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シナリオ詳細

ルシファーさん家のバージンロード

完了

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●異世界に降誕せし悪魔の如く危険な香りのごくごく普通の牧師さん
「クハハハッ! よくぞ参られた、選ばれし者達よ!」
 鋭い犬歯を覗かせ、高笑いをしながら黒衣の男は特異運命座標を迎え入れる。
 その背中には鋭い爪のついた大翼が生え、いかにも闇の化身ですといった姿だがーー。

「こちらルシファーさん。この教会に奉仕する、ごくごく普通の牧師さんですわ」
「汝らに祝福あれ! ヒャーッハッハッハ!!」

 ロベリアからの紹介を受けて、まばらではあるが「やっぱりな」といった視線がルシファーの方へ集まっていく。
 なにせここは異世界の教会。牧師はこんな感じだが、建物は外観・内観ともに至ってマトモだ。
 異物感は拭えないものの、今まで突拍子のない依頼の数々をこなして来た猛者達にとっては、
 この程度の出オチキャラが来た所で大した驚きにもならないのだ。

「諸君らに集まって貰ったのは他でもない。……見よ、このガランとした礼拝堂! 日曜なのに、誰も来ないッ!!」
ーーそりゃ、牧師がこれじゃ逃げるだろうって。
「我が教会では結婚式も執り行えるというのに、新郎新婦は覗きに来た途端に逃げる始末ッ!!」
ーーそりゃ、牧師がこれじゃ逃げるだろうって。
「あぁっ、神よ! 万象を創りたもうた全能の御方よ! なにゆえこのような試練を神の宮にお与えになるのですかッッ!!」
ーーそりゃ、牧師がこれじゃ……。
「という訳で、今回皆様にお願いしたいのは教会で行われるイベントの盛り上げ役ですの」

 題して、ウェディングコレクションin異世界チャーチ!

 ウエディングドレスとタキシードをテーマにしたファッションショーだ。
 ランウェイはもちろん、この教会のバージンロード。

 これなら教義にあまり興味のない人も教会を訪れるきっかけとなり、素敵な結婚式が挙げられるいい教会、という印象を与える事が出来るーーという訳だ。

「なお、衣装は持ち寄りとなる。用意が出来ない場合は境界案内人のロベリア女子に頼むと良いだろう」
「そうね。参加をしてくれるのなら手伝ってあげてもいいわ。代わりにコルセットを絞める役は任せて頂戴。
 ふふ……極限まで締め付けられて喘ぐ特異運命座標の顔。見れるのを楽しみにしてるわ」
「ククッ、いいぞ……なんだかよく分からんがロベリア女子もやる気のようだ。そうと決まれば宴の準備を!
 時は満ちた。聖なるファッションショーのはじまりだッ!!」

 どこまでも響く牧師様の高笑いと、邪悪さを孕んだロベリアの笑い。
 不気味な二重奏が特異運命座標の耳にまとわりついてくる。
 果たして無事にイベントを終える事が出来るのかーーこの教会の命運は今まさに、特異運命座標に託された!

NMコメント

 今日も貴方の旅路に乾杯! ノベルマスターの芳董(ほうとう)です。
 6月ですね! じゅーんぶらいどっぽい依頼はいかがでしょうか!

●出来る事
 出来る事は次のうちのいずれかです。
  1.ファッションショーに参加する
    新郎・新婦になりきってバージンロードを歩きます。ファッションショーでもあるので一人で歩いて観客を魅了してもよし、友達と一緒に賑やかに歩いてもよし!
    百合カップルも薔薇カップルもどんと来いです。
    ロベリアが手違い(という名の悪戯)で、男性にウエディングドレスを着せたり、女性にタキシードを着せる事も!?
  2.ファッションショーを見る
    ファッションショーの観客になって、ウエディングシャワーの花びらを撒いたりショーを観賞したりできます。外部からのお客様も招いているので、当日は立食パーティーのように葡萄酒やアラカルトも振る舞われているようです。
  3.その他
    その他、やってみたい事があればお気軽にご参加ください!

●場所
 異世界にある小さな教会です。
 時間帯は昼。快晴です。
 歩くのは赤い絨毯の敷かれた素敵なバージンロード。
 ファッションショーのランウェイのように、入場したらバミり(目印)のところまで道をすすみ、キメポーズorウエディングブーケを観客に向かって投げた後、折り返して退場します。
 道を行く最中は観客からのウエディングシャワーもあり華やかです。

●書式
 一行目に何をするかの番号(1.ファッションショーに参加する/2.ファッションショーを見る/3.その他)、
 二行目に同行者がいる場合は相手のIDもしくはグループタグを記載してください。
 三行目からはプレイングをお願い致します。

例)
 一行目:1
 二行目:【結婚し隊】
 三行目:赤いウエディングドレスを着てバージンロードをお友達と歩くわ! バミりのところでウエディングブーケを投げて叫ぶわよ! 「彼氏募集中ーーー!!」

●登場人物
『平凡牧師?』ルシファー牧師
  この教会の牧師さんです。20代半ばくらいの細身の男性。三白眼気味のツリ目と犬歯の鋭い口、ツメのついた黒い大翼。どこからどう見ても「ザ・悪魔」ですが、本人いわく「我が一族は由緒代々、清く正しく全うにがモットー」との事です。

『境界案内人』ロベリア・カーネイジ
  ご存じ弑逆的な境界案内人。元々はどこかの世界で聖女として崇められていたという噂もあります。
  「あらあら、私からの祝福が欲しいの? どうしてあげようかしらーー」

『境界案内人』神郷 蒼矢(しんごう あおや)
  気だるげな境界案内人。ただ酒につられて観客として見に来たそうです。
  赤斗と同じ身体を共有しています。
  「皆きれいだなぁ。折角だから写真も撮っとこうっと!」

『境界案内人』神郷 赤斗(しんごう あかと)
  仕事人間な境界案内人。蒼矢に引きずられる形で半ば強引に連れてこられました。
  蒼矢と同じ身体を共有しています。
  「まぁ、特異運命座標と他の境界案内人の仕事を視察するのも糧にはなるか……」

●その他
 ・こちらのシナリオは一章完結の予定です。オープニング一覧から消えるまでプレイングを受け付けます。
 ・登場人物を同行者に指名する事もできます。

 それでは、よい旅路を!

  • ルシファーさん家のバージンロード完了
  • NM名芳董
  • 種別ラリー(LN)
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年06月09日 12時49分
  • 章数1章
  • 総採用数12人
  • 参加費50RC

第1章

第1章 第1節

天之空・ミーナ(p3p005003)
貴女達の為に
レイリー=シュタイン(p3p007270)
ヴァイス☆ドラッヘ

 戦場では背中を預け合い、旅行先では安らかなる幸福を分かち合いーー。
 健やかなる時も病める時も共にいた2人。
「緊張してるか?」
「まさか。どんな祝福を浴びたって、ミーナしか見えないもの」
 花のように微笑むレイリーを抱き上げて、ミーナもまた柔らかく目を細める。
「愚問だったな。……行こう」

 チャペルの鐘とファンファーレが鳴る中、バージンロードを最初に歩いて来たのは素敵な花嫁達だった。ミーナが一歩歩く度、ウエディングシャワーの花弁に混じって紅い羽が宙を踊る。
 鮮烈な赤で目を惹く彼女の腕には、もう一人。白を基調とした華やかなウェディングドレスを纏ったレイリーが、ブーケを抱えて幸せそうに手を振っている。
「すごい……! 綺麗な花嫁さんが出てきたなぁ!」
 絵に描いたような美しい紅と白のコントラストに、ファッションショーより立食のおつまみに夢中だった境界案内人の蒼矢も思わず目を奪われる。
 ふと、手を振り続けていたミーナと蒼矢の目線がかち合った。
「あら? あれは確か図書館のーー」
「うわっ、こっち見てくれた!」
 蒼矢が次の言葉をかけようとすると、ぐいっとレイリーの身体が抱え直される。
 預けていた身体が揺れて、傾いた瞬間。彼女の唇を柔らかな感触が塞いだ。
「——ッ!?」
「悪いな、この女は私のなんでね」
 突然目の前で見せつけられた熱いキスに呆然とする蒼矢を置いて、颯爽と道を歩くミーナ。
「もうっ! ミーナったら……」
「本当のことだろう?」
 平然と言ってのけられた言葉はどこまでもクールなのに、レイリーの頬は熱くなっていくばかり。

「頬が火照っちゃうじゃない……」
「紅は好むところだ。私色に染まってくれたな」

ーー嗚呼、やっぱり。
 どんなに華やかな場所にいても、最後に吸い寄せられるのは赤い貴方の瞳。

「みんなー、今日は来てくれてありがとー!」
 レイリーが投げたウエディングブーケが、青空へ吸い込まれるように高く飛ぶ。わぁっと上がる歓声の中でミーナにゆっくり降ろしてもらうと、パニエとフリルでボリュームのあるスカートがふわっと揺れた。直立するとプリンセスラインが際立って、可愛さの中に覗く気品。
「今度は私がミーナを支えてあげる番」
 ウエディンググローブに包まれたミーナの白い右腕が、レイリーの首にまわされる。
 抱き上げられる瞬間、広がった赤いパニエは薔薇のよう。
 行きはミーナが花婿役なら、帰りはレイリーが花婿役なのだ。
「ミーナ、綺麗だよ」
 囁きと共にレイリーが頬へと落としたキスは、砂糖菓子のようにとっても甘い。
「綺麗なのはお互い様、だろ」
「じゃあ、幸せそうな姿見せつけちゃお」
 レイリーの返しに、思わず頬を紅潮させるミーナ。
「あら。紅い色は好きよ? だってミーナの色だもの」
 照れる彼女を観客に見せるようにゆっくりと、レイリーは道を歩く。
 この先もずっと、一緒の道を進めるようにと願いを込めてーー。

成否

成功


第1章 第2節

長谷部 朋子(p3p008321)
蛮族令嬢

「ヒューッ! ウェディングドレス着てファッションショーってたーのしそーう!!
 でも生憎あたしはお相手がいないから盛り上げ役に徹するぜ!!」
 観客の中に紛れていても鮮明に目立つピンク髪。
 あっちへひょこひょこ、こっちへひょこひょこ機敏に動き、朋子はウエディングシャワーの花びらを盛大に撒き散らす。
「おりゃっ、風流せい! 風流せい!!」
 派手に立ち回るあまり、ショーの花道よりも徐々に目立ちはじめる彼女。
 気づけばカメラを向けられていて、思わず目を丸くする。
「お、写真も撮るの? おっけーおっけー、あたしがカメラ役と務めてしんぜよう!!」
「いや、俺達が撮りたいのは君……」
「いっくよー! ネアンデルタールフラーーッシュ!!」
「うわああぁ!?」
 軽業師も青ざめそうなアクロバティックと共に繰り出される連写&フラッシュ!
「……はっ!」
 蜘蛛の子を散らしたように逃げる野次馬。モーゼの如く割れた人垣から覗いたのは、立食パーティーの豪華な料理!
「食べ放題かな? 遠慮なくいただいちゃおーっと!! ふんふむ……むむむっ、これは美味! ンまーい!!」
 その豪快な食べっぷりは見ている者を虜にし、カメラマン達が再び朋子を撮り始めーー。

『神のご加護でご飯が美味しい!? 美食チャペルへおいでませ!』
 後日、地元の新聞にそんな売り文句と共に取り上げられた彼女の写真が話題となり、教会に新たな客層が足を運ぶようになったとか。

成否

成功


第1章 第3節

ミミ・エンクィスト(p3p000656)
もふもふバイト長

「飛び入り参加なのです!」
 只の一般市民で普段から町娘ルックな身としては、ウエディングドレスを着れる滅多にない大チャンス!
「とはいえ、ウエディングドレスなんて持ってねーのです。ロベリア女史ー」
「うふふ。もふもふお耳の可愛いミミには、どんな束縛が似合うかしら」
「そくば……ドレスのレンタルの話ですよね?」
 ロベリアは答えない。ぷるぷると怯えるミミに迫る魔の手。そのまま更衣室へと連れられてーー。

 ギチギチ! ぎゅうぅうっ!!
「ひょわああぁ!!」

 チャペルに木霊する絶叫と骨の軋む音。暫くしてバージンロードに現れたミミは足元がフラフラだった。
「ロベリア女史ちょっと締め付けがきつグェ、んんっ、いやいや大丈夫なのです」
 何処からか無言の圧力を感じて慌てて取り繕ってみるものの、こうキツいと振る舞われている料理は後回しになりそうだ。一瞬肩を落としたものの、気を取り直して花道を歩く。

 息苦しさと引き換えに手に入れたのは美しいボディライン。細腰から下へふわっと広がる順爆のスカートは優雅に靡き、飾られた真珠が日の光を受けてキラキラと輝く。
(わぁ……。お姫様みたいなのです!)
 珍しい服にウッキウッキで足取り軽く進むミミ。馴れない靴でグキっと足を捻るハプニングがあったものの、倒れる前に華奢な身体が抱き上げられ。
「足、痛むでしょう?」
 颯爽と現れたロベリアにお姫様抱っこされたまま、無事に退場を果たすのだった。

成否

成功


第1章 第4節

ミズキ・フリージア(p3p008540)
いつか貴方に届く弾丸

「ウエディングドレスって選べるんですか?」
「えぇ。希望があるならこちらへ」
 ロベリアに誘われるがままにミズキが向かったのは教会の一室。イベント用に借りられた小部屋の中にはぎっしりと色々なドレスが取り揃えられていた。
「うわぁ…なんて素敵なんでしょう! これだけあると選び方も困ってしまいますね」
「基本は色を選ぶ所からね。後はドレスのシルエットだったり、装飾だったり……共にこの先を歩みたい殿方に合わて考えてみたり」
 アドバイスを受け、ミズキはピタリと立ち止まる。目の前に並んでいる黒のドレスに手をかけて、高鳴る胸を落ちつけようと息を吐き出した。
「それだったら、黒色が良いなぁ……やっぱり、推しの色を着たいのがファンっていうものですから!」
「素敵な色を選んだわね。花に花言葉があるように、ウエディングドレスの色にも意味があるのよ」

 黒いウエディングドレスの意味はーー"あなた以外には染まりません"。

(あぁ、ゲブラー様の色に染まれたら……それ以上望むものなんて……)

 そして数時間後。ロベリアの地獄のような着付けに耐え、ミズキはバージンロードの前に立つ。
「確か……胸を張るように歩けば綺麗に見えるはず…!」
 凛として歩む漆黒のドレスの花嫁は観客達の注目を一身に浴びた。黒羽をふんだんに使われたドレスから、歩む度にはらりと羽が舞い落ちる。
 彼女が通った後の道は、"あの方"が通ったようにも見えたというーー。

成否

成功


第1章 第5節

リンドウ(p3p002222)
イエスマスター

 控室の中を右往左往。落ち着かない様子でタキシード姿の蒼矢が歩く。扉が開く音に気付いて顔を上げれば、そこには純白のウエディングドレスを纏った美女が佇んでいた。
「参ったな。どんな声をかけようか考えてたのに、頭の中から全部ふっ飛んじゃったよ。……その……綺麗だよ」
「ありがとうございます、Mr.アオヤ」
 ドレスのコルセットが幾ら縛り上げようと、リンドウは眉ひとつひそめない。感情の無い人形に痛み等ないのだ。
「それにしても、いいのかい? 僕とショーに出るなんて」
「貴方なら、私よりも色々知っているでしょう?
『大切な人は、そこに居て当たり前じゃない』と。故に絆を形にするのだと、私に教えてくれた時のように。
 思い出も1つの形でしょう。だから、Mr.アオヤが良いと私は思ったのです」
「リンドウ……」
 あの時伝えた言葉を、覚えてくれていた。ならばと蒼矢は手を差し伸べる。
「分かった。僕に任せて」

 祝福の鐘が鳴り響く中、歩み出そうとしたリンドウの身体が突然浮き上がる。
「首に腕をまわして」
 驚く彼女をお姫様抱っこで抱き上げたまま、蒼矢は優しく微笑んだ。言われるがままに身を寄せるリンドウ。見せ場で投げたウエディングブーケは青空へと吸い込まれ、観衆の視線がそちらへ逸れた瞬間ーー重なる唇。

 舞台袖に消えた後、ゆっくりとリンドウは降ろされる。
「Mr.アオヤ、頬が赤いです。風邪ですか?」
「う、うつってたらゴメンね!」 

成否

成功


第1章 第6節

ボーン・リッチモンド(p3p007860)
嗤う陽気な骨
ヒナゲシ・リッチモンド(p3p008245)
嗤う陽気な殺戮デュラハン
シオン・リッチモンド(p3p008301)
嘲笑うリッチ

「結婚式ね……別に興味ないわ」
 今回だって仕事で来ただけなのだと、シオンは口を尖らせる。
「……別に生前結婚しないまま死んだ事を気にしてたり、今更白馬の王子様に見初められて結婚したいなぁなんて夢見たりなんてしてないから!」
「HAHAHA! 愛娘の切なる願い、このヒナゲシ・リッチモンドがズバッと解決しちゃうんだZE☆
 という訳で、じゃーんっ!」
 白馬の王子ならぬ赤馬の麗人ヒナゲシが突然目の前に現れて、一抹の不安がよぎるシオン。
「母さん、私の話聞いてた? 夢見てないって……ロベリアさん、うちの馬鹿親を止めてやってください!」
 白羽の矢が立ったロベリアは、にっこり笑顔でシオンの肩をガッシ! と掴む。
「あら、どうして? (私が)こんなに楽しいのに」
(……あっ、咄嗟の人選間違えた!)
「ちょ、やめ……アッー!」
 逃れる術もなくズルズルと引きずられていくシオン。彼女が消えた更衣室の扉からは、おおよそ着替えとは思えない骨の軋む音と悲鳴が響いてくる。周囲のスタッフがざわつく中、馬鹿親もといボーンとヒナゲシだけが平常心で見守っていた。
「カッカッカッ! 悪魔の神父に祝福されての結婚式たァ、中々刺激的なファッションショーだな! 生前あげた結婚式が懐かしいぜ。なぁヒナゲシ」
「あの時は盛大にやったよね。楽しかったなー花嫁。だから今世は! 花婿さんに挑戦だZE☆」
「ヒナゲシのそういう突拍子もない事をしだす所、大好きだぜ!」
「えっへへ……あ。そうだ!」
 話している間に閃いたとばかりにヒナゲシがポンと手を合わせる。
「こんな機会だ、ダーリンはロべリアさんと仲良くしちゃいなよ」
「……いいのか?」
 死がふたりを分かつまで愛を誓いあった仲だ。かといって、死後の2度目の人生だからと簡単に不義理へ走るほど、ボーンは不真面目な男ではない。誠実さを知っているからこそ、ヒナゲシは背中を押すのだ。
「後悔って、知らない内に枷になるでしょ? 忘れても死後に思い出すんだ。あの時ああすれば……って。2度目の人生くらい自由に生きていいんだよ」
 控室からフラつき気味に出てきたシオンを馬上に乗せ、舞台へ向かおうとするヒナゲシ。その背中へ届くようにボーンが声を張る。
「——ヒナゲシ!」
「うん?」
「俺は確かに魔王の宿命に縛られて生きてきた。だが……お前の手を取ったのは、俺自身の意思だ!」
 きょとんとした表情が一気に喜色を帯びた。大きく頷いた後に手綱を握り、蹄の音を響かせてバージンロードへ駆けていく。
「へいへい! ルシファー神父とロべリアさんは祝福ありがとー! 祝ってくれた皆、ありがとー!
 ボク達……幸せになります!」
「フフフ……何が哀しくてファッションショーとはいえ、初めての結婚式を母親とやらなくちゃいけないの…。
……あっ、ブーケも投げなくちゃ…おかしいな…涙が止まらないの…コレジャナイ感が凄いの…」
 ホワイトパープルのウエディングドレスを纏い、頬を涙で濡らしながら紫苑の花束を投げるシオン。その姿が事情を知らない観客達の胸を打ち、「きっと色んな事があってようやく結ばれた百合ップルなんだろうなぁ」なんて憶測が会場に飛び交う。

「どうぞお幸せに~」
 事情を知っているロベリアはというと、清々しい程の満面の笑みで2人を祝福していた。ヒナゲシ達に気を取られ、新たにバージンロードへ立った人物に気づかないままだ。
「ロべリアちゃん……いや、ロべリア・カーネイジさん」
「?」
 振り向き様に伸ばされた手は骨ではなく生身のもの。ギフトにより生前の姿へと変わったボーンが、ロベリアを舞台上に抱き寄せる。
「俺と一緒にバージンロードを歩いてくれませんか?」
「——!?」
 頬を桜色に染めて目を見開く聖女。観客から「おおっ!」と声があがり、たちまち拍手が沸き起こる。
「……まあ、断られても一緒に歩いてもらうがな」
 有無を聞く前に抱き上げられたロベリアはボーンの胸に身を寄せて、ほんの少し眉根を寄せる。困ったような嬉しいような、なんとも複雑な顔だ。
「ずるいじゃない、こんなの」
「カッカッカ! これでも元魔王だからな!やりたいように、君とこういう思い出を——」
 言葉は最後まで紡がれる前に、不意打ちの口付けで封じられる。
「……仕返し」
 やられるばかりではいられない。彼女なりのささやかな反撃に、ボーンも思わず頬が綻ぶ。

 2人が退場した後も、祝福の鐘は響き続けた。

成否

成功


第1章 第7節

辰巳・紫苑(p3p000764)
死と共に歩く者

「あら? 貴方いたの?」
 黒のパーティードレスを身に纏い、礼儀作法も完璧に。周囲から浮かないよう工夫をするほど、包帯まみれのミステリアスな麗人はその存在感を発揮する。おまけに目の前の立食テーブルに積み上がる皿、皿、皿。注目の的にするなという方が無理である。
 片付けようと現れたボーイもとい赤斗はというと、声を掛けられる前から怪訝そうな顔だ。
「何しに来たんだよ、紫苑」
「食 べ に 来 た け ど 、 な に か 文 句 あ る ?」
「……いや、別にィ?」
 観客になるのも依頼のうちだ。どう見ても食べすぎではあるが。
「まぁ、お前さんが小食だったら心配になるしなァ。元気そうで何よりだ」
「そういう貴方こそ、滅の危機があったらしいと心配したけれど」
「その節はすまなかった。敵を見誤って——」
「ある依頼で複数の男を抱いたとか、それらのモデルのBL漫画が伝説になった噂を聞いたのだけど?」
 片付けようとしていた皿が赤斗の手から滑り落ちる。足元でパリーン! と割れる音が響こうと、紫苑は真顔のままだ。
「そういう趣味をお持ちなのね……詳しく聞かせて貰っても?」
「誤解だ!!」
「全部?」
「いや、BL作品が世に出たのは依頼の一環で事実だが……」
「貴方って本当に仕事人間ね」
「当然だろ? 境界案内人の存在意義なんて他に無ェ」
——嗚呼、と紫苑は目を細めた。
 この男の心は未だ、止まったままなのだ。
 赤信号で足踏みしたまま。

成否

成功


第1章 第8節

エルス・ティーネ(p3p007325)
祝福(グリュック)

「そう言えばこの世界では六月の花嫁……なんて言葉も聞いてたわね」
 見渡せば牧歌的な風景の広がるこの村では、住民の大半が農耕に関わる仕事をしているという。
 農作業の妨げとなる事から三月~五月の結婚は禁じられているのだとか。
 成程なと思う一方で、ウエディングドレスを纏うモデルを見ながらErstineは思う。
(華やかね……私にはきっと縁のないドレス…そんな気がするけれど)

 この片想いが不毛なものだと知っているから。
 それでも焦がれてやまないのは、そういう性だとでも言うのだろうか……なんて。

「今は夢見るには程遠いけれど、もしも片想いが叶ったならば……着れたらいいなとは
 おも、思うけれど…いえ! そ、そもそも白いドレスなんて…私には贅沢と言うか!
 暗めの服ばかり着ていたものだから……似合う自信が…」

『精々期待して待ってるから』
「——ッ!」

 葡萄酒でほろ酔いになったErstineの脳裏へ、不意打って彼の言葉が過ぎる。
 息が詰まる。頬が熱い。
(ああ、ステージで輝く皆さんは本当に華やか。私もいつかあんなふうに着飾れるだろうか?)
 今はただ、祈るように手を組んで花嫁を見上げるばかりのErstine。
 そんな彼女の元に、ふわっと飛来するものがあった。反射的にそれを掴むと周囲から拍手が沸き起こり、目を丸くしたまま手元を見る。

 それは目が覚めるほどの鮮烈な赤。
 あの人の色をした、幸福のウエディングブーケ。

成否

成功


第1章 第9節

嶺渡・蘇芳(p3p000520)
お料理しましょ

 運命の女神が意地悪な事を、蘇芳は誰よりも知っている。

「結婚式ねー……。私はー、着る方は、ちょっともういいかしらねー……」
 声のトーンが一段落ちるも、すぐに取り戻すゆるふわ笑顔。
「だから、私はお料理作っちゃうわー♪」
 イベントは想定以上の大盛況! 給仕の手は回っているように見えるものの、作る側が少ないようで、空の皿が目立ってき始めていた。すぐにでも新たな料理が必要だ。
「式の主役は新郎新婦のお二人だけど、そういう時に盛り上げるのがお料理よねー。
 でも、普通のじゃあまり目を引かないしー……」
 んー、と唇の端に沿えて考え込む蘇芳。その視界に神父が入れば、アイディアがすぐに降って来る。
「あ、そうねー。神父さんのお姿を参考にさせてもらって、ここに似合うような『デビルズフードケーキ』を焼きましょー♡」

「ココアを練り込んだほろ苦で、ふんわり濃厚な甘いチョコスポンジにー
 ラム酒を効かせたチョコホイップクリームを乗せて重ねて層にしてー
 表面にもたっぷりクリームを塗りつけてー♪」

 作る様は魔法のよう。歌うキッチンマイスターの眼前に、あっという間に華やかなケーキが現れる。

「上にメレンゲドールの教会と神父さんを乗せてー♪ こんな感じで、悪魔的な甘さのウェディングケーキはいかがー?」

 運び込まれたケーキが会場の話題を一気にかっさらう。
 甘い幸せに浸る人々を少し離れた所で見守りながら、蘇芳は優しく微笑んだ。

成否

成功


第1章 第10節

 特異運命座標の活躍によって、ファッションショーは大成功!
 教会の雰囲気を伝える事が出来た上に、なんといっても邪教寄りな牧師の誤解がとけたというのが一番の成果だろう。
「意外といい人だったのね」
「もっとこう、怪しい宗教の根城だと思っていたよ」
 礼拝を覗いてみようかな……と帰り際に呟く人もいて、ようやく布教活動も始める事が出来そうだ。

「クハハハッ! なんとよい日だ。幸福な花嫁と花婿、舞台に花を添える者達……このめぐり逢いもまた、神の導きであろう!」
「言ってる事は概ね世間一般の牧師と同じですのに、やはり不信感が否めませんね」
 立食パーティーのデビルズケーキをつつき、頬にクリームをつけたルシファー牧師が悪魔的な歓喜の笑みを浮かべる。
「礼を言うぞ、特異運命座標ッ! 本物の挙式をあげたくなった時、懺悔をしたくなった時。いつでも我が教会を頼るといい。これからの諸君らの旅路に、神の祝福があらん事を!!」

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