PandoraPartyProject

シナリオ詳細

サイレントスノウより■■をこめて

完了

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●きみの■■はここにある
 深く呼吸をしてください。三度です。
 そう、吸って、吐いて……。
 吸って、吐いて。
 吸って。
 吐いて。
 目を三秒間瞑ってください。世界が斜めに傾く感覚がありませんか。
 ……。
 よろしい。
 ではその椅子に座ったまま、目を閉じてください。

●ただ生きていただけで、■■を忘れてしまった
 ある日イレギュラーズに寄せられた、一通のありえない手紙。
 差出人は、死んだはずの■■■■■だった。
 文面はきわめて簡素に、日付と時間とノースビスマス駅という単語。
 そして手紙を締めくくるように、そして急いで書き付けた赤い文字でこうあった。
 『あなたへ、■■をこめて』
 あなたは手紙にこめられたどこか抗いがたい誘惑に導かれるようにして、ノースビスマス駅へと向かった。

 ノースビスマスは鉄帝北部にある雪深い寒村である。
 村の入り口には『Welcome to BISMUTH』と彫り込まれた大きな石のまわりには、畑仕事をこなす農夫達の銅像がちらほらとならんでいる。
 道を進んでいくと、銅像があちこちにあるのがわかった。
 道ばたで会話をする主婦や、風船をもって走る子供や、路肩に座り込む酔った老人や……。
 あまりにもリアルな、まるで日常の風景をそのまま銅で固めてしまったかのような風景。
 しだいにあなたは駅へとたどり着き、モギリを手にした駅員の銅像と対面した。
『ようこそおいでくださいました。汽車へお乗りください』
 声がした。
 そう思ったときには汽笛が鳴り、枕木の腐ったさびだらけの線路だった場所に、立派な三両編成の蒸気機関車がとまっていた。
 開く扉。
 あなたの足は、自然と扉を潜っていく。
 後ろでしまったガチャンという音が、重く重く。

 目を瞑るあなた。
 ゆれる世界。
 かたむく世界。
 そして至る。

 ――サイレントスノウへ、ようこそ。

●いつ■■にサヨナラをしたの?
 ようこそお客様。サイレントスノウはあなたの快適な余暇をお約束します。
 二度と無い体験を……いえ、”二度と無かったはず”の体験を心ゆくまでお楽しみください。
 ただし、この街に訪れたなら三つのことを守っていただきます。

 『街から何も持ち帰らない』
 この街にあるものはいかなる物品においても外へ持ち帰ることは許されておりません。
 『街から誰も連れ帰らない』
 この街で出会ったいかなる人物も外へ連れ帰ることは許されておりません。
 『街に残ってはならない』
 いかなる理由であってもこの街に何時間も滞在することを許しておりません。

 この三つをお守りいただけるのであれば、きっとお客様もご満足をいただけることでしょう。
 さあ、汽車が到着します。
 汽笛の音が三度鳴ったら車両が止まりますので、閉じていた目を開いてください。
 いち、に――さあどうぞ。

●もういちど■■に出会えたら
 開く扉。
 あなたが車両を降りたその先にみえた後ろ姿。
 『手紙の差出人』が、あなたへと振り返った。

GMコメント

※注意
 このシナリオには強いメタ要素といくつかの意図的なミスリードが含まれています。

●INTRODUCTION
 彼らははふしぎな手紙にさそわれて『サイレントスノウ』へとやってきました。
 ここがどんな街なのか。
 彼らを待っていたのは誰なのか。
 それを決めるのは、ほかならぬPLのあなたです。

・WHERE
 サイレントスノウの町並みは、PCがずっと昔にみた風景とそっくりです。
 幻想の大通りなのか鉄帝の雪道なのか深緑の木々に囲まれているのかはたまた深い海の底なのか、それを定めるのはあなたです。
 プレイングに『PCにとってサイレントスノウがどんな街に見えたのか』を記入してください

・WHO
 PCを待っていたのは、PCへ届いた手紙の差出人でした。
 プレイングに『PCにとって誰が待っているように見えたのか』を記入してください。
 重々ご承知の方もいらっしゃると思いますが、一見何でもありの混沌世界においても死者の蘇生はありえません。
 PCが一般常識をもっているなら、死んだ人物が手紙を出してくることも、まして自分を待っていて、しかも目に見えてそこに立っているなんてことはありえないと分かるでしょう。

・WHY
 その人物がなぜ死んでしまったのか。
 PCはそれを、そして当人をどう思っているのかをプレイングへ記入しましょう。

・HOW
 差出人とPCがどのようにサイレントスノウで過ごすのかを記入してください。

・EXTRA
 この街に一人で来ていても、依頼参加者二人以上で来ていても構いません。
 ただし二人以上である場合は必ず双方でコンセンサスをとってから参加してください。片一方だけが単独扱いであった場合、もう一方のプレイングは大幅にマスタリングされます。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はDです。
 多くの情報は断片的であるか、あてにならないものです。
 様々な情報を疑い、不測の事態に備えて下さい。

  • サイレントスノウより■■をこめて完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度EASY
  • 冒険終了日時2020年06月09日 22時10分
  • 参加人数6/6人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(6人)

鳶島 津々流(p3p000141)
かそけき花霞
銀城 黒羽(p3p000505)
サイモン レクター(p3p006329)
パイセン
イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)
キラキラを守って
ラドルファス=グレート=カイショウ(p3p008331)
こんにちは、美少女だよ。
観音打 至東(p3p008495)

リプレイ

●横を歩いていてね
「おや、ここは……」
 深い霧が風にさらわれていく。
 『行く雲に、流るる水に』鳶島 津々流(p3p000141)の目の前に広がった光景に、津々流は思わず息を呑んだ。
 深く清らかで、四季を美しく移ろい続ける山。
「……鳶島山」
 長く口にしていない言葉だったのに。
 津々流自身にはなぜだから、口慣れて聞こえた。

 汽車から下りると、後ろで扉がしまる。
 それ以上なんの音もしなかったはずなのに、汽車も線路も、駅すらも消えていた。
「――」
 ねえ、と呼びかける声があった気がした。
 もし、と丁寧にささやきかける声だったかもしれない。
 記憶の中で、皆底で踊る魚のように、ぼんやりと浮かんでは消えるその声が、現実に聞こえたような気がした。
 津々流は振り返るよりも前に、自らの髪へと手を伸ばす。
 彼に不思議とよく似合った、女物の髪留め。
 表面に朝顔の花飾りがついたそれの意味を、彼はよく知っていた。
 それを受け取った瞬間のことも。
「君は……朝香(あさか)かい?」
 ようやく振り返り、こちらへ微笑む女性へと問いかける。
 頷く彼女の頭には、朝顔の髪留めがついていた。
 一瞬の迷いと、一瞬の驚きと、一瞬の安堵と、一瞬の悲しみと、そしてほんの一握りのよろこび。
 もしかしたら何かの罠かも知れない。
 そんなことを頭の片隅で考えながらも、津々流は彼女――朝香へと歩み寄った。
「僕が僕でなければ、きっと君は『あんなこと』にはならなかったのに。それでも君は……」
 髪留めを外して、津々流は自分の手に握った。

 遠い昔の話を。今も昨日のことのように思い出せる血に塗れた思い出を。いま語る必要があるだろうか。
 津々流は穏やかに笑い、そして朝香もまた穏やかに笑った。
 外の世界はどうでしたか? 朝香はそんな風に言った気がした。
 津々流は苦笑して首を振り、歩き出す彼女のよこについて、同じ速度で歩き始めた。
「結局、僕はあのままだったよ。四季告(しきつげ)として、あの山の中で生きた。望むと望まざると、僕は無理槍にこの世界へ召喚されてしまったけど……」
 振り返る、いろいろなこと。
 発見と驚きと、自分が想像したよりもずっと鮮やかな『外の世界』のこと。
「ねえ、今度は僕が教えるよ」
 アーチのように続く桜並木。
 ゆっくりと同じ速度で歩く二人。
「君は羨んで、こっちの世界に来たがってしまうかな」
 思うままつぶやいてみて、けれど津々流は苦笑して頭の角をふった。
「違うよね。僕だって、君に憧れて外に出たかったわけじゃない」
 同じ速度で。
 触れも離れもしない距離で。
 ただこうして、語らうだけでよかったのだから。
「ねえ、想像できるかい? この世界にはね――」

●死は誰のためにある
「なんだよ、ここ、幻想じゃねえか……」
 どこかけだるい雰囲気をまとい、『不屈の』銀城 黒羽(p3p000505)は汽車を降りた。
「けど……『あいつ』から手紙が来たなら、そりゃあここ……だよな」
 ゆっくりと辺りを見回し、歩き始める黒羽。
 だがそのなかで、黒羽は奇妙な懐かしさにおそわれた。
 歩くたびに、それは実感として湧き上がっていく。
 古いはずの石畳。
 古いはずのた標識。
 古いはずの露天。
 無人ではあるが、それは一昔前の幻想の町並みだった。
 まるでセピア色の思い出が色を持ったように、街は黒羽を受け入れている。
「…………」
 黒羽は改めてポケットから手紙を取り出した。
 差出人の名は――。
「ねえ」
 手紙のむこうから声がする。ふと視線を上げると。
 すぐそばに、『彼女』がいた。

 『彼女』、と……あえて呼ぼう。
 栗毛色の髪。
 上等そうな服。
 黒羽の横に立っていた彼女は、三つ編みにした髪をどこか楽しげに振ってスキップをふみはじめた。
「ねえ黒羽。次はどこへ行きたい?」
「アンタが選べ。俺はただの護衛だ」
 口をついて不意に出た言葉に、黒羽は自分でも驚いた。
 彼女は『だよね』といって笑い、黒羽の手を掴んで引く。
「カフェにはいろ。ケーキが食べたいな」

 店の主人が亡くなったとかで、今はもう潰れてしまった小さなカフェ。
 ウェルカムベルの音と共に扉を開くと、シックな絨毯とカウンターテーブル。その向こうでコーヒーミルをまわす人の良さそうな主人がひとり。
 どうぞと促され、黒羽はカウンター席についた。
 まるで親しい友人と遊ぶかのように、横に座って頬杖をつく『彼女』。
「どうしたの? またコーヒー? あのすっごく苦いやつ」
「…………」
 メニューブックを開くと文字の殆どがぼやけて、素っ気なく『コーヒー』とだけ書かれた文字だけがくっきりと浮かんでいた。
「俺は、アンタを……」
 そこまで言いかけて、黒羽はやめた。
 分かっていることだ。
 過ぎた話だ。
 決して消えない、淀んだ過去だ。
 こうして目の前で話しているからといって、忘れていい『悼み(いたみ)』じゃない。
「ん?」
 注文を終え、笑顔で振り返る彼女。
 黒羽は言葉を選んで、そして……。
「なあ、俺は、どんな人間だった?」

 驚きと、痛みと、悲しみと、一握りの優しさ。
 彼女の表情に浮かんでは消えたそれらの中で、彼女はただひとつ、『しょうがないやつだな』という顔で苦笑だけを残した。
「黒羽は、心の優しいヒトだったよ」
 嘘か本当か。
 確かめるすべなど、ないのに。

●毎秒50メガ祝福単位の涙で
 『吸血鬼を狩る吸血鬼』サイモン レクター(p3p006329)に届いた一通の手紙は、あまりにも大きな謎でできていた。
「アイツからの手紙……? ありえねぇ。だって、アイツは……」
 汽車の中で物思いにふけり、目をつぶり、そしてやがて目を開くと、そこは複雑にパイプの入り組んだ工業地帯だった。
 その場所の名前を、サイモンは知っている。
「……マジかよ」

 地蔵めいた自動清掃人形が通り過ぎ、オカルティックな柄のジャケットを羽織った男がまばらに行き交う街。
 誰もが中途半端に貧しくて、誰もが世界の仕組みを知らず、誰もがありもしない夢をみている。
 サイモンはこの場所を知っている。
 この混沌世界に『ない』場所だということを、知っている。
「テーマパークにしちゃあ趣味が悪いぜ。そのうえこんな手紙で呼び出してよぉ……どういうつもりだ、なあ!?」
 振り向くと同時にリボルバー拳銃を構えるサイモン。
 ぴったりと狙いをつけた銃口の先に立っている人物を見て、サイモンの顔が左右非対称に歪んだ。
 笑みと怒りの表情である。
「動くな! 『アイツ』は俺の目の前で死んだ! てめぇは誰だ!」
「おいおい」
 『ブラッドジャケット』のロゴが入った服を着た男は、渋く笑って両手を上げた。
「親友にそんな危ねえもんを向けるんじゃねえって」
「うるせえ。……アイツの手先か?」
「何の手羽先だって? お前、さては俺を疑ってんな? よーしいいぜ、俺しか知らねえことを教えてやる。そうだなあ、お前たしか寝言で女の――」
「オラァ!!」
 発砲。
 ただし地面に。
「わかったわかった! ンだよ、お前も俺と同じように召喚されてきたのか?
 来てたんなら早く言えよ」
 サイモンは笑って銃をしまうと、『彼』へと駆け寄ってばしんと肩を小突いた。
「疑ってすまねえな」
「いいってことよ。あ、タバコ持ってる?」
「出会って早々タカるんじゃねえよ。……ったく」
 ポケットからタバコを取り出して咥えさせると、銀のジッポライターをする。
 オレンジの光が照らす相手の顔を……いや、火がともるタバコの先端を見つめて、サイモンは目を細めた。
「……すまない、お前を助ける事ができなかった」
 タバコをくわえた『彼』の唇が左右非対称に歪んで。
「いいってことよ」
 と、同じテンションで言った。
「あ、金もってる?」
「バッカやろう! ……ったく。しょうがねえな。飲みに行くか」
 ポケットの財布を確かめて、サイモンは笑った。
「……ったく、ほんとに」
 目尻をぬぐい、サイモンは歩き出す。
「なあ知ってるか? この世界ってマジでウケるぜ。この前なんか貴族の奴に――」

●もう悲しまないで
 オフィーリアは語りかける。
 『ここは安全だよ』と語りかける。
 『おもちゃのお医者さん』イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)は目の前に広がる光景を語って聞かせると、『僕にもそう見えるよ』と答えた。
「そっか……」
 イーハトーヴは雪深い大地の真ん中で、灰色にかすむ空を見上げた。
 乗ってきた汽車は消えていて、雪ふる中にひとりきり。
 いや、ひとりきりじゃない。
「やあっ、遅かったね。道に迷わなかった?」
 エプロンをつけて、革の鞄をたずさえた二十代後半の男性。モノクルの奥で、優しそうな目尻が垂れている。
 男性は大きな切り株に腰掛けて、それ以外なにもない雪の中で笑っていた。
「……コウ」
「ん」
 座る位置をちょっぴりずらして、『隣に座りなよ』と切り株を叩く。
 イーハトーヴはオフィーリアをやや強く抱いたが、オフィーリアは語りかけてきた。
 『大丈夫だよ』と。

「コウ。君は、もう死んでしまったよね?」
 切り株に腰掛けて、イーハトーヴはちらりとコウへと振り返った。
 虚弱な身体。吐く息は白く、けれどにこやかにいつも笑っている。
 間違いなく彼だ。イーハトーヴは安堵と共に、腹の底から湧き出すような不安に震えた。
「うん。僕だよ」
「君は、出会ってそうたたずに……」
「うん」
「こんな雪の日だった」
「うん」
 ただ優しく、頷いて聞いてくれる。
 あのときの、彼のまま。
「コウは言ったよね。『戦場にいる人間は、それが諦念にしろ、死ぬ覚悟を持っている』」
「うん」
「『だから殺す事を躊躇うな、誰かの死に心を引き摺られるな』」
「うん」
「だから俺は、『ちゃんと悲しまなかった』よ」
「……うん」
 コウはにっこりと笑って、ただ頷いた。
 そうしてくれることが一番嬉しかった……のだろうか。
 イーハトーヴは首を振って、そして改めて語りかけることにした。
「それで……『本当の君』はだれ?」

 黙って、笑顔をとりつづけるコウ。
「君の目的を知りたいんだ。
 俺は君に此処に呼ばれて、だから、力になれないかなって。
 ねえ、俺は、君の助けになれる?」
 熱心に語りかけるイーハトーヴに、しかしコウは……いや、コウの姿をした誰かは、ただ微笑んだままイーハトーヴ目を見つめていた。
「教えて。君はなぜ、こんなことを?」

 それきり、だった。

 気づけばイーハトーヴは汽車にゆられていて、うとうととした眠りから目覚めていた。
 汽車は幻想王国の街に到着し、ほかの乗客たちはどこか慌ただしく下りていく。
「……あ、俺も下りなきゃ」
 席を立ったイーハトーヴ。
 何かを忘れていた気がしたけれど、思い出せない。
 けれどなぜだろう。
 足取りが少しだけ、軽い気がした。
 『よかったね』
 そうオフィーリアが、語りかけた。

●SMOKING MEMORY
 閉まる扉と消える汽車。
「マジで……?」
 『こんにちは、美少女だよ。』ラドルファス=グレート=カイショウ(p3p008331)はすっかり取り残されたことに気づいたが、それ以上に彼の眼前に広がる校舎らしき建物に心を引かれた。
 自分はここを知っている……ような気がする。
 ロマネスク調の城とそのまわりでは、紺のブレザー制服を着た若者たちが歩き、どうやら偉いひとらしい魔女の像の横を通り抜けていく。
「知らない誰かから手紙が来たときはなにかと思ったけど。ははあ……さては、アレだな?」
 にやりと笑い、ラドルファスはどこか楽しげに歩き出した。

 多くの生徒達が集まる場所……からはずっと離れた茂みの裏。
 心引かれてやってきたその場所で、座り込む若者の姿があった。
 髪は黒く、緑ジャージの上に紺ブレザーを着た黒縁眼鏡の青年。
 雲纏う岩山を再現したらしい帽子を被った少年(?)が、こっそりと紙巻きタバコを取り出し……たところでハッとラドルファスのほうへと振り返った。
「あっやべ何誰!?」
「誰って……小生の顔みてわかんない?」
「え、え、え……」
 少年は目を細め、そして盛大に顔をしかめた。
「嘘! 未来の拙者なの!? 一人称が小生とか明らかにイタいおっさんじゃん!」
「一人称が拙者の奴に言われるのクソしんどいんだけど」
「何の心境の変化があったら一人称小生になるの!」
 頭を抱えてウワーと叫ぶ若ラドルファス(仮)。
「まあ、色々あるんだよ、色々……」
「色々って?」
「全然覚えてないけど」
「マジなんなの未来の拙者」
「まあ強いて言うなら……」
 ラドルファスはぽりぽりと頬をかいて、なんてこともないように言った。
「実はもう死んでる」
「幽霊じゃん!!!!!!!」

 くわえタバコで寝転がり、木漏れ日に目を細める二人のラドルファス。
「研究、どうなった?」
「知りたい?」
「どうかなー……けど死ぬんでしょ?」
「ヒトはいつか死ぬよ」
「そういうテツガクが聞きたいんじゃない!」
 などと言いつつ、ラドルファスたちはのんびりとしていた。
 死ぬことも、記憶がないことも、深い探究心がかつてあったことも。
 それはそれ、という気持ちでタバコをくわえているようだった。
「ねえ、ところでそのライター……」
「は? 魔法媒体だよ? 入学時にパンツを魔法媒体にしようとして先輩に止められたじゃん」
「なるほどパンツならいつでも肌身離さないしね。」
「魔法使うたびに股間が光るし面白いと思うんだけど」
 マジウケる、と笑いながら煙を吐き出す二人。
「ところでなんでそんなに距離とるの」
「だって学生時代の小生の方がいいタバコ吸ってるとか納得いかない」
 ラドルファスはそう言って深く深く煙を吸い込むと、ため息のように吐き出した。

●いざ尋常に、想い果てるまで
「ほーん……」
 『みねうちでござる!』観音打 至東(p3p008495)は愛刀楠切村正の柄を握りしめ、雪積もる野原に立っていた。
「覚えのある光景。シチュエーションでござるな」
「うむ」
 腕組みをし、こちらへ振り返る男。
「ああ、獅子郎どの。……観音打獅子郎(みねうち ししろ)どの」

 思い出を話してみよう。
 観音打の名を己にうけたあの日からだろうか。
 それとも……。
「――あの時、わたくしはお前さまと共に逝ったのです。
 お前さまの妻である私を、あの瞬間、あの宇宙に切り離して。
 現し世の旅を、お前さまと別れて往くと。
 ゆえに、今を生きる至東は、わたくしとは違う――」
 手になじむ『残されたもの』。
 身体に宿る『残してくれたもの』。
「……あれを今生の別れと言い残してくだすったが故、今の拙者があり申す。
 獅子郎どの、そなたの妻であった至東は……」
 すらりと抜き放つ、『残そうとしたもの』。
「ここに居りますのは、そなたの夢を、人を、記憶を、切なく未来へと繋ぐ為の――拙者でござる」
 うむ、と。
 獅子郎はすらりと刀を抜いた。
 あの美しい、この美しい刃文。
 刃に映した互いの唇は、どこか穏やかに微笑んでいた。
「では、いざ鬼退治でござるな! もし死んだ後に化けて出るようならば、それは鬼だから斬れと、獅子郎どのは確かに――」
「言ってないが」
「言ってない、が!」
 ちゃきりと刀を返し、至東は心のような速さで斬りかかった。
「絶対言ったでござる! あの獅子郎どのなら、言うでござるって!」
 刀がぶつかり合い、火花が散り、熱く熱く刃が鳴った。
「さあ、さあ、お覚悟めされい獅子郎どの!
 拙者も紅は引いておる故――!」
 それはまさしく、愛のような殺陣であった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 そして日常が戻ってくる
 かわらないようで、すこしかわった日常が

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