PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<魔女集会・前夜祭>真実は霧の中

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●魔女集会
 海洋王国領海、北の外れに位置する名もなき小島──そこに建った隠れ宿の一室で、ゆらりと灯りが揺れた。照らされるのは美しい女性──否、男性とその手にある手紙。

『魔女集会で会いましょう、私の可愛い夜の子供達』

 そう綴られた手紙の差出人は、夜(ナハト)という集団の長。宛先はもちろん夜に所属する者──魔女たちだ。ポップな招待状であるが、何処にいたとしても何故か届く不思議な代物である。
 その文字を指でなぞりながらRifflut・Februarはつと目を細めた。
「行くなら準備をしないとねぇ」
 魔女集会の周辺は人避けのため、長の魔法によって一時的にダンジョンのような──容易に入り込めない──空間になっている。自力で進む魔女もいれば、使い魔などの助力によって進む魔女もいるだろう。ダンジョンへ辿り着くまでに助けがいる魔女もまた然り。
 Rifflutはどちらかと言えば後者の魔女である。【霧笛の魔女】などという二つ名は気に召さないのだが──他でもない長からの招待状なのだ。
 ポップなそれを机の脇に置き、Rifflutは紙にさらさらと文字を書き始める。宛先はローレット、を介して我が子と弟子のいる隠れ宿分館へ届くように。
 流麗な文字で書きあげたRifflutは封蝋を垂らして封をすると、手紙を出すべく席を立った。


●polarstern
 数日後、8名のイレギュラーズが隠れ宿まで足を運んでいた。最もMeer=See=Februar (p3p007819)からすれば帰省とも言うのだろうし、Sperlied=Blume=Hellblau (p3p007964)とてMeerの両親とは顔見知りだ。初めて来る場所でもないだろう。
 案内されたのは奥まった部屋──容易に客が入ってこられないような場所。待っていた人物にMeerは「お父さん!」と笑顔を浮かべる。その言葉に他の──Sperliedを除いた6人の──イレギュラーズは少なからず衝撃を受けた。
 ──お父さん? と。
 そんなイレギュラーズたちの心境を知ってか知らずか、父と呼ばれた人物は嫣然と微笑む。
「ようこそお越しくださいました。当宿の女将を任されております、リッフルートと申します」
 あれ、女将って女主人のことだよな。でもお父さん? あれ?
 少なからず困惑の漂う中、一同はRifflutがくすくすと面白そうに笑っていることに気づいた。彼女──いや、彼は悪戯っ子のような表情でウィンクしてみせて。
「私は男だよ。ふふ、勘違いする人は多いから気にしないで」
 恐らく先ほどの言葉はイレギュラーズたちの心境を知っての事だった、ということだろう。さあかけてと彼に促されるまま、イレギュラーズたちは用意されていた席へ座る。
 彼らがここへ呼ばれたのは他でもない、Rifflutからの頼み事だ。つまるはローレットでの依頼と同義になる。普段と異なる点と言えば、情報屋を介さず依頼人と直接対話しているところだろう。
「とある海域で船が進路に迷ったり、正しく進んでいたはずなのに暗礁へ乗り上げそうになる事故……ううん、事件が起きているようでね」
 決して件数は多くないが、件の海域とその内容から一連のそれをこう呼ぶのだという──『20年前の類似事件・霧笛の魔女の再来』と。
 誰かが霧笛の魔女と言う言葉に首を傾げると、Meerがこっそり「お父さんのことだよっ」と耳打ちする。Rifflutには聞こえなくとも何を言っているのか察せるだろうが、直接聞いてこなければひと先ずは良しといったところだろうか。
「私もねぇ、ちょっと前までは悪戯心で遊んでいたけれど」
 随分と悪質な遊びである。
「今の私は美人女将で、伝承化した海の怪異じゃあないからねぇ」
 Rifflutは苦笑を浮かべ、請うように小首を傾げて。

 ──余計な波風は立てたくないし、こっそりお手伝いを頼めるかい?

GMコメント

●成功条件
 『霧笛の魔女』と呼ばれる存在を調べる事

●情報精度
 このシナリオにおける情報精度はBです。
 調査シナリオであるため、場合によってはPCの思いもよらぬ展開が有り得ます。

●詳細
 この依頼において『現在噂されている霧笛の魔女を無害化し、噂が広がらないようにする』ことが重要です。犯人はもちろんRifflutではありませんが、このまま噂が流れ続ければ彼と旅館に不都合な展開となるかもしれません。
 件の海域は隠れ宿のある小島からほど近い場所にあり、霧が立ち込めています。また元々暗礁の多い場所であるそうです。
 被害に遭った船の乗組員曰く、
『霧の中から細い手に手招かれた』
『声が響くようだった』
『海へ飛び込む魚の尾びれを見た』
 等の発言が上がっています。

 PCはシナリオ中、以下の内1箇所に聞き込み調査へ赴くことができます。複数グループに分かれての聞き込みをすると良いでしょう。
・酒場
 昼から船乗りたちがたむろしており、賑やかです。酒豪が多いです。上手く話を導かないと論点が逸れそうです。
・市場
 小規模ながらも栄えています。商人から話を聞けるでしょう。より詳しい話を聞くのならば相応にうまく立ち回らないといけないかもしれません。
・港
 帰ってきた船、これから海へ出る船と様々です。荷造りなどをしているでしょう。忙しい時間の合間を縫ってもらいませんと、ね。
・その他
 思いつく場所があればプレイングで明記してください。場所によっては上手く情報を引き出せない可能性があります。

 午後の良い時間になったら船で件の海域へ向かいましょう。船はRifflutが用意してくれます。ある程度この先の展開はプレイングで予想しておいてください。
 霧笛の魔女と遭遇できましたら、無害化の方法はお任せ致します。

●NPC
・Rifflut・Februar(リッフルート・フェブルアール)
 Meerさんの関係者であり、【霧笛の魔女】の二つ名を持つ魔女。男性です。お父さんですって。
 海洋の隠れ宿で女将をしており、その昔は船を惑わせて遊んでいたそうな。霧の出る海域では気を付けた方が良いかもしれませんね。
 無事イレギュラーズがお手伝いを終わらせれば、伴侶の船で送ってもらえるのだとか。

●ご挨拶
 リクエストありがとうございます。お待たせいたしました。愁と申します。
 あまり堅苦しいものではありませんが、旅館のためにもしっかり調査しましょう。この件に関してどのようなことを聞きたいのか、より明確にしておくと調査は捗るかと思います。
 プレイングをお待ちしております。

  • <魔女集会・前夜祭>真実は霧の中完了
  • GM名
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年06月19日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費---RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

レイヴン・ミスト・ポルードイ(p3p000066)
虚孔
エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)
戦気昂揚
フェスタ・カーニバル(p3p000545)
キス魔(風評被害)
回言 世界(p3p007315)
貧乏籤
カンベエ(p3p007540)
大号令に続きし者
Meer=See=Februar(p3p007819)
ざ・こ・ね
Sperlied=Blume=Hellblau(p3p007964)
『霧笛の魔女』の弟子
霧裂 魁真(p3p008124)
要塞殺し

リプレイ

●Markt
(さて、風評とは厄介なものだ)
 『黒翼の裁定者』レイヴン・ミスト・ポルードイ(p3p000066)は賑やかな市場に立ち、辺りを見回す。噂好きそうなご婦人たちに仕入れの業者、そして売り捌く商人たち。誰も彼もが噂を知っているのだろう。
 レイヴンはその中でも情報の集まりそうな豪商と、噂に詳しそうな地元の商人へ目を付ける。
「やぁ商いの方はどうかな? 最近は海上に霧が出て大変らしいじゃないか」
 彼に声をかけられた豪商は目を丸くすると「これは、これは!」と笑顔を見せた。豪商とレイヴンは初対面であるが、相手の様子はどこか見知ったような雰囲気。無理もない──彼にとってレイヴンは『知り合いである』のだから。
「本日はどういったご用件で?」
「船乗り達から『歌声が聞こえる』なんて噂を聞いてね。何か知らないかい?」
 レイヴンの言葉に豪商は一瞬顔を引きつらせた、ような気がした。気にして見ていなければ気づかないほどの小さな綻び。気づいたのは勿論その顔色を窺っていたからに他ならない。
 相手の反応は当然だろう。相手は売り手、こちらは買い手。変な噂で商いに影響が出ていると思われてしまったら、もう2度と購入してもらえないかもしれない。立ち行かなくなる危険性を含んだ商人など切り捨てられてしまってもおかしくないだろう。
 だからこそレイヴンは持っていた1枚の金貨を相手の懐へと押し込む。ほんの気持ちだ、と囁いて。
「霧笛の魔女……聞いたことあるだろう? 実は、内密に貴族院から派遣されて来てね……」
 兄の紹介状をそっと見せれば、豪商は片眉を上げるとにまりと笑みを浮かべる。そうでございましたか、と告げる声音は驚くほどに穏やかだ。
 人気の少ない場所へ移動した豪商は随分と声量を落としてレイヴンへ告げる。
「ええ、ええ。どうやらあの魔女が再来したようです。おいで、おいでと招くような女の声がしたのだと──」

 一方、レイヴンと別行動の『大号令に続きし者』カンベエ(p3p007540)は。
「ご存じでごぜえますか?」
 例の海域に出る霧笛の魔女──その再来。知っているともと頷く商人たちに「あれは偽物らしい」と言えば、その表情は一様に驚きへ彩られる。
「そうなのかい?」
「あれが違うってのか!」
 おや、とカンベエは眉を上げる。もしや被害者の1人であったか。
 言い淀むような商人の1人に彼は頼み込む。これは人助けなのだと。もしかしたら罪なき誰かが酷い目に遭うかもしれないと。
「必要ならば、知り合いの漁師や商人を紹介致しましょう! どうです?」
 ガッチリと手を握るカンベエ。目の前の商人は明らかに海洋人ではなく、さりとてあの鉄帝人でもない。故に金ともにその手を握りつbじゃなかった、強く強く願いを込めて握りしめる!
「そ、そうだな! 是非とも!!」
 手を離すと商人は明らかに安堵の表情を浮かべる。あれは思い出すのも恐ろしいんだと告げる相手は、しかしカンベエへ教えてくれるらしい。
 海を渡っていた時のこと。霧が垂れ込め、皆が警戒する中──女の手が『外側から』伸びてきたのだ、と。


●Hafen
(海洋軍があると非常に楽なんだがな)
 『戦気昂揚』エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)は港を見回し、軍船らしき船を探す。決して大きいとは言えない港は、それでも商戦や客船で賑わっているようだ。
 エイヴァンは忙しそうな場を縫うように進み、その耳で噂のカケラを探す。
「ちょっといいか」
「なんだい、こっちは急いでいるんだ」
 そのカケラを零したのはいかにも漁師、と言わんばかりの屈強な男たち。手伝おうと申し出ればその態度もやや軟化する。
(怒られるかもしれんが)
 これも全ては本来の任務のためである。
「この島の良い宿を知っているんだ。その宿の良い噂を流してほしいのと、その噂とやらを詳しく聞かせてくれないか」
「宿?」
 聞けば始めてこの島を訪れたらしい。知らねばわからないという漁師たちの言葉は至極当然だ。エイヴァンは宿を口八丁手八丁に褒め、道も簡単に教えてやる。これで宿に向かい「イレギュラーズの紹介だ」とでも言えば何かしらのサービスが出る……かもしれない。そこまでは彼にとってあずかり知らない話であるが。
「時間はそうだなぁ、夕暮れくらいか」
「そうそう、そろそろ着かないとって言ってた頃だからなぁ」
「ふむ。場所は件の海域で、そこはいつでも霧が出ている……と。
 荷は何を積んで来たんだ?」
 エイヴァンの言及はひたすらに続く。少しでも情報をという思いとともに──彼らの手伝いが終わるまで、ずっと。

「すみません、作業は続けていただいて構いません。少しだけ貴方の頭と口をお借りしたい。
 対価は午前中いっぱい使える労働力では如何でしょうか?」
 開口一番にそう告げた『『霧笛の魔女』の弟子』Sperlied=Blume=Hellblau(p3p007964)へ、現場の指揮をしていた男はニヤリと笑う。わかってんじゃねぇか、と。時間が惜しいのはお互い様なのだ。
「へぇ、宿が近いのか。そりゃあ気になっちまうもんだな」
「はい。今後の安全のため、何か……些細なことでもご存知ないかと」
 Sperliedの言葉にそうだなぁ、と思案した男は少し離れた場所にいる青年を指す。彼は確か被害者だったはずだ、と。
「それが終わったら行っていい。急いでんだろ。十分助かったぜ」
「いえ、こちらこそ。騒ぎが収まったらどうぞ当宿へお越しくださいね」
 朗らかに笑った男と別れ、荷造りの準備をひと段落させたSperliedは黙々と作業をしている青年に声をかけた。
 訝しげだった青年に男から紹介されたと話すと1つ頷く。
「答えられることなら良いんだが」
「ご存知の範囲で構いませんよ」
 昨日の夕刻だったと思い出すようにしながら語る青年。計器類は正常だが、霧満ちる海域に踏み込んでしまい皆が警戒していた時だったとか。
「声は霧に入ってからだったよ。噂は聞いていたから、皆で思いっきり大騒ぎして驚かしてやったのさ」
 そして、驚いたその何かは海に逃げるように──ぽちゃんと水音を響かせたのだ。


●Bar

「昔々のその昔
 霧夜の海に響く歌
 それはそれは艶やかに
 歌っているのはさあだぁれ♪」

 酒場に『ざ・こ・ね』Meer=See=Februar(p3p007819)の歌声が響く。店員と話混じりに接客していたMeerだが、悪い魔女の噂を打ち消さんとステージへ上がっているのだ。出来上がっている客がヒューヒューと囃し立てる中、『貧乏籤』回言 世界(p3p007315)は酒場の店主へ声をかけていた。
(……そもそもそんな伝説になるような悪い遊びをしなければ良かったんじゃないか、と思わなくもないが)
 Meerの父から依頼とあれば無視するわけにもいかない。世界も調査が得意なわけでもないが、努力くらいはしてみよう。
 とはいえ、すっかり出来上がった船乗りたちに声をかければダル絡みは必須。面倒にしかならない。故に──独自コネクションの出番だった、というわけだ。
「あの歌、最近の噂を元にしているらしいな」
「ああ、やっぱりか? どいつもその話ばかりだ。なんでも長い髪の乙女だったとか」
 へえ、と相槌を打つ世界。少し離れた場所では世界があえて距離をとった酔っ払いたちに話しかける猛者がいる。『要塞殺し』霧裂 魁真(p3p008124)だ。
「ねぇ、その魔女ってなんか凄そうだけど……あんた見たの? 俺も聞きたいなぁ……その話、ね?」
 お願い、と見つめれば酔っ払いが調子にのる。破廉恥な手をそれとなく躱しつつ、情報を聞き出した魁真は彼らのうち1人が口をつけていたジョッキに手を伸ばし、口をつけた。もちろん酒が目的──ではなく、付着した唾液の採取である。
 断片的な、正しいかもわからない光景に目を細めた魁真は、酒をさらにあおって盛り上がる酔っ払いから忍び足で離れていく。彼らに興味があったわけではなく、全ては仕事のため。悪いが本気になってもらっては困るのだ。

「喜び勇んで舵をきり
 我こそ先にと飛び込んで
 みんなみんな海の底♪
 そこへ現る強き者
 船首に妖精従えて
 眼光鋭き矢の如く
 悪しき妖魔の心の臓
 怯まずズドンと撃ち抜いた♪」

 歌うMeerは噂話をそこかしこから拾い、『エブリデイ・フェスティバル』フェスタ・カーニバル(p3p000545)とアイコンタクトする。
(僕あっちね)
(じゃあこっちに聞いてみる!)
 そんな会話を視線の移動でやり取りし、Meerは簡易ステージから降りると1組の男女へ近づいた。
「ねえねえ、噂の魔女について教えて? 歌の参考にしたくて!」
 Meerの言葉に男女はあれは女だとか、いいや化け物だとか口々に言う。彼らは客船で訪れたらしい。
「綺麗な高い声だったもの」
「だがあのシルエットはヒトじゃないだろう」
 どんなシルエットだったのかとMeerが問うと、はっきり見えなかったという前置き付きで教えてくれた。
「多分上はね、ヒトなのよ」
「下はヒトじゃないだろう。化け物だ」
「上はヒトで、下は化け物……魚の尾びれを見たってヒトもいたみたいだけれど」
 Meerの呟きに男が目を丸くし、暫し考える素振りを見せる。もしかしたらそうだったのかもしれない、と。
 一方のフェスタはおつまみを食べつつ船乗りの話に耳を傾けていた。飲酒は成人してから。
「その……人魚さん? なのかな。どんな様子だったの?」
「そりゃあもう、楽しげで! 慌てふためく俺たちを見て大笑いよ!!」
 喉元過ぎればなんとやら。船乗りは顔を真っ赤にしながらその時を思い出したのか豪快に笑う。未遂で済んだのだからもう笑い飛ばせる話、ということか。
「悪戯が好きなのかな?」
「かもしれねぇな! だが、お嬢ちゃんも外に出るときは気をつけるんだぜ? 霧が出たらもう奴の術中さ」
 真剣な表情を浮かべる船乗り。注意喚起のためにもその話は広めたいのだろう──だが、フェスタたちはそれをされると困る側である。
(霧笛の魔女の噂が広がらない様に……そうだ!)
「どうせ流すなら明るい噂にしない?」
 フェスタは代わりにどうだろうと自らのギフトを売り込む。『彼女にキスしてもらうと幸せが訪れる』という──話だけ聞けば本当に根も葉もない噂になりそうな内容を。
 一蹴されそうなその話も、酔いの雰囲気がノリを軽くさせる。じゃあ頼むぜ、なんて出された手の甲にフェスタはキスを落として。
「おい、そこのあんたもやってもらわねぇか? この嬢ちゃん、幸せを運ぶんだと!」
「誰の手の甲にもキスするよー。幸運が来たなって思ったら噂を広めて欲しいな♪」
 馬鹿でかい男の声にちらほらと人が集まり始め、フェスタは一時注目の的に。恥ずかしいがこれも依頼のためだ。

 この日、2つの噂が急速に島を広がった。
 1つ目は『例の怪異は魔物のものであり、すでに討伐部隊が向かった』こと。
 そして2つ目は──『幸運を呼び寄せるキス魔が現れた』事であった。なんとも言えぬ風評である。



 2つの噂をまだ知らぬ一同は、昼に集まると意見を擦り合わせつつも件の海域へ向かう。

 夕刻の霧が出ている時間。
 人の上半身に魚らしき下半身。声と手は女らしいそれ。
 人の慌てふためく様を笑い、しかし驚かせばすぐ逃げていく。驚かされはするが攻撃をされたことは全くない。

「戦わずには済みそうだな」
 ほんの少しばかりの安堵を浮かべるエイヴァン。しかしとカンベエは難しい顔だ。
「相手に果たして、悪意はないのでごぜえましょうか」
 そこが重要なのだ。悪意があるのならば特定の相手にだけ敵意を向けるかもしれない。
(面識はないけど、まさかお父さんの実家が絡んでないよね……)
 そんなわけはない、きっと。Meerはたらりと冷や汗を流す。その視界が不意に、曇った。
「そろそろだ」
「あまり身を乗り出して落ちませぬように」
 一同に若干の警戒が走り、カンベエが静かに告げる。魁真は用意した灯りをともしてみるが、さてどれほどの効果があるのか。
 完全とは言えぬ情報だが、噂の断片など得てしてそういうもの。けれどここから導き出される、この先に待つだろうそのモノの名前は恐らく──。
「「──セイレーン」」
 直感を働かせた世界、そして推理したレイヴンの答えは見事に異口同音。セイレーンとは海の魔物に与えられる1つの名である。Sperliedは霧の先を見据えんと睨みつけた。
「可能なら、穏便に済ませたいものですね」
 カンベエの言う通り悪意の有無は不明のままだ。やめてもらうか、それとも無理矢理にやめさせるか。
「おーい!」
 フェスタが息を吸って思い切り叫ぶ。シンとした辺りには、未だ応えも歌のひとつも聞こえない。
「ねぇ、霧笛の魔女ってホントにいんの? アザラシでも見間違えたんじゃない?」
 魁真がわざとらしく肩を竦める。歌声も実は声ではなく、鳴き声だったのかもしれないと。
 そんな煽りに反応したのか、どこからか女の声が響いた。幾重にも反響する笑い声。嘲笑うようなそれは、一体どこから聴こえるのか。
「悪戯で済んでいる内に捕まった方が身のためだぞ!」
「大丈夫、攻撃はしないから! いっぱいお喋りしようよ!」
 カンベエとフェスタの言葉にくすくす笑いが止む。不意にずるりと這うような、這い上がるような音が船の外縁から聞こえた。
 外側から縁を細い指が掴む。腕が。頭が、体が。濡れた髪を顔に張り付かせ、ソレは口元だけをにたりと見せた。
 ──が。イレギュラーズはあまりにも冷静すぎた。

「あんたが霧笛の魔女の偽物?」
「えっ」

「悪ふざけならやめようよ! 悪い魔女は退治されちゃうんだからねっ」
「えっ?」

「その歌声は漣ではなくホールに響かせるとよいよ、ワタシにはツテがある。その代わり、皆に真実を話してもらう」
「ええっっ?」

 挙動不審になるソレの腕をカンベエと世界が掴み、拉致する。もがき始めたソレ──セイレーンは、しかし非力なのか男2人に勝てる様子はない。
「どうしてわざわざ同じやり方なの? 霧笛の魔女に……う、恨みがあるとか?」
 そんなセイレーンへMeerは震える声で問いかける。恨みなんてできれば持っていて欲しくないけれど、昔の素行を聞けば抱く者がいるのもやむなしだ。
 だがセイレーンはそんな名前知らない! とそっぽを向いてしまう。その意味を考えようとしたMeerに魁真は再び肩を竦めた。
「ただの熱狂的なファンですらなかった……ってことだね」
 恐らくは──ただの偶然なのだろう。真の霧笛の魔女がいた海域と、セイレーンの住み着いた海域がかぶったというだけなのだ。
「しかしこのままだとpolarsternの看板に傷が付くのは避けられません」
 一従業員として困るとSperliedは眉を寄せる。弟子? あれはあの人の冗談であって、自身は従業員なのだ。
「依頼主はMeerの父さんだろう? 任せるのが良いんじゃないか」
「そうですね、それがよろしいかと!」
 両脇からの声にセイレーンが思わず口を噤む。その前でエイヴァンは屈み、セイレーンを見た。
「そもそも、どうしてこんなことをしているんだ?」
 彼女──恐らくは女であろう──からは悪意らしきそれも感じられない。今ここにいるのは非力な、自我のある女の魔物。怨恨ではなさそうだが、それならばただの遊びだったのか、それとも。
「ねえ、髪を避けてもいい? ちゃんと目を見てお話ししたいな」
「……好きにすれば」
 フェスタの声掛けにセイレーンはぶっきらぼうな言葉を返す。そっと髪を避けたフェスタは一面の鱗に目を丸くした。
 顔も、首も、恐らくはその下さえも。何故か辛うじて腕だけがヒトらしい皮膚をしているのだ。
「……見せたくなかったの。でも、ひとりはもっと嫌だったの」
 寂しいけれど、近づけば怖がられてしまうだろう。けれど誰からも無関心を貫かれるのはもっと怖い。
 好きの反対は嫌いではなく、無関心なのだと誰かが言っていた。誰からも忘れ去られることが、好意から最も離れた場所にあるのだと。
 それよりは──いっそ、嫌いでもいいから。
「でも、その霧笛の魔女? とかいうのは知らないわ。知り合いなの?」
 Meerがお父さんだよ、と言えばセイレーンは復唱する。その存在には馴染みがないのか、何とも言えぬ表情で。
 あのね、とフェスタはセイレーンの目を真っすぐ見つめた。
「このままだと忘れられないかもしれないけれど、皆すごく不安になってるんだ。だから他の方法を探してみない?」
「他の、方法」
 セイレーンが顔を上げると、そこにいるイレギュラーズの誰もが彼女を見ていた。少なくともそこに、彼女の容姿を嫌悪するような者は誰もいない。
「まあ、まずは依頼主のところへ向かってからだね」
 レイヴンは島の方へと視線を巡らせる。それこそこの先の相談でもしてみたら、かの女将は良いアドバイスをくれるかもしれない。
「見たら驚くかもね。あの声と見た目、まぁまず気づかないだろうし」
 あれには素直に感嘆する他ない、と魁真は女将の姿を思い浮かべる。きっとセイレーンも女性だと思うのだろう。

 真実を告げられ、セイレーンの驚く顔が見られるまで──もう暫し。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 お疲れ様でした、イレギュラーズ。
 彼女の行く先は女将と──そうですね、宿に関係のある人ならご存じかもしれません。

 またのご縁をお待ちしております。この度はご発注、ありがとうございました!

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