PandoraPartyProject

シナリオ詳細

さようなら火事場泥棒

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●海賊の宴
 かがり火が海賊達を照らし出す。
 成り立ての若者から古傷だらけの古参まで多種多様。
 ただ1つ共通しているのは、絶望の青に挑む気概も技術もないという点だ。
「いい展開だ」
「奴等が戻って来なけりゃ楽なんだがなぁ」
 略奪品の蒸留酒をあおり、絶望の青に向かった勇者達を馬鹿にする。
 船乗りとして負けていると無意識に認めているので、口から吐く言葉は強くそして汚くなる。
「おい、次の獲物はどうする。デカイ船団をやっちゃう?」
「船団狙いって正気かおめー」
「あんだとっ」
「やるかぁ?」
 海賊2人が立ち上がり、酒臭い息を吐き吐き殴り合いを始める。
 周囲の同業者ははやし立てたり喧嘩を酒の肴にしたりで止めもしない。
「船長、次どこを狙うんで?」
 下っ端の海賊が上司にたずねた。
 現在、海洋王国は絶望の青に戦力を投じている。
 民も貴族も努力を重ねて通常航路を維持してはいるが、護衛戦力が不足気味な航路もいくつかあった。
「護衛が弱くてお宝ざっくざくな船をねらってくださいよぅ」
「はっ、そんな船が都合良くある訳がねーだろ。まあ、護衛が弱い船はありそうだがよ」
「へへへ、楽に勝てるのはサイコーっすね」
 生産者が手間暇かけて作った高級果実を無造作に囓り、食べかすを大量にこぼしながら爆笑する。
 宴の場には野望も誇りもなく、腐りきった精神の臭いが漂っていた。
 ぱん、と軽い音が響いた。
 寸前まで馬鹿笑いをしていた海賊が声もなく倒れる。
 こめかみの弾痕から血と脳漿がこぼれた。
「は?」
 状況の激変に脳が対応出来ない。
 今日入ったばかりの新入りが、朗らかな笑みを浮かべて硝煙がきつい銃口を向けてくる。
「よーう、楽しんでるか?」
 残像も見えない速度で装填を終え、呆然とした海賊の口に銃口を突き入れ引き金を引く。
 後頭部が砕け、海賊が海賊だった死体に変わった。
「楽しんでると言えよ。火事場泥棒、楽しかっただろう?」
「てめっ、なにもんだぁっ!?」
 海賊集団を主導していた船長が、酔いを忘れてナイフを抜く。
 部下達も船長に倣ってそれぞれ得物を抜いて、単独でしかない侵入者を包囲する。
 包囲された側は、心底楽しげに、そして苛立たしげに火事場泥棒達を見下ろした。
「絶望に海に呼ばれない程度の海賊さぁ。火事場泥棒に混ぜてもらいに来たぜ」
 今回は堅気の船は襲わない。
 最低限の誇りも持たない海賊が、獲物である。

●逆鱗
「よろしくお願いする」
 どこからどう見ても海賊にしか見えない男が、ローレットから来たイレギュラーズに礼儀正しく頭を下げた。
「事情はローレットから聞いている……よな?」
 海賊狩りの依頼だ。
「最近暴れている連中がいてな。今が平時なら捕まるまで好きにやればいいんだが」
 絶望の青に挑む船乗り達に憧れて海に出て、加齢による衰えで諦めてからは挑む者にも挑んだ者にも強い敬意を抱いている。
 だから火事場泥棒じみた暴れる同業者が鬱陶しい。
 自分の船だけでは戦力が足りないので、ローレットに自費で増援を頼んでしまうほどだ。
「連中、大きな仕事をする前に集まって宴会をするらしい」
 海賊船5隻、総勢100人を越える大戦力である。
「宴会の場所の特定は俺と俺の部下がやる。あんた達は襲撃に参加してくれ」
 男とその部下が海賊や宴会場の中に潜り込んでイレギュラーズを引き入れる予定だ。
「あんた達イレギュラーズの力はよく知っている。一緒に戦ったこともあるしな」
 だから100人相手に負けるとは思わない。
 が、勝ったとしてもイレギュラーズが死ぬような戦いに巻き込むつもりもない。
「奴等の船を燃やせば、これ以上の被害はなくなる。時間はかかるかもしれないがいつかは陸でとっ捕まって縛り首になるはずだ」
 少数が居残った船を燃やせばその時点で依頼は成功だ。
 船を奪って出航してしまっても構わない。
 生き残りの海賊が陸に散らばる可能性はあるものの、海に逃がしたときと比べれば被害は1桁以上少なくなる。
「俺と一緒に正面から殴り込むなら大歓迎だ」
 ただし危険だ。
「使えるコネがあるなら遠慮せず使ってくれ。俺は奴等を死なせたいだけで、どういう風に死ぬかは気にしない」
 男は海洋の私掠船の船長だ。
 特別な権利も権威もないが、関係各所に頭を下げる程度のことは出来るしするつもりだ。
「ま、そういう訳なんで」
 面倒臭くなったので演技を止める。
 長い海賊歴と短い私掠船の船長歴を兼ね備えた男が、サメを思わせる笑みを浮かべる。
「殺ろうぜ」
 これは、絶望の青での歴史的挑戦とだいだい同時期に行われる、ほんの小さな戦いである。

GMコメント

 海賊集団が宴会場で騒いでいる。
 近くに停泊している海賊船を焼き払ってもいいし、海賊集団に殴り込んで激闘を繰り広げてもいいよ! という依頼です。
 海賊船を鹵獲して売り飛ばすのもOK!

●他
 オープニング前半で登場した私掠船船長の代わりに『俺が(あたくしが)潜入して今啖呵を切ってやったぜ(やりましたわ)!』をしていたことも可能です。
 複数人でしてもOK。


●賞金首
『河豚のボンゴロ』
 毒を塗ったナイフを多用する海賊です。河豚の海種。
 特別な技や術は使えませんが太めの体からは想像し辛いほど俊敏で、命中と回避がかなり高いです。
 持久力は低め。今回の騒動の首謀者です。勝てないと判断すれば直属部下と共に逃亡しようとします。
 攻撃手段は以下の通りです。
 ・毒ナイフ【物近至】【猛毒】【必殺】。堅実かつ高速。

『トビウオのメン』
 船酔いは酷いですが優れた体術を使う、陸の上では強敵です。トビウオの海種で細身。
 個人としては強く指揮官としては三流以下。他の海賊はもちろん、直属の部下も上手には扱えません。
 攻撃手段は以下の通りです。
 ・我流トビウオ拳【物中単】【必中】【移】。跳躍移動攻撃です。

『海賊』×100程度
 一般的な海賊よりも戦力が低く水夫としての力量が拙く、何より浪漫に欠ける海賊達です。大部分が海種。
 拳銃を装備した者が2割、カットラスを装備した者が7割、網を使う可能性があるのが1割です。
 このうちうち50人程度が特に大量のアルコールを摂取し、命中と回避と反応と判断能力が半減しています。
 使用する可能性のある攻撃手段は以下の通りです。
 ・発砲【物中単】低命中
 ・カットラス【物近単】低命中低威力
 ・網投擲【神中範】【体勢不利】1人1度のみ使用可能


『海賊船船長』×3
 酔いが回っている船長達です。
 個人戦闘能力は通常とあまり変わらず、指揮能力は激減しています。人間種。
 使用する可能性のある攻撃手段は以下の通りです。
 ・大型拳銃発砲【物中単】低命中高威力
 ・カットラスを使った剣技【神近範】【必殺】


●味方
『私掠船船長』
 今回の依頼人。防御技術と特殊抵抗と生命が高いです。
 拳銃は装備していますが、得意技は挑発による【怒り】。
 イレギュラーズが宴会場に潜入等する場合は、外側から宴会場を襲撃しようとします。

『私掠船船員』×10
 宴会場従業員や船着き場周辺の一般人の避難誘導と、それが終了した後は逃げる海賊の足止めを担当します。
 装備も練度も『海賊』と同水準ですが根性はあります。


●戦場1
 大きな篝火を中心に大量のござが敷かれ、その上に料理が載った大皿と酒瓶が大量に並んだ野外宴会場です。
 『河豚のボンゴロ』と『海賊船船長』3人の合計4人がばらばらに座り、その周囲にそれぞれの部下がいます。
 イレギュラーズは従業員のふりをして潜入してもいいですし、宴会場の外から攻め込むのも当然可能で、手分けして両方するのもOKです。


●戦場2
 宴会場から400メートル程度離れた場所にある船着き場です。
 5隻の海賊船が停泊していて、『トビウオのメン』と『海賊』が10人、桟橋入り口で守りを固めています。
 宴会場の襲撃が先に行われると、1分間様子を見て、その後船を使って逃げだそうとします。
 海賊船には上記の10人とは別に各2人の海賊がいますが警戒出来ていません。
 イレギュラーズは海から攻め込むのも可能です。


●EXプレイングについて
 関係者を呼べるかもしれません。


●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、関係者が登場した場合は不明点もあります。

  • さようなら火事場泥棒完了
  • GM名馬車猪
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年06月20日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

十夜 縁(p3p000099)
幻蒼海龍
杠・修也(p3p000378)
壁を超えよ
マルベート・トゥールーズ(p3p000736)
饗宴の悪魔
海音寺 潮(p3p001498)
揺蕩う老魚
クーア・ミューゼル(p3p003529)
めいど・あ・ふぁいあ
アリーシャ=エルミナール(p3p006281)
雷霆騎士・砂牙
湖宝 卵丸(p3p006737)
蒼蘭海賊団団長
メリー・フローラ・アベル(p3p007440)
汚い魔法少女

リプレイ

●宴のはじまり
 マントをなびかせ飛んでくる『蒼蘭海賊団団長』湖宝 卵丸(p3p006737)を見て、海賊達が下品に笑った。
「正義の味方のつもりかぁ?」
 無抵抗の者を複数殺したことがあるとしか思えない、荒んだ空気の賊達だ。
 卵丸は落ち着いている。
 ジェットパックの繊細な操作と見事な体術で衝撃を殺して着地。
 大きなドリルを賊達に向けて、堂々とした口上を述べる。
「蒼蘭海賊団団長、湖宝卵丸参上! お前達の悪事も、これまでなんだからなっ」
「おじちゃんが相手してやるよぅ」
 妖気を漂わせるカットラスを抜いた海賊船船長が、立ち上がろうとして尻餅をついた。
 周囲の海賊が馬鹿笑いをする。
 尻餅をついた本人は、酔いが醒めた目で、自由に動かぬ手足に気付いて狼狽した。
「やれやれ、こちとら船旅の傷も疲れもまだ癒えてねぇってのに、余計な仕事を増やしてくれる連中だ」
 ウェイターを演じる『幻蒼海龍』十夜 縁(p3p000099)が海賊にジョッキを押しつける。
 無意識に受け取ってしまった海賊が、水割りのはずのそれがストレートであることにようやく気付く。
「おまっ……まさかっ」
 船長が剣を手放し両手で立ち上がろうとする。
 縁は最短距離で歩み寄り、船長の胸を蹴り抜き地面で悶絶させた。
「敵襲だ。船着き場にも知らせろぉ!」
「どけ爺ぃっ」
 伝令が宴会場でひっそり掃除中の従業員を突き飛ばそうとして、触れることも出来ずに何もないはずの場所で転ぶ。
 草を結んだだけの簡単な罠が、海賊の足首に食い込んで動きを完全に封じていた。
「若いのはせっかちじゃのう」
 『揺蕩う老魚』海音寺 潮(p3p001498)が立ち上がる。
 意識して抜いていた力を元に戻すと、全身の筋肉が盛り上がり身長3メートルの凶悪な体が明らかになる。
「この身を砲弾に変えて……」
 卵丸の言動に変化はないのに、海賊の目には恐ろしい強さと残酷さを持った追っ手に見えている。
「貫け、轟天GO!」
 ドリルを先頭に敵陣を駆け抜ける。
 酔った海賊は海賊全体にとっての邪魔者だ。
 戦闘能力を維持している海賊達もドリルに直撃され悲鳴と血潮を垂れ流す。
「ワダツミの化物でも囲めば殺せる。殺して名を上げろ!!」
 古参海賊がわめく。
 縁は気だるげに、呆れたように息を吐く。
「情報が遅い。よく今まで生き延びられたもんだ」
「ぬかせ。100人相手に勝てると思ってるのか」
 銃や銃を持った海賊が縁を狙おうとするが酔っ払いが邪魔過ぎる。
 潮が転がしておいた瓶は踏み込みを妨害し、潮の草の罠はさらに致命的で包囲を邪魔する。
「おいたが過ぎたの」
 己の生命力を大きく削って味方に力を与え、さらに卵丸へ活力を供給しながら潮が静かな声を出す。
「命を奪いたいのがあれほど多いとはの」
 海賊船が停泊しているはずの埠頭に、巨大な火柱と黒煙が発生する。
 重度の酔っ払い以外、逃げ道と生きていく手段がなくなったことに気付いて混乱した。
「敵はガキやジジイが3匹だ」
 腹に響く低音が、直前まで宴会場だった戦場に響いた。
 河豚のボンゴロとして知られる海賊が、自前の毒をナイフに塗りつつ縁を警戒する。
 縁がいくら弱いふりをしても、絶望の青攻略戦でさらにあがった武名を警戒するのは必然だ。
 だから海賊達は、宴会場の入り口から堂々と入り込んだもう1人に、気付くことができなかった。
「糞、目が回る」
 100人の海賊が100人の1部隊になれないまま混乱している。
 痛みもなく、それどころか適温の風呂のような快適さで生命が抜き取られスタミナが減少する。
 それを為しているのは容姿も表情も可愛らしい『躾のなってないワガママ娘』メリー・フローラ・アベル(p3p007440)だ。
 微笑みに残酷さと傲慢さを隠し、平和な外見の凶悪な術を行使している。
「命を賭して戦う人たちが居るから、楽な戦いしかしないわたしが生きていられる……それってとってもありがたいことよね」
 心の底からそう思っている。
 根性がねじ曲がっていると評価するか、戦士に向いている心の持ち主と評価するかは、評価者の立場に寄るだろう。
「あのガキのせいか」
「捕らえようなんて思うな。殺せっ!!」
 メリーが目を細める。
 微かに口角が吊り上がり、白い歯が吸血鬼の牙の如く外気に触れる。
「危ない目にはあいたくないものね。そんな”気概も技術もない”わ」
 20人を超える海賊が彼女を殺しに向かい、剣の間合に入る前によろめき荒い息を吐く。
「お優しい仲間と足並みを揃えるのも大事でしょ?」
 メリーの術は遠くまで届き、効果範囲は広大だ。
 血を一滴も流さず、多くの海賊が死に近づいていた。

●海賊船炎上
 杠・修也(p3p000378)が右の拳を握りしめる。
 黒蓮華が刺繍されたハーフグローブが内側から鈍く光り、聖句や祝詞が重なりあい現実に影響を及ぼす。
「やれやれ。まじめに働きたくないからこそ楽して儲けるようなことをするのはお手の物ってことか」
 空荷の船を見据えて舌打ちしそうな表情になる。
 手入れも雑で戦闘専門の船もない。
 ただ、予想より大きな船が多く全長40メートル近い船まであった。
「誰だ?」
 船着き場の入り口から海賊達が駆けてくる。
 先頭は実用的な筋肉がついているトビウオ海種で、文字通り飛ぶような速度で修也に接近中だ。
 修也は『めいど・あ・ふぁいあ』クーア・ミューゼル(p3p003529)に同乗させてもらった小舟から下りて、拳に膨大な魔力を集中させる。
「心当たりはあるだろう」
 この海賊達は、警備会社や輸送業者が海賊を名乗っているようなものとは違う、他人から財産と命を奪うだけの賊だ。
 修也の意思に従い魔力が弾け、光の柱と化して小型船を貫通し軽武装中型船の船首に大穴を開けた。
「なんて事を」
 貴重な財産が失われたことに気付いて海賊が動揺する。
 奪われることはあっても燃やされることはないと、浅はかな考えを持っていたのだ。
「殺せっ」
 トビウオのメンが跳躍する。
 どうやっても回避は出来ない、必ず当たる蹴りが修也を狙う。
 が、当たらない。
 赤い鞘から抜かれた大剣が、躱しようのない一撃を柔らかく受け止め海賊武術家を跳ね返す。
「何モンだっ」
 『雷霆騎士・砂牙』アリーシャ=エルミナール(p3p006281)はすぐには応えない。
 悠然と前に出ながら武具を呼び出す。
 大小無数のパーツがアリーシャの至近に呼び出されて全身を覆う形で組み上がり、大剣の黒い刀身に白炎の刻印入ることで完成する。
「雷霆騎士・砂牙……私の名前が引導代わりだ。迷わず地獄へ落ちるがいい」
 幅広の大剣を構える女騎士が、絶望的に高い壁に見えた。
「メンの旦那、どいつを狙えばっ」
「殺せぇっ」
 海賊達の連携は酷いものだ。
 メンは個人技には優れているがそれだけで、彼を含めて10人以上もいる海賊がばらばらにしか動けない。
 アリーシャは躱せない一撃を防御重視の剣技で受け止め、反撃の斬撃を浴びせながら修也に向かう銃撃を防いでみせた。
「俺達に気をとられて大丈夫か?」
「あァん?」
 メンは海賊全体の危機に気付けない。
 修也の魔力によって中型船が止めを刺され、既に沈んだ小型船を悲痛な目で観る海賊もいる。
「俺の船が無事ならいくらでも挽回できッ」
 どんっ、という音というより振動が戦場を襲う。
 立派なマストが立っていた甲板が、紅蓮の炎とどす黒い煙に覆われ悲鳴をあげている。船が焼ける音だ。
「火事場は見るか愉しむか引き起こすものであって、どろぼうの為にあるものではないのです」
 『めいど・あ・ふぁいあ』クーア・ミューゼル(p3p003529)がくるりと振り返る。
 桟橋に立っているのに背後の地獄絵図が微かに透けて見え、海賊船と海賊に滅びをもたらす魔性にも見える。
「これが私の餞なのです!」
 必死に鎮火しようとする船上の海賊を巻き込み、直径20メートル近い炎を新たに巻き起こす。
 無事だった箇所まで炎が広がって、この場で最も立派だった海賊船が竜骨まで焼かれて沈み始めた。
「おまえー!?」
 メンが飛び出す。
 見逃すにはあまりに大きな隙をついて砂牙が肩を切り裂くが止まらない。
 速度と威力の拳がクーアを狙う。
 が、白い髪が混じった金髪のねこは既にそこにはいない。
「ここ最近は外洋での戦いが続いていたのですが、やっぱり海より丘の上の方が色々やりやすいのです」
 クーアは桟橋を渡りきり船着き場から陸地側へ向かい、40メートル近く離れた場所から盛大な炎と怒り狂う海賊を観察している。
 この炎上は、我ながら酔いできだ。
「……借りを作りすぎたですか。まあ今更なのです」
 小舟と油と着火器具を用意してくれた友人のことを思い、何とも言いようがない表現を浮かべていた。
 遠くまで届く魔力が船上を蹂躙する。
 激昂しても機敏に動けるメンならともかく、並み未満の技しか持たない海賊では回避も耐久も不可能だ。
 手足を焼かれ、カットラスや銃を取り落とし、しかし乗り込むべき船を失い逃げることもできない。
「お前達、恨みを買いすぎだ」
 修也がクイっと眼鏡の位置を整える。
「降伏しなさい。必要以上に苦しまないで済むよう、私から働きかけます」
 アリーシャが真摯に言う。
 賊に対してかける情けはないが、どの勢力に身柄が渡されても悲惨な最期を向かえる相手に対してなら、少しならかける情けもある。
「甘く見るなぁ!」
 メンは強い。
 船上での戦いでなら、この4人相手に勝てていた可能性がある。
 陸の上でも速度に陰りはなく、鋭い突きはイレギュラーズの腹を撃ち抜けるだけの威力があった。
「さっとぶちかましてすっと逃げるに限るのです」
 だがここは陸だ。
 イレギュラーズ達はそれぞれの最高速で攻撃と防御が可能だ。
 メンは待ち構えていたクーアに霊力を伴った言の葉を叩き込まれ、苦しみながら反撃しようとしたときにはクーアは既に遠くにいる。否、遠くに行く前に光弾で足を抉られる。
 機動力は激減し、クーアを負うことなど絶対に不可能になった。
「お前らぁ! イレギュラーズどもの足止めをっ」
「嫌だっ、俺は逃げっ」
 下っ端の海賊が逃げ、修也に瞬く間に追いつかれる。
「へっ、術使いなら勝」
 振り向きざまの剣が空振りする。
 後の先で反応した修也が切っ先を流すように捌き、至近距離用に調節した魔力を海賊の顔面に当てる。
 海賊は何も言い残せず、顔面から頭部を撃ち抜かれた。
「おまえ、だけはァっ」
 メンの攻撃は滅茶苦茶になっている。
 速度と威力が少し増す代わりに技は酷く乱れ、先程からアリーシャに対する直撃がない。
 アリーシャは剣の腹で斜めに受けて拳を防いで、目の動きと、ほんのわずかに乱れさせた足さばきで誘いの隙をつくる。
 トビウオが吠えた。
 せめて1人は道連れにしようとアリーシャの首に手を伸ばす。
 出迎えたのは柔らかな肌でも魔獣装甲でもなく、幅広大剣によるカウンター攻撃だ。
 予想外の固さと重さに、鍛え抜かれた拳と骨が折られて利き腕がだたりと垂れる。
 戦乙女の加護を纏ったアリーシャが、苦しむメンを相手に一切油断せず立ち塞がっていた。
「これで」
 メンの護衛は全滅した。
 海賊船の中にいる少数では海賊船は動かせない。緊急用ボートを下ろす前に修也が打ち抜き沈める。
 だから修也はメンに警戒を集中、メンの動きを見逃さない。
 メンは怯えと卑屈と憎悪が混じった顔で、アリーシャからもクーアから逃げるために跳ん無事な船に着地する。
 修也が予め、狙いをつけていた船だった。
「終わりだ」
 魔力が海賊の体を貫く。
 筋肉よりも早く足場の船が砕け、押し寄せる海水に巻き込まれて沈んでいく。
 これでも、他の海賊よりは苦しみの少ない終わり方だった。

●宴に流血を添えて
 美味しい仕事の前祝いが流血の宴に変わった。
 天国から地獄への激変に、全くついていけない海賊も少なくない数がいた。
「やあ、随分と楽しそうな宴だね? 私も混ぜてもらおうか」
 そう言っているのは胸から金属槍が生えている海賊、ではない。
 ディナーフォークを模した槍が引き抜かれ、食材へと墜ちた賊が白目を剥いて血に倒れる。
 『饗宴の悪魔』マルベート・トゥールーズ(p3p000736)が柔らかく微笑む。
 彼女の装束は肌面積が大きく情欲をそそりそうなのに、海賊は怯えてしまって戦意を維持するので精一杯だ。
「酒のつまみも作ってあげよう。幸い肉は腐るほどあるようだし」
「こっ、殺せぇ!!」
 草食動物の悲鳴に似ていた。
 目の前の魔性と比べれば粗末に過ぎる刃物を抜いて、本人達は一斉に攻撃したつもりでも実際は足並みが揃わぬ攻勢を仕掛ける。
「ふふっ」
 すらりとした痩身が流麗かつ堂々と攻勢を避ける。
 強大な魔力を秘めた魔槍がただの空気を毒と炎に塗れたものに変え、最も近くの海賊を1人1人侵し調理を進める。
「血が止まらねぇ」
「消えろ、消えろよぉっ」
 最初から怯えていた賊はもう士気崩壊寸前だ。
 毒に耐えきれず倒れる者も続出している。
「逃げっ……あっちのガキなら倒せる、殺せる。俺はあっちにぃ」
 機動力を活かして退き撃ちするメリーを追っていた海賊集団が、装備は同程度でも士気と殺意の次元が違う海賊達に真横から襲われ壊乱していた。
 海賊の士気が砕けてマルベートの犠牲者が増える。
 なお、メリーは闇の中を危なげなく走って味方海賊を置き去りにして次の獲物に向かっていた。
 30センチほどのサメが、宙を鋭角に泳ぐ。
 息を荒くした海賊がサメを追って、足下に草罠に引っかかり障害物と化す。
「たいしたもんだ」
 老練のホホジロザメは、己の頭上に退避し怯えるサメを慰めながら、複数の海賊を相手取る卵丸を見守る。
「じゃが」
 数の差がある。
 被弾確率が1桁違っても数も1桁違うので負傷の程度も軽くない。
「ポチ、ちいっと無理をするからの」
 サメがこくりとうなずき空へ。
「ほれほれこっちじゃよー」
 潮が気合いを入れると浮き上がると同時に全身が光り、薄暗い戦場で酷く目立つ。
 ホオジロザメが銃で狙われる。
 代わりに、明るくなったことで海賊の顔の見分けがつき易くなった。
「そろそろ君の番だよ?」
 紫電をまとう魔槍が、ほぼ筋肉で膨れあがった腹を狙う。
 河豚のボンゴロは反射的に回避して、しかし一筋の傷がついていることに気付いて舌打ちする。
 マルベートは口を開いていない。
 だがボンゴロには、己の血をワインのように味わわれているように感じられた。
「ここが陸でよかったな、お前さん。海の上でそんだけ盛大に酔っ払おうモンなら――」
 至近距離からの抉り込むような一撃がボンゴロの太い腹を襲う。
 優れた筋力による加速で直撃はできたが、かすめた太股に無視できない痛みが残り集中を乱す。。
「あっという間に落っこちて、竜の餌になっちまってただろうさ」
「竜だろうが三枚に下ろして食って……」
 毒にぬらつくナイフを操りながら、ボンゴロは戦場全体を一瞥して舌打ちする。
 頭はともかく腕だけなら彼に近い船長達がどこにもいない。
 ボンゴロの背後数十メートルで、シャチの海種が縁に手を振り、音もなく闇の中に消えた。
 この間の“貸し”はこれでチャラ、ということだろう。
「100人全員骨まで利用されそうだな?」
 ギャングの怖さを知る縁は、全てを失いつつあるボンゴロに憐れみの視線を向けた。
「糞が。訳の分からねぇことを」
 追い詰められても諦めはしない。
 卵丸に負われてきた集団に潜り込む形で、傷ついた部下を縁に対する盾にする。
「自分と取り巻きだけで逃げ様なんて、海賊団長の風上にも置けないんだからなっ」
 凜とした声が、悲鳴と苦鳴に満ちた戦場に響く。
 ボンゴロは縁を警戒しながら声の主を探す。
 逃げながらなので、頭上からドリルが迫るまで気付けなかった。
「この卵丸、絶対に逃がさないんだぞ!」
 連続使用で熱を持ったブースターを宥めつつ最後の加速。
 連戦による疲労と負傷で痛む体を心で支え、海賊の目を真正面から見て急降下する。
「輝け超新星っ」
「若造がぁ!」
「スーパーノヴァ!!」
「死っ」
 刀身にひびが入る。
 ドリルがナイフを巻き込み吹き飛ばす。
 卵丸の頬に一筋の傷がつき、ドリルが分厚い胸を刺して肺を血で満たした。
「安心するんだぞ、お前達の船は卵丸が有効に活用してやるんだからなっ」
 若き湖賊に過剰な残酷さはない。
 もがく海賊に的確に止めを刺し、苦痛から解放した。

●精算
「全……滅?」
 真っ黒焦げの海賊船を見てしまった蘭丸が、ふらりと倒れそうになる。
 修也が無言で支え、残り少ないエネルギーで深い傷だけを治す。
「気をしっかり持て。補償用に何か……よくやったぞポチ。ほれ、拾い集めたなら2隻分くらいにはなるじゃろ」
 金貨を咥えて得意気に旋回する小型空中サメを示し、潮が卵丸を慰めていた。
 大きな島に移送されるはずの海賊達が、厳しく拘束された状態で海岸に転がされている。
 地元の衛兵が不審に思って確かめに来て、海洋でも名の知られた縁に気付いて敬礼して去って行く。
 海賊は恐怖で言葉も出ない。
 死なないぎりぎりまで命を削られ、見知らぬ大勢に見下ろされている。
「泣かないで、君達の為を思っての行動だから。愛だよ、愛」
 少し面倒をみてあげた海賊達にマルベートが微笑むと、猿ぐつわをされたままの口から絶望的な悲鳴がもれる。
「ほどほどにな。堅気が当てられて戻ってこられなくなっても困る」
「あら優しい」
 マルベートが軽口を叩き、縁が肩をすくめた。
「おじさん達げんき?」
 メリーがしゃがみ込む。
 にこにこと笑う彼女は無邪気な少女にしか見えないのに、メリーの後ろにいる被害者遺族よりも、暴の化身にも見える悪魔と海竜よりも恐ろしく感じる。
「うしろの皆はげんきじゃないの」
 家族を奪われた老若男女は何も言わず、海賊を凝視している。
「気分転換にきょーりょくしてあげてね?」
 虚ろな目の老婆が海賊の腕を掴む。
 涙も涸れた子供が海賊の髪を引っ張る。
 海賊が海に落とされる音が、何度も繰り返される。
 苦しめ、溺れろ、最後まで苦しんで死ねという思いが渦巻き、海賊が減っても殺意の一部が悲しみに変わるだけで空気の重さは変わらない。
 全てが終わった後。依頼人と同業者が地元兵士の黙認のもと全ての痕跡を消し去ったのであった。

成否

成功

MVP

海音寺 潮(p3p001498)
揺蕩う老魚

状態異常

海音寺 潮(p3p001498)[重傷]
揺蕩う老魚
湖宝 卵丸(p3p006737)[重傷]
蒼蘭海賊団団長

あとがき

 宴会場はお洒落な公園に整備し直され、大勢の憩いの場になっているそうです。

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