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シナリオ詳細

イレギュラーズ・アドバイザリー:鉄帝復興計画

完了

参加者 : 7 人

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オープニング

●自由の翼とある将校の話
「よう、将軍。暇そうだな?」
「本当にそう見えるか……? 本当に?」
 タバコとコーヒーの香りが満ちた部屋で、木製の帽子掛けに青いハットをひっかけた男が、マボガニーデスクの向こうで書類に埋もれた男に向けて笑いかけた。
「あんたが忙しいときは戦争でも起きたときだ。違うか?」
 机にかじりついて書類のタワーを右から左へ処理している人間に向けて、まず言えそうにない台詞である。
 しかし相手は気を悪くした風には見えず、どころか皮肉げに笑って席を立った。
 崩れて机の下へと落ちていく書類群をすがすがしいほどに無視して、ガラス戸の棚からウィスキーのボトルを出してくる。
「まあ、座れ。そろそろサボる口実が欲しかったところだ」
「言うねぇ。あとで秘書の子にチクッとこ」
「やめろやめろ」
 まるで旧友が久しぶりに顔を合わせたような雰囲気だが、ここがどこだか知っていればそんなフィルタで彼らを見ることは難しいだろう。
 窓の外。
 その更に更に外。
 彼らが語らっているこの部屋こそが、鉄帝首都に鎮座ましましている巨大建造物『歯車大聖堂(ギアバジリカ)』の一室であった。
 ギアバジリカがいかなるものであるか、いかなる背景をもつかについては今更語る必要はないだろう。
 そしてあえて、いま語らっているグロー・バーリンとニコライ・ポドリスキーの背景についても触れないものとする。
 なぜならば、触れてもらうべき項目があまりに多すぎて、彼らについて語る紙幅を持ち合わせぬがためである。

●紛争の終わらせ方
 ここはギアバジリカの一室。大きなパイプオルガンを備えた広い礼拝堂である。
 ベンチに腰掛けているのは
 夜乃 幻 (p3p000824)
 ゴリョウ・クートン (p3p002081)
 ノリア・ソーリア (p3p000062)
 ジェイク・太刀川 (p3p001103)
 ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ (p3p001837)
 レイリ―=シュタイン (p3p007270)
 新田 寛治 (p3p005073)
 いずれもローレット内にとどまらず世界に名の知れたイレギュラーズたちだ。
 彼らを出迎えているのはニコライ・ポドリスキー。鉄帝国の将軍。
 そしてヴァルフォロメイ。クラースナヤ・ズヴェズダー大司教である。
 顔ぶれとその様子を一通り確かめたあと、ブリーフケースを床に置いてニコライは話し始めた。
「今回は鉄帝の元スラム街、モリブデンの復興計画を共に考えて貰いたい。
 『自由の翼』という組織からの出資で使える資金はそれなりに潤沢だ。クラースナヤ・ズヴェズダーの協力もあって人員にも苦労しない。
 それに考えると言っても、この部屋で顔をつきあわせたうんうん唸るのでは何も解決しないからな。実際に外へでてそれぞれの関係者たちと話し合ってもらうことになるだろう。
 役割としては……うん」
「特別復興支援団体、ってことでいいだろう」
 それまで黙っていたヴァルフォロメイが肩を聖書でとんとんと叩きながら会話に入ってきた。
「ニコライと俺がいりゃあ、大体の奴にはハナシが通せる。スラムのギャング連中はちと難しいが、そこにゃあ直接コネが有るだろ?」

 復興と一口に言っても、金と人員『だけ』では実行できないものである。
 政治の基本は人と人の間に立って接続することであり、コネクションの広さと質がモノをいう世界だ。
 ローレットに属する彼らを復興支援団体として迎え入れたのも、彼らのもつ直接的コネクションがニコライやヴァルフォロメイにないからだろう。
「モリブデンは知っての通り、ギアバジリカ事件によって一端更地になっている。
 生き残った住人のいくらかはギアバジリカへ移り住み、いくらかの資産家は更地に投資して観光施設や新闘技場を建設したようだ。
 だが……いや、だからこそ問題は山積みになっている。
 全てとはいわんが、できる限りの解決を目指してくれ」
「俺たちがバックにつくから、お前らの発言力もだいぶ増幅されるだろ。くれぐれもバカなことには使うんじゃあねえぞ。『我が子ら』が頼んでもいねえ大聖堂をぶち建てちまうようなことは、これっきりにしたいんでな」
 こうしてニコライとヴァルフォロメイから依頼をうけたイレギュラーズは、早速モリブデンの復興計画を議論することとなった。
 彼らの選択や、いかに。

GMコメント

 鉄帝元スラム街、モリブデン。語ると死ぬほど長いので皆さんの知識の深さを頼ることとして、今回はギアバジリカ事件のその後の政治的処理について、皆さんの力を借りることになります。
 全てに対応する必要も、そして今すぐ解決してしまう必要もありませんが、少なくとも皆さんの発現が大きくこの土地に影響を及ぼすことを踏まえてご参加ください。

 プレイングの形式は今回細かく問いません。
 自由に行えますが、同時に空振りやマスタリングのリスクがあることをあらかじめご了承ください。

●背景
 モリブデンは一度更地となった後、資本家の参入により娯楽施設や新闘技場が建設されました。
 かつて形だけ存在していたニュータウン計画は意図せぬ形で実行されたことになります。
 しかし資本家達は自分の利益や理想をもったまま、連携せずに参入をはかったためこの土地は新たな問題をいくつかはらむことになりました。
 この諸問題に対して、『自由の翼』社長グロー・バーリンは『問題解決のアドバイザーを雇う』という形で資本参入をはかりました。

●資本家
 この土地に参入している資本家は多数いますが、主に以下に分類されます。
・利益追求型:
 この土地で発生するであろう利益をいち早く獲得し、可能な限り自身の利益を増幅させようと考えている。
・闘技場愛好型:
 ラドバウのみならずモリブデン地下闘技場も愛好しており、新闘技場建設やファイターへのスポンサードを通して地域に関与している。この街が闘技場を中心とせざるをえない理由のひとつ。
・人道支援型:
 元々スラムの支援を行っていた諸団体。現在住居や仕事を失ったスラム民への雇用や住居の確保を主な活動とする。クラースナヤ・ズヴェズダー革命派と最もつながりが深い。

●諸問題
 モリブデンでは以下のような問題が発生しています。中でも特に直接対処が必要な内容は後述にまわします。

・雇用バランスの崩壊
 利益を追求する資本家は安く雇える労働力を欲するが、理想を追求する資本家は労働条件を上げがちであるため、スラム民の中でも影響力の高いものがよい職場へ、低いものはブラックな職場へ流れてしまう現象がおきています。
 これによって経済格差は更に広がり、スラム民の中で新たなプアがおきつつあります。

・景観の悪化
 観光施設や新闘技場ができたとはいえ道路その他の整備はまだしっかりとなされていません。
 闘技場まわりだけ妙に綺麗だったり、馬車駅から特定施設までだけ舗装された道路があったりなどかなりバラバラです。カオスなのは悪くありませんが、『注力されていない場所の景観が最悪』であることが観光地としての問題を際立たせています。

・難民問題
 モリブデンに暮らしていたスラム民はそうなるべくしてなりました。
 もといた土地から追い出されたことでスラム暮らししかできなくなった者や、おもてを歩いていると逮捕されるので隠れていたもの等です。
 しかし最も多いのは鉄帝による強引な地域支配によって土地を追われた少数部族たちです。中には『ノーザンキングス連合王国』の民も混ざっています。
 彼らの暮らしを保護するべく人道支援型の資本家たちが参入していますが、彼らの満足を未だ得られていません。

・ギャングの縄張り争い
 モリブデンを拠点としていたギャングたちは更地に新しく自分たちの縄張りを作りましたが、これに利益追求型の資本家たちが参入。
 ギャングを手駒にした代理戦争が起きています。
 この問題は主に新歓楽街を中心におきており、末端であるギャングの一部と直接交渉ができれば問題解決の糸口になるでしょう。
 ※要:モリブデンギャングとの直接的コネクション

・反乱勢力の処遇
 ギアバジリカ事件の裏で暗躍していた将校ショッケンは死亡し、その部下たちも多くが死亡。しかし一部は拘束され、軍監視下の元拘留状態にあります。
 元ブラックハンズ副官ミギー(今まで『鉄仮面の副官』と呼ばれていた男)をはじめ、彼らの処遇を軍は決めかねています。
 実質ニコライに丸投げされた状態であるため、彼を通して『実行力のあるアドバイス』を送りましょう。
 といってもはたから出来ることは死刑か懲役の二択なので、彼らと何かしらの交渉や約束事をとりつけたいなら直接話し合う必要があります。
 ※要:ブラックハンズとの直接的コネクション。ないしは因縁。

・闘技場問題
 モリブデンには新闘技場が建設されましたが、非常に活気が出づらい状態にあります。
 闘技場愛好型の資本家たちによるスポンサードなくして参加することは実質できていない問題から大会選手不足があげられています。
 これにはモリブデンへのイメージの悪さも影響しており、地下ファイターに対して一般市民の目が厳しいことや、新闘技場での大会へエントリーしてくれる有名選手の極端な少なさも影響のひとつでしょう。
 単純に宣伝をしてファイターを集めたり交渉をして出て貰うことも可能ですが、直接的交渉には自身のコネクションが必要です。
 ※要:有名ファイターへのコネクション。

  • イレギュラーズ・アドバイザリー:鉄帝復興計画完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年06月14日 22時15分
  • 参加人数7/7人
  • 相談8日
  • 参加費---RC

参加者 : 7 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(7人)

ノリア・ソーリア(p3p000062)
半透明の人魚
夜乃 幻(p3p000824)
『幻狼』夢幻の奇術師
ジェイク・夜乃(p3p001103)
『幻狼』灰色狼
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
ゴリョウ・クートン(p3p002081)
ディバイン・シールド
新田 寛治(p3p005073)
ファンドマネージャ
レイリー=シュタイン(p3p007270)
ヴァイス☆ドラッヘ

リプレイ

●破壊のあとの再生
「いとしの、ゴリョウさんと一緒に、ひとびとの、役に立つ仕事を……」
 うっとりと目を瞑る『半透明の人魚』ノリア・ソーリア(p3p000062)。
 しかしハッと両目を開いて、目に入ってきた担当表のホワイトボードを見つめた。
 『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)が赤外線ポインタで説明するボードに注目(集中線)。
 ノリアと『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)は全然別の担当になっていた。
「で――できませんの!」
「まあまあ落ち着いて」
「あとで一緒にできますわ」
 どうどうと手をかざす新田と『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)。
「もちろん、これらの計画がうまく進めばの話ですけれど……」
「ふむ……」
 フォーマルな女性用ビジネススーツに身を包み、腕組みをする『ショッケンが倒せなかった女』レイリ―=シュタイン(p3p007270)。
「今更ながら、この諸問題よく見ると……」
「ぶははっ! 今までやってきたことが結実するってのはイイもんだな」
 ゴリョウはマーカーでキュキュっとボードに名前を書き足すと、一同へと振り返った。
「俺ぁ傭兵集団『ヤマカシ』に多少のツテがあるかんな。闘技場に招致するついでに、ヤポンスキー将軍につなぎをとってもらってくるぜ」
「ああ、あの……」
 ノリアがぼんやーりと記憶をたぐった。混浴風呂の思い出がよみがえって首を振る。
「今や温泉仲間同士、話もしやすいしニコライ将軍の名刺ももってきゃ政治的にも筋が通しやすいだろ」
 ゴリョウの役割は要するに根回し。モリブデンでいまバチバチにぶつかっている資本家たちをある程度まとめるための手札を用意しにいくのだ。
 一方でノリアは選挙活動用の資料をかりかり作っていた。
 彼女の役割はモリブデン市民のリーダーを選出するための計画である。当然鉄帝でリーダーを決めるとなれば、ヴェルス同様闘技場最強の人間を地区代表とするのが自然だが……。
「ギアバジリカの事件以降、特にモリブデンを拠点にしていた難民たちは鉄帝のありかたに少なからず疑問を持っているでしょうからね。これまで通りのやり方では、きっと通用しないでしょう」
「ギアバジリカ事件……あれには僕も心痛めておりました。
 なるほど、僕は本気でこの案件に取り組まなかければいけませんね」
 『『幻狼』夢幻の奇術師』夜乃 幻(p3p000824)はそう語って頷くが、事件とはまた別の部分に彼女なりの理由があるようにも見えた。
 その一方。
「ンンッ……」
 『『幻狼』灰色狼』ジェイク・太刀川(p3p001103)は咳払いをして背を向けた。
 非常にデリケートなことなので時系列を述べておくと、アルバニアとの第一次決戦を基準にそのちょっと前くらいの出来事である。あのあと(というかリヴァイアサンとの決着のあたりに)どうなるかは皆様ご承知の通りではあるが、いまは当時の様子としてご覧頂きたい。
 つまり何が言いたいかというと、ジェイクはいまとっても気まづいのだ。
(……とはいえ、モリブデンの事件には何度か関わった事があるからな。一旦切り離して行動するとするか。俺もこの街が良くなる事を望んでいるわけだし、な)
 と、こんな具合に幕を開けたモリブデン復興計画。
 アドバイザーとして雇われたローレット・イレギュラーズたちは今回、政治的に諸問題の解決に向けて乗り出すこととなった。

●街の景観について考える
「…………」
 モリブデンの中途半端に舗装された道路を、幻は歩いている。
 開いた手帳にはいくつものメモが書かれていたが、いま開かれているページにあるのは『土木にかける金』であった。
「やるべきことは見つかりましたか」
 隣を歩くフォーマルスーツの女性。幻へ一時的にあてられた補佐官である。
 幻は立ち止まって手帳をぱらぱらとめくったあと、補佐官へと振り返った。
「スラム民の立ち退きを行いましょう」
「――」
 補佐官が目を見開き、喉をヒュッと鳴らす。
 『モリブデンでの立ち退き』といえば、かつてショッケン将軍が裏で糸を引いて行った、モリブデンを奪うための計画だったからだ。
 殆ど暴力によって住民を追い出すやり方は、スラム民がイレギュラーズを雇って防衛することでとどまったが……。
「なにも地上げを行おうというわけではございません。相応の金銭と住居が確保されれば、立ち退きに応じるか……それを尋ねて回るだけです」
「うう、む……」
 補佐官は難しい顔をした。
「全く同じ入り口で、彼らは大規模な詐欺にあっているので……まず信用を得るところからか、と」
「なるほど」
 幻の計画では、土地を大きく確保したのち商業、工業、農業、住宅の四区画に分けて改めて整備し直すことで街の景観をいちから作り直すというものであった。
 当然この計画には『一軒でも立ち退かない家があると頓挫する』という欠点があるため、そうした人々との交渉が不可欠になるのだが……。
「職業支援と当面の生活費はそれぞれ確保できるでしょうから、まずはそこから、ですね」

●難民問題
 幻が住居や職業支援について動いているその一方で、ジェイクもまた同様の問題に対応していた。
「まずは難民問題だな。どのくらいいる?」
 鐘の鳴る教会の一室。
 ジェイクとテクノカットの神父めいた男は机をはさんで向かい合っていた。
「どのくらい……と申しますと……」
 神父が困り顔で言った。
 ジェイクはあたまをカリカリとかいて、『100人単位で……』と小声で返す。
 神父は事務机から資料の一つを取り出し、それをジェイクへと黙って見せた。
「…………こんなにか」
「はい。ギアバジリカが有名になったことで、前より増えたようにすら思えます」
 旧モリブデン時代はそもそも管理ができていなかったので、潜在していた難民達が一気に可視化しただけともいえるが。
「まあいいだろう。予算はある。仕事も、今はある。まずは集合住宅を建設して、そこに招こう。生活の面倒と仕事をの斡旋をするかわりに、こちらの発言力を強める」
「なるほど。打倒ですな。それで仕事というのは?」
 ジェイクはうーむと唸ってから、何枚かの書類の内蝶のサインが描かれたものを選んだ。
「道路その他の整備。土木作業だな。他にも手に職をもってるヤツがいれば積極的に組み込んでいく。その辺の割り振りは俺も手を貸すが、基本的には任せていいか」
 それはもちろん、と頷く神父。
 難民達が配給のパンを求めて集まることから、神父は発言力が強くある意味で彼らに対しリーダーシップをとれていた。
「しかし、難民はなるべくしてなった方が大半です。手に職のある者はそう定住しないでしょう」
「分かってる。職業支援校だな」
 ジェイクは再び資料をぱらぱらとめくり、また別の資料を引っ張り出した。
「それについてはもう仲間が動いてる。まずはハコをこしらえてくれ」
 技術をあらかじめ教育できる場所があり、生活の面倒も見られるとあれば、難民達も貧しい生活を抜けるために通うようになるだろう。
 農業を学べば食糧自給が可能になるし、戦闘訓練によって自警団を組織することもできる。
 向き不向きこそあれ、選択の幅は『元から持っているカードだけに頼る』より大きく広がるはずだ。

●ブラックハンズ
 職業支援校の資料を抱え、眼鏡をかけるレイリー。
 彼女が腰掛けたパイプ椅子。前には小さな穴の開いたアクリル板。板の向こうにはまた別の部屋があった。
 ややって、部屋へ一人の男性がやってくる。
 顔の大部分を火傷や刀傷だらけにしたスキンヘッドの男、ミギー。
 かつて装着していた鉄仮面はなく、素顔である。
 収容所の規則ゆえ、潰れた片目をおおう眼帯すら許されていないようで、彼の有様にレイリーは息を呑んだ。
「……『ショッケンが倒せなかった女』。私を笑いに来たのか」
「笑って欲しいのか?」
 レイリーはあくまで余裕をもって、足を組んで椅子の背もたれに寄りかかって見せた。
「特殊部隊ブラックハンズも、今や皆檻の中だ。世の影を走り、国のために泥すらも食らった者たちの末路と思うと……とても笑えんな」
「…………」
 みえみえの挑発を仕掛けてみたが、しかしミギーは黙ってレイリーの顔を見つめるばかりだった。かつての彼なら逆上して銃口を突きつけるくらいはしただろうが。
「貴殿がショッケンについていった理由。賛同はしないが理解はできる。彼もまた、国のためにのし上がろうとした男だった。ブラックハンズの使命そのままにな」
「『貴様になにが分かる』……と、ここでは言うべきなのだろうな」
「だが言わない。貴様もまた、それが分からなくなりかけているからだ」
 眼鏡のきらりとひからせたレイリーの指摘に、ミギーは肯定を示すようにうつむいた。
「彼の名を……ブラックハンズを遺したいと思わないか? そして、彼が選べなかった『奪う』以外の選択をしてみないか?」
「何を、今更」
「歴史というのはチョロいらしいぞ。後に善行を詰めば善人として記録され、死後に糾弾されれば悪人として写真が残る。要するに、貴殿次第というわけだ」
 レイリーの言わんとするところを、ミギーはどうやら察したらしい。
 首を振り、そして目を瞑った。
「何をさせたい」
 ふふ、とレイリーは口元をゆるめ。
「教育だよ、ミギー。貴殿の技術は、多くの人を救う」

●モリブデン再開発公社
「投資家各位の思惑や利益で無秩序かつ誰も幸せにならない開発が行われぬよう、2つの施策を行います。1つは適切な舵取り役を決めること。もう一つは投下資金を一元化し、大規模なファンド……復興投資債として運用する事です」
 ろくろを回しながら説明する新田の前には、複数の投資家たちが並んでいた。
 投資家たちの反応は様々だった。
 『面倒がないのははいい』『新田氏には信頼がある』『そんなことより服を脱げ』『まず戦闘力を見せろ』『ウホホウッホ』――中でも深く切り込んできたのは、ある家の令嬢である。
「誰が公社を管理するのかが問題だわ。権力は使い方を誤れば街を滅ぼす。それはギアバジリカが私たちにもたらした学びじゃなくって?」
「仰るとおりです。ですので公社の管理に――」
「私が責任を負いますわ」
 フォーマルなシスター服に身を包み、ヴァレーリヤが立ち上がった。
 これにはさすがの投資家達も『おお』という声をあげ、一部は『んん?』と声を上げた。
 鎧を着た大柄な投資家が手を上げる。
「彼女は、その……『大丈夫』なのか?」
「……」
 眼鏡の表面に光を反射させ、新田は一瞬だけ黙った。
 脳裏をあくどいハムスター顔のヴァレーリヤがよぎっていく。あと『プールにお酒を満たして泳ぎますわ!』とか抜かして全裸で飛び込む姿がうかんだ。あっふぁんどしなきゃ。
「彼女はあのアナスタシア直属の信徒であったはず。ギアバジリカ事件にも深く関与したとか」
 あっちがった。
 新田はちゃきっと眼鏡を直し、用意して置いた資料を出そう……としたところで、別の資本家が手を上げた。
「彼女はむしろ自体の鎮圧に深く寄与したやろ。問題対策能力ありやで。ワイは彼女を推す」
 こう述べたのは、利益追求型の資本家ことヤポンスキー将軍だった。
「それにギアバジリカは今や観光資源や。そこにがっつり食い込んどった彼女を広告塔に据えればガッポリ儲かるで。マイナスイメージが逆に利益になるタイミングや」
 ヤポンスキーの説得には若干の無理があったが、同じように利益追求型の資本家達は『なるほど確かに』と声を上げて拍手をした。
 ……と、いうのも、実は説明会前に根回しを済ませていたがためである。

「よう、将軍! 元気にしてるか?」
 説明会が告知されてすぐの頃、鉄帝ゲルマ温泉街へとやってきたゴリョウは温泉宿で悠々自適に暮らしていたヤポンスキーの元を訪れていた。
「随分儲かってるみたいじゃねえか」
「イイもんの良さを金にするのは当然や。なんで誰もやらんのや?」
 小さな一人用温泉に浸かって、ゴリョウが手土産にした日本酒をちびちびとやるヤポンスキー。
「で、なんや。新しい温泉でも見つけたか」
「アンタほんとにハマったな」
 ゴリョウはどっかりと腰を下ろすと、『モリブデン再開発公社』の資料を突き出した。
「俺の知りうる限りで、権力を持つ上で利益追求者の取りまとめまで出来る存在はオメェさんしか居ねぇ」
「ええのんかぁ? ワイはやりたい放題やるで?」
「『金儲けのために』な」
 パン、と膝を叩くゴリョウ。
「目的が定まってるなら逆に信用できる。黙って女に転んだり敵国に内通したりっつー心配がねえからな」
 好きなものは金と温泉。そのためならなんでもやるというスタイルは、逆にそれを脅かすおそれのある行動をとらないことを意味する。
「この温泉街はオメェさんに任せてここまで発展したんだ。同じことを頼んでるつもりだぜ」
「フン……考えといたるわ。金にならんようなら説明会にすら顔ださへんでぇ?」

 といういきさつの末。
「――クラースナヤ・ズヴェズダーは鉄帝の中でも特に有名になった教派や。クリーンなイメージもある。闘技場ゆーたら荒くれモンのたまり場っちゅーイメージをブランドで払拭できるチャンスやねんで今は」
「それに復興に成功すれば将軍がたのロビー活動によて政治にも影響を与えうるでしょう」
「……ほう」
 人道支援を中心に活動している資本家たちが反応を示した。
 彼らにとって政治的発言力は大枚をはたいて買いたいものだ。しかし安く買うタイミングはそうそうない上に、資金力で他に劣る。最もスムーズかつ手頃に買い込めるチャンスだと、ヤポンスキーと新田は示唆したのだ。
 中にはヴァレーリヤが事前に面会した資本家達も混ざっている。彼らの望むものを与えることを暗に示して説明会で味方になるよう誘って回っていた。
 極端なことをいうなら、政治とは話し合いと通訳である。人と人を結びつけ、ときに味方を増やして世の中の流れそのものを変えてしまうものだ。その方式は地球でも紀元前からずっと有効なスタイルである。
 だがそんな中であまり賛成票を淹れなかった者たちがいた。それが闘技場愛好型の資本家たちである。
「闘技場が盛り上がるならともかく、治安が崩れればファイターは裏家業に転びます。治安維持策はあるんですか」
「それならば――既に」

 ここで二枚目のカードの出番である。
 新田とヴァレーリヤはかつて共に戦いモリブデンの難民達を守ったギャングチーム『クアッドコア』や『ヒューグ一家』へと話をつけ、彼らに一定の利権を約束する代わりにモリブデンの警備を公的に請け負う仕事を負わせたのだった。
 余談ながら、ヴァレーリヤがクアッドコアに作っていた『貸し』はギアバジリカ事件収束の折に返したものとされていたらしい。彼らにとってはヴァレーリヤや新田たちはちょっとした英雄扱いだったのだ。
「私達は治安と難民の待遇を改善したい。貴女達は女性を守りたい」
「我々は仲間を見捨てない」
 この約束はローレットとクアッドコアの間で結ばれたものでは、じつはない。なぜならローレット自体に責任を負わせるにはレオンをはじめかなり大規模に人が動くことになるからだ。なのであくまで新田とヴァレーリヤ個人の責任として、この約束は成立している。
 逆に言えばそれが可能なほど、彼らの過去の働きは評価されていた。

●波の行く末
「これは、わたしの恋人の、ゴリョウさんが、ヴァレーリヤさんの求めに応じて、提供してくれたものですの」
 無料売店(実質的な炊き出し)でおにぎりやお酒を配るノリアやゴリョウたち。
 今日は彼女が計画したイベントが最大の盛り上がりを見せる日である。
 新闘技場ことモリブデンスーパーアリーナには巨大な幻影投射器によって看板が表示されている。
 コンバルグ・コングやパルス・パッションなどを有名闘技者を招いたイベントの後、ついにモリブデンの市長が決まろうとしていた。
 戦闘力の面ではあまり有名ではなかったB級やC級のファイターが、その最終候補者として表示されている。彼らの名前の上には『投票数』が表示され、それは戦闘力とは別のものさしとして機能していた。
 つまり、市長は『闘技場での勝敗』ではなく、その後に行われる『市民投票』によって決定するのだ。
 必然これにより、より多くの人気を得た者こそが勝利する非常に斬新な闘技大会が開かれることになった。
『今は、討論を尽くす時間も、その意義を広める時間も、不十分ですの。
 こんなときは、鉄帝らしく…鉄帝式、つまり、闘技大会が、手っ取り早いですし、皆にも、受け入れられやすそうですの…地位を求めて、強い闘士たちも、参加してくれそうですし』
 ノリアがそう語った通りというべきか、強さとは別の武器で戦うファイターたちが非常に紳士的な、見せるためのバトルを披露するようになり、観客も自分たちの投票がファイターに影響を与えるとしてより熱心にかようようになった。
 職を失った難民達も地元ギャングの斡旋やブラックハンズの支援もあって様々な職につき、街を賑わわせている。
 ここにはもう、かつてのスラム街や更地の荒野であった面影はない。
 モリブデンは、再生したのだ。

成否

成功

MVP

ノリア・ソーリア(p3p000062)
半透明の人魚

状態異常

なし

あとがき

 お疲れ様でした。モリブデンはこのように再生され、そして新たな道を歩み始めることになりました。

 相談時点で既にお気づきかもしれませんが、このシナリオにおける『諸問題』はそれぞれ部分的に繋がっており、各担当者ごとに行動範囲を切り分けて連携することで集中すべきポイントへより集中できるように作られています。
(※更に言うと『有名闘技者とのコネクション』は今すぐ誰でも作ることが可能な作りになっていました。ここではその詳細については伏せますので、あとから考察してお楽しみください)
 そこへきて、皆さんの行動は若干のかぶりやすれ違いこそあったものの、おおむね切り分けができていたと言えるでしょう。
 そしてうまくするとひとつのアイデアで諸問題全体の解決を図ることも不可能ではありませんでした。中でも最もそれに近い行動ができていたノリアさんを、ここでは賞賛しシナリオを終わりたいと思います。

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