シナリオ詳細
花の色は 移りにけりな いたづらに
オープニング
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暑い夏を過ぎ。
葉の落ちる秋を過ぎ。
雪の積もる冬を過ぎ。
春の長雨に色褪せた桜も散って──今。焔宮 葵は何度目のこの季節を、此処カムイグラで過ごしただろうか。
(蛍の時期、か)
春と夏の狭間。麗らかな日差しから涼しい雨季を経て、うだる暑さの夏へと向かう中の『雨季』に当たる時期だ。
この季節になると、いつも思い出す。いいや、思い出そうと思えばすぐ思い出せるし、忘れようもできないのだけれど。
ふわりと命の光を灯らせる虫に想起せざるを得ないのは、今や当主となったあの少女。
彼女は無事だろうか。
笑っているだろうか。
元気でいるだろうか。
どれだけ彼女のことを気にしようとも、カムイグラから外の世界を知る術はない。
一族が滅んだあと、神隠しに遭ったのはもう数年前のことだ。気がつけば異国の地を踏んでいて、全く知らぬ2つの種族が多くを占めていた。ほんの少しばかりは──呼称は異なれど──見知った種族もおり、無辜なる混沌のことも知っていたが、誰も帰還方法までは分からなかった。
誰しもが、この土地で生きるしかなかったのだ。
土地が変われど焔宮の意思は揺るがない。葵は鬼人種(ゼノポルタ)に味方し、悪霊調伏へ力を貸し始めた。毒とも薬とも見られないブルーブラッドであったが、彼らとつるむとあれば流石に奇異の視線も飛ぶ。
(それでも構わない)
ここを追い出されたらどうしようもないので言わないが、現状をおかしいと思う気持ちはあった。上の者が民を守らずしてどうするのか、と。ゼノポルタへの扱いは目に余る部分が大きい。
だがここは異国、たった1人でゼノポルタの扱いを覆すことはできない。もはやそういった意識は浸透してしまっている。なればどうするかなど、決まっているのだ。
1人でも守れるように力を振るうだけ。いつか帰るまで。いつか──を、見つけられるまで。
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「今回は怨霊退治、なんだって」
『Blue Rose』シャルル(p3n000032)は駆けながらイレギュラーズへ告げる。もうその救援に向かっている途中ではあるのだが、急ぎということで些細な説明はされていなかった。
「どこぞの悪党が墓を荒らしたらしくてね。その墓の持ち主が怨霊になったらしいよ」
生前は力のある者だったと言う故人。眠っていたところを起こされ、荒らされたとなれば暴れ出すのも致し方がないか。
「悪党の方は他にも罪状があるらしくて、国が動いてる。だからそっちはいいんだ。ボクたちの役目は怨霊退治……の加勢」
イレギュラーズに依頼が回されるようになったとはいえ、ゼノポルタもまた危険な仕事を日々請け負っている。そんな彼らでも手が余る存在となれば自然と表情も引き締まるもので。
「惑わされないように気をつけて。霧に触ると治癒ができなくなるから、それも」
すでにかなりの被害が出ていると伝わっている。未だ全滅はしていないだろうが、それも時間次第。
「急ぐよ」
シャルルの言葉に一同は頷き、さらにスピードを上げた。
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「気を強く持て! 治癒が効かない者は後ろへ!」
葵の叫びにまだ動けるゼノポルタがぞろりと動く。それを横目で見ながら、葵は刀を構えて黒き霧を斬り伏せた。
断たれて霧散したそれは、しかしじわじわと元に戻って再び葵たちへ寄ってくる。
(キリがないな)
どれだけ切ろうとも再生する霧。気体がないのだから当然だが、ここまで斬った感覚がないと虚しくもなってくる。
今動ける人材をどう動かすか。
すでに動けぬ人材をどう逃すか。
(……考えろ)
考えることを、動くことをやめてはいけない。やめたら終わりだ。そんなところを加勢に来る彼らに──イレギュラーズに見せるわけにはいかない。
生きるために、足掻くのだ。
「──イ」
不意に怨霊が喋る。しかしそれは一方的で、要領が掴めるわけもなく。
「何が『ない』のかわからないが……これ以上民を傷つけさせるわけにはいかない!」
薄暗い中、葵の向けた刀身が怨霊へすらりと伸びた。
- 花の色は 移りにけりな いたづらに完了
- GM名愁
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2020年07月25日 22時10分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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怨霊の声がする。怨嗟の篭った、悲しい声が。よくよく聞けば『ない』という単語だけは聞こえるが、他は全くもって不明瞭だ。
(何かを盗まれたのかしらね……?)
荒らされた墓。ないという言葉。それらから『狐です』長月・イナリ(p3p008096)は悪党が何かを盗っていったのだろうと考える。けれども悪党が捕まるまでは、或いは怨霊が教えてくれるまでは仮説の1つに過ぎない。
複数の障壁を張らんとするイナリの横を『満月の緋狐』ヴォルペ(p3p007135)が駆け抜けていく。倒れ伏した者やまだ起き上がる者の間を擦り抜け最前線へ立ったヴォルペは、怨霊へ向けて柔らかな笑みを見せた。
「さあ、おにーさんと遊ぼうか!」
怨霊のどこに目があるのかはわからない。けれどこの時、ヴォルペは確かに『視線』を感じ取った。その肩越しから彼岸会 無量(p3p007169)は額の目を開き、見つめる。怨霊を──さらにはその全てを見透かそうとするように。その視線は死せるものにとっても不快なものだったのだろう。
「皆さん、ご無事ですか?」
その背後に追いついた『救世の炎』焔宮 鳴(p3p000246)の姿に、声にこれまで戦っていた者たちが顔を上げる。その内の1人が鳴を見て驚きの声を上げた。
「まさか……!」
「……?」
鳴が視線を向けた先には獣種の青年がいる。ヤオヨロズでもゼノポルタでもないということは、恐らく神隠しでこちらへ召還されたのだろう。彼は鳴のことを知っているような素振りだが、鳴の記憶に彼は存在しない。
(思い出せないだけ、なの……?)
過去は変わらずあやふやで。鳴は小さく眉を寄せながら青年へ問うた。
「貴方は……鳴を、知ってるの?」
「『鳴』ということは、やはり」
鳴の答えに青年は確信を得たようだった。同時にそれは鳴への答えでもあった。彼は鳴のことを知っているのだ。
「──助けに来たよ! 負傷者はこっちへ!」
やり取りする2人の耳に『猫神様の気まぐれ』バスティス・ナイア(p3p008666)の声が届く。さっと視線を向ければ『新たな可能性』笹木 花丸(p3p008689)のドスコイマンモスが存在感を放っていた。
「ゴメンね。少し重いかもだけど、助けるためなんだ」
花丸の声にマンモスはふんすと鼻を鳴らす……が、面積的にも4名の負傷者を同時には運べない。ここと安全圏を数回往復することになりそうだ。
倒れ伏したゼノポルタに火の玉が迫る。気づいたゼノポルタは起き上がって退避しようとするが、足を怪我しているのかその歩みはひどく重い。近づかれる──その寸前にふわりと長い髪が揺れた。
「アンタは……」
「今は。はやく、下がって下さい……」
火の玉を食い止める『plastic』アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)はゼノポルタを肩越しに一瞥し、すぐさま視線を火の玉へ戻す。ユラユラ揺れるそれはゼノポルタからアッシュへ標的を変えたようだった。
道具、或いは消耗品。そうして扱われる者たちがいることをアッシュはよく知っていた。
(幾度と死地へ飛び込み、何れいのちを散らす……定められた、もの)
ここで彼らを助けたとて、その運命は変わらないのかもしれない。ここではないどこかを死地にするのかもしれない。
それでも、と。アッシュは動かずにいられないのだ。
「厄介そうな相手ですね」
そんなアッシュの脇を抜け、ヴォルペの対峙する怨霊前へ躍り出た『百錬成鋼之華』雪村 沙月(p3p007273)は流れるような所作で攻撃を繰り出す。黒い靄に開いた2つの穴はみるみるうちに塞がり、どこを叩いたかもわからない。
「この人の言うことを確り聞いて、戦場から離れるの」
出来るね? と花丸に問われたマンモスは是を返す。花丸は頷くとまだ動けるゼノポルタへ安全圏までの案内を頼んだ。
「安全圏まで着いたら、もう1度ここへ! 残っている人も運ぶよ!」
安全圏へ向かうのに、また安全圏から戻ってくるのにどれだけの時間がかかるか。正確なところは誰にもわからない。鳴はゆっくり話している暇もなさそうだと、目の前の青年や残っているゼノポルタの面々へ視線を向けた。
「私と共に、戦っていただけますか?」
「ええ勿論」
「助太刀、感謝する」
決して良いとは言えぬ武器を持ち、されどその屈強な肉体でゼノポルタたちは怨霊へと向く。青年は鳴へ一瞥を向けながら、武器を怨霊へと構えた。
「当主。……俺は、焔宮 葵と言う」
ほむらみや、と鳴の唇が動く。葵は頷き、鳴の唇へ視線を向けるが──その後に『葵』の発音は出てこない。
あくまで今、彼女の心を占めるのは『焔宮に生き残りがいた』事実のみ。従者として付き従っていた葵の存在が、名前で少しでも思い出せればというのは甘い考えであったらしい。
けれども、その事実がどれだけ鳴を安堵させたことが葵には知る由も無いだろう。束の間緩んだ口元が、言い表せないほどの嬉しさを秘めているなど再開から間もない葵には分からないだろう。
(鳴は……『独りぼっちの焔宮』じゃなかったんだね。なの)
鳴とその姉。魔種となった姉を殺してからはひとりきり。
たとえ焔宮が1人であったとしても、苦しむ民を救うことに変わりはない。けれど他にも居てくれるなら心強いことこの上ないものだった。そしてそれらを束ねる存在であるのだと、彼の『当主』と呼ぶ声が自覚させる。
「──ならば、私は当主として導かねばなりませんね! 我々は焔宮として、民を護るのです!」
凛とした鳴の声と共に、熱の揺らめく霊刀が怨霊へと向けられた。
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『……イ。ナイ』
壊れた時計の秒針が同じ場所から動けぬように、怨霊は只々同じ言葉を吐く。
ない、ない、ない。○○がない。
何が『ない』と言うのか。それは言うつもりがないのかもしれないし、言えないのかもしれないし、思い出せないのかもしれない。
思い出せないけれど、そこに何かがあったのだと知っている。失われてぽっかりと穴が開いたことを知っている。だからただ『ない』とだけ言うのかもしれない。
ない、ない、ない、ない。安らかに眠るには──足りない。
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少しでも楽になるように、と様子のおかしい者にはバスティスが治療を施し、戻ってきたドスコイマンモスに再び乗せて送り出す。花丸とバスティスは頷きあうと、敵を留めていた仲間へ合流した。
「もう負傷者たちは大丈夫だよ」
今度はこちらだ、とバスティスはヴォルペへヒールを向ける。いくつもの傷をつけたヴォルペは癒しの光に笑みを浮かべると華奢な手甲で怨霊を強かに殴らんと振りかぶる。
「おにーさんまだまだいけそうだ!」
翻弄される怨霊は手数を増やそうとでも言うのか、その身から複数の火の玉を生み出す。すかさず鳴がゼノポルタたちへ指示を出すと、彼らは率先して火の玉を倒さんと群がっていった。
「私たちはこちらに集中いたしましょう」
時間をかければかけるほどこちらも消耗していく。今を生きる者に死者が害をなすなどという道理が通ってはならないのだ。
霊刀が魔力を帯び、鏡映しのようにもう一振りの肩間を形作る。長き時間を必要とするそれを一瞬で形成した鳴は怨霊へ向かって斬撃を放った。纏わりつく靄ごと中心へと吸い込まれていった斬撃に怨霊は叫び声をあげながらも、その太刀筋は少しずつ曖昧になっていく。その場所を少しでも残しておかんとするように葵の刀が再度そこを切り裂いた。もやもやと蠢くそこへ、花丸が強力なカウンターを打たんと拳で突く。
(何を一緒に埋葬したんだろう。墓荒らしは何を取っていったんだろう)
それらが分かれば、決して明瞭ではない怨霊の言葉でも探し物がわかるかもしれないのに。そう思わざるを得ないが、残念ながら花丸たちの手元にその情報は存在しない。なればその言葉に耳を傾け、生者へ害を為さないよう叩きのめすしかないのだ。
「厄介な回復能力ですが……ならば、それ以上に斬って仕舞えば宜しい」
無量の刀が怨霊の急所を脅かすように向けられる。素早いそれに次いで彼女は最適な太刀筋を瞬時に見抜き、その一太刀を浴びせた。その耳には絶えず怨嗟の声が響いてくる。何かがない。けれどもその単語の部分はどうやら『そもそもはっきりと発音していない』ようだ。
(自身でもわかっていない……?)
言葉にしたいのにできない、こんなような発音だった。そのような雰囲気だ。
「それにしても……長期戦になりそうね」
先ほど数人が斬りつけたそこがじわじわ消えていく様にイナリは小さく肩を竦める。黒い霧がどこか狂わせるような感覚にさせるのは、きっと気のせいではない。
「大丈夫、落ち着いて!」
バスティスのキュアイービルがイナリへと向けられる。明瞭になった感覚と共にイナリは剣を握り、靄の更に先を切り裂く斬撃は爆炎に包まれた。苦しむ声にバスティスは心の中で謝ることしかできない。墓を暴かれ、眠りを妨げられれば怒るのも道理であるからだ。
(けれど、この世界を形どっているのは生者の理なんだ)
元を辿れば決して悪い霊ではない。それでも生者に害をなす存在とあれば排されてしまうのが現実なのだ。
「はは、楽しくなってきた!」
命の削れる感覚は、どうしようもなく高揚する。楽し気に笑みを浮かべたヴォルペはいくら打たれ、切られようともそれ以上の悪化はない。全て彼自身の抵抗力が弾き飛ばすのだ。そこには最後の最期まで抗うという確固たる意志が垣間見える。
(けれど流石、力を持った霊魂ですね)
沙月は自らの武術を叩き込みながらも怨霊の力に瞳を眇める。ただの人が怨霊になっただけではここまで面倒な──強力な再生力など持たなかったかもしれない。
アッシュは雷撃を向けながらもその声に耳を傾ける。ない、ないないない。何かを探している。もしくは何かを伝えようとしているような。気のせいだろうか。
──ナイ、ナイ、大切ナ、ナイ。
「大切なものなのですね。……どのような、姿をしているのですか」
アッシュが語り掛けるも怨霊はないないと呟くばかり。大切な何かを探していることは確かであるのだが、結局怨霊とアッシュの会話は成り立っているようで双方に一方的だった。そしてそれはアッシュだけに限らない。
「あなたは何を探しているのかな? 良ければあたし達も協力するよ」
バスティスが傷つく仲間たちへ治療しながら声を上げる。霊魂との意思疎通に長ける彼女の言であるが、やはり怨霊はそれらしいリアクションを返さない。ならば半ば無理やりにでも──集中しようとしたバスティスを突如熱が襲った。
「……っ!?」
友軍が対処するも溢れてしまった火の球だ。揺らめくそれを引き付けんと花丸が声を上げる。彼女を、そして応戦するゼノポルタを避けるように雷撃がうねった。
「……此の場において、誰ひとり死ぬべきではありません……」
冬を纏いし娘が戦場を見渡す。残った火の玉はアッシュを標的としたようだが、それでも構わない。生者も死者も関係なく無事に帰すのだ。それを後押しするように鳴が味方を回復し、支えていく。
「皆さんは皆さんの為すべきことを。私は全力で支えさせて頂きます!」
ゼノポルタたちは鳴の声に深く頷くと、武器をしっかりと握りしめて果敢に挑んでいった。
「そろそろ眠らせてあげましょう」
暴かれた墓も整えてやりたいと無量は刀を向ける。死者の眠りを妨げる行為は何人たりとも許される所業ではない。その状態を長引かせることも、また。
「ええ。できれば見つけてあげたいところですが」
耳を傾けているだけではどうにもならない、と沙月は強力な踏み込みで怨霊へ肉薄する。その再生力も衰えてきたのか、黒い靄はかなり霧散していた。
「死者より生者が優先よ!」
「うん。探し物は見つけてみせるから、お願い、眠って?」
イナリの魔を払う剣が一閃される。花丸の拳が靄を打つ。また少しずつ黒い靄が消え始めた、そこへ。
「どうか、」
アッシュの元でバチバチと雷がはじけ、火の玉をかき消して。
「其れを見つけることを、手伝わせてはくれませんか……!」
のたうつような雷撃はそのまま黒い靄を呑み込み、光で包み込む。嗚呼、と小さい声が響く。
黒い霧が霧散する寸前──生きる者たちは季節外れも過ぎる、満開の桜を見た気がした。
「……必ず見つけてやるから、今はゆっくり静かにおやすみ」
ヴォルペは小さく呟く。瞬時に消えたそこに残るのは荒れ果てた墓場ばかり。卒塔婆が無残にも折られ、墓石が欠けているのは先頭の名残か、それとも元々であったか。
無量は直せるだけ状態を直し、件の荒らされた墓は元どおりに埋める。そうして1人ずつへ声をかけるように経を上げるのだ。
(騒々しさに眉を顰めた方もおりましょうや)
怨霊は墓を荒らされ──さらに言えば何かを奪われたことで──暴れることとなった。そこまではいかずとも、不満とは生者に限らず溜まるもの。想いを邪な者に利用され、同じような者が出ないとも限らない。
ともに墓を戻した沙月もまた祈りを捧げる。束の間のそれを捧げた後は周辺だけでも捜索開始だ。
「さあ、約束を果たさなきゃ。それでこそ依頼をこなすって事でしょ?」
「ええ。それに……安寧の眠りからも覚めてしまう、ほどに……余程、たいせつなものなのでしょうから」
「戻せる様な代物だと良いのだけれど」
少なくとも盗めたという事は土に還ってしまうようなものではない。問題はソレが壊れてしまっていた時や、もしくは表に出れば価値のあるようなものである場合だ。
「……あ。霊魂が……」
「戻ってきたみたいだね」
アッシュの声にバスティスが頷く。怨霊がいなくなったことで逃げていた霊魂たちが自らの墓へ引き寄せられたようだ。アッシュが件の墓に埋められたものを問うてみると、記憶も曖昧なようで霊魂たちは困ったような声を上げた。
「細いもの……え、長い……? そんなに、長くはない……?」
その墓に入ったのは幸いにも1つしかなかったようで、それが盗まれたと言うもので間違いないだろう。霊たちが言うには細くてそれなりの長さ、らしい。
「細くて長い、だね。探してみよう」
一同は手分けしてそれらしいものを探してみる。卒塔婆の影、墓石の隙間、雑草の下。怨霊の暴れた形跡はそこかしこに残されており、もしかしたら怨霊自身もそれによって見つけられなかったのかもしれない。
「あ、」
枯れ木の根元を覗いた沙月が声を上げる。その指が拾い上げたのは1本の簪だった。生憎と飾りは取れてしまっているが、ほど近くに転がっていた。
(これが桜の意味……ですか)
沙月は飾りに施された桜の意匠に目を細める。あの墓の主にとっては思い出の品であるのだろう。沙月は一同へそれらしき物が見つかったことを知らせ、墓の前へと集まった。
「今度はどうか……静かに眠れますように」
バスティスが綺麗に掃除した墓へ見つけたそれを供え、一同は揃って手を合わせる。ふと顔を上げれば、分厚く広がっていた雲が切れて光が差し込んでいた。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れ様でした、イレギュラーズ。
かの魂はきっと安らかな眠りについたことでしょう。
それでは、またのご縁をお待ちしております。
GMコメント
●成功条件
怨霊の鎮静化
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
●エネミー
・怨霊×1
肥大化した黒霧の思念体。人の背より大きいです。力ある者──陰陽師なる者の霊が元になっており、言葉などは届かない様子です。しかしよくよく耳をすませば、何かを探しているような様子でしょう。
再生力に長けており、【致命】や精神BSの攻撃を仕掛けてきます。
また自身の怨念がこもった火の玉を吐き出し、自立行動を取らせます。
●友軍
・焔宮 葵
焔宮 鳴さんの関係者。恐らくは覚えていないでしょうが、従者であり実兄です。もし鳴さんに会ったのならば従者として従うでしょう。
数年前から神隠しによってこちらにおり、ゼノポルタたちの加勢をしています。
刀を所持しており、近接アタッカーとしてイレギュラーズに味方します。疲弊した様子はありますが、本人はまだ戦う気満々です。
・ゼノポルタ×4
ある程度の負傷はありますが動けます。刀や斧などの武器を持っていますが、あまり質の良いものではありません。
獄相はいずれも巨腕。大きな腕は力を込めるに易く、小回りはききづらいようです。
・ゼノポルタ(負傷)×4
戦闘不能状態にある大柄な男性です。倒れているため、安全な後方まで引かせることが必要になります。
●フィールド
墓地です。卒塔婆とか立っています。
昼間ですが薄暗く、足元はあまり良くないです。
●ご挨拶
愁と申します。
手遅れになる前に友軍を助け、霊を鎮めましょう。
ご縁がございましたらよろしくお願い致します。
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