シナリオ詳細
窃盗品を処分せよ
オープニング
●孫子の兵法
『彼を知り己を知れば百戦殆うからず』
とある世界のいにしえの武将が残した言葉だ。
敵の事を熟知し、味方の事も熟知しておけばどんな戦いでもほとんど負ける事はないだろうという教えである。
『彼を知らずして己を知れば、一勝一負す』
敵を知らないなら戦いに勝つ事もあれば負ける事もあるだろう。だからこそボク達みたいな情報屋はあらゆる手段で敵の戦力を探っておく。そこまではいつもの事だ。
『彼を知らず己を知らざれば、戦う毎に必ず殆し』
だがしかし、イレギュラーズ様の実情を熟知しておかなければボク達は毎回苦しい戦いを強いられるだろう。これは一見簡単なようで、とても難しい。
イレギュラーズ様に限らず、混沌世界の住民が使う武器は多彩だ。剣や弓などの基本的な物から、魔法の触媒となる杖や魔道書、近代的な銃や爆発物、挙げ句の果てにレーザーブレードや光線銃。
認知しているだけでもこれ以上あるのに、未知の物さえ含めればまだまだあるに違いない。
………………だからこそ、まずボクは初心に立ち返ってギルドの売店や闇市から装備品を買えるだけ買った。夏も近いのに懐が寒くなったけど、元々覚悟はしていたから問題はそこじゃない。
買い漁った品々の中に色々な人の下着――パンツが山ほど紛れ込んでいた事だ。
名も知れぬ乙女のパンツから始まり、誰かのくまさんパンツだとか、ショウさんの下着だとか。それ以外にも色々。(なんだって乙女のパンツがギルドで売ってるんだ)
ソッチ方面で人気が高い人のは高値で売れるとはいえ、売っている所を見られれば有無を言わさず引っぱたかれるだろう。
……それだけなら、まだ良い。ギルドローレットは結束が強く、情報の伝達が早い組織だ。先の言葉を借りれば「彼を知り」というヤツで、窃盗犯に対して自衛する為にもその情報を伝え合うに違いない。なれば引っぱたかれた後、ボクの処遇はどうなるか? 決まっている。
『下着泥棒』という不名誉な称号を背負わねばならない。
……何がなんでもそんな恥辱を受け入れるわけにはいかない。その点において、ボクは必死だ。何が一番の問題って、綺麗なお姉さんや可愛い女の子達に嫌われる。
『彼を知り己を知れば百戦殆うからず』
いにしえの武将の言葉を復唱。……なんだ、こういうのを頼むのにウッテツケな人達がいるじゃないか。
ボクは手帳を取り出し、この件について頼れそうなイレギュラーズ様の住所を探し始めた。
●大警戒網
『下着の売買にはんたーい!』
『ぱんつを盗む闇市商人に天罰をー!』
ローレットの一部の女性達が、ギルドの前でそのような取り締まりを行っていた。パンツの売買の規制化だとか自粛要請だとか。内容はそんな感じだ。
実際問題、闇市において入手経路不明でギルド員の下着が出回っているのだ。女性ギルド員や下着の所有者本人にとってはあまり気の良い話ではない。
だからその手の被害で鬱憤が溜まった時に、一部の者がこうやった取り締まりを実行をする。「ローレットギルドの女性は下着を売って日銭を稼ぐような人間ではない」と主張も兼ねて。
なんとも言い難い話ではあるが、彼女達が取り締まりの前後は窃盗の被害が多少減ってるのも事実だった。そもそも、下着を窃盗する方が明らかに悪いのだが……。
……『狗刃』エディ・ワイルダー(p3n000008)は鍵を掛けた個室に引きこもって頭を抱えるように耳を塞いでいた。目の前の大型テーブルには、山と形容出来るほどの大量のパンツが積み重なっている。同席しているイレギュラーズも、個人個人反応は違えどこれをどう処理しようか考えている様子だ。
彼らが盗んで来たわけではない。闇市で掴まされたわけでもない。各々に対して個人宛に送りつけられたのだ。
『どうにかこれらを処分して下さい。依頼料は手紙に同封しておきます』
エディは死人のような目で、匿名の人物から送りつけられた手紙を読み返した。
「…………どうする? ……俺はまた下着泥棒呼ばわりなんてのはごめんだぞ……」
いつもは毅然としているエディだが、こういった時に限って何処ぞのマスコットヨロシクしわしわ顔になっているのは見るにたえなかった。
- 窃盗品を処分せよ完了
- GM名稗田 ケロ子
- 種別通常
- 難易度EASY
- 冒険終了日時2020年06月03日 22時10分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●
「エディ、言い訳しなくても良いんですのよ。パンツを集めるのは、恥ずかしくありませんわ」
「にゃはは、エディさんもしっかり男の子なんやねえ、まるでワンコが靴下やスリッパ隠すみたいに!」
『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)と『兎身創痍』ブーケ ガルニ(p3p002361)が生暖かく言った。
エディは心外だといわんばかりに二人を睨んだ。泣きそうな目をしていたのは気のせいだろう。年長者が「やれやれ」と頭を掻きながら間に割って入った。
「なんで俺ん所に下着の山が送られてきたのか理解したくないが……どうにかしなきゃいけないわけだよな?」
そう言ってから目の前の下着の山を見て、ため息をつく『ファニーファミリー』ウェール=ナイトボート(p3p000561)。
いくら手際が良くとも皆で分担せねば処理しきれないのは明白。ここで茶化し合ってるわけにもいかない。
「なんという、悲劇でしょうか……ローレットが、誰かを、不幸にする……そんなことは、あっては、いけませんの」
「コレをどうするかは、本来の所有者が決める事。なるべく多く、本来の所有者の元へ届けなければ」
所有者達の事を考える『半透明の人魚』ノリア・ソーリア(p3p000062)と『暴風バーテンダー』モカ・ビアンキーニ(p3p007999)。
何人かは返却を検討しながら真面目に思考を巡らせていた。そんな彼らを物珍しそうに眺めている『観光客』アト・サイン(p3p001394)。
「みんな真面目だねぇ。素直に闇市で売りさばいちゃえばいいのに」
平時ならそれが一番手っ取り早いだろう。だがモカが率直に反論を述べた。
「真面目? 楽な方に流されたくないだけだよ。それに、変な評判が付くのは嫌だろう?」
「いや、僕は評判的に盗品の女性下着を売りさばいてても今更感が……」
『盗人が更衣室漁ってました!』
『捕まえろ! 生かして帰すなッ!!』
『ちょ、ま、ぎにゃああああ!!』
……更衣室の方からヒステリックな叫び声やら闇市商人の断末魔やらが聞こえて来た。
下手を打てば評判に傷がつくだけでは到底済まないと再認識させられる
考えてみれば、今日は抗議運動という事でギルドに警戒網が築かれている。大量の下着を抱えていざ部屋を出てみれば、持ち物検査なんて最悪のケースも有り得た。どうしたものかと再び悩んでいると
「私にいい考えがあります」
合成音声が流れた。発言者は頭部が機械装置の新人イレギュラーズ『匣の屍人』ボディ・ダクレ(p3p008384)だ。
新たなイレギュラーズが仕事に向き合う姿を見たエディは少し嬉しそうに続きの言葉を促した。
…………。
「こんにちは」
更衣室の前で女性二人に行儀良く挨拶をするボディ。女性はボディの体つきを見てから、やんわりと諭した。
「新人さんかしら? 悪いけど、こちらは女性用の更衣室になっているの。だからあっちの男性用の……」
ボディはおもむろに懐から下着を取り出すと、それを自分の頭部に被せた。
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ボディの相手をしていた女性達はその行動に呆気に取られる。数秒経ってようやく正気を取り戻して「捕まえろ!!」と金切り声で叫ぶ。
即座に踵を返して走り出すボディ・ダクレ。彼は機械装置から放たれる発光を目潰しじみた使い方をしながら走り去る。
「上手くやったみたいだな」
ボディが女性達と逃走劇を繰り広げている間、個室から抜け出すイレギュラーズ達。
エディは半ば放心気味にボディの提案した作戦を思い返す。
『人は外見が異常であるほどに目を惹かれますので、これが最適です』
わざとパンツを被る変態を装って囮を買ってくれたわけである。エディは生気を失った目で、ビカビカと目に悪い色で光り輝く逃走劇を眺めていた。
●
そんな一難を経て依頼に着手した彼らがどうしたかといえば。
「くるくる〜っと背面側の布を中に巻き込んで……裏返して形を整えたら、おリボンみたいで可愛いやろ! ゴムの所を切り抜けばマルチバンドになるし、余った布も地味な色やさかい、靴磨きや武器の手入れに使うウエスとして使えば……」
ブーケはギルドの隅っこで手芸を始めた。手芸自体は特別珍しい行為ではなかったのだが……。
「うわ、高そうな下着やねぇ、こんなところになんで穴が……?」
問題はリサイクル元の品々が他人のパンツであるという事であろうか。作り替えて誤魔化してしまおうという大胆な作戦である。大量の下着を作り替えるのは骨が折れた。
「ふぅ、まだぎょうさんある。量が量やさかい……」
「兄ちゃん何やってんのー」
ブーケが下着の山を眺めていると、ギルド員の年少組が近寄って来た。傍らにある下着の山にも気付いているようだ。
「……ん? あぁ、エディさんにリサイクル頼まれてねぇ。まったく、こんなご時世に酷なお人や!」
咄嗟にそんな事を嘯いた。本人が聞いていれば抗議されていただろうが。
「盗人呼ばわりされたくないから、告発は堪忍ねえ」
人差し指を自分の唇にひっつけて、そんな事を言った。そんな仕草を見た年少組の少女が胸を張る。
「……そーいうことならわたしが手伝ってあげる!」
どういうわけか、ブーケに良い所を見せたいのだろう。釣られて、他の年少組も手芸に興味を示す。
「あんがとねぇ、それじゃあ。こっちの派手じゃない方は任せてええ?」
ブーケはエグい形状の下着を隠しながらにこやかにそれを受け入れて、彼らの手を借りる事にした。
「なぜここに呼ばれたかわかりますね?」
「……」
ここはギルドの待合室。ブーケはコワイ顔した女性陣に囲まれて、針の筵の気分だった。
手伝ってくれた年少組の一人が「上手く出来たから姉ちゃんに見せてくる!」とか言ってたから嫌な予感はした。ブーケはぎこちない笑みを浮かべ、先に捕まったのであろう他のイレギュラーズの様子を窺う。
「頭に乗るなよ、小娘共!!! 僕はお前たちのパンツなんかに一切の興味なんてない! このパンツは……レオンのパンツを手に入れるための踏み台にしか過ぎないんだ、そこんとこよく覚っ」
アトが何やら豪語しようとして槍や魔法を浴びせられて死にかけていた。いつもの光景だ。
「これは、わたしたちのものではありませんの……」
ノリアの方は女性陣に対して弁明を始めている。彼女自身は女性であるから、いくばくか弁明の余地をくれた。
「ではどなたの物だと仰るのですか」
ノリアは捕まる以前から抱えていた立て看板を掲げて、持ち主を主張してみせた。
『ギルオス大明神への捧げ物』
「ここにあるぱんつは全て、盗まれたぱんつではなく、ギルオスさんの私物ですの……ひとたび、神に捧げられたものを、やっぱり返して、などという罰当たり、まさか、なさる方がいらっしゃるとは、思いませんの」
言葉そのまま受け取ってその情報屋を罵る者もいれば、事情を知っている者は何も言わず額を覆っている。
「ギルオス大明神に、ぱんつを捧げると、運気が、向上すると言われていますの。ご婦人でしたら、肌に少し、つやが出るとか、旦那様が、素敵な贈り物をしてくださるとか……」
そんな証言に一部の者が関心を示したが、男性情報屋の供物にするのはどうかと考え思い直した。
まとめ役の女性はノリアの弁明を聞き終えて、同情や怒りが入り交じったため息をついた。
「まぁ、情報屋さんに直接問いただすと致しましょう」
胡散臭いゲンカツギはともかくとして、ノリアとブーケの抱えていた下着は他人の所有物だという主張は通ったのか。最終的にはそのように許してくれた。
ブーケは難を逃れてほっと一息。
「いやぁ、話がわかるお人で助かったわ。冤罪なんて盗人の思うつぼや」
女性達はその意見に同意しながら、ブーケに一つ問いただした。
「そういえば、わたしの下着知らない? あれブランド物ですごく高かったのに」
……いくらかリサイクルした品々を思い出して、ブーケは笑顔のまま青ざめていた。
●
『ぱんつもぐもぐ』茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)はぱんつもぐもぐしていた。
「駆け付ける事のできなかったリュグナーくんの分まで……ぐすっ、見ていてね。私、頑張るからっ」
戦友(?)に思いを馳せながら、手持ちの下着を口に含んだり実際穿いてみたりしている。彼女自身はこれでも大真面目である。
「この食感……きっと100Gくらいの代物ね。ロンダリング対象!」
「すごいな、テイスティングで値段が分かるなんて。識別の魔法いらずだよ」
「ふっ……博識なわたしはぱんつ称号数トップに輝くため、そしてぱんつ依頼MVPは譲れないのよ!」
下着の処分方法を売却方針に固めている一行は、下着(とアト)を抱えて庭に逃げ込んでそんな事を企てていた。秋奈は次々に持ち主を判別して250G未満は嬉々として穿いている。穿いてしまえば価値を上書き出来る、との動機らしい。
「おっと、そのくまさんパンツは300Gで売れるから穿かないでくれ」
「アト、こういうのは所有者本人が吹っ掛ければもっともっと値段は上がるのよ……ふふふっ」
「まかり間違えても乙女のパンツでやらないでくれよ。あれは5000Gの代物だ」
なんか酷い会話だが、金勘定において下着の売り値は無視出来ない問題でもある。
「折角処分するのであれば少しでも有意義な形で、ですわ!」
主に酒代の為、そんなやり取りにも積極的に組みするヴァレーリヤ。スコップ片手に見張りをやっている合間、秋奈やアトが着々と段取りを進めている。
「いずれ出来るはギルオス師のホリス邸にも劣らぬぱんつ御殿。いずれは手に入れるだろうけど額縁に飾ったリズのぱんつを眺めながら、令嬢のぱんつをテイスティング!」
「自殺行為は一人でやってくれ。とはいえ鑑定してみたが闇価格だと300Gがせいぜいのが多いなあ。数があるとはいえ乙女のパンツレベルのものは中々」
アトは何か思いついた風に、ヴァレーリヤの方をちらりと見た。
「ヴァレーリヤ、君もロンダリングに加わってくれ! 君のパンツなら600Gで売れ……」
アトの重心が一気に崩れた。何事かと目を見張れば、足下の大地がヴァレーリヤのスコップで抉られていた。
「おほほほ、面白いことを言いますのねアト。パンツを? 私が穿いて脱いでロンダリングして?」
「やめろ、そのシャベルをしまえ! 僕をここで始末したら絶対足がつくぞ!」
「……大丈夫ですわ。下着を穿かせようとしてきたとありのままに説明すればいいのですかラ……」
「ぐぎゃーーー!?」
秋奈はアトの受難を「いつもの事」と脇目もふれず、テイスティングに集中した。
「まだまだ私はやれるぜEXF。こんな美しい女性が存在する世界!」
口ずさみながら、秋奈は識別のほとんどを終えた。ヴァレーリヤも一山いくらか試算して、いくら酒を飲めるか想像した。思わず口の端が上がる。
そんなさなか、庭へと集まってくる憲兵やギルド員。
「ひとまず外に飲み物でも買いに……えっ、どうしましたの皆さん?」
聞けば、悲鳴が聞こえたから殺人事件か何かかという事で通報があったという。ヴァレーリヤはため息をついて、アトを埋めた地点を掘り返す。中身を見せれば事情も察してもらえるだろう。
しかし掘り返した場所から出て来たのは、一山いくらの下着の数々。
「……ハァーー!!?? 知りませんわよこんなもの!?」
実際ヴァレーリヤには身に覚えがなかった。アトや自分達の手持ち全て合わせてもそれより数が多いのだ。
「すんすん、私はヴァレーリヤさんに脅されて下着の隠匿を手伝わされたのです。アトさんは拒否したら撲殺されて……」
「えっ、ちょっ、冤罪、冤罪でございますわーー!!!」
自分も巻き込まれかねないとみて即刻仲間を売り払う秋奈。必死に否定するヴァレーリヤ。喧嘩になりそうだったので、彼女達の保護も兼ねて憲兵に身柄を拘束されたのであった。
「もっと時間を稼ぐべきだったでしょうか」
「いやぁ、悪巧みは危険がつきものだよ。彼女が犠牲になって一件落着さ」
「そのつもりはなかったのですが、偶然とは恐ろしいものです」
下着を処理し終えたボディとアトはヴァレーリヤが連行される姿を見守っていた。
彼らの処分方法といえば至極単純な物だった。庭でひっそり穴に埋める。仲間に押しつける。もちろん露見したら弁明の余地がないという危険性はあったが、そこは二人とも逃げ足を使うなり道具を使うなりで上手くやれた。
「いやぁ、それにしても効果的だね。魅了の目薬。彼女があぁも墓穴掘ってくれるなんて」
……ヴァレーリヤの鞄に押しつけた下着は没収されるだろうが、それは致し方無いかとしたり顔のアトであった。
●
「……はい、住所は知っています。体毛をもふもふさせてくれるんですね? 喜んデ……」
催眠じみた手段を使う者は他にもいた。ウェールだ。
個人情報に詳しい情報屋をひっ捕まえて、催眠を掛けて聞き出した。対価としてエディをモフモフさせる権利を与えたが、正気に戻れば忘れるだろう。
「ただでさえ同性愛者だの何だの茶化されるんだ。誤解を重ねるのはごめんだぞ」
「分かってる。俺だってそういう趣味は無い」
男モノの下着を指で摘まみながら、渋い顔をする獣人二人。そうして所有者と対面する。
「一つ話をいいか。抗議運動についてだが……」
エディはウェールに密かに下着を託してから、打ち合わせ通りに所有者の注意を引いた。ウェールはその合間、スキルを使って壁をすり抜け律儀に収納棚へ返却していく。一つ二つは「泥棒!」と叫ばれかけたりもしたが……。
「いいか、疲れて白昼夢を見てるからこの夢の中で寝て現実へ戻るんだ」
「……うん、ブルーブラッドのおじさんが同性の下着盗むわけないネ……」
そんな風に催眠をかけて誤魔化していた。
「さて、ようやく返し終わったか」
ウェールは手持ちの下着を返却しきり一息をつく。「エディさんはどうしてるだろう」と様子を見に帰ってみると。
「闇市で下着を売買してるって本当ですか! 見たんですよ! 大量の下着を抱えてる姿!」
「……違う、ごか――いや、引き当てた事はあるが――」
あぁ、うん。物の見事にデモ隊に囲まれてる。そりゃ下着盗まれた人を尋ね回っていれば怪しまれるよな。
ウェールは予め考えていた対処法を実行しようと、エディの下半身をまさぐろうとした。
「何をしている」
反射的にエディがウェールの腕をギリギリと掴む。スキルのあれこれで下着をスリ取って被害者側を演じさせようとしたが、エディに打ち合わせてなかったせいか拒まれた。提案しても絶対断ってただろうが。
「離せ、俺は貴方の下着が欲しいんだ!!!」
「血迷ったかッ!!? 周囲に見られたら茶化されるから嫌だとさっき言っただろう!!」
両腕を掴み合った取っ組み合いになる。お互い大真面目にそんな事を叫び合った。
女性陣はそんな必死な形相や言葉をあれやこれや想像で補完したのか、頬を赤らめたり微笑んだりしている。
「もういいわ、お二人とも」
女性陣にそう諭されて、ほっと安堵の表情を浮かべる二人。しかし次の一言でその表情はピシリと凍った。
「エディさんは盗まれたい趣味の人なのよね」
「「……え?」」
この件を弁明しようにも、二人掛かりで丸三日の時間が掛かってしまったという。
さて、最後はモカだ。
彼女はウェールと同じ返却作戦だったが、その方法は徹底していた。
密偵さながらの諜報手段や隠密能力。それらを併せ持つ彼女を見つけるのは熟練傭兵でなければ至難の業だ。
「なんか昔を思い出すな……と言ってもほんの数ヶ月前だが」
そんなモカであってもヒヤリとさせる場面がいくつかあったが、万が一見つかっても女性同士とあらば過剰に警戒は抱かれない。
「……この服にも気配遮断強化の効果を入れて、新しく販売したいなぁ」
そんな考え事をしながら返却は容易く進行し、すぐに鞄の中が軽くなった。
「次は男性陣の返却か。出来れば穏便に――」
ひとけのない路地裏を通り抜けていく際、虚ろな目の少年がすれ違ったかと思えば脈絡なくガバリと羽交い締めにされた。
盗品を持っているのに気付かれたか、あるいは強引な下着泥棒か。場所が場所だから後者だろう。
「エディさーん! モフモフさせてくださーイ!」
脈絡のなさもあってそう判断したモカは、羽交い締めしてきた相手の股ぐらをカカトで蹴り上げる。もんどりを打ってすぐさま逃げようとした少年だが、逃がす道理もない。
「女性に襲い掛かるだけでも重罪だ。観念しろ」
少年を手足を縛り口を猿ぐつわで塞ぎ、ギルドの方へと連れて行く。しばらく吊しておけば懲りるだろう。
『彼を知らず己を知らざれば、戦う毎に必ず殆し』
簀巻きにされた少年――龍之介はそんな言葉が思い浮かべる。味方だと思っていたイレギュラーズは敵だった。催眠術だとか蹴戦だとか仕掛けられた。
「龍之介ェェー!! これ解いてェェー!」
ヴァレーリヤの方は結果としてアト達に被せられた疑惑を弁明する事は出来ず、龍之介と一緒に簀巻きにされ『こいつは下着を盗もうとした泥棒です』という紙を貼り付けられていた。
やっぱり下着の取引は撲滅すべきではなかろうか。
龍之介とヴァレーリヤは心の底からそんな事を思い馳せた。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
下着に関わった者はみんな不幸になるんだ。ケロ子知ってるんだ。
称号付与:
『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ⇒『泥棒司祭』
GMコメント
稗田ケロ子です。下着関連の依頼ですので「絶対そういう不名誉な疑いは掛けられたくない」という方がいらっしゃいましたら後述のNPCに押しつけていいです。
●『成功条件』
・大量の下着を全部処理するか、本人の手元に返す。
●環境情報
幻想地域、ギルドローレット。
下着窃盗の被害に悩んでいる女性陣による警戒網が更衣室を中心に敷かれています。というか、人目に付く場所は大体彼女らに見聞きされます。ひとけの無い場所でも目立つ事したら目撃されます。
下着を持っている場面を知られると、もれなく「下着泥棒」とかそれに類する呼ばれ方をされます。もっと正確に記述すると一番悪目立ちした人は何かしら不名誉な称号が与えられます。
●戦略
今回はアドベンチャーパートがほとんどを占めます。
下着を処分する為のやり方は問われません。商売で売り払うもよし、律儀に所有者へ返すもよし。燃やして神さまに捧げるもよし。イレギュラーズとエディの全員が何らかの手段で処理してどうにか出来る量のパンツがあります。
正道を征き紳士的に務める為、逆に悪目立ちする為にはそれぞれプレイングと非戦スキルを上手くやる必要があるでしょう。
●NPC
エディ・ワイルダー:
大真面目に下着の処分を共同で行ってくれます。ただし、売却などをやらせると罪悪感のせいで必ずヘマします。
彼も処分が上手く行くかどうかはイレギュラーズとの連携次第。
なお彼も不名誉対象の例外ではないのでヘマさせすぎると……。
『若き情報屋』龍之介(p3n000020):
「ぼくぱんつとかなんのことかわかんない」
絶対不名誉な事言われたくない人用の生け贄枠。下着押しつけると勝手に自爆する。
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