PandoraPartyProject

シナリオ詳細

黄金色の死地

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●実りの内の窮地
 遠く遠く、絶海を越えた末にたどり着いた豊穣の国。
 首都『高天京』の絢爛たる建造物が目を奪うそこは――しかし混沌の国々と同じく、多くの『厄介事』を抱えているのだった。

 高天京を離れた郊外――。
 背の高い穂が波打つ、黄金色の田畑に、3人の鬼人がいた。
 否、正確に言うならば、3人の鬼人が武者の集団と剣戟を合わせていた。
『ヴオオオオオオオッッ!!!!』
「くっ……!!?」
『ヴァアアアアアアアアアアアッッ!!!』
「後ろからも来ているぞ! 気を付けろ!」
 獰猛に吼える武者の刀を、額に角を生やした男――鬼人が刀で受け止める。その横ではこれまた鬼人が別の武者を相手取りながら、背後を取ろうとしている敵の動きを感じて仲間に注意を促した。
 彼らが戦っているのは、怨霊だ。
 カムイグラは都こそ優美であったが、決して平穏な理想郷ではない。優美なる高天京の外では、怨霊や妖怪の発生は日常茶飯事となっている。
 そしてその対処に当たるのは鬼人だ。ヤオヨロズ(精霊種)の大半は京の外で起きている『些事』になど関心がない。彼らが高天京でのんびり遊興に耽っている間に、鬼人は泥臭い仕事をさせられているというのはカムイグラの至って一般的な一幕だった。
 だが強靭な肉体を持つ鬼人とて、すべてを難なく解決できるわけではない。
『ヴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!』
「ぐっ、あ……ッ!?」
 武者の一振りに胴を斬られ、鬼人が鮮血を散らす。
 怨霊の実力は特段に優れているわけでもない。生前はそれなりの武人だったろうが、常から荒事に当たっている鬼人たちに比べて勝っているとは言えなかった。
 しかし、いかんせん数が多いのだ。
「とても我らの手に負える数ではない……!」
「ああ……ここはいったん退いて――」
 背を合わせるように寄り固まった鬼人たちの1人が、言葉を止める。
 その眼が捉えたのだ。
 退路と考えていた先の稲穂を分けて、新たな怨霊たちが現れたのを。
『ヴァアアアアアアアアアアッッ!!!!』
「まだ別の怨霊が……稲に隠れて気づけなかったか……!」
「退路を断たれたか…………!」
『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!』
 じりじりと、包囲網を狭めてくる怨霊武者。
 鬼人たちは己の終わりを覚悟しながら、刀を握りしめるのだった。

●鬼人からの依頼
「外に怨霊退治に出向いた者たちの戻りが遅いのだ」
 高天京の小さな家屋の中で、鬼人の男がイレギュラーズたちにそう言った。
 例に漏れず和装の端々を汚している鬼人は、京の外へ遣わした部下たちのことを話した。田畑に現れた怨霊退治に出向いた鬼人たちが未だ帰ってこないらしい。
 怨霊に対処しきれず落命したか。
 あるいは帰ってこれぬ何らかの窮地に陥っているか。
 ともあれ、足を運ばずして彼らの状況を知ることはできない。
「我らで状況確認に向かうべきだとはわかっている。しかしそこに割ける人数的余裕も我らにはなくてな……だからあなた方『特異運命座標』に現場へ行ってもらいたいのだ」
 案じるような表情で、男が地図を差し出してくる。
 丸印がついている田畑に部下たちは向かったらしい。辺りは田や畑ばかりで人家は見当たらないし、怨霊騒ぎで人も寄りつかないだろう。部下の鬼人たちが生きていたとしたら合流することは難しくないはずだ。
「すでに怨霊の手にかかっていると考えるのが自然だが……彼らとて弱くはない。そう簡単に命を落とすことはないと、私は信じているのだ。だから――」
 どうか、ご助力願いたい。
 そう切実に零して、男はイレギュラーズたちに頭を下げた。

GMコメント

 どうも、星くもゆきです。
 窮地の鬼人たちのところに格好良く現れ、怨霊たちを倒して下さい!

●成功条件
 怨霊武者10体の討伐
(鬼人たち3人の生死は不問とします)

●敵
・怨霊武者×10
 刀と弓を装備した武者の怨霊たちです。
 素早い刀捌き(至近~近)と正確な弓撃(中~遠)を誇ります。
 いずれの攻撃も命中が高く、堅実に攻撃を当ててきます。

●味方
・鬼人×3
 刀を装備した鬼人たちです。
 シナリオ開始時からHPの90%を失っています。
 力強い刀術(至近~近)の使い手。
 物理攻撃力と防御技術が高いです。

●ロケーション
 実り豊かな黄金色の田畑です。
 背の高い稲穂に覆われていますが、辺りは静かで音はよく聞こえます。
 足元に障害はないので移動に支障はないでしょう。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

  • 黄金色の死地完了
  • GM名星くもゆき
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年07月20日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

オーカー・C・ウォーカー(p3p000125)
ナンセンス
ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)
華蓮の大好きな人
イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
流星の少女
ムスティスラーフ・バイルシュタイン(p3p001619)
黒武護
レーゲン・グリュック・フルフトバー(p3p001744)
希うアザラシ
ティスル ティル(p3p006151)
銀すずめ
ゼファー(p3p007625)
祝福の風
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
戦輝刃

リプレイ

●波打つ穂を抜けて
 実りを体現するかのような黄金が、揺れている。
「鬼を手玉に取る、か。怨霊のくせにやるわね」
「カムイグラって何だか大変そうなところですね、お師匠様」
 田園地帯を並走する2頭の馬――ラムレイと赫塊の鞍上で『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)と『医術士』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)が言葉を交わす。
「面倒な国ではあるようね。その先、ぬかるみがあるから気を付けなさい」
「あ、はい! 赫塊、左によけますよ……っとと」
 イーリンの忠告を受けたココロが手綱を操る。鮮やかな赤馬はやや緩慢な反応でのっそりと横に逸れた。歩きつづけることに飽きているのだ。機械のように駆けつづけるイーリンの黒馬に比べて、赫塊の性格は軍馬に向いていない。
「怨霊……レーさんも一度はグリュックの魂の敵討ちしたかった若い時期があるから、恨みつらみは否定しないけど、関係のない生者に迷惑をかけるのはねぇっきゅ」
 師弟の後ろで言葉を強めるのは『前へ進み続ける森アザラシ』レーゲン・グリュック・フルフトバー(p3p001744)だ。喋らぬ犬獣人『ヴィント・クリュック』の腕にすっぽり抱かれる森アザラシはふりふりと尾びれを振っている。
 その動きにつられて視線を左右させながら、宙に浮いて移動している『ムスティおじーちゃん』ムスティスラーフ・バイルシュタイン(p3p001619)はたっぷりの白髭を撫でた。
「放っておいたらいっぱい集まってカムイグラに押し寄せてきそうなものだけど、鬼人に任せっぱなしで対策とらないなんてね。偉い人たちはカムイグラ滅ぼしたいのかなぁ」
「豊穣も何だか色々ありそうだもんね」
 自前の白翼でもって同じく飛んでいた『白雀』ティスル ティル(p3p006151)が、ムスティスラーフの訝しむ声に同感する。
 が、思案はそこそこに切り上げた。
「……けど、今は目の前の仕事に集中しなきゃ!」
「ああ。そうすべきだろうな」
 先頭を軍馬で駆けていた凛然たる騎士――『ドゥネーヴ領主代行』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)がティスルの意気に返す。
 だが振り返りはしない。
 ベネディクトには見えていた。
 上空を飛び回らせている小鳥の眼を通じて、鬼人たちの状況が。
 円形を成す甲冑たちの中心で、3人の鬼人は互いに背を合わせていた。
「機を見て敏に動け、だ──」
 下馬したベネディクトが、外套の下の加速装置――制御不能なブリンクスターを起動。砲弾のように吹っ飛んだベネディクトの体が一瞬で極小の人影に変わる。
 余波で乱れた銀髪を払いあげながら、ゼファー(p3p007625)は槍を持ち出した。
「さぁて、四の五の言ってる暇はなさそうね?」
「あぁ。ここまで来て命を散らすのはナンセンスだ」
 ゼファーの頭上から、『ナンセンス』オーカー・C・ウォーカー(p3p000125)の精悍な声が降る。彼の持つ巨躯を考えればそれ自体に不思議なことはない。
 が、そういう話ではなかった。
 オーカーの体ははるか上――巨大な象の背中にあったのだ。
「さぁ、槍を構え盾を掲げろ! 象兵のお通りだ!」
 天高く響くような声をあげて象――ドスコイマンモスが駆けだす。
 鬼人たちのいる、死の淵へと。

●救出
『ヴオオオオオオオ!!』
「……もはやこれまで……!」
 迫る武者たちの刀を見て、鬼人たちは心を決めていた。
「……ならば1体でも多く!」
「おぉ!!」
 せめて怨霊の数を減らしてやろうと構える鬼人たち。
 だが、いざ彼らが踏み出そうとしたとき、地面が爆ぜた。
「──済まない、援軍が遅くなった」
「貴殿は……?」
 巻きあがる土煙から現れたのは、ベネディクトだ。
 ブリンクスターの凄まじい速力を踏みこんだ足で止めた騎士は、依頼主の名も交えて鬼人らへ経緯を伝えた。
「俺の仲間も直にやってくる、それまでは耐え抜くぞ。行けるな?」
「本当に増援……なのか……?」
「わからぬ……が、この御仁は信じるに足る、気がする……」
 迷いながらも、信じることを決める鬼人たち。
 ベネディクトは軽槍『グロリアス』の穂先を敵へ向けた。
「俺はベネディクト=レベンディス=マナガルム──異国の荒ぶる魂よ、此処からは俺達が相手をしよう」
『ヴオオオオオオオ!!』
 名乗りに触発された武者たちが、刀を振りかぶって群がってゆく。それら斬撃を巧みに槍で凌ぎながら、ベネディクトは徐々に鬼人たちから離れた。
 しかし、依然として彼らは多数の敵に囲まれている。
『ヴァアアアアアア!!』
「くっ……!」
 武者の刀を受けんと、腕をあげる鬼人。
 ――が、その腕に衝撃は伝わらない。
『グォオオオオ!!?』
「一番槍は譲ったけれど、二番手はお任せあれ!」
 速く、風のように速く割りこんできたゼファーの槍が怨霊武者の腕を斬りあげていた。
 己の背丈ほどもあるその槍をくるりと一回転させ、敵群へ眼光を奔らせると、ゼファーは高らかに大喝する。
「まあ。使い古した月並みな台詞ですけれど。もういっぺん死にたい奴からかかってらっしゃいな!」
『……ヴオオオオオオオ!!』
『ガアアアアアアッ!!』
 挑発に乗った武者たちが切っ先をゼファーに向け、その麗しき体をズタズタに切り裂かんと全力で振りかぶる。
 しかし刃は空を切る。上体を動かすだけでゼファーは攻撃をかわしていた。
「では、あなたから」
 体を泳がす武者を直視するゼファー。
 けれど、彼女の槍は動かない。
 代わりに、彼方から飛んできた紫紺の光が怨霊を貫いた。おどろおどろしい悲鳴をあげる怨霊を突き抜けてなお、その光――眩い魔力の剣は荒れ狂う激流のように奔って、やがて中空に霧散して消えた。
「遅くなってごめん! 神使隊只今参上よ!」
「あの御仁も……援軍か!」
 あまりの威力に唖然とした鬼人たちに投げられたのは、イーリンの声だ。ラムレイを駆って向かってくるイーリンの姿はまだ遠い。そこからあの膨大な一撃を放ったのかと鬼人たちは戦慄さえしていた。
 さらに――。
『グガアアアアアッ!!?』
「この光は……!」
 今度は無数の光が一帯に閃き、辺りをその輝きで埋め尽くす。鮮烈な白光はまるで刃のように鋭く、怨霊たちを切り刻んだ。それも的確に鬼人たちを避けながら。
「いきなりゴメンね! 貴方達を助けに来たよ!」
 鬼人たちの頭上を、ティスルが高速で通過する。絵物語の登場人物のような光の翼をひろげて近くに滞空した女に、鬼人たちは瞠目した。
 同時に、敵もティスルの放つ光にわずかな怯みを見せる。
「今です、赫塊!」
 ココロが赫塊に顔を寄せて叫ぶ。意を受け取った赫塊は力強く土を蹴り、前へと勢いをつけてから全力で跳躍。鬼人たちのすぐ目の前に着地して辺りの稲穂を吹き飛ばした。
 そして息をつく間もなく、ココロは空へ両手をかざす。
「倒れて動けなくなるまで、諦めてはダメですよ!!」
 ココロの両手から清らかな光が溢れだす。放たれた光は頭上へ舞い上がると、柔らかな雪のようにふわりと一帯へ降りそそいだ。
 流血の勢いを緩める腕を見て、ぐっぐっと拳を開閉する鬼人たち。
「傷が癒えてゆく……」
「少しの間、頑張るっきゅ! レーさんたちが絶対にあなたたちを死なせないっきゅ!」
 稲穂の頭すれすれを飛行してきたレーゲンが、ココロのシェルピアを浴びていた鬼人のひとりへさらにメガ・ヒールを施す。精確な治癒魔術によって鬼人の脚の刀傷がみるみるうちに塞がってゆく。
 鬼人は脚の具合を確かめるように、ぐっと地面を踏んだ。
「頼もしい癒やし手たちよ……!」
「これならば我らも……!」
『グオオオオオオオオ!!』
「むっ!?」
 稲穂の陰から飛び出す怨霊武者。狙っているのはまだ治癒を受けていない鬼人だ。怨霊とはいえ相手の消耗度合を計るぐらいの頭はあるらしい。
 刀が首筋へ走る――その刹那だ。
 巨大な影が、鬼人と武者を覆った。
『ドスコーーイ』
 象だ。
 奇妙な咆哮に顔をあげた2人の眼前で、象が棹立ちになっていた。そのまま前脚を豪快に落とすと、腹まで響く重い衝撃が全身を震わせる。
「これ……は……!?」
「いいもんだろう?」
 巨大な動物に吃驚する鬼人を、オーカーが象の背から見下ろす。
 背中を蹴って鬼人の隣へその重い巨躯を降ろすと、オーカーはラージシールドを振った。
 ギィン、と鋼を弾く音。
『グヌゥゥ!!』
「俺がいる限り、こいつらはやらせねぇよ」
 武者が抜け目なく鬼人を狙っていた。両手で振り下ろされた刀を盾で止めたオーカーはぶっきらぼうに言い放つと、膂力で怨霊武者を弾き飛ばす。
「かたじけない……!」
「気にするな。生きて帰らせるのが俺たちの仕事だ」
「そうだよー。オーカー君の言うとおり♪」
 気の抜けるような声は、彼方から飛来するムスティスラーフのものだ。
 意思を持つ紅玉の力で飛行する爺さんは、その見た目からは想像もできぬ速度で稲穂の間を抜けてきた。
 そして2本の青い角から、蒼碧の光を放つ。その光でもってレーゲンが癒やしておいた鬼人の傷を治すと、ムスティスラーフはウインクした。
「ひとまず回復は最低限になっちゃうけど安心してね。その分、怨霊たちは一気に倒して見せるから」
 怨霊武者たちへ向き直るムスティスラーフ。
 武具を構える敵群を見渡して、彼は「すぅぅ」と息を吸いこんだ。
 その丸い腹がさらに丸々と膨らんで――。
「えいっ」
 凄まじい緑の閃光が、炸裂した。

●抜けろ!
 まるで巨大な刃でも振りぬかれたかのように。
 田畑を埋め尽くしていた稲穂たちは、地面に近い部分を残してぽっかりと消え去っていた。
 見晴らしの良くなった戦場では怨霊武者たちの姿がよく見える。
 遠くで弓を引き絞っている者の姿までくっきりと。
「見つけたよー」
 すっきりした田畑を飛んでいたムスティスラーフが空中で方向転換。深く息を吸いこんでその腹を膨らませると、呼気を吐くかのように緑光を噴き出した。
 それは、さながら砲撃だ。
 太い光の柱となったムスティスラーフの攻撃――『大むっち砲』が一瞬で稲穂を消し飛ばし、弓で狙っていた武者たちを吹っ飛ばす。
『ギアアアアアアアア!!』
「せっかくの稲穂だけど……命を失わせるわけにはいかないからね」
 戦場を飛びまわり、遊撃手として敵群を削るムスティスラーフ。
 彼が放つ砲撃が空気を揺らす――その衝撃をはためく外套から感じながら、ベネディクトは横薙ぎに振るわれた敵の刀を槍の柄で受け止める。
『ヌウウウウウウウ!!』
 強力に打ちこまれた刀身が柄を押しこみ、斬りぬけると同時にベネディクトの腕を裂く。
 血液が宙に散る。
 だがベネディクトは平静を崩さない。
「どうした。その程度か?」
『グオオオオオオオオオオオオ!!!』
 近くにいた3体の怨霊武者が怒気に満ちた叫びをあげる。その光景を遠巻きに見たゼファーは、鍔迫り合いをしていた武者を蹴り飛ばして声をかけた。
「お互い、人気者ですわね」
「そのようだな」
 ゼファーの冗談に小さく笑い返すベネディクト。互いに衣服には破れが目立ち、生傷も少なくない。常に複数体の武者からの猛攻を受けているのだから当然だ。
 けれど、この強靭な者たちは膝すらついていない。
「まだ、いけるか?」
「なぁに。こういう戦いは私の本命、大得意ですもの。いつも通り過ぎて欠伸が出ちゃうぐらいだわ?」
「なるほど。頼もしいことだ」
 ゼファーが欠伸の仕草を見せ、ベネディクトがひとつ首肯する。
 そして己の仕事を果たすべく槍を握りなおす。
 そんな2人の後方で、強い光が立ち昇った。
「さあ、私を放っておくと暴れるよー!!」
 中空を右に左にと鋭く飛びながら、ティスルが光翼から刃をばらまいていた。四方へ舞い散った光刃が鬼人らを包囲する怨霊たちを斬りつけると、苦悶するような低い声がそこらから発生する。
 さらにティスルは光刃が消えるのも待たず、歌声を発した。
 まるで聖歌のように、美しい音色。
 血と痛みが渦巻く戦場に光を降らせ、聖なる歌さえ響かせるティスルは、鬼人たちからすれば女神のようにすら見えていた。
 その視線を感じたか、ティスルは明朗に笑う。
「今は傷を癒やすことに専念してね!」
「しかしこれ以上、あなた方の足を引っ張るわけには……!」
「十分に戦えねぇなら、いねぇのと同じ。いやむしろそれこそ俺たちの負担になるってもんだぜ」
 辺りに警戒の目を向け、飛来する矢を盾の面で弾きながらオーカーが淡々と告げた。鬼人たちは何か言いかけて口を止める。オーカーの体には自分たちを庇ってついた負傷がいくつも見えるのだ。
 この守護者がいなければ一人、あるいは二人は死んでいたかもしれない。
「……貴殿の言うとおり、だろうな」
「そうです! この先、皆さんが守ることになる人々のためにも、ここで死んではいけませんよ!」
「もうじき包囲を抜ける機会が来るっきゅ! 今は力を溜めておくっきゅ!」
 オーカーの指示に納得した鬼人たちへ、力強い声とともにココロとレーゲンが治癒の力を行使する。ココロが繰り出す神聖な気と、レーゲンの強力な治癒魔術が、鬼人たちの体から痛みを取り払った。
 手を握り、足を踏みしめ、鬼人たちは自身の傷の具合を確認する。
「この調子なら……!」
 包囲を抜ける程度のことならばできるかもしれない――。
 彼らがそう言い出そうとした、その瞬間、雷撃のような何かが奔った。
『グアアアアアアアアアッ!!』
 鬼人らを囲んでいた武者たちが膝をつく。そのうち一人は耐えきれなかったか、霧のように消え去ってしまった。
 怨霊を消滅せしめたのは雷撃――否、紅と蒼の螺旋だった。
 鮮やかに色づいた魔力が螺旋を成して暴れ狂い、包囲網に風穴を開けたのだ。
 そしてその風穴の先に見えたのは、硝煙のような魔力の残滓を右眼からこぼしているイーリンの姿だった。
「今よ! そこを抜けてきて!」
「あ、ああ!」
「いくぞ! 包囲網を抜ける!」
「うおおおおお!!」
 腕を振るイーリンに導かれるまま、猛牛のように風穴へ駆ける鬼人たち。
 彼らの脱出を妨げられるものは、もういなかった。

●倒れることなく
 戦況は、一変していた。
「火線を集中して! 鬼人の力、見せて頂戴!」
「隙は私たちが作るから……きっちり決めてよね! 鬼人さん!」
「おぉ!」
「任せてもらおう! 助けられてばかりでは面目が立たぬからな!」
 長大な魔力剣を振るうイーリンと、翼から放出した光剣をけしかけるティスルの声に、鬼人たちが揚々と呼応する。強靭な腕力で振りおろした刀は怨霊武者の体を袈裟斬りにした。
『グガァァァ……!!!』
 裂け目から両断された怨霊が、煙のように消える。
 田畑に現れた怨霊たちは着実に数を減らしていた。3人の鬼人が回復したことで数的優位に立ったのだから当然といえば当然と言える。
 だが無論、優勢ではあれど無傷というわけではない。
『ヌオオオオオ!!!』
「まだ倒れやがらねぇか、こいつら……」
「オーカーさん、大丈夫ですか! いま傷を治します!」
 武者の振るった猛撃を受け止めたオーカーがぐらりと傾ぎ、ココロが慌てて大天使の祝福を送る。
 敵からの攻撃を引き受けていたイレギュラーズは、さすがに消耗が嵩んでいた。
「まったく、地味に痛い攻撃してくるんだから」
「さすがに何体も相手取るのは、骨が折れる役目だったな」
 絶えず怨霊たちに身を晒しつづけ、鬼人たちが危地を脱する時間を稼いだゼファーとベネディクトも傷だらけだ。
 しかしそれでも立ちつづけているのが、二人の守りの強さの証。
 そして、前線を支えた癒やし手たちの尽力の証だ。
「囮役、お疲れ様っきゅ。レーさんが念入りに治してあげるっきゅ!」
「私もまだまだ頑張ります!」
 いま一度、レーゲンとココロの治癒が仲間たちに強さを与える。
 愛嬌とともに放たれたレーゲンのメガ・ヒールはやはり目を見張るほどの速度でゼファーの傷を塞ぎ、笑顔とともに送られたココロの清らかな力がベネディクトの痛みと疲労を消し去った。
「治療、感謝するぞ」
「そうね。治してもらった分、私たちもお仕事で返さないとかしら?」
 怨霊たちの残敵へ、目を向けるゼファーとベネディクト。
 ゼファーの槍が振るわれ、孤月の軌道を描く。鋭い一閃は周囲に怨霊たちの胴を斬り裂いて、そこにベネディクトは勢いよく槍を投げこんだ。宙を貫いた投擲は次の瞬間には怨霊の胸に突き立っていて、射抜かれた敵はがしゃりと力なく倒れこむ。
「これでまた一体減ったか」
「この調子でじゃんじゃんいきましょ?」
「そうだねー。こんな所で時間とられちゃいられないし!」
『ギアアアアアアアアッ!!?』
 ムスティスラーフがピッと指を振り、強烈な雷撃で薙ぎ払う。一瞬で甲冑を黒焦げにした怨霊は、断末魔をあげて空中に霊体を消えさせた。
 少なくなった怨霊武者たちを数えて、イーリンは高らかに言った。
「あと三体、ぱぱっと終わらせるわよ!」
「「「おおおぉ!!」」」
 鬼人たちの意気に満ちた声が、田園の空に響く。

 怨霊のすべてが消え去ったとき、風景を満たしていた黄金の稲穂はほとんどが刈り取られたように荒れていた。
 だが、倒れている者は一人たりともいない。
 屍は、ひとつもない。
 まるで死地などなかったかのように、そこには穏やかな風だけが吹いていた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 救出依頼、お疲れさまでした。
 3人無事に生還できたのは、皆さまの献身と尽力の結果です。
 鬼人たちと、そして依頼主の感謝はとても言い表せぬものだったでしょう。

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