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シナリオ詳細

ただ一筋の清浄明潔

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 天義の騎士。
 それは正義に従う者達。
 正しきを成せ。
 悪を挫き、良き生を送れ。
 人民を護り、正義の心を守り、善き隣人を尊ぶべし――

 彼らはこの国の誇り。

 彼らこそがこの国の守護者――で、あり。
 そして汝もまたその立場を目指すのならば。

 汝、その資格在りや?


「正しき事を成すのに地位など必ずしも必要ではない――
 けれども、騎士として認められる事に意味はあるんだ」
 月の光が周囲を照らし、渦中にて言うは『正義の騎士』リンツァトルテ・コンフィズリー(p3n000104)である。
 かつてその名――コンフィズリーの家名は、ある陰謀に嵌められた事で地に落ちていた。それは『コンフィズリーの不正義』と言われる程根深い問題となっていたが……しかし冠位魔種ベアトリーチェとの動乱において『不正義』の真実が明るみに出た事により、名誉が回復。その時の話は……今宵の事とはまた別の事であるので詳しくは割愛するが。
 ともあれ彼はこの国。天義の聖騎士団の一人である。
 詰まる所、確かに認められている『正騎士』の一人である――と言う事だ。それはつまり。
「それは確かな『力』を持っているという事。
 それは確かな『心』を持っているという事……
 騎士の称号は決して飾りではない。だからこそ――」
「……はい。覚悟はあります」
 見習い、であるサクラ (p3p005004)とは今の所違う立場が明確に異なる訳である。
 サクラ――ロウライトの姓を持つ彼女は天義に生まれ、正義を重んじる騎士の家系に育った。祖父であるゲツガ・ロウライトの名は天義でも有数の名の一つであり、彼女もまたいずれは……と言われていたが。
 イレギュラーズになった折に家を離れた事もあり、彼女は未だ『騎士見習い』であったのだ。
 それでも。
 多くの戦い。多くの経験を経て、彼女は遂に。

「……よろしい。ではこれより正騎士昇格の試練を行う」

 天義の国の確かな『騎士』となるべく――此処にいた。
 天義の首都にして聖都フォン・ルーベルグより西へ。そこへ『オルトラント』という地がある。ここは騎士を目指す者らが正騎士となるべく試練を受ける場所の一つであり、天義に存在する遺跡の一つでもある。
 盆地の様な場所に存在するは古ぼけた街並み。人の気配は存在せず、打ち捨てられている様だ。
 中央には大きな祭壇が見えて――更にそこには、大きな老木が鎮座している。
 葉一つ無く。まるで枯れている様にも見えるが……
「試練は一つ。今宵、一夜の間。夜が明ける前にあの老木の下へ到達し『宣誓』をするんだ」
「宣誓……? というと騎士になる為の誓いか何かを告げよ、と?」
「単純に言うと、そうだ」
 リンツァトルテの言葉に反応したのはクラリーチェ・カヴァッツァ (p3p000236)だ。
 誓い。言霊として己の在り方を示せ、と言う事か? 疑問を呈する彼女にリンツァトルテは言葉を続け。
「天義の国の騎士として、自らの正義を何に捧げるのか。二心なく言葉を発すれば……あの老木に魔力で形作られた『葉』が満ちる。葉が満ちた事を俺がここからでも確認出来たなら、その時点で正騎士だ」
「それはどういう原理なんでしょう? あの老木は嘘を見抜く、とでも……?」
「さて。正騎士の誕生を見据える天義の守護樹とも呼ばれているが……詳しい原理は分からない」
 ただ、宣誓せし者の言の葉に確かに反応する。
 邪心、もしくは確かな覚悟無き者の言葉には聖騎士の資格無しと葉を満たさぬ樹であるらしく――少なくとも永きに渡って試練の担い役となってきた信頼ある老木だそうだ。天義の上層部は少なくともかの樹の神秘を認めている。故に葉が『成れば』認められるのだと――それをマルク・シリング (p3p001309)への言葉に対しての返答とすれば。
「ところで。その試練に私達も参加していいのか?」
「問題ない。ここでの試練は十名までなら信頼せし友を連れてよいとされている」
「それは、何故でしょう? もしや宣誓する『だけ』ではない何かが……?」
 フローリカ (p3p007962)、ならびにリースリット・エウリア・ファーレル (p3p001984)が最もらしい疑問を提示してくる。試練――ともなるとなんともはや、一人でこなす様なイメージもあるものだが。
 ある程度の人数を連れたって祭壇に行っても良し? それは、つまり。
「宣誓は『心』を見るが、騎士には『心』だけでは不十分。
 心を押し通す『力』もあってこそ騎士に相応しい――故に、英霊達が君達の前に現れる」
「それもまた試練、という訳か」
 リンツァトルテの言葉にベネディクト=レベンディス=マナガルム (p3p008160)は即座に理解を。己が感覚……黒狼王の血統の鋭敏なる感覚が、この先に己らの前に立ちはだかるであろう『敵』の存在を示している。
 『彼ら』は既に己らを視ているのだ。祭壇に至ろうとする――己らを。
「成程……新たな騎士の誕生を見定める先達が来る、と言う訳か。ふふ、面白い物語だね」
 なんと神秘的な事象かとリンディス=クァドラータ (p3p007979)は言葉を紡ぐ。
 リンツァトルテは『英霊』と言った。
 それはつまり天義で散った、しかし騎士であった者達の残滓が来るのだろう。
 己らを乗り越え騎士になれと――厳しいような、あるいは華やかな様な。

 天義の騎士は正義を成す者達。決して、孤高なりし己の為だけに力を振るう粗暴者に非ず。

 故に友と共に進む事が許可されているのだろう。
 隣人と共に道を進め。騎士とは独りである必要はないのだから、と。
「……サクラちゃん」
 その時。スティア・エイル・ヴァークライト (p3p001034)は親愛なる友人……渦中のサクラに、名前を紡ぐ。
 間もなく進む。この先にある祭壇へと。
 しかし恐らくもし、もし失敗すれば――騎士への試練は暫く『預け』となるだろう。別に天義の試練の種類がこれだけな筈はないが……失敗した。なら、ではすぐ次の試練へ、などという話はあるまい。
 未熟と断じられれば一度それまで。成長をまた重ねた果てでなければ――と。
 気負い過ぎていないか。顔を覗くように彼女は言を発すれば。
「一つだけアドバイスするなら、守護樹への宣誓に正解は無い。
 ただ、己に。己の心に嘘をつかず言葉を発するんだ」
 瞬間。リンツァトルテの声が重なった。
 聖剣を輝かせた君なら。君の心なら――守護樹は必ず答えると。
「――はい」
 されば再度なる、意思をサクラはその場で示して。
 歩を進める。必要なのは『力』と『心』

 月明かりの下で。

 貴方の正義は、果たして何に捧げるのか。

GMコメント

■試練達成条件
 守護樹の下へ到達し、サクラさんが自らの正義を
 『何』に捧ぐのか宣誓してください。

 過去の者達は『国へ』と言う者もあれば『友へ』という者もいました。

 正解はありません。貴女の心を示してください。
 貴方の正義は『何』に捧げますか?

■試練の場
 天義遺跡『オルトラント』
 フォン・ルーベルグより西へ少し。騎士の誕生を見定める老木ありし遺跡です。
 中央には些か高い祭壇が。その最上層に件の『守護樹』が存在しています。
 祭壇は最上層まで一直線の階段があるので近くまで来たら迷う事はないでしょう。周囲には古い町並みが並んでいます。街に住んでいる人、と言うのはいませんので一般人を気にする必要はありません。
 時刻は夜。ただし月光の輝きが明るく、視界には問題ありません。

■かつての英霊達
 天義に殉じた英霊(亡霊)達です。
 試練の日にだけ現れる存在で、肉体はありません。
 魔力で形成された幽体達です。試練が終わると消滅します。

 全て騎士の鎧を身に纏った半透明の存在達――ですが、その攻撃は確かな重みがあります。剣・弓・魔術を使う者達がいるようですが、治癒系統の術を扱う個体はいないようです。
 総数は不明ですが、一度に現れる最大数は『その場にいるイレギュラーズの数と同数』です。

 また、祭壇の階段に近付くと突如一体だけ力量が遥かに高い個体が出現します。

 最後の試練の様に立ち塞がりますが、突破すれば後は宣誓するのみです。
 打ち破るも良し、信頼せし者に任せるも良し。
 ――どうか試練を成し遂げてください。

■守護樹
 老木、としか言われぬ名が何故か無い樹です。
 オルトラントの中央に存在する祭壇の頂上に存在しています。
 いつから存在していたのかも不明な程、永く歴史があるようです。

 ある月の日だけに魔力がこの街に満ち、その魔力を使って試練を成します。
 騎士としての心を認めれば、その枯れた枝木に葉が満ち。
 その旅路を祝福すると言われています……

 今までに多くの騎士の誕生を見送りました。
 今までに多くの騎士の力と心を見据えました。
 そして今日もまたその誓いを見定める事でしょう。

■リンツァトルテ・コンフィズリー
 今回、試練の成否を見定める人物です。
 試練の内容には参加せず、守護樹の葉が開くか否かを観察しています。

  • ただ一筋の清浄明潔完了
  • GM名茶零四
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年06月05日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費---RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)
安寧を願う者
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
マルク・シリング(p3p001309)
軍師
リースリット・エウリア・F=フィッツバルディ(p3p001984)
紅炎の勇者
サクラ(p3p005004)
聖奠聖騎士
フローリカ(p3p007962)
砕月の傭兵
リンディス=クァドラータ(p3p007979)
ただの人のように
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
戦輝刃

リプレイ


「これがお父様や叔母様が受けた騎士の試練……
 ああ、いや。この地で受けたとは限らないけど感慨深いよね」
 オルトラントの入り口。『新たな道へ』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)はふと、気付いた。騎士である叔母――騎士であった父――二人も何がしかの試練を受けたのだろうか、と。
 これより先。同じ道を歩むことはないけれど。
「どうか私の信じる正義を見守っていて欲しいな」
 瞼を閉じる。それはほんの一瞬だけの事。過去に想いを馳せた、たった一時。
 ――次に世界を視た時もう後ろは振り向かなかった。
 往く。試練はこれより奥にてあれば。
「聖騎士と成る為の試練、か……傭兵ならばある程度の実力さえあれば誰だろうと成れるが」
 騎士はそうもいかないものなのだな、と『砕月の傭兵』フローリカ(p3p007962)は紡ぐ。フリーであり、各地を渡り歩く傭兵者とは異なり自ら所属を定める故の性質の違いか――
「だがまぁなんにせよ、上手く行くように祈っているさ」
 失敗や不運を視たい趣味がある訳でもないしな、と件の『彼女』に視線を寄こした――その時。
 天より降りかかるは闘気。素早く転じたフローリカは己が武器、ルクス・モルスを起動。
 下より振り上げる形で迎撃と成し、交差。衝撃音。
「――これが、言われていた英霊ですか」
 フローリカと鍔迫り合いを行っている一つの存在を『終焉語り』リースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984)は確かに視た。半透明の、幽体の騎士。
「成程。既に生きていない者達だけど……中々の闘気を感じるね。これはやはり油断できない」
「数多の英霊達は今宵一夜限り、試練の為に復活する……
 彼らを宿すあの樹は一体、どれだけの物語を見届けて来たのでしょうか」
 続々と現れる気配を感じるマルク・シリング(p3p001309)は即応出来るように位置を整え『レコード・レコーダー』リンディス=クァドラータ(p3p007979)もまた同様に。
 ああ守護樹よ。今日もまた新たな物語が生まれるをの見守るのですね。
 そしてその場に私もまた立ち会えること――嬉しく思います。
「信じる道を。サポートは全力で致します」
「サクラさん。今宵は貴女の心のままに。貴女の道が開かれるよう、精一杯手助けさせて頂きます」
 故にリンディスに続き『祈る者』クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)は、祈る。
 たった一夜の事なれど、彼女にとっては重大なる刹那。
 そう。
「ありがとう、みんな」
 ――『聖剣解放者』サクラ(p3p005004)にとっては。
「行ってくるよ」
 いつか、いつかと夢見た日なのだ。
 幼い頃に殉職した、天義騎士のお父様も――この試練だったのだろうか――?
 想う事はあれど、それでも今は目前を見据えて。
「さぁ、行こう。サクラ……君ならば問題はあるまい」
 ただ全力を。常なる日の通りに、至高をと。
 『黒狼領主』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)からの激励も受けて。
 歩を進める。

 さぁ来たれり来たれり新たな騎士よ。
 目指すのならば超えていけ。
 正義を目指す若人よ。

 ――汝の信ずるモノを見せてくれ。


 弓矢の一閃。英霊側の戦力もまたそれなりに『ある』ものだった。
 前衛と後衛に別れ布陣をしっかりと。剣を抱きし者は後ろに通すまいとし。
 弓と魔術を操る者は確実に当てようとしてくる。
 実に堅実。
 正にお手本たる様な戦術である――が。
「英霊よ、『かつて』に生きた者達よ。今を生きる我が技を見せよう。喰らい破れ、黒狼の咢よ――!」
 であるなら地力がモノを言うのだ。
 先陣切るはベネディクト。その右手に携えしは短槍へと至ったグロリアスペイン。
 膂力を込める。限界を超えて溜めた力を槍に乗せ一気投擲。呪いを纏うその一撃は空を薙いであらゆる障害を突破するのだ――盾なぞなんの役に立つ事か。引き千切って圧し潰す。
「同道を許された以上、俺達もまた試験に臨む気持ちで行く。油断はせんよ」
 言うと同時、ベネディクトは過去を。
 懐かしい。彼もまた、元の世界において友と共に『騎士』になる為の試験を受けた事がある。尤もその時は騎士になる事は出来なかったのだが……
「だからこそ、彼女にはなってもらいたい」
 あの日の夢の途上にいるのがサクラならば。
 己はその道を助けよう。
 英霊からの攻撃が来れば手甲で受け止め軽減。そのまま槍を指先で回転させれば柄で穿ち。
「英霊か……名のある者だったのかもしれないが、臆すつもりはない」
 そして当然それだけで終わらせよう筈も無い。フローリカの一撃は特に傷ついた一体へと。
 瞬歩の如く敵の懐へ。光の刃を大天上から一閃し、更なる傷を増やすのだ。
 英霊。仔細は知らぬ者達よ。
 そう呼ばれるのならば呼ばれるに足る理由がある者達なのだろう。
 それでもサクラの為、足踏みするような在り様は見せられない。
 彼女が聖騎士になれるかどうかの瀬戸際なのだから――
「――――」
 であればリースリットは少しだけ複雑な気持ちが心の奥底にあるのを感じた。
 天義の騎士。それは、幻想の民である彼女にとっては必ずしも良い印象を持つ存在ではないからだ。彼らの言う『正義』は時に苛烈で――『解放』とのたまう意思なる戦いの是非については、やはり苦い顔をせざるを得ない。
 現実に戦を起こすのは神ではなく人であり、人を傷つけるのもまた神ではなく人なのだ。
 そして天義の騎士と言えば――正にその戦いを担う者達で――
「ですが」
 それは。少し前の聖教国ネメシスの話。以前の天義における『聖騎士』への認識であった。
 冠位との戦いを経て、或いはイレギュラーズとしてサクラなど……天義の騎士達と触れ合って。
 今は。
「少しだけ、違う事を感じています」
 だから今は彼女の力と成ろう。前とは違うネメシスならば。
 もしかすると――信じられるかもしれないから。
 焔の刃を英霊に。前衛を担いて敵を押し留める。雷撃も放てば敵を複数穿って。
「これは、私達修道女がたてる請願と同様の厳粛な儀式……
 騎士のお役目であればこそ、武を示す必要があるのでしょうね……」
「はは、確かに……天義の伝統、か。神聖な儀式に立ち会うことができて、光栄だよ」
 己の生き方を、これからの在り方を己に問い。
 形に表し、これからも貫いていくもの。
 宣言とは。言の葉にする事には確かな意味があるのだ。
 クラリーチェとマルクは実感する。あの巨大なる樹は必ず今宵反応を示すのだと。
 その場に立ち会える光栄と――緊張感。
「――サクラさんの道行きを邪魔しないでください。でなくば、押し通ります」
 故に武者震い。クラリーチェは猛る気持ちを抑えて。
 神秘の出力を上げる術式を展開しながら、治癒魔術を紡ぐのだ。
 英霊側には回復役となる者がいない故に彼女やマルクの治癒術による有無が段々と差をつけて来ていた。マルクは今の所は聖なる光を持って敵を討つ事を優先しているが、いざ危険と成ればいつでも治癒へと移行できるように注意している。
 十分な回復力で戦線を支えつつ敵前衛から一体ずつ落としていくのだ。
 二人に加えてスティアの治癒も加わるなら、盤石の姿勢は崩れずして段々と戦線を上げる事が出来る。無論、治癒に人手が傾けば突破の力が薄くなるという事でもあり、進軍のスピードが速いとは流石に言えない。
 それでも着実に。英霊の剣を捌き、弓を弾いて。一体一体に攻撃を重ねる。
「物語はいつの時代も語り継がれ、そして生まれていく。今宵もまた、となれば……
 私も私の全力を尽くしましょう」
 そして治癒をする者達はリンディスが警護するのだ。常に庇う体制を。
 最初の段階でマルクらと位置を調整したのはこれが主な理由だったのだ。彼らに決して攻撃は通すまい――空に焦がれたある男の詩を紡げば、想起される物語が周囲の者らの補助と成し。
 押す。やがて騎士達が崩れ始める。時間が経つごとに回復の有無が響いてきて。
 フローリカの一撃が再び放たれ、ベネディクトの投擲はやがて弓の者すら捉える。
 さすれば――道が開かれる。祭壇へのルートが見えて。
「サクラちゃん!!」
 故にスティアが声を出した。
「ここは私達に任せて、絶対に邪魔はさせないから!」
 周囲の不浄を浄化する。味方へ活力を、与えてそれでも尚視線は――彼女へ。
 サクラちゃん。サクラちゃん――
 言い出したら聞かない事が一杯あったね。いつだって無茶して心配させて。
 ……だけど。
 だけど。
 ずっと、過ごしてきた日々があったんだ。

 この世で一番、大切な――親友なんだ!

 ありったけの治癒を彼女へ。
 絶対に、絶対に悔いが残るような事になんてさせない。
 サクラちゃんは――私が必ず支えるから。
 進んで。行って。
「行ってらっしゃいませ。どうか私たちに見せてください、新しい貴女という物語を」
「頑張って。多くの人が『聖騎士サクラ』を待っている」
 リンディスが渡すは一つの頁。『サクラ』とだけ表題の掛かれた白紙の頁だ。
 それはこれより先の未来を指し示すモノ。貴女がどうか、切り開いてと。
 言えばマルクも激励す。治癒を施し、聖騎士の名を冠した――彼女をと。

「みんな――みんな、本当にありがとう」

 されば階段を駆け上がる。後ろを振り返らずに、ただ前を。
 瞬間。眼前に立ち塞がるは最後の砦。豪傑たる英霊の一人。
 大剣構えていざや死合わん。名乗れ小娘、臆さぬならば。
「私は――」
 一息。
「私の名は、サクラ・ロウライト! この試練乗り越えるべく……参りますッ!」
 己が名を高らかに――激突した。


 振るう斬撃幾末も。この斬り合いは夢幻。今日を超えれば露と消える英霊達との邂逅。
 それでもこの瞬間は確かなのだ。静寂の中に響く金属音が圧を帯びる。
 神速の居合。氷の刀技。
 繰り出す二閃は防がれる。対応が早い――先程までの英霊よりも一回りも二回りも上の証。
「ッ――!」
 英霊の一撃がサクラへと。向こうがこちらの動きを見切り始めている。
 だけど、それでも絶対に膝をつくものか!
「ま、だまだぁ!」
 天義を出て沢山の人と出会って、沢山の人と戦った。
 過程において猛る気持ちが溢れ出す事もあった――その度に思ったモノだ。

 こんな不正義を身に宿しておいて、騎士を目指しても良いのか?

 全てに目を背け自由気ままに生きるのも悪くないのでは?
 迷いがあった。魂に根付いた天性の闘争心は矯正できるようなモノではない。
 きっと『コレ』は私にこれからもあって、これからも顔を出すのだろう。
『――――』
 英霊が斬撃の速度を上げる。
 幾つもの戦いを潜り抜けて来たサクラでさえ、防御しきれぬ程の――速度を。


「サクラさん……!」
 祭壇崖下。英霊達を押し止めるクラリーチェの視線は一瞬、階段の方へ。
 負けないでください、と口に力を。言葉にはせぬが感情を込めて。
 これは、この瞬間すら試練なのだ。例えば宣誓中に――あるいは戦闘中に――私達の誰かが倒れた時に、どうするのか。中断するか、貫くか……
 ソレも見られるのだろうと彼女は思う。
 見られるのは『心の在り方』なのだから。
「英霊よ。この地の試練を担う者達よ――
 お前たちは『供』の力も視るのだろう? ならばこちらから目を外してもらっては困るな!」
 だが。彼女自身の万全を紡ぐ為にもフローリカは薙ぐ。
 得物を旋回させて纏めて叩く。サクラから狙いを逸らし、こちらにだけ集中させるのだ。
 さればそこへリースリットの魔術も飛ぶ。雷撃が英霊を襲えば、その身を焦がして。
「――ネメシスの英霊。国に、神に殉じた過去の騎士達、ですか」
 そして守護樹……昇格の試練、宣誓の儀式……
「彼らは皆、この守護樹に誓いを認められ騎士となった方々なのですね」
 そして死しても次代の騎士を見守る為、守護樹の下に集うのだろう。
 ……先の『決戦』の後、フェネスト六世は新しい時代のネメシスの在り方を示したという。つまり彼女が――サクラさんが示すものは彼女の誓いであると同時に新時代のネメシスの正義の一つという事になるのかもしれない。
「貴女は……守護樹に、天義の歴史たる彼らに何を示すのですか」
 恥じない何かを持っているのでしょう。
 ならばどうかそれをご存分に――守護樹へ、この国へ。
「――勝てよサクラ」
 それでも。何が起ころうともう信じるだけだとベネディクトは紡ぐ。
 我々に出来る事はもう、下の英霊達を進ませない事のみ。
 だから、見守る。
 サクラの選択を。彼女の在り方を。
「……ッ!」
 彼女が、サクラちゃんは必ず勝って戻って来る。そうスティアは信じているけれど。
 傷つきながら。それでも前へと進み戦う姿を見ると不安になってしまう。
 サクラちゃんは、すぐ無茶をするから。
「……サクラちゃんの邪魔はさせないよ! ここを通りたければ――ッ」
 私を倒してからにしてと、スティアは敵を一喝。
 ハラハラして泣きそうになる。だから、ぐっと我慢して自らの役目を果たすのだ。
 無事に戻ってきますようにと、祈りを込めて。


「でも……!」
 それでも、と。階段上での戦いで一歩も退かずサクラは紡ぐ。
 不正義のある身の上なれど。
 沢山の友達に恵まれました。
 敵にすら、きっと恵まれていたのでしょう。
 数多の出会いを得て。数多の経験をし、辿り着いたのです。
「私は……旅路の果てにやっとこの不正義を受け入れ、乗り越え。
 ――正義を為しても良いのだと信じる事が出来ました」
 英霊が大剣を振るう。その威力は隔絶。受ければ重大な傷は免れまい。
 故に彼女はより前へ。より深く一歩踏み込むのだ。
 これまでに培ってきた。

 闘争の極意によって。

 見極める。刹那の『生』を。死の境界の僅かな一線を穿つことが、勝利へと繋がるのであれば。
「これが……私の全てです!」
 全てを使おう。
 不正義だと思っていたこの心と共に在るのだ。
 共に在り、その上で己は己の正義を貫いていく。

 私は私を否定しない。

 不正義を受け入れ、生きていく。
「だから……!」
 己が真を謳い高らかに。
「ありがとう……ございました……っ!」
 割断する。
 英霊は先程までの攻撃に『慣れさせられた』のだ。己を露わにした真なる彼女の一撃は先程までの全ての技を凌駕し、まるで新生したかの如く。
 英霊は一切の反応がそれに間に合わず――
『――――』
 光が満ちる。騎士の鎧がひび割れる。
 それは先達を超えた証。
 未来を背負う者が過去を乗り越えた証明。

 ――では。

『何に捧ぐ』
 その力を。我々を超えて先に進む、新たな者よ。
 力だけでこの国の騎士は成せない。
 だから。
『答えよ』
 唯一無二の信念を。
「――決まっています」
 正義を為すには勇気が必要です。
 正義を為しても報われると限らず、悪意を向けられる事すらあります。
「だから私は人々に……『正義を為しても良いという勇気』を与えたい」
 私が。
 私が出会った全ての人達が私にそうしてくれたように。
 正しくありたいと願う人々の導でありたいと願います。
 それが。私が歩んできた道で得た――私の答え。

「我が正義を、全ての人々の『未来』へ捧げます」

 どうか明日を。より良き未来を。
 願い、捧ぐのだ。
 嘘偽り無き彼女の心。何もかもが清々しく明るく澄んだ気に満ちている……
 あぁ。
 ただ一筋の清浄明潔が確かに此処にあったのだ。


 おお良かったな――良かったな――
 新たな騎士に祝福あれ――祝福あれ――

 祭壇崖下。英霊達が上を仰いでいる。
 敬礼する者。頭の上で拍手する者。
 たった数秒の後に消えていく。先達の――夢幻達。
「――サクラちゃん!」
 であれば真っ先に駆け寄ったのはスティアだ。
 階段から降りてくるサクラに抱きつくように。正面から。
 もはや涙も堪えられず。
「サクラちゃん、おめでとう、おめでとう……ッ! でも、心配したんだよ……!」
「うん、うん――ごめんね……ありがとう」
 優しく抱擁し、互いの無事を確かめる。
 温かな体温がそこにある。彼女は無事だ、無事なんだ――
「おめでとう……ああ、くそ。こういう時なんといえばいいか困るな」
「おめでとうございますサクラさん。試練を成し遂げられたんですね」
「ああ全くだ。おめでとう、サクラ。君もこれで今日から聖騎士か……」
 次いでフローリカもリースリットもベネディクトも、賛辞を述べて語り掛ける。
 試練は成した。守護樹は反応を示した。ああ成程、これが……
「――驚いたねこれは。樹の反応と言うのがこれほどとは……」
「ええ。守護樹自身も盛大に……お祝いしてくれているのかもしれませんね。
 新しい『騎士』が誕生したことを。そして再び祈りましょう」
 マルクが見るのは守護樹そのもの。クラリーチェも同様に見上げて。
 そこに在りしは枯れた樹に非ず。そこに在りしは壮大なる一夜の奇跡。

 守護樹の魔力が満ちて作られし――桜色の大樹であった。

 夜であるに関わらず輝いている。彼女を真に祝福するかの様に。
 花びらが舞い降り、その後ろ髪を撫ぜる様に。
「ふふ――成程。やはり物語を見守ってきた大樹はちがいますね……」
 故に。その様子を見ながらリンディスはそっと、本へ一筋書き記す。
 この物語を。未来を予感させる黎明の記録を記すのだ。そう――

 新しい騎士、サクラの物語の始まりを。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 新たなる天義の騎士に、祝福を。
 貴女のこれからに幸あらんことを……

 どうもありがとうございました――

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