シナリオ詳細
かみさま、おねがい。
オープニング
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かみさま、かみさま。
聞こえていらっしゃいますか。
この声は届いていますか。
かみさま。
私がこれから歩む道は正しいのでしょうか。
かみさま。
私はこの道を歩めば、いつか許されるのでしょうか。
かみさま。
どうか道を示してください。
かみさま。
かみさま。
私は、どこかで悪いことをしてしまったのでしょうか。
過去でしょうか。
前世でしょうか。
どうか、どうか、お許しください──。
●
「可哀想な子がいるんだ。助けに行ってくれないか?」
『黒猫の』ショウ(p3n000005)が示したのは1枚の依頼書だった。読み進めていけば、自然と自分が顰め面を浮かべたのが分かる。
「ああ、言っておくけれど。その子は何も悪さをしていないよ。情報屋の名にかけて誓おう」
この国なら神に祈れと言うかもしれないけれど、とショウは苦笑する。
敬虔なる使徒が多い天義だが、誰しもがそうであるとは限らない。こう言ってしまえばかの国民は怒るかもしれないが、人は少なからず雑念があるものである。善良な民は多いだろうが、行き過ぎた者や隠れた悪人は存在するのだ。
その悪人に、1人の少女が捕まってしまった。天義の貴族であるという男は少女を気に入り、買い取るような形で少女の実家に金を押し付けた。それ以降少女は貴族の邸宅で監禁状態にあるようだ。
「だが血縁でもない子だ、このままだと不正義と叩かれかねない。そこで男は結婚式を挙げるつもりらしい」
契りを交わしてしまえば、『妻』たる少女が邸宅に籠っていても何ら不自然ではない。それが本人の望みでなくても、その情報が漏れない限りは彼女の立場が男を守るのだ。
「ま、すでにこうして依頼されている時点で不正義だと判断されてることはわかるだろう? 天義の騎士たちもその子を保護するために……何より男を断罪するために動き始めているんだ」
悪人たる貴族は叩けばホコリが出ると言わんばかりに諸々の証拠が見つかっていると言う。それが何故今まで見つからなかったかと言えば、貴族という立場とそこまで存在感のない性格故。では何故見つかったかと言えば、少女の実家が騎士団に泣きついたからである。
少女の家庭は至極まっとうな、情に溢れたものだったようだ。
「監禁されている状態ではなかなか攻めづらいからね。男の断罪と女の子の保護は結婚式当日だ。騎士団は良いように動いてくれるって言っていたよ」
良いように、とはまあ適当な言葉で。しかしこちらから指示があれば『あの魔種も倒したイレギュラーズ』ということで従ってくれることだろう。
結婚式が行われる会場にも連絡はされており、器物損害の可能性も承知の上だと伝わっている。知らぬ存ぜぬは男と少女ばかりなり、といったところだろうか。
「君たちは参列客に紛れてもいいし、外からいきなり急襲しても構わない。手引きは任せてくれ」
この季節の花嫁は幸せでないとね。ショウはそう呟いた。
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かみさま。
聞こえていますか。
かみさま。
届いていますか。
かみさま。
かみさま。
私はあの人と結婚しなければなりませんか。
それが示された道だというのですか。
この道をゆけば、幸せになれますか。
この道をゆけば、私は許されますか。
これは罰ですか。
これは試練ですか。
かみさま。
かみさま。
──白いベールの向こう側は、祝福に溢れていますか。
- かみさま、おねがい。完了
- GM名愁
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2020年07月01日 22時10分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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かみさま。
聞こえていますか。
かみさま。
届いていますか。
かみさま。
かみさま。
幸せを示すはずの白いウェディングドレスが、まるで囚人服のように思えるのです。
式を待つまでの時間が、まるで死刑執行前のように感じられるのです。
かみさま。
これが、幸せですか?
……いいえ、かみさまの思し召しなのならば。これは幸せなのでしょう。
そうでなければ。そう思わなければ。わたしこそが『不正義』になってしまうのだから。
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(天義にもこの手の貴族がいるのね……)
『月下美人』久住・舞花(p3p005056)は参列客の1人として紛れ込みながら、いざという時に踏み込みやすい場所へと動いていた。依頼を受けたイレギュラーズたちと同様に天義の騎士も参列客や警備兵として紛れ込んでいると言う。
一方で貴族の私兵はどこにいるのかわからないが、有事の際を考えれば近くにいると考えた方が無難だろう。
別室に潜ませているのか。
あるいは、こちらと同様に警備兵や参列客として紛れ込んでいるのか。
思えば招待された参列客も真実祝福のため呼ばれたのか怪しいところだ。それなりの人数が集まってきているように思えるが、既知同士で話し合うような場面は見られない。こういった場所だからという理由もあるのかもしれないが、知り合いがいれば挨拶のひとつも交わすもの。天義騎士や貴族私兵が混ざっていることを考えても静かすぎるのだ。
(……神に誓わず、伴侶に誓わず。この式は……何にも誓わない)
彼岸会 無量(p3p007169)はその様子を見ながらつと目を細める。彼女もまた参列客の1人だ。どこに私兵の隊長格がいるかもわからないが、なればどこからでも対処できるようにと席を取る。
天義騎士たちには仕掛けるタイミングも周知済み。騎士の一員として潜り込んでいる『胡散臭い密売商人』バルガル・ミフィスト(p3p007978)からも出入り口に警備兵として立ち、事が起こった直後に扉を開け放つよう指示が出されていた。
そのバルガルはと言えば──。
「本日はよろしくお願い致します」
「ああ、こちらこそ」
同じ警備兵へ交流を兼ねてあいさつ回りをしていた。凡庸な1人の騎士と錯覚される彼は『本日の動きを確認したい』と聞いて回る。
「ああ、今日は色んな場所から警備に集められているからな。隊長はあちらにおられるぞ」
示された先には1人の騎士。顔を覚えればそうだとわかるのだろうが、本日は皆同じ装備なのだろう。言われなければ分からなかったに違いない。騎士へ礼を告げたバルガルは隊長の方へと向かっていった。
「お久しぶりです」
「おお、あなたは」
偶然にも教会の神父と既知の間柄だったカルロス・ナイトレイ(p3p008427)は、その事実にいくらかホッとしながら神父のすり替わりを頼む。教会の人間でなければ難易度は上がっていただろうが、教会の関係者という事は今回の依頼を知る人物という事でもある。
神父は彼との知り合いであり、何よりネメシス正教会の発行した免罪符を持つ彼からの提案に信頼性を持ったのだろう。勿論だと頷いた。
「かの善良なる少女に、これはあまりにも辛い試練だ」
「嗚呼、神父もそう思われますか」
神へ祈りを捧げる2人。少女がこれ以上の責め苦を負わずに済むように。神が直接救わぬのであればイレギュラーズが救うという想いを届けるために。
「ヒッヒッヒッ……それでは僭越ながら、このワタクシが神父を務めさせて頂きます」
カルロスの傍らに立っていたミステリアスな少女──『影を歩くもの』ヴァイオレット・ホロウウォーカー(p3p007470)が恭しく礼を取る。宗教によって女性の神父が認められないこともあるが、この教会は寛容であるらしかった。彼女の演技で誤魔化しきれない部分があれば、そこは司祭補佐として傍らに立つカルロスがフォローすれば良い。
一方──外にいた『風吹かす狩人』ジュルナット・ウィウスト(p3p007518)は出てきたバルガルの姿に手を上げた。
「どうだったかナ」
「やはり、自分たちと同様に紛れ込んでいるようです」
バルガルが聞き込みをして得た貴族私兵の配置、貴族の逃走経路、そして彼らの装備や隊長格の割り出し。望んだ全ての情報が望み通りに集まっているとは言えないが、比較的上々な結果ではないだろうか。
式の段取りも確認できたジュルナットは満足げに1つ頷いた。大まかでも知っていなければ、いつ『その時』がやってくるのかと気を揉むことになる。
本来であれば、こんな依頼が舞い込むことこそ間違いなのだけれど。
(結婚ってのは、幸せが実を結ぶはずなのにネェ……)
世の中には条理もあれば不条理もある。善も悪もいることなんて元より知っていることではあったけれど、それでも思わずにはいられない。
「あとは中の音が聞こえれば良いんだけれどネ」
「自分が窓を開けておきますよ」
この時期だ、外の空気と入れ替えるという名目で窓の1、2枚開けても構わないだろう。
「了解だヨ。それじゃおじいちゃんはそこの木に登って待っていようかナ」
ジュルナットは近くの木を視線で示す。手に持っているのは星狩りの大弓と言われる武器だ。さらに視線を巡らせれば、丁度式が行われるであろう部屋の正面──そこに大きくはめ込まれたステンドグラスの付近で『救いの翼』ミニュイ・ラ・シュエット(p3p002537)が待機している。視線を返した彼女は問題ないと言うように1つ頷いた。
(悪ってのは何処にでも居るもんだな)
場所は戻り、『スモーキングエルフ』シガー・アッシュグレイ(p3p008560)は普段と異なる式に合わせた服装へ着替え、参列客として潜んでいた。その身が座すはなるべく前の、貴族や少女と近くなるであろう席だ。ここから見えるだろう少女の想いは分からないが、少なくとも現状を受け入れ歓迎しているとは言えないだろう。
もし彼女自身が受け入れているのであれば、このような式を挙げる必要も無いのだから。
シガーは視線を巡らせ、遠くない位置に自分の武器を預かっている騎士がいることを確認する。相手と視線が交錯するが、それ以上のアクションはしない方が良いだろう。
間もなく式も始まる様子で、参列客も各々席に座ってその時を待っている。新郎新婦を心から祝うとは思えないほどに重苦しい空気。開けられた窓から風が入ってくるものの、その空気を払拭できるほどではない。
(……相手が自分の『モノ』だと喧伝する為だけの式典、ですか)
無量は視線をステンドグラスの方へ向ける。そこには恐らくは聖書かなにかの一幕なのだろうシーンが描かれていた。
そこに写されたのは、神なのだろうか。
神は、弱肉強食を良しとするのか。
(……弱き者が強き者に蹂躙されるなど、あってはならない)
司祭補佐として前へ立ったカルロスは神へ、いいや自身へ言い聞かせるように心の内で告げる。その斜め後方には有事の際に動けるよう警備兵が──その一員となったバルガルが控えている。
ヴァイオレットは聖職者の服を纏い、ステンドグラスの前へと立った。新郎が、そして新婦が入場してきたことでこの結婚の当人たちと証人が揃ったことになる。
これから起こるであろう悲劇に。不幸に。滲みそうになる笑みを押し込めて、彼女は式の始まりを告げた。
●
配られた讃美歌を皆で歌う。ここにいるのは敬虔なる使徒ばかり、讃美歌に関しては国歌並に歌えるのだろう。イレギュラーズも何となく、周りに合わせて讃美歌を歌う。人によっては口パクかもしれないが気にされた様子はない。
ヴァイオレットという女性神父と、カルロスの補佐により式は順調に進んでいく。早くも次は新郎新婦による誓いの言葉だ。
嬉々とした想いを隠さず誓いの言葉を述べる新郎貴族へ一瞥をくれ、ヴァイオレットは花嫁へと視線を移す。ベールに隠された顔色を窺うことはできないが、その影で小さく震える輪郭はヴァイオレットから良く見えた。
嗚呼、そろそろ頃合いだ。
「──誓いは必要ありませんよ」
女性神父からの言葉にリズロットが、そして貴族もまた驚いたように視線を向ける。男の体は威嚇術によって弾き飛ばされた。
「曲者だ、捕らえろ!」
「不正義だ!」
私兵と思しき警備兵が、そして参列客が湧く。同時に私兵でも騎士でもイレギュラーズでもない者たちは悲鳴をあげ逃げ惑い始めた。
「ヒヒヒッ、ワタクシは不幸の水先案内人。さあさ、糸に捕まってしまいなさい」
ヴァイオレットは不気味に目を細め──彼女の素でもあるのだが──人形を操るように指を動かす。見えぬ糸が私兵を切り裂き、絡め取り。
──嗚呼、そう。『囮』としては十分であろう。
昏倒まで至らなかった貴族が起き上がる前に、ヴァイオレットへ私兵が駆け寄るより先に。するり、とステンドグラスを抜けたミニュイが花嫁の元へと到達する。
「つかまって」
顔を上げた花嫁は一瞬の逡巡の後、ミニュイの首へ抱き着いた。
彼女からしてみれば何がどうなっているのかなど分かりもしない事ではあるけれど。少なくとも、自らを攫った貴族にとって良くないことが起こっていることは確かだったのだ。
鍛え上げられた翼が広げられ、大きく羽ばたく。風圧に私兵たちが目を瞑った瞬間、ミニュイは掴まったリズロットごと上空へと移動した。
「花嫁が!」
誰かが叫んだのも束の間、ステンドグラスが割れる。キラキラと陽の光を浴びながら崩れ落ちていくステンドグラスは幻想的だ。それを背後にしていたヴァイオレットもまた逆光を浴びる。
外からの光が溢れたと同時に貴族に近づいた私兵の1人が腕を押さえ、飛び込んできた矢を忌々し気に睨みつけた。別の私兵はバルガルの奇襲攻撃に呻き声を漏らし、花嫁を追いかけようとした新郎は立ちはだかったシガーを憎らし気に睨みつける。
「どけ!」
「断る」
放たれる強烈な蹴り。兵士が間に入り込む間もなく、もんどりうった貴族は意識を飛ばした。その上空を移動したミニュイは開け放たれた扉の前へ降り、首につかまっていたリズロットの耳元へと囁く。
「彼らに保護してもらって。あとは私たちが」
レース越しに丸くした瞳が見える。大丈夫、と言うように頷くとリズロットはそっと腕を離した。天義の騎士たちに保護された彼女を一瞥し、ミニュイは踵を返す。
ミニュイにとって正義の悪も、断罪さえも興味のないことだ。天義という国自体も好いていない。この際はっきり言ってしまえばかなりの天義嫌いである。
(けれど、一般人は関係ない)
そこに理不尽があるならば。ミニュイは無辜を守るためにこの翼を広げるのだ。
再び飛び上がるミニュイ。その羽根は硬質に、まるで銃弾のような速度を以てたった1人の敵を薙ぎ払わんと飛んでいく。バルガルの声が示した隊長格の男へとイレギュラーズの視線が集まった。
「くっ……貴様ら全員、正義の名のもとに──」
「この貴族は不正義です! 横領や違法薬物の取引、果てにはリズロットさん……一般市民を攫い、この場で結婚させようとしました。彼に加担する者もまた、不正義です!」
「婚姻とはある種の契約。不当な……一方的な契約等は破棄されても仕方ないでしょうね」
断罪してやる、という男の言葉にカルロスの言葉が、そしてバルガルの言葉も被る。武器を向けられたヴァイオレットを治癒していたカルロスは、免罪符を片手に場へ見せていた。
どういうことなの、聞いていないぞと残っていた参列客がざわめく。彼らを避難させ、また話を聞くことも天義騎士団の役目である。
そして変わらず外からはジュルナットが良く見通す目で隊長格の男を狙う。
(こちらにとって面倒な相手だからネ)
統率するリーダーはいつどこでも邪魔なものに変わりない。さっさと倒してしまうに越したことはないだろう。
狙いに狙い、彼方から放たれる致命の一撃が隊長の男を脅かす。男はぎっと外を睨みつけるとジュルナットの射線から外れるように動いた。おっと、と彼は木を飛び降り、隊長を射線へ再び収めるように動く。
(一般人を誤射しないようにだけは気を付けないとネ)
それこそがこの場において、最も不必要で最悪な事だ。なんとしても避けなければ。
「狼狽えるな、1人ずつ崩せ!」
後方へ引こうとするヴァイオレットを追いかける私兵たち。その間を縫って肉薄した無量は鋭く太刀を向けた。その額で開かれた第三眼が男を”視る”。
「ちっ……その目で見るな!」
「これは貴方たちへの試練です」
太刀が再び、そして三度向けられる。
無量の瞳はいつだって試練に負ける者たちを見てきた。老若男女問わず、人間社会における階級すらも関係なく、神は区別なく試練を与えるのだ。
それはこの混沌の世界とて同じ。少女に試練が与えられるのであれば、貴族や私兵たちにも試練は与えられるだろう。
果たして乗り越えるのは少女か、貴族たちか。
「──答え合わせと参りましょう」
血を纏った太刀が、鈍く光った。
その直後、鋭い踏み込みに紫電が軌跡を描く。正確な剣技で隊長へと切りかかった舞花は素早く周囲を見渡した。
逃げ惑う参列客に誘導する天義騎士。護られるように後方へ下げられた花嫁。乱戦となった場にはステンドグラスの破片が散りばめられ、貴族私兵とイレギュラーズが乱闘することで踏まれ粉々になっていく。
(兵が少女に手を出すことは……今のところ、無さそうですか)
しかし油断はできまい。いつどうなるかなど予測もつかないのだから。
「ヒヒ、ワタクシは妨害と攪乱こそ本質ですよ」
隊長の命により追いかけられているヴァイオレットは掌へ闇の月を顕現させ、兵士を迎撃しながら逃げていく。それが弄ぶのは彼らの運命。他者へ向けた悪意の跳ね返り。嗚呼、そんな至上の愉悦をもっと!
「この女、まだ倒れないのか!?」
「化け物……いや、こいつらは……イレギュラーズか!」
自らへ秘められた力(パンドラ)で小さな奇跡を──時に大きな奇跡をもたらす者たち。天義だけではない、各国で魔種と渡り合ってきた彼らの事は当然私兵たちの耳にも入っていた。何なら以前の事件にかかわっていた者もいるかもしれない。
そうこうしているうちに隊長格が破れ、他のイレギュラーズたちも私兵を相手に全力で潰しにかかってくる。そこへ避難誘導を終えた天義騎士も混ざったとあれば──私兵たちには降参する道しか残されていないのだった。
気絶した貴族、及び捕まった貴族私兵たちは天義騎士団に引き立てられていく。恐らくは正義の名のもとに鉄槌が下されることとなろう。
新婦とされていたリズロットも重たいウェディングドレスを脱ぎ、元々持っていたのだろう質素な服へと着替えていた。しかしそれでも、まだ不安そうな面持ちは変わらない。
夢ではないだろうかと。或いは──油断させたところで何か起きるのではないか、と。
そんな彼女の前に立ったのはシガーだ。
「俺達は君を助けに来た。こんな結婚、神様だって望んじゃいないさ」
「ほ、本当ですか……?」
彼女が今どのような立ち位置であるのか、はっきりさせる必要がある。頷くシガーにリズロットは良かったと呟いて涙ぐんだ。カルロスが優しく彼女の名を呼ぶと、キラキラと涙にぬれた瞳が彼を見る。
「貴女の神への信仰は尊いものでしょう……ですが貴女自身が動かねば幸せにはなれません」
「わたし、が」
神は何もしない者に祝福を与えないとカルロスは告げた。自ら動き、試練を乗り越えた者へ与えるのだと。その言葉にリズロットは俯く。
囚われている間、その現状を打破すべく何かしただろうか。言っただろうか。ただ神に祈って時を過ごしていなかっただろうか。
「……神は今後とも、貴女に苦難をもたらすでしょう」
ぽつりと零したのは無量だ。その視線は伏せられ、床に散ったステンドグラスの破片へと向けられている。
神がヒトへと与える試練は辛く厳しいものだ。それを越えられるほどに、祝福を与えたくなるほどに強くならなくては潰れてしまうだろう。
唇を噛み締めるリズロットの肩にカルロスは手を置く。その手は優しく、まるで神の慈愛に満ちているように。
「リズロットさん。……どうか貴女の未来に、幸ある事を」
カルロスには願い祈ることしかできない。愛したシスターや孤児院の子供たちを思い出しながら──彼らの分まで、生きる者に幸あれかしと。
けれど幸せを呼ぶために行動を起こすのは、いつだって個人で、他人なのだ。
●
かみさま。
かみさま。
どうか見ていて下さい。
かみさまに祝福を与えて頂けるような生き方をします。
だからいつか──本当の祝福を、お与え下さい。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れさまでした、イレギュラーズ。
少女はきっと、これまで用意されていた未来よりずっと幸せになることでしょう
それでは、またのご縁をお待ちしております。
GMコメント
●成功条件
少女の保護
男の捕縛
●情報精度
情報精度はBです。
不明点もありそうです。
●エネミー
・貴族×1
悪徳貴族です。誠実無害そうな裏で横領や違法薬物の取引等々、不正義の証拠が見つかっています。
街で見かけた少女に一目ぼれし、連れ去るような形で屋敷へ招き入れました。
本人は戦闘に秀でているわけでもなく、アクシデントが起これば少女を連れ去り逃げるでしょう。護身用の武器程度は持っているようです。
・私兵×15
貴族お抱えの兵士です。式の間はどこかに潜んでいるようですが、アクシデントが起こればすぐさま姿を現すでしょう。
主たる貴族の手を汚さんとその戦闘力は中々のものです。武器は近距離~中距離を持っており、いずれも攻撃力に特化しています。
内1人は隊長兵であり、倒しやすそうな者を見極め号令を飛ばします。またBS解除もします。
この命を賭して:防御技術を下げ、その分命中と攻撃力を上げます。
全ては主のために:一撃必殺。【必殺】【呪殺】
我らが道を行く:善だろうと悪だろうと、何かを信じる者は強い一手を踏み出すのです。【恍惚】【乱れ】【痺れ】
●ロケーション
天義にある教会です。参列客のためのベンチが移動の際は邪魔になるでしょう。
見晴らしは良く、程よく広く。正面にはステンドグラスがはめ込まれています。綺麗ですがあまり頑丈ではなさそうです。
式の前後は貴族の結婚式とあって警備にピリピリとした雰囲気もありそうですが、本番が始まってしまえばいくらか和らぐと見られています。
●NPC
・少女『リズロット』
不幸にも誘拐・監禁され花嫁にされそうな少女です。非力で戦闘能力を持ちません。現在は貴族に脅され従わされています。
この場では非常に豪奢で重たいウェディングドレスを着ており、逃げるにしても速度は出ないでしょう。
・天義騎士×15
騎士団に所属する騎士たちです。そこそこ戦える人材です。
参列客や会場の警備兵として潜み、イレギュラーズが行動を起こすと加勢に入ります。
主に不正義ではない参列客の退路確保、貴族私兵の一部抑え込みにかかります。
貴族を捕縛した後は引き取ってくれます。
●ご挨拶
不正義は断罪せよ。愁です。
花嫁は幸せでないといけません。どうぞ助け出してあげましょう。そのタイミングは皆様に一任されています。
ご縁がございましたら、よろしくお願い致します。
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