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シナリオ詳細

獲りまくれ! アブリマグロ・グンダン!!

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●とある町の一幕
 穏やかな海を眺める、小さな町があった。
 海が近ければ漁業にステ振りするのは世の摂理である――てなわけでその町も近海での漁が盛んであり、漁師たちはせっせか海に出る日々を送ったりしている。
 しかし!
 そんな漁師たちが目の色を変える出来事が、その日は起きていた!

 漁港近くにある、町の集会場。
 そこに、多くの人々が集まっていた。みな熟練の漁師なのだろう。どいつもこいつも日に焼けた肌が浅黒く、顔には深い皺が刻まれている。加齢臭とかすごい。
「心して聞くのじゃ……来たぞ、アブリマグロ・グンダンが!!」
 白い眉毛と髭がもっさもさの漁師の長らしき老人が、くわっと言い放つ。
「あのアブリマグロ・グンダンが!?」
「炙ったかのような味わいを持つ身が特徴のアブリマグロがめっちゃ固まってる群れ――アブリマグロ・グンダンが!!?」
 説明臭い台詞でしこたま驚く、両脇のおっさん。
「本当にアブリマグロ・グンダンが来るんですか……?」
「うむ。今朝、海に出ていたマッさんが目撃したらしい」
「その道45年のマッさんが!」
「それなら間違いないですね!」
 確信を得たおっさんずが身を乗り出す。マッさんの絶対的信頼感。
 同時に集会場にいた漁師たちもざわざわと話し出した。アブリマグロガーとか口々に言ってる皆の表情は期待に満ちている。
 それもそのはず。アブリマグロは高値で売れる。そのアブリマグロが群れで現れたとなりゃ浮き足立つのも仕方ねー話なのである。ちなみに『アブリマグロの群れ』でいいところをなぜ『アブリマグロ・グンダン』と言うかは謎だ。
「こいつはのんびりしちゃいられない。ここにいない男衆にもすぐ声をかけなくては!」
「アブリマグロの捕獲は骨が折れる仕事ですからね!」
「うむ! すぐに招集するのじゃ! 特に若い奴は絶対連れてくるのじゃ!」
 いそいそ、と動き出す長の爺とおっさんたち。
 だが、そのときである。
 集会場の隅っこにいた若い男――この集会場にあってただ1人の若者と言ってもいい――が爺たちに向けて言い放った。
「青年会を代表して言わせてもらいます! 俺たちはアブリマグロの漁には出ません!!」
「「「な、なにぃぃーーー!!?」」」
 目ん玉飛び出る勢いで驚く爺とおっさんず。周囲の漁師たちもざわついた。
 なぜ、どうして……彼らはもちろん問いました。
 で。
「俺たちに危険な仕事を押し付けるからですよ! あの凶暴なアブリマグロの相手をするのがどれだけ大変か! 俺たちはもうアレに怪我させられるのは御免なんです!」
「いやでも体力のある若者に頑張ってもらわんと……」
「爺やおっさんが頑張ってもたかが知れてるというか……」
「一緒に海に出る以上は対等でしょうが! それをあなたたちはやれ腰が痛いだのやれ老眼になってるからだの……誰がそんな人たちの言うことを聞くと思います!?」
「くっ……ぐうの音も出ない!!」
 完全にやりこめられる爺たち。周りの漁師たちもそっと目を逸らす。
 ダメ漁師しかいなかった。
 がっくりと膝をつく爺とおっさんに背を向けて、若者は集会場の扉に手をかける。
「とにかく! 俺たちは漁には出ません! わざわざアブリマグロを獲らなくても別にやってけるんだし……どうしても獲りたいならご自身で頑張ってください!」
「「「あぁーっ! 待ってぇぇーー!!」」」
 呼び止める爺たちの声は、去ってゆく若者の背中にあたって虚しく落ちた。

●たすけてローレット!
「――という経緯で、ローレットにお仕事が回ってきたのです!」
 長~い話を一人芝居で説明しきった『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)が、イレギュラーズたちの前で釣り竿(糸つけただけの枝)を振る。
 依頼は至極簡単。
 失われた若い労働力の代わりに、アブリマグロを獲ってもらいたい。
 それだけの話だった。ローレットに出す依頼料は痛いが背に腹は代えられない。というかイレギュラーズに任せれば怪我をする漁師も出ないし、むしろベストな選択肢なんじゃねって結論になったらしい。
「アブリマグロはとっても美味しい鮪なのです! 生なのにまるで炙ったかのように感じる味と食感が評判で……そのアブリマグロをさらに炙ったりしたらもう意味がわからないほど美味しいらしいのです!!」
 やたら熱弁するユリーカさん。
 何なのでしょう。飛行種だからですかね。
「しかもどうやら今回のアブリマグロ・グンダンはとても大きな群れらしいのです! お爺さんたちは『成果次第では分け前としてあげても可』って言ってます……つまり獲れば獲るほどアブリマグロが貰えるのです!」
 なんだって――とイレギュラーズたちに衝撃が走る。
 鮪が貰えるなんて、これはいよいよ美味しい話である。食えば美味しく、売れば金にもなろうアブリマグロに俄然興味が湧くというものだ。
 その視線を感じたユリーカはふふんと笑った。
「乗り気になったみたいですね! では肝心のアブリマグロの説明に入るのです!」
 ぽいっと釣り竿を放り捨てるユリーカ。
「アブリマグロは凶暴すぎて、とても釣り糸なんかじゃ引きあげられないのです!」
 釣れねえのかよ!
 釣り竿(糸つけただけの枝)持って登場しちゃったら、なるほど釣り上げる仕事なのねって思うでしょうが! 海釣りの仕事かって思うでしょうが!
「敵はそんな甘い魚じゃないのです。海中を猛スピードで泳ぎ、近づく者にはそのでっかい体で全力タックルをお見舞いするさまはギャングなのです。海のギャングなのです」
 ユリーカの話を聞くに、どーやらアブリマグロさんはとにかくデカくて速くて喧嘩っ早いらしい。釣り糸とか投網なんて速攻でぶっちぎれるらしい。
 しかも結構深くに潜って活動してるもんだから船上からの攻撃も届かない。だから必然的に海中での待ったなし肉弾戦が強制されるみたいで、その結果としていつも町の若い漁師たちがズタボロになっているようです。
 そりゃ、ボイコット不可避ですよね。
「そこで皆さんの出番なのです! 海に潜ってアブリマグロの大群……アブリマグロ・グンダンと戦い、たくさん捕まえてきてください!!」
 ぺこりと頭を下げるユリーカ。
 アブリマグロ・グンダンのポイントまでは町の漁師が船で連れてってくれるらしい。海中での活動ができるように酸素ボンベとかも揃っているようだ。
「アブリマグロを獲れれば町の人もハッピー! 皆さんもハッピー! とってもいいことずくめなのです! よろしくお願いするのです!」

GMコメント

 どうも、星くもゆきです。
 美味しいものを食うのにも、一筋縄じゃいきません!

●成功条件
 アブリマグロを最低40匹確保する。
(参加PC数が7人以下の場合はPC数×5)

●アブリマグロ×たくさん
 凶暴な気性を持つ鮪。
 群れだとなぜかアブリマグロ・グンダンと呼ぶ。
 体はでかいが泳ぐスピードが速く、反応や回避が高い。対して耐久力は低い。
 一般の漁師たちでは捕まえるのも大変だが、イレギュラーズにとっては1匹1匹はさして脅威ではない。けど大量に群がられるとさすがにヤバいから気を付けよう。
 いったん仕掛けると群れで応戦してくるので、逃げられる心配はありません。
 数がめっちゃ多いため全討伐はできません。
 上々の収穫だぜって辺りで引きあげましょう。

●アブリマグロの身
 脂が乗りまくってとっても美味しい。
 生で食っても炙ってあるかのような食感と味わいを持つ不思議な鮪。
 炙ると意味がわからないぐらい美味いらしい。

●状況
 穏やかな海の中です。
 そこそこ深いですが日光が届かないほどではありません。
 水中で動きにくく、スキルなりアイテムなりの緩和がなければ、命中・回避・機動力に大きくマイナス補正がかかります。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

  • 獲りまくれ! アブリマグロ・グンダン!!完了
  • GM名星くもゆき
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年07月04日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

零・K・メルヴィル(p3p000277)
つばさ
ゴリョウ・クートン(p3p002081)
黒豚系オーク
桐神 きり(p3p007718)
セレマ オード クロウリー(p3p007790)
性別:美少年
アカツキ・アマギ(p3p008034)
焔雀護
陣雲(p3p008185)
忍び
イルリカ・アルマ・ローゼニア(p3p008338)
ローゼニアの騎士
エミリア・カーライル(p3p008375)
新たな景色

リプレイ

●船上にて
 強い海風が顔にぶつかって、髪を巻き上げてゆく。
 海上を進む漁船に立つ桐神 きり(p3p007718)は、水平線を見つめた。
「マグロいいですね」
「まったくだ」
 隣に並ぶ遥かに大きな体躯は、『エアリアルホッパー』陣雲(p3p008185)だ。
 顔に傷を刻んだ偉丈夫は天を仰ぎ、目を閉じた。
「こちらの世界でも鮪を食べられるとは……しかもかなり美味と聞けば、是非とも食してみたい」
「仕事が終わったら、刺身なりお寿司なりにして美味しく頂きたいところですね」
 舌に乗るマグロの身を想像して佇む2人。
 怪我人を出してまで獲ろうと言うのだ。アブリマグロなる魚がどれほどの美味かと期待するのは無理からぬことだろう。それは陣雲ときりに限った話ではない。
 両手でがしっと水中ボンベ抱いてる少女――『放火犯』アカツキ・アマギ(p3p008034)に至っては危うく垂涎するところだった。
「意味がわからないほどに美味しいマグロ……」
「アブリマグロ、どんな味なんすかね。楽しみっす」
 船端にいた『鋼鉄の冒険者』エミリア・カーライル(p3p008375)が、ぐっと身を乗り出して海面を見下ろす。
 風で暴れる銀髪を押さえながら目を凝らすが、魚影は見えない。
「ほんとに下のほうに潜ってるんすね。影も形もないっす!」
「……捕まえるの、大変そうだね」
 縁に両手をついて同じように海を見ていた『ローゼニアの騎士』イルリカ・アルマ・ローゼニア(p3p008338)が、ぽつり。
 初めての港町に昂り、あちこちふらふらして町のおっさんたちに探された女は決然と顔を上げた。
「……がんばっていっぱい獲ろう」
 やる気満々だった。
「頑張れば分け前も貰えるらしいし張り切って行くのじゃ!」
 アカツキさんも食う気満々だった。
 他方、逆の船端では『出張パン屋さん』上谷・零(p3p000277)が真剣な顔で海を眺めている。
「アブリマグロ・グンダン……!! 痛いのは嫌だが……これは魅力的な話だよな」
 ぶつぶつ言ってる零。
 その脳内では、チャラチャラと金貨の擦れる音が鳴っている。
「金にもなるし食っても美味いときた! だったら是が非でも沢山食ってやるよ……じゃなかった、沢山獲ってやるさ……」
 ワンチャン懐が潤う――そう思うだけで男は燃えていた。
 アブリマグロ獲得へ向けた昂揚が漂う船上。
 手持ち無沙汰でぐるぐると歩き回っていた『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)は、その豚面の口角をにやりと上げる。
「どいつもこいつも気合が入ってやがるな! ぶはははっ!」
「仕方がないことだろうね。なにせアブリマグロだ」
 大笑いするゴリョウに向けてそっと言葉を挟んだのは、『性別:美少年』セレマ オード クロウリー(p3p007790)だ。
 死ぬほど美少年な美少年は、空を見て過去に思いを馳せる。
「若いころはアブリマグロ目当てに飲み屋をハシゴしたことがあったっけ。それがいまこうしてアブリマグロ漁に参加するとは……リヴァイアサンの時もそうだったけど磯臭いな」
「飲み屋をハシゴ……」
 セレマへ胡乱な目を向けるゴリョウ。
 だがセレマはあくまで凛然と、視線を返した。
「ちなみにボクはこの道云十年の老舗美少年だからここまでの発言に一切不自然はない。わかるね?」
「お、おう」
 きっぱり言い切る美少年。その圧に首を肯けるしかないゴリョウ。
 と、そこへ――。
「着きましたよ、ローレットの皆さん!」
 船首にいた漁師のおっさんからの声が一同に届いた。
「っし。それじゃ仕事を始めるかぁ!」
「水に濡れてボクの魅力がさらに増してしまうが、仕方ないね」
 ゴリョウが船体の縁にどかっと足をかけ、セレマが涼しい顔をしてその隣に立つ。
 そして次の瞬間には――2人は海中へ飛びこんでいた。

●漁の時間だ!
 水中へと身を落として――。
「アブリマグロ・グンダン、見つけたぜ!」
 ゴリョウはセレマへと声をかけた。推進エンジン付きの全身鎧越しの声はひどくくぐもっているが、近くにいるセレマへ聞かせるには十分だ。
 大きなマグロの群れが、少し先にいた。巨大な体を並べて隊列を作っている。
「さっそく奴らを引きつけてやるとするか」
「なに、漁業は美少年の得意分野だ。任せてくれ」
「漁業が……」
「見ていればわかるとも」
 またもや胡乱な目をするゴリョウの前で、セレマが海中に歌声を響かせた。
 すると、だ。
「――!」
「――!」
 その声に反応したアブリマグロたちがセレマへ突進してくる。ものすごい速度でだ。ガチで何十体と向かってきてる。
 しかし、セレマは余裕そうに微笑んだ。
「なにを隠そう、ボクはどの文化圏からも美少年として扱われるんだ。間違いなく魚類にも通用するだろうし、その魅力にとりつかれてやまないはずだ。つまり漁業は美少年の――」
「――!!」
「美少年ーー!!」
 ゴリョウの見てる前で、一気に魚群に呑まれる美少年。
 けどすぐ「まぁ大丈夫だろ」と思ったのでゴリョウは敵群に向き直った。
 そして――。
「ぶははははははははっ!!!」
 海中に咆哮を放った。
 重い衝撃が水を伝わりアブリマグロ・グンダンを襲う。ダメージはない。だが威圧感は魚たちの注意を奪い去るには十分で、群体は焦燥に駆られてゴリョウへと群がった。
「――!」
「ぶはははっ! さぁどんどん来やがれぇ!」
 歓迎するように両手をひろげるゴリョウに殺到するアブリマグロ。瞬く間に色黒オークは魚の群れに覆われて見えなくなる。船上で零の焼きたてフランスパンを体にすりつけてたのも地味に効いてるかもしれない。
 それを見て、魚群タックルくらって力なき浮遊体になってたセレマがしれっと復活する。
 で、海上へ顔を向ける。
『仕掛けは上々だ。降りてきても大丈夫だよ』

 ――船上。
「おっ、合図じゃな? マグロ漁の開始じゃー!!」
「いざ戦闘開始と行きましょうー」
 海中から昇ってきたセレマの声を確認して、アカツキときりが船体を蹴って跳ぶ。宙に身を躍らせた2人はそのままどぼんっと海へダイブした。
 待機していた零も、目元にゴーグルを装着する。
「獲りまくってやるぜ!」
 頭から海中に飛びこむ零。
 潜水した3人が、ゴリョウとセレマとアブリマグロ・グンダンを見つけるのにそう時間は要らなかった。
「マグロが大漁じゃ!」
「めちゃくちゃ群がってますね」
「全力で行くぜマグロぉ……!!!!」
 アブリマグロ・グンダンに目を見張るアカツキときりに先んじて、零が唐突に超巨大なフランスパンを生み出し、手近なアブリマグロの口にぶっこむ。
「くらえぇぇーー!!」
「――!?」
 口内を射抜かれたアブリマグロがバタバタと身もだえる。
「いきますよー。感電しないよう注意してくださーい」
「えっ!?」
 零が振り返る間もなく、きりの手から一条の雷光が奔る。超速で伸びゆく槍のような雷撃は巨大フランスパンをくわえたアブリマグロを貫き、延長線上にいた数体をも貫通して海の彼方へと消えてゆく。
 水中を揺蕩うアブリマグロ。
 そしてしゅばっときりを振り返る零。
「すっげぇ危なかった気がするんだけど!?」
「だから注意してくださいって」(眉ひとつ動かさないきり)
「感電にどう注意しろと!?」
「アブリマグロ、一網打尽じゃー!」(チェインライトニングぶっ放すアカツキ)
「アーーッ!!?」
 きりの雷撃に物申していた零の後ろで、アカツキの放ったうねる雷撃がぐるぐるとアブリマグロたちを絡めとる。思いっきり感電したアブリマグロは2体ぐらいぷかぷかした。
 見事に獲物を仕留めてアカツキは胸を張ったが、少ししてからハッとする。
「よくよく考えたら水中で雷はまずいのでは……? 誰か痺れたりせぬように気をつけるとしよう」
「本当に頼むぞ!? 2人とも頼むぞ!?」
 縋りつかんばかりにお願いする零だった。
 が、広範に及ぶきりとアカツキの雷撃が有効だったのも揺るがぬ事実。
「今のうちに倒せそうなものを仕留めるとしよう」
「そうっすねー。じゃんじゃん倒してくっす!」
 零たちと一拍遅らせてダイブしてきた陣雲とエミリアが、先の攻撃で弱っているアブリマグロたちへすかさず攻撃を繰り出した。
「串刺しで確保っすよー!」
「魚を捕らえるとなれば、やはり突いたほうが良いだろうな」
 エミリアと陣雲が振るった両手剣が、動きを鈍らせていたアブリマグロの身を穿つ。大きな体をぐっさりと貫かれたマグロがぱっくり口を開けたまま、絶命する。
「ひとまず1匹か」
「まだまだ足りないっすよね。美味しいマグロを食べるためにもたくさん倒すっす!」
「うん。収穫は多いほうがいいよね」
 エミリアの声に応じたのは、イルリカだ。
 言下、イルリカが片腕を海中に振る。抵抗を受けてゆっくり動いた腕からは、しかし不可視の糸が飛んでいた。近くを泳いでいたアブリマグロを四方から囲んだ糸はイルリカが手を握ると収束。鋭く喰いこんで身を切り裂く。
 が、体を断つことはない。身に深く喰いこんだ状態で糸は止まり、絶命したアブリマグロの体はその場に留め置かれた。
「このまま船に運ぼうかな」
「放置しては身が傷つく可能性もあるしな。俺もこいつを上に運ぼう」
「じゃあ運搬はお2人にお任せして、自分はマグロ漁を頑張るっす! 1匹仕留められたしじゃんじゃん獲れると思うっす!」
 糸で捕らえたマグロを引き寄せるイルリカと、剣にマグロを突き刺す陣雲が海上の船へ向かって泳ぐ。その2人に敬礼したエミリアは新たなマグロを獲るべく転進。
 で。
「――!」
「すみません、調子にのったーっす!?」
 仕掛けたアブリマグロに超高速タックルを返され、しゅごぉぉーーっと海中を吹っ飛んでいった。
 思ってたより超早いっす――。
 というエミリアの呟きは、もちろん誰の耳にも入らなかった。

●大漁
 漁は、順調だった。
「ぶはははっ、ぶつかってくるなら殴り返される覚悟も出来てるんだろうな!」
「頼もしいですねーゴリョウさん。おかげで楽させてもらえてますよ」
 アブリマグロたちの攻撃を引き受け、もはやマグロの大鎧つけてるみてーになってるゴリョウ。そんな屈強な壁役に礼を言いつつ、きりは鋭い雷撃を撃ち放ってアブリマグロの群体を削り取った。
「これなら漁獲量も多くなりそうですね」
「そうじゃな。美味しいアブリマグロをたくさん食べられそうなのじゃ……」
 雷撃をバンバン撃ちながら、すでに仕事の後に思いを馳せるきりとアカツキ。ぐったりしたアブリマグロが2人の周囲をすいーっと漂っております。
 それに紛れてセレマもすいーっ。
「だ、大丈夫かの……」
「セレマさん? 死んでます?」
「いや大丈夫。心配かけたね」
 怪訝そうに見てくる2人の前で、けろっと復活するセレマ。
「なに、か弱い人々を守るのも美少年の務めさ。先程から己の限界を超えるダメージを食らっている気がするが大丈夫。美少年は脆く儚い存在だが、同時に永遠でもあるんだ。わかるね?」
「なんとなくは」
「妾はちっともわからんが……まあ無事なら良いのじゃ!」
「ああ、まだまだ仕事はできるさ。美少年は傷つかなアーーッ」
「美少年ーー!!」
 アブリマグロ・グンダンにさらわれ、遠ざかるセレマ。それに手を伸ばしてやりながらアカツキは思った。美少年って何なのじゃ、と。
「あいつら何やってるんだろうな……」
「わからない……が、俺たちは仕事を果たすまでだな」
 コントじみたやり取りを見て呆れる零に、真面目な顔を崩さない陣雲。
 海中を上方へと泳ぐ彼の手は、気絶したアブリマグロの尾ひれを握っている。仕留めて漂っているアブリマグロの身が傷つかぬよう、漁船まで運搬しているのだ。
 そしてそれは零も同じである。
「よし、海上の船までぶち上げるぜ!」
 弱ったアブリマグロの下へと潜りこみ、上へと手を向ける零。無数のフランスパンが弾丸のように飛び出し、命中したアブリマグロの体を勢いよく吹っ飛ばして海面に踊らせる。
「1匹追加っと……さて次次」
「もう30匹ぐらいは獲っただろうか。あと少しか……」
 海面に顔を出し、漁船で待つ漁師たちへアブリマグロを放り投げる陣雲。めっさ笑顔向けてくる彼らを見て順調に事が進んでいるのを確認すると、再びアブリマグロを獲りに海深くへと潜ってゆく。
 と、そこで猛スピードの何かとすれ違った。
「あ、ちょっと、早いっす!? あーっ!?」
 エミリアだった。
 素早いアブリマグロに難儀した女は、剣で突き刺すのを諦めてその手で捕まえる方針に転換していたのだ。
 そして暴れまくるアブリマグロにやはり苦戦していたのだ。
「漁師さんたちが恐れるだけはあるっす……! でも負けないっす!」
 がしっ、と絡ませた腕に力をこめて喰らいつくエミリア。その顔は見る者の気持ちすら引き締めるほど真剣だ。マグロにしがみついてるとは思えません。
「うおおお! っすー!」
「……加勢したほうが良さそうだな」
 格闘するエミリアを助けるべく泳いでく陣雲。
 そんな彼がいなくなった場所の少し下では――。
「……魚は鮮度が大事」
 イルリカが相変わらず、糸を引っかけたアブリマグロを伴って運搬作業に従事していた。
 マグロへの攻撃はきりやアカツキがすごい勢いでやっているから、自分は雑用をこなしておいたほうがいいだろう――という場を見た判断だった。
 すいーっと漁船に向けて泳ぐイルリカ。
 だが気づけば彼女は――。
「――!」
「――!」
 アブリマグロに囲まれていた。四方八方から迫るマグロ。仲間たちと離れたところを捕捉されてしまったらしい。
 しかしイルリカはちっとも表情を動かさない。
「……集まった」
「良い囮役だったのじゃ!」
「ふらふら離れてく格好の獲物がいれば、惹かれちゃいますよね」
 アカツキときりの雷撃が迸り、イルリカの周囲のアブリマグロを一網打尽にする。
 群れを誘引してまんまと集中攻撃の的にしたイルリカは、気を失って周囲を漂うアブリマグロたちを見て頷いた。
「お仕事完了、かな」

●炙れ!
 海から帰って、港町。
 同行した漁師のおっさんの家には、仕事後の疲れを癒やすイレギュラーズの姿があった。
「ぶはははっ! とりあえずパパッと調理してみたぜ!」
「これは……寿司」
「あー美味しそうですね。というか絶対美味しいですね」
「こっちはアヒージョか……俺の出番だな!」
「おう! オメェさんのフランスパンに合わせた品だぜ!」
 テーブルに並べられたゴリョウの料理を見て、陣雲ときりが身を乗り出し、零が当たり前のようにフランスパンを生み出す。
 アブリマグロの身を生、炙りで握った2種類の寿司。
 それと炙ったアブリマグロをオリーブオイルで煮たアヒージョ。
 食すまでもなく美味とわかるそれらに、イレギュラーズは喉を鳴らした。
「油とマグロは元々相性が良い。筋も柔らかくなり、血合いなんかも風味が生きる逸品になるんだぜ」
「フランスパンはいくらでもあるから、遠慮なく言ってくれよな!」
「あーじゃあ1本ください」
「私も……フランスパン? 貰いたいな」
 炙りの寿司をもぐもぐやってたきりとイルリカが、ぴーんと美しい挙手を見せる。くつくつ煮える油の中のアブリマグロを見れば、頼まないなんて手はなかった。
「オイルが染みて……これは美味しい」
「食が進みますね」
「このアヒージョを町にひろめたらフランスパンの需要が高まるのでは……? いや絶対高まるよな、うん。これは商機……!」
 もぐもぐもぐ、とアヒージョを乗せたパンを食う2人の後ろで、きらりと目を光らせるフランスパンの人。彼がアヒージョの鍋もってダッシュで漁師連中のもとへ向かったのは言うまでもない。
「好評みたいで何よりだぜ!」
「まさか鮪のみならず米まで食べられるとは……この仕事を受けて良かった。ありがとう、ゴリョウさん」
「お、そうか? ぶはははっ!」
 寿司食って感じ入ってすらいる陣雲に頭を下げられ、のけ反らんばかりに笑うゴリョウ。
 鮪と米。元いた世界にあった食に感動を禁じ得ないウォーカーはそれから一言も発さなかった。もうめっさ黙々と食ってた。
 他方。
「これは、うまいっす! したでとろけるとはまさにこのことっすー!?」
「ほっぺが落ちそうとはこの事じゃな……最高じゃあ」
 エミリアとアカツキはひたすら騒がしかった。
 ざっくり切った身をアカツキの炎で炙って食べる――それだけでもアブリマグロは破格の美味だったのだ。特にもう酒の肴として最高だった。
「この瞬間のために生きてるのう……」
「お酒もいいっすねー。あーでもふわふわしてきたっすー」
 しみじみ息をつくアカツキ(101歳)の隣で、ゆらゆら頭を揺らすエミリア。
 そんな2人の横には、黙々と呑んでいる美少年がいる。
「ふむ。やはりアブリマグロはこれに限る」
 と言いながら、炙りアブリマグロ丼(マヨと黒胡椒添え)を食い、口の中のそれをドブロクで腹に流しこむセレマ。
 おっさんだった。
 あまりにもおっさんだった。
「美少年とは……」
「美少年がやればなんだって絵になるし耽美なんだ。女学生がジャンルを問わず様々な作品に出てくることがあるじゃないか。アレと同じだよ、わかるね?」
 思わず声を零していたゴリョウに、やはり凛然と答えるセレマ。
 果たして美少年とは――。
 ひとつの疑問を投げかけて、イレギュラーズたちのアブリマグロ漁は幕を閉じた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 マグロ漁、お疲れさまでした。
 大漁に終わった皆さんのアブリマグロ漁で、町も随分と助かったことでしょう。定期的にアブリマグロ漁の仕事が入るようにもなるかも。というかどんどん丸投げしてくるんじゃないでしょうか。大丈夫なんでしょうかこの町は。

 ご参加、ありがとうございました。

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