人で食い止めてたのか! とんでもねえな!」
 まるでどうという事もなさそうにこちらを睥睨する亡霊を見据えながら、ルカは思わず言って笑っていた。
「……この調子なら、少しぐらい攻撃できそうでしょうか。
 桜が呟いて、立ち上がる。
「大丈夫ですか?」
「あまり負担にならない技で行きますから、ご安心を」
 結界形成のため、しゃがむようにして座っていたユーリエを見下ろす形になった桜はそう言って微笑むと、掌に魔力を込める。
 ぽわっと浮かび上がってきたそれは、桜色の矢。
「皆様あの鬼火から潰すのでしょうか……であれば」
 そう言って、桜が形成した桜の矢を弓に番えた。
「よろしくお願いします!」
 ユーリエもその様子に微笑を返した時、其は放たれた。
 まっすぐに進んだ桜の矢は、ふとした瞬間に桜吹雪の様に分裂し、複数の鬼火目掛けて叩きつけられた。
 加え、その吹雪はイレギュラーズには加護を与えるのか、前衛に優しく降り注ぐ。


 戦いは進んでいた。
 圧倒的なタフネスさを見せる巨体の亡霊が相手ゆえ長期戦を余儀なくされ、怒りの再度付与に失敗して被害の出る時もあった。。
 それでも鬼火が消えたことで敵の攻撃手段を1つ消すことができたのは大きい。
 黒羽が抑え込み、升麻、ルカの2人の前衛が削り続け、ユーリエ、葵、ヴァージニアの後衛火力が相手の射程外から猛追する。
 その戦いはロゼットと桜の支援を受けながら、徐々にイレギュラーズ側有利に回りつつある。
 眼前に立つ巨大な武者姿の亡霊を見上げ、黒羽は深呼吸と共に魔力を立て直す。
 それを見下ろした亡霊が、腕に握る日本刀を思いっきり横殴りに叩き込んでくる。
 その一撃は滑るように黒羽を撃ち抜いた。
「ぐっ……はっ! 人一人殺せねぇお前は、何のために存在してんだ?」
 撃ち込まれた日本刀を懐に抱える様にして捉えた黒羽は、挑発するように鎧の下で笑う。
 ロゼットはそんな黒羽へと、ミリアドハーモニクスによる癒しをもたらしていく。
 ロゼットのもつ銀に炉の指輪から放たれた美しい光が黒羽の金色の光と合わさり幻想的な色を見せる。
 葵はボールを制止させ、ちらりと前方を見た。
 自分の次に行動できそうなメンバーを誰か確認し、少しばかり後ろに下がる。
「よっしゃ、いくぜ! 準備しとけよ、ルカ!」
「おうよ!」
 返答を聞くよりも前、走り出した葵は軸足を踏み込んだ。
 そのまま、魔力を込められた足で、グローリーミーティアSYを蹴り飛ばす。
 強烈な力により、無回転で弾かれたボールは、ブレながらに突き進む。
 それは宙を翔ける流星の如く。白銀の軌道を描いて亡霊の肩辺りを強烈に撃ち抜いた。
 その瞬間、亡霊の身体が大きく傾いた。
 それを見届けたルカが走る。
 そのルカを後押しするように、歌が響き渡る。
 それはこの戦いの中盤頃から、何度か聞いた温かい音色。
 誰かを勇気づけ、誰かを守ろうとする優しい色。
 歌は桜の花を思わせる温かな音程を以ってイレギュラーズを包みこむ。
 戦いに向かうイレギュラーズは、その歌を聞いた時、自然と身体に活力が湧いてくるのを感じていた。
「へっ……ジョーちゃんにまで応援されちゃあ、外すわけにいかねえよなぁ!」
 ちらりと後ろを見れば、歌声を響かせる桜の姿が映り、魔剣を握る腕に力が入る。
「大層タフみてぇだが…コイツァどうだ!?」
 限界まで込められたルカの気迫が黒き闘気のように燃え上がり、黒犬に文字通りの顎を形成させる。
「ぶち…破る!!」
 力いっぱいに振り抜かれた黒犬(偽&誤)から放たれた黒い閃光は、桜色のオーラをも纏いながら、文字通りの黒犬の如く走り、その強靭な顎で亡霊の肩の一つをねじり取る。
 戦場において、正純の顔色は良い。
 月の女神の加護を受けたと伝わる神弓――アルテマ・ルナティックを構え、意識を集中させる。
 まっすぐに前を見るその姿は意気揚々と言った感じでさえある。
 引き絞り、放つ。
 まるで夜空に輝く星のようにまっすぐに放たれた一本の矢は、月色と桜色を帯びて亡霊の頭部を貫いて見せる。
「ふぅ、やっぱり思いっきり弓矢を放つのは心地いいものですね!」
 着弾した矢を見ながら、一息入れた正純はにこにこしていた。
「終わらせましょうか……」
 ヴァージニアは魔力を込める。
 魔導書の、宝玉を抱く西方の魔術礼装の――そのあらん限りの魔力を収束させ、打ち出す魔力の弾丸。
 付与効果により効率の上がった魔術は、その輝きを増して放たれる。
 まばゆい魔力の輝きで尾を引きながら放たれた一撃が、亡霊の身体に風穴を開けた。
「わりぃなぁ。ギア入っちまったわ……!」
 桜色のオーラを纏いながら、升麻はそれに加えて自らの身体に宿していた気が大幅に増強されるのを感じていた。
 亡霊の懐へと潜り込むと同時、掌に気を収束させる。
「吹っ飛べ!」
 叩き込む掌底と同時、亡霊の内側に入り込んだ気が内部から爆発する。
 ユーリエは意識を集中させていた。
 握る拳銃型のデバイスがその姿を変形させ、弓の姿を形成する頃、ユーリエの意思は可視化していた。
 はたはたとあおられるように浮き上がる洋服の一部と、周囲に満ちる光が、瞬く間に弓へと収束していく。
 煌々と輝く美しくさえある光は炎神ガーンデーヴァの如く。
 収束させた光を魔力を引き絞り、力を籠める。
 胸の内に同じ夢を願う2人の力が合わさった意思の強弓が、発射と共にまばゆい光を帯びて迸る。
「光の力で、悪を追い払う! 貫け、ガーンデーヴァ!」
 真紅の瞳をやや開くようにして叫び放たれた輝かんばかりの意思が亡霊の心臓を撃ち抜いた。

 ――――多数の攻撃を受けた亡霊が、咆哮でもあげるように天を見上げる。
 徐々にほどけていくその体から、光の玉が無数に天へと昇っていく。
 吸収された亡霊たちの霊魂だとても言うのだろうか。
 解き放たれた光はしかし、亡霊というイメージにはそぐわぬ温かみを帯びていて。


 戦いが終わり、村に戻ったイレギュラーズを、桜が引き留める。
「皆様、此度の戦で少なからず傷を負われたかと思います。
 折角ですし、私の演奏を聴いて帰られてはいかがでしょう?
 それに、もう遅いですし……」
 そう言ってイレギュラーズを見渡した桜の言葉に促されるように、イレギュラーズは村の集会所のような場所へと足を運んだ。
 案内されたそこでは、村長らしき人物がついでとばかりに夕餉を用意していた。
 それを頂きながら少し。やがて戦装束を脱いだ桜が姿を現し、琴の前で座る。
 ぽん、ぽろりろ、ぽん――
 穏やかな拍子の音色が、和式の小さな部屋にとけるようになっている。
 その穏やかな拍子に乗せる様に、桜が詩を歌い始める。
 戦いの高揚感を静め、失われた命に来世での祝福を願い、生き続ける者達の将来に幸福を想う。
 そんな歌詞なのだろう。落ち着いた声色で紡がれる歌には不思議と体の力が良い意味で抜けていく。
 一足先に食事を終えた葵は明日の筋肉痛を避けるべくストレッチをしていた。
(音楽はあんま分かんねぇっスけど、わざわざソレ言うのも野暮だよな)
 なんてことを考えていた葵だったが、それでも分かるほど落ち着いた良い音色だった。
(うーん、カムイグラの音楽って、本当聴きなれないねえ
 やっぱり交流がないと独自の文化とか発達しちゃうものなのかな?)
 少しの間、目を閉じていたロゼットも、今は目を開けて演奏の方を見ている。
 あまり見たことのない形をした楽器から鳴る音は聞き慣れないながらもクセになるような気がした。
 ルカもまた、騒ぐことなく静かに音の世界に浸っていた。
 詳しくはなくとも、それと好きかどうかは別の話。
 彼の、根っこ、人情家の部分を刺激するような優しい音が耳を刺激する。
(んー、私もなにか楽器を持ってくればよかったですねぇ)
 巫女という立場柄、多少なりとも楽器を扱える正純はそんなことを考えつつも、いや、と否定する。
 寧ろ聞くに徹するという楽しみ方もまた、音楽の良さというものだろう。

 食事と音楽による慰労が終わった頃の事。
「なぁ、アンタ……ちょっといいか?」
 演奏の終わりごろ、黒羽は桜の下へ近づいていた。
 手に付けていた器具を片付ける桜へと問いかける。
「ええ、なんでしょうか?」
 黒羽の方を向いて、真剣そうな様子の彼に桜も真剣な表情をして、応えた。
「亡霊が発生した原因について何か心当たりはないか?
 なんか、違和感のあるほど最近はこういうのが多い気がするもんでよ」
「それは、私も気になっているのです。
 ただ、どうにも私だけでは分からず……何か人為的な理由があるのかもしれません」
「では、あれほどの亡霊が出た理由も分かりませんか……?」
 続けるように問いかけたのはヴァージニアだ。
「はい。ただ……良くないものではあるのでしょう。
 私にそれがわかる力でもあればよいのですが……残念ながら」
 そう言って桜は申し訳なさそうに首を振った。
「まぁ、何にせよ、別嬪さんが無事でよかったぜ、ほんと」
 升麻はそう言って桜に握手を求めた。
「よぉ、平気か?大した腕だな」
 そういうルカの『大した腕』の意味は恐らく、2つあるのだろう。
 その目に強者との戦いを望む武人のそれを滲ませながらそう言えば、桜も少し武人らしき表情を見せ。
「そう言ってもらえると助かる。それに、大した腕、はそちらでしょう」
「ねぇ、また聴きに来ていい?」
 興味深そうに琴を眺めていたロゼットは視線を桜の方に向ける。
「えぇ。良ければまたいつか謳わせていただきます」
 そんなロゼットに頷きながら、桜がそっと琴を撫でる。
 ユーリエはそっと桜の方へ近づいた。
「貴女の勇姿、しかとこの目で見ました!
 貴女が呼べば、どんな困難をも貫く貴女の矢となりましょう」
「それほどのことではありません。それに、皆様のお力がなければ、今このように歌を歌えてなかったでしょうから。
 ですが……ありがとうございます。またいつか、お力をお貸しください。ユーリエ様」
 本音なのだろう。そう言って微笑む桜にユーリエも微笑みを返す。
「はい、もちろんです! それに、ステキな歌と演奏でした。また聞かせてくださいね!」
「えぇ。いつでも。実はこのあと、いちど京に赴こうと思うのです。何か、胸騒ぎがするのですよ」
 そう言って、桜は少し考えた様子を見せるのだった。
「それに、貴女に会えてよかった。
 貴女のことを噂で聞いてから、話してみたいと思っていたのです。
 このような形でになるとは思ってませんでしたが」
 それについては、またいつか。
 そう言って、桜は仲間を見る様な目で、優しい笑みを浮かべた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れさまでしたイレギュラーズ。

光焔 桜さんはこの後、皆様と一緒に高天京へと赴かれたようです。

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