PandoraPartyProject

シナリオ詳細

決まり事は絶対だ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 1日の間の決まり事。かあさまの言うことは絶対だ。
「ミール、起きる時間ですよ」
 朝は日の昇りと一緒に起きましょう。
 顔を洗ってから朝ご飯を食べましょう。
「ミール、今日の予定は覚えているわね?」
「はい、かあさま! 午前中は勉学にはげんで、午後は剣のおけいこです!」
 自らの予定はしっかり把握しておきましょう。
 勉強からは逃げず、しっかりと取り組むこと。
 稽古も真面目に、誠意をもって取り組むこと。
「休憩時間も己を磨く時間です」
 休んで良くとも、だらしない行いをしない事。
 栄養が偏るから菓子を食べない事。
「嫌いなものも残さず食べるのですよ」
「はい、かあさま」
 夕食を終えたら、歯を綺麗に磨くこと。
 夜更かしをせず眠りにつくこと。
 1日の最後まで、かあさまの言うことは絶対だ。

「ミール、母との決まり事を忘れてはいけませんよ」
「はい、かあさま」
 母は息子の良い返事に表情を綻ばせ、父と共に屋敷を出る。ミールは『泊りがけの用事で2、3日帰らない』としか聞いていない。子供は知らなくて良いことなのだろう。
「かあさま、とうさま、いってらっしゃい!」
 走り出した馬車を小さくなるまで見送って、ミールと使用人は屋敷へ入る。
「ミール様、どうされますか?」
 執事の言葉にミールは──親に従順な子の顔を棄て、悪戯っ子のようににんまりと笑った。
「イレギュラーズを呼んで。皆はいつも通りに振る舞っておけばいいよ」
 決まり事なんて知るもんか。忘れはしないけれど、守れとは言われていないもの。

 やってみたいことは沢山ある。
 朝はお寝坊してみたかった。
 お菓子だって食べてみたい。
 嫌いなものは食べたくない。
 夜更かしもして、朝になるまで遊んでみたい。
 ゲームだってしてみたい。双六とか、トランプとか。あとは何があるんだっけ? イレギュラーズが来た時に何でもできるよう、準備をしておかなくちゃ。

 やるなら今だ、今しかない。こっそりひっそり、悪いことをしまくろう!



「子供の悪戯みたいなものなのです。ちょこっと悪名は尽きますけれど、お仕事自体は簡単ですよ」
 『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)が差し出した羊皮紙には達筆で──恐らくは代筆だ──悪いことをしたい、という趣旨の内容が書かれている。差出人は幻想貴族の幼き子息からだ。
 この家は天義ほどではないが厳格な性格の者が多く、その親類縁者の中には嫁姑問題が勃発したり離婚絶縁と言った話が比較的持ち上がったりしているらしい。子息にそんな生々しい話は入らないだろうが、子供は敏感だ。何かを察していてもおかしくないだろう。
 情報を集めてみる限り、子息は実に礼儀正しく真面目で、その血筋である母とも仲は良好。将来は好青年になるだろうと既に評判が高い。そんな子息からの『悪いことがしたい』である。
「立ち回りが上手いのだと思います。けれど、やっぱりどこかで息抜きも必要だと思うのです。
 と言うわけで皆さん、この子と悪い事……不健全な1日を過ごして欲しいのです!」
 母からの決まり事なんてクソくらえ。健康に悪い食事を持って行ってもいいし、菓子を持ち寄って菓子パーティをしてもいい。ちなみに本日、子息はイレギュラーズと遊ぶためにボードゲームの類を集めているそうだ。
 イレギュラーズが関われるのは両親が不在の数日間のうち、たった1日のみ。何をしようか、ちゃんと計画立てていかねば──。

GMコメント

(『わたしは昨夜、AM2時にカップ麺を食べました』という看板を首から下げるひよこ)

●成功条件
 不健全な1日を過ごす

●場所
 子爵邸。広いです。庭は剣術の稽古ができるほどの広さがあり、書庫も専門的な学術本まで収められています。
 あちこちに使用人がいますが、彼らは総じて子息の味方です。告げ口のようなことはしません。
 少し離れた場所には市場があり、屋台なども多く出て賑わっています。

●NPC
・ミール
 子爵家嫡男。兄妹姉妹はいません。齢10歳。賢く、母の決まり事に日々疑問を抱きながらも反発しないように振る舞っています。
 とはいえ子供です。両親が居ない隙を見計らってのびのび過ごそうという考えのようです。

・娯楽
 ミールは娯楽的なことに総じて疎く、非常に興味があります。
 トランプ、双六、チェスくらいであれば購入して隠しているようですが、遊び方は知りません。
 その他にもイレギュラーズから持ち込んでもらえれば興味を示すでしょう。

・食事
 上品なテーブルマナーが必須とされるものしていません。それらが必要のないジャンクフードや菓子、外に出るのであれば屋台などの食べ歩きも気になるそうです。
 イレギュラーズはミールを外へ連れ出しても構いません(ただし彼は変装必須)し、持ち込みをしても良いです。他者を貴族邸へ出入りさせると悪事がバレてしまうため、デリバリーなどはNGとします。

・夜更かし
 規則正しい生活をしているミールですが、夜更かしはとても憧れが強いです。皆で一緒に夜更かししてあげてください。
 そしてこれまで規則正しいが故に、ミールは普段寝る時間になると眠くなってしまいます。ここで寝かせてしまっても構いませんし、夜更かししてもらうための工夫をしても構いません。


●描写に関して
・午前
・午後
・夜
 上記の3つほどに分けてリプレイ執筆予定です。頂いたプレイングによって配分等は変わる可能性がありますが、相談の時点ではそれぞれの時間帯に何をするか、で話し始めるとまとめやすいのではないかと思います。

  • 決まり事は絶対だ完了
  • GM名
  • 種別通常(悪)
  • 難易度EASY
  • 冒険終了日時2020年07月10日 22時20分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ウェール=ナイトボート(p3p000561)
永炎勇狼
メートヒェン・メヒャーニク(p3p000917)
メイドロボ騎士
メリー・フローラ・アベル(p3p007440)
虚無堕ち魔法少女
ソロア・ズヌシェカ(p3p008060)
豊穣の空
散々・未散(p3p008200)
魔女の騎士
月虹(p3p008214)
悲無量心
眞田(p3p008414)
輝く赤き星
リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)
神殺し

リプレイ


 約束のあったその日、イレギュラーズたちは屋敷の裏口からこっそり入った。何故か? 人の出入りなど極力周囲に知られない方が良いからだ。
 親に知られまいとする徹底的な配慮に『レッド・ドラマー』眞田(p3p008414)は苦笑する。娯楽も厳しく制限された生活なんて、自分なら1分も経たずに息苦しさで死んでしまうだろう。
「普通の子供って大変ね」
 『躾のなってないワガママ娘』メリー・フローラ・アベル(p3p007440)もまた、ミールが演じる『親にとって普通らしい子供』に辟易とした表情を見せる。自分なら演じていられない。そんな指図をされようものなら半殺しにでもしちゃうかも。
 応接間へ通されたイレギュラーズは小さな主人を待つ。今日はすでにお寝坊さんか、と考えていた『L'Oiseau bleu』散々・未散(p3p008200)は程なくして現れた少年に目を瞬かせた。
「おはようございます。今日はどうぞ、よろしくお願いしますね」
 貴族の子息らしい上品な礼に、親の教育が行き届いているのだと思わざるを得ない。もちろん──この家の実情を全く知らなければ、だが。
「まずは私達の事を知って貰った方がいいかな?」
 『メイドロボ騎士』メートヒェン・メヒャーニク(p3p000917)の言葉にミールは頷く。1日中共に過ごす者たちだ、名前も知らないままではいられない。
「私はメイドロボ騎士だよ。メイドとしても1日よろしくね」
「メイドでロボで……騎士? すごいですね、我が家にはそのようなメイドはいないです」
 一体どんな人なんだろうと目を輝かせてメートヒェンを見上げるミール。そこへ『うそつき』リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)がよろしくね、と声をかける。
(とし近いからなかよくなれるといいなぁ……)
 なれるだろうか。ほんのちょっと、ドキドキする。
 そんな風に考えるリュコスと同様に、ミールもなんだか落ち着かなそうだ。同じ年ごろの子供はあまりいなかったのかもしれない。
「さあ、早速準備だな! 1日はあっという間に過ぎていくぞ」
 『守護の獣』ウェール=ナイトボート(p3p000561)はその空気を吹き飛ばすように告げ、ミールへ持ってきたものを見せる。一瞬ぽかん、としたミールはややあって瞳を輝かせた。
「──変装ですね!」
 そうだと頷くウェール。これも元の世界に帰った際、息子を労わる為の第1歩となろう。
「これで市場に向かいましょう。素敵なお名前も考えましょうね」
 『悲無量心』月虹(p3p008214)の言葉にぱちりと目を瞬かせたミール。彼の名前をそのまま外で呼んでしまっては、流石に気づかれてしまうだろう。口調も変えられるのなら変えた方が良いかもしれない。
 ウェールは髪の長いウィッグと、古着屋から調達した一般的な子供服を。未散もまた少年服を何点か持ち寄っている。
 今日ばかりは詰襟も、品の良いネクタイも──肩の凝るサスペンダーだっておさらばだ!
「最後にカジュアルな帽子を被ったなら、完成です」
 どうですか? と未散に促されて姿見の前へ立ったミールはわぁ、と声を上げる。顔を見てしまえば品の良さは隠せないものの、服装や後ろ姿は動きやすい服を着た市井の少女であった。子供という性別の曖昧さもあって良い変装っぷりである。
(フードで人相を隠すのもワクワクするが)
 人相を隠すものは、同時に自分からも周りを隠してしまう。これからの予定を考えれば周りは見やすい方が良いだろう。
「あとは名前だね。どうしようか」
 メートヒェンの言葉に皆が考え込む。ここまでして名前でバレるのは避けたいところ。ウェールは『パクス』という偽名を出す。元々ミールという言葉が元の世界では平和という意味を持つ。それをさらに別の外国語へ変えただけだが、世界が違う時点で意味から遡ることは難しいだろう。
「さあ行こう。たった1日、だからこそ最高に楽しい1日にするんだ」
 『幻想の冒険者』ソロア・ズヌシェカ(p3p008060)はミールへ手を伸ばす。かつての自分を彼に重ねて、せめて今日だけはその生活から救い出したくて。

 こうして、パクスことミールはイレギュラーズたちと市場へ繰り出したのだった。

 ばさ、と鳥の羽ばたく音が耳に届く。しかしそれよりも聴覚を占めるのは人の往来する様子だ。
 一同ははぐれないようにまとまりつつ、人の流れに沿って歩いていた。食べ歩きは行き当たりばったりがいいんだって、と教えるのはリュコス。そうなんだと視線を巡らせたミールはあちこちを見て目を輝かせる。
「買ったその場で食べるのも美味しいのですよ」
 あちらとか、と月虹が示したのは揚げたパンを提供する露店。周りで大人子供がはふはふと熱を逃がしながら食べている。ひと口では収まらないが、そこまで大きくもないので菓子程度に食べられるだろう。
「ちょっとでも興味があるものは、全部買って試してみると良いわ」
「でも、食べきれないで……食べ切れないよ」
 言い直したミールにメリーは片眉を上げ、そこらの小さな揚げパンを1つ購入する。いい? とミールに見せながら。
「こうすれば少しずつ色々食べられるわ。残りはその辺の何かが食べてくれるもの」
 一口齧ってポイ。裏路地へ投げ込まれたそれは野良猫がさっと咥えてどこかへ持って行く。
「此のような時は、皆んなでシェアしても良いのですよ」
「ね……ぼくもいっしょに食べていいかな? みんなで食べるとかぼくもぜんぜんないから」
 未散の言葉に、リュコスの言葉にミールはきょろきょろ。その瞳にはワクワクとした光が宿っている。
(普段は1つのお皿から物を摘むなんて事、しないでしょうね)
 この陽気ならばアイスバーも良いかも、と未散は人の多い露店を示す。店の周りでは溶ける前にと齧り付く者も多い。
 ごくり。ミールの喉がなる。さらにひと押しするようにソロアが促した。
「栄養なんて気にしないでいいんだ。好きに買っていこう」
「……うんっ!」
 頷いたミールに合わせ、一同はアイスバーを購入する。ひやりとした冷たさが口の中に広がって、頭痛に顔をしかめたりして。
「あ、あれも食べてみていい?」
「ええ、軽いものなら入るでしょう」
 月虹の言葉に笑顔を浮かべたミールは嬉々として買いに行く。お金の使い方は元より使用人から聞いていたようだ。
「あの店はなんだろう?」
「ぼくもしらないや」
 ミールとリュコスは顔を見合わせ、気になった店へと近づく。下調べなしだけれどこんなドキドキも楽しいもの。
 メートヒェンとソロア、月虹は後から食べられそうなお菓子や軽食を買い込んで両手が塞がった。こういう時は男性(荷物持ち)の出番!
「俺たちか」
 苦笑したウェールと眞田が女性陣の荷物を受け取る。食材もかさばれば重いものだが、この程度ならまだまだ。
 お腹も良い頃合い、男性陣の料亭も良い頃合いになったら──さあ、帰ろうか!



 帰宅早々、屋敷の厨房を借りて作業する男が1人。
「シャンパンの準備はOK、と」
 こっそり買ってきていたノンアルコールのシャンパンを一瞥して頷いた彼は次の作業へ取り掛かる。夜になるまでと思えば時間は少ないのだ。
 一方のミールは変装を解き、しかし服装はすっかり気に入った市井スタイルである。ソファでくつろいだ彼へ未散は1つの提案を持ちかけた。
「この後、お昼寝は如何でしょうか」
「夜眠れないぐらい昼寝するのも悪いころでしょ?」
 未散の言葉を引き継いだメリーはふわぁと欠伸ひとつ。勿論告げたことに嘘などないけれど、できるならメリーも一緒に寝てしまいたい。
 睡眠薬置いておくわねとテーブルへ錠剤を残したメリーはまた欠伸をして、客間のベッドでお昼寝させてもらうことにした。持参した睡眠薬の残りを飲んで、式神に夜起こすよう告げて──おやすみなさい。
 昼寝を渋るミールには月虹が優しく声をかける。
「夜起きておくなら今の内にお昼寝しておく事は有効ですよ」
「でも、勿体なくないですか?」
 今日しかないのに、と口を尖らせるミール。そこへ良案を持ち込んだのはリュコスだった。
「なかなかねつけなさそうなら、外でいっぱい体を動かしてみるとか……体がつかれるとぐっすり眠れるんだって」
「小腹が空いてきたら、買ってきたおやつを食べてもいいね」
「お腹が膨れたなら、屹度くうくう眠ってしまうでしょう」
 沢山遊んで、ご飯の時間でもないのに食べて、眠る時間でもないのに眠る。そんな午後の予定はみっちりと詰め込まれているようで。
「ミール君以外の誰かが交代で起きて、寝過ごさないようにする。どうだ?」
 そんなソロアの言葉が決め手であった。ミールに誘われて広い庭へ出た一同は、彼が調達したというボールを手に遊び始め、時には筒状に丸めた新聞でチャンバラなどをしてみる。ボールこそ触れる機会の少ないミールは翻弄されていたが、彼は既に剣の稽古も付けているようでチャンバラでは中々良い筋だった。
「買ったものをこのまま、お庭で食べてみませんか?」
 月虹の提案にまたミールは目を輝かせ、メートヒェンはすかさずメイド力を発揮して準備した。流石に手を洗って、それからセッティングされたシートの上で疑似ピクニックである。
「あ、これ美味しいですね」
「冷えても美味しいままなんだな」
 ミールとソロアは屋台で買ってきた軽食をむしゃむしゃぽりぽり、ぽりぽりぽり。どうしようこれ、やめられない止まらない。
「こちらは……かぶりつきましょうか」
 月虹は紙に包まれた大きな唐揚げへがぶり。暖かいままの肉汁が口の中へ溢れる。荷物持ちに沢山持たせていただけあって、これだけの人数が腹を満たすに十分な量だ。
 食べ終われば皆必然と、もうひとつの欲が首をもたげる。次々と──まるで連鎖するように──上がった欠伸に眞田は思わず笑う。
「俺、起きておくよ」
 その言葉に甘えることにした一同は室内へ戻り、広めの客間へ。ここには皆で雑魚寝できるくらいベッドが並べられているのだ。ぼふんとそこへ埋もれた一同はすぐさま睡魔に連れて行かれる。ああ、置いて行ってもらった睡眠薬はいらなそうだ……。



 そして夜──悪い子の時間である!
「悪い子な俺たちは、今日何時間でも起きてていいんだぜ!」
 眞田がにやりと笑って告げる。その手にはミールに知らない菓子ばかり。買ったらあげると言われてミールのやる気は急上昇だ。そこへメートヒェンが厨房から珈琲を持ってくる。
「ミールさん、コーヒーは牛乳とお砂糖入れられます?」
「たっぷりと!」
 嬉しそうに告げる彼だが、その舌はやはり年相応という事だろう。ミルクと砂糖をたっぷり入れて混ぜたカフェオレをひと口のんでにっこりしたミールは眞田との勝負が待ちきれないらしい。早々に飲み干してマグカップを置いた彼はメリーから薬を受け取り、眞田へゲームを強請った。
「ランプで神経衰弱でも七並べでもババ抜きでも……もしくはジャンケンでも何でもいいよ。賭けるのも俺だけで、と今の単語は聞かなかったことに」
 流石に賭けなんて言葉を教えたと知られれば殺されかねない。それは嫌だと眞田は口を濁す。誤魔化すように取り出したのはトランプにさいころ、ボードゲームと多種多様だ。
「Uh……どれも見たことないや……」
 興味津々で覗き込むリュコスだが、初見なので当然ルールなどわかりようもない。2人まとめて教えてくれるという眞田の言葉に初めのゲームを選んだところで部屋の扉があいた。
「夜更かしの準備は完璧ですよ。カロリーが高そうなのは最強に悪なのです!」
 未散が高らかにそう宣言する、その手元にあるのは持ち帰ったポテト──のチーズ掛け。とろけたチーズとこんがりした焼き目が視覚を刺激し、同時にハーブの匂いを押し返すほどのジャンキーな香りが鼻をくすぐる。
「美味しそうですね!」
「ふふ、悪い子の特権だね」
 さあどうぞ、とメートヒェンも促して、アツアツのポテトをひょいぱくりとミールは口へ放り込む。顔を真っ赤にさせて一時はイレギュラーズを心配させた彼であるが、飲み込んだ後には「熱い! 美味しい!」と笑顔を見せた。
 さて、最初にミールとリュコスが決めたゲームはトランプだ。手に取ったミールへメリーがこっそり耳打ちする。
『目立たない位置に傷や汚れをつけて目印にするといい』
 こうして、その名前は知らないながらもしっかりと『イカサマ』を覚えたミールなのであった。
「トランプってひとつでいっぱいあそべるんだ! すごいね!」
 眞田の教えてくれる遊び方に瞳を輝かせるリュコス。ミールも頷いて、折角だから何かしようと遊び始める。何度も同じ遊びをして、飽きたら違う遊び方をして。そんな折に「チーン」と甲高い音が響いた。
「……?」
「ミール様も遊んでみますか?」
 音の発信源は未散の前、並べられたグラスやコップだ。微妙に量の違う水を張ったグラスは叩くたびに異なる高さの音を鳴らす。
「そ、そんなマナーの悪いことを、」
「今宵のミール様は悪い子、ですから」
 ね? と片目をつぶった未散にミールも思い出したらしい。恐る恐る近づき、スプーンでグラスの縁を叩いてみる。その手つきは段々滑らかに、楽しそうに。
 そんなことをしていればすっかり日付も変わり、少しばかり眠くなってきた頃合いにウェールが登場する。先ほどの比にもならないジャンキーな匂いに、ミールのみならず全員が勢いよく振り返った。
 更に上にこんもりと盛られたのはナゲット、そしてフライドポテト。バター醤油の小皿も一緒である。さらには持ってきたノンアルコールシャンパンをポンッと抜いてグラスへ注いだ。
「わ、カリカリだ!」
「あつあつだね」
「こういうのはね、ソースをべったり使ってやるのよ」
「このままでも美味しいです」
 皆が盛り上がり、眠気の波も過ぎれば今度は双六だ。さいころを振って進めると言う簡単かつ運要素の強いゲームである。
「これならできそう……」
 チェス盤を見ながらおろおろしていたリュコスもこれならと頷き、ソロアも大人数で楽しめるからとワクワクしながら駒を持つ。
「あとで丁半博打とかやってみたいわね」
 さいころを見たメリーの呟きに視線が集まる。賭け事、ギャンブルのひとつだと言えば眞田が何とも言えぬ表情を浮かべた。
「賭けはほら、まだ子供だし」
「いいじゃない。大事なのはギャンブルをする経験なんだから」
 賭けるものなど大きなものでなくていい。少額の金銭でも良いし、何なら眞田が手に持っている菓子だって構わないのだ。重要なのはこの1ゲームで価値あるものが動くということ。そこに付随する娯楽を知ることだ。
「奇数偶数くらいは分かるでしょ?」
「はい、勿論です」
 頷いたミールと眞田が折角だからと菓子をかけて勝負する。勝って、負けて、また勝って。そんな勝負のやり取りを楽しそうにする姿は賭け事の素質アリ、と見て良いだろう。将来のめり込まない事を祈るしかない。
 けれどもやはり眠気はやってくるもので、ミールはふわぁあと大きな欠伸。未散の買ってきていアーモンドも惨敗らしい。眞田からもらった菓子を勧められるままに食べた時刻は午前の3時前か。最も太りやすいと言われる時間帯である。イケナイ時間に食べるお菓子はとってもおいしく感じるけれど、すぐさま睡魔が意識を持って行ってしまいそうだ。そんな姿に月虹が提案したのは歯磨きである。
「眠くなってきたらすると、目が覚めるかもしれません」
 絶対ではないけれどそういうこともある。それに悪い子だって歯磨きはしなくちゃ。
 うんうんと寝ぼけ半分で歯磨きをしに向かうミール。戻ってきた彼はやはり眠そうで、メートヒェンがベッドへ案内するとイヤイヤしながらもころんとベッドに転がった。すかさずリュコスが尻尾を寄せる。
「ミールくん、楽しかった?」
 問いかけに返ってきたのはふわふわした返事。けれどその表情が満足げだからきっと真実楽しかったのだろう。
「ミールくんももっと大きくなったら、毎日のようにこういうことができるんじゃないかな?」
「おとまりしたり、いっしょにげーむやったりとか……?」
 眞田の言葉にリュコスが見上げて、彼が頷く。けれども同時に思うのだ。毎日悪いことをやっても楽しくない。悪いことという『非日常』がきっと楽しいのだろう。

 翌日の朝。夜更かしをしたミールは普段起きるはずの時間にもぐっすりと眠って、起きる気配はない。すっかり明るい外の光から逃げるように彼は布団へ潜り込む。その時、紙に布がこすれた音がした。

『ぼくもはじめてばかりでいっしょに楽しんじゃった』
『昨日は私達も楽しめたよ、もしまた機会があれば一緒に悪い事をしよう』
『また、遊びたい時があったら呼んで下さいね。駆けつけますから』
『また悪いことしたくなったらいつでも誘ってくれよ!』

 約束だ、と。そう締められた手紙は、まるで季節外れのプレゼントのようにミールの枕元へ置かれていたと言う。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 お疲れ様でした、イレギュラーズ!
 母にバレるのは一体いつの日になるのか。本日の感じならば隠し通せそうな気もしますが……。

 またのご縁を、お待ちしております。

PAGETOPPAGEBOTTOM