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シナリオ詳細

豪雨の中の防衛線。或いは、腹いっぱいの麦を代価に…。

完了

参加者 : 8 人

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オープニング

●野武士の襲来
 カムイグラのとある村。
 国全体が妖怪や怨霊の起こす事件や騒動に浮足立つ中、この辺鄙な村にも異変が起きた。
 それはある雨の夜、突如として姿を現した。
 ぼぅ、と暗闇の中に浮かび上がる青い炎。 
 否、それは人魂だ。
 1体の死体につき1つの人魂。その数はおよそ20ほど。
 腐敗した身体を持つ野武士たちが、人魂に導かれるようにして村へと迫る。
 野武士たちは、粗末な鎧を身に付けて、手には刀を持っている。
 身体が泥に汚れているところを見るに、地面の下に埋もれていたのだろう。
 死体とは思えないほど速やかに、野武士たちは村へと立ち入る。村人たちは家屋に籠り、その動向を伺っていた。
 野武士たちは村の外れの田畑へ至る。
 しばし田畑を観察し、収穫の時期がまだ先であることを確認したらしい。
 野武士たちは夜が明ける前に姿を消した。
 
 だが、野武士たちの到来はその1回に留まらない。
 以降も雨の夜になるたび、野武士たちは村に現れ1つか2つずつ、蔵を開けては中を見る。
 何度目かで、村人たちは野武士たちの狙いが食物であることを悟った。
 蔵の中に備蓄していた米俵を、野武士たちが持ち去って行くのを見たからだ。
「次は……この春取れたばかりの麦を納めた蔵の番だな」
 前回、持ち去られた米の量はごくわずか。
 けれど、次に持ち去られるであろう麦の量は膨大だった。
 中には、近くの街に売るためのものも混じっている。
「あれを奪われては、この村はおしまいだ。秋の収穫まで喰うものが何もなくなるぞ」
 と、1人の村人がそう告げる。
 その言葉を聞き、村長を務める老爺は静かに目を閉じた。
「……近くの街へ相談したが、どこも怨霊や妖怪の相手に手いっぱいのようでな」
 つまり、村の問題は村で解決してくれと、そういうことだ。
 小さな村の1つひとつに至るまで、手を差し伸べている余裕はないのだろう。
 村長はしばし思案して、やがて小さく吐息を零す。
「イレギュラーズと言ったか……他所の国の者たちを面倒ごとに巻き込むことに罪悪感は覚えるが」
 背に腹は代えられない、と。
 唇を噛みしめ、村人たちに向け村長はこう周知した。
「彼らを雇おう。報酬は、麦程度しか支払えんがな」
 果たして、麦の代価に命をかける変わり者たちが果たしてどれほどいるものか。
 ともすると、1人さえも力を貸してはくれないかもしれない。
 と、そんな不安を胸に抱いて、けれど彼らは一縷の望みに命を託すことしかできない。

●御旗の下に
「大した報酬は出せないが、どうか……どうか村を守ってくれぬか」
 もちろん自分たちも戦うから、と。
 10名ほどの村人たちを代表し、村の男がそう告げる。
 その手にはよく使いこまれた鍬が握られていた。
 指の節が白くなるほどに力が込められているのは、果たして怒りからか、それとも恐怖の感情からか。
「自分たちでも、村を守ろうとしたのだが……物資が足りずにこの有様よ」
 唇を強く噛みしめて、男性はそう呟いた。
 小さな村の周囲には、村人たちが作ったであろう粗末な柵が張り巡らされている。
 野武士たちがその気になれば、柵を破壊することも容易だろう。
 また、柵と柵の隙間から野武士たちは村へと侵入して来るようだ。
 それでも、野武士たちの進路をある程度誘導することは可能らしい。
「野武士たちが現れるのは決まって雨の夜ばかり。視界も足元も悪い中での戦いになる……松明の火を維持するのにも人手がいるが、それは俺たち村の住人が対応しよう」
 松明の火さえ絶やさなければ、視界はある程度良好に保たれるはずだ。
 もっとも、その分村人たちが危険な目に逢う確率も上昇する。
「野武士たちの攻撃には【出血】が、野武士たちの頭目の攻撃には【出血】と【狂気】が付与される。それと、頭目は散弾銃を手にしていたな」
 ほかの野武士たちに比べると、頭目は頭2つ分ほど背が高い。
 また、鎧も比較的上等なものを身に付けているようだった。
「野武士たちが狙っている蔵は、村の中央にある。万が一、蔵が崩壊すると我らが難儀するのでな……戦闘はその場所以外で行ってもらえれば助かる」
 それと、と。
 言いづらそうに視線を逸らし、男は視線を地へと落とした。
「野武士たちがな……どの方角から来るか、わからないのだ」
 柵の外周は、どこも今は使われていない田畑が広がっている。
 村の周囲を徒歩で一周するのにかかる時間はおよそ10~15分。距離にして1キロ程度だろうか。
 野武士たちを早期に発見し、迎撃するためにはある程度分散しての警戒が必要となるだろう。
 また、野武士たちも全員が同じ方向から攻めてくるとは限らない。
「俺たちが調べられた情報は以上だ……支払える報酬は麦ばかりだが、どうか腹いっぱい食ってくれ」
 と、そう告げて。
 村人たちは、一斉に地面に膝を突く。
 頭を下げた彼らの背後に、麦の詰まった俵が5つ。
 そして、何も描かれていない白い旗が地面に横たえられていた。
 旗の四方には赤黒い染み。
 それは村人たちの押した血の判だ。
 村を守るため、自分たちも命を賭けるという誓いと覚悟の査証であった。

GMコメント

●ターゲット
・頭目(怨霊)×1
野武士たちのリーダー各。
ほかの野武士たちよりも頭2つ分背が高い。
腰には刀を、背には散弾銃を背負っており距離によってそれらを使い分けるようだ。
また、野武士たちの特徴として1人に1つ、人魂が付き従っている。

断刀:物近単に中ダメージ、出血、狂気
銃:神遠扇に小ダメージ


・野武士(怨霊)×19
腐った身体の野武士たち。
粗末な鎧を身に纏っている。
頭目に率いられてはいるが、各々好き勝手に行動するため連携が取れているとは言い難い。

斬刀:物近単に小ダメージ、出血



●場所
四方を粗末な柵に覆われた村。
村の中央には、今回の守護対象である麦の納まる蔵がある。
野武士たちの襲撃時は雨が降っており、視界と足元が悪くなるため注意が必要。
村の中は一定間隔で松明が灯されているため、ある程度の視界は確保されている。
※松明は戦闘の余波や雨で消えることがある。村人たちに再点火を指示しておくことが可能。
柵の外側に松明はないため、そちらで戦闘を行う場合は暗所対策が必須となる。


●村人たち
戦闘に参加する村人は10名。
比較的若い男衆だが、戦闘力は低い。
松明の再点火や歩哨、斥候などを指示することが可能。

  • 豪雨の中の防衛線。或いは、腹いっぱいの麦を代価に…。完了
  • GM名病み月
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年07月19日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

アルテミア・フィルティス(p3p001981)
銀青の戦乙女
ゴリョウ・クートン(p3p002081)
黒豚系オーク
イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)
黒撃
赤羽・大地(p3p004151)
彼岸と此岸の魔術師
アリーシャ=エルミナール(p3p006281)
雷霆騎士・砂牙
鹿ノ子(p3p007279)
琥珀のとなり
リディア・T・レオンハート(p3p008325)
勇往邁進
武者小路 近衛(p3p008741)
一期一振

リプレイ

●野武士の襲来
 地面を叩く雨の音。
 揺れる炎の色は橙。
 小さな村の周囲を囲む粗末な木の柵。村のいたるところには、大量の砂利がばら撒かれていた。
砂利を撒き終え『守り刀』武者小路 近衛(p3p008741)は雨に濡れた額を拭う。
「さて、こんなものでござろうか。鳴子も……良い感じでござるな」
 手伝いをしていた村人たちに、近衛は作業の終了を告げる。
 それから近衛は、女性にしては高い身体をかがめながら、村を囲む柵の内側へと移動した。
「武者小路 近衛、立派に務めを果たして見せるでござるよ……!」

 遡ること数時間前。集った8人のイレギュラーズたちは、村人たちを取りまとめ早速行動を開始した。
「ぶはははっ、自分らに出来る十全を尽くさんとする。その意気やよし! 手ぇ貸すぜ!」
そう告げて『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)は力強く村人の背を叩く。
ゴリョウの巨躯には、痛々しく包帯が巻かれていた。先だって負った傷が治りきっていないのだ。
「あ、ぁぁ……すまない。ありがとう、ありがとう」
 涙を零し、村人はしきりに礼を告げた。そんな村人に対し、ゴリョウは「気にすんな!」とそう返す。
「そうそう。ギを見てせざるはユウ無きなりって言うし、乗りかかったフネだからネ」
ゴリョウと村人の会話に割って入ったのは、色白の元・拳闘士。『業壊掌』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)であった。
「おう、そっちはどうだった?」
「ンー、それらしい痕跡はナカッタな」
 そろそろ雨もフリはじめるよ、と空を見上げてイグナートは言う。イグナートは、仲間たちに先行し、周囲の状況確認に出かけていたのだ。
「とりあえず、柵のキョウカだね。ギフトで鉄でも捻じり切れるからオオザッパな工作ならマカセテよ!」
 と、そう告げてイグナートは自身の持ち場へ向かって行った。

 粗末な柵を一瞥し『勇往邁進』リディア・T・レオンハート(p3p008325)は腰の剣に手をかける。
「……村人たちのお覚悟に感じ入りました」
 スキルを用いて周囲の警戒を行うリディアは、しばしの間目を閉じる。
 脳裏をよぎるは、地に膝をつき、首を垂れて助けを請うた村人たちの姿。
 自分たちの手で村を守るには力が足りず、けれど他者に頼り切ることは良しとせず、血の判を押し、命をかけることを誓った気高い心意気を買い、彼女は自身も命をかけることを選んだ。
 今宵、村を訪れる亡者と化した野武士の数は全部で20。
 対するこちらの戦力は、村人たちを除けば都合8名のイレギュラーズの有志のみ。
「敵はまだ現れないようですね」
 
靴に伸ばした藁を撒き「これで良し」と『銀青の戦乙女』アルテミア・フィルティス(p3p001981)は言った。
「それじゃあ皆さん、参りましょう。皆さんの作った大事な麦を、やすやすと奪わせる訳にはいかないものね」
 銀の髪が、雨と泥とに濡れている。
 身体が汚れることも厭わず、アルテミアは5人の村人たちとともに柵の外へと出かけて行った。
 彼女たちの役割は斥候だ。
 
 雨に霞んだ視界の中に、蒼い炎が浮かび上がった。
 一定の速度で、それはゆっくり村の方へと迫りくる。
にぃ、と口元に笑みを浮かべ『黒犬短刃』鹿ノ子(p3p007279)は息を吸い込む。
「皆さん、敵が現れたっスよ! 戦闘開始、撃破するッス!」
 響き渡る大音声。
 愛用の太刀を引き抜くと、鹿ノ子はゆっくり前に出る。
 
『皆さん、敵が現れたっスよ! 戦闘開始、撃破するッス!』
 遠くから、雨音に紛れ鹿ノ子の声が耳に届いた。
その声を聞いた『双色クリムゾン』赤羽・大地(p3p004151)は、やれやれとばかりに長い髪を掻き揚げる。
「2か所同時……いや、他の場所にも出てるかもナ。だが、相手は死霊って訳だシ……この俺の得意とする所ダ」
 そう告げて、大地は宙に素早くペンを走らせた。
 大地の視線の向く先には、畑を突っ切り村へと迫る5つの人魂。
 大地の担当する方向からも、野武士が進行を開始したのだ。
「少しでも早く、野武士の頭数を減らさないとナ!」
 直後、野武士たちの足元で、白い光が弾けて散った。
 暗闇を切り裂く閃光は、大地の行使した【神気閃光】によるものだ。夜闇の中で、この閃光は良い目印になっただろう。
 ほかの位置に配置された仲間にも、この場の異常は伝わったはずだ。

しゃらん、と涼しい鞘なりの音。
剣を引き抜き『雷霆騎士・砂牙』アリーシャ=エルミナール(p3p006281)は、軽い動作で軍馬に乗った。
「村人たちは避難してください! 野武士が現れたようです! 大丈夫、村は必ず私たちが守ってみせます!」
 アリーシャは、自身の率いる村人たちに退避を促し、軍馬の腹を軽く蹴る。
 よく訓練された彼女の軍馬は、たったそれだけで即座に命令を理解した。泥水を蹴飛ばし、軍馬は駆ける。その様はまるで、雨を切り裂く一陣の風のようでもあった。

●雨夜の激闘
 柵に叩きつけられる重たい一撃。
 砕けた木っ端が飛び散って、からんころんと鳴子が鳴った。
「急ごしらえではやはり長くは持たぬでござるな」
 柵を破壊する野武士たちを一瞥し、近衛は舌打ちを零す。
 近衛の前には、2体の野武士が張り付いていた。
 腐りきった虚ろな瞳で近衛を見据え、手にした刀を横に薙ぐ。
 近衛はゆらりと揺らめくようなステップでそれを回避。
 野武士の1体へ、鋭い足払いをかけた。190を超える長身。体重のしっかり乗った彼女の蹴りは、野武士の脚の骨をへし折る。
「えぇい、怨霊に堕ちし身とは言えど、民草を、神威神楽を守護する武士が盗人など、なんとも情けなし! 武者小路家のものとして、介錯仕る!!」
 手にした刀を逆手に握り直した近衛は、その切っ先をまっすぐ野武士の首へと落とす。
 けれど、刃が刺さるその直前、もう1体の鬼による体当たりにより近衛の身体は吹き飛ばされた。野武士たちの頭上で歓喜するように人魂が舞った。
 野武士たちが刀を掲げ、近衛へ向けて振り下ろす。
 その刃が近衛を斬る、その直前。
「リディア・T・レオンハート、微力ながら助太刀致します!」
 戦場に現れたのは、リディアであった。
 暗闇の中、ぼんやりと彼女の身体は輝いて見える。一際強い光を放つは、手にした剣だ。剣を引き、リディアは気勢と共に刺突を放つ。
 閃光が夜を引き裂いた。
刺突を受けた2体の野武士は、もつれるように姿勢を崩す。
 倒れ込む先には近衛の姿。手にした刀を一閃させると、野武士の1体を切り裂いた。
 だが、リディアの刺突を受けた方の野武士はまだ生きている。
「硬いですね……それなら、こちらを使わせていただきましょう」
 リディアの剣が輝きを増した。
 蒼い光剣と化したそれを一閃。斬撃を受けた野武士の胴は切断され、地面に転がる。しばらくの間、もがいていた野武士だが人魂の消失と共に灰と化した。

 まるで流星のように、雨夜に刀が閃いた。
 素早さと手数に重きを置いた斬撃だ。ゆえに一撃の威力は低く、受ける野武士も大きなダメージを受けてはいない。けれど、野武士の鎧や刀の隙間を掻い潜り、確実にその身を切り裂いていく。
「威力の低い一撃だと侮るなかれ! いつ終わるか分からぬ連撃を、雪が降り積もる如く、深々と受けるがいいッス!」
 桃と緑の髪を振り乱し、鹿ノ子は野武士へ猛攻撃を仕掛けていく。たまらず、1歩後退した野武士だが、直後背後からの一撃によりその首を刎ねて落とされた。
「略奪など到底見過ごせません。おそらくは、生前の習慣が残ったものなのでしょうが」
 灰と化す野武士を馬上から見下ろし、アリーシャは言う。
 野武士の首を刎ねた彼女の剣の色は黒。その刀身には白炎の刻印が刻まれていた。
 鹿ノ子から知らせを受け、援護に駆け付けたアリーシャだが、その時には既に3体の野武士が村へと侵入してしまっていた。
 追いかけるべきか、それとも柵外に残った野武士を片付けるべきか。
 アリーシャは後者を選び、鹿ノ子と共に都合4体の野武士を屠った。
「鹿ノ子さん、こちらに頭目はいましたか?」
「いなかったっスね。頭目を探すんっスか?」
「いえ……」
 アリーシャは村の方へと視線を向ける。
 村の何か所かから、金物を打ち鳴らす音が聞こえていた。野武士の発見を知らせる合図だ。今ごろは、仲間たちも野武士の掃討に向かっているころだろう。
「目に付く野武士を倒しましょう」
「了解っス!」
 アリーシャは馬首を転回させ、村へ向かって走らせる。
 その後を追い、鹿ノ子も次の敵を探して駆け出した。

 消えていた松明に火が灯る。
 村人の誰かが、再点火を試みてくれたらしい。
「ったく、こんな前線で物好きな奴だゼ! 俺も負けてられねぇな……野武士の相手は任せておケ!」
 そう言って大地は、空にペンを走らせた。
 展開された陣からは、眩い閃光がほとばしる。野武士を怯ませるには十分な威力……けれど、その特性ゆえ閃光ではトドメを刺しきれない。
 野武士たちは徒党を組んで大地へ迫る。泥に汚れた錆びた刀に、松明の光が反射した。
「数が多いナ」
 そんな呟きと共に放たれたのは、夜の闇よりもなお深き〝黒〟。死者の怨念を束ねた魔弾が野武士の身体を闇に飲み込み、崩壊させる。
 けれど、対象に取れる野武士は1体だけ。距離を詰めた2体の野武士が刀を振るうと、大地の身体は血飛沫と共に後方へ跳んだ。
 柵に背中をぶつけ、地面に倒れた大地だが、歯を食いしばり立ち上がる。
 じわじわと、数体の野武士が近づいてくるのを視線に捕らえ、大地はにやりを笑みを浮かべた。
「よぉ、背後にも気を付けておけヨ?」
 その言葉の意味を、野武士は理解できただろうか? 
「いい位置に並んでくれたわね」
 なんて、囁くような声が聞こえた。
 突如、暗闇の中に現れた蒼い炎の鳳が、雨を蒸気へ変えながら野武士へ向かって飛翔する。
 炎に包まれもがく野武士を、大地が蹴飛ばし柵から離した。
 闇の中から現れたのは、斥候に出ていたアルテミアだ。彼女に遅れて5名の村人たちも姿を顕す。
「随分と弱っているようね。それなら、一気に殲滅してしまいましょう」
 と、そう呟いて。
 大地の援護を受けながら、アルテミアは駆け出した。
 炎を纏った剣戟が、野武士たちを斬りつける。まるで舞い踊るかのように。
 雨に濡れ、泥に塗れて舞うその姿は、ある種の神話の一幕のようでさえあった。
 
 土砂と泥とを撒き散らし、イグナートが加速する。
 握った拳に纏うは雷。
 紫電の軌跡を描きながら、彼は野武士の眼前へ。振り抜いた拳が、その頭部を打ち砕く。
「ここからサキへは行かせナイヨ!」
 地面を震わせるほどの衝撃。まるで、彼自身がひとつの稲妻となったかのようだった。
 その身に電気を纏ったイグナートの身体には、幾筋もの裂傷が刻まれている。
 村の中央にほど近い通り。野武士たちを、たった1人で喰い止め続けていたのだ。
 野武士の中には、頭目らしき巨漢も見える。
「チッ……」
 頭目の放った散弾銃が、イグナートへと降り注ぐ。後退することでそれを回避したが、その間に野武士は前進。
 そんなイグナートの窮地を救ったのは、重たい足音と共に現れたゴリョウであった。
「おぉ、イグナートの言う通り、こっから先は通行止めだぜ!」
 右の手にはガントンファー。左の手には大盾を。
 その巨躯を活かし、野武士の進路を封鎖しながらそのオークは豪快に笑う。
 そんな彼の背には、1本の旗が背負われていた。村人たちの血判が押された白旗だ。
「すまねぇな、出遅れた。村の奴によ、一緒に戦わせてくれって頼まれちまった」
 と、そう言ってゴリョウは自身の背負った旗を指す。
「怪我すると危ねぇからな。代わりにこいつを……村人たちの想いを背負うことにした」
「なるほど、ソレは……負ける気がシナイね」
 男が2人、笑みを交わして。
 ゴリョウは頭目のもとへ、イグナートは残る野武士を殲滅すべく一気呵成に躍り出る。

●8人の守護者
 トンファーによる一撃と、頭目の刀が激突し、激しい衝撃を撒き散らす。
 怒り狂う頭目の攻撃を、ゴリョウは真正面から受けた。
 雄叫びと共にトンファーを振るい、頭目の手から散弾銃を叩き落す。
 一進一退の攻防戦。
 その様を横目に一瞥し、イグナートは両の拳に力を込めた。
「ハデに暴れてやろうか!」
 腰を落とし、ギリと奥歯を噛みしめて。
 放たれた無数の拳が、野武士の身体を滅多やたらに打ち据えた。
 それはまさに、暴力の権化と言ったところか。迂闊に近づいては、一瞬のうちに全身の骨を砕かれる。
 警戒し、足を止めた野武士たちだが……。
「敵が2人とは限らぬでござるよ」
「ここから先は単純明快――すなわち、前に出て敵を斬り伏せる事です!」
 泥水が跳ね、黒い影が疾駆する。
 舞い踊るように、近衛は戦場を駆け抜けた。鋭い斬撃は、的確に野武士の急所を抉っていく。姿勢を崩した野武士の胸を、蒼炎を纏ったリディアの剣が貫いた。
 
「ったク、どいつもこいつも汗と泥まみれじゃねぇカ……俺もまあ、同じ状態だけど」
 雨に濡れた長い髪がたなびいた。
 民家の屋根上に陣取った大地は、空中にペンを走らせる。
 大地の足元から、じわりと闇が湧き上がる。それは死者の怨念が、大地のスキルにより可視化したものだ。
 耳を澄ませば、怨嗟の呻きが聞こえてくる。大地はその怨念を、1つの魔弾に集約させる。
 大地の存在に気付いた野武士が、民家へと迫るが、その進路はアルテミアによって阻まれていた。
「ここが踏ん張りどころかしら……ならば私は、この村を守る為に、剣を振るいましょう」
 幸いなことに、ここには他にも仲間がいる。
 アルテミアの真横を、黒い魔弾が通り過ぎ野武士の1体を撃ち抜いた。
 それを合図にアルテミアは地面を蹴って、加速する。出し惜しみはなしだ。全力を出し尽くしても問題はないだろう。
 蒼い刀身の細剣が、軌跡を描き舞い踊る。
 視認できぬほどの斬撃の嵐。野武士の腕を、腰を、足を、胸を斬りつける。錆びた刀など、半ばほどでへし折れた。武器を失った野武士はなすすべもなくその首を斬り落とされる。

 野武士の胴に拳を打ち込み、イグナートは笑みを浮かべた。
「ヒツヨウに応じて跳び回るつもりだったケド、これならボウエイに専念デキソウだ」
 仲間たちがこの場に集っているということは、残る敵が残り僅かということだろう。
 麦蔵へ至る通りの真ん中で、拳を構え彼はその場の守護へと当たる。

 額から血を流し、アリーシャは馬から落下した。
 民家の影から飛び出して来た野武士の刀が、その額を斬りつけたのだ。暴れる軍馬に撤退を命じ、アリーシャは剣を構え立ち上がった。
「他にも何体かいるっスよ!」
 スキルにより周囲の敵を察知した鹿ノ子は、剣を振り上げ家屋の影へと駆けこんでいく。
 頭目たちとは別のルートで村へと侵入した野武士たちなのだろう。
「えぇ、片付けてから先へすすみましょう」
 野武士の数は全部で4体。
 意志の疎通は最低限に、アリーシャと鹿ノ子はそれぞれの戦闘へと身を投じる。
 剣が閃く。刀が付き出される。
 雨の音。土砂の飛び散る音。剣の刀とがぶつかる音。
 1体、2体と、野武士たちが地面に倒れ灰と化して消えていく。

 大上段から叩きつけられた一撃が、ゴリョウの身体を地面に倒す。
「ぐ……ぅ」
 追撃を盾で弾きながら、ゴリョウは牽制のためにトンファーを振るった。頭目との一騎打ちを繰り広げていたゴリョウの身体には無数の切り傷。
 ゆっくりと立ち上がったゴリョウは、傷よりも先に背負った旗へと視線を向ける。血判の押された旗は未だ健在。
「おう……こんなもんじゃねぇよな!」
 盾を投げ捨て、ゴリョウはトンファーを頭上へ構える。
「まだまだ行くぜ!」
 ズン、と1歩足を踏み出す。
 地面にゴリョウの足が沈んだ。
 対する頭目もまた1歩。
 互いの射程の、僅かに外で戦意を高め対峙する。その時間は僅か数舜。
 同時に2人は、さらに1歩踏み出して……。
 互いの武器を、ただがむしゃらに敵へと向けて叩き込む。

 ゴリョウと頭目の打ち合いは、十数秒ほども続いただろうか。互いの全力を振り絞り、命さえも投げ出すような戦いだった。
 ごしゃり、と。最後の1撃を叩き込んだのは、ゴリョウが先だ。頭目の刀は、そのトドメの一撃を目前に、半ばほどでへし折れている。
 勝負を分けたのは武器の強度と、そして意志の強さだろうか。
 灰と化す頭目を見下ろし、ゴリョウは荒い呼吸を数秒繰り返す。
 そして、背負った旗を頭上へと掲げ、彼は叫んだ。
「俺たちの勝利だ!」
 村中に響き渡る大音声。
 一瞬の静寂の後、村人たちの喝采がイレギュラーズへと降り注ぐ。

 雨が止んだ。
 村の中央では、大きな鍋で麦飯が炊かれている。
 どんぶりに注がれた麦飯をほおばりながら、ゴリョウは村人たちへと告げる。
「俺も農業やっててな! 豊穣の穀物にゃ興味あるんだわ。よけりゃ、麦の育て方とか教わりてぇもんだな!」
 空になったどんぶりを、村人の1人が受け取った。
 それから、彼はその顔に満面の笑みを浮かべる。
「えぇ、そんなことで良いのなら、よろこんでお教えしますとも」

成否

成功

MVP

ゴリョウ・クートン(p3p002081)
黒豚系オーク

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様です。
皆さまの奮闘のおかげで、野武士たちは全滅。村の麦は守られました。
依頼は成功です。

雨の中の防衛線、いかがでしたでしょうか?
お楽しみいただけたなら幸いです。
またの機会があれば、別の依頼でお会いしましょう。
この度のご参加、ありがとうございました。
この度は、ご参加ありがとうございました。

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