PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<鎖海に刻むヒストリア>エバー・グリーンを纏う

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング



 ──その日。ローレットの一角では2つの話題がイレギュラーズたちをざわつかせた。

 まず1つ目。海洋国の大事業である『絶望の青攻略』について。
 イレギュラーズと海洋国の攻略は快調とと言って良い。絶望の青に足を踏み入れてから廃滅病(アルバニア・シンドローム)と呼ばれる死の呪い、そして荒れ狂う天候に凶暴凶悪なモンスターたちと大きな障害な度重なって彼らを襲った。それでもイレギュラーズたちはモンスターを退け廃滅病にかかりながら、橋頭保となるアクエリア島を制圧してみせたのだ。
 かの海に潜むアルバニアも、後半の海に立ち入られてかなりの焦りといら立ちを感じていることだろう。しかもイレギュラーズは刻々と迫る死の刻限に後押しされるかの如く、快進撃は留まることを知らないのだから。
 もちろん後半の海はこれまで以上の危険も伴っている。しかし仲間たち、イレギュラーズたちのためと思えば皆の士気は高まるばかりだったのだ。
 その進撃をバックアップするため、王国にとどまっていた女王イザベラとソルベも一計を案じた。先の第三次グレイス・ヌレ海戦──その相手であった鉄帝から大援軍を引き出したのだ。
 これによりイザベラとソルベはこれまでの『少数艦隊で安全確認、のち掃海』という戦法を取りやめた。この大号令において最後の命令、あとを考えぬ大作戦。

 海洋、鉄帝、そしてローレット連合軍で乾坤一擲の大勝負。これにて絶望の青を攻略し、アルバニアを引きずり出すのだ。

 イレギュラーズも少人数、あるいは大人数でのチームを組み、連合軍の一員として後半の海へ出ることとなる。既に情報屋は慌ただしく動いており、依頼として多数出されていた。

 そして2つ目は──。
「皆様、新世界の探索ももう少し。頼みますぞ」
 狸の獣種──大商人であり、海洋貴族でもあるポンポコ・リンがこの場にいる事だった。
「ど、どうしてここにいるのでしょう……」
「『げきれい』に来たみたいですよ、皆さんの」
 『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)とブラウ(p3n000090)が隅でひそひそと話す中、ポンポコ・リンはイレギュラーズへ熱心に言葉を重ねている。
「新世界(ネオ・フロンティア)といえば先代エリザベス女王、いえそれよりも前からの悲願。海洋国民全員が、もちろんワシも心待ちにしていたのじゃ」
 彼は先代女王の代から仕えており、海種と飛行種の仲を持ち続けている古株だ。その分気苦労も何かと多く、そのうちの1つがこれまで一向に成果の出なかった新世界探索だ。
 最も、まだまだ外交問題やパトロンとして援助をしていた『蛸髭』オクト・クラケーン(p3n000658)の魔種化、そして孫との関係など悩みの種は尽きぬばかりだが──。
「ウッ」
 突然鳩尾を抑えるポンポコ・リン。周囲が慌てる中「み、水を……」と呻く。差し出された水で懐に忍ばせていた薬を飲むと、一体何かと思うような音が響き渡った。
「……胃痛の音じゃよ」
 顔をしわっしわにさせたポンポコ・リンが呟く。
 嘘つけ宇宙が爆誕するみたいなとんでもない音だったぞ。
 ……とは皆思ったであろうが、言わない。孫に嫌われていて好かれたいと思うただの爺と思うなかれ。老齢なれど、この男が動けばとんでもない額の流通が変化しかねない。
「冠位アルバニア。魔種の暗躍も爺が心を痛める要因じゃな。陛下とソルベ殿は此度の作戦で彼奴ら敵の軍勢を炙り出すおつもりの様子」
 薬が効いてきたのか、鳩尾をさすりながらポンポコ・リンは話す。未だその胃は余韻のような音を響かせているが気にしてはいけないだろう、多分。
 新世界到達が海洋の悲願であることを念押しし、何としてもアルバニアを倒してその先へ進んでほしいのだと頼み込むポンポコ・リン。その視線が話を聞いていたイレギュラーズの1人──『蛸髭.Jr』プラック・クラケーン(p3p006804)と合う。その瞬間ポンポコ・リンの眼光が増したような気がして、プラックは小さく息を呑んだ。
「イレギュラーズの皆様。重ねての頼みじゃが──どうか、新世界への尽力を」
 その言葉はイレギュラーズ全体へ告げられていたはずなのに、どうしてか。自分に対して殊更強く言われたような気がした。



 アクエリア島を出発した海洋船に一報が走る。いや、もはや目に出来ると言った方が正しいか。

 片や、大群を率いて昏い目をした──魔種・冠位嫉妬アルバニア。
 片や、嘘か真か伝説の海賊と同じ名を持つ男──海賊ドレイク。

 アルバニアは敵だ。討たねばならない此度の大ボス。ならばドレイクはどちら側なのか。
 彼が乗る船の背後からおんぼろな船が前へ進む。クルーは人骨で、進路はどうやら連合軍と魔種の操る狂王種の元らしい。幽霊船は射程にそれらを収めると、狂王種めがけて砲撃を始めた。
「あれは味方なのか……?」
「待て、こっちにも来たぞ」
 海洋軍がざわめく中、他の同じようなオンボロ船がイレギュラーズたちの乗った船へ近づいてくる。様子見をしていた連合軍は突如上がった水柱にざわめいた。
「撃ってきたぞ!」
「まだ威嚇だ、落ち着け」
「回避、迎撃準備はできているな?」
 近づいてくる幽霊船に、されど連合軍とて何もせず見つけていたわけではない。準備は進めていた迎撃態勢を本格的に進め、すぐさま砲弾で撃ち返す。だが見た目以上に幽霊船は頑丈なようで、砲弾の1発2発でどうにかなるものではないらしい。すぐさま近くの鉄帝国軍へ連絡を入れ、応援を要請する。その傍らで海洋軍人はイレギュラーズへ視線を向けた。
「イレギュラーズ、いけるか?」
 幽霊船からは確実に敵意を感じ取った。向こうの方で共闘している幽霊船も、その実いつ寝返るか分からない。しかしまず目の前の障害をどうにかしなくては話にならないだろう。
 イレギュラーズは頷き、幽霊船へ武器を構えた。

GMコメント

●重要な備考
 <鎖海に刻むヒストリア>ではイレギュラーズが『廃滅病』に罹患する場合があります。
 『廃滅病』を発症した場合、キャラクターが『死兆』状態となる場合がありますのでご注意下さい。

●成功条件
 幽霊船とクルーの撃破

●失敗条件
 連合軍艦隊どちらかの戦闘続行不可
 あるいはイレギュラーズの継戦不可

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。嘘はありませんが不明点もあります。

●エネミー
・幽霊船
 オンボロな船です。苔や藻を引っ掛けています。しかし見かけによらず頑丈で、沈む様子もありません。
 砲台の近くにクルーの影は見えませんが、砲撃はされています。実弾ではなく魔力、霊力といった神秘の類のようです。
 船同士の戦いだけならば軍配は幽霊船になります。

・船長×1
 人骨の船長です。それらしいマントと帽子を身に着けているため分かりやすいでしょう。人語を解し、喋ることができます。手にはサーベルを持っています。
 その言葉尻からは『彼女』とも『彼』ともとることができるでしょう。しかし人骨からはどちらであるのか判別がつきません。その体は身軽で反応も良く、しかし防御はやや苦手としているようです。

なかま入り:黄泉の坂を転がって、おいでませ。【必殺】【呪殺】
軽業師:この動きが見切れるか?【乱れ】【痺れ】

・クルー×15
 人骨のクルーです。カタカタと骨を鳴らし、かつて握っていたと思われる武器を持って襲い掛かってきます。刀は錆びれ銃も弾は込められていませんが、やはり神秘の力で使えるものとなっているようです。人語を解しますが喋れません。
 人骨も幽霊船同様に見かけより頑丈です。しかし反応には劣っているようです。

骨鳴らし:カタカタカタ。ふと気づけば、仲間も骨になっているように見えた。【魅了】【呪殺】
呪いの傷:傷口から色々と漏れ出すようです。【流血】【苦鳴】

●フィールド
 連合軍船上、もしくは幽霊船上となるでしょう。
 船同士は近づき、離れを繰り返しながら砲撃で攻めています。しかし近づいた何時かのタイミングでクルーたちはイレギュラーズの乗る船へ渡ってくるでしょう。
 イレギュラーズはそのタイミングを待っても構いませんし、乗り込みに行っても構いません。
 ただし時間をかければかけるほど連合軍の戦力は徐々に削がれます。

●友軍
・連合軍艦隊(海洋軍1隻、鉄帝軍1隻)
 皆様は海洋軍側の船に乗っています。彼らは主に砲撃で幽霊船へ対応しています。そのため幽霊船クルーまでは手が回りません。

●NPC
・ポンポコ・リン
 プラック・クラケーンさんの父であり魔種化したオクト・クラケーンさんの関係者となります。
 商人上がりの貴族であり、海種と飛行種の仲を取り持ち続けている古株です。蛸髭海賊団が絶望の青へ挑む際、パトロンとして出資していたこともあります。

●ご挨拶
 愁です。関係者をお借り致しました。
 彼の胃痛が少しでも収まるように、そして何より仲間たちや自身の廃滅病を治すため戦いましょう。
 当シナリオは砲撃戦からの交戦を想定しています。前述したように砲撃戦のみでは負けます。皆さんの力でクルー達を撃破し、戦力を削がねばなりません。
 乗り込むか、乗り込ませるか。どのタイミングか、全ては皆様に委ねられています。
 ご縁がございましたら、よろしくお願い致します。

  • <鎖海に刻むヒストリア>エバー・グリーンを纏う完了
  • GM名
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年05月24日 23時00分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ヨハナ・ゲールマン・ハラタ(p3p000638)
自称未来人
グドルフ・ボイデル(p3p000694)
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
弓削 鶫(p3p002685)
Tender Hound
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
大樹の精霊
プラック・クラケーン(p3p006804)
昔日の青年
ヴォルペ(p3p007135)
満月の緋狐
アレクサンドラ・スターレット(p3p008233)
デザート・ワン・ステップ

リプレイ


 ポンポコ・リン。言葉巧みに商人から貴族へのし上がった男。あのような者をまさに『狸爺』と言うのだろう。
「まァ俺らにとっちゃイイ金づるって話だ、キッチリ仕事こなして、ガッポリとカネを貰わなきゃあな!」
 ゲハハハ! と笑う『山賊』グドルフ・ボイデル(p3p000694)とは対照的にアレクサンドラ・スターレット(p3p008233)の表情は些か硬い。無理もない、ポンポコ・リンといえば有名な大商人。運び屋の娘ともあればその名を聞かないわけがなかった。
(わざわざ本人が足を運ぶなんて)
 やはり海洋人にとって絶望の青踏破はそれだけ大事と言うことだろう。あのポンポコ・リンが動いたと言うことは実力同等、あるいはそれ以上の意味があると言うこと。まさに悲願と言って良い。
「……俄然やる気が出てきました!」
 グッと拳を握るアレクサンドラ。『希望の蒼穹』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)も頷く。
「うん! 絶望の青だけじゃない、幽霊船の人たちの無念だって越えてみせる!」
 冠位アルバニアまでもあともう1歩。ここで立ち止まるわけにはいかないのだ。
(ポンポコさんか……あの人も親父の被害者だよな……)
 『蛸髭 Jr.』プラック・クラケーン(p3p006804)はローレットでのことを思い出して視線を伏せる。かの人はプラックの父がイレギュラーズになる前、スポンサーだったと聞いたことがある。そして父の動向を気にしていた、とも。
 申し訳なさとともに湧き上がる思いを胸に、プラックは前を向く。そこにはイレギュラーズが対応を求められた幽霊船が刻一刻と近づいてきていた。
「どこもかしこも幽霊船。なんとも嫌になってきますね」
 映画でもないのにと『Tender Hound』弓削 鶫(p3p002685)か口を尖らせれば全くだと『満月の緋狐』ヴォルペ(p3p007135)も頷く。頼むから得体の知れないものばかり出てこないでほしい。
 それにしても、と『新たな道へ』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)が船を見る。こちらからも、友軍からも砲撃が入っているはずだが──なかなか。
「どう見てもオンボロなのに頑丈な船だねぇ……」
 しかも変わった攻撃をしてくるときた。実弾ではないようだが、霊力か魔力の類か。いずれにせよ厄介な敵だ。
 だがしかし、作戦は至って単純明快。
「はいっ! 作戦概要把握しましたっ!
 真直ぐ行ってぶん殴る、右ストレートでぶん殴る、ですねっ!」
 『自称未来人』ヨハナ・ゲールマン・ハラタ(p3p000638)は船員を振り返り、にっと笑ってみせる。大丈夫だと言うように。いや、実際余裕すぎて『如何にカッコイイ着地シーンとするか』考えているくらいで。
「敵船、近づきます!」
 海洋軍の声にイレギュラーズはようやくかと幽霊船を見る。アレクシアは飛び立たせていたファミリアーから敵船の様子を観察した。
「こちらを見ているみたいだけど、まとまってはいない……? 向こうもまだ様子見なのかも」
「それならさっさと暴れるぜ。制圧だ」
 グドルフか笑みを浮かべて拳を握る。こちらから突撃するのならば、ある程度の準備もできるというもの。
 アレクシアによって純白の花弁が舞い、グドルフが英霊の闘志を纏わせる。鶫が牽制攻撃を入れれば向こうも打ち返してくるもので、早速回復を受けながらの撃ち合いが始まる。
 互いの姿が見えるほどに船が接舷すると、イレギュラーズは相手の船へ向かって船縁を蹴った。鶫は迫る幽霊船へまっすぐ視線を向けながらぼそりと呟く。
「生憎。ベタなホラー展開で委縮するクチではないのですよ、私達は」
 海に落ちる心配などないくらいに近付いた船。そちらへ飛び移るヨハナの掛け声はスタイリッシュ&クールに──。

「胴体着陸っっっ!?!?」

 ──ならなかった。



 破邪の結界をまとったヴォルペはクルーたちへ視線を向ける。仕事の時間だ。
「さあ、おにーさんと遊ぼうか!」
 周囲のクルーは彼に気づいて体の向きを変える。他にも何人か乗り込んできてはいるが、まずはこの優男をどうにかせねば。
「さあお掃除お掃除! 道をきれいにしませんと! ね!」
 転んでもすぐ起き上がるヨハナは杖のような大きさの鍵を振り回す。道をきれいにしたいのなら──全部、吹き飛ばしてしまえば良い!
 その先を切り開かんとプラックは力強く蹴りを放つ。素早く放たれるそれは鋭利な刃物の如く迫り、硬いものを削る感触が伝わった。
「こっからがおれさまの本領発揮だ。派手に暴れるぜえッ。ついて来なッ!!」
 ダブルラリアットで周囲を蹴散らし、先頭を駆けたグドルフはサーベルを持った骸骨──船長の前へ立ちはだかる。雑魚の相手は仲間頼りだ。
 すかさずアレクシアが両者の間に滑り込み立ちはだかる。睨みつけるは空洞の眼窩だ。
「あなたの相手は私だよ! もしも無念や後悔があるなら、ここで全部吐き出しちゃいなさい!」
『おや、お嬢さんは聞いてくれるのか。嬉しいね』
 船長はカラカラと骨を鳴らしながらアレクシアへ答える。話ができる程度の知能は残っているらしい。
 振り上げられ煌めいた刃へ、半身捻った彼女の背後ではグドルフが赤の闘気を見に纏う。山賊らしい斧を手に持ち、いかにも重そうなそれを軽々と振り上げて。
「おらよッ!!」
 ぶおん、と風を切る。大振りに見えながらも戦いで鍛え抜かれた技術を前に、避けるのは容易なことではなかった。
『やれやれ、話の邪魔だなんて無粋な』
 声色に苛立ち──いや、怒りが混じる。その周囲にパキパキ、と小さな音が発生し始めた。
「《オレア・イリスフォリア》」
 魔を退ける棘の花が氷で象られ、敵を妨害せんと取り巻いていく。たん、と甲板を蹴った船長はグドルフへ上から切りかかった。
 イレギュラーズが手練れであれば敵もまた然り。スティアは誰1人倒れさせないようにと戦場へ素早く視線を走らせ、大天使による祝福を送る。
(こっちの船に手出しできないくらい、派手に暴れ回れてもらわないと)
 そのサポートをするのが自分だ。心してかからねば。
 アレクサンドラは皆と歩調を合わせ、自身の最速より1歩遅れて甲板に立つ。ケンタウロスの如き人馬一体の姿を持つ彼女は、その手にしかと剣を握っていた。
「気合いを入れて行きますよー!」
 閃く刃。執拗に牽制してくる剣筋にクルーは少しずつ追い詰められ、その体を傷つける。鶫はアレクサンドラを巻き込まないよう移動すると、身長に届きそうな長さの大型パワードライフルを向けた。
「付与が効いている内が勝負ですね。薙ぎ払っていきます!」
 狙って──引き金を引く。それは的確にクルーを撃ち抜きさらにその先へ。

 クルーたちの多くはヴォルペという存在に引きつけられている。敵、敵、敵。この戦場において命を狙われているのは船長を相手取り立ちはだかるグドルフとアレクシア、そしてヴォルペだろう。
 神秘の力をまとっているとは言え、錆びて言えども武器。ほとんど力はないがヴォルペへ微かにでもその刃は届く。鉄壁の如き抵抗力が邪をことごとく払いのけるが、それでも痛覚は正常だ。
 痛い、だけれど。
「はは、楽しくなってきた!」
 ヴォルペは笑う。ああ、自分は今、生きている。この時間こそ自分が生きているのだと分かる。
 決してマゾヒストではないが、自分が受けなければ誰かに向かっていただろう痛みだ。誰かが傷つくくらいなら喜んで自分が受け止めよう。
「イレギュラーズから死者は出したくないんだ。だからほら、他の仲間を倒したいならまずはおにーさんからだぜ?」
 廃滅病と闘う仲間。その仲間を助けたい者たち。この海で戦う皆。その全てを守ることは出来ないから、せめて今ここにいる仲間だけでも護りたい──いいや、護らなければ。
 この先に進むためにも、全力で。
 そうしてヴォルペに引きつけられるクルーを牽制してかかるアレクサンドラ。素早く視線を移していくが、スティアと鶫によるヒールは頼もしくまだまだ『万が一』は起こらない。
(戦闘不能の他人(ヒト)を乗せて運ぶかもしれないと思いましたが、杞憂のようですね)
 攻撃に重きを置いて良さそうだ、とアレクサンドラは剣を握り直した。
 スティアがアレクシアたちへ天使の福音を響かせ、周囲に漂う不浄の気を打ち払う。そんな最中、ヨハナはヴォルペから注意が逸れてしまったクルーを目にする。
(おっとここはヨハナの出番でしょうか! 出番ですね!? 今回は固い方が多いと思っていましたがお任せを!!)
 見つけた以上逃しはしない。ヨハナはとうっ、とクルーたちの前へ立ちはだかりポーズをとった。
「聞かれてなくとも応えましょうっ! ヨハナは混沌戦隊イレギュラファイブのミドリイレギュライっ!」
 人語を話せずとも人語を解す幽霊たちである。その下顎骨をかくんとおろし、人で言えばあんぐりと口を開けている状態であろう。
 なんだこいつヤバいぞ。まずこいつから倒さねばならないのではないか。
 彼らに声が出せるのならそんな話をしていたかもしれない。ともかくとして、クルーたちはヨハナを『倒さねばならない存在』と認識した。
 ヴォルペとヨハナが引きつけ、攻撃を加えていくところへプラックが混ざる。レジストクラッシュで最後のクルーを倒したヴォルペは視線を船長たちの方へ向けた。
「ちっ……ちょこまかとウザッてえな」
 グドルフの苛立つ声。短期決戦を狙いたかったが、そう思い通りになる相手でもない。船長とつくのなら然もありなん。
「ですが、もう少しですよ!」
 素早く移動したアレクサンドラが牽制をかけ、その背後からヨハナが肉薄する。握った鍵を、思いのままに殴りつけながら。後には一時クルー掃討へ回っていたプラックも続いた。自らの頬を殴って気合いを入れ直し、いざ最後の敵へ!
『もう少し? いいや、まだまだだよ』
「ううん、皆が来たからにはあともう少し! だから何か吐き出すなら今のうちだよ!」
 周囲の摩素を凍らせながら告げるアレクシアに、船長は束の間黙り込む。
『……越えたかったのさ。もう叶わない夢だけれどね』
「私達は絶望の青を越えてみせる。果てた貴方達の分まで、必ず!」
「それにまだ大事な戦いだって残っているのに、こんな所で躓いてなんかいられない!」
 鶫の放ったマイクロミサイルが飛来し、直後スティアが周囲を浄化したことで仲間へ活力を与える。船長との戦いで傷を負ったグドルフは、しかしそれでも頑丈な体を張って斧を振り上げた。
「そろそろ仕舞いだ」
 ニヤリと笑って──力一杯、振り下ろす!
 グシャリと床にめり込む斧。しかしその前に確かな手応えをグドルフはは感じていた。乾いた音を立てて甲板を転がったのは白く細いモノ。船長の腕である。
「おにーさんたちはさ、越えなくちゃいけないんだ! 護りたいもののためにね!」
 ヴォルペがすかさず仕掛け、ヨハナもまた拳を握る。そう、まだやっていないのだ。右ストレートでぶん殴るを!
 アレクサンドラの牽制攻撃も加わり、いよいよ翻弄する側から翻弄される側となってくる船長。カラカラと笑う暇もなくただただ躱して受けて。
『お嬢さんの言う通りだったようだ』
 サーベルを振り抜けば、受け流したグドルフがにやりと笑う。海の男もしぶとく頑強だが、山の男もまた然りと言うのだろうか。
 グドルフの陰からプラックが一直線に踏み込んでくる。敵の攻撃が終わった不意の一瞬。
 たとえ船長の動きを見きれなくとも、斬りかかられたとて動きを止めることはない。骨の音が木霊しようと、立ち止まり惑わされることもない。何故なら──。
「俺は蛸髭だからだ!!!」
 誰かのために。そんな勇気と欲望を込めた必殺の一撃をプラックは船長へ向けた。自らの直情をBBGに乗せて振り抜けば、船長の頭が跳ね飛んで行く。

 頭はどこか遠く──やがてパシャンと水しぶきの音が聞こえて。首から下は頭を失い、操り糸が切れたかのようにガシャンと崩れ落ちた。

 やったじゃねぇか、とグドルフはプラックの肩を叩くと辺りを見渡す。
「これでちったあ海も綺麗になったか? 海に似合うのは薄汚ェ骨じゃなくて、水着のネエチャンであるべきだからなあ。ゲハハハッ!」
 響く高笑い。アレクシアが宙を見上げれば、彼女の瞳には骨となった肉体を離れて彷徨う魂が見え始める。ここへ縛られている間に磨耗したのか、その輝きは酷く弱々しい。
 アレクシアはそれらへ手を伸ばす。おいでと、こちらだよと言うように。引かれた魂たちは彼女へ近づき、かの身へそっと収まっていった。
 巡る巡る断片的な記憶。絶望の青を進みたかった想い。残してきた家族。嵐。狂王種。
(海は、冷たかったね)
 痛むのは体か、それとも心もか。アレクシアはぎゅっと胸元を握りしめて毅然と前を向いた。

「……もうこの海に沈めさせやしない。一緒にこの海を超えるんだよ!」


成否

成功

MVP

グドルフ・ボイデル(p3p000694)

状態異常

アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)[重傷]
大樹の精霊

あとがき

 お疲れ様でした、イレギュラーズ。
 絶望の青攻略したら、ポンポコさんにガッポリ貰いましょう!

 またのご縁をお待ちしております!

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