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シナリオ詳細

<鎖海に刻むヒストリア>空が三割、七割はイカの脚だ!

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「アルバニアを追い詰める激しい追撃、ずーっとがっつんがっつん続いてたんだよ」
『そこにいる』アラギタ メクレオ(p3n000084)は、ボリボリ焼き菓子をかみ砕いた。
「状況はきついよ? 海を航行するだけでやばい。たまたま通り過ぎる海生生物がやばい。比べたら、今までの航路がベタ凪ぎな気がしてくる地獄だけど――」
 背に腹は代えられない。と、メクレオは言う。
「死兆に侵された仲間達を救う為にはそれしかないと思えば、やる気は出さざるを得ないよね」
 状況はボトムアップからトップダウンに転じるわけよ。と、メクレオはバーチャルろくろをこねだした。
「昨日と敵は今日の友。海洋王国女王イザベラとソルベは、かつての敵国ゼシュテルより大援軍を引き出したぞー。何をどうしてこうなったか一介の庶民にはわかりません。高度な政治的取引があったと思ってよ」
 ま、とにかく。と、メクレオは茶をすすった。
「ゼシュテル鉄艦隊と合流を果たした海洋王国・ローレット連合軍は大艦隊を結成し、乾坤一擲の大勝負に出る」
 動かすだけで膨大な色々が飛んでいく。その後を考えない最後の作戦である。
「おんなじことはもうできない。お財布的にも、人材的にも、時期的にも」
 今を逃したらガチでやばい。
「この一回を持ちて『絶望の青』を攻略する――アルバニアを引きずり出すという鋼の意志をひしひし感じる。みんなも覚悟決めてね」


「えーと。狂王種の掃討をお願いします。これが成功すると船団の侵攻がスムーズになり損耗率が減ります」
 露払いは大事な仕事だ。
「でっかいイカ。みんなが乗ってく予定の船よりでかい。体が」
 いやな予感がする。
「脚は体の二倍以上ある。というか、視認できるのは足だけだな。甲板をこう十本の脚が包んでドーム状に」
テーブルの上に置かれた茶碗を包み込むメクレオの十本の指。茶碗が船。指が足と申すか。本体は海の中にいっぱなしだというのに。ハエトリソウにパックンチョされたハエのような気持。
 それは一隻の船で立ち向かっていいものなのか。
「船は二隻だし。海洋王国軍も鉄帝国も船だしてるし」
 ちなみに、乗っていくのは海洋王国軍の方である。
「ま、ぶっちゃけ、甲板からどっち向いて撃っても当たる。当たらないということはない。巻き添えがいないことを確認しつつやれば、大技ぶっ放していい状態だし。派手にやってきてよ。船の方も砲撃してくれるし、鉄帝国も同じ目標を攻撃してくれるよ」
つまり、視界全てがイカってことだな? それはあれか。イカの脚にグルグル巻きにされてるってことか。
「――足が十本なのは間違いないから! 全部切っちゃえばそのまま深海に引きずり込まれるってことはないから! とりあえず、脚を切ってしまえば、イカは深海に戻る。少なくとも脚が再生する間でのしばらくの間は。その間に、戦況はきっと決しているから問題ない!」
 よし、わかった。ヤるのは脚だけだな!

GMコメント

 田奈です。
 イカの脚。釈迦の手のひらの上ならぬイカの脚にくるまれております。急がないと海の底にご案内ですよ。

*イカの脚が十本。
 本体は海の中です。見入って脚につかまることのないように。
 太さは直径六メートル。水面から出る長さはマストを超えてなお余りあります。飛行しているモノをとらえることもできます。
 足は甲板に叩きつけてくる列攻撃、薙ぎ払う範囲攻撃、一人を締めあげる単体攻撃を行います。一つのターンにする攻撃は3回です。全ての脚が攻撃に一度に参加するわけではありません。どれが攻撃してくるかはランダムです。
 大きさが大きさですので、回避しないものと処理します。
 海中から船をホールドして引きずり込もうとしています。左右五本ずつ配置されています。
 壊されない限り、脚に向けての海洋王国船の砲撃は可能です。鉄帝国も自分の船がある側の脚に砲撃してくれます。皮肉な事にイカの脚が全部もらってくれます。
 甲板には、海洋王国軍の精鋭もいて一緒に戦ってくれます。

支援してくれる各軍は、作戦を伝えておけばそれに沿って行動してくれますので、指示したいことはプレイングに。

●重要な備考
<鎖海に刻むヒストリア>ではイレギュラーズが『廃滅病』に罹患する場合があります。
『廃滅病』を発症した場合、キャラクターが『死兆』状態となる場合がありますのでご注意下さい。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

  • <鎖海に刻むヒストリア>空が三割、七割はイカの脚だ!完了
  • GM名田奈アガサ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年05月23日 22時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

イリス・アトラクトス(p3p000883)
光鱗の姫
レスト・リゾート(p3p003959)
にゃんこツアーコンダクター
矢都花 リリー(p3p006541)
ゴールデンラバール
ワモン・C・デルモンテ(p3p007195)
生イカが好き
ルカ・ガンビーノ(p3p007268)
運命砕き
太井 数子(p3p007907)
不撓の刃
リュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)
黒狼の従者
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
戦輝刃

リプレイ


「…………」
『帰って寝たい』矢都花 リリー(p3p006541)は、ねじあがるようにして大量の水しぶきと共に海面から生えたそれを見上げた。
 空の青が透けない。空気が動かない。先ほどまで吹き通っていた潮風は気配もない。船のマストは力なく垂れている。
「メンドいなぁ……これだからイカは困るよねぇ………」
 仲介屋に言われたときは話半分だったが、ほんとにこれ、イカの脚なんだ。深海をねぐらにしているリリーが言うんだから信憑性100%だ。
「うおー!すげーでけーイカだ! う、うまそう」
 『海のヒーロー』ワモン・C・デルモンテ(p3p007195)のキュートはお口から滴るよだれ。じゅるりとすすり上げている。そっか、やっぱりイカなんだ。
「あたいらの邪魔はするし………船壊そうとするし……」
「ハッ?! うっかり見とれてやられるとこだったぜ! 早く撃退しねーと海に引きずり込まれて逆に食われちまうよな!」
 ディープシーによる、イカはうまいが暴れる狂王種は非常に厄介という実感がこもった会話に、陸に生きるものは兜の緒を引き締めた。慣用句的意味合いで。
 やっぱり、船壊すのか。という、さざ波のような落胆が船のクルーの間で交わされる。いかん。現実から逃げてはならないが、状況を諦めてはいけない。
 ここを鼓舞してこそのイレギュラーズだ。
「それにしても巨大なイカですね……この間は巨大なクラーケンに遭遇にしましたが、それよりも更に大きい気がしますね」
『告死の従者』リュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)の視線は頭上高く。大きな花のつぼみの中にいるようだ。つぼみにしては、肉厚で生臭くまがまがしいが。
 全貌がつかめない。見えているのは足の先端。本体はいまだ海の中だ。
「なんか見せびらかしたいのか脚だけ出してるし……イカプラネタリウムとか水族館でもノーサンキューでしょ……」
 抑揚のない声が甲板の上を這う。お怒りじゃ。リリー様がお怒りじゃ。
「あら、何て大きなイカさんなのかしら~? まるで映画の中に入っちゃったみたいね~」
 その上をぶっこんで行く晴れやかな高音。家業が貿易だと、幻想種も映画という娯楽に触れるのだ。崩れないバベルは、いい感じに概念を変換してくれる。パニック映画の肝まで伝達できるかというのは割と限界に挑戦している気もするが。常に試され続ける世界の根幹。
「でも映画はハッピーエンドが一番! みんなも好きでしょ、そういうの~」
 映画のことはわからなくても、ハッピーエンドが最高なのはこの場に集まるモノの共通項だ。
「海ってなぁ、珍妙な怪物がいやがるなぁ!」
 焼け付く赤砂の中で育った『黒狼』ルカ・ガンビーノ(p3p007268)は、歯をむき出して笑った。
「それともここが絶望の青だからか?」
 標準サイズが分からない。異なる環境の中のただ中にいるのだ。ここでは、彼の常識は通じない。
「重要拠点だもの、巨大イカくらいは想定の範囲よ」
 海種の『光鱗の姫』イリス・アトラクトス(p3p000883)は、答えた。狂王種のイカはよく出る。逆にイカくらいは出ないと心配になる。イカを食うより大きいのが回遊しているようなものだからだ。
「なんだって構わねえ! 邪魔すんなら食い千切ってやるだけだ!」
「俺達にはまだこの先ですべき事がある、此処で海の底に沈められる訳には行かない」
『特異運命座標』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)は、生真面目に答えた。
「ベネディクト。お前の力見せて貰うぜ。こんな雑魚相手じゃあ物足りねえかも知れねえがな!」
「あれが雑魚か。全く頼もしい限りだ──ならば、ルカ。君の要望に応えよう」
「鉄帝の人にも良い所見せないとね」
 族長の娘であるイリスは、協力勢力の動向も気になる。できるだけ関係は良好を維持したい。そのためにはこちらが有能なのをアピールしなくてはならない。
 旅人なので、政治的な難しい話はちょっと分からない『ニューウェーブ』太井 数子(p3p007907)としては、きびきびと大砲の準備をしている精鋭軍人がいることが心強い。
 どちらにしても、目指すところは同じだ。
「一人も欠けることなく帰りましょうね! エイエイオー!!」
 かわいい女の子のエールは、クルーが陸に残してきた大事な人々を想起させた。ここで自分たちが引いたら、災いはいつか陸にも及ぶ。
「俺らに任せっぱなしじゃあお前らも立つ瀬がねぇだろ! せいぜい気合いれて戦えよなぁ!」
 群れを鼓舞する頭目の雄たけびは部隊が戦場になっても威力は衰えない。むしろ、死地では余計に効力を発揮する。
「いくぜぇ、戦闘開始だ、野郎共ォ!」


「さあさあ、どんどん大砲を撃って!」
 遠足ガイドさんであるレストは、状況を直感で読むのだ。
 至近から放たれる直撃弾は爆破の衝撃はあるが、効いているように見えない。
しかし、衝撃を吸収するため、脚に隙ができるのは確かだ。チラッチラッと隙間から空と海がのぞく。そこを両サイドの脚が巧みにガードする。そこから脱出を試みればたちまちつかまれて海面に叩きつけられるだろう。脱出は難しい。
「『光鱗のアトラクトス』の娘であるイリス・アトラクトスよ」
 イリスは、避ける様子もないイカの慢心に抜けこむことにした。
「その足一本づつ落としてく感じでどうかしら!?」
 音声は伝わらなくても、いやな感じは伝わるものだ。イリスめがけてイカの脚が振り落とされる。
 その軌道を読み、払いのけるモーションがしたたかイリスを十人束ねたより太いイカの脚に痛打を浸透させる。
 打ち下ろされる足の衝撃に、イリスは仲間との距離を意識した位置取りを心がけたのは間違いじゃなかったと自分の動きに確信を持った。
(出来るだけ使いたくないけど――齧りつきによるダメージ系BSで削っていく)
 できるだけ避けたいが、背に腹は代えられない。
(うーん、イカだけど、飲み込んだら廃滅病が又進行しそう)
 確実に近づいてくる死の匂い。いや、それも決戦後でアルバニアを倒せばチャラだ。そのための出陣だ。キリ。と、食いしばる歯を使う時は決してためらいはしない。
「大砲とか甲板の物とかが流れ弾で壊れにくくなったら、戦いやすくなるし大砲も使いやすくなるっしょ……?」
 狙って壊されたら別だけど、とばっちりは防げる保護結界。海洋王国のお兄さんたちの表情が明るくなった。
 すごく前向きな陽キャのオーラだ。
「そしたら兵士の人とかも働きやすくなるし、あたいも楽できるっしょ……?」
 もごもごと続けるリリーに、「ありがとう、お嬢さん!」と口々に明るいクルーの返答が降り注ぐ。状況が絶望的なのにまぶしい。
 隙間から脱出されないよう、七本の脚が見張り、三本の脚がイキのいい獲物を弱らせる。
腹に響く大砲の重低音に乾いたガドリングガンの音が乗る。 
「……回避しないとか余裕ぶっこいてる間に……」
 リリーの脳内物質がモロトフカクテルして、怠惰なヤドカリちゃんが一触即発バーサーカーと化した。戦わないといけないって時ってあるよね。縄張りの侵害とか。
「リュティス、遠慮は要らない。だが、叶うならあまり怪我はせぬ様に」
「心得ました」
 ベネディクトの物言いに、リュティスは小さく微笑んだ。
「私の蝶がおそばを飛びますことをお許しください」

「私の周りに近づくんじゃないわよ! 全部ミンチにしてやるわ!」
 その大剣は使い手を長く戦わせることに長けているのだ。平和な世界から来た数子は、基本に忠実に剣術を学び教本は肌身離さず持っているし、応用編として剣聖の技にも取り組んだ。そして、行きついたのが――
「イカの足を10本切り落とすわよ。1本も残らず!海の底で転がっているが良いわ!」
 肉を切らせて骨を断ちつつ、速やかに肉を修復する剣術だった。こっちが死なないようにしつつ、向こうが死ぬまで切れば、絶対負けない。
 効率が悪ければ回復が追い付かないので、もちろん剣術をおろそかにしたりしない。
 大木のようなイカの脚がジャクジャクジャクジャクと斬りつけられる。分厚い皮がついにブツンとはじけ、剣がさくりと身に刺さった時、かつていた世界で包丁越しに知っている感触に行き当たったことを確信した。

 その足は明らかに他とは違う動きをしようとしていた。根元がねじれて――。
「左舷、前から2番目、大振りが来るぞ! 舳先から五時に飛べ!」
 ベネディクトが叫んだ。ひび割れた喉の奥で血の味がする。横倒しになった大砲が台座ごと甲板を滑っていく。誰か巻き込まれたか? わからない。
 いつか来る悪夢とかつてあった栄光を互いに見せつけ合う双槍は持ち主の意向には逆らえない。
 矜持を折る渾身の一撃は、イカの脚に深く食い込んだ。槍をつかんだベネディクトごと大きく振り回されるイカの脚。
「槍傷に蝶が入り込んでしまうなんて、とても不運で不吉です」
 ベネディクトの大分後ろから、リュティスの声がした。よくできたメイドは主の前で出すぎたりはしないが、主が全力で戦える場を整えるのが仕事だ。
 爆散する黒い蝶。その反動で穂先が動く感触がベネディクトに伝わる。
 もんどりうつようにイカの脚が奇妙な動きをした。その隙にイカの肉を切り裂きながら穂先を引き抜く。
「レストさんのお手伝いに参ります」
 リュティスが横倒しになった砲列に走っていった。
 びたんびたんとのたうつイカの脚を黙らせる仕事がベネディクトには残っていた。
 強い踏み込みと共に繰り出された槍の穂先は、イカを貫き、肉塊に変える。
「これが基本だ。そう、今の間合いだな」

 転がった大砲に押しつぶされる者、イカの脚の横薙ぎに踏ん張り切れなかった者。
 イレギュラーズとそうでない者の技量的差異はほんのわずか。
 イレギュラーズは押しつぶされても自力で立ち上がってこれる存在なのだ。
 だから、今、この場にガイドさんが必要だ。今何をなすべきか指図されれば十全の動きができる者はたくさんいる。運命を切り開く定めの者と世界を維持する定めの者がいるということだ。
 レストは、この海域に来るまでの間に事前に王国軍の精鋭部内各員と雑談という名のリサーチをしていた。それぞれの特技と連携しやすい相手が誰と誰かも把握している。
「怪我したあなたは前線から後退しつつ、防御が得意な子に庇ってもらって。その間に治療が得意な子――そう、あなたとわたしが回復して立て直す感じね」
 ハーモニアから見ると、大体の種族はみんな孫に見える。場の流れを勝利につなげる采配が絶望を振り払う。
「せっかく此処まで来たのに、まさかリタイアしちゃうお人良しなんて居ないわよね~? 皆で一緒に見届けましょ、絶望の青の最後を、ね?」
 柔らかなレストの微笑が痛みと恐怖でささくれだった心を調和に導き、特に怪我がひどかった者の傷の直りを驚異的に活性化する。
 再び海洋王国の大砲が機能し始めた。

「ハッハァ! この程度でくたばりゃあしねえ。ラサの傭兵団、クラブ・ガンビーノを舐めんなよイカ野郎!」
 まとめてぶっ飛ばした後、余計に食らった間抜けな脚から血祭りに。
 横薙ぎに暴れる足と刺し違えだ。
 あばらの辺りがじゃりじゃりする。息するだけで激痛が走る。肺に刺さっていなくて御の字だ。
『ルカ様。骨を整えます。呼吸を楽になさってください』
 聞きなれたメイドの声が背後から。と、思ったとたんに、脇腹が異様な熱を持った。体の中で何かが動いている。
 骨は骨のあるべき場所に、肉は肉のあるべき場所に。
「メイド。礼は後でまとめて言う! まだ面倒見てやらなきゃならねえのがうぞうぞしてるからな!」
 リュティスは目礼してまたどこかに行こうとしている。いろいろ忙しいのだ。
「さあ、ぶっつぶっつ切って捨ててやるからな。くたばるどころか絶好調になったわ。わりいな」
 剥きだされた歯。赤い犬の蹂躙の始まりだ。
 力尽き、水中に没していったイカの脚には、無数のイワシ型爆弾の破片が刺さっていた。
 ガトリング砲の乱射によって、ワモンの周りはほんのり生臭い。イカも生臭いので全然問題がない。
 避けるとか連携とかそういうのそっちのけで攻撃に集中し乱射に勤めていたワモンも満身創痍だ。正直もう目の前はブレブレだ。的がよけようとしなくて助かった。
 だから、自らの存在をぶつけていく肉弾技は、脚が残り四本になってからと決めていた。練達性のおやばいブースターとブースターシールドに高速バーニアに加速装置をてんこ盛り。覚悟をキメたアザラシが腹の底から叫んだ。
「――アザラシだ!」
 スピン開始。姿勢制御。ブースターイグニッション。天下タイミングは音声認識で。
「オイラはアシカじゃねぇぇ!」
 イカの根っこにぶち当たり、存在をかけたきりもみ回転。どんなアシカも屠る一撃は、イカの脚もばっきり折った。
 ぼてん。と、甲板に転がったワモンの上にイリスの光輝をまとった盾がかざされた。
「お疲れさまでした。守り切りますね!」
 締め上げられた腕と足に吸盤痕は残っているけれど、数子は、ちゃんと立っていた。大丈夫だ。痕は残らない。先に優先して再生するべき場所があるだけだ。
 上から叩きつけられて折れた鎖骨と耳殻を再生する。半分になったツインテールはイカの脚を片付けてからだ。
「先にいる一番悪いヤツを倒すためにも、私達はめげないの!」
「図体がデカイだけで偉そうにしないでちょうだい!」
「お前がひとりで海の底に沈めー!!」
 そうだよ。と、相槌が打たれた。
「必ず殺すから必殺なんだよぉ……」
 リリーは静かに湧き上がっていた。忍び足で近寄り、血染めのバールが箱ごと投げ付けられる。
「吸盤食いしばれですよぉ……」
 バアルの先端がうまい具合に引っかかり、ぞりぞりと吸盤をこそげていく。弱点をえぐる立てる背筋も凍る攻撃だ。
 海の底では、想像を絶する戦いが繰り広げられているのだ。その一端が見え隠れした。
「大きすぎるから、この海に沈めるしかなさそうね」
 十本の脚の先端を失って、イカは深海に戻っていく。
 海に飛び込んだイリスが、イカの敗北を見届けた。
 少なくとも、失ったものを取り戻すまでは海面に姿を見せることはないだろう。


「やるじゃねえかベネディクト。期待外れじゃなくて安心したぜ」
「そちらもな、ルカ」
 黙って拳を差し出し、拳を突き合わせる。装備のあちこちがへこんでいるのは、最前線に陣取ったものの誉れだ。
「リュティスもご苦労だった」
「メイドもな」
 恐れ入ります。と、リュティスはかなり遠くから答えた。もつれたロープの巻取り作業のお手伝いだ。
「海洋に鉄帝のやつらも流石にここまでくる精鋭ってところだ。悪くなかったぜ」

「ふぅー、イカに食われるって事態はまぬがれたようだな!」
 ワモンの口調は軽いが、ひれを持ち上げることもできない。大の字だ。今ここで何かが起きたらおやばい状態だ。衛生兵。
「それにしても戦ってる間イカの焼けるいい匂いとかしたせいで腹がへっちまったぜー。
帰ったらイカパーティーだな!」
「――お、汚染されてないものなら」
 イリスがずっと口元をぬぐっている。皆まで言うまい。最前線で全力で戦った証だ。
 この先に、決戦の海がある。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様です。巨大なイカはしばらくは海の底で夢見るしかできないでしょう。
決戦の海でのご武運をお祈りしています。

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