シナリオ詳細
<月蝕アグノシア>風の記憶とわすれもの
オープニング
●ずっとずっと、そばにいてね
吹き抜ける風のにおいが、芥子の花びらをのせていく。
青い青い風が、深い深い眠りに誘う。
目をこすってみれば、どこかうっとりとしたような彼女の顔が見えるだろうか。
長く伸びた髪。齢不相応に成熟したまなざし。
彼女の名を呼ぼうとして、白く頭からかすんでいくのがわかった。
けれど。
「そんなのはもう、おわり」
とばりの森の奥深く。赤煉瓦でできた家の庭。
パステルカラーの花畑に腰を下ろした、白い白い美女がいた。
彼女をもし知っている人間がいたならば、ゼファー(p3p007625)にきわめてよく似た女性だと分かるだろう。
彼女にないのは、色と、そして■■だけ。
タータリスクの錬金術によって作り出された人工人間(ホムンクルス)の暫定完成形。アルベドとよばれる生命である。
白ゼファーともよぶべき彼女がいかにしてこのような姿形を得たかについては、察する所も多いだろう。
だがそれらをいまは、横に置いて。
「ねえ」
妖精達の訴えによって『妖精のお友達』を助けにきたあなたに対して、どこか悲しそうに、しかし満足そうに問いかけた。
「この景色を、どう思う?」
花畑に腰を下ろした彼女の膝には、ニグレドという黒い泥人形のようなホムンクルスが寝転び、むにゃむにゃと気持ちよさそうに目を閉じている。両脇には同じように二グレドたちが、鮮やかなドレスや花冠や、木イチゴのケーキや紅茶のセットで楽しげに彩っている。
まるでそこは、白ゼファーとニグレドの楽園にも見えた。
「この姿も、命も、場所も……みんな奪って手に入れたものだけど。それって本当にいけないことかしら?」
うっとりと笑う白ゼファーのむこう。赤煉瓦の家の中で、小さなベッドへ丁寧に寝かされた妖精たちの姿が見えた。
視線を遮るようにふらりと立ち上がる白ゼファー。
「みんなこうしてそばにいる。互いになにも壊すことなんてない。本当はこうしたかったんじゃない? ねえ、『あなた』だって」
白ゼファーは穏やかに話しながら、しかし。足下に置いてあった槍を手に取っていた。
話し合いなんて雰囲気じゃない。
それはお互い、よく分かっていることだ。
「ねえ、オリジナル?」
●妖精郷の危機
魔種なる錬金術師タータリスクの侵略によって妖精郷アルヴィオンは未曾有の危機に陥っていた。
女王は追い詰められ、妖精達は捉えられ、その多くは命を失うか命の材料にされていた。
主には人工生命体『アルベド』の核、通称『フェアリーシード』に閉じ込められ、今なおアルベドの生命核として機能しているという。
妖精郷へのルートを再構築したことで、ファルカウ側に取り残されていた妖精達は改めて『お友達』の救出をイレギュラーズへと依頼した。
かよわき妖精達を助けるため、そして魔種による滅びのアーク増幅をさけるため、ローレットの新たな戦いが幕をあけたのだった。
さて、今回ゼファーをはじめとするチームが任されたのは森の奥に残るという赤煉瓦の家。そこに囚われた妖精達を救出することである。
守りについていたのは家を占領した白ゼファーと二グレドたち。
彼女たちを倒し、妖精達を助け出さねばならない。
「――ッ!」
ギン、と矛先がぶつかり合い火花を散らした、
こすり合うように距離をつめ、互いの首へと手を伸ばす。
全く同じ動き。全く同じ力で、ゼファーと白ゼファーはお互いの首を掴んだ。
であるにも関わらず、白ゼファーはとろけるように笑う。
「あなたに壊せるかしら。私はきっと、あなたの理想になれるわ」
ゼファーの首に、指が食い込んだ。
「命を貰ったその時から、私には何もなかった。何もなかったのに、誰かの記憶が少しだけ流れ込んできたのよ。分かるでしょう? あなたが置き去りにしたあの子やあの子やあの子やあの子やあの子やあの子やあの子やあの子やあの子やあの子やあの子やあの子やあの子やあの子やあの子やあの子やあの子やあの子やあの子やあの子やあの子やあの子やあの子やあの子やあの子やあの子やあの子やあの子やあの子やあの子の記憶――」
強引に引き離し、喉を押さえながら距離を取るゼファー。
首に傷がはしり、紅く血が流れても、それをどこか楽しそうに白ゼファーはぬぐった。
「ねえわからない? 私なら、『あなたの代わりに』あの子たちに報いることができるんじゃないかしら」
- <月蝕アグノシア>風の記憶とわすれもの完了
- GM名黒筆墨汁
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2020年07月15日 22時10分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●「ねえ、オリジナル?」
白くかすむワンピースを着て、花冠をしたニグレドが、笑顔のまま振り返った。
映画のワンシーンを真似する子供のように不格好に振る舞ってから、片足と片腕を同時に地面に叩きつける。
その反動のまま豪速で回転し、自らを巨大な回転ノコギリに変形させて突撃してくるニグレド。
『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)は間一髪のところで横っ飛びに回避すると、花畑を転がった。
「綺麗な服と綺麗な景色。けど、それだけなのよねぇ、貴女たち」
そんなアーリアを狙って複数のニグレドが足をバネのようにはずませて跳躍。
振り上げた拳が鞭に変わりアーリアめがけて振り下ろされよう――とする寸前のこと。
レースの手袋ごしにフィンガースナップを鳴らしたアーリアは舞い上がる色香とくらむような光によってニグレドたちの動きを強制的にかき乱した。
訳も分からず墜落した彼女たちを置き去りにして走り出し、取り出した酒瓶に回転をつけて放り投げる。
割れた瓶から飛び散った香りと享楽のエナジーがニグレドたちの膝をつかせた。
「欲しい物は奪ってでも手に入れる気概は好きだけれど、執着しないのがイイ女。
やっぱり本物ちゃんのほうがイイ女よね?」
「その点に関しては、同感ですね」
強化装甲の腰部分から放たれた四つのアンカーが大地に打ち込まれ、背負っていたライフルグレネードが脇の下をくぐる形で突き出されるガキンと火花がちるほど勢いよく発射可能状態へと組み上がると、『Tender Hound』弓削 鶫(p3p002685)はグリーンシグナルの点灯したレバーを連続で握り込んだ。
「如何に美しく見えようとも、そんな虚像に意味などありません。
はなから、そうなるべくして造られた模造品が上等だとでも?」
ぽぽぽんと景気の良い音と共に放たれたカースドグレネードが連続で爆発。膝をついたニグレドたちを一体ずつ確実に吹き飛ばしていく。
「貴方たちは、『生きる』という事の意味がまるで分かっていない――!」
砲身側面のパネルを操作して発射する弾を変更。ライトニンググレネードを振り向きざまに発射すると、側面から迫るニグレドたちを迎撃した。
「『自分の代わりなど誰もいない』――だから、懸命に生きる。それが人というものです」
人工的に作り出された雷雲の中を突き抜けるように接近をかけるニグレド白ゼファー。
槍による突きがアンカーと腰部のパーツを破壊するが、鶫は即座にそれらを切り捨てて
『家』へ向けて走り出した。
「あなたはゼファーさんの代わりになれない。絶対に、永遠に」
「そんな筈ないわ。きっとできるはずよ、きっと」
逃がしはしないとばかりに身体と槍の回転を利用した直角カーブで追尾する白ゼファー。
それを阻むように深緑の魔力を帯びた矢が突き抜けた。
急ブレーキをかけてのけぞり、矢を回避する白ゼファー。振り向くと『風吹かす狩人』ジュルナット・ウィウスト(p3p007518)が弓に次なる矢をつがえ終えていた。
「アルベドチャンや、不相応な戯言は慎むべきさナ。
生まれてたかが幾時の『赤子』が、激動を体験し生きた『お嬢チャン』の代わりになぞ成れやせなんだヨ?」
「時間がなんだっていうの。戦闘経験ならインプットされてるわ」
ヒュウ、と鳥を呼ぶかのように小気味よい口笛をふくジュルナット。
すると飛ばしたはずの矢がエイトターンをかけて白ゼファーの背へと迫った。
彼女を庇うように割り込み、盾のように広げた腕で防御するゴスロリ衣装のニグレド。
が、その盾を貫通して白ゼファーの脇をかすっていった。
「知れぬと言うなら今から学ぶと良いさナ」
「かみ合ってねえな。初戦はパチモンか。本物はもうちょい可愛げがあるぜ……あるよな?」
な? と真横を走る『饗宴の悪魔』マルベート・トゥールーズ(p3p000736)に問いかける『人類最古の兵器』郷田 貴道(p3p000401)。
問いかけながらもノールックパンチで側面から掴みかかろうとしたニグレドの顔面を吹き飛ばした。
ニグレドは顔に穴があいたまま貴道に両腕を伸ばし、タコのような吸盤ではりついて拘束しにかかる。
「HAHA――器用なもんだ」
余裕たっぷりに笑い飛ばす貴道。それもそのはず、マルベートがニグレドの後頭部をがしりとつかみ、黒い炎で包み込んでしまったからである。
形容不能な言葉を叫んで暴れるニグレドが反射的に貴道を話したことで、貴道は身体をキュッと細く固く構え、地面がねじれてえぐれるほどの力強いフットワークでニグレドたちの間をジグザグに駆け抜けていく。
「ミーを捉えるには基礎練が三年分は足りないぜ」
「美しい景色、心地よい風、共に戦う仲間達、そして敵。
こういう瞬間は大好きだよ。これから何度だって体験したいものだね」
泥と花のような香りを深く吸い込んで笑うマルベート。
「魔女の雷は仲間を巻き込むようなヘマはしない、完璧な魔法なんだから!」
そんな中を、『夜天の光』ミラーカ・マギノ(p3p005124)は在らぬ翼を広げて目を紅月のごとく輝かせた。
「悪いけど、私が『覚えてる』のは貴女じゃなくこっちのゼファーでね。
ゼファーが今までどんな出逢いをしてきたかとか貴女がどれほど知ってるかなんて知らないけど、私にとってはこっちの唯一無二なのよ」
高ぶる血が頭をわぁっと沸かせるが、ミラーカは口の片端で小さく笑みをつくってかけだした。
腕を巨大な剣に変えて打ち込んでくるニグレドの脇下をスライディングですり抜けると、すぐさま起き上がって指を鳴らす。
赤い電撃が乱れ咲く花のごとく爆発し、周囲のニグレドたちを強制的にけいれんさせた。
更に、緑の雷が巻き起こりニグレドたちの意識をシャットダウンさせていく。
『緑雷の魔女』アルメリア・イーグルトン(p3p006810)はクイックドローで展開した使い捨てカード魔方陣をばらまくと、さらなる電撃をまき散らしながら走った。
「そうね。人様の過去をほじくりだすような奴はモテないのよ。ふふん」
「度々お持ち帰りされそうになるのは一人で十分だわ!」
「なんて?」
いい女っぽこと言ったな今、とちょっと自慢げだったアルメリアが二度見ぎみに振り返った。
胸をどんと叩いてみせるミラーカ。
「それに……本物なら無理矢理連れ去ったりしないわ!」
「なんて?」
振り返り、自信満々に頷いてみせるミラーカになんとなく頷き返す。
そしてあらぬ空を見上げた。
ぱちぱちと深い前髪の下でまばたきをしてから、今度は『never miss you』ゼファー(p3p007625)のほうを見た。
「このタイミングでこっちに振らないで」
目線の辺りに手をかざして苦笑するゼファー。
(私の代わりに、ね。人の気も知らないで言ってくれるじゃない)
槍を握り込み、四方から同時に打撃を打ち込んでくるニグレドたちを槍と身体の回転でまとめて打ち払う。
「どうして嫌がるの? とってもいい提案だと思うけど」
どこかうっとりとした笑顔で蹴りを繰り出す白ゼファー。
それを紙一重に回避すると、ゼファーは相手の足を掴んでぶん投げた。
「遊んでやるわよ。偽物。記憶を真似たって――」
地面に手をつき、投げのダメージを吸収、軽やかに姿勢を戻して髪をはらう白ゼファー。
「記憶以外の何が必要だっていうの。もう充分、私はあなただわ」
「その考え方が『及ばない』っていうのよ」
ゼファーはニグレドたちの援護射撃がゼファーの槍を跳ね飛ばすが、タッチダウンライズの動きで落ちた槍を拾いながら回転、後退。『家』の入り口を背にする形で槍を構え直した。
「教えてあげるわ。かかってきなさい」
片眉をあげ、槍を握りながら人差し指だけで手招きをした。
●「居場所が欲しかったの。そこにあるってわかったから」
白ゼファーは乱れた髪を手早くまとめ、口にくわえた紐をとってむすんだ。
「ねえ、あなたは、つらくなかった?」
地面に突き立てていた槍をとって、ぶんと音を立てて振る。
「誰の記憶にも残らない人生なんて、どんな意味があるのかしらね」
「本当に――」
ぴくりと眉を動かしたものの、ゼファーは深く息を整えて言い直した。
「本当に、何も残らないと思うの?」
「……どういうこと?」
「私に寄せた割に、成ってないのねえ?」
今まさに襲いかかろうとしていたゼファーがぴたりと止まり、代わりにニグレドたちが鞭のようにしならせた腕や剣に変えた腕で襲いかかっていく。
風なき風になびいていた髪がおり、ミラーカは喉に手を当てて呼吸と音程を整えた。
「魔女だったり吸血鬼だったり天使だったり……忙しいったらありゃしないわ!」
それまである意味温存していたエネルギーを解放する勢いで歌い始めるミラーカ。
彼女のハイソプラノが大気をゆらし、ゼファーたちの身体と魂に強い活力をもたらしていく。
対抗するように打ち込まれる大量の魔術弾を、玄関の壁に背をつける形でしのぐジュルナット。
「対多戦闘は苦手だけど――頑張るかナ!」
ゼファーやミラーカたちに守られつつも、サッと顔を出して矢を放つ。
放たれた矢は架空の矢に分裂し、腕を機関銃に変えてこちらを狙うニグレドたちへと突き刺さった。
のけぞる彼女たちめがけて飛びかかり、巨大なフォークとナイフで突き刺していくマルベート。
「もうしばらく相手をしてもらうよ。邪魔をしたくて仕方ないだろうけど、こっちにも仕事があるんでね」
一方。
「小回りが悪い。もっと踏み込め!」
貴道は家の廊下を乱数軌道で走ると伸びる腕による連続パンチのことごくを回避。
最後の一発を首のうごきだけでかわすと、前のめりになった相手の動きを利用して顎に拳をいれた。
常人ならばこれだけで昏倒しかねないが、ニグレドは首から上をぐるんと一回転させてからさらなる攻撃に移ろうとした。
「おっと」
貴道は常人ではありえないピストン運動でもう一発拳を入れると、ニグレドを部屋の奥へと殴り飛ばす。
「こういう場所じゃユーが頼りだ。任せるぜ」
「了解。それでは一気に」
鶫は腰にさげていたグレネードのピンを抜き、アーリアはコルクを抜いた酒瓶を逆さにし、アルメリアは空に描いた五芒星を巨大な魔方陣へ展開。
「「行きましょうか」」
それぞれ異なるイントネーションで述べると、一斉に魔術を展開。
妖精達を守るために配置されていたニグレドたちが構えるが、彼女たちがまともな攻撃を成立させるよりも早く部屋中を激しい電撃魔術と人工雷雲と月の呪いが吹き荒れた。
それぞれの魔術が混じり合い一匹の大蛇へと変わると、ニグレドたちだけを選んで食いちぎっていく。
一度静かになったものの、外では未だに戦闘の音が響いている。
「早く妖精達を確保して行かないと、よねぇ」
アーリアは妖精の一人を手に取ると、きょろきょろとしたあと自分の胸元にスッとさしこんだ。
『こう?』という顔で振り返るアーリア。アルメリアは手に取った妖精と自分の胸元を交互に見てから、ハッとして片腕で抱くようにした。
「全員助けてここから離脱! 手伝って!」
「オーケー、任せろ」
貴道はシャツを脱いで風呂敷のようにすると、妖精達をつつんで抱えた。
その直後、窓を破壊して何者かが突入してきた。
「その子達を返して!」
紛れもなく、血相を変えた白ゼファーであった。
●「私は誰でもなかったけれど、きっと誰かになれたのかしら」
驚いてのけぞるアルメリア。
怒りや焦りをあらわにした白ゼファーが彼女の抱えた妖精に手を伸ばしたその瞬間。
彼女たちの間へ挟まるように赤い蝙蝠のオーラが飛び込んだ。
カッと発光し、あたり一面に赤い雷をまき散らす。
「みんな無事!? 早く逃げなさい!」
窓から身を乗り出す形で叫ぶミラーカ。
「邪魔しないで、もう少しで私――!」
「話を聞いてあげるほどおひとよしじゃないのよ!」
再び吸血鬼モードになって雷の魔法を連射するミラーカ。
逆上した白ゼファーは彼女めがけて飛びかかり、首を掴んで野外へと押し倒した。
「あなただって思わない!? 私を独り占めに出来たらきっと――」
「冗談」
花畑に広がる金髪。
眉を上げて、ミラーカは失笑してみせた。
「過ぎた夜に留まるようなあたしだったら、『彼女』は見向きもしなかったわ」
途端。繰り出されるローキックが白ゼファーの側頭部に直撃。
転がされた白ゼファーはすぐさま立ち上がったが、その喉元にゼファーの槍がつきつけられた。
その腕を、ミラーカが掴む。
「ゼファー、撤退よ。自分の偽者やその核にされた妖精を残すのは心残りでしょうけど……」
「『赤子』ヤ、幾らか学んだかイ?」
早業で無数の矢を連射するジュルナット。
それぞれ軌道をかえて異なる角度から襲いかかる矢を、白ゼファーは槍と自らの回転でもって打ち落とした。
深追いはするまい。ジュルナットは穏やかに笑みを浮かべると、すぐさま回れ右して逃げ出した。
直後、窓から飛び出してきたアルメリアたちが合図を出しながら突入時とは別方向へと走り出した。
そんな彼女たちを足止めしようと展開するニグレドたち。
「とにかく生きて帰らなきゃ……ここが踏ん張りどころよ!」
そろそろ魔力がきれかけてきたアルメリアだが、エネルギーシールドを片腕で広げて擬似的なシールドバッシュで突破にかかる。
貴道はといえばあまりに安定したフットワークでふろしき包みを抱えたままニグレドたちの攻撃をかわしながら突破していく。
「あ、服は汗かいてたら悪いな、ソーリーな!
でもってマルベート、しんがりは任せた!」
「いいとも。カーテンコールはいつも私の役目だからね」
マルベートは目をギラリと光らせると、集まったニグレドたちの集中攻撃をさばきはじめた。
相当強力なタンクプレイヤーであるマルベートといえど、ここまでの猛攻をうけて無傷というわけにはいかないが……。
「死ななければ全てはかすり傷だ。骨のひとつやふたつ、折ろうじゃないか」
「頼もしいことですね」
鶫はせめてもの支援にとくるりと反転し、マルベートを狙うニグレドたちへと砲撃。追いかけてくる白ゼファーに狙いを移した。
「ああ、そうそう。貴方のような粘着質に相応しい傭兵スラングがあるんですよ。――『鉛のクソでも喰らって寝てろ』!」
温存していたカースドグレネードを再び発射。
爆発が白ゼファーを包み込み、とんと背中をあわせたアーリアが包囲するニグレドたちへと投げキスを放った。
「ほらこっちの方がいい光景よぉ? なんてね」
無理矢理酩酊状態にされたニグレドたちがわけもわからず互いに殺し合い始め、その横をアーリアたちが駆け抜けていく。
最後に残ったマルベートを回収するかたちで撤退をはじめたゼファー。
しかし彼女の横を槍が抜け、目の前の木へと刺さった。
「待って、お願いよ……!」
振り向けば、泣きそうな顔の白ゼファー。
ゼファーはため息をついた。
「ねえ。記憶と心は別物よ。
幾ら知ってたって、貴女にはあの子達への想いがないもの。
代わりだなんて、笑わせないで頂戴」
「だって、だって私なら――」
胸に手を当てて訴えようとする白ゼファーに、ゼファーは背を向けた。
「此の呪いも、此の業も。其れも全部全部含めて『私』。
どんなに苦しくたって、悲しくたって……私はもう、何一つを諦めちゃいないわ!」
前を向いてはしていくゼファー。
後ろで膝をつく音と、自分に呼びかける声がする。
「お願いよ、あなたになれなかったら、私は誰になればいいっていうの! 置いていかないで、おねがい、ずっとずっと――!」
声はすぐに遠くかすれて、聞こえなくなった。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
――mission complete
――囚われた妖精たちの救出に成功しました
――白ゼファーが生存しています
――『花畑の二グレドたち』が生存してます
GMコメント
■オーダー
・妖精の救出
具体的には赤煉瓦の家の中で寝かされている妖精達を救出することです。
厳密には白ゼファーやニグレドの撃破は成功条件に含まれません。
・パート解説
このシナリオは【ライン突破】【妖精救出】【戦域脱出】三つのパートに分かれています。
■パート解説
皆さんはアルベドたちが防衛する『赤煉瓦の家』へ突入し、妖精達を救出して撤退するまでが必要になります。
今もニグレドの増援が来続けるため、可能な限り迅速な作戦遂行が求められます。
また現段階ではあくまで予想でしかありませんが、囚われている妖精たちはフェアリーシードにされる(=アルベドの核にされる)と思われます。なので急いで妖精達を救出せねばなりません。
・【ライン突破】
白ゼファーとニグレドたちによる防衛ラインを強引に突破し、『赤煉瓦の家』へ向かわねばなりません。
布陣している敵を全て倒してから向かおうとすると増援であふれかえりほぼ確実に詰みになるので、誰かが残って物理的な足止めをしたり機動力や反応でぶち抜いたりなどして突破を試みましょう。
一番楽なのは一人だけ残して超命中で毎ターン【怒り】を付与し続けながらひたすら殴られ続けることですが、正直第三パートまでに戦闘不能になりそうなのでお勧めできません。ほどほどに残ってほどほどに追いかけるといいでしょう。
・【妖精救出】
『赤煉瓦の家』へ突入し、妖精達を救出します。
一般的な一階建て家屋と同じような大きさと間取りの家です。
家周辺と家内部それぞれにニグレドが配置されており、突入する際ほぼ必ず戦闘になります。
屋内戦闘になるため攻撃レンジにご注意ください。
妖精はひとまとめで寝かされており、どの部屋に囚われているかは把握しているものとします。
・【戦域脱出】
戦場から撤退します。
できるだけ早く、いっそ強引に撤退する必要があります。
『赤煉瓦の家』は十中八九包囲されているので、これを突破しなければなりません。
一点突破をしてもいいですし、複数方向に分かれたり陽動したりしてもいいでしょう。
メンバーの特性や得意分野で決めてください。
これによって妖精達(眠ったまま)を無事に連れ出すことができれば依頼成功となります。
■エネミーデータ
・白ゼファー
ゼファーの生命情報を獲得したアルベド。
主に槍を用いた戦闘を得意とし、攻守共に優れる。基本的に『HPを零にするのがだいぶ難しい』相手。
戦闘スタイルはゼファーの記憶を参考にしていますが、ボディのスペックがそもそも高いのでかなりの強敵となるでしょう。
※彼女の撃破に集中すると時間がかかりすぎて成功条件を満たすのが難しくなります。
相当徹底して倒すのでない限りは全パートに関わってくると考えていいでしょう。
・ニグレド
いわゆるアルベドの前段階にあたるホムンクルス。生命のなり損ない。
これまで迷宮内等で遺伝子回収にあたっていた種。
肉体を自在に変形させることができ、硬化させた腕で殴りかかったり伸びた腕で拘束したりとかなり自在に動く。
実質的な個体数に限りはなく、戦闘の気配を察して増える可能性は充分にあります。
■アルベドについて
アルベドとはホムンクルスの器に人間の遺伝子情報、妖精を用いた生命核をあわせることで完成する人工生命です。
身体のどこかに妖精を生きたまま格納した『フェアリーシード』が入っており、それが核であり率直にいうと弱点です。これを破壊されると確実に死亡しますが、その場合核内の妖精も同時に死亡します。
また遺伝子情報から個性を得ていますが、固体によっては部分的に記憶がフラッシュバックすることがあり、今回の白ゼファーがもっている『置き去りにした子達の記憶』がそれにあたります。
そうしたことから、彼女を『過去から追いかけてきたゼファー』と述べても過言ではないでしょう。
■■■アドリブ度■■■
ロールプレイをよりお楽しみいただくため、リプレイにはキャラクターのアドリブ描写を用いることがございます。
プレイングやステータスシートに『アドリブ歓迎』『アドリブなし』といった形でお書きくだされば、度合いに応じて対応いたします。ぜひぜひご利用ください。
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