PandoraPartyProject

シナリオ詳細

今は亡き過去の戦創

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 山がある。
 緩やかな斜面が長く、起伏も多い、波がいくつも連なった形の山だ。
 高天京からおよそ、距離として徒歩数時間程であるその場所を、二人の若者が進んでいた。
「おい……おいどろすけ、待てって……」
 一人は、歩みが重い。木々に手を当てて体重を預けながらの進みだ。
 対して、どろすけ、と呼ばれた青年は歩みが荒い。静止を願った声に振り返る事も無く、前方を鋭くした視線で睨み付けている。
「もう……待ってって……言うとるやんけ……!」
 終には座り込んでしまった気配を感じて、大きな溜め息を吐き出したどろすけはようやく止まり、半目を背後に向けた。
「あのなぁ……やから家で大人しくしてろっつったろ?」
「だって、どろすけ一人やと無茶して死にそうやし、そんなん嫌やんけ!」
 膨れっ面の言葉が耳に痛い。頭を掻きながらどろすけは休む相棒の横へと道を戻る。
 それから、息が詰まる雰囲気を払う様に首を振って、口を開いた。
「覚えてるか、父ちゃんらの話。俺らのじいちゃん達が殺られた時の事」
「……忘れるわけ無いじゃん。耳タコだよ、ちっちゃい頃からのさ」
「だったら、こんなとこで止まってなんかいられない、だろ?」
 彼等には、山を行く理由がある。
 それはかつて、祖父達の代。数十年前に京を襲ってきた妖の話に起因する。
「激戦の末に退けたまでは、良かったんだけどな」
 祖父達は、悪さをする悪霊や妖を退治する義勇軍に所属していたらしいと、どろすけは聞いている。
 七扇である兵部省直属ではなく、民間の組織として、だ。
 そんな祖父達は徒党を組み、妖と戦って、その結果に命を失った。
 きっとそこに、後悔は無かった筈だ。黄泉津を愛して戦った事を誇りに思っているに違いない。
 しかし、想いの強さが災いした。
「死ぬまで戦い、死んでも守る……そんな強い念が、悪霊になるやなんてな」
 彼等は未だに滅びてはいない。
 決して広大ではない神威神楽の土地をさ迷い歩き、出くわした存在を誰彼構わず襲っているのだ。
 そんな亡霊を、子孫として放っては置けない。
 だからどろすけは、目撃情報を頼りにここへ来ていて、そして今回も空振りだった。
「……ま、もう日が暮れるし、仕方ない……今日は帰るか」
「お、物分かりええやんけ。ほんじゃ帰ろか、今日のご飯はなにか」
 だから帰路に着こうと、どろすけは晩御飯の話をしながら立ち上がる相棒の姿を見て、
「え」
 その胸から生えた突起物に目を奪われた。
 赤い、鈍い、鉄の匂い。
 これは何なのかと、手を伸ばすより速くそれは引っ込んで行き、力を失ったように倒れた身体を彼は抱き留める。
「な、え、はぁ……?」
 生暖かい流動の感触が腕の中にある。
 血だ。怪我をした。傷つけられたんだ。目の前にある刀に。後ろから突き刺された。
 状況を把握したと同時に、目の前の存在がカタカタと身体を震わせる。
「誰 誰 何、護、倒す倒す殺す守る通さない通さない通さない」
 それは、探し求めた亡霊の姿だ。
 何を守る為なのか、何を倒すべきなのか、自分が何なのかすら忘却してしまった存在だ。
「てめっ」
 それを理解するより速く、どろすけの思考は怒りに埋め尽くされ、腰に下げた刀に手を掛け、
「お絹になにしてんだテメェ!」
 振り抜いた一閃が、亡霊の刃と激突した。


 ローレットの中に、【情報屋見習い】シズク(p3n000101)は居る。
 そして彼女の前には、集まった八人のイレギュラーズが座っていて、静かに言葉を待っていた。
「仕事の話をするね」
 始まりの言葉に頷いた。
 続けられるのは、新天地での話だ。
「えーっと、カムイグラ、だっけ。そこからの依頼が届いてる。内容としては、複数の亡霊を討伐することね」
 聞いた話、その亡霊達は元々、カムイグラに住む腕利きの鬼人種達だったらしい。
 ある時に妖と戦闘をし、撃退には成功したものの全滅。熾烈な戦いだった為、自分達が死んでいる事に気付かないまま、継戦状態だと思ってあちらこちらを彷徨いているという話だ。
「最初の内は、一般人と敵の区別が付いてて危害は無かったらしい。けど、長い彷徨の末、境界線の曖昧な意識が生きる全てを敵だと見るようになったらしい。既に被害も出てる」
 血縁者である孫に凶刃を振るったことから、自意識が回復する見込みは全く無いだろう。
 いや、例え回復したとしても、死人である以上、眠らせるしかない。
「長い間、戦い続けた人達だ。本位じゃない暴力を更に使わせる前に、静かにさせた方がいいだろうさ」
 だから。
「だから、まあ……貴方達なら問題なくこなせるだろうと、私はそう思うよ。頑張りすぎた人達に、おやすみをあげてきてね」

GMコメント

 リクエストありがとうございます。
 カムイグラのシナリオ出そうと思ってたので有りがたいです。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。

●依頼達成条件
 亡霊戦士達の討伐。

●現場
 緩い斜面の山地。
 足場はでこぼこで少し歩きにくい程度で、木々は間隔の広めで視界は悪くないです。

●出現敵

【亡霊戦士A】
 主に刀を用いて戦う戦士達。
 総数は4人。
 死んでいる為、精神的な異常には掛からず、死んでいる為、怯むことが無いです。

・攻撃の種類
 至~近のレンジ。
 対象は単体のみ。
 攻撃には全て【失血】【体勢不利】の付与されている。

【亡霊戦士B】
 主に弓を用いて戦う戦士達。
 総数4人。
  死んでいる為、精神的な異常には掛からず、死んでいる為、怯むことが無いです。

・攻撃の種類
 遠~超のレンジ。
 対象は単体のみ。
 攻撃には全て【猛毒】【致命】が付与されている。
 
 以上、簡単にはなりますが補足として。
 
 よろしくお願いいたします。

  • 今は亡き過去の戦創完了
  • GM名ユズキ
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年07月16日 22時01分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費---RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧 (8人)

ポテト=アークライト(p3p000294)
優心の恩寵
ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)
静謐の勇医
リゲル=アークライト(p3p000442)
白獅子剛剣
ジェック・アーロン(p3p004755)
お姉チャン
彼岸会 無量(p3p007169)
帰心人心
エリス(p3p007830)
呪い師
アカツキ・アマギ(p3p008034)
焔雀護
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
ドゥネーヴ領主代行

リプレイ



 遺したモノは誤りとなって、残された者はそれを正そうとする。

 カムイグラの地にて、目指したそこは、涼しい風の通る山だった。
 斜面は緩く、木漏れ日が射していて、足場の凹凸が酷くなければ言うことの無い散策コースとなっていただろう。
「……酷い、ですね」
 屈んで地形を見た『呪い師』エリス(p3p007830)は、そう言葉を漏らした。
 地形の事、ではもちろん無い。そっと触れた地面、そこにこびりついて乾いた、黒い染みを見ての感想だ。
 情報として得た、被害にあった人のものだろうと、そう確信する。
「亡霊となって、守る筈の子孫へと凶刃を振るうことになるとは……いたたまれない、ですね」
「不本意。で、あるじゃろうなぁ」
 苦い顔をするエリスの隣を、『放火犯』アカツキ・アマギが黒の羽織を翻し過ぎて行く。
 視線は下へ、転々とした染みの跡を辿りながら、くっきりと残された足跡を見ている。
「うむ、妾達が来たからには、次の被害者など出させはせぬとも」
 この先に、それらは居るのだろうと思う。守るために戦って、理性と自我を失くしても尚、そう在ろうとし続けた亡霊が。
「戦って、戦って、戦い続け、守るべきを守り、その果てがここ、か」
 漏らさない溜め息を飲み込んで、『ドゥネーヴ領主代行』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)は呟く。
 仮に、生前の彼等が今の出来事を見たら、どう思うだろうか。
 いや、それは考えるまでもない。
「無念だろうな」
 願った事と逆になってしまった現在を、彼等は受け入れられないだろう。
 止めてやらなければいけない。
 痕跡を辿り、山の起伏を一つ越える。
 距離としては遠くない。事件から時間は経っていても、亡霊の移動速度は速くないのだろう。
「……っ」
 木々の疎らな平地の先、イレギュラーズ達はそれを見つけた。

 それは、人の形を保っている。
 思った以上に土気色で、思った以上に肉の付きが多く、そして、なにより佇まいに隙が無い。
「あれが……鬼人種……?」
 気付かれてはいない。とはいえこの先、これ以上踏み込めば気取られる。
 そういうギリギリの外側に立って、『医術師』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)は首を傾げた。
 見た感じ、生前と劇的に変わっている、という訳ではないだろう。ならばそれが鬼人種なのかと言われると、断定も難しい。
「亡霊。ボウレイ……デすね」
「亡霊……に、なった……」
「ハい」
 不思議な存在だと思う。もう死んでいて、何故だか動き続けているモノ。
 装着したガスマスクの留め具を調整しながら、『お姉チャン』ジェック・アーロン(p3p004755)はその姿を見る。
 たどたどしい動きをしながら、探るように歩を進めていく姿だ。
 何かしらの目的を持った動きにも、ただ当てもなくさ迷う様にも見える。
「どうして動くのカシラ」
 そういう悪趣味な魔種が裏で糸を引いている。そう言われた方がストンと納得出来る気がするが、実際の所は違うらしい。
 不思議だ。
「……フシギ」
「それ程に、強かったんだろうな」
 とは、『白獅子剛剣』リゲル=アークライト(p3p000442)の言。
 もしかしたら、この土地が、そういった性質を増強させているのかもしれない。
 なんらかの原因はある可能性は否定できなくて、しかし推察に耽る程の暇も無い。
 リゲルは、自身の傍らに寄っている『ハニーゴールドの温もり』ポテト=アークライト(p3p000294)を見詰める。
「平気かい?」
 何が、とは付けない。大体理解されるだろうし、何なら返る答えも大体理解る。
「好きではない、か?」
「まあ、ゾンビに比べれば平気、だな」
 ふわりと浮かんだ笑顔は、直ぐに引き締められる。
「でも、これ以上、放っては置けないから」
「ああ、行こう」
 そうして、息を整えて互いに顔を見合わせたイレギュラーズ達は、一拍を開け。
「──行きます」


 大地を掴む感触が、足に強くある。
 眼前、自身の進みに気付いた亡霊達の動きがハッキリと見えていて、その挙動に先程までの淀みはない。
 染み付いた習性の様なものか。
「姿見の様、ですね」
 彼らの姿に、自分を見ている様だと、彼岸会 無量(p3p007169)は思う。
「何処へいきますか」
 想いで突き動き、想いに囚われ、宿るただ一つの魂すら変質させた。
 彼等は、かつての自分と、よく似ている。
「何処へもいけますまい。在り様を見失ったまま、此岸に残り続ける限り。苦痛でありましょう」
 前へ行く。
 仲間の気配は後ろにあって、それらはきっと果たすべき役割を果たすだろう。
「──!」
 強く、前へ。
 刀を正眼に構えた4体の亡霊、その中へと進む。
 遠く、弓に矢を番える4体はあえて見ない。
 取り囲まれる位置に滑る動きで入り、急制止でピタリと止まる。四方に刃があって、その一つがまず背後から来ると感じた。
「ふ」
 と、呼気をして右側へと身体を崩す。
 縦割りの一閃を回避して、そのまま右の刃を誘って振るわせ、それを鞘に納めたままの刀で上へ弾き飛ばした。
「ん」
 今度は空気を吸い、正面と左から真っ直ぐ落ちる刃先へと、肩当てから当たりに行く。接触の瞬間に、沿わせる様身体を傾けながら腰を落として斬撃を流した無量は、変わらない立ち位置にて柄に手を掛けた。
「憐れな。守るべきを守り、役目を果たして散ったと言うに、その満足すら得られず彷徨を続けるか」
 引き抜き、刃を晒して一息。
「憐れ」
 一閃にて、反撃を開始した。

 剣戟の音が背後にある。
 一人、亡霊4体を相手にする無量の音だ。
「この位置、出来るだけキープする……!」
 ちらりと振り返る先を見て、それから前、弓兵を見ながらポテトは長く息を吐き出した。
 先へと進む背中と、後ろを支える背中がある。
 どちらも決して、折れさせてはいけない仲間のものだ。
「任されているからな……!」
 守りを頼むと言われ、それをこなすと約束した。
 だから、
「みなの力を充足させる!」
 引き抜かれるような意識の遠退きを感じながら、目に見える仲間へとパスを通す。
 術者の支払う代償の変わりに、範囲内の仲間を強化する技だ。
「死して尚、戦い続けるか」
 放たれる一矢を、鮮明になった視界で捉え、槍のしなりで弾いたベネディクトは、その精確な狙いに目を細めた。
 急所狙い、ではない。それは、一撃で決めにかかるものではなく、少しずつ確実に削ろうとするもの。
 格上との相対で用いる、堅実な立ち回りの動きだ。
 ともすれば、倒せなくとも撤退に追い込める。
 そういう、護りに重きを置いた戦いは、生前からであろう。
「その志、今は子孫へと受け継がれている。死してなお、自分を歪めてまで戦いを続けなくとも、もういいのに」
 ……なんて、過去の戦いに縛られている俺が言えたことではないかもしれないが。
 思考は苦笑いを引き起こし、しかし集中が途切れることはない。
「さぁ、お前達の敵が此処に居る。お前達が守りたい者全て、俺が奪ってやろう……!」
 叫ぶ声は、注意を引くためだ。
 守る為にさまよい歩く亡霊ならば、このワードに反応するかもしれない。
 そう考えた結果の行動、その声に弓兵達はベネディクトを一瞥した。
 だが、それだけだ。
 カタカタと身体を震わせて、それぞれが最適となる動きを取るべく立ち位置を変えていく。
「過去の習性ですか……!」
 絶妙な配置だと、エリスは息を飲む。
 4体の弓兵は、距離を離した位置取りをしている。フォローが出来る範囲で、しかし巻き込まれても全滅しない様な間隔が開いていた。
 そういう配置も、生前からの癖なのだろう。
「それなら、やることはシンプルですが」
 全体を見回し、エリスは一息を吐く。刀の亡霊は、意識はしつつも放置で大丈夫だろう。
 それから、4体の遠距離敵は。
「痛ぅっ」
 矢が、腕を貫いた痛みが起きる。
 狙われたという事実に、しかし慌てる事無く対処していく。
 続け様に放たれる攻撃を回避し、不自然な脈動を与えてくる矢を自ら引き抜いておく。
「毒……」
 傷口が、紫に変色していた。
 吐き気を催す気だるさが身体に駆け巡る。
「大丈夫よ、直ぐに良くなる」
 と、間髪入れずにココロの魔法式が飛んできた。
 頭上から足先までを通過する光の抱擁は、鐘の音をエリスの耳朶に優しく響かせる。
「うん、大丈夫」
 問題無い。手のひらを一度握り、開いて、それから弓を握って構える。
 流れた血の滴りに意識を通して、鈍い赤の矢へと精製。弦に番えて、引き絞って狙いを定める。
「──中り」
 空間を裂いて線が通る。それは射撃の体勢を終えていた、エリス自身を狙った亡霊の肩に食らいつく。
「ここ……!」
 引分ける為の部位を損傷する。それは、弓を扱う者にとって看過できない痛手だ。
 故に、そこには大きな隙が生まれる。
 リゲルは、起こるであろう亡霊の隙を突く為に前進した。
 迷わず、一直線に、最速で行く。飛行石の力で山道の不具合など感じない。露にした銀の剣を振り上げ、上段から一撃、問題なく落とす。
 筈だった。
「ッ!?」
 振り上げ切るより速く、矢を掴んだ亡霊の一撃が彼の喉元へ突き出されていた。
 迎える様な一撃だ。
 前へ行く相手の動きに合わせた、捨て身の迎撃。
 毒に塗れた先端が、間もなく、無防備な喉を突き破る。
「ぉ?」
 その筈だ。
 亡霊は、力無く、重力に従って落下した矢を──いや肩口から斬り落とされた腕を目で追った。
 それから、ハッ、としてリゲルへと視線を戻せば、そこには剣を水平に構えた姿だ。
 何時武器を戻したのか。
 何故相手の方が速いのか。
 その答えを知る事もなく、亡霊の胸へと刃は沈んだ。
「貴方達は、とうに命を落とされている。もう、悪戯に傷付け、傷つけられる戦いをする必要は」
 呼び掛けは、抱く想いからのものだった。
 解放してあげたいと、そう感じての言葉。それは、言い終わる前に遮られる。
「ぐ……ぅ!」
 矢だ。
 リゲルの腹部に、真っ直ぐ突き刺さる矢がある。
 それは眼前、貫いた亡霊の身体から伸びる物で、瞬間の思考はその意味を捉えた。
「仲間を目眩ましにしたか!」
 剣を引き抜きながら後ろへと身体を倒す。すると、肉を引きながら剥がれた矢の跡から、血が溢れ落ちる。
「倒れた仲間を利用してでも一撃を喰らわせる、か」
 死体は、崩れ落ちる様にしてその形を失った。だがその向こう側には、追撃の構えを取る亡霊がいる。
 ……避けられない。
 確信に、リゲルは歯を食い縛る。スローモーションに感じる、放たれた矢の軌道が見えて、
「覚悟には速すぎじゃろ汝」
 灼光が、それを喰らった。
 斜めに走る紅は、下から上への流れを見せ、楕円の弧を描いてから亡霊に着撃する。
 アカツキの放つ炎の一撃だ。
「ほぅれもういっちょ!」
 鏡写しの軌道で、二発目が飛ぶ。食らい付く獣の様に来るそれを嫌ったのか、半身を爛れさせた亡霊は逃れる為に走った。
「む、送り火には荒すぎたか? まあ、じゃがのぅ」
 アカツキは息を吐き、空気の焦げ付いた臭いを吸い込んで、笑う。
「そっちはもちっと荒いと思うぞ」
 刹那、空間ごと、亡霊は抉られる事になった。


「フー」
 反動に跳ねた身体を抑えてジェックは息を吐き出した。
 膝立ちの体勢だ。
 真っ直ぐ、向けたライフルの照準越しには、抜いた二体の亡霊がいる。
 ……上手くいった。
 一直線に撃った一撃は、元々は遠くの相手を狙っていたものだ。
 それが、戦いの流れで、上手い具合に別の個体を呼び込む事に成功出来ると思った。
 だから撃って、実際に風穴は二つ完成している。
「厄介ダカらネ、速メに始末はツケナイと」
 遠距離からちくちく刺してくる敵というのは、残しておいて得に成り得ない。やらしい。煩わしい。とても邪魔。
「なんて、アタシが言うト、説得力あるデショウ?」
 次弾を装填、狙いを付け直しつつ、崩れ去っていく二体目の弓兵を見送る。
 それから、ふ、と息を吸い、吐いて。
「遠距離は潰しタイ、デショウね」
 刀を振りかざした敵の気配が来た。
 狙撃手は優先して潰すのが定石、それは敵味方と共通で、まあそれは狙われるよね、位で驚きは無い。
 そして、不安も無い。
「失礼」
 ジェックに近寄る亡霊の首へ、後ろから割り込ませた刃が閃く。
「お邪魔をさせてしまいました」
「問題ナし」
 無量の一刀が首を飛ばした。
「全力で行くぞ」
「おう……!」
 ベネディクトの声に、アカツキの応えがある。
 前へ出た小躯は向けられる一矢を外套の払いで止め、連撃を許さない大躯は空いた距離を一瞬で零にした。
「お」
 オ──。
 咆哮する声に似た音によって、だ。互いの立ち位置はそのままに、上手投げにてぶっ放す槍の投擲が、構えた弓も破壊して亡霊を霧散させる。
「ベー君ったら加減知らず!」
「終わらせる為、だからな」
 行く動きは止まらない。
「ああ、終わらせよう」
 銀の軌跡で矢を弾き、リゲルは一歩の踏み込みをいれた。
 刃を引き、腰に添える様に両手で構え、呼吸を整える。
「もう、傷付けさせない為に。彼等の守ろうとしたものを守る為に」
 ポテトの声が、リゲルの耳に届く。
 同時に、身体に捩じ込まれた痛みと不快感も削ぎ落とされる感覚があった。
「眠らせてあげて」
 任された。
 横薙ぎへ撫でる様な一閃。それから、上段にして繰り返しの一閃を、宙に刻む。
「その無念も、妄執も、俺達が解放します」
 静かな断ち斬りの刃が、亡霊の意志を消し去った。

 知りたいと思った。
 戦う理由、守りたい理由、想い、信念。
 それは総じて、心に起因するものなのだと考えたから。
 今、死んでもなお動くのは、かつてあった心と関係あるのだろうから。
 だから、知りたい。
 知ろうと、ココロは思った。
「無量さん!」
 その前に、傷だらけの仲間を癒さなければならない。
 一人で4体を抑え切った無量だ。
 幾つも開かれた肌、流れていく血は尋常ではない。
 加えて、剣戟で圧される身体のふらつきも目立つ。
「下がってください、援護します!」
 弓兵を倒した今、無理に行く必要はない。
 エリスは身から溢れる魔力を集中させ、飛び退く姿を認めてから一拍。
「降り注いで!」
 空へ奔出した力が魔術を発動させ、無数の雹を戦場に落とした。
「これで幕引き、とはしてくれませんか……!」
 肉体を破壊されようと、亡霊達の進軍は止まらない。
 足は前へ進め、武器を握る腕もある。
 きっとそれらは、首だけになっても、動けるなら敵へ噛み付いて戦い続けるだろう。
「未だ、醒めませぬか」
 無量は、刀を握り直した。
「もう行くの?」
 治りきらない身体を擦って行く姿に、ココロは聞いた。
「悔いを払う為に」
「それを、あなたは望むの?」
「ええ」
 前へ行く。
 三体の亡霊は、それに応じるように散会し、無量を仕留める動きで取り囲みを狙って、
「──!」
 その内、右の一体が脚を折った。
 撃ち込まれた弾丸による物だ。
 ジェックの放ったそれは、着弾と同時に傷口を拡げる様に弾ける。瞬間素早くリロードを済ませて、ガスマスク越しに平淡な視線が亡霊を捉え。
「ウン、無茶はダメ、ネ」
 射撃した一発が、亡霊を弾いて吹き飛ばした。
 残りの二体は、それならと戦いを急ぐ動きに変わる。
 仕留めに行く動きだ。
 無量一人なら、相討ちに出来ると、そう考えたのかもしれない。
「参られよ」
 左右からの挟撃だ。
「我が名は、彼岸会 無量」
 下から、上から、斬撃の迎えを放っていく。
「貴方達の持つ業を、共に背負う者──!」
 鞘を叩き付けて右、下から来る動きを阻害。それから左、上からの一撃を身を回して交わし、その動きのまま一刀を振り下ろして首を落とす。
 そして、身体を戻す流れで刃を振り上げ、亡霊の身体を両断した。


 そこには、なにも残らなかった。
 あるのは、戦いがあったという証の痕だけだ。
「彼等からみたら、私達こそが妖に見えていたのだろうな」
 ポテトの言葉に、手を合わせていたリゲルは顔を上げる。守りたかったモノに害為す存在となってしまった彼らを想うといたたまれない。
「どうか安らかに」
「そして、戦った誇りを胸に」
 眠ってくれ、と。
 祈る言葉を二人は捧げた。
「しかし、立つ鳥跡を濁さず、というかのう」
 アカツキは溜め息と共に空を見上げる。
「遺品も何も遺さず逝くか……きちんと弔うくらい、させてくれても良かろうに」
 亡霊を想っていた子孫には、ありのままを伝えるしかないだろう。
「完全に、消えてしまったようですね」
 何も感知できません。と、辺りを調べていたエリスは呟いた。
 もう、ここにあの亡霊が現れることは、二度と無い。
「帰ろっか」
 イレギュラーズ達は、その場から背を向けた。
「ゆっくり眠ってね、で……合ってるかな」
「ああ。守られた命はこの土地に息づいている。あとはただ、見守っていてくれる事を願うだけだ」

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

参加ありがとうございました。
またご縁があれば、よろしくお願い致します。

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