PandoraPartyProject

シナリオ詳細

Facilis descensus Averno.

完了

参加者 : 8 人

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オープニング


 その訃報が届いた時、齢にして80を越えた老人は狼狽えた。
 妻は早くに亡くなり、一人娘はシングルマザーとして孫を育て、しかし流行り病でこの世を去ってから今日まで。
 老人の唯一の繋がりと言える孫娘が、その子共々殺されたと言うのだ。
 見送るばかりだった自分が、今度こそは看取られる番だ。そう疑わなかった所にその報せは、胸中を掻き回し、穏やかでないものされた事は想像出来るだろう。
 ただ、希望は残っていた。
 慰みは、孫娘の伴侶が生きていることだ。
 彼ならば、同じ苦しみを──共通の痛みを分けあって、共に悲しみ、共に泣いて、そうして、辛さだらけだった人生の最期を任せられる。
 そう、根拠も無く信じていた。
 だから、芳しくない体調が良くなるのを待ち、幻想国の端から主要都市部まで、五日の時間を掛けて馬車を走らせ、会いに行ったのだ。
 途方に暮れる感情を理解できる自分が、まだ動ける内に支えなければならない。
 そんな、使命感にも似た感情があった。
 老い先短い自分が残せるものはその程度だろうと。
 しかし。
「……あぁ」
 ああ、しかし、老人が見るのは、悲嘆に染まる青年ではない。
 街を寄り添い歩く二人の男女の姿だ。
 幸せそうだった。
 笑顔で、腕を組み、肩を寄せ合って。
「ああ……!」
 女の緩く膨らんだお腹を慈しむ様に見る、孫娘の夫の姿がそこにはあった。
 訃報から、もうすぐ7ヶ月が経つ。
 見て分かる程になるのも、それくらいだろう。
 なら。
 いつ。
 一体、どの段階で。
 そこに至ったのか。
 沸き上がる疑念と怒りは、老人を冷徹な思考に溺れさせた。
「確かめねばならない」
 この感情が正当のものであるのかを。
 思い、行動は速かった。普段は悲鳴を上げる体が、この時ばかりはその辛さを感じさせない。
 だが解っている、残された時間はもう少ないのだということは。今の活力は、そう、消えかけたろうそくの火、その最期の盛りなのだと。
 だから。
「裏切りに、報復を」


 幻想国、ローレットの拠点に、『情報屋見習い』シズク(p3n000101)は居る。手には数枚の紙を持っていて、その何枚かを捲って見ていた彼女は集まっていたイレギュラーズに気づいて資料を仕舞った。
「仕事、来てるよ。受けてくだろう?」
 佇まいを直した彼女は言い、一軒の住所を記した資料を机に置いた。 
「そこ、都市部から少し離れた貴族のお屋敷なんだ。新婚さんが二人で住んでいて、そんなに広くない家だ」
 庭付き一戸建て。
 階数は二。
 近隣は広い更地で、お隣さんと言える近所の住人達とは100m程の距離が空いている。
「依頼は、この家の住人である夫婦を逃げないように拘束し、依頼人に引き渡す事。引き渡した後は関わらず、即座に撤退する事」
 その言葉で、イレギュラーズは大まかに事情を察する。
「復讐だな」
「ああ」
 逃げられないように拘束するのは、万に一つも仕損じない為。
 引き渡せと言うのは、実行するのは自分自身の手でなければならないという感情から来る物。
 しかし、そのお膳立てをこちらに依頼するという事情に関して言えば、幾つか可能性が挙がる。
 力が弱いからとか、その家に強い警備がいるとか、それから。
「うん、依頼主は老人だよ。見た感じ、相当に具合は悪いだろうね」
 手段を選んでいられない事情があるから、だ。
「いい?」
 首を傾げたシズクの問い掛けに、イレギュラーズは頷く。
 それは、受諾の意志を伝える物だ。
 だからシズクは、頷きを返して言葉を続ける。
「さっきの通り、夫婦の家は近隣とは距離がある。とはいえ、大きな音を立てれば異変に気付ける距離でもあるね。加えて言うなら、奥さんの方は貴族らしいから、家には警備兵が詰めているよ」
 とはいえ、それらの練度は高くない。元々が一貴族の私兵だ。強盗、盗賊、そういった有事の脅威を想定した戦力でしかない。
 問題となるのはその戦力と言うよりも、もっと別。
「騒ぐ事によって起きるかもしれない想定外。自警団や警察機関による介入。そして、そうすることで削られる、依頼人の時間だ」
 邪魔が入るのは不測の事態。そして身体の弱い依頼人に過度なストレスは命取り。
 そうならないために、やらなければいけないことは一つ。
「警備、それから使用人は、騒がれる前に残らず排除する。もちろん、事が済むまで気絶させるだけでもいい。依頼人が満足する時間まで、寝ていてくれる確証があるのなら、だけれど」
 それから。
「それから、襲撃の時間は二択。警備の交代が訪れる朝と夕は除外するよ。
 昼間に行けば、多少の騒ぎなら街の賑わいに紛れるだろうけれど、その代わり、警備は外と内側に広く配置されてる。
 夜間に行けば、多少の騒ぎで察知されるだろうけれど、代わりに、警備は内側に詰めていて、使用人は寝ているだろうね」
 どちらを選んでも構わない、と、そう言って。
「解っていると思うけれど、相手は"善良"な市民だから、それ相応の悪評は覚悟しておいて」
 その言葉を最後に、シズクは説明を締めた。

GMコメント

 復讐するシナリオです。
 お察しの通り、悪属性依頼となってます。

●注意事項
 この依頼は『悪属性依頼』です。
 成功した場合、『幻想』における名声がマイナスされます。
 又、失敗した場合の名声値の減少は0となります。
 
●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 主にイレギュラーズの行動によって、状況が変化致します。

●依頼達成条件
 依頼人が夫婦と対面を果たした上で、イレギュラーズは関与しない。

●現場
 夫婦の新居。

●出現敵

・警備兵
 昼と夜で人員は変わりますが性能に差はありません。
 昼は外に10人、内に5人。
 夜は玄関と裏口に1人ずつと、内に5人。
 戦闘方法は以下の通り。
 警棒による近距離への打撃:音の発生・無し
 拳銃による遠距離攻撃:音の発生・大
 ホイッスルを鳴らす事による中距離までの全体に足止+麻痺+怒り付与:音の発生・中

●使用人
 常に家に詰めているメイド、執事、料理人。
 昼夜関わらず10人います。
 戦闘能力は皆無ですが、以下の特殊行動を行います。
 通報する:騒ぎに気付かれた場合の介入が早くなる
 命乞いをする:大袈裟にお願いする事で警備が集まってくる、もしくは夫婦が逃げ出す。

●依頼人
 少し離れた位置で、イレギュラーズが仕事を済ませるのを待っています。
 介入された場合、どう動くか予想はつきません。

 以上、簡単にはなりますが補足として。
 
 よろしくお願いいたします。

  • Facilis descensus Averno.完了
  • GM名ユズキ
  • 種別通常(悪)
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年06月10日 22時35分
  • 参加人数8/8人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ルルリア・ルルフェルルーク(p3p001317)
光の槍
クーア・M・サキュバス(p3p003529)
雨宿りのこげねこメイド
如月=紅牙=咲耶(p3p006128)
夜砕き
メリー・フローラ・アベル(p3p007440)
虚無堕ち魔法少女
ヴァイオレット・ホロウウォーカー(p3p007470)
咲き誇る菫、友に抱かれ
日車・迅(p3p007500)
疾風迅狼
フェルシア・ヴァーミリオン(p3p007908)
賢者の石
スカル=ガイスト(p3p008248)
フォークロア

リプレイ

●PM 19:00
 平地からの灯りがある。小さな丸の形をした、幾つかの数を伴って移動する物だ。
「やれやれ、何時の世も復讐はあるものでござるな」
 それを、住宅の塀に背を預けた『闇討人』如月=紅牙=咲耶(p3p006128)は視線を向けずに確認する。
 あれらは警備員だ。話に聞いた通り、交代して帰ってきた昼間担当の者達だろう。
「自らの手で清算しなければ気が済まない。それ程の怨嗟、正直、私にも覚えが無いわけではありません」
 だがこれから行うのは悪事である。『めいど・あ・ふぁいあ』クーア・ミューゼル(p3p003529)はそれを自覚していて、
「他人を踏みにじり、自分のことしか考えない輩を善良と、そういうのであれば……ルルは悪人となりましょう」
 強く、そして静かに『暗躍する義賊さん』ルルリア・ルルフェルルーク(p3p001317)が言った言葉にクーアは頷いた。
 どちらにせよ、依頼人の望みを果たしてあげるというのが、全体の総意なのだ。
 だがしかし、気になることが無いわけでもない。
「死した孫とその伴侶、そして孕んだ第三者の女。老人の心が憎悪に染まるには、素材としては十分過ぎですな」
 と、引く付いた笑い声を添えた『影を歩くもの』ヴァイオレット・ホロウウォーカー(p3p007470)の言葉に、ルルリアは首を傾げていた。
 果たして、身籠った奥さんは、その辺りの事情を知っているのだろうか、と。
「妻子を始末して新しい女に乗り換える様な屑です。勝手な事情で捨てる行為ですら許されざる事に加え、手段として最悪の部類でしょう」
 とはいえやることは一つだ。『何事も一歩から』日車・迅(p3p007500)の憤りもイレギュラーズの大半が抱えた感情でもある。
「裏切りかしら。それとも、詭謀かしら」
 なんて、気にしてないような声音で疑問を呟いた『賢者の石』フェルシア・ヴァーミリオン(p3p007908)は、きらめいた金髪を指で絡めとりながら息を吐く。
 ニンゲンって大変ね、と、他人事の事情に同情しつつ、
「そろそろいい時間だろう」
 腕組みで塀に持たれていた『ゲシュペンスト』スカル=ガイスト(p3p008248)が声を作った。
 緩やかに体を自立させ、軽く首を回して解しながら仲間を見る。
 彼としては、どちらに肩入れするという感情はなかった。
 ただ依頼された事を実行するだけだという、仕事の意識しか持ち合わせてはいない
 だから。
「行こう」
 灯りの無い平地へと、先頭を切る様に進む。
「きっとその人も、いい子でいる事が出来なかったのね」
 幼い声が後ろに続いた。
「思い通りにいかない事をなんとかするために、きっとその人は、力を使ったのよね」
 息を吐く様に『躾のなってないワガママ娘』メリー・フローラ・アベル(p3p007440)は笑って言って、
「それってとってもワガママだわ」
 と、そう評した。

●22:00
 夜の時間は退屈だ。そう男は思っていて、実際、警備について半年間、護るとは名ばかりの置物になっていると感じていた。
 それはそうだろう。
 出自が貴族とはいえ、見る限り普通の家だ。警備もいる以上、そのリスクに見合ったリターンでも無ければ押し入ろうと考える奴なんていない。
 そう考えていた。
 だから。
「あ?」
 噛み殺した欠伸で視界が潤む中、真っ暗闇に見える筈の無い黒を感じたその時。
「──!?」
 彼の思考は乱される。

 地を這う様にしてルルリアは行く。
 屋敷から漏れる光りと、それに寄って生まれる柵や塀の陰影に紛れる軌道だ。
 ギフトの能力で今、彼女の気配は限り無いゼロへ近付いていて、油断している相手なら間違いなく気付けないだろう。
 故に、影から飛び出して、低姿勢での肉薄を警備員が見たその時には、ルルリアの体はその背後へと回っていた。
「──!?」
 瞬時に警備員の両膝裏を蹴って膝を付かせる。
 次いで、音を失くした咲耶が接近する。呻きを発しそうな口を手で抑えながら、相手の腕を背中側へと捻って上体を軽く反らせた。
「ふっ」
 そして、無防備になった腹部へと、スカルが拳を深く突き入れて意識を奪い去る。
 脱力し、ぐったりとなったその首根っこと手首をクーアと迅がそれぞれ掴み、暗闇の中へと音も無く引きずり込んだ。
「……はやぁい」
 両手両足、それから口に咥えさせるようにロープを巻くヴァイオレットを見ながら、フェルシアは小さな声で一連の流れを褒めていた。
 状況が許せば拍手すら送る所だ。
 だって自分には隠密行動が出来ないと、彼女は自覚がある。どちらかと言えば、派手に消し飛ばす方が得意なのだ。
「でも、依頼だものねぇ」
 達成には条件がある。
 その為に、決して気取られてはいけない。
 騒ぎになるなんてもっての他だ。
 だから。
「……っ」
 裏口に音もなく再接近したルルリアはロックピックを取り出し、取っ手下にある鍵穴へとそっと差し込む。
 解錠の音すら気を使う現場だ。
 残りの七人は闇へと身を潜め直してその行程を見守りつつ、気づかれていないか、誰か接近してきていないかの警戒を担当する。
 やがて、小さな金属の重なり音が鳴る。と同時に、振り返って頷くルルリアと居場所を交代するのはメリーだ。
「ドアの前には誰も居ないようでござるな」
 扉越しの透視をする咲耶の声に後押しされ、小さく隙間を開ける。
 そうして潜り込ませるのは、五感の共有を果たしたハエだ。
「……ちょっと薄暗い……?」
 得られる視覚情報は暗い。
 見る限り、屋内の照明は電気式で、調光機能によって明るさを抑えられている。
 とはいえ、裏口の先は風徐室だ。その先にはさらに扉が控えている。
「音があるな」
 スカルが言う。
 キィ、と軋む音を鳴らして開かれた裏口の先に身を滑らせ、澄ました耳に入り込む足音を察知していた。
 しかし、咲耶の透視ではその発生元を見つけられない。
「何処かには居る筈だけど」
 入り込まなければ突き止めるのは難しそうだ。
 そう考えると、次のノブを回すのは躊躇われる。
 だが。
「ワタクシにお任せ、です」
 ニヤリと笑って、堂々と扉の前へとヴァイオレットが立った。
 その姿は、常とは違う。
 使用人が着る様な、黒の給仕服と白のエプロンを身に付けた姿だ。
 本物の使用人に見られたら、正直、誤魔化しなど効かないだろう。
 だが、昼夜で交代する警備員なら話は別だ。
 当日の昼から勤務した新人と言えば、警戒はされても即座にバレるという可能性は低い。
 ──筈だ。
 だから、彼女が先に行く。
 ノブを回して中へ。
 その先は廊下だ。
 天井に吊るされた灯りが転々と続き、更に先にはリビングがある。
「……部屋の角、右に誰かいる」
 咲耶が言った。
「一人、他には──近くには居ないわ」
 メリーが続けて言い、ヴァイオレットはリビングの手前で壁に背を預けて張り付く。
 そうして静かに顔を覗かせ、対象を確認した。
「……腰に警棒、首に笛、胸の膨らみは……銃、ですか」
 特徴からして、警備の一人だろうと、そう思う。
 それから、静かに視線を巡らせると、わかることがある。
 警備がいるのはドアの前。どこに通じているのかは定かでは無い。それから、リビングには他にドアが二つあるということ。
 一つは裏口から見て正面側にあって、もう一つは左側の壁面の真ん中だ。
 配置からして、正面は玄関に続く廊下だろうと、そう判断出来る。
「仕留めます?」
 首を傾げてクーアが言った。
 どのルートを調べるにしても、明らかにドアを守っている風の警備員は邪魔になるだろう。
 排除するしかない。
 かといって今、廊下から体を出して奇襲を仕掛けた場合、無力化するまでの時間を無音で済ませられる保証は無かった。
「犠牲を減らすという指針であれば、確実性は欲しいでしょうね」
 使用人と警備員の全員を処理する。その手段を思わない訳ではないが、イレギュラーズの半数以上はそれらをしたくないという考えだ。
 それを考慮しているからこそ、迅は確実性と言う言葉を使う。
 銃を抜かれても、笛を吹かれても、考えは破綻するのだから。
「ヒッヒッ」
 しかし、仲間を見直したヴァイオレットは小さく笑っていた。
 口元に立てた指を一本当て、しぃーっ、と悪戯っぽく吐息を漏らして、
「ワタクシにお任せと、そういいました」
 佇まいを直した彼女は徐に、リビングへとその身を晒した。

●22:30
 警備の男は、それを見つけた。
 女だと、暗がりのシルエットにそう思う。
 だが何故、裏口への廊下から女が出てくるのか、それがわからない。
 何故ならそこは一本道だ。裏口を守る警備が居る以上、そこから来るのは普通、その警備員しかあり得ない筈。
 では何故、女が来たのか。
「こんばんは」
 女が、言葉を発して自分に近付いて来る。
 その時ふと、どうするべきかを男は迷った。
 腰に下げた警棒に手を添えつつ、"可笑しな相手が居ることを報せるホイッスルを鳴らすべきかどうか"を、だ。
「叩かないで下さい、今日入った新人ですよ?」
 それを見て取ったのだろう女がそう言う。
 しかし、やはりそれなら、どうして裏口から来る必要があったのか。そこには何か、理由がなければ可笑しいはずなのだ。
 だと言うのに、それでも彼は迷った。
 薄明かりに近付いて見える女の顔が──眉尻を下げた、こちらを伺うような顔をした女に──一瞬、刹那とも言える時間を──見惚れてしまって。
「ぉ……!」
 意識を引き戻した時には、その顔が目の前にあって、目と目が至近距離の見つめ合いを強制し、そうして。
「…………ああ、もんだい、ない」
 彼は静かに、その場から立ち去った。

「……大人の魅力……!」
 ふらふらと裏口から出ていく警備員の背中を見送って、ルルリアは感嘆に尾を振った。
 鮮やかな手並みだという感心もある。
「とはいえ、そう何度も使える手じゃないだろ」
 左の扉を少し開けながら、聞き耳を立てていたスカルが言う。
「釘付けにするのは周りに人がいちゃ出来ない。出来たとして、今みたいに敷地外へ行く途中で他の人間と会ったら台無し……ここは保管庫だな」
 扉を閉め、次は玄関への扉を開け、何もないことを確認。
「騒ぎになるのは困る、のだもの、ねぇ?」
 その隙間に顔を差し込んで、何もないわねぇとフェルシアは続けて言いながら離れ、角の扉へと向かう。
「命を奪うのは少な目に、よねぇ?」
「なのです。まあ、差し障らない限りという条件次第なので、いざというときは焔色へ導くのは吝かではないのです、はい」
 角の先の安全を確認されて、クーアは返事をしながら扉を開ける。
 その先は階段室だ。
 左には両開きの扉があり、その隙間からは白い光が漏れている。
「いる、でござるな。2、3人……いや、3人見えたでござる」
 ……警備ではござらんな?
 目を細めた咲耶は思う。
 透視で見えるのは壁越しの室内だ。長机があり、椅子が片面に五個ずつ並んでいる。2人は扉に背を向けた形で座っている状態で、1人はどうやら向かいの壁に向かって立っている様子だと分かる。
「ここ、食堂ですよ」
 と、不意に迅が言った。
 鼻をすんすんと鳴らした彼は、漂ってくる微かな匂いに頷きを一つして、
「調味料の香りがします。それも複数……料理で使うものですね」
 間違いないと、そう言い切った。
「なるほど、つまり、タイミングとしては今が最良でござろうなぁ」
 咲耶とヴァイオレットが、それぞれの扉に手を掛けた。
 ゆっくり、隙間を広げる様にして開いていく。
 そして。
「では、任せるでござる」
 光が階段室に満ちた。

●23:00
 部屋を視認した瞬間、メリーとフェルシアの動きが同時に起こった。
 配置としては、手前に2人、奥に1人の状況だ。
 手を突き出す構えは、それぞれに狙いを付ける。
「──!」
 まず、目映い閃光が発生する。それはメリーの発動した術式で、座る2人の中間に起こる神聖光だ。
「うっ」
 と、呻くその間を、一本の紐状の光が走った。
「捕まえたわぁ」
 フェルシアのマジックロープだ。
 驚いて振り返る寸前だった壁側の1人を縛り上げ、肺の空気を吹き出す程度に加減する。
 悲鳴を上げるだけの溜めを残さない為だ。
「ごめんなさいっ」
 そうして、動きを止めた手前の2人はルルリアとクーアが非殺傷の術式で意識を奪い、縛られて倒れた1人には迅が普通に近付いて。
「ふっ」
 拳を突き立てて気絶させた。

「誰か降りてくる」
 気絶した3人を食堂の隅へ、縛って転がす作業の中、階段の軋む音をスカルが拾う。
 食堂の扉は開いたままだ。
「数は……また3人だな」
「騒ぎがバレたのか……?」
「とりあえず様子を見よう。最悪は……」
 殺さなければならない。
 全員の脳裏に、その可能性が過った。
「あれ、扉あけっぱなし……ったく、しょうがねぇな……二人とも先休憩行ってきな」
 だが実際、2人はリビングの方へと向かい、1人は開いている扉を閉める動きを取った。
 悪態を吐きながら扉に手を掛け、そして、
「うごっ……」
 その後頭部を殴って気絶させた。
 床に倒れ込まないようにキャッチして寝かせ、即座にリビングへ向かった2人を追い掛ける。
「警備が居なくなった事に気付かせるのはまずい……!」
 だから、ヴァイオレットと咲耶は行く。
「……ぇ?」
 気配に振り返った二人の鳩尾にそれぞれの爪先をぶちこんで体をくの字に折らせ、差し出す様に傾いた顎の下へと振り上げた蹴りを続けて浴びせて気絶させる。
「急ぎましょうか」
「了解でござる」
 ヴァイオレットの持ち込んだロープで縛り上げ、同じく食堂の隅へ転がしたイレギュラーズは階段室に戻り、上階へ続く道を見据えた。

●23:45
 二階の間取りはシンプルだ。
 ストレートの階段を上った先、折り返す様にステージがあって、一本道の廊下がある。
 そしてその両側に、複数の扉があり、突き当たりには少し大きな扉という配置だ。
 ただ、そのそれぞれの部屋にどうやら一人はいるらしく、隣接している以上些細な物音ですら気づかれる可能性があった。
 だから、ノックをする。
「はぁい……?」
 まさか侵入者が二階に、ましてやわざわざノックするなんて思いもしていない使用人は素直に扉を開け、そして口を封じられながら廊下へ引きずり出され階段の側へ連れ去られる。
 後は殴ったり蹴ったりで気絶させ、ロープで縛って担ぎ上げ、階段を降りて食堂に転がす。
 これを繰り返すこと四度。計4人の、残った使用人に行って処理した。
 続いては警備員だ。
 こちらも家の中には4人残っている。
 だがこちらも問題は無かった。各部屋に1人ずつ居た警備員は、同じようにノックで誘きだし、警棒と拳銃の位置を手分けして抑え、気絶させては食堂へ運ぶだけで事足りた。
 そして、玄関にいる1人。
「少し待っていろ」
 静かに、二階の一室に入ったスカルが、窓から玄関上の屋根へ降りる。
 そこから伝い、あくびを漏らす最後の1人を頭上なら強襲。
 呆気なく無力化を果たすのを見届け、そして。

●00:13
「な、なんですか貴方達は!」
 突如開かれた扉から入ってくる7人に、ベッドへ入っていた男が反応した。
 いそいそとした動きでシーツを蹴飛ばし、ベッド上で怯えた様に身を縮ませる女を背に守る動きで立つ。
 勇ましく拳を握り、顔の前へ持ち上げて、
「いったいなんの目的で──」
 クーアとメリーの衝撃術式が顔面に命中した。
「ひっ」
 と、悲鳴は女からだ。
 容易く一撃で気を失った男は、ベッドに力無く横たわっている。
 身の危険を感じたのだろう女は、転がる様に床へ落ち、這いつくばって逃げ出した。
 が。
「あらぁ、ごめんなさいねぇ」
 フェルシアの伸ばした魔法のロープであえなく捕縛される。
 ジタバタと暴れまわる四肢は迅によって抑えられ、ヴァイオレットによって改めて縛られた。
「それじゃあわたし、外のスカルを連れて依頼人を呼んでくるわね!」
 役目を果たした。そう判断したメリーが部屋を出ていく。後は引き渡して終わりだろう。
 そう思う中、ルルリアは未だに暴れる女へと歩み寄り、視線を合わせる様に屈んで話し掛けた。
「貴女は、知っていたのですか? 旦那さんが前の奥さんやお子さんを殺害したことを」
「なに、なんの話をしているの、あなた方は誰の命でこんなことを」
「……やはり、知らないのですね」
 ルルリアは思う。もしかして、彼女も被害者なのではないかと。
 もしそうなら、裁かれる必要はない筈だ。そう思って。
「だって私しか知らない筈なのに」
「え?」
 女の言葉に疑問を思ったその時、扉の開く音がした。

●10:00
 ローレットに、一つのニュースが届いた。
 都市から離れた屋敷で、夫婦と祖父の三人家族が殺されたというニュースだ。屋敷で働いていた人達の証言で、襲撃があった事と、三発の銃声があった事が判明しているが、その詳細は全くの謎とされている。
「私的には、やはり焔色の救済こそが良かったと思うのですが」
 その報せを聞いたクーアは、そんな事を言った。結局の所、全ての真相を知ったのは、依頼人だけなのだろう。
「顛末は知る人ぞ知る事となりましたか、いやはや」
「……御老の慰めに、なったのでしょうか」
 どうだろうか。
「これで依頼は完了だろう」
 解らない。が、報酬はもう受け取った。
「胸の内が晴れ、逝った事を願っているでござる」

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

どうも、お疲れさまでした。
大体侵入ってなると中々大変だったとは思いますが、よい作戦だったと思います。
また、よろしくお願い致します。

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