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シナリオ詳細

<魔女集会・前夜祭>星導を辿る

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 闇よりも濃い黒がそこには満ちていた。
 光が照らすこともなく、目が慣れることもなく。行くべき道もわからぬほどの暗がりがそこにはある。
 けれど──ぽつり、ぽつりと。降ってくる『何か』は唯一その闇を退けるようだ。
 空から降り、導を残す星屑。それを拾って照らしながら歩むのは──。

「……イレギュラーズ」

 呟いた女性の息子もまた、その1人。【衆星の魔女】たるジェンナ・シャルラハは筆を取った。
 まだ便りは来ないけれど、遠くないうちに来ることを彼女は知っている。だって『星が告げたから』。
 星を読み、空を読む彼女はそれらが示すままにイレギュラーズの名を書き連ねた。なぜ名を知っているのか? それは勿論星のお告げである。
(あの子も入れましょう)
 最後に書くのは息子の名前。星より早く動くあの子のことはまるで読めないので、これはほんの少しの私情だ。
 ジェンナは1人の占星術師であり、魔女であり、そして1人の母だった。いつだって遠くにいる息子のことを想って、心配している。母が息子に会いたいと思うことは道理なのだ。
 そうしてローレット宛の手紙を書き上げる頃、窓をコンコンと叩かれる音がしてジェンナは顔を上げる。そしてその窓を開けると、ひらりと何かが入ってきて1枚の紙に変化した。
 星が告げていた便りが来たのである。ジェンナはポップな招待状を手にとって開いた。

『今回の集会の会場は幻想よ』
『魔女集会で会いましょう、私の可愛い夜の子供達』

 夜(ナハト)という魔女集団の長、ワルプルギスからだ。様々な場所が集会会場となるが、此度は国を跨ぐことになるらしい。
(国境を越えることは問題ないけれど)
 イレギュラーズの力を必要とするのはもっと会場に近づいてから。会場の目の前といっても過言ではないだろう。
 彼らが忙しいことは十二分に分かっている。息子は見えなくとも、星を読むことで彼らが関わるいくつもの脅威は見えるのだから。
 それでも、ジェンナにとって頼りになる存在といえば──やはりイレギュラーズが真っ先に上がってくるのだった。



「というわけで、集められた皆さんはジェンナさんからのご指名なんです」
 ブラウ(p3n000090)がカウンターの上に立ち、集まった面々の顔を見ながら告げる。それぞれがある程度の面識を持っているのだろうが、なぜこの人選なのだろうと思う者、あるいは納得する者もいるだろう。
「ナハトの皆さんが集まる場所……会場の周りには、人除けダンジョンが作られています。ジェンナさんと皆さんが通るダンジョンは『宵闇の社』と呼ばれているんですよ」
 宵闇とは日が落ちた頃の、月が出てこない夜。より闇が濃くなる夜のことだ。その名を冠するのであれば恐らくは灯りが必要になるだろう。でなければ道も見つけられない。
 しかしブラウは『必要ない』と首を振る。その森の闇は特殊な闇だから、と。
 ジェンナの星見によると、空から降ってくる星屑が道導になるのだそうだ。それらは持ち主の心の煌めきを受けて光るのだという。
 ──けれど気をつけて。森には灯りを食らう魔物がいるわ。
 彼女からの手紙にはこのような記載がされている。戦闘も待ち受けているのだろう。
「ジェンナさんも癒し手として皆さんを援護してくれるそうです。待ち合わせは宵闇の社の前で、と伺っていますよ」
 こちらですと示された地図は幻想だ。
 イレギュラーズはその位置を確認し、ジェンナと落ち合うためにローレットを出発した。

GMコメント

●成功条件
 宵闇の社を突破する

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。魔物に気をつけて。

●フィールド『宵闇の森』
 通常の灯りでは照らせない闇を持つ森。
 このフィールドにおいて通常の照明具、及び暗視効果は意味を持ちません。
 唯一、空から降ってくる『星屑』なる小石が光源です。
 この光があれば、1本道があくまで続いていることがわかるでしょう。

●星屑
 持ち主の心の煌めきを受けて光る石。詳細は分からず、ダンジョンを突破すれば不思議と消えてしまいます。最初の1つは入り口に落ちていますが、あとは不定期に空から落ちてきます。
 ここで述べる心の煌めきとは、楽しいことや嬉しいこと、得意なこと、一芸など。そう、皆さんの心を高ぶらせ、踊らせれば良いのです。
 これはある程度までをぼんやりと照らしてくれますが、数が増えればより明るくなるでしょう。この明暗によって敵の早期発見や逆も然りとなります。

●エネミー『闇獣』
 宵闇の社に潜む魔物です。四つ足の獣のように見えますが、その姿は闇に覆われ定かではありません。
 獣らしい攻撃をしてくると予想されます。その他、精神を揺さぶるBSをかけてくることがジェンナの星見により予言されています。
 星屑を食べれば一時撤退します。

●NPC
 ジェンナ・シャルラハ
 魔女集団『夜(ナハト)』に所属する衆星の魔女。占星術師であり、周りからはお天気おねーさんに見られることも。
 此度の依頼では護衛対象であり、戦闘時には癒し手としてそこそこの支援ができます。

●ご挨拶
 ご発注ありがとうございます。大変お待たせ致しました。愁です。
 ジェンナさんを無事に送ってあげましょう。
 それでは、プレイングをお待ちしております。

  • <魔女集会・前夜祭>星導を辿る完了
  • GM名
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年07月22日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費---RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

カイト・シャルラハ(p3p000684)
風読禽
夜乃 幻(p3p000824)
『幻狼』夢幻の奇術師
イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
流星の少女
伏見 行人(p3p000858)
北辰の道標
ライトブリンガー(p3p001586)
馬車馬
錫蘭 ルフナ(p3p004350)
澱の森の仔
アクセル・オーストレーム(p3p004765)
闇医者
エメリー・アステリズム(p3p008391)
小さな煌めき

リプレイ


「カイト、それに皆さんも。魔女集会への護衛依頼を受けて下さってありがとう」
 母が出かけるなんて珍しい、と思っていた『鳥種勇者』カイト・シャルラハ(p3p000684)は「魔女集会な」と呟いて、
「…………へっ!?」
 目をかっと見開いた。動きに思わず美貌の仮面がカラン、と音を立てて落ちる。そんな息子の様子にジェンナ・シャルラハはころころと笑った。
「あら、言ってなかったかしら?」
「お袋……」
 言われていないという言葉に尚更楽しそうなジェンナ。これまで言うことがなかったということは、きっとそういった『星の導き』なのだ。今知ったのも、星より早く駆けてしまう彼へ星がいたずらしたのかもしれない。
 息子を微笑ましく見るジェンナへ初めましてと挨拶するのは『『幻狼』夢幻の奇術師』夜乃 幻(p3p000824)と『精霊の旅人』伏見 行人(p3p000858)だ。
「星に導かれるとは、奇運で御座いますね」
「ああ。普段享受している恩恵を返す機会があるなんてね」
 行人は空を見上げる。ダンジョン外であるここはまだ、煌めく星々がイレギュラーズたちとジェンナを見下ろしていた。
 旅人は必ず空を見上げ、星を見上げる。遠くで輝く彼らは旅人は寄り添い、導いてくれる存在だ。
(星の導きか……)
 同じように空を見上げていた『小さな煌めき』エメリー・アステリズム(p3p008391)は集まった仲間たちの顔を順繰り見渡す。よく知らない相手ばかり──いや、エメリー自身もこの世界へ召還されてまだ間もない。元の世界でも騎士見習いであれば、この世界でも差し詰めイレギュラーズ見習いといったところだろうか?
 その隣では『猫派』錫蘭 ルフナ(p3p004350)が「よくわからないや」と空を見上げることをやめる。普段から意味を求めて星を見なければ、その導きなるものも酷く曖昧だろう。
 けれどもこの先ではそれが実体化する。文字通り星が降り、導くのだ。
 ダンジョンに踏み込むと『馬車馬』ライトブリンガー(p3p001586)は「ぶるるっ」と小さくその身を震わせる。先を見通せないほどの、濃厚な闇。得体の知れぬその中には恐ろしいものが潜んでいそうで。けれど足元の光に気づいたライトブリンガーはひょいとそれを拾い上げた。周囲を仄かに照らす小さな石は、持っているとなんだか安心する。
「綺麗だなー」
 ライトブリンガーが咥えたその小石をカイトが眺める。輝くものに惹かれるのは鳥の習性か。ジェンナはそんな彼らにくすりと微笑み、「それが星屑よ」と告げる。ダンジョンを突破するにはこの石を降らせ導かれながら進まなくてはならない。
「さあ、行きましょう。神がそれを望まれる」
 『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)は明かりによってぼんやり照らされた正面へ視線を向ける。どうやら1本道があるようだ。

「さあ、誰から輝きを見せてくれるのかしら?」

 ジェンナの声はこの闇にあっても楽し気で。じゃあと真っ先に声を上げたのはエミリーだ。騎士たるもの先陣を切るのである。
 とはいえ、この世界に来てから間もないエミリーが話題を出すというのは存外難しい。何度も言うようだが、元の世界ではただの見習い騎士だ。
「言ってみりゃ、ただの若造だ。ここにいるみんなみたいに、誇れるような実績や経験なんて何もない」
 でも、だからこそ。そう告げるエミリーの、星屑を握った手にぎゅっと力が籠められる。その心の前向きさが、真っすぐさが星屑の光を強くする。
「これからなんだ。これから作るんだ。あたしの……いや、あたし『達』の、だな」
「達?」
 ジェンナがきょとんとした声を上げる中、エミリーという存在のもう1人格がひょっこり現れる。同じ顔、同じ声でありながらその雰囲気はだいぶ異なるようで。
「まずは迷惑かけないように力をつけないとね、ルビア?」
「……せっかくカッコつけてんのに水差すなよな、サフィア……」
 うなだれたエミリー──ルビアにジェンナはようやく思い至ったようで、ころころと笑い声をあげた。その様子は仲の良さを微笑ましく感じているそれであったが、それでもやはり恥ずかしいとルビアは「あーもう!」とひときわ大きく声を上げて星屑を差し出す。
「次だ! あたしのはもういいから、今度はみんなの話もいろいろ聞かせてくれよ!」
 ここにいるイレギュラーズは皆、エミリーより早く召喚された者たちである。エミリーが経験していないようなことも、思いもよらぬ実績も積んでいるかもしれない。
「なら次は俺が貰うぜ!」
 星屑はエミリーからカイトの手へ。きらきら輝く小石を眺め、カイトは何を話そうかと思案する。ふと見上げた空は真っ暗で何も見えないけれど──。
「そーだなァ。とてもきれいな青空の話をしようか」
 母が星空を見上げるのなら、カイトが見上げるのは昼間の空。それも1箇所だけではない、色々な場所の空だ。
「空中神殿の空はとても澄んでいてそよ風なんだ。ちょっと冷たかったかな? 幻想はちょっと埃っぽかったけど、賑やかな風だったぜ!」
「風ですか。カイト様らしい感性ですね」
 幻は常日頃見上げる空を思い返す。そこでまず思い浮かべるのは色や天候、雲の動き。風を感じるというのはスカイウェザーたるカイトらしい。
「もちろん一番好きなのは潮風のする海洋の空だけどな! もっと色々な場所の空を飛んでみたいな!」
 故郷の空を思い浮かべたのか、カイトの表情がほころぶ。テンションも上がったのかそのままふわりと飛ぼうとして──。
「ぴぃ!?」
 ガサガサッとカイトの頭上で音が鳴る。ふらりふらりと降りてきた彼は頭を押さえた。
「こんなところで飛ぼうとするからよ?」
「も、森は低くて苦手だァ……」
 全く、と呆れた様子のジェンナと小さく涙目のカイト。どれだけ大きくなったとしても母子の構図は変わらない。
 自らの引く馬車に星屑を入れてもらったライトブリンガーはぶるるっと鼻を鳴らした。彼の敏感な耳は遠くから聞こえる唸り声をしっかりキャッチしており、肉食らしき気配にさっさと馬車を引いていきたい気持ちでいっぱいである。けれども共にいるのは、そして自身も例にもれずイレギュラーズなのだ。急いで行かずとも頼りになる面々がいれば切り抜けられるはず。そう自らを鼓舞し、その為にも自身の思う楽しいことを伝えなければと考える。
 そんな馬──シャイアーホースらしき姿の彼であるが、崩れないバベルのおかげでその言葉も皆へ伝わるように翻訳される。彼が皆へと話すのは共に召喚されてきた主人との想い出。そしてその仲間たちとの想い出だ。召喚される前から今まで現在進行形で進んでいるそれらは、どれから話そうかと迷ってしまうほどに沢山ある。
「俺は、そうだな。楽しい事っていうのは些細な事が多くてね」
 その後を受け取った行人は光に目を細めながらこれまでの旅を、そしてこれからの旅を思う。彼の楽しいことと言えば明日見る景色を想像するとか、そんな程度なのだ。逆に言えば、日々を繰り返す者からしたらそんな小さなことだって楽しみになる。
「そうそう。モルトカムイって精霊と会った事があるんだ」
 聞き馴染みのない者が大半だろう。しっかりとは見えないが、周囲からの視線を集めたような気がした。
 モルトカムイとは酒をその内に蓄える稀有な精霊である。宴会──というよりは酒だろうか、それを楽しむ者に惹かれるのだ。そうして惹かれてきた精霊へ言葉を尽くすと、彼らは礼にと”歴史”をくれる。
「味はウィスキーに似た物でね。あれは楽しかったし、うまかったなあ」
 想像して笑みを浮かべた行人。ふわふわと星屑が明滅して、不意にカイトが「あ!」と上を指さす。つられて空を見上げた一同は、そこから一筋の光が落ちて来るのを見た。
「結構ゆっくりだね」
「ぶるるっ(ほっとする光だ)」
「少し先へ落ちるようですね。行ってみましょう」
 幻の言葉に頷き、歩を進める一同。間もなくして2個目の星屑を手に入れた。それと同時にライトブリンガーがぶるる、と怯えた声を上げ、行人とルフナは周囲にいた夜の精霊から獣が来ることを知らされる。
「敵襲か」
 その中央で冷静な『闇医者』アクセル・オーストレーム(p3p004765)はいつでも治療ができるよう、準備万端だ。例え闇が視界を閉ざそうとも彼の患者を見逃すことはない。
「ぶるるるるっ(複数いるみたい)」
 ライトブリンガーの耳が四つ足で駆けてくるには多い音に体を震わせる。こちらにある星屑は2つ。同数以上の獣がいるならば星屑をやってしまうわけにもいかない。
 ここまで導いてくれた星屑をぽとりと1つ。1体はすぐさまそれを咥え上げるとどこかへ──きっと住処だろう──引き返していく。けれども残りの闇獣は他も出せと言わんばかりに唸り声を上げた。
「こちらのお客様にもご退場願いましょうか」
 幻が奇術を魅せ、それが終わると同時にライトブリンガーが鈍重なる体当たりでぶつかる。怖くとも、恐ろしくとも、ここで立ち止まってなるものか!
「お袋には指1本触れさせねーぜ!」
「あら、頼もしいわね」
 その後ろで仮面を被りなおしたカイトの翼が開き、緋色の爆風が闇獣を包み込んだ。ジェンナが占星具を手にその後ろ姿を見やる。息子は随分と逞しくなったようだ。
 もう1体いた闇獣もまた星屑を見据えていたが、その射線にエメリーが立ちはだかって剣を向ける。
「あたし達の煌めき、そう簡単に食えると思うなよ、獣ども!」
 グゥルルと唸り声を上げて噛み付く闇獣。薄闇の中で乱戦が繰り広げられる中、その懐へ紅玉の軌跡が走った。
「また名前が増えちゃったけれど、招待されればそれに乗るのも流儀のひとつなの。
 退きなさい。『紫苑の魔女』が通るわよ」
 彼女もまた夜の長より招待された1人。イーリンの攻撃に闇獣の悲鳴が上がり、ぐるりと辺りを見回した闇獣は不思議な鳴き声をあげる。
「……っ!?」
 ぐにゃりと世界の歪むような感覚。ここには闇しかないと言うのに、平衡感覚でもやられたか。
「──皆、しっかりしてよね!」
 明瞭な声がそれを打ち破る。小さく吹いた風が運ぶのは和の香り。一時的に顕現したのは停滞を好み、変質を嫌う『澱の森』。その中心に立ったルフナの声が、魔力が皆を救う。
「微力だけれど、手伝うわ」
 そう告げたジェンナの占星具から優しい光が溢れる。星を思わせるそれは皆の傷を少しずつ癒していく。その中で傷つく前衛を行ったり来たりと走り回るのはアクセルだ。的確な治療で手当てを終え、すぐさま踵を返して次の患者へ。
「俺らも負けちゃいられねーな! 覚悟しろ、ビリっとするぜ!」
 カイトは母直伝の術を相手へ放つ。本来意味する強く輝くキラ星も、感覚で再現したカイトにとっては白き雷撃。ジェンナの視線が一瞬彼へ向けられるが──その話はまた追々。
 1体が倒され、もう1体の闇獣もまたじりじりと一定の距離を置きながらイレギュラーズたちを睨みつける。ぴんと糸を張ったような緊張が闇の中を満たし、しかして獣は踵を返した。
 闇が静けさを満たす。光源はイレギュラーズの手元にある1つの星数のみだ。また暫くしたら、或いは別の闇獣がこれを狙い現れる可能性もあるが──。
「進みましょうか」
 ジェンナの言葉に一同は頷いた。オーダーはあの闇獣を倒すことではない。彼女をダンジョンの向こう側まで送り届けることである。
 残った星屑を手にしたアクセルは、光を見下ろしながら小さく目を細めた。彼自身に取り立てて語れることはなく、語るとするならば親友や妻、娘といった周囲の人間についてとなる。
「親友は……ロシアのマフィアの跡取りだったんだ」
 本来ならば出会うはずもない相手。けれど相手が家出をして大学に通っていたおかげで出会い、アクセルはよく厄介ごとに巻き込まれていた。
「正義感の強い男なんだ」
 他人のことながら、どこかその声は嬉しそうで。その話題は親友の友たる女性、のちの妻へ移る。
 3人での付き合いから、いつのまにか2人での付き合いへ。それはハタから見ればデートなるものにも見えていたかもしれないが、彼女からの告白には純粋に驚いたものだ、と。アクセルの瞳には懐かしさが滲む。
「私が何かに悩んだ時は真剣に聞いて最後に背を押してくれた人だ。彼女との間にできた娘は天才でね、」
 この切り出しに何人かは、或いは全員思っただろう。『あ、親バカってやつだ』と。けれどもよくよく聞けば本当に天才だった。
 絵本の代わりに医学書を読み、7歳でメスを執れるようになった子ども。時の流れが同じであれば現在は16歳──アクセルが直接見ることは叶わないが、きっと腕前は自身を超えられてしまっているだろう。
「だから元の世界に帰った時に、その腕を見るのを楽しみにしているんだ」
 心身、そして技術ともに成長した娘。まだ見ぬ姿を想像してアクセルは微笑んだ。
 星屑はアクセルの手からイーリンへ。その光が指し示す道の先を見据えながら、イーリンは混沌に来て間もない頃のことを思い返す。
「私はダンジョンに飢えまくっていたの。だから、手がかりを見つけるたびにダンジョンそのものを探しにいったりして……」
 今でも鮮明に思い出す。悪友と何度も探索し、遺跡を見つけた時の興奮を。入口のパズルを解き、中に踏み入った時の喜びを。禁域へと踏み込み、そこから続く怒涛の展開と行き着いた真実。その愛おしさは同じ場にいた者しかわからないだろう。言葉にしてもし尽くせないほどの幸せな時間だ。
「これ以上話すと夜が明けるわよ? 次の人、どうぞ」
「それでは、次は僕がお話ししましょう」
 受け取った幻は、ぱっと奇術を皆へ魅せながら語り始める。話の中心にいるのは自身と、夫たるイレギュラーズのことだ。
「初めて会ったのは夢の中でした」
 夢から夢へ渡る胡蝶。幼い彼は覚えてもいないのだろうけれど、この混沌に召喚されて──物質界へ来て幻は成長した彼との再会を果たしたのだ。
「彼はその時、僕に惚れたのだそうです」
 頬を軽く染めながら告げる幻。そんな姿にイーリンの髪が一瞬ふわりと燐光を纏い、すぐさま闇に消えていく。
 幻想的な場所での逢瀬。それは紳士的なエスコートながらも時折強引な、それでいて愛情を感じさせる触れ合いがあった。それらを言葉にするのは恥ずかしいけれど、言わなければその場にいなかった者へは伝わらない。
 一度はあわや永遠の別れかと思うこともあったが、それをひっくり返すかのような素敵なプロポーズとともに2人は結ばれた。それからの日々といったら──時に泣いてしまうほど幸せで。いいや、今も幸せの只中にある。
 不安な時も、悲しい時も、もちろん嬉しい時だってこれからは彼とともに。
 幸せいっぱいな話──見方によれば惚気話だ──からバトンタッチされたのはルフナ。いや、こんな話の後に何を喋れっていうのさ?
(まあ、僕は僕だけど)
 自分の話したいことを話せば良いのだ。最も、楽しくお喋りなんてガラでもない気がして、話す前からなんとなしに面映ゆい。小さく咳払いをしたルフナは故郷の話をすることにした。
「僕の故郷は澱の森って言うんだけれど……」
 停滞と呪縛の魔力に溢れた特殊な地域。中でも幻想種以外には排他的な里がルフナの故郷だ。あそこを思い出し、語るのであれば兄の存在は外せない。
 最年長ゆえに集落のリーダーとして皆を導く兄、その存在を語るルフナには兄弟以上の敬愛が見えた。その瞳は──こう言ったら怒られるだろうが──子供のようにキラキラと輝いていて。
「本当にディン兄は凄いんだよ、なんでも知ってて、強くて……!」
 そんなルフナの目の前を、導がまた1つ転がった。


 歩いて、語って、星を集めて。闇より出でしモノを追い払いながら進んでいた一同は、唐突に光へ包み込まれた。
「!?」
 それはここまでにカイトが見せていた光にも、ジェンナが見せていた回復の光にも似ており。一瞬で収束した先にもはや闇はない。
「ぶるるるっ(ここが目的地かな。付いたね)」
 ライトブリンガーは恐ろしいモノの気配がないことに安堵し、それに合わせて一同も辺りを見回す。
「星屑もなくなったみたいだな」
 エメリーはライトブリンガーの引く馬車が空っぽになっていることに気づく。どうやらダンジョンを抜けた時に消えてしまったようだ。
「不思議なダンジョンでございましたね」
 星屑がなくなったと聞いて幻が背後を振り向く。侵入しようとする者に対して施されたダンジョンは、内まで入ってしまった今確認しようもない。
「ええ。彼女らしいわ」
 夜(ナハト)の長たる者を思い出してか、ジェンナはくすりと笑みを浮かべて。イレギュラーズを見渡すと恭しく礼をとった。
「ありがとう、イレギュラーズ。あなたたちに、これからも星の導きがあらんことを」

成否

成功

MVP

伏見 行人(p3p000858)
北辰の道標

状態異常

なし

あとがき

 お疲れ様でした、イレギュラーズ。
 星の導は無事に皆さんを連れて行ってくれたようです。

 それでは、またのご縁をお待ちしております。

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