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シナリオ詳細

<鎖海に刻むヒストリア>幽霊船での乱戦・新妻付き。

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「アルバニアを追い詰める激しい追撃、ずーっとがっつんがっつん続いてたんだよ」
『そこにいる』アラギタ メクレオ(p3n000084)は、ボリボリ焼き菓子をかみ砕いた。
「状況はきついよ? 海を航行するだけでやばい。たまたま通り過ぎる海生生物がやばい。比べたら、今までの航路がベタ凪ぎな気がしてくる地獄だけど――」
 背に腹は代えられない。と、メクレオは言う。
「死兆に侵された仲間達を救う為にはそれしかないと思えば、やる気は出さざるを得ないよね」
 状況はボトムアップからトップダウンに転じるわけよ。と、メクレオはバーチャルろくろをこねだした。
「昨日と敵は今日の友。海洋王国女王イザベラとソルベは、かつての敵国ゼシュテルより大援軍を引き出したぞー。何をどうしてこうなったか一介の庶民にはわかりません。高度な政治的取引があったと思ってよ」
 ま、とにかく。と、メクレオは茶をすすった。
「ゼシュテル鉄艦隊と合流を果たした海洋王国・ローレット連合軍は大艦隊を結成し、乾坤一擲の大勝負に出る」
 動かすだけで膨大な色々が飛んでいく。その後を考えない最後の作戦である。
「おんなじことはもうできない。お財布的にも、人材的にも、時期的にも」
 今を逃したらガチでやばい。
「この一回を持ちて『絶望の青』を攻略する――アルバニアを引きずり出すという鋼の意志をひしひし感じる。みんなも覚悟決めてね」


「幽霊船に強襲してもらうので、お化け耐性のない方及び零勘で通り抜けちゃう方はお断りいたします。溺死されると、困る」
 清々しく言い放ちやがった。
「絶望の蒼であえなく沈んじゃった幽霊船ですが、海賊ドレイクの支配下にあります」
 ドレイクの狙いは『海洋とアルバニアの共倒れ』だ。海洋がアルバニアを倒した後、ぴんぴんされているのは困る。こちらの戦力を漁夫の利を得られる程度にはそいでおきたいのだ。
「幽霊船は見た目こそボロだけど、怨念パワーで性能はいいからね。高い戦闘力を持ち、砲撃もこなします。飛んでくるのは実弾じゃなくて特攻仕様の怨霊白兵隊水夫だけど。着弾されると消えるまで暴れるから。自分たちが沈んだ地点でこっちが浮いてるってだけで嫉妬メラメラ。絶望の蒼を攻略しようなんて奴らは同担拒否でヘイトMAXだから。最小限の被害で押さえるなら、船に飛んでくる前に遠距離カウンターで海に落としてほしいなって。海洋王国の船が沈んだら、収支的に大赤字。失敗だからね?」
 船と乗員に多大な被害が予想される。
「防戦一方ではこっちがじり貧になるからね。幽霊船本体への攻撃をしてもらう。二段攻撃ね。この幽霊船の核は二つ。クルーの方は船長。舟本体は総舵輪。やっつけるまでクルーも船の強度も無限沸きだ。狙い撃ちは厳しいから白刃戦で両方破壊してもらう。その後、隊を回収。砲撃で文字通り海の藻屑になってもらう。ここまでいい?」
 白兵戦と砲撃戦の両方を考えなくてはならない。
「みんなと一緒に、海洋王国と鉄帝国が一隻づつ船を出してくれます。あー、なんつうの。相互監視というか」
 出し抜いたりしないよね。アタシたち、オトモダチだもんね。的な。
「海洋王国側がみんなの輸送と援護砲撃を担当してくれます。確実に幽霊船に乗せて回収してくれるからそこは心配いらない。鉄帝国の方は、反対側から幽霊船を挟撃。白兵戦の方に戦力を出してくれます。えーと、知ってる人もいるんじゃないかな。駆逐艦『ゲドイトゥ』。協力してくれるのは、艦付きの、『怒涛を御する』コンスタンツェ率いる白刃隊だよ。こっちの作戦に合わせてくれるって。『ローレットの皆様はお好きなようになさって。どうしたらお邪魔にならないかお知らせくださいませね』とのことでした」
 結婚式は無事かつ盛大に済んだらしい。依頼先の村から、ローレット宛で祝い酒のおすそわけが送られてきたそうだ。
「幽霊船ばっかに気を取られないように。クルー砲への警戒は厳としてね!」

GMコメント


 田奈です。
 各国と協調しつつ、幽霊船(無限沸き)を沈めてください。

●幽霊船『エメラルド・ウッズ』号
 華やかで、クルーがたくさんいることで有名な船でした。
 甲板には、操舵倫、水夫砲、マストなどがあり、視界はよくありません。中距離以上の攻撃にマイナス修正が入ります。広さは、敵味方併せて30人以上の乱戦状態です。非常に窮屈な状態で戦うことになります。大技を使うと味方を巻き込む可能性があります。相談しておいてください。

 アンデッド・船長『きらびやかな』ポンド
 生きてるときは美形で鳴らした船長でした。過去系なのが残念です。長身から繰り出されるリーチの長いサーベルさばきが評判でした。これは現在進行形です。
 活動している限り、クルーは無限湧きします。倒すと、無限湧きは止まり、すでに湧いている者は3ターン後に消えます。

 総舵輪
 甲板にあります。他がボロボロなのにこれだけピッカピカのきらきらなのですぐわかります。
 非常に頑丈で、これが健在なうちは幽霊船のいかなる設備も壊せません。

 クルー砲
 海洋王国と鉄帝国両方に打ち込まれます。
 大砲にクルーを積めてぶっ飛ばし、ぶっ放された海賊は敵の艦橋で実体化して12ターン暴れまくった後消えます。着弾まで1ターンの溜め攻撃と処理します。準備のため、撃ってくる間隔は5ターンに一体です。
 ちなみに、海洋王国船が中破状態になったら、幽霊船での戦闘が有利でも即撤退です。

支援
 海洋王国船からの援護砲撃はあります。合図をすると1ターン後に範囲攻撃が幽霊船に着弾しますが【識別】はついていないので早急に範囲外から離れる必要があります。まごまごしていると巻き込まれます。

 鉄帝国からの白兵隊が派遣されます。
 ネームド『怒涛を御する』コンスタンツェ
 鉄帝国軍人。白刃隊指揮官。
 妙齢で高貴な身分の新妻です。色々思惑がこんがらがった結婚をしました。公私共にまだ死ぬと人が数十人以上死ぬレベルでごたつきますので絶対死ねない立場です。本人も自覚しています。
 小回りの利く双剣を使います。手数を稼いで相手を自滅させるタイプです。
 見た目のたおやかさに反し、非常に頑健です。状態異常はほぼ無効化します。

 鉄帝国駆逐艦『ゲドイトゥ』付き白刃隊×10名
 小振りの戦斧を振り回す歩兵。重装備ではありませんが、その分動きは俊敏です。
 コンスタンツェを死なせてはならないことを全員が肝に銘じています。

 皆さんの意向を酌むとのことですので、指示には従ってくれますし、余計なことはしません。

●重要な備考
<鎖海に刻むヒストリア>ではイレギュラーズが『廃滅病』に罹患する場合があります。
『廃滅病』を発症した場合、キャラクターが『死兆』状態となる場合がありますのでご注意下さい。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

  • <鎖海に刻むヒストリア>幽霊船での乱戦・新妻付き。完了
  • GM名田奈アガサ
  • 種別EX
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年05月23日 22時15分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)
波濤の盾
伏見 行人(p3p000858)
北辰の道標
ジェイク・夜乃(p3p001103)
『幻狼』灰色狼
ブーケ ガルニ(p3p002361)
兎身創痍
オリーブ・ローレル(p3p004352)
鋼鉄の冒険者
ハッピー・クラッカー(p3p006706)
爆音クイックシルバー
ルカ・ガンビーノ(p3p007268)
運命砕き
ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)
私の航海誌
リュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)
黒狼の従者
リンディス=クァドラータ(p3p007979)
ただの人のように

リプレイ


 優美な曲線。下品の一歩手前で止められた豪奢な装飾。船首につけられた女神像もさぞ美しかったのだろう。首と右胸が崩れ落ちた今となっても十分わかる。
 『きらびやかな』ボンドの海賊船『エメラルド・ウッズ』号はとても優美な船だったのだ。ボロボロになって垂れ下がった帆布につやが残っている。
 視線は通るが、砲は届かない距離。
「操舵輪があそこだろ。乗り込めそうなところがあそこだろ。ということは、様式がああだから継ぎ目が多分こう――」
 日頃『精霊の旅人』伏見 行人(p3p000858)は、海洋王国軍備品を拝借し、幽霊船の甲板をなめるように見ている。
 褪せて腐り落ちそうな甲板にそれだけは全盛期そのままの操舵輪。それが健在である限り、幽霊船は不滅だ。
 動線を確保することも困難になる乱戦状態が予想されているので、ルート構築は無駄になるかもしれない。
 そう考えつつも、操舵輪を壊すことを至上命題とした行人は、どうやってそこに到達し、どこをどう叩いたら早く壊せるかのために頭をフル回転させている。
「――幽霊船は」
 次元の別なく古今東西の物語を網羅して、『レコード・レコーダー』リンディス=クァドラータ(p3p007979)がたどり着いた、最も趣あふれる幽霊船のありよう。
「――旅人へ新しい導を残して消えていくものです」
 詩情にあふれ、旅人の困難と希望を内在させる儚く美しく不倒で不変なもの。それが数多の冒険譚において、もっとも詩情にあふれた幽霊船のありようだ。
「死んだ程度で生者に嫉妬して! そんなんだから幽霊船呼ばわりなんじゃい!!!!! 折角幽霊になったんだから、生者が嫉妬するくらい船旅を楽しまんかい、おらぁー!!!!」
 言い様と感嘆符の数が乱暴だが、妄執から解放された幽霊である 『爆音クイックシルバー』ハッピー・クラッカー(p3p006706)が言うと説得力が違う。食料の心配ないので無寄港、疲労もないので強行軍での最速世界一周も夢ではないのだ。なのに、そんな旅に出ていないということは、生者への恨みでこの世にしがみついているので恨みを忘れると消滅する。よって、生者に執着せざるを得ない残念な海賊のナレノハテなのだ。きっと、どこかにリンディスとハッピーを唸らせる美しく孤高な幽霊船があると信じたい。
 存在のありようが美しくない幽霊船は沈めてしまおう。


「こんな海の果てであん時の花嫁サンに会うことになるたぁなぁ!」
 鉄帝国の船上で、そびえたつ山脈のような帝国軍人の中に、たおやかな笑みを浮かべた双剣の指揮官がいる。向こうも幽霊船への乗り込み準備だ。小型艇が降ろされる。
『黒狼』ルカ・ガンビーノ(p3p007268)は、彼女のウェディングドレスを守りたい村のため、ハグルマ兵団と大立ち回りをした経緯がある。
「しかし奇妙な縁ですね。以前、力をお貸しした方に力を借りることになるというのは、縁は巡り巡ってやってくるということでしょうか?」
 『告死の従者』リュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)も、同じ作戦の別班で腕を振るった。
「こういうのは悪い気はしませんね」
 一期一会になりがちの日々の仕事の中、誰かの幸せに直結したと実感できるのはいいことだ。
「結婚したばかりって話だろ。彼女を生かして帰さねえと流石に寝覚めが悪い」
『『幻狼』灰色狼』ジェイク・太刀川(p3p001103)は、浪漫を解する紳士である。
「俺も相方が俺の居ない所で死んだら耐えられねえしな」
 ルカとリュティスは黙って頷いた。逆もまた真なり。だ。ジェイクが死兆を得ているのは周知の事実だ。ジェイクがそう思っているということは、『相棒』もそう思っているということだろう。
「だから、ここにいるんだろうが。死兆を喰らって、この上何を怖がれってんだ」
 アルバニアを倒さぬ限り必ず死ぬというのなら、自分も往く。その方が生き残る可能性が上がる。
「幽霊船だろうが海賊だろうがぶっ潰す」
 そして決戦の地へ。どこぞの海賊が漁夫の利をむさぼるための戦力微調整の対象になっている場合ではない。

 ゼシュテル鉄帝国より、光学通信。
『海洋王国軍大佐・エイヴァン=フルブス=グラキオール殿に、捧げ、銃! 略式ながら貴官のご武運をお祈り申し上げる』
 きびきびと儀礼動作を済ませた帝国軍は小型艇を着水させていく。
「俺は砲台の処理が終わるまで海洋の船で護衛だ」
 小型艇に乗り込む面々に、『二代野心』エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)に、牙をむき出した。渋く笑ったのが分かる非言語コミュニケーション。
「ギフトの効果で士気の維持もしやすいしな。立場的に護衛ってのも変な話だが、まぁそれはそれだ」
 海洋王国名誉大佐の称号を持ち、なお今回はイレギュラーズとしての参戦だ。エイヴァンの『船』は今頃決戦の海に向けて全速前進中。艦長だけスポットレンタル状態である。
 幽霊船を沈めたら、速攻で戻らなくてはいけない。部下にモテモテの白熊はつらい。


 幽霊船に乗り移るまでの小型艇での移動時が一番危ないともいえた。前後を海洋王国軍が警護している。
 幽霊船に動きがあった。
 亡霊たちはげらげら笑いながらクルーを砲弾よろしく大砲に詰めて、棒で押し込む。錆びた大砲に鬼火で点火。
 戯画的に膨らんだ大砲から飛び出して来る死んだ海賊の霊魂。
 小型艇の上にいた行人は、頭上を行き過ぎた砲弾に「砲撃だ!」と叫んだ。
『虹を齧って歩こう』ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)は、アイを恋の炎で可視物に至らしめる。くそバカでかい感情の発露は注意喚起にはもってこいだ。
「お、いかん」
 それに気づいた艦上のエイヴァンは、斧銃【白煙濤】を肩に担ぎ上げた。誰がそんなゲテモノを使うんだ。と工廠で突っ込みが入ると、行員は叫ぶのだ。『グラキオール大佐がお使いです!』
 そのまま無造作に振り下ろす。ここまで一呼吸もない。行人の叫んだ音が意味を持って周囲の者の頭に届いていないタイミングだ。
「それ」
 砲弾と見まごう氷塊が海賊の霊魂を散らす。
 小型艇に乗り込んだイレギュラーズの上に、はらはらと砕けた氷の粒が落ちた。
 これで船に乗り込むまでの時間稼ぎにはなるだろう。
 エイヴァンは頼りになるが、一人に負担をかけ続けるのは良策とは言えない。
 次の砲は、ジェイクのリボルバーが火を噴いた。
 その次は、大騒ぎしたハッピーが海の彼方にご案内した。
「とにかく味方艦には攻撃させません、その為に砲台を早めに叩き壊します!」
 ウィズィが断言した。
 眼前の戦場ではあたふたの次弾装填に亡霊海賊共が右往左往している。
「行きましょう、皆で! 絶望の向こう側へ!」
「おう。海賊さんよ。ちょいとスペース空けて貰うゼェ!」
 ルカが先陣切手甲板に飛び込んだ。
 実際の動きを見ながら説明しよう。握りしめた拳にたまるオレサマオマエラブットバス的指向性エネルギーは、害意が含有されていないので当たると満遍なく痛いが死にはしない。ただし暴力を加減する矛盾が頭の回路をショートさせるので、ルカ本人もちょっとクラっとする。
 ぶっ飛ばされて空いたスペースに、イレギュラーズは猛然と縄梯子を上がり、幽霊船の甲板に踊り込んだ。それに殺到する海賊の背後をつくように鉄帝国の白刃隊が乗り込んできた。
「手間が省けました。お礼を申し上げます」
 壁のような海兵の中から、コンスタンツェ。華麗な海鳥が飛び出してきたようだ。
「こちらは引き受けますので、どうぞお好きになさって下さいな」
「それはどうも、ご親切に」
 ウィズィは、現実を見据える左目を左手で、恋を秘めた右の目を右手で覆った。
 発動行動。
 事前に言い渡されていたイレギュラーズ達はいつでも飛び出せるように各々準備をした。
 束の間の世界からの断絶。まぶたの裏に現れる恋人がウィズィのポテンシャルを跳ね上げる。
 それは、異界から現れた恋人が拓いた未知。ときめきも小さなやきもちも湧き上がってくる喜びも、すべてがウィズィの背中を押している。重傷だろうと海に出ないなんて選択肢はなかった。ウィズィの恋人は死兆に取りつかれている。これが最初で最後のチャンスだ。是が非でも決戦の海にたどり着かなくてはならない。
「『Wake up, Beast.』」
 いっそ、その声は低く、低く。
 何をされたかも認識できない魔眼の一撃。恋に狂ったケダモノは雷を帯び、右目から噴き出す緑の燐光は蒼を帯びてスパークする。人の恋路を邪魔するモノは生死正邪の別もなく確実に蹂躙されてしかるべき。
 気が付けば、消えない恋の炎にさいなまれ続ける。めらめらと萌える亡霊のおののきの中ぶち抜けれた隙間。イレギュラーズが推し通る。
「サンキュー、ウィズィ! 助かるぜ!」
 ルカが通り過ぎ様、親指を立てていった。
 ウィズィはこふこふと小さな咳が漏らした。内なる獣が通り過ぎた後の小さな痛み。
「――さぁ、Step on it!!  私達が通りますよ!」
 それが何だというのか。茨の鎧がウィズィを守る。愛する人だけ彼女に触れても構わない。


 操舵輪と船長がが守り本尊。広くない甲板に亡霊がひしめき合う。
 数十年前に沈んだとされる『きらびやかな』ボンドという海賊は、それは女にモテたらしい。
 クルーの顔の美醜は問わなかったが、なにかしら人目を惹くものがないのは乗せなかったそうだ。
 今甲板でサーベルをぶら下げた長身の男は確かに生前はゴージャスは美丈夫だったんだろうと思われるいでたちだった。顔の半分は骸骨だが。開いた右目のうろの中からでろりとウツボが顔を出した。
『俺の船に土足で上がろうってんだ。三下風情は許さねえぞ。気に入った首は船首に飾ってやるから喜べや』
 口の端からフナムシ。
「ずいぶんおつむの中に色々住んでるみてえじゃねえか」
 ジェイクの軽口に、海賊連中がぎっとまなじりを吊り上げる。
 リンディスが海賊船長と相対する手はずになっているジェイクの存在レイヤーに、縦横無尽に戦場を駆け抜けた男の物語を滑り込ませる。物理世界では大胆不敵な動きが身軽さに変換されるはずだ。
「『幻狼』の片割れ、『灰色狼』ジェイク・太刀川がおめえの顔に空いた穴を一つと言わず三つ四つ増やしてやるぜ」
『野郎ども。この大口叩きをすりつぶして、サメの餌にしてやんなぁ!』
 サーベルと銃を手にした亡霊海賊がジェイクめがけてまっしぐらに走ってくる。
 迎え撃つジェイクの脇を歯を食いしばった行人が駆け抜ける。
「すまん。操舵輪は任せろ!」
「今回は優秀な引きつけ役さんがいてくれはるさかい、頼もしいわあ!」
 亡霊海賊の顔面に呪いで三倍返しの蹴るをかましつつ、ブーケが吹っ飛んでいく。
 通り過ぎ様の仲間の言葉に、ジェイクは銃口を動かすことで応えた。
 立っているだけで靴の底が焼け付きそうな鉄火場がジェイクのフィールドだ。
 その視界の隅で、赤と黒の三段フリルが揺らめく。
「ジェイクさんがひたすら敵を引き付けてくれるので、その攻撃を私が受け続けるのだ!」
 異論は認めないと、ハッピーの目が言っている。
「私は幽霊なんでね。彼らが無限湧きしてるのと同じだよ!」
 目には目を。歯には歯を。幽霊には幽霊を!
 死の淵を越えた者とこのままでは越える日が見えている者。越えたものが、その見えそうな淵から彼を遠ざけようとかつてのカタチをさらす。
「おう。あてにしてっからな、ハッピー」
 ジェイクは、愛用の銃の引き金を引く。ほんのあいさつとばかりの軽いタッチ。素人が売ったら反動で手首の骨が行かれかねない化け物重拳銃だ。グリップの狼は伊達じゃない。
 ガゥン!
 船長のこめかみに剃りを入れる。挑発。生前はさぞかし麗しい御髪であったろう。はたはたと甲板に落ちる褪せた髪。エクステ代わりに海蛇が絡んでいるようなご身分になってもそれとこれは話は別らしい。
 即座に獲物は撃ち殺したいと唸る拳銃に言うことを利かせるジェイクのテイミング。
 どす黒い憎悪が可視化している。ハハハっと乾いた笑いが漏れた。
「怒り狂えよ、亡霊ども。それが今日の俺の役割だからな!」
「かかって来いやぁー!! かかって………わちゃわちゃと狭いなぁ、ねえちょっと!!!」
 ハッピーの悲壮感がない物言いに、ジェイクは喉を鳴らしながら両手のリボルバーを握り直した。しばらくのダンスのお相手は敵も味方も死んでいる。自分も棺桶に片足が入っているようなもんだ。いいダンスが踊れそうだった。


 優雅な曲線を描く羽ペンは確かな未来を引き寄せるために踊る。
 リンディスは、イレギュラーズと鉄帝国の白刃隊に『空に焦がれた男の詩』を重ねて固定する。
 『この翼でならあの空の彼方まで辿り着けよう』
 身を滅ぼしてでも空を目指した男に尽くした者のようにたっぷり自分の魔力を乗せて。
 みんなどこまでも駆けていくといい。味方の背を祝福し、支えるのがリンディスが己に定めた役割だ。
 剣士の薙ぎ払いは乱戦の華。
 有象無象を切り開き、進軍の徒を作るは戦時の誉れ。
「はっはっはー!」
 ルカは、高笑いを上げた。
「ほんとに切っても切っても出てきやがるな! 死んでも腰巾着かよ。笑えねえな!」
 本当に笑えない。傭兵団が仕事に行って、いつだって全員無事で帰ってこられるなんてあるわけがない。一緒に帰ってこられなかった奴は、戦場をさまよっているのだろうか。いや、傭兵らしくさっぱりあの世に行ってほしい。
 オリーブは、兜の下で気を吐いた、隙間から見える三白眼が前を見据えている。視界の端に、ゼシュテル鉄帝国海軍所属・白刃隊。
 ある時は押し、ある時は退いて亡霊海賊をいなし続ける白刃隊。変幻自在の波のようだ。
 その彼らの前で、ふがいない戦いをする訳にはいかない。オリーブは、ゼシュテル鉄帝国の平和と繁栄のために剣を握っているのだ。
 海面から甲板までの縄梯子を用いての登攀も乗り越えた。それをやり遂げたオリーブにできないことはない。胸から迸る高揚感。全身鎧で海面に落下する恐怖に比べれば、亡霊海賊何するものぞ。
「まずは操舵輪ですね。自分はこちらから。ガンビーノさんはこちらを。よろしいですか」
「おっと、そうきたか」
 傭兵団構成員の結構な割合がガンビーノさんなので、ルカは余りそう呼ばれない。礼儀知らずには「ガンビーノさん。だろうがよおっ!?」とかまさないとは言わないが。礼儀にうるさそうな女はそういう風に呼んでくる場合もなくはないが。年も近い男に言われると、背中がかゆい。が、今はそんな話をしている場合じゃない。
「よし。俺はこっちだな!」
 後回しだ。操舵輪をぶっ壊すのが先だ。


「囲め、囲め」
 イレギュラーズの遠距離攻撃で傷ついたクルー砲の砲弾海賊を待っていたのは、エイヴァンが指揮する王国海軍の精鋭部隊だった。
「いいか。絶対一人で当たるな。傷が入ったら下がって治療を受けろ。本番はここじゃねえ! 命の落としどころを間違えるな!」 
 大佐殿の拭いえぬ忠誠心の一撃は、砲弾海賊の恨みつらみを無意味と断じた。
 世界からの贈り物。海軍の軍規は亡霊の前に崩れることなく秩序を維持していた。


 ビーチ材に緑のエナメル。美しい金縁。同時に取り回しは簡潔な用を兼ね備えた機能美。
 操舵輪は、朽ち果ててフジツボで装飾されている船の中で、それだけが往時のままだった。執着の根源。海賊「きらびやかな」ボンドはそれにすがって、先を目指したまま死んだのだろう。
 行人もただ前だけを見て走った。振り回す武器の名は、「駆逐するモノ」 湧き続ける亡霊海賊をどうにかするのにこれほどぴったりな武器はない。
 持ち手、放射状に伸びたスポーク、船尾の舵につながる歯車。部位は塊ももちろん大事だが、とっくの昔に沈んだ船の亡霊の冷めない夢を覚ますために必要な――。
「さっさとぶち壊してやるよお!」
 ルカは、体中の神経を通る微弱電流を増幅させて「雷」に育て上げる。瞬きするまつ毛の間にも電光が小さく爆ぜる程になったらあったまった証拠だ。うっかりふるえば自分が傷つく、使い手の技量を試す危険な香りを放つ得物こそ男どもを魅了する。
 操舵輪に木っ端みじんにぶっ飛べと叩きつけられる一閃。関節に跳ね返るバックラッシュをものともせず、ビシビシとひび割れる様にざまあ見ろと毒づく。
 そもそもの強度に船の妄執が取り付いている。
「ほいほい。一発でいかんなら、どんどん行こうや。背中は任せてな」
 ブーケがルカの背後に忍びよった亡霊海賊の鼻面を蹴り飛ばした。生傷の絶えないウサギのほんのちょっとの血を媒体にして呪いが発動する。息してるだけで世界に祝福されるウサギに敵対するなんて世界に嫌われる所業なのだ。
「そこの軸木を折るぞ。舵輪も形が残ってたら再生してくるかもしれない。見た目と機能と――何か核になるようなものを壊すんだ」
 行人の掌に気を練り上げて作った爆弾。起爆するにはすぐそばにいなくてはならないから自分もあおりを食らってしまう。
「どんな防御も無駄だ。芯を吹き飛ばしてやるからな」 
 分散して戦っているイレギュラーズの合流も、「きらびらかな」ボンドの討伐も、王国海軍の戦力維持も、全ての作戦が操舵輪の破壊から始まる。できる限り迅速に。効率よく。攻撃に集中している行人の白目は充血しきっている。
 爆散。そこに金色の花が咲いたように見える半面、自分の気を分離しているので負荷が結構痛い。次の破壊を試みるルカの邪魔にならないよう、踵を返し、次の爆弾の錬成にかかる。
 防御する間もあらばこそ。オリーブとブーケが亡霊海賊をいなしている間にぶっ飛ばす。
 時折、遠くからウィズィのナイフが飛んできて、操舵輪を少しづつ消し炭にしていく。
 爆発と雷撃と業炎。正確に何かを伝える道具を壊すには上々の攻撃だった。
「俺は、俺達は。旅をまだまだ終わらせる積りはないんだ。沈んでくれ!」
 行人のお願いを聞いてくれるようなら幽霊船になったりしない。だが、理不尽なごり押しを通してしまう程度に行人の手はボロボロになったし、ルカの神経回路もショートしかけていた。
「爆破は有効みたいですね」
 回復に勤めているリンディスの補佐をしていたリュティスが、戦線が持ち直したのを確認すると、黒い蝶を作り出した。
 ルカの作った日々にもぐりこんだ蝶が爆発する。この海に来てから、ルカは何度もリュティスがルカや彼の友人がこしらえた亀裂や切断面に蝶をねじ込んでボロボロするのを見てきた。
「よし。もう一発、ダメ押しだ!」
 すべての持ち手をへし折り、輪の部品を壊し、駆動部から引きはがし、意匠の中に書かれた船の名前を叩き割り、はめ込まれた輝石を全部叩き割った。
 蹂躙とはこうやってするのだというお手本のような爆破。リンディスがさすがに見かねて回復魔法を唱えだした時、操舵輪はただの船の残骸に変わった。


 海洋王国鑑定上の砲弾海賊のせん滅が確認された。損傷は軽微。
「幽霊船に動きあり! 砲台破壊に入っております!」
 部下からの報告に、エイヴァンはよしよしとうなずいた。
「あっちの処理が終わったら、俺はあっちに飛んでいくからな。そん時は船を寄せてくれると助かるな」
「拝命しました。大佐。幽霊船は舵を失い、迷走の可能性がありますので――」
 速やかに伝令が船長に向かう。
「ああ。エレメンタラーがどうにかするって言ってたから、あの場所でおとなしくしてるだろうよ」
 幽霊船をおとなしくさせておけるほどの助力を得られる者はそうは多くない。
火柱が上がる幽霊船は確かに姿勢を安定させたままでいた。


 操舵輪を壊したら、船がその場でくるくる回りだすとか蛇行するとか覚悟はしていたのだ。
 確かに、壊した後はどうにかするよ。と、行人は言っていたのだが。
「今、どうなさってるのですか」
 リンディスの問いは作戦で必要なホウレンソウであると同時に取材のようなものだ。
「この辺りの水の精霊に、船が回頭したり移動しづらいように船の周りでぐるぐる遊んで居て欲しい。と、頼んだ」
 行人は簡潔に答えた。
「ぐるぐる」
「わかりやすいのが一番だろう」
 あくまでお願いだ。やりやすくて、楽しいのが一番だ。船の周りをグルグル回れ。ドードーレースはみんなを笑顔にする。
「懸案の操舵輪もぶっ壊したし、温存は終わりや」
 ブーケは、ぴょんと飛び上がった。
「海の上より船の上飛ぶ方が安心安全やろ」
 ウサギが海の上を跳ねると、皮をはがれるのでやめた方がいい。
「自分は援護砲撃の届き難い砲台の破壊に行ってきます。それでは!」
 オリーブは重装備の割りに腰が軽い。
「私は、海洋王国船の逆側の砲台を破壊に向かいます」
 リュティスが動いた。早い。
「俺ぁ船長を倒しにいくぜ」
 度重なる戦闘経験の末、脳内分泌物質の壮絶なるカクテルが形成されるようになると、血管の中に炎が流れているような感覚を覚えるという。それでも死なない度量がなければその域に達する前にくたばる。
「それでは信号弾を打ち上げます。ほどなく海洋王国からの援護射撃が来ますからね。逃げてくださいね!」
 リンディスは理空に向かって信号弾を打ち上げた。


「信号弾、確認! 援護射撃、用意! 砲門、開け!」
 目標幽霊船艦橋・クルー砲塔。
「撃てーっ!!」
 轟音。
「敵船、左舷崩落! 破壊可能です!」
 エイヴァンは、ジェットパックを起動した。白熊が空を飛ぶ。


「亡霊どもの砲台を討ち果たせ! 船を守れ!」
 白刃隊の動きは早かった。
横倒しに転がされる砲台。大砲そのものを壊せなくても、台を割ってしまえば仰角を調整することもできない。幽霊船の設備のでたらめを支えていた操舵輪はイレギュラーズが壊してしまった。
 後は、剣を巨大なスパナに持ち替えた白刃隊の分解という攻撃に蹂躙されるか、海に叩き落とされるかの二択だ。
「援護砲撃が来るぞ。総員、対ショック体勢。着弾――今っ!」
 船が斜めにかしぐ。たった今、船ごと木っ端みじんにされるというのも加わった。
「そこのローレットの方、同胞ですね」
 コンスタンツェが、オリーブを見やった。身のこなしで鉄帝国育ちはわかるようだ。
「武運を祈りますわ。帝国に恥じぬよき戦いを」
 コンスタンツェはそう言って踵を返した。更に狭くなった船の上、亡霊海賊の掃討に入る。
 ぼちゃぼちゃと亡霊海賊がゲラゲラ笑いながら海に落ちていく。
「死んではる人に言うのもなんやけど、クルーは自分を大切にした方がええんとちゃう?」
 ブーケが、海面を見ながら言う。
 鉄砲玉ならぬ大砲の弾としてぶっ飛ばされたり、船長の盾にされたり。
 ゆらりと空間がゆがんだ。さっき海面に落ちた亡霊海賊のお帰りだ。
「あら、またでたはるわ」
 船長が健在である限り、亡霊はいなくならない。
 復元性を維持できず、もうすぐ沈む幽霊船の上。
 亡霊海賊たちが船長をよりどころにして集まってくる。遠くから見たら、さぞかし鬼火がきれいだろう。在りし日のエメラルド・ウッズ号のように。

 そして、その船長の怒りを一身に集めて、永遠の子供よろしく板子一枚の上でタランテラを踊っている男がいる。
「すげえな。俺、生きてるじゃねえか」
「あったり前だってーの!! 私がちょう頑張ってるよっ!!」
 顔が半分になったハッピーは次の瞬間元通り。ハッピーは自分のカタチを忘れない。再構成につぐ再構成につぐ再構成。決して、世界の忘却に飲み込まれたりなんかしない。
「幽霊にはどんな礼をすりゃあ良いんだ。線香か?」
 サーベル使いの船長がジェイクの間合いに入ってくる。ねじ込んでやりたい死の凶弾をとっくに脳みそが耳の穴から出てっている頭蓋骨にぶち込んでやりたいが、どちらを向いても味方が巻き込まれる。思った以上に船が狭い。いや、怒りを継続させるのが第一義だ。余計なことをさせないようにするだけだ。ジェイクの周囲に証券が立ち込めるたび、『きらびやかな』ボンドを飾っていたウツボやフナムシが姿を消していく。
「ははあ。海のオトモダチは魔術的ななにかか。ちょっと撃ったくらいでいなくなるような薄情な奴とは縁を切った方がいいぜ?」
 思いがけない踏み込み、届くわけがない間合いで伸びるてたっぷりフジツボのついたサーベルがジェイクのネクタイの結び目をかすめる。
「さあ、じり貧の船長さんよ。そろそろうちのモンが来るからよ。覚悟を決めろよな」
 な。と音が消え去る前に、ジェイクの横を赤い熱風が吹き抜けていく。
 バリバリと音を立て、吐き出す呼気まで鉄臭い。船長の青白い肉をこびりつかせた肩口を両断する大上段からのルカの重たい一撃が肋骨を叩き折り、骨盤に食い込んだ。
「いつまでも迷ってねえで――とっとと地獄に還りやがれェ!!」
 吹っ飛んだ理性が紡ぐ言葉はノイズ含みで不明瞭だが、破壊の意思だけはクリアだ。
 ナイフと黒蝶が交錯する。沈む前のエメラルド・ウッズ号なら物騒なロマンチックを喜んだかもしれない。
 船長をかばおうと飛んで来ようとする亡霊海賊は、ウィズィとリュティスの餌食となった。
 リンディスは、自分が付与した英雄譚のページの継ぎ足しに余念がない。
 悲劇の一撃の気配をビン感じにかぎ取って、癒しの術を駆使してフラグをへし折る。場合によっては自分の体を縦にするのも辞さない。
 イレギュラーズはもとより、コンスタンツェとその部隊が突出しない様モニターしていた。
 大きな影が落ちた。上空に、空飛ぶシロクマ。
「すまねえな。ジェットパックが根性なしでよ」
 エイヴァン用にチューニングされているが、官製品には限界というものがある。
「海賊退治は海軍の華ってな! は入れさせてもらうぜ。これが海洋王国の分だ!」
 自由落下込みのくそ重たいぶった切りで、船長の物理体は崩壊した。残るのは深い深い恨みだ。海に縛り付けられた男たちの怨念だ。この先に進もうとしている生者への嫉妬の念だ。海賊たちもいきたかったのだ。この先の波の向こうへ。
「俺、か弱いうさちゃんやさかい、毒でも持ってへんと怖くて、お外歩けへんのよね。堪忍ね!」
 かよわいうさちゃんは式神の毒蛇など使わない。瞳の緑は甘美な毒色。生前の海賊なら喜々としてえぐりに行っただろう極上品だ。眼科にもぐりこんでいたウツボのように、幽体の中に頭を突っ込み、たっぷり毒を流し込む。
「おおおおおおおっ!」
 オリーブは雄たけびを上げた。遠い異国で祖国の人に触れ、励まされた。
「俺は強くなるんだ。平和と繁栄のために! 鹿間は、それを脅かす魔種への進軍の障害だ!」
 愛国心と同胞愛が燃え上がり、妄念を焼き尽くす燃料となる。
「退け、悪霊!」
 甲板に火柱が立つ。
「――そうだよ。その通りだ。旅の邪魔をするなってことだよ」
 邪魔するものは駆逐される。何度も現れるというのなら、脱走不可能の底に落ちればいい。
 穏やかな顔をした精霊の友は寛容で、ゆえにその身に深い深い闇が生じる。
 剣にまがまがしい闇が乗りその奥に呪いが潜んでいる。
「もう、出てくることのないように」
 旅を阻むものに呪いあれ。
 長い長い悲鳴が聞こえた。
 どこかに行きたかった魂は、どこにも行けないどこかにつながれた。

 そして、異界からのクイックシルバー以外の亡霊はいなくなった。
「ハッピー、どこも何ともないのか」
「あんな、誰かの何かにすがらなきゃいけないようなやわな幽霊には負けないよ!!」
 なんで幽霊になったか覚えていない少女は満面の笑みで言った。
「ハッピーだから!!!」
 楽しいは正義だ!

「船が沈むぞ。総員退避! 怪我人から脱出だ!」
 鉄帝国の動きが速かった。船を寄せていた海洋王国からも迎えの小型艇が飛んでくる。巻き込まれないように早急に退避が必要だ。
「それでは、ごきげんよう。皆様のお役に立っていれば幸いなのですが」
 コンスタンツェが小型艇に乗り込む前に別れの挨拶をした。
「先の私的なお礼はわたくしの殿も直接申し上げたいと言っていたのですが、若輩故まだ領外に出せませんので、わたくしから。お許し下さいませね」
 領外に出せないくらい若輩。複雑な政略結婚。
「殿は先月14になりましたのよ」
 うふふ。と、新妻は微笑み、駆逐艦に帰っていった。
 

 妄執の核を失った幽霊船はただの腐った木の集合体にすぎない。
「行人さんが精霊さんにお願いしたせいで、船の周りに妙な渦潮が出来てますね」
 リンディスが興味深いです。と、メモを取っている。
「沈み切ったら帰ってもらうから」
「これ、遊ぶのがはやったら、渦潮地帯になったりしませんか」
「言い聞かせるから」
 後ろでニマニマ聞いている悪気などこれっぽっちもない傭兵団の若旦那と素直なメイドさんから友人に今日の顛末が抜けるのだ。行人はその覚悟をした。

 小型艇が幽霊船から離れていく。
 十分な距離が開いたと判断したジェイクが立ち上がった。
「どうしました?」
「いや、焦らしただけじゃかっこが付かねえ」
 狙いは朽ちかけた船首の女神像。
「きっちりいいのをくれてやらねえとな。こっちもすっきりしねえ」
 今度こそ、しがらみなしでぶちかませる渾身の一撃。死の凶弾。
 陰々と響く銃声。木っ端みじんになる女神像と船のへさき。
 死出の旅路に堕ちた女神付きなんて、海賊冥利に尽きるだろう。

成否

成功

MVP

ハッピー・クラッカー(p3p006706)
爆音クイックシルバー

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様です。幽霊船は海の藻屑となりました。適材適所っぷりにイレギュラーズを痛打を刻めなかった無念をこの一文でお察しください。決戦での皆さんのご武運をお祈りしております。

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