シナリオ詳細
ユリイカ・ユーカリの憂鬱。
オープニング
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唯我論者は、“私”の定義を始めた。
●
『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)は、二人居る。
奇妙な噂話が流布され始めたのは、今から少し前の事であった。
ギルド・ローレットは今や各国の要人をも唸らせ、多大なる信頼を集める、一大組織だ。
その看板情報屋であるユリーカに関する噂は、俄かにローレットを騒然とさせていた。
「でも確かに、俺も見たぜ」
ギルドで顔を突き合わす二人の情報屋。その内の一人が、そう切り出した。
「ユリーカちゃんと軽く雑談をして此処を出たあと、街角をぶらついていたんだ。
そしたら、其処にもユリーカちゃんが居たんだ」
「……そっくりさんとかじゃなくて?」
「俺もそう思ったんだが、どっからどうみてもユリーカちゃんなんだよな。
いい意味でも悪い意味でもあんな娘、そんなに居ないだろ?
それに、実際、声も掛けてみたんだよ。『あれ? なんで此処にいるんだ?』って」
「そしたら?」
「『難しいことはわからないのでゲス。そんなことより、今日も事件を解決するでゲス!』って。
別に何も可笑しいところもないしさ、ダッシュで追いつてきたのかな、とか思って別れたんだけど」
「……」
「どうした?」
「なんか……」
「おう」
「―――ユリーカの口調、そんなだったっけ?」
●
「ユリーカ・ユリカめ! 許せないでゲス!」
とある路地裏で、少女に見える人物が憤っていた。
「かのギルド・ローレットの看板娘にまでのし上がった挙句、情報屋としてちやほやされて、許せないでゲス!」
橙色の帽子とマフラーに、緑の羽根。
「全く、ユリーカなんて、ことあるごとにゴールドばら撒いたり、あざとい口調で人気を集めたりして、卑劣極まりないやり口なのでゲス! 下衆女なのでゲス!」
可憐な声色と直線的な胸部。
―――外見上の特徴は、その存在が“ユリーカ”であることを定義している。
そして、その存在は“ユリーカ”を非難していた。
「やってやるのでゲス。これまで地道に続けてきた妨害工作のフィナーレなのでゲス。
……二人も! 準備は良いでゲスか?!」
ユリーカに見える少女は、傍らで壁に肩を預けていた二人の男性に目を遣った。
「世は全て事もなし、そういうこと―――である」
剣を悠々と構えた金髪碧眼。
身長が『蒼剣』レオン・ドナーツ・バルトロメイ(p3n000002)の三分の二程度しかなく、中肉中背で、謎の“である”語尾であること以外は“ほぼレオン”と同一である男と。
「この指輪は魔法防御があがるんだヨネ」
全身黒コーデの碧眼。
身長が『黒猫の』ショウ(p3n000005)の三分の二程度しかなく、中肉中背で、謎の“ヨネ”語尾であること以外は“ほぼショウ”と同一である男。
「いい意気なのでゲス!
ユリーカをぶっ飛ばして―――今日こそボクたちこそが本物であると知らしめてやるでゲス! 粛清でゲス!」
ユリーカに見える少女は、レオンとショウに見える男を引き連れて路地裏から飛び出していった。
「―――ん?」
『かくて我、此処に在り』マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス(p3p002007)は偶然、その一団の様子を目撃していた。
「あれ、ユリーカ……? さっきギルドにいなかったか…?」
マカライトは顎に手を遣り「ふむ」と一呼吸おいた。
そして、“ユリーカに見える少女”から感じた、尋常ならざる気配。
最近の噂話。
目撃した謎の一団。
―――ユリーカ・ユリカは、二人居る。
●”私”の定義
私は私か? 貴方は私か? まずは“同一”の定義をしよう。多くの論理学者が受け入れる同一性の概念は、“ある対象にとって真であるすべてのものが、他の対象にとっても真であれば、この二つの対象は同一である”と定義する。
例えば。私が貴方を包丁で刺してみよう。貴方は痛いが、私は痛くない。これは明確に同一性の概念に反する。したがって、私と貴方はは同一ではないように見える。
例えば。私が貴方に「子供の時の自分と、今の自分は同じ人物か、それとも違う人物か」と問おう。これには二つの答えがある。
一つ。「違う人物だ。あの頃から背も高くなり、太って、歳を取っているのだから、違う人物だ」。
二つ。「同じ人物だ。子供の頃から自分は明らかに変化したが、しかし、自分は同じ人物だ」。
そして、後者が標準的な解釈である。
だが、今の貴方を包丁で刺しても、過去の貴方は痛くない。これは明確に同一性の概念に反する。けれど貴方は同一だと主張する。
それでは、私とは何か?
- ユリイカ・ユーカリの憂鬱。Lv:15以上完了
- GM名いかるが
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2020年05月18日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
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『かくて我、此処に在り』マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス(p3p002007)は街路で一人、唸っていた。
(さっき裏路地で見かけた時といい、ユリーカとオーナー達は何をやっているんだ?
まるで仇敵を討ちに行くような雰囲気を出していたが……)
――何かおかしい。マカライトは首を捻った。
(……いや待て、なんでギルドオーナーと情報屋筆頭の二人が路地裏で話し合ってる?
ギルドでも内密な話は出来るはずだし――――)
マカライトとはまた別の場所。其処でも、ユリイカ一行の姿が目撃されていた。
「ん? ありゃユリーカとレオンとショウか?
今はアルバニアのなんだかんだで忙しいだろうに、んなところで何やってんだ?」
『暴風騎士』エレンシア=ウォルハリア=レスティーユ(p3p004881)は、街を足早に進んでいくユリイカ一行を見つけ、呟いた。
「レオンがユリーカに付き合っているのはまぁわかるとして、ショウもだなんて。
……何かの集まりでもあるのかしら?」
偶々エレンシアと同じ依頼に同行していた『レジーナ・カームバンクル』善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000665)もその様子に首を捻った。
「……まあいいや。どうせ暇なら相手して貰うか。
ついでにちょっとユリーカを殴り飛ばしてみる感じで! ラド・バウの時みたいにな!」
「……また拗ねるわよあの子。
それにしても、彼女達さっきローレットにいた様な気もするけれども。
それになんだかイカ臭……独特な匂いがするような」
レジーナが顔を顰めると、エレンシアは「そうか?」と首を傾げた。
エレンシア達ともまた別の場所。今度は『ふわふわな嫉妬心』エンヴィ=グレノール(p3p000051) がユリイカ一行の姿を目にしていた。エンヴィの隣には『半透明の人魚』ノリア・ソーリア(p3p000062)も居る。
「あら、ユリーカさん……確か、少し前にローレットで忙しそうにしてたと思ったのだけど……」
……? エンヴィーが角度にして二度、首を傾げると、「ほんとですの!」とノリアは頬を緩めた。
(うーん、よく見たら、あのユリーカさん……胴が長過ぎるような)
……?? エンヴィーは角度にして十度、首を傾げた。
(それに、ユリーカさんって……あんなに手が多くないような)
……??? エンヴィーは角度にして二十度、首を傾げた。
「ユリーカさん……まさか、偽レオンさんが許可をお出しになったということにしてまで、ないないなさるおつもりですの……?」
首の角度がどんどんと深くなっていくエンヴィを他所に、ノリアはユリーカの行動を恒例の悪事に結び付けると、頭の上に電球を浮かべた。
「え、ちょっと待って……目の位置おかしくない?」
エンヴィーがノリアとユリイカとで視線を往復させながら戸惑いがちに言うが、
「さすがに、見すごせませんの……この先へは、わたしたちを倒してゆくことですの!」
ノリアは駆けだしていく。残されたエンヴィーは遂に首を四十五度傾けて、
「……あれ、イカよね!?」
ある街の広場。
数名のイレギュラーズ達がユリイカ一行を追いかけ始めている中、
「ユリーカ、今日はなんかオシャレな翼だな! いつもは春の空のような色だった気がするけど。
そんなオシャレしてどこ行くんだ?」
――そのユリイカとの、極めてナチュラルなファーストコンタクトを『鳥種勇者』カイト・シャルラハ(p3p000684)が成し遂げていた。
「!!」
ユリイカはその声に思わず足を止めた。気にも留めずに、カイトはてくてくとユリイカに近づいていく。
「……あとなんか美味しそうな海の匂いがするな?
あ、さてはなんか美味しいもん隠し持ってるだろ!」
「ち、ちがうでゲス! ボクちょっと急いでいるのでゲス!」
「え、違う? じゃあ何だろ、お前さん食材適正なんて持ってたか?」
天然でユリイカを詰問していくカイトに、ユリイカが答えを窮していると、
「――ちょっと待った!」
マカライトが柄にも無く急いだ様子で、カイト達へと駆け寄って来た。
(違和感……そうか、翼か!)
カイトも指摘していた様に、ユリーカの翼は青色だ。しかし、目の前の“ユリイカ”は――“緑の羽根”。
「……!!」
ユリイカはマカライトの鋭利な視線に気づくと、急いでその翼を隠そうとするが、
「てめえら、一体何者だ……!」
――既に。マカライトはガンブレイズバーストを構えていた。
●
「街の中で暴れちゃいけないよ、ユリーカ……!
……ん? ユリーカの様子がおかしい……?」
広場での騒ぎを聞きつけた『特異運命座標』羽住・利一(p3p007934)が現場へ駆けつけると、異様な光景が広がっていた。
「こいつはユリーカじゃない! ユリーカに化けた“別物”だ!」
「――え、ユリーカではない?」
利一がマカライトの言葉にユリイカを二度見する。確かに様子はおかしい。
「偽物、か……。しかし、ああもツルっと平らになってしまうとは」
同じく騒ぎを聞き、利一と共に駆け付けた『死力の聖剣』リゲル=アークライト(p3p000442)が何処か憐憫を孕んだ視線でユリイカの胸元に視線を遣る。
(胸の部分はそっくり……瞳もこれはこれで可愛……いや。
流石に本人が見たら怒りそうだ)
リゲルが内心でそう呟くと共に、別々にユリイカを追ってきたエレンシア、ノリア達も合流する。
イレギュラーズ達に囲まれたユリイカとレヨン、ジョーの三人。誤魔化し切れないと判断したのか、ユリイカは「ふ……」と不敵に笑みを浮かべた。
「ばれてしまったのなら仕様が無いでゲス!
このボク――魔種ユリイカ・ユーカリが、お前達をこてんぱんにして返り討ちにしてやるでゲス!」
●
見た目は完全にユリーカであるユリイカから、大きな敵意が漏れ出る。冗談のような敵だが、魔種であることに偽りは無さそうだ。……自ら其れを宣言する敵というのも、珍しいのだけれど。
「ここは危険です! 近づいてはなりません!」
リゲルは周囲の野次馬達へと叫ぶと、すぐさま保護結界を張る。
「ここは戦場になるかもしれない! 安全な所まで避難してくれ!」
利一がリゲルに続いて周囲に声を掛けると、ユリイカから少し距離を取り、
「ローレット職員に化けた魔種との戦闘だから……怪我をしないように離れて……!」
エンヴィはユリイカの擬態を明言しつつ、住民達を退避させる。――人払いは完璧だ。
「ユリーカさん、おいたはいけませんの!」
ノリアが精神を集中させると、その身を大海の加護が覆う。体力と精神力を底上げしたノリアはユリイカの前に立ち、エンヴィへの動線を防ぐ。
そのノリアとは別方面からカイト、リゲル、エレンシア、そしてマカライトがユリイカを囲み、その前衛陣の後ろにエンヴィ、利一が構え、そして、レジーナがレヨン、ジョーの抑えに立っている。
「ん……風が変わったな! なるほど、勝負だな!」
ユリイカの擬態云々はさておき、漂ってきた戦いの匂いを嗅ぎ分けたカイトが待ってましたとばかりに三叉蒼槍を構えた。
「ちょっとピリッとするぜ?
……雷天煌星――!」
「……!」
視界を襲う純白の雷――その攻撃に、ユリイカは思わず躊躇ぐ。続けて、
「なんかお前さんは焼いたほうが良い気がするな?」
カイトから放たれる火焔の旋風――、ユリイカも、顔を顰める。
「ボクはイカじゃないのでゲス!
……ふん、少しはやるようでゲスね。
しかし、ボクの力を思い知るがいいのゲス!」
●
(ユリーカはいつもの事だから取りあえず問答無用で成敗しておくとして。
……それに付き合う二人もついでに成敗しておかなくちゃね)
酔って頭がおかしくなったのか、薬でトんでるのか知らないけれども。レジーナはユリイカとの会敵に入った仲間を横目に、眼前のレヨンとジョーを視界に捉えている。
「……特にレオンには辛酸を舐めさせられたし、ここでリベンジマッチと行きましょうか」
レジーナが自身の得物の刃先をレヨンへと向けると、
「良い眼をしてやがるぜ、お嬢さん。
此処は一つお手並み拝見といくか――である」
中肉中背の体躯から発せられる謎の小物感を醸し出しつつ、レヨンも剣を構える。
「――行くわよ!」
レジーナの灼眼が細められる。
重心を落とし、
地面を、一気呵成に踏み込み、――――爆ぜる。
「……!」
其れは地上に顕現すべき、蒼き彗星。
神速の踏み込みから放たれた一撃は、
「ぶへえっ!」
「――え?」
手応えあり――、直ぐさま次手に入るべく態勢を変えようとしたレジーナの眼前には。
……その一撃で吹き飛び、地面に横たり意識を失っているレヨンの姿があった。
●
「小細工や卑怯を好まず正面からぶつかってくるとはその潔さ見事だな!
こちらも正面から受けて立つぜ!」
エレンシアが満面の笑みで、大剣を振り上げる。
「選びな! “破滅と破滅”――、どっちがいいかを!」
「それどっちも破滅でゲス?!」
「その通り!」
上段から振り下ろされたエレンシアの裂帛の《一撃》(赤)、そして、一拍も開けずに振り上げて斬り抜く凄絶なる《二撃》(黒)――!
「……!」
「痛いでゲス! 許せないのでゲス!」
エレンシアの眼前には、ユリイカに受け止められた自身の大剣。
「腕を上げたな、ユリーカ」
口の端を歪めたエレンシアが、ユリイカを突き放すように弾ける。
「さすが魔種……! 一筋縄ではいかない、か。それなら!」
利一がマカライトの背後から放つ魔弾――“因果を歪める力“は己の生命力を犠牲にして、ユリイカに直撃する――!
「うぐ……! や、やるでゲスね」
「今だ! 畳みかけろ!」
利一が放った一撃は、ユリイカの防御態勢を崩し、彼女への被弾を高める。利一の掛け声に、
「事情はよく分からないけれど」
エンヴィはそう言って、ノリアの背後からフォトン・イレイサーの照準をユリイカに合わせる。
「――全く、妬ましいわね」
起こされた撃鉄――放たれし“無弾”。
その銃口からは蒼き燐光が溢れ出し、後。
顕現した怨霊がユリイカへと飛び掛かる――!
「嫉視、艶羨、羨慕、妬心……ふふ、貴方の気持ちだけは。
――たぶん、きっと。分かる気がするのよね」
「ふふ、ボクも、アナタには同類の匂いを感じるのでゲス!
そして、やられっぱなしは癪なのでゲス!」
ユリイカは、エンヴィが召喚した怨霊を腕で払いのけると、そのまま前衛陣を激しく打ち付ける。その攻撃がマカライトとリゲルに直撃し、二人は後退させられた。
「……っ! 攻撃の熾烈さだけは、本人とは似ても似つかないな!」
「全くだ……!」
マカライトの言にリゲルが頷く。崩された前衛をカバーする様にノリアがユリイカの前に立ちはだかる。
「ユリーカ……! 他人様のお金なんて貰っても、罪悪感ばかり募りますの!」
「それはボクじゃないのでゲス?!」
「しらをきろうとしても、無駄ですの!」
そう言ったノリアは「……わたしも使っちゃったのですけれど」と小さくごにょごにょ呟く。
「そ、それに、そろそろ十八歳だというのに、その体型と、へっぽこさ……!
ユリーカさんが本当にきちんとした大人になれるのか、不安になりますの!」
「う、うるさいでゲス! ボクも好きであのまな板を真似している訳じゃないのでゲス!」
ユリイカがノリアの挑発に見事に掛かり、腕を振るう。
「ほら、そうやってすぐ、暴力をお振るいになる……みんな、我慢して可愛がってあげてるフリをしてるのを、知ってほしいですの!」
「え?! あの小娘、そんなに人望が無いのでゲスか?!」
ノリアの可憐な容姿から発せられる挑発に思わず動揺するユリイカ。
「……なんか、任務とはいえノリアさんにこれだけ言われると凹むだろうな、ユリーカ……」
「ああ、悪意が無い分に、余計な……」
リゲルが複雑な顔でしみじみ言うと、マカライトも言葉少なに頷いた。
「――だが魔種は魔種だ」
切り替えるように銀閃の煌めきを纏ったリゲルは、己が得物の柄に手をかけ、
「喰え――ウェボロス!」
マカライトの放つ黑き眷属がユリイカと絡みつく。その間隙をリゲルが縫い、
「全て殲滅せねばならない――!」
抜き身で放たれた、静かなる断罪の斬刃がユリイカの体を射止めた。
「く――まだまだでゲス!」
ユリイカの体に毒が流れ込む。しかしまだユリイカを倒すには至らない。
「いいぜユリーカ! 殴り甲斐があるってもんだ!」
エレンシアが接敵し、大剣を横一文字に振り切る――それは死の大鎌の如く繽紛たる刃筋で。
「さーて、ギアを上げていくぜ!」
間髪入れずにカイトが業火を焼べると、エンヴィの放つ怨霊がマカライトの召喚したウェボロスと共にユイリカを押し留める。
「うぐぐ……! 姑息なのでゲス!」
「させないのです!」
ユリイカの反撃をノリアが受け止め――そして、ノリアが身に纏う加護が被弾をユリイカ自身へと反射させる。
「いい加減にネンネしなっ!」
利一が猟犬の如くユリイカの体躯を穿つと、
「散れ! ユリイカぁ!」
リゲルの必殺の斬撃が、ユリイカの胸に突き刺さる――――。
●
「レオン! 腰ぃ砕けろぁあ!!!」
「か、勘弁してくれである!」
レジーナの剣魔双撃で吹っ飛ばされるレヨン。これで奴は再起不能だろう。
ぎろり、とレジーナの視線がそのままジョーへと移る。ショウを中肉中背に押しつぶしたかの様な彼は、正直もう戦意を喪失していた。
「どうして《汝》(あなた)がこんなことしてるのかわからないけれど――覚悟は出来てるわね?」
「お、俺達はまだ……何にもしてないんだ……ヨネ」
「問答無用よ――」
レジーナが不知火を一振りしてジョーを薙ぐとそのままジョーは倒れた。
「さて、次はユリーカを――――」
とレジーナが振り向きかけた瞬間、
「みんな、気を付けて! ユリイカから強力な攻撃の気配がする!」
利一の緊張感のある声が響き渡る。彼女の有する分析能力が、ユリイカの異変を誰よりも早く察知することに成功していた。
「もう怒ったでゲスよ! 許さないでゲス!
イレギュラーズ全員、血祭でゲス!!」
ユリイカが叫ぶと、その体が光り始める。
「なんだ?! ユリイカが光り始めたぞ?! 焼けたか?!」
「違う違う! 早く防御態勢を取ってくれ!」
カイトに利一がツッコムと、他のイレギュラーズ達も全力防御の態勢に入る。ノリアはエンヴィの前に立ち、リゲルは利一を庇う様に立ち位置を変えた。
そして次の瞬間、辺りを光が包み込み――――。
「……!」
ノリアが眼を開くと、其処には傷を負い、地に膝をついている仲間達と、
「――逃げるだなんて卑怯だぞ!」
利一の声の先――走ってこの場を去ろうとするユリイカの姿だった。
「ちくしょうめなのでゲス! こんなに強いとは知らなかったでゲス!
次はもっとつよい仲間を連れてくるでゲス!」
「本物のユリーカは、危険を承知で“ないない”に挑み続けてるんだぞ!」
「それはあの小娘が勝手にやってることでゲス! あでゅーなのでゲス!!」
「あ、待て――!」
マカライトが手を伸ばすが――重傷のユリイカは、またもや“ユリーカ”の容姿に戻って、路地裏に消えていった。
●エピローグ
ユリイカとの激戦を終え、イレギュラーズ一行はギルドへと帰還していた。
「……えっ?
先ほどのかた、本当にユリーカさんでは、ありませんでしたの……?」
「ああ、そうらしいぜ。あたしも全然気がつかなかったけど」
エレンシアの指摘に、ノリアはあわあわと口を押える。
「思わず、心にもない悪口を、ぶつけすぎましたの……」
「……なんかだいぶ具体的な悪口だった気もするが?」
マカライトがそう返すと「決してそんなことはないのです!」とノリアが首を振った。
「……しかし、俺達はなぜユリーカと見間違えてたんだ……?
いや、確かに“部位的”には全部おんなじだったが……」
「レオンとショウなんか全く同じだったわよ」
「いや、なんか縦横比がおかしかったぜ!」
レジーナにカイトがツッコむ。
「やっぱユリーカって美味しそうだから皆に愛されてるのか?
……いやねーな」
カイトが視界の端っこでばたばた走る“ユリーカ”を見ながら呟いた。
「ユリーカさんが二人居たとして、どちらが本物でどちらが偽物か。
私達の判断材料は“今までの積み重ね”になるかしら」
エンヴィの言葉に、リゲルが頷く。
「過去の俺が居なければ、今の俺も居ない。
未来の俺は今の自分が作り出すもの。
――故に仮に時間軸が違えど、俺は俺だ」
「例え未来のユリーカさんが現れたとしても、その未来に私達が追いついた時、私達は経験を共有できるでしょう」
「ああ。だがユリイカとユリーカは全く違うと断言しよう」
「その心は?」
利一がリゲルに問う。
「何故なら。ユリーカは、煮ても焼いても食えないが。
――ユリイカは、焼いたらとても美味しそうだったからな!」
カイトが「だからあのまま焼いておけばよかったんだって!」と返すと、
「なんだか賑やかなのです? どうかしたのですか?」
ユリーカ本人がとことことテーブルに近づいてくる。
……なんだかその様子と先ほどまでの激戦が皆の脳裏に強烈な違和感を齎して――。
「まぁ……見間違いが起こらぬ様、本人の“実りある”成長を願うしかないか……」
「なんなのです?!
なんだかマカライトさんから憐憫の視線を感じるのです?!」
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
皆様の貴重なお時間を頂き、当シナリオへご参加してくださいまして、ありがとうございました。
マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス(p3p002007)さんの関係者設定から発生した関係者依頼、如何でしたでしょうか。(とても個性的な関係者でしたね。)
ユリイカは、冗談みたいな見た目なのですが、決して冗談ではない敵として能力メイクしましたが、その特徴である不運系のBSや封印対策が非常に上手く練られており、彼女を撃退するに値するプレイングであったと理解します。極高HPの魔種を完全撃破するにはあと一歩及ばずとなりました。次がもしあれば、もう少しマシな偽レオンを連れてくるでしょう。
ご参加いただいたイレギュラーズの皆様が楽しんで頂けること願っております。
『ユリイカ・ユーカリの憂鬱。』へのご参加有難うございました。
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称号付与!(by ユリーカ)
『ノリアさんひどいのです』ノリア・ソーリア(p3p000062)
GMコメント
■ 成功条件
・ 魔種ユリイカ・ユーカリ及びその配下の撃退又は撃破
■ 情報確度
・ B です。
・ OP、GMコメントに記載されている内容は全て事実でありますが、ここに記されていない追加情報もあるかもしれません。
■ 現場状況
・ ≪幻想≫(レガド・イルシオン)内のとある街角。昼間、ひらけた広場の様な場所です。
・ ユリーカを襲おうと企んでいる敵ユニット、ユリイカ(後述)と会敵します。
・ 周囲には町の住民などが居り、被害が及ばない様に注意したいところですが、ユリイカはそのあたりの残虐性は希薄であり、打倒イレギュラーズの気概が強いでしょう。
■ 味方状況
● 『ユリーカ・ユリカ』
・ ローレット所属。活発でおっちょこちょいな飛行種の美少女。
・ 橙色の帽子とマフラー、薄っすら蒼い翼が特徴。マスコット的な扱い「なのです!」
・ ローレット創設に携わった情報屋の父エウレカ・ユリカの人脈を受け継ぐ新米情報屋。
・ 今回の戦闘現場には居合わせません。後日談として、ローレットギルド内ですれ違う事くらいはあるかもしれません。
■ 敵状況
● 『ユリイカ・ユーカリ』
【状態】
・ 七罪の一人『煉獄篇第三冠嫉妬』アルバニア・二ールトレヴ麾下の魔種です。
・ アルバニアに対してのスタンスは、”ほぼ無関心”です。
・ 魔種への反転前は、海種(ディープシー)の純種で、ユリーカに似た美少女でした。
・ 人々から寵愛される者(ユリーカ)への嫉妬が募り、原罪の呼び声に唆され反転してしまいました。現在は嫉妬に飲まれ、元の思考がほぼ残っていません。
・ ユリーカに取って代わろうと暗躍しています。
・ ユリーカと同じ声音、同じ体型(イカ腹)、同じ服装、メモ帳と、容姿で見分けることは至難を極めます。また、魔種としての異能なのか、ユリーカと認識してしまい易くなっているようです。
・ しかし、PCは、特異運命座標であること、ユリーカとの関係が深いことから、何となくユリーカじゃないと感じることも可能です(感じなくてもよい)。よく見たらイカです。
【能力値】
・ 高EXA、高CTです。極めて高いHPが特徴です。
・ 小細工や卑怯なことが嫌いで、正面から正攻法で戦います。
【攻撃】
1.嫉視(A物至単、懊悩、ブレイク、飛、大威力)
2.艶羨(A物近域、不吉、不運、魔凶、飛)
3.羨慕(A神中域、狂気、HA回復)
4.妬心(A神遠域、狂気、HA回復)
6.EXなのでゲス!(A神特レ、封印、ブレイク、超威力)
※特殊レンジ│フィールド全体のPCを対象とする。
● 『レヨン』
・ ユリイカの手下。
・ レオン・ドナーツ・バルトロメイのそっくりさんで、只ならぬ気配と鋭い眼光を見せますが、非常に弱いです。
・ ユリイカの魔種としての能力の所為か、レオンと認識してしまい易くなっているようです。
・ 剣を用いて邪魔をしてきます。
● 『ジョー』
・ ユリイカの手下。
・ ショウのそっくりさんで、只ならぬ気配と不敵な笑みを見せますが、非常に弱いです。
・ ユリイカの魔種としての能力の所為か、ショウと認識してしまい易くなっているようです。
・ 魔術を用いて邪魔をしてきます。
■ 備考
・ 『ユリイカ・ユーカリ』様は、マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス(p3p002007)様の関係者です。
●Danger!
当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。
●Danger!
当シナリオでは魔種の『原罪の呼び声』により純種が影響を受ける可能性が有ります。
予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。
皆様のご参加心よりお待ちしております。
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