PandoraPartyProject

シナリオ詳細

摂氏二百三十三度

完了

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●焚書

 誰も居ない草原で、男の笑い声が響いた。
 冷たく吹きすさぶ風に負けず、黒い煙が風に流れて雨雲のような様相を見せている。
「アハハハァ……燃えろ、燃えろ!!」
 めらめらと音を立て、堆く積まれた本が炎の柱によって灰になっていく。
「こんなものが……こんなものがあるからッ!!」
 唾を飛ばしながら叫ぶ。
 血走った眼を大きく開かせて、悲しき男──モンテギューは高く上る黒い煙を眺めていた。

 ああ、ああ、この世界に住む人たちは皆、燃え死ぬんだ。
 何も知らず、世界の崩壊すら気付かずに終わりを迎えるんだ。
 羨ましい。なんて羨ましい。僕にも終わりが欲しい。助けて。助けてくれ!
 お前たち異世界の人間だけ救われて、僕らだけ救われないなんて、あっていいものか!
 ──誰か、僕を楽にしてくれ!

●孤独を押し退けて

「面倒ごとを押し付けてすまないね」
 カストルは銀髪を揺らし、小さく項垂れた。
「君たちにやってもらいたい事は──うん、そうだね。少しばかり後味が悪いものになるかもしれない」
 カストルの話はまとめると、とある男が境界図書館の『蔵書』を持ち去り、異世界へ逃げ込んでしまったという。
 持ち去られた本はどうするのかは想像に難いが、おおよそ良い事に使うとは思えない。
 蔵書が傷つけられればその異世界は崩壊してしまう。看過することは絶対に出来ないのだ。

「彼は少し前までは真面目な境界案内人だった。一体何がきっかけかは分からないけれど──彼はその職務を全うできないほど、変化をきたしてしまった」
 男の変化は突然だった。いきなりうわ言を口走り、態度が一変した。
 蔵書──異世界や、その異世界の住人を強く憎むようになり、非常に攻撃的になった。
 そして、その変化から幾ばくもしない内に今回の奇行に走った──と言うのが大まかな流れである。
 彼の足取りはおおよそつかめている。今ならまだ間に合う筈とカストルは力強く言った。

「……彼の名はモンタギュー。必ず探し出し、その行いを止めてほしい」

NMコメント

 りばくるです。
 摂氏二百三十三度は紙が燃え始める温度らしいです。
 少々風変わりなシナリオとなりますが、よろしくお願いいたします。

●成功条件

 ・モンタギューの殺害

●フィールド

 とある異世界の中、高原での戦いです。
 100平方キロメートル程度の広大な高原。辺り一面は背の短い雑草ばかり生えた野原であり、障害物などはありません。モンタギューはその一角で焚書を行っています。
 黒い煙が目印となりますので、探索等は必要ありません。が、イレギュラーズたちが到着するまでに奪われてしまった蔵書は燃え尽きてしまい、取り返せません。

●エネミー

【モンタギュー】

 元・境界案内人の男性。
 終わる事のない職務の中で疑問と葛藤を繰り返す内に狂ってしまい、自身を殺してくれる誰かを誘う為に焚書を行いました。イレギュラーズ達を、己を『救えるか』どうかを試すために攻撃を仕掛けてきます。
 炎を操る能力を持ち、反応、命中、神攻が高いですが、反面ファンブル値も高く動きにムラがあります。

・焚書(神至単:【火炎】【本系のアイテムが燃える可能性があります】)
・火炎放射(神中扇:【業炎】【必中】)
・劫火(神遠範:威力大、【弱点】【火炎】【業炎】【反動】)

●注意事項
 本系のアイテムを本シナリオに持ち込む場合、リプレイ中に燃えてしまう可能性があります(性能等が変化する事はありません)。

 以上、皆様の参加をお待ちしております。

  • 摂氏二百三十三度完了
  • NM名りばくる
  • 種別ライブノベル
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年06月07日 22時15分
  • 参加人数4/4人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(4人)

ノリア・ソーリア(p3p000062)
半透明の人魚
ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)
祝呪反魂
クーア・M・サキュバス(p3p003529)
雨宿りのこげねこメイド
ラヴ イズ ……(p3p007812)
おやすみなさい

リプレイ

●ペシミズム

 男の凶行を止める為に動いた4人のイレギュラーズが、その世界に降り立った。
 一面緑、緑、緑──。ひときわ目立つ、青空の中に立ち上る黒い煙。
「これは──紙が燃えるにおいなのです。急ぎましょう」
 鼻をすんと鳴らした『めいど・あ・ふぁいあ』クーア・ミューゼル(p3p003529)が、するりと軽快に先頭を進む。
「そう。という事は」
 静かに呟いた『おやすみなさい』ラヴ イズ ……(p3p007812) も、クーアの後について進む。
 儚い少女の瞳が、僅かに潤んでいた。
「まさか、奪った本を燃やしちまうとはね」
 やれやれと首を振る『蒼の楔』レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394) 。
 彼女は、男の凶行に及んだ真意を測りかねている。
「わたしたち、間に合わなかったですの……?」
 『半透明の人魚』ノリア・ソーリア(p3p000062)が眉を八の字に寄せて、殿を泳ぐ。
 おそらく自分たちが辿り着くころには、本はもはや灰と化しているだろう。
 それでも、進むほかない。彼女たちは煙の元へと急ぐ。

 ──4人が辿り着いたとき。そこに積んであったであろう『本』はそこには無かった。黒い煙も立ち失せ、くすぶっていた燃えカスも風に飛ばされて殆ど現場には残っていなかった。

「……待っていたよ。ああ、来ると思っていた」

 背中越しに、そう喋る男。やせぎすの身体に、骨ばった手足。粗末な煤けたコートを翻し、男はゆっくりと振り向いた。
「君たちが僕の死神かい? 随分と華やかだね、まるで天使だ」
 男の軽口を聞いて、レイチェルが眉を顰めながら3人の前に一歩出る。
「アンタ、自分が何をしたのか分かってるのか?」
「ああ。君たちに助けを求めていた世界を燃やした。苦しんでいたようだから、救ってあげたんだよ。彼らは自分たちが死んだと気付かないまま、静かに終わっていった」
 男の眼はまっすぐだ。己が行いに一切の迷いは、無い。
「……確かに、焔はひとが須らく行きつくべき救済なのです。しかし世界が丸々燃え尽きてしまえば、そこからもう火の手は上がらない。許容しかねる末路なのです」
 クーアは静かにフードを外し、男を見据えた。白髪混じりのくすんだ金髪が風に揺れ、縮んだ毛並の耳が、炎を扱う者であることを示す。
「小火で喜べるなら、きっとその方が良かったのだろうね。人やモノと世界では、重さが違うから」
「死が救いだなんて……悲しいかたですの」
 ノリアが呟いた言葉に、男──モンタギューが、ふっと鼻で笑った。
「エンディングのない物語が面白いと思うかい。終わりがあるからこそ、全ての存在には価値が生まれるのさ。僕も終わりが欲しい。君たちがそれをくれると、僕は期待しているんだけど」
 ラヴが、ほろほろと、その美しい瞳から大粒の雫を流した。
「異なる書物(せかい)は焚けても、この世界まで焼くことは叶わない。だから自分の生命(せかい)を灼こうというの?」
「そうだよ。僕は死ねない体質でね。だから終わらせてくれる人を探していたんだ。ずっと」
 その言葉に、レイチェルがもう一歩深く踏み込んだ。
「永遠に縛られる程、苦痛な事はねぇ──だが、死ぬ事で解放されてぇンなら一人で逝けば良い。大勢の人を、異世界を巻き込むのは全く以て身勝手な話だ」
「お嬢さん、君の言う事も正しいよ。でもね、全世界ですべての存在が幸福である事など絶対に有り得ない。こんな世界など消えてしまえと思う存在だって、その世界にはきっと居るんだよ。そのごく少数の声に寄り添ってあげる事も必要だとは思わないか?」
「……屁理屈だな」
 その言葉を聞いて、レイチェルはやれやれとかぶりを振る。これ以上の問答は無用だと。
「……すまない。やっぱり無しだ。今の言葉は、僕の真意じゃない。そうも思っているけれど……ダメだな。悪い癖が出てしまったよ」
 モンタギューは静かに言った。
「『君たちのような強者をおびき寄せるために本を燃やした』。その方が正しいね。こうでもしなきゃ全力を出さないだろう? もしかすると、僕を説得できるかも知れない、とか。そんな甘い考えじゃダメなんだ。君たちはただ僕を殺せばいい。僕を殺せないなら君たちを殺し──新しく来た者にまた、僕の終わりを請うだけだ」

 男の周囲が途端に熱を帯びる。草むらが陽炎のように揺れ、ちりちりと青草が焦げる臭いがした。
 ──戦いが、始まる。

●The Flames of Sunset

 ごお、と炎の蛇がクーアとレイチェルに襲い掛かった。咄嗟にラヴがレイチェルの腕を掴んで飛びのき、クーアの前に飛び出したノリアが大いなる海の一部分たる水の膜を張って炎を打ち消す。
「あなたにとって、死が救いだというのなら。ほんとうに、その方法で救われるのか。わたしで試してみればいいですの」
 モンタギューが、無防備な少女に炎を放つ。
「そうですの……炎では、わたしを救うことなんて、できないですの」
 ──しかし、モンタギューの放つ炎は、ノリアの振りまく水の障壁を破れない。
「まるで不滅……確かに、これでは君を殺せない」
 むしろ炎はその勢いを殺していくばかり。ノリアの放つ水鉄砲も、それを加速させる。
「わたしには、あなたの代わりの案は思いつきませんの……でも、あなたが思う方法とは違うやり方で、あなたを救いたい」
「……優しいのだね。でも」
 でも、きっとそれは無いんだよ。そんな都合のいい終わりなんて。
 男の言葉に、少女は胸をつまらせた。
 せめて、燃え上がる彼の心が鎮まるように。そう祈らずにはいられない。

 びゅうとレイチェルの放った矢が、モンタギューの右目を射抜いた。
 眼球と血の代わりに、炎が噴き出す。
「アンタが身勝手に殺した世界の声が聞こえねぇか? 死ぬってさ、苦しいンだよ」
「ああ……こんな痛みは久しぶりだ。終わる音が聞こえるよ。嬉しくてたまらない」
 モンタギューが、燃え盛る火炎をレイチェルに差し向けた。横に飛びのくも、腰に下げていた魔本が一気に燃え上がる。
 レイチェルは冷静にそれを投げ捨て、また弓に矢をつがえた。
「俺はお前を楽に殺してやるつもりは一切無い。俺はアンタが殺した人たちの、復讐の代行者だ」
「……痛みも、苦しみも、『終わる』為なら耐えられるよ。その復讐すら、ヒトが人たる所以。それでいい。僕をヒトとして、いや、ヒトのまま殺してくれ」
 ──レイチェルは見た。モンタギューの背後に見える、揺らめく炎の鳥。
 あれは一体? 疑問を抱く間もなく、掻き消えゆく何かに禁術を叩き込んだ。

「叶うならば、貴方の話が聞きたいのです」
 自身を焼かずして、何故炎に救いを見出したのか。何故死を求めるほどに生を悲観しているのか。クーアの問いかけに、にべもなく男は笑う。
「……君は不死鳥って知ってるかい? 僕はそれに似たモノでね。いや、押し付けられたと言うべきかな。とにかく、僕は望まず死なない肉体と炎を操る力を得た」
「──己自身を、燃やす事が出来ないのですね」
「そうだ。僕は自分で死を選ぶ事も出来ない。君が羨ましいよ。その炎で焦がせるんだ。骨すら残さない熱情をその身で!」
 炎の鞭が草原を走りながら襲い掛かる。取りこぼしたメモ帳が炎に晒された。しかしクーアは見向きもせず、ヒット&アウェイを繰り返し攻勢に出る。
「……なら、あなたにも味わってほしい。その熱情を。あなたの救済は、今ここで成されるべきなのです。望みどおりに!」
 ──求道者。放火魔たる彼女の真価。伸ばす右腕が生み出す巨大な黒炎が、男の半身を飲み込んだ。

「死は救済。或いはそうかもしれないわ。でもね──何が救われないから死にたくなったの? あなたが本当に救ってほしかったのは何? 殺すなら、殺されるなら、そこには納得が必要だわ」
 ひとつ、ふたつ。ガウン、ガウンと銃が吼える。
「世界から存在を認められない、爪弾き者としてあの場所で長きを過ごしたんだ。永遠とも言える無為な生を厭わしく思う事の何が悪い?」
 涙すらも乾かせる熱量を浴びながらも、ラヴは金糸の髪を鮮やかに滑らせて風のように走る。
「終わらなければ救われないと、絶望したのは何故?」
「……お嬢さん。君は……きっと、僕以上に重いものをたくさん抱えてきたんだろう。なら……分かる筈だ」
「……」
「生きるのが苦しいんだよ。お願いだ。終わらせてくれ」
 彼の代わりに、彼女が泣いた。哀しくてたまらない。男の絶望に、寄り添えない少女は。
 ただ、言われるまま銃身を向けることしか出来なかった。せめて安らかにと、彼の安寧を願って。
「……おやすみなさい」

 彼は終焉を与えた4人に笑顔を向けた。
 ゆっくりと倒れ込んで──もうそれきり、その眼に光を宿すことは無かった。
 長い激闘の末、いつしか、青空は燃えるような夕焼けに染まっていた。

●摂氏二百三十三度

 ノリアが、彼の傍らに落ちる本を見つけた。
「摂氏二百三十三度……?」
 タイトルに書かれていたものの意味とは。
「紙が燃えはじめる温度なのです」
 クーアが、静かに口を開いた。
「日記帳のようですね。最後のページは昨日──『誰か、僕を殺して』……?」
 ラヴが最後のページを開き、レイチェルがモンタギューの亡骸を見やった。
「……この日記帳が、奴の狂気を今まで抑え込んでたって事か? こいつが全部埋まっちまったから、アイツは──」

 おそらくこの日記帳に、彼の全てが。苦しみも、絶望も、凶行に至る経緯まで、全て書かれているのだろう。
 しかし、彼女たちはそれを暴く事をよしとしなかった。
「もう、終わったことなのです」
「ええ。きっと彼も、それを望んでいない」
 彼は最後まで、それを彼女たちに明かすことはなかったのだから。

 クーアがすい、と日記帳を高く投げると、瞬く間に燃え広がり灰となっていく。
 彼の遺した思いの欠片が──風に吹かれて、茜空に吸い込まれていった。

成否

成功

状態異常

なし

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