シナリオ詳細
糠星に絡みつく
オープニング
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――その言葉は嘘みたいな、色をしていた。
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聖教国ネメシス。冠位魔種との戦いで、一人の聖女がその身を闇へと堕とした。それは騎士『であった』父の心に寄り添うように『ただの一人』への慈愛を見せたのかもしれない。
ロストレイン家の悲劇とまで称されたその出来事より時が経てど、『家族』の行いが忘れ去られるわけではないという事をヨシュア・C・ロストレインが身を以て感じていた。
嘗ての片割れによる行為を真面目な彼は全てを許せるわけではなかったのだろうが――今は、兄が、そして、妹がいる。
自身らの生家が為、ヨシュアは兄へと天義国内で起こったという『聖職者喰らい』について依頼したのだった。
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「どうも。この度はお集まり頂きありがとうございます」
可愛らしい女性的な顔立ちには凛とした表情が乗せられている。彼の顔を見た時に、シュバルツ=リッケンハルト (p3p000837)が僅かに動揺したのは『仕方がない』事だったのだろう。
ヨシュア・C・ロストレイン。その姓名から察せるようにカイト・C・ロストレイン (p3p007200)の弟であり――そいて、アマリリスやメルトリリスの『家族』である天義の騎士。特に、アマリリス――ジャンヌとは瓜二つである彼はシュバルツの動揺を感じ取った後、目を伏せて「ヨシュアと申します」と頭を下げた。
「やあ、今日はヨシュアどうしたんだい?」
「はい。騎士団にて調査をしてました『聖職者喰らい』のモンスターの討伐をお願いしたいしたく、皆さんをお呼びしました」
荘厳なる天義騎士団詰め所。その場所に踏み入れれば自然と背筋も伸びるものだと、ぴん、と背を伸ばしていたサクラ (p3p005004)は「聖職者喰らい?」とヨシュアへと聞き直す。
「はい」
「そ、それって、食べられちゃうってこと?」
自身も聖職者の道へと進むべく新たな道を歩むスティア・エイル・ヴァークライト (p3p001034)は蒼褪めた様子で親友の傍へと寄った。
「そうですね……聖職者、聖女、それに類する者だけを狙って喰らうという事件が勃発しているのです。
そのけだものは神の教えを説いた司祭のみを喰らい、民には指一本たりとも触れなかった。まるで、最初から司祭しか見えていなかったかのような犯行です」
「それは――『誰かがそうしむけた』、とか?」
確かめる様に、そして、『そうであろうという確信』を擁いたリウィルディア=エスカ=ノルン (p3p006761)がヨシュアへと問いかける。
「恐らくは」
「……十中八九、そうだろうな。普通のモンスターであれば傍に居た民も喰らう。
聖職者のみという事は、そのモンスターが人為的に放たれたという可能性しかない」
冷静なる仙狸厄狩 汰磨羈 (p3p002831)にリディア・T・レオンハート (p3p008325)は大きく頷いた。ヨシュアの話を聞く限り、モンスターが偶然にも聖職者を喰らったとは考えにくいのだ。
聖職者や聖女。そうした存在が多く存在する天義であれば『偶然、それらが食われた』だけなら違和感を感じないだろうが――『近くの民が無傷』だというならば。
「黒幕が誰か、なんてのは分からねぇんだな」
アラン・アークライト (p3p000365)が苛立ったように呟いたその言葉に、ヨシュアは頷いた。
「分かりません、が、そのけだものを討伐しなくては神への侮蔑になります。
我ら聖騎士は神の加護を受け、その声を届ける者を――そして、神の所有物たる無辜の民を守る為に存在しています。それらの平和を脅かし、その命をいたずらに奪うものは――」
「ああ、捨て置けないさ。そうだ、捨て置けないからこそ、僕らは騎士であるのだから」
カイトのその言葉にヨシュアは頷いた。
そのけだものは、聖職者を喰らう。まるで、神の言葉を届ける者など、不当なる存在であるとでも言うように。
「……皆さんならば、大丈夫だと信じていますが――どうか、ご武運を」
神に選ばれなかったと剣を手にした青年は『神の悪戯で宿命を負った者達』に頭を下げた。
- 糠星に絡みつく完了
- GM名夏あかね
- 種別リクエスト
- 難易度-
- 冒険終了日時2020年06月14日 22時15分
- 参加人数8/8人
- 相談8日
- 参加費---RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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清廉なる白き都。それは聖なる哉を体現したかのような場所であった。聖騎士団詰め所にてイレギュラーズを迎え入れたヨシュア・C・ロストレインは彼らの武運を願い、頭を下げた。自身らに天義内での事件解決を、と望んだ『兄』にヨシュア自身も協力的であるという事だろう――神に選ばれなかった片割れではあるが、その根の部分は優しい青年だ。
「それでは、行ってくるよ」
家族の会話を行うように柔らかく声を掛けた『六枚羽の騎士』カイト・C・ロストレイン(p3p007200)へとヨシュアは凛と背筋を伸ばして「よろしくお願いします」と返した。僅か、他人行儀であったのはヨシュアが真面目であるからか、果たして。
「あ、一つ確認。ヨシュアくん、聖職者喰らいって1体しか出てないの?」
ヨシュアからすれば騎士団でもその名轟く名家の出たる『聖剣解放者』サクラ(p3p005004)の質問に彼は刹那、緊張したような表情を見せた。『聖職者喰らい』と呼ばれたケダモノは人語を有し意志を持つように動くのだそうだ。サクラの疑問に「検知した範囲では」と固い声音が返る。
「……そっか、有難う」
「サクラちゃん、どうかしたの?」
首を傾げた『新たな道へ』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)にサクラは首を振る。騎士たる自身よりも聖職者を志す親友の方が危険が多い現状だ。サクラは「念には念を」と彼女を安心させるように柔らかに告げた。
スティアは聖職者喰らい、とその唇に音を諳んじる。どうにも馴染まぬそれは空気に溶けるように消えた。
「それにしても……聖職者を狙うって、何だろう? 力が得られる、とか?」
「さあ……先の大戦で、枢機卿の行いは目に余るし、我が妹……聖女アマリリスも叛逆し、聖職者への不信感が蔓延していてもおかしくはない。
寧ろ『そうなっても仕方がない』だろう。聖女や聖職者が狙われるのは思い当たる節が多いな……」
カイトの言葉にヨシュアの表情が曇る。その表情を見遣った後、『死を齎す黒刃』シュバルツ=リッケンハルト(p3p000837)は視線を逸らした。別にヨシュアが悪いわけではない――悪い訳ではないが、只、似すぎている。そして、胸の傷が痛まぬと言えば嘘になる。
騎士団詰め所を後にしてから、シュバルツは先ほどのスティアとカイトの会話を思い返す。
――聖職者への不信感が蔓延していてもおかしくはない。
そう言うのだから、十中八九何者かの差し金であろうとシュバルツはため息を吐いた。聖なる哉と、正義を振り翳し続けたこの国には様々な思惑と因縁が巡っている。
「聖職者喰らいか。不気味なバケモンだ……いや、『けだもの』か。
ここにメルトが居なくて良かった。俺でも夢に出て来そうなトラウマ級の見た目だ」
『勇者の使命』アラン・アークライト(p3p000365)はもしも夜中に出てきたら一騒ぎ起すという者だと揶揄うように言う。『メルト』――アリスはカイトとヨシュアの妹にあたる末の娘は聖騎士見習いである。彼女ならば「びゃっ! ア、アアアア、アラン様っ! 目!」と大騒ぎした事だろう。
「聞いた『ケダモノ』の様子なら、誰だって恐ろしいかもしれない。なんというか、気味の悪そうな獣だ。
ああ、けれど、そんな怪生物は……一度だけ、違うものなら見たことあるね。不気味な王なら」
記憶を手繰った『絶望を穿つ』リウィルディア=エスカ=ノルン(p3p006761)に『流麗花月』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)は「ふむ」と小さく呟いた。
「本当に黒幕はいるのか。いたとして、何故にそのような所業に走るのか……。
聖職者への反感故の神への反逆気取りか、それとも私利私欲によるものか。
言の葉を解するのであれば、確りと問い質してみたい気はするが――」
汰磨羈はそうしている時間もないだろう、と呟いた。神の徒が『喰われている』。その状況を穏やかに見過ごせる訳もない。
「『けだもの』――意志を持ち、言葉を放つソレは、果たして、獣と呼ぶべきなのでしょうか……?」
どこか、迷うように。『勇往邁進』リディア・T・レオンハート(p3p008325)はそう言った。
意志を持ち、言葉を放つならば、それは、人ではあるまいか――?
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差し込む光が色彩を落とす。砕け散ったステンドグラスの天使は光を見上げる様に佇んでいる。神禍――果たして、そう称するのかも今は怪しいものだ――の爪痕であろうか聖母の微笑と遠く離れたステンドグラスの天使を踏まぬ様にとゆっくりとスティアは祈り捧げる様に膝を折る。
(聖職者への恨み? それとも他に……? ううん、幾ら考えたって今は答えは出ない。
それに、私を狙ってくれるのなら、他の人への被害を防ぐことが出来る……。これ以上の凶行を重ねられないようにここで終わらせるんだ!)
指輪をそっと握り込むように手を組み合わせる。聖職者として、目を伏せったスティアは「全能の神よ」と口にした。
――我らが全能の神よ。あなたは私にとっての喜びです。
あなたの前に跪いて祈り願います。どうか、私達を見守ってください――
スティアが祈る様子を眺めながらアランは武器を握りしめる。先ほどから耳につく嫌な音が響いているのだ。それは獣の舌なめずりの音であろうか。
「……本当に聖職者狙いかよ」
呟くシュバルツにアランは小さく頷きを返す。十中八九『誰かがそう仕向けた』ようにしか思えないモンスターにこれっきりで終わる話ではないのではと胸に渦巻くものがある。
「スティアちゃん……聖職者なんだね……」
「意外そうだね」
あはは、と乾いた笑いを返したサクラにリウィルディアは祈り捧げるスティアを眺めた。聖職者は目を伏せて首を垂れて膝を着く。天の主に、自身らの魂の花婿に対しての忠節と信頼をその唇に乗せて恭しくも言葉を紡ぎ続ける。
(あの姿勢じゃ背後から何か来ても餌食になるしかないな……)
リウィルディアの視線を追いかけてからリディアは「あれが神にお祈りする作法なのですね」と瞬いた。嘗て、神さまがこの聖堂には居たとされる。だが、それも無惨にも砕け落ち、聖母を見上げる天使が地上で泣いているかのように光が散らばっていた。
「一体、誰が――」
リディアは言う。折角、『災厄』を乗り切った後の聖なるこの御国に影を差すものが居るというのだ。リディアのその言葉にゆっくりと剣を引き抜いてカイトは言った。
「僕は世界は救えぬが、我が王への忠誠は誓った。二度と、ロストレインから罪は犯さぬと、ね。
喜んで国の犬になったのさ……だからこの国を脅かすのは、黙っていられないな」
その眼前には一匹の黒きけだもの。祈るスティアの背に向けて無数の瞳が蠢いている。
「……夜中に出会ったら堪ったもんじゃないな」と呟くアランに同感だと汰磨羈は呟いた。
「俺が隙を作る、お前らは後に続け!」
その手には夜色。闇に一閃、瞬かせる短刃を振り翳したシュバルツがけだものへと向けてその身を投じる。疾く黒刃をぎょろりと見遣ったけだものの唇が吊り上がる。
(笑った――?)
シュバルツに構うことなくスティアに手を伸ばすケダモノへ向け、直ぐ様に姿勢を反転させたスティアが不浄なる気を浄化する。
「スティアちゃん、気を付けてね!!」
サクラのその言葉にスティアはゆっくりと頷いた。ケダモノはその時点で周囲を包囲されている事に気付いたか。汰磨羈はケダモノが逃れんとする道を塞ぐように双刀を煌めかせた。
瞬間を切り取る生命の鼓動に、風雅にして苛烈なる刃術。二種の魔石の鼓動を聞きながら、汰磨羈は憤怒と憎悪に揺れる瞳でケダモノをしかと捉える。
「――此処だ!」
汰磨羈に合わせる様にアランは動いた。自身の体内でアドレナリンが爆発する。蠢く大剣が大口開けてアランの掌に喰らい付く。僅か、その痛みに眉を顰めれど彼は止まることはしなかった。
「ここで死ねやァ!!」
「神の都でその様なことを申すか」
その低く、地を這うような声音がアランの背筋を這う。ケダモノはイレギュラーズに対して「神の御前ぞ」とその目玉だらけの姿を見せた。
「神……?」
スティアが見上げた先に存在するステンドグラス。しかし、そこで微笑む聖母は主そのものではない。『ケダモノ』はスティアを指し「お前の進行を頂こう」と舌を覗かせた。
「スティアちゃん……!」
サクラがその前に滑り込む。続き、リディアは剣を構え、力一杯にそれを振り下ろす。自身は未だ未熟であるとリディアは自認していた。ならばこそ、やれることを、と叩きつける様に強烈なる一撃を振り下ろす。
「――貴方は、一体何者なのでしょうか? 何故、聖職者達を狙うのです?」
「そうだ。それが問いたい! 何故だ! 何故神に仕えるもの達を狙うんだ! ここがどういった國だか、分かっているのだろう?」
教皇の膝元での安寧を崩そうとするものを見過ごすことが出来ぬとカイトは唇を噛む。手加減する事などできない。
「吐け。恨みか? 因縁か? 誰に命令された!! ――それと、お前の名前は?」
全てを見通す様に、その色違いの瞳がケダモノを睨め付ける。その視線の先、彼の心は語った。
『何が神だ』と。
「――は?」
「カイトさん?」
サクラはカイトの唇が漏らした言葉に首を傾ぐ。何を聞いたのかと問いかける前にケダモノは言った。
「何が神だ。何が信仰か。その様な『紛い物の神』を信じるが故に我は此処に呼ばれた!
我は國へと返らねばならぬと言うのに、その紛い物の神の所為で帰る道さえ失ったと言うに」
叫ぶようにしてケダモノが飛び込んだ。その先に立つスティアは自身の中に渦巻く魔力で身を強固に癒し続ける。
リディアは強烈な一撃放ち「どういう意味ですか」と鋭く問いかけた。
「我は神ぞ。この国からすれば異界の神じゃ」
「異界の……?」
リディアが困惑したように仲間たちを振り仰ぐ。カイトはスティアを狙い続けるそのケダモノを行かせぬ様にと自身の石抵抗力を破壊力へと変換し一気呵成叩きつける。自由の遊撃手のその一撃にくぐもった声が介された。
「無礼者!」
響くその声を聞いて、リウィルディアは『精霊』とそして『霊魂』たちの囁く声を聞いていたのだと目を細めた。
「君を襲った人は、皆、『訳が分からない』と言って居た。
精霊たちだって、君のような存在は本来、混沌には存在しえないとさえ――
人語を解すというなら、教えてくれてもいいんじゃないか! どうして彼らだけを襲うのか!」
「彼らが信仰者であるからだ」
何を当然なことを聞くのかとでも言うように、ケダモノは言った。リウィルディアは息を飲む。
異界の神と言った。
成程、と汰磨羈が呟いたのは『ケダモノ』が言いたいことが分かったからに過ぎない。
「神ならば、信ずるものが居なければその存在は消え、名乗る名さえなくなるとでもいうか」
「左様。ならば、この世界で信仰を喰らえば我が権能は衰えぬ、と。
そして、我を信仰する者の許へと帰り至ると。我は我の座へと戻りたいだけにすぎぬ!
我を呼び出した異邦の神の所為でそやつの信奉者が犠牲になって何の問題があると言うのだ?
我に『帰り着く方法』を教えたものが居た。我はその言葉に従った迄!」
「そんな言葉、鵜呑みにして何が神だ。邪神と呼ばれようとも大差ないではないか!」
カイトが叫んだその言葉になど気には留めず『ぐぱり』と音を立てスティアを喰らわんとしたケダモノへとサクラは氷の刀技を放つ。兄譲りの凍てつくその剣戟はケダモノの身を縫い留め、そしてサクラの身にも剣を振るう重さを返す。
「――その動き、縫い留める!」
地面を踏みしめるとともにステンドグラスの破片が音を立てる。ぐりん、とその体を反転させ、放つは精緻にして神速の居合。一種の芸術性さえも感じさせる斬撃は美しい花弁を舞わすかのように散らばった。
スティアを鼓舞する様に調和を賦活へと変換するリウィルディアは眉を顰める。ケダモノは、そう呼ばれるに相応しい容貌をしていながら、言葉は流暢である。自身を神と称する事が正しいのかさえ分からぬが――『彼に聖職者を食え』と唆したものが居るのは確かだ。
「スティアは生命線だ。ここでぶっ倒れてもらっちゃ困るんでなァ!」
アランはスティアの前へと飛び込んだ。彼女を守るが為にその体を投じ、その間にリウィルディアとスティアが自身らを立て直す。
「ッーー絶対に食べられないんだから!」
スティアが叫ぶ。その声を聞きながらシュバルツは近づいた。このように悍ましい姿の神がいるか? 彼の中に擡げた疑問は確かだ。
(もしかして――)
シュバルツは、ふと思う。ケダモノは己を神だと『思い込んでいるだけ』なのかもしれない。
「……ムカつくんだよ。遠い昔の自分を見てるみたいでな。
八つ当たりした所で世界は何も変わりやしねーよ。
お前は喰って満たされたか? 違うよな。ただ、虚しいだけだ」
シュバルツは唇を噛んだ。ケダモノは神により理不尽にもこの世界に召喚された存在だとそう言った。そして、己は在るべき場所があり、その場所に回帰したいと。理不尽な神への反逆なのだろう。その方法が、『神を信じる者を喰らう』という悪逆非道の物であろうとも――『課せられた運命が残酷』であった事には変わりない。
「安心しろ。もしも神様が憎いって言うんなら、お前の分までぶん殴っといてやるよ」
「なれば、我と共に神を信じる者を殺そうではないか!」
その言葉にアランは心の底から沸き立つ思いを口にした。
ふざけるな、と。並べ立てられた言葉は上辺の言葉に過ぎない。その本心に存在するは元の世界に戻りたいという只の自己欲求ではないか。
「テメェは自分の為に人を犠牲にしてんだよ! ――此処でぶっ潰すッ!」
振り下ろすは神速の刺突。大地を割るように、踏み込みケダモノのその身を地へと突き倒す。
ぎょろりとその瞳がアランを見遣るが、その体は最早起こされることはなかった。
「……悍ましさすら感じる姿だね。その眼で、いったい何を見てきたんだ」
「浅はかなる人の心よ」
リウィルディアはそれ以上は、問わなかった。
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「テメェ、誰に嗾けられた……?」
アランの言葉にケダモノはクツクツと喉を鳴らして笑った後、目を見開いた。
ひたり、とカイトの刃がその頸に添えられたからだ。
「我を殺すか?」
「――さて、最後通告だ。
言いたい事があるなら、其れを告げてから逝け。存外、決定的な一石を投じるやもしれぬぞ?」
汰磨羈は静かな声音でそう問いかけるが、ケダモノは笑い続けるのみだ。
「偽の信仰で我の権能を害すとは」
そして――絶命した。カイトはそれ以上は無意味だとケダモノの首を刎ねたのだ。無数の瞳がぎょろりと見開かれまるで星が如く煌めいている。
まるで人間のように振舞った其れを見て、スティアは一先ず聖堂の中に何か残されていないかを探してみようと周囲を見回した。そんなスティアの側に寄り添ったサクラは「スティアちゃん」とそっとその名を呼ぶ。
「お疲れ様スティアちゃん。頑張ったね」
「……有難う。天義の聖職者として――ヴァークライトの人間として、当たり前だよ」
にこりと微笑むスティアの頬をハンカチで拭いながらサクラは小さく息を吐く。
精霊と、そして霊魂に問いかけながらリウィルディアはそのケダモノは『この世界の存在ではない』のかと呟いた。
「……想像していたよりも深い所へ、首を突っ込む事になりそうだな?」
汰磨羈の言葉にリディアは小さく頷く。旅人の様な――とは聞いていたが、彼はリウィルディアの精霊の意見を推察するに旅人(ウォーカー)だ。
「……なら、『誰かに唆されて』るのか。話してる内容を鑑みれば……神へと反逆する事でこの世界を脱却しようとしていた、としか思えない」
アランの推測に汰磨羈は練達を思い浮かべた。練達に住まう旅人たちは元の世界への回帰を目的としている。彼にとっては拠点としての都市国家が練達であっただけだ。もし、天義と言う場所で『元の世界への回帰』を望む者が神への反逆を行わんとしているとすれば――
「折角だ、最後まで付き合おう。なに、飯の種に困るよりはいい」
汰磨羈はゆっくりと頷いた。その言葉にカイトは「有難う」と頷く。自身はロストレイン家の復興の為に、と前を向いている。御家の為にと国家へと忠誠は誓ったが、神へは誓ったことはない。
人の信仰は様々だ。ケダモノの言葉は妙な引っ掛かりを感じる。
(偽物の、信仰……? 偽の神様に、って事……?)
リディアは疑問を飲み込んだ。カイトがヨシュアの許へと報告へ行こうと提案したからだ。
聖堂を後にする一行の中、シュバルツはゆっくりと振り仰ぐ。
「一歩道を違えてたら、俺も行き着く先は此処だったんだろうな」
シュバルツの呟きを眼窩に見下ろす様に聖母は光を受けて微笑んでいた。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
リクエストありがとうございました。
――無数の星を辿って、神が示す真実へ。
GMコメント
夏あかねです。リクエストありがとうございます。
●成功条件
けだものの討伐。
●『けだもの』
それは、一匹の黒きけだもの。聖職者のみを喰らい、聖職者を己の血肉とします。
聖職者、聖女、そしてそれに連なる者のみを襲い、それ以外のもには指一本たりとも触れなかったそうです。
ヨシュア曰く、彼は話す。そして、言葉を有する。無数の瞳を持ち、闇の中で煌めく星の様にその瞳が揺れ動く。
まるで、それはモンスターというよりも一人の旅人であるかのように――
物理攻撃を得意とし、神秘攻撃には疎く、防御面はそれなりです。
機動力及び回避能力が高い事で防御面を補っているようにも思えます。
●シチュエーション
天義は復興エリアにあたる場所に存在した聖堂です。割れたステンドグラスからは光が差し込み、砕けた天使が見上げてきます。
神の教えを説くものはその聖堂には未だおらず、がらんとしています。
行動を妨げるものは何もありません。けだものは聖職者の姿を探すように彷徨い、そして、その姿を見せるでしょう。
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
それでは、頑張ってください。
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