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シナリオ詳細

あーした天気にしておくれ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 雨が降っている。
 静かな村に雨音だけが響いている。
 雨が地面を打つ景色を窓辺で憂鬱そうに眺め、シレーネは胸の奥から息を吐き出した。

(今日、リズとお出かけだったのにな)

 約束していた日に雨が降るなんて、本当についてない。
 今年は不思議と雨が多かったけれど、今日はなんとなく晴れるだろうって信じていたのに。
 期待した分だけ裏切られたという失望は大きい。
 なんて、自分の手が届くことのない事柄にぶつけてみても仕方ないのだけれど、その気持ちの行く場所は目に映る存在に向けられやすくなる。

(雨なんて大キライ)

 屋根の上を雨がうるさいぐらいに叩く。
 こんなに大雨だと、近くの街に働きに出ている兄も戻らないだろう。
 裏の畑の作物に水やりをしなくてもいいのは楽だけど、それと引き換えと考えるにはまったく吊り合わない。
 いつの間にか霧も出てきて、さらに気持ちが落ち込んでいくのがわかった。

(早く止めばいいのに)

 雨は楽しみを奪うばかりか、ままならない苛立ちや不満までも増幅させていく。
 空に祈ったってそれを叶えてくれた試しなんてない。
 ああ、あの時もそうだ。
 妹が水量の増した川でいなくなった日も雨が降っていた。
 涙と雨でぐちゃぐちゃになったから覚えている。
 雨が全部を奪っていく。全部全部、大切なものを全部。

(本当にイヤだ。――イヤだよ、もう)

 降りやまない雨にもう一度溜め息をついて窓辺から離れる。
 その窓を、ふよふよ。白い影がいくつも横切った。



「テルテルが現れたのです!」
 場所が記された地図を机に広げ、『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)が勢いよく告げた。
 てるてる? と首を傾げる、あるいはその形を思い出すイレギュラーズに、テルテルなのですとこくこく頷き返す。
「まるい頭にまっしろな布を被った、雨の日に現れる魔法生物らしいのです。村の周りをふよふよ浮いていて、眺めている分には害はないのですが近づくと首を切られそうになるそうですよ」
 とても恐ろしい魔法生物だった。
 依頼書を見て、物憂げに眉根を寄せながら彼女は言葉を続ける。
「テルテルの霧に巻かれると、なんだかいやーなことを思い出したりいやーな気分になっちゃうみたいなのです。その村の人たちはずっとどんよりとした気分が続いていて、やる気が出なかったりノイローゼになっちゃったり……ついには自殺しようとする子も現れちゃったのです。余裕があれば村の人たちの心のケアもしてほしいですよ」
 はきはきと情報を告げ、ユリーカはイレギュラーズと視線を交わして頷いた。
「ここ最近この村にひどい雨が続いていたのはテルテルの仕業もありそうなのです。雨に濡れて風邪をひかないよう、気を付けてくださいね!」

GMコメント

●目標
 テルテルの討伐

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

●フィールド
 時刻は昼頃。雨が降って少しぬかるんでいます。

●テルテルについて
 地面から30センチ程を浮いている、丸い頭に白い布を被り首元を縛ったような姿の魔法生物です。近接すると鋭利に硬化された布で首を狙ってきます。テルテルは点々と建っている家や、畑の間を彷徨っているようです。

『小テルテル』×30体
 体長1メートルの小さい個体。
 攻撃時は布の部分が硬化し、主に首を狙ってきます。
・布斬り:物至単にダメージ
・いやーな気持ち:広域に霧【懊悩】

『大テルテル』×10体
 体長2メートルの大きい個体。
 攻撃時は布の部分が硬化し、主に首を狙ってきます。
 小テルテルよりも攻撃の範囲が広いようです。
・布斬り:物至単にダメージ
・布斬り飛ばし:物近単にダメージ
・首切り:物近単にダメージ【必殺】
・いやーな気持ち:広域に霧【懊悩】

●いやーな気持ち
 テルテルの霧の中にいると、いやーな気持ちになったり過去のいやーなことを思い出したりするそうです。【懊悩】がつく可能性はありますが、思い出した内容で戦闘自体が不利になることはほぼありません。
 行動に影響するほどいやーなことを思い出す場合、プレイングに記載いただけると幸いです。

●ご挨拶
 初めまして、白葉うづきと申します。
 皆さんの冒険が素敵なものになるようお手伝いできればと思います。

 雨が続くと気分が落ち込みやすいですね。
 この村に晴れを取り戻していただけたら嬉しいです。

  • あーした天気にしておくれ完了
  • GM名白葉うづき
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年07月07日 22時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ヒィロ=エヒト(p3p002503)
瑠璃の刃
シラス(p3p004421)
超える者
ェクセレリァス・アルケラシス・ヴィルフェリゥム(p3p005156)
鉱龍神
美咲・マクスウェル(p3p005192)
玻璃の瞳
アカツキ・アマギ(p3p008034)
焔雀護
浅蔵 竜真(p3p008541)
シュヴァイツァー(p3p008543)
宗教風の恋
只野・黒子(p3p008597)
群鱗

リプレイ


 しとしと、静かに雨が降り続いている。厚い雲に隠された空は頼りないほど暗く、とろりとした乳白色の霧が村の周りにまとわりついていた。当たる雨は穏やかだが冷たく、ずっと当たっていれば体の芯まで冷えてしまいそうだ。
「てるてる坊主ーてる坊主ー 明日天気にしないなら殺してしまえ てる坊主ー♪
あれっ、天気になるまで待とう てる坊主ーだったっけ?」
 陰鬱とした周囲の雰囲気に似合わない明るい声。『咲く笑顔』ヒィロ=エヒト(p3p002503)は浮かんだ言葉を歌うよう紡いだ後、しっとりした狐耳と尻尾をぴんと立てた。
「でも今回はのんびり待ってられないよね」
「そうだな。早いところ片付けちまおうぜ」
 雨に濡れた頭を振りシラス(p3p004421)も頷く。遠目に見える薄白色の中は全貌が見渡せない。晴れるともわからない霧の中で、村人たちは次第に心を削られていっているのだろうか。
 太陽を覆い隠すほど大きく泣き濡れた雲と共に現われ、心に影を落とし、さらには命をも刈り取らんとする。まるで人の心を弱らせ喰い物にしているように。
「作った奴はどれだけ人間が嫌いなんだよ。やるせなくなるね」
 『宗教風の恋』シュヴァイツァー(p3p008543)は色違いの瞳を同じように細めた。大好きな、大好きな人間。その皆を苦しめる魔法生物。これを造り出す気が知れない。
『本当は、明日が晴れますようにっていうおまじない……だった気がするのに』
 角度により緑や金、紫に見える異形の結晶体――本来の姿をとっている『天晶鉱龍』ェクセレリァス・アルケラシス・ヴィルフェリゥム(p3p005156)の思念波が、考えを巡らす音となって響いてきた。翼や触手は雨に濡れ、結晶の肌は様々な色に鈍く光っている。
「ああ。随分物騒なてるてる坊主があるんだな……」
『雨を呼んで更に気分を沈ませるって、むしろ逆だよね。偶然似てるだけなのかもしれないけど』
「元は人工物。それを模っただけの魔法生物……なのだろうか」
 知識の中に在る“てるてる坊主”とは随分かけ離れた存在に、『出来損ないの英傑』浅蔵 竜真(p3p008541)も深い色を湛えた黒と紫の瞳を細める。その横からひょこりと灰髪のハーモニア――『放火犯』アカツキ・アマギ(p3p008034)が顔を出した。困っている村人とその原因となる魔物、するべきことは明白だ。金色の瞳は先を見据え、しなやかな指を村に向ける。
「ともあれ、恐ろしきはテルテル! 村の皆をいやーな気分にしたり、果てはその影響で自殺未遂の者まで出したりと油断ならぬ相手! 皆、気を強く持って行くのじゃー!」
「うん! 嫌な気分も元凶も、全部吹き飛ばそ!」
「オー!」



 玉虫色に光る7枚の翼を広げ、ェクセレリァスは空を飛ぶ。村は薄い乳白色に沈んでいた。けれど、ェクセレリァスの瞳に加え、霧雨の中でも高さを調節すればあまり広くない村の全貌を知るのは難しくない。
『敵40体確認、今は村の中に全部いるみたいで方々に散らばってる。12時の方向に広めの広場があるからそこに集めるのが良いかも。霧の濃いところは大きな個体がいたり、数が多いよ』
「了解しました、ヴィルフェリゥム嬢。索敵後、そこへ誘導します」
 ェクセレリァスからの偵察結果を頭に刻んだ『群鱗』只野・黒子(p3p008597)は、三白眼を村に向け即座に行動予定を組み上げる。友軍と手分けをしながら敵をひとまとめにする、それも味方の最大火力を如何なく発揮できるように。
「はーい! それじゃ美咲さん、行ってきまーす!」
「いってらっしゃい。気を付けて」
 ぶんぶんと手を振るヒィロに手を挙げ、『紫緋の一撃』美咲・マクスウェル(p3p005192)は白色に紛れていく後ろ姿を見送る。今回は敵の数も多くやることも少なくはないので、些末なことに気を取られにくいだろう。
「嫌なこと、敵のせいでって決めて潰せば済むなら、楽なもんよね」
 今は黒に染まった瞳を姿の見えない相手に向け、顔に張り付く髪を払った。

(思った通り、力が抜けそうな見た目だな)
 家の陰に身を隠し、シラスは浮遊物の様子を窺う。白布を被った丸い頭たちはゆっくりと、ふよふよと不規則に飛んでいる。気配を探りながら、互いが見える程度の場所に出てみても積極的な敵意は見られない。ならばと相手が最も集まった瞬間で飛び出し、立てた親指を首で一直線に横に引く。
「やい、顔無し! 切れるもんなら切ってみな!」
 声を張り上げた刹那、気配が一気に濃厚なものに変わった。明確に向けられる殺意。自分へと殺到するテルテルたちを確認するとシラスは泥を撥ねながら風のように走り出す。もっと、もっと数を引きつけて仲間の元へ!

 家屋から塀へ、塀から家屋へと場所を移しながら黒子は霧の中を探っていた。相手は浮遊しているため足音も足跡もない。逆に雨で濡れた地面を移動する音は多少なりとも響いているはずだが、雨音のせいか、それとも音に頓着しないのか気付かれる気配はなかった。
(いましたね。さて)
 どうも音や痕跡に反応している様子ではない。雨に濡れる中で思考を重ね、確実ともいえる手段を用いる。白布が最も集まった一点に狙いを定めイメージする、冷静さを奪う技――白布たちが動きを止めた。こちらに向かってふらふら近づいてくる。その速度は遅い。
「よし。早く皆のところへ――ッ!?」
 振り返った瞬間走る痛み。首元から垂れる雫に気付いた途端、黒子は泥を蹴って走り出した。恐らくは浮遊中に意図せず己へ近づいていた個体。ここは霧が深く視界の悪い場所、ならば気づかない内に背後に回られる可能性は高い。――けれど役割に違わず多数の敵を引きつけることができた。広場へ向かい、黒子は走る。

(うーっ……なんか、いやーな感じ)
 敵を集めるべく、家屋の周りを索敵していたヒィロの額に皺が寄る。霧の中は重苦しく、雨音と一人で泥道を駆ける音だけが響いていた。雨は体温を奪い肌が冷たくなる。あの頃みたいにお腹が減った気がする。さむい、――さびしい。
「――ううん、だいじょぶ!」
 濡れた頬を軽く叩き、透きとおった緑で前を見据えた。今は違う。一緒に居てくれる大切な存在――美咲さんがいる。彼女の声が、笑顔が、温もりが、寂しさの代わりに喜びで満たしてくれる。
「悩むことはあるよ。けど、それ以上の歓びを心に纏えれば、人はいつだって前に生きていけるんだ!」
 ヒィロの心が前を向く意志で満たされる。少し先の風景を見ながら、金色の尻尾は村を走り回る。

「お待たせ!」
 分担場所を駆けまわったシラスが広場に姿を見せる。引きつけては走り、走っては引きつけを繰り返した結果、両手では治まらない数の白布を引き連れていた。シラスの背後で白い山がわさわさ蠢いている。
「待っておったぞ、それだけ連れてきてくれれば十全じゃ。後は任せよ!」
 アマギの腕に刻まれた炎の印が赤に、青に光り輝いた。濃密な力が集まると、いくつも連なった雷撃がテルテルたちへと襲い掛かる。蛇のようにうねりのたうつ光は白布の群れに届くとほとんどの姿を焼き尽くした。
「まだ動いておる!」
「任せてくれ」
「もちろん! ここからが本番だ」
 焼き焦げ散り散りになった白布が舞い散る敵陣、そこへ竜真とシラスが乗り込み、雷撃を免れたテルテルたちを相手取っていく。竜真の拳が布を切り裂く傍らで、シラスは軽やかなステップで布の攻撃を躱す。残る布も協力を重ねればなんなく対処できるだろう。その上後衛の仲間も次を準備している。負ける気がしない。動かなくなった白布を前に竜真は頷く。
「霧は濃いが、何とかなりそうだ」
 雷撃を放った後、ぐらりと力を吸われる感覚がアマギを襲う。これが聞いていた霧の効果だろうか。そして強制にも似た力で、わずかに途切れた集中の隙間を陰鬱としたイメージが支配した。
 炎の力が身に宿るまでの記憶、その力に目覚めた後に投げられた冷たい視線。
 沈殿した心のまま炎が揺らめき広がった光景。燃え盛る炎、向けられる敵意。
 忘れることのない、ロクでもない。
「――まったく、迷惑な霧じゃ。人の想い出を勝手に呼び起こしおって」
 頭を振り、アマギは目の前に集中し直す。

(ぁー……鬱陶しい。じわじわくるなぁ……)
 広場の一角、茨の結界が張り巡らされたその中心で美咲は眉を寄せる。茨がヒィロの連れてきた布を裂き、その白布が放つ斬撃は美咲に届くことはない。けれど執拗に首を狙う姿、降りやまない雨、そして視界をけぶらせる霧がちくりと胸を刺す。聞こえるはずがない、とうに過ぎ去った遠い遠い一部分。
 ――お前の価値は、首から上だけだ。
 蛇のように絡みついて離れない、呪いのような。
「チッ……見る目もない連中のことなんて、今の今まで忘れてたのに」
 露骨に舌打ちを響かせる。思い出すと吐き気がしそうなほどイラついた。そして気付く。ああ、そうだ。こんな気持ちになるのはこいつらのせい。虹色が煌めき、白布の身体がまた引き裂かれた。
「ヒュウ。すごいね、俺も頑張らないと」
 しゅー、しゅーと息を零し、ガスマスク越しに広がる風景に感嘆する。シュヴァイツァーはやる気と共に傍らに刺してあった日本刀を手に握る――のではなく柄の先から伸びるチェーン、そのキーホルダーリングにするりと指を通し引き抜いた。そのままリングを操り、遠心力のまま振り回す。名前は『片袖の魚』。ふざけた武器。
 玩具のように振り回していると徐々に炎が漏れ出す。その炎はシュヴァイツァーの意のまま、引き裂かれた白布に向かって飛びつくとその布を燃やし尽くした。
(――Killer Bee。……鬼ら火。調子いいかも)
「美咲さんこっち! やっちゃってー!」
「任せて」
 ヒィロの動きに白布はついていけず何度も布は空を切る。茨がしなり、ヒィロに魅入られた白布を撃った。頭を裂かれたテルテルは破裂するようしぼみ力なく布が舞い落ちると、ほぼ原形の残っていない白布をシュヴァイツァーが焼く。
「大きいの2体、小さいの5体討伐完了!」
「ヒィロさんが連れてきた分は片付いたかな」
 時間はかかったが、距離をとって対処していたおかげで目立った怪我はなさそうだ。走り回ったヒィロだけは泥はねがすごかったけれども。
「――よし! まだふらふらしてないか探してくるね」
「休まなくて大丈夫?」
「まだ平気!」
 再び見送られ、雨の中ヒィロは走り出した。声を張り上げ、霧から逃れられない村人たちに呼びかけていく。
「もう心配ないよ、ボクたちが来たからね!」

 テルテルたちが残した霧はまだ晴れない。雨がシュヴァイツァーの髪を、服を濡らし、身体の温度を奪っていく。地面を打つ雨の音が消えない。
 雨の先から、足音がする。
 背を向けた『私』を追いかけてくる――昔の婚約者の顔。
(自分から裏切ったくせに)
 何を思って追い縋ってくるのだ。そんなもの、望んではいない。
(そんな貴方に、『私』は心底振り回されてっ……!)
 ガスマスクの中で歯が軋んだ。
 心を通い合わせ、乱され、そして――
 肩を叩く温度で我に返る。視線を向けると、心配そうに顔を覗きこむ美咲がいた。
「平気?」
「……ああ、悪いね。ちょっと嫌なことを思い出してた」
「他の応援に行きましょう。じっとしてるとよくないわ」
「そうだね、集中するよ。大好きな皆を救わなきゃ」
 仲間、村人、そして見知らぬ誰かだってみんなみんな大好きな存在。頷き、シュヴァイツァーたちは雨に紛れた戦闘音の元へと急ぐ。


 天が裂け地面が砕ける。
 掬い上げることが叶わないまま目の前の光景は崩れ去っていく。
 自分を形作った全てが圧倒的な力によって飲み込まれていく、鮮明な、
(――忌まわしい記憶)
 記憶と共に這い上がってくる不快感。ェクセレリァスは上空で大きく翼を動かし、触手を蠢かせる。これはそう、8000万年ほど前だったか……いずれにせよ気分の良い思い出ではない。
 不意に視界に影が走る。ェクセレリァスの視界が捉えたのは、白布を引き連れる黒子。
『伏せて!』
 鋭い声。瞬間、ェクセレリァスの触手が無数の剣に転じ、白布の四方から突如現れ鞭のように襲い掛かった。全周囲からの攻撃、さらに不可思議な質感をもつェクセレリァスの使い魔たちが現れ、翼の刃で、放つ光線でずたずたに引き裂く。
「お見事です、ありがとうございます」
『よかった。けどまだいるよ!』
「負担をかけた分は妾の火力できっちりお返しするぞ!」
 アマギの両腕が光り雷撃が走る。うねる雷撃の中で焦げた個体を竜真の拳がきっちり打ち抜き、シュヴァイツァーの炎は塵も残さず焼き尽くした。美咲の回復をもらうと、黒子も後衛たちの盾となるべく戦場へ走った。回避と防御を駆使し、後衛に近づこうものなら立ちはだかり、意識を自分へ向けさせ強引に引き戻す。
「追加だぜ!」
「連れてきたよー! これで全部、のはず!」
 シラスとヒィロが残りのテルテルを引き連れてきた。敵は半数以下残っている、総力戦だ。
「首ばっか狙って来るの見え見えなんだよ!」
「美咲さーん! この辺も!」
 シラスは攻撃を避け続け、ヒィロと美咲は連携して敵を潰していく。少しでも敵が固まれば、ェクセレリァスの集束した魔力が金色の光となって白布たちを焼いた。ゆらゆらと揺れる白布が攻撃の手を緩めることはなく、食い止める前衛たちに傷は増えていった。けれど一体一体確実に数は減っていく。
『1匹残らず駆除する!』
「誰にだって触られたくない想い出はある。無理矢理それを想起させるというのなら、妾の炎でお主らを霧ごと焼いてやるのじゃ!」
 雫を飲み干し、息を吐いたアマギが再び腕を光らせた。
 引きつけ、まとまったところを狙い、残らずせん滅する。役割とそれぞれの力が噛み合った結果、蠢いていた白布がいなくなるのにそう時間はかからなかった。



「……寒いわね。気晴らしに温泉とか行こうか」
「いいかもしれませんね」
 アマギの持ってきてくれていたタオルを配る黒子に、髪を拭きながら震える美咲がぽつりと零す。時間がかかったためか身体はすっかり冷えていた。視線の先では何人かのイレギュラーズが村人のケアに当たっている。
「自分のせいとか考えるのは魔物のせい。脅威は排除したから落ちついて」
「悪いヤツはもうやっつけたのじゃ、安心してよいぞ!」
「皆、大変だったね。でも雨も霧も晴れたように、曇った気持ちも湿った思い出も必ず喜びに変わるから。心の太陽はきっと皆の中に、皆のすぐ側にいるよ!」
 人の姿に擬態したェクセレリァス、そしてアマギとヒィロは外に出てきた子どもたちに声をかけていた。不安そうな表情は言葉を重ねるたび、その色を薄くしていく。

「ちょっといいか?」
「……なぁに」
 竜真は村人に話を聞き、小さな診療所に足を運んでいた。目元を濃くし、ベッドの上に蹲る少女の傍で膝を折る。
「俺は竜真っていうんだけど。一緒にてるてる坊主を作らないか?」
「てるてる……ぼうず……?」
 きょとんとする彼女に柔らかく説明する。あの魔物に似た姿だけれど、太陽を願うささやかな、本当のおまじない。
「君だって、晴れた空が見たいだろ?」
「……うん。お兄ちゃん、帰ってくるかな」
「もちろん。きっと願いは届く」

「ずっとこんな雨と霧の中にいちゃ、確かに憂鬱になるかもな」
 泥がはねた身体を拭きながら、ふと、シラスの脳裏に思い出す光景があった。
 まだ年端もいかない子どもの頃、雨の降る日はいつも嫌なことが起こっていた。
 雨が嫌なことを運んできたみたいに。
「けど今に、どうということもない過去に変わるさ」
「――そうだね。いつか、雨は止むよ」
 シュヴァイツァーは空を見上げる。この村の雨も霧も、もうじき晴れるだろう。


 ――後日。
 ローレットに滞在するイレギュラーズ宛てに、子どもたちから感謝の手紙が届いた。そこには感謝の言葉と、可愛らしい白布頭と、手紙いっぱいに書かれた虹。
「お姉ちゃん、お兄ちゃんたちのこれからが、晴れでいっぱいでありますように!」


成否

成功

MVP

シラス(p3p004421)
超える者

状態異常

浅蔵 竜真(p3p008541)[重傷]
只野・黒子(p3p008597)[重傷]
群鱗

あとがき

翌日に村はすっかり晴れ、いつも通りの日常、大切な人との時間を過ごしているようです。

ご参加いただきありがとうございました!

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