シナリオ詳細
<鎖海に刻むヒストリア>ベビー・ブルーと共に
オープニング
●
「やあ。大活躍じゃないか」
イレギュラーズを見た『黒猫の』ショウ(p3n000005)はにこやかに告げる。その手に握られているのは海洋からの依頼書だ。
新天地(ネオ・フロンティア)を目指し女王イザベラが大号令を発令したこと、絶望の青にてアクエリア島という橋頭保を確保したこと。そして廃滅病(アルバニア・シンドローム)という死の呪いが一部の仲間にかけられたこと。これらはもう皆の知るところであろう。
幸か不幸か、廃滅病の存在はイレギュラーズたちと海洋国の士気を上げた。前半の海以上に後半の海は過酷な環境であったが、それでもだ。
廃滅病の進行を遅らせることはできても、完治させることはできない。唯一の方法は──冠位であるアルバニアを倒すのみ故に。
つまるところ、一同は背水の陣を迫られていた。引けば仲間が死ぬ。なれば進むしかないのだと。アルバニアとしては誤算だったかもしれない。
「海洋としても、俺たちとしてもそろそろチェックメイトといきたいところでね」
仕掛けるよ、とショウは依頼書をイレギュラーズに見せた。そこにはこれまでの少数艦隊で安全確認・掃海という作戦を放棄する旨が載せられている。
「海洋と、俺たちローレット。そして鉄帝を加えた全戦力での大進軍だってさ。一気に絶望の青攻略を進め、アルバニアを炙り出す」
これまで以上の快進撃を行えば、行おうとすればかの大魔種は確実に止めようとするだろう。あちらも総力戦で──自身も姿を現し、その力を振るうに違いない。そして絶望の青での決戦が行われるとなれば、あの男──海賊ドレイクも、また。
「勿論こちらも全力で戦うし──キミたちには助っ人も来てるよ」
ほら、とショウが手で示す。その先にいた1人の女性は立ち上がるとイレギュラーズたちのもとへ近づこうとして、
「きゃっ」
何もない所でこけた。
「アリアちゃんっ!?」
ショウの話を聞いていた『焔の御子』炎堂 焔(p3p004727)が目を丸くして駆け寄る。彼女の手を借りて立ち上がった【ク・リトル・リトルマーメイド】アリアは恥ずかしそうに頬を赤くしていた。
「怪我はない? 大丈夫?」
「ええ……お恥ずかしいところをお見せしてしまいましたが、皆様の手助けができればと馳せ参じました」
よろしくお願いします、と一礼するアリア。先ほどの様子を見ればやや不安に感じるかもしれないが、それは陸地に限った事。水中であれば極めて高い運動能力と戦闘力を持つ部族の1人である。
「彼女たちの部族は海底遺跡の守りを担っているからね。十分な戦力になる、安心すると良い」
最も、行く先を考えればそもそも安心などできないかもしれないが。そう苦笑いを浮かべたショウはまた別の羊皮紙をイレギュラーズたちへ見せる。焔とアリアもテーブルへ近づき、その羊皮紙を覗き込んだ。
「何だろ、これ。イカ?」
「ご名答。キミたちに行ってもらう海域の狂王種だよ」
焔の言葉に頷いたショウ。それっぽい絵図の横にはそのモンスターに関する説明が記載されている。
狂王種『カラマーロ』。ヒトの大人をも優に越す全長で、海を真っ黒に染めるほどの墨を吐く。この海域を通ろうとした船がカラマーロに攻撃され、大破されたのだとか。
「こいつらは海から出てこない。大破された船も船底から貫かれたらしくてね」
木造とはいえ、軽い攻撃で破られるほど海洋の戦艦もヤワではない。触手の攻撃は予想以上に鋭く、危険なものとみて良いだろう。
「成程。この狂王種と戦うためには同じ舞台に立たなければ……海に潜らなければならないのですね」
「そういうことだ。海の中で本領を発揮するキミたちには最適だろう?」
呟いたアリアに笑みを浮かべ、ショウはイレギュラーズたちへ向き直る。
「キミたちには必要があれば水中戦闘用のスーツを貸し出すよ。水の中でも息ができるスグレモノさ。
ああ、安心してくれ。練達製だが『マトモな開発品』だ」
以前海洋での戦いでも使用されたものだとショウが告げれば、イレギュラーズたちは一様にホッとした表情を見せる。使用実績があるのなら大丈夫か、と。
アリアのような海種はわざわざ身に着ける必要もないが、別に『身に着けてはいけない』というわけでもない。必要だと思うのならば借りれば良いだろう。
「さあ、準備ができたら海洋へ。アクエリア島を経由して後半の海に出発だ」
よろしく頼むよ、とショウは皆へ告げたのだった。
- <鎖海に刻むヒストリア>ベビー・ブルーと共に完了
- GM名愁
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2020年05月21日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●
船が広い大海原を行く。その隣を『煌雷竜』アルペストゥス(p3p000029)はザブザブと犬掻きで泳いでいた。なんてことはない、船に対してアルペストゥスの体が大きすぎたというだけである。
すんすんと匂いを吸い込むと、まず海の匂い。そして隣を行く船からよく知る匂いと、あまり面識がないまでもローレットにて覚えのある匂いと──知らない匂い。最後に関しては実に興味津々なのだが、ここでアルペストゥスが顔を突っ込み間近で嗅ごうものなら、船の損傷は免れない。我慢だ、我慢。きっと後でも嗅げるだろう。
後方へと流れていく風をふわりと煙が追いかける。『闇討人』如月=紅牙=咲耶(p3p006128)は視線でそれを追い、そして視線を正面へ戻した。
随分と進んできた気がする。それも当然、イレギュラーズたちは後半の海を破竹の勢いで進撃していた。
(この広大な絶望の青の航海ももう終盤。そろそろ海の向こうも見えてきそうな所でござるが……)
ふわぁ、と思わず欠伸が出る。そう、かなり進んできたと言ってもまだまだ、もう少しばかり。海は広いのだ。
「今回は巨大なイカが相手でしたね」
「ああ。……狂王種って前置きがなきゃ、イカ料理食べたくなる絵面なんだろうがな」
『百錬成鋼之華』雪村 沙月(p3p007273)の言葉に頷き、肩を竦める『雨夜の惨劇』カイト(p3p007128)。その言葉にえっと声を上げる者が1人──『ムスティおじーちゃん』ムスティスラーフ・バイルシュタイン(p3p001619)だ。
「食べないの?」
多くのイカ退治に赴きムスティスラーフは知ったのだ。『倒したイカは食べる物だ』と。
でも狂王種だから、と言いかけたカイトの耳にグゥゥゥという音が入る。どこだ、この船じゃないぞ。
「ギャーウ」
アルペストゥスだった。いや、正確には彼が鳴らす腹の虫だった。
「もしかしたら、食べられるかもしれませんよ」
そんな様子に思わずくすりと笑ってしまったのは【ク・リトル・リトルマーメイド】アリア。戦いの前に不謹慎かもしれないが、イレギュラーズたちのやりとりは過分な緊張感をほぐしてくれるようだ。
「でも、まずは討伐からですね。炎堂さんのお友達がご一緒なのは心強いです!」
頑張らなくちゃ、と『差し伸べる翼』ノースポール(p3p004381)は自らへ喝を入れる。彼女自身へ宛てた言葉に、それを聞いた『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)も頷いた。
「今回はアリアちゃん達も力を貸してくれてるんだもん、ボク達も頑張らないとね。早くしないと──」
つ、と視線を動かした焔が見えたものに「あ!」と声を上げる。次いで横並びに泳ぐアルペストゥスも眼前の海に気づいた。
海面からでもわかるほどの、黒。この一帯だけ海の色が変わってしまっているようだ。
船の止まる動きを感じながら、沙月は成る程と小さく呟く。
「これが墨ですか」
話には聞いていたが、まさか本当に海を真っ黒く染めるほどとは。水流の動きが敵の位置を教えてくれることを祈ろう。
ノースポールは音の反響を聞き取ろうとしたが、外の──海面より上の音が多すぎて、海中の音が聞こえづらい。これも水流同様、実際に行かねば分からないようだ。
彼女は顔を上げると懐から目薬を出して点眼する。焔は水の中でもより動きやすいようにとポーションを。
「さてさて、今回も見事な巨大烏賊。ここは一つ拙者も気合を入れてゆくでござるよ」
咲耶は最後にぷかりと煙を吐いて、刻みタバコを処理するとキセルを懐へ。ムスティスラーフも挫けぬ心を胸に──いざ。
どぷん、どぼん、と水柱が上がりイレギュラーズたちの体が沈んでいく。
「まだこの辺りは見えますね……」
沙月は視線を走らせる。水中戦というだけで慣れないのだ、強襲されるのは不安があった。しかし幸いにしてカラマーロたちはもっと先、或いはもっと深い場所にいるらしい。
「水中戦のコツとかあったりするのでしょうか?」
「コツですか……私たちはこの海において身体能力が異なりますから、あまり良いアドバイスにはならないかもしれません」
人魚姿になったアリアは首を傾げ、しばしして緩く頭を振る。こればかりは自ら慣れていくしかない。
船を背に泳いで行けば、だんだんと墨の色が濃くなっていく。カラマーロが近いのだ。ノースポールのエコーロケーションにはしっかりと引っかかっている。
「……皆さん、下です!」
ノースポールの言葉に一同がそちらを向けば、墨の中で素早く動く影。『海のヒーロー』ワモン・C・デルモンテ(p3p007195)がキラリンと目を輝かせた。
「うおー! イカの群れだー! テンション上がるぜー!」
こいつらを倒したら皆でイカ焼きパーティである。1匹たりとも逃すわけにはいかない。そうでなくとも逃すわけにはいかない。
さあ、イカ狩りの始まりである!
●
「はしゃぐのはこいつらを倒してからだな! 美味そうな相手だけど油断しねーでいくぜ!」
ガシャコンと背負ったガトリングを子カラマーロへ向けるワモン。そこから勢いよく飛び出したのはイワシ──ではなくイワシ型爆弾。水中でもはや泳ぐように滑らかな動きを見せるイワシは、生臭い匂いを軌跡に子カラマーロへ突撃していく。
「アリアさん達には私達と一緒に」
「頑張ろうね!」
「はい!」
沙月の言葉に誘われ、アリアは焔とともに子カラマーロの元へ向かった。焔は多くの子カラマーロを周囲に、大声を上げる。
「さあ、ボクたちが相手だよ!」
彼女のポツポツと引きつけられ始める子カラマーロ。残った敵はアリアを始めとした友軍たちが相手取る。その様子を見たノースポールはアルペストゥスとともに親玉──カラマーロの元へと向かい始めた。まだ使う余裕のあるエコーロケーションは、真っ黒な墨の中でも敵の存在をしかと教えてくれる。
(どれだけ黒く染め上げようとも、私には丸分かりなんだから!)
近づいてくる敵の気配。もはやそれに特殊な技能は必要なく、肌に刺さるようなそれが水を介して伝わってくる。
「頑張ろうね、アル!」
「ギャウ」
嬉しそうに鳴くアルペストゥスはイルカのような滑らかさで泳ぐ。水流の流れと気配を傍らに、ノースポールは敵の眼前まで迫った。ここまでくれば、たとえ水が黒くとも視認できる。
「あなたの相手は私達だよ! 捕まえられるかな!?」
彼女の言葉に反応したカラマーロが動く気配。それを読んだノースポールは素早く横へ体を捻って回避する。
小さなカラマーロが機敏であるように、ノースポールもまた一筋縄では捉えられない。
その間へ──正確にはカラマーロと子カラマーロの間を塞ぐようにして──アルペストゥスが翼を広げ睨みつける。大きな獲物だ、絶対に逃してはならない。そして仲間たちの邪魔もさせないようにしなければ。
その一方で、子カラマーロを引きつけた焔はイカスミから敵を離すように誘導していた。この辺りなら視界もそこまで悪くない。焔が止まったタイミングでワモンがガトリングを子カラマーロへと向ける。
「うおおおおお! 俺はイカになんて負けねえ! 海豹牙斗燐具薙払猛怒(アザラシガトリングなぎはらうモード)!!」
大きく振られる首に合わせ、ガトリングが左右に揺れる。遠くとも近くとも、彼にかかれば一網打尽だ!
ガトリングの攻撃が止むと同時、何人もが動き始めた。ふわりと沙月の袖が踊るように水中を舞い、しかし一瞬ののちに転じた攻撃が子カラマーロを追い詰めていく。
「まだ終わりませんよ」
流れるように、しかし確実に。緩急のある沙月の動きは敵を翻弄した。追い詰められていく子カラマーロへ強化外骨格の掌部が向く。
(さて、大人しく冷凍イカ作るか……)
ゆらりゆらりと掴み所のない子カラマーロ。これでカイトの一撃が当たらなかったとしたら──当たったとしてもそうとは言い切れないが──この戦いは相当の苦戦を強いられることだろう。
ならば尚更当てなくてはいけない。ここが皆の突破口だ。
「いくら回避機動が得意だっても、冷凍イカになっちまったら満足に動けねぇだろ?」
カイトの強化外骨格からビームが放たれ、子カラマーロたちへ降り注ぐ。冷たく、凍るような雨は彼らの動きを鈍く緩慢にしていくようだ。そこへ範囲をかぶせるように雷撃が走る。
「大漁だよ、やったね!」
その命中率にグッと拳を握るムスティスラーフ。しかし子カラマーロたちも負けてはいない。引きつける焔へ突進し、足で打ち、はたまた親の元へ帰ろうと──。
「──行かせないよっ!」
したところで、焔の火炎弾が子カラマーロを威嚇する。敵は先に焔を倒さんと近寄ってきた。敵の姿を視界に収めながら、焔は再び口上を上げて敵の注目を引く。
(皆を助けるためにも、絶望の青なんか早く攻略しないと!)
本当は、そう思っている。ここで立ち止まっている場合ではないのだ。こうしている間にも、廃滅病にかかった仲間たちは刻一刻と命を蝕まれている。
早く、より強い力で倒す。確実な1歩が仲間を助ける1歩だ。焔の闘気が攻撃性を増してゆらりと揺れた。そこへ咲耶が素早く回り込み、
「御免」
必殺の紅牙流暗殺術が子カラマーロを切り捨てる。その動きは地上さながら、水中でも遜色ない動きだ。
咲耶と沙月が翻弄し、あるいはカイトが凍えるようなビームを的確に放ち、そこへ強烈な緑の閃光が走って子カラマーロたちを焼く。
ああ、ああ、早くこの人間を倒さなきゃ。必死に焔へと攻撃をしかける子カラマーロだが、彼女も容易に捉えられるものではない。
闘志の炎が巻き上がった直後、咲耶の乱撃によって焔へ攻めかかっていた子カラマーロたちが沈む。小さく息をついて見渡せば、やや離れた場所にいるアリアたちは未だ戦っているようだった。このままでもそのうち倒せそうではあるが──。
「アリアちゃんたちへ加勢に行こう!」
焔の言葉に一同は頷き、アリアたちの戦う方へ泳ぎだす。
(しかし、親烏賊を抑えるポー殿等の体力も長くは持つまい)
急がねば、と咲耶は皆の後へ続きながら、視線をカラマーロのいるであろう方向へ向けた。
ぶわりと墨が吐かれ、少し薄まってきていた海水に再び黒が満ちる。目をこらし、白き流星を放ったノースポールの体は、不意に思わぬ方向へ引かれた。
「…っ!」
アルペストゥスを一瞬視界に捉えながらも振り回されるノースポール。ぶん、と勢いよく投げ出された体は水中を揺蕩う。咳き込むと気泡が海面へ浮かび上がった。
きっとここで力を抜いてしまえば、意識を失ってしまうだろう。
(まだまだ……仲間が来るまでは、耐え抜かなきゃ!)
あちらで仲間が、焔の友人たちが頑張っている。自身にも喝を入れたじゃないか、頑張るのだと!
すぐさま起き上がってカラマーロへ張り付いたノースポール。アルペストゥスに庇われながら彼女は引きつけようと声を上げる。広げられた翼も、敵を睨み据える瞳も頼もしい。彼からのブレイクフィアーもノースポールを支えてくれている。
──そんな最中、後方から声が聞こえた。
「……! アル!」
「グルゥ」
アルペストゥスにも聞こえてようだ。仲間の、助けに来る声が。
墨のせいでかなり視界は悪いが、響いてくる声はだいぶ近い。ノースポールは仲間にも伝わるようにと声を張り上げた。
「そのまま前方です! 思いっきり、お願いします!」
ノースポールの声へ真っ先に反応したのは小柄な影。スイスイ泳ぐ姿はアシカ──否、アザラシである。
「オイラはアシカじゃねぇぇ!」
水中を錐揉み回転で突進していくワモン。恐るべき威力がカラマーロへ迫る。その背後から、咆哮。
「グゥオオオオオオオオウッ!!!」
すぐさま後退したアルペストゥスの声だ。その響きは仲間の士気を上げ、あと少しと闘志を燃え滾らせる。
「邪魔してくる足はこうだよっ!」
焔の闘気がカラマーロの足を捉える。敵は痛みを逃すかのように水中を暴れまわった。その間に再び墨が吐き出され、水中の黒がより濃くなる。
「流石は海の忍者、煙幕もお手の物でござるか」
咲耶は耳を澄ませ、水中の音を聞く。イカが海の忍者であるなら自身は陸の忍者、どちらが優秀か決着をつけるも良いだろう。
「──愚かなり。同じ忍びに目つぶしは通じぬ!」
捉えたぞ、と咲耶は目で笑い印を組む。生み出されるのは墨より黒き鴉の羽。竜巻のごとく取り巻いたそれがカラマーロの体を傷つけた。
竜巻の止んだ直後、ふわりと水中を舞うのは先ほどと真逆の白い姿。攻勢へ転じたノースポールだ。その手に虚無の剣を携え、皆の与えたダメージによって威力を上乗せしてカラマーロへ叩きつける。
沙月は一瞬の隙を見抜くなり大きく踏み込んで、前へ。その刹那に込められるのは殺人剣の極意だ。
カラマーロも重なるダメージに危機感を覚えたのか。巻きついてきた足を、しかしムスティスラーフは逆に捕まえる。引っ張ればどこに本体があるかなど明らかだ。
「そこだっ!」
大きく息を吸い、閃光を放つムスティスラーフ。のたうちまわる足は彼を引きずっていきそうで反射的に離してしまう。流石にカラマーロの親分だ、かなりのダメージを与えたはずだがまだ動けるらしい。ぶふぉ! と墨を吐き散らす。
「まっくろくろーいくろーいはお断りだよ!」
ムスティスラーフは顔をしかめ、周囲の仲間を探す。今のうちに治療してしまいたい。最も優先すべきはノースポールか。
そのノースポールはといえば、音を頼りに仲間へのサポートをしていた。その言葉を元にワモンが墨に負けず攻めていく。
「これでいけないかな? えいっ!」
手元に火炎弾を作った焔はカラマーロ向けて思い切り投げた。その後に続くのは目を凝らしに凝らしたカイトの一撃。呪われた魔弾である。
少しずつ墨が薄まっていく中、アルペストゥスが魔力を弾丸に変える。これは狩りだ。徹底的に倒さねば不意打ちを食らうやもしれない。
そう、手負いの獣(獲物)ほど恐ろしいのだ。
(少しは目も……戦いも慣れてきたでしょうか)
沙月はよくよく墨の向こうへ目を向け、カラマーロへ攻撃を打ち込んでいく。敵も体力の底が見えてきたのだろう。隙が多く、そして最後の足掻きと言わんばかりに力任せな攻撃だ。
しかしどれほど巨大な烏賊であろうと、斬りさえすればまな板の上の鯉である。ならば紅牙流の暗殺術はそのための刃となろう。
不意にカラマーロの体が不自然に強張る。そしてゆっくりと弛緩していく中、咲耶は妖刀をひと振りした。
「今夜は此奴を捌いて、酒のつまみにしてくれるでござるよ」
悪刀乱麻。使う者次第で手段も殺法も変わる技。彼女のみが会得した型でもって、カラマーロは討ち果たされたのだった。
●
海面へと顔を出したノースポールは思わず声をあげて目を瞑った。ずっと墨の漂う海で戦っていたのだ。海上の急な光量に驚くのはやむを得ない。
(ですが、休んでる暇は無さそうですね)
まずは帰還しなければ。仲間たちも目を盛んに瞬かせているが、このまま海を揺蕩っていてはいつ他の狂王種が狙ってくるともわからないのだ。
船まで泳ぎ、順に上がっていくイレギュラーズたち。最後にアルペストゥスがざばんとしぶきを上げて海上へ姿を現す。
力無くしたイカはふわふわとあたりを漂い、いずれは分解されて跡も残らない予定だった。だがしかし、獲物を分解されてはたまらない。
ちゃんと持って帰らなければとアルペストゥスはイカを咥え、動き出した船と並んで泳いでいく。その先はもちろん橋頭堡となるアクエリア島だ。
「終わったらイカ食パーティーを開こう! みんな食べるよね!」
ムスティスラーフが嬉々とした声を上げる。アルペストゥスの咥えた獲物はかなり大きく、いくら人数がいても食べ足りないことはないだろう。
だがまずは──食べられるのか、否か。食べられるのなら生でも良いのか、火を通さねばならないのか。それが問題だ。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れさまでした、イレギュラーズ。
イカ焼きが食べたくなりました。
それでは、またのご縁をお待ちしています!
GMコメント
●重要な備考
<鎖海に刻むヒストリア>ではイレギュラーズが『廃滅病』に罹患する場合があります。
『廃滅病』を発症した場合、キャラクターが『死兆』状態となる場合がありますのでご注意下さい。
●成功条件
狂王種『カラマーロ』の撃破
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。不測の事態は起こりません。
●エネミー
・狂王種『カラマーロ』
巨大なイカの狂王種。その墨は海を変色させます。
足による締め付けや鋭い突きを行います。複数の足を用いた範囲攻撃もするようです。
攻撃力と反応に優れていますが、回避はそうでもありません。
イカスミ:自身中心にR4の範囲へ墨をまき散らします。5ターンをかけて判定マイナス効果は減衰していき、5ターン事に墨を吐くことによって判定マイナス効果がリセットされます。
締め付け:1人を捕まえ、締め付けたのちに遠くへ放り出します。【体勢不利】【飛】
・子カラマーロ×20
大人サイズのカラマーロ。
墨を吐く、締め付ける等は行いませんが鋭い突きはカラマーロ同様脅威となるでしょう。
攻撃力と回避に長け、大して防御力は低いです。
●フィールド
該当海域までは船で移動します。その後、海中へ潜り戦闘となります。
海面からでも海水の黒さがわかるほどで、潜ればかなり視界は悪くなり、判定にマイナスがつきます。
必要な方には水中戦闘スーツが貸し出されます。水中での行動におけるマイナス補正は気にしなくて構いません。
●友軍
・【ク・リトル・リトルマーメイド】アリア、その他部族の海種×9
炎堂 焔さんの関係者です。海洋外縁部に存在する海底都市遺跡の管理と守護を任された部族となります。攻撃特化です。
彼らは種族特徴に加え、部族に伝わる技術により水中戦闘と運動能力に長けています。陸地でに不器用さはそのペナルティと言っても良いでしょう。
彼らはその人数で海洋友軍同等の働きをすると認識してください。指示がなければ子カラマーロの半数ほどを相手取ります。
●ご挨拶
愁と申します。再び焔さんの関係者をお借り致しました。
全力を出せる彼女たちとの共闘です。水中戦闘は不慣れな方も多いかと思いますが、気合入れていきましょう。
ご縁がございましたら、よろしくお願い致します。
Tweet