PandoraPartyProject

シナリオ詳細

きらぼし、あのね。

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●星になった女の子
 聖都フォン・ルーベルグの片隅に、ルタ教会が管理している第二孤児院はある。
 天義で起こった『黄泉返り』事件が発生した場所のひとつであり、イレギュラーズにより秘密裏に騒動が収められた場所のひとつだ。
 現在、癒えない爪痕を複数残しつつも、天義は復興の道を進んでいる。第二孤児院の子どもたちもまた、日常をとり戻していた。
 となれば。

「星降りの丘に行こうぜ」

 こうもなるのかもしれない、とエクレウは思う。
「だめだよ、リュヌ。あそこはちょっと前に怪物が出て、まだ立ち入り禁止なんだから」
「でももう怪物はいないんだろ? イレギュラーズがやっつけたんだ!」
「そうだけど」
「誰もいないから行くんだぜ」
 真剣な顔でリュヌが言う。エクレウは勉強を中断すると決めて、ノートを閉じペンを置いた。
「静かな方が、ベリィに俺たちの声が届くかもしれないだろ」
「……リュヌ」
「エクレウだって泣けるだろうし」
「泣かないよ。僕はお兄ちゃんだから」
「ほんと、そういうとこだぞ」
 呆れと悲しみがないまぜになったリュヌから、エクレウは目をそらした。
 ある冬の夜、肺を患って死んでしまった孤児の少女、ベリィ。
 エクレウとリュヌ、それにアヴェとスカードとマタンと一緒に育った女の子。
 孤児院の前管理者であるシスターのことをよく手伝って、よく笑って、よく怒っていた、お母さんみたいな女の子。
 たった十歳でその命の芽は摘まれた。ほんの少し前、あのころと変わらない姿でベリィは『黄泉返り』、いつの間にか消えていた。
 ――星になったのだと、イレギュラーズは言った。
 本当のことを、エクレウとリュヌは知っている。
 ベリィが星になっていないことも、ずっと冷たい土の下にいることも、知っている。
「無意味なんていうなよ」
「……言わないよ。土の下のベリィに祈るのも、星に祈るのも、きっと同じだから」
 死者には届かないと諦念しているのではない。
 彼女を想うことにこそ、意味はあると信じているのだ。
「でもどうやって? 立ち入り禁止の丘に、夜に行きたいなんて、神父様は許してくれないよ」
「こっそり抜け出す」
「……怪物が出るかも」
「安心しろ、おれにいい考えがある!」
 絶対ろくでもない考えだとエクレウは確信した。

●星見の聖地
「初めまして、親愛なるイレギュラーズ。ああ、話が終わったら『僕のことは忘れておくれ』」
 最近このギフトほぼ無意味になっている気がするんだけどね、と『空漠たる藍』ナイアス・ミュオソティス(p3n000099)は肩をすくめる。
「天義の聖都、フォン・ルーベルグの一角に『星降りの丘』があるのは知っているかな。天体観測に向いた丘で、ほんの少し前に大きな蜘蛛が降ってきて人を襲う事件もあったんだけど」
 それは収束して、今は念のために立ち入り禁止になっているからいいんだ、と青年は前置く。
「今回の依頼主は同じくフォン・ルーベルグにある孤児院の子どもたちだよ。なんでも、夜にこっそり抜け出して、この丘に行きたいらしい」
「……立ち入り禁止の丘に?」
「そう。そこで君たちの出番だ。子どもたちを上手く孤児院から脱走させて、丘に連れて行き、夜が明ける前に何事もなく連れ帰ってほしい」
 なぜ今、どうしても行きたいのか。ナイアスは聞かなかったらしい。
 ただ困りごとを抱えている人がいないか探し歩いていた情報屋に、お使いの途中だった子どもたちは真剣に頼みこんだのだ。
 おれたちを夜にさらって、星降りの丘に連れて行ってくれと。
「手段は任せるよ。子どもたちの安全が確保されるなら、天体観測に励んでくれてもいい。ああ、孤児院には他にも幼い子たちがいるそうだけど、彼らにはあまり知られたくないそうだから、そこは気をつけて」
 それじゃあ行ってらっしゃいと、ナイアスは手を振った。

GMコメント

 初めまして、あるいはお久しぶりです。あいきとうかと申します。
 土の下で眠り星になった君、聞いておくれ。

●目標
・子どもたちを孤児院から脱走させる
・子どもたちの無事を確保しつつ、満天の星空を楽しむ

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

●ロケーション
 第二孤児院の周囲には民家があります。

『特に指示がない場合』
 時刻は21時以降。
 エクレウとリュヌは一階の居間で待機中。居間には庭に面した大きめの窓があります。
 他の子どもたちは二階の寝室で就寝前の枕投げをしています。
 現管理役の神父は居間で書き物をしています。絶対に席を立たないというわけではありません。

 星降りの丘は見晴らしのいい丘です。満天の星空を楽しめます。
 時期的には5月中旬です。

●NPC
『エクレウ』
 14歳の少年。
 ベリィのことが好きだったし、今でも好き。
 将来は神父になりたい。根は真面目だが少年らしい冒険心や好奇心もある。
 孤児院で一番年上なので、自分がしっかりしないとと、気負いすぎているところがある。

『リュヌ』
 12歳の少年。
 黄泉返り事件以来、イレギュラーズに強い憧れを抱いている。
 とにかくかっこいいものに魅了されるお年頃。将来は弱い人を助けられる存在になりたい。
 考えすぎるエクレウを引っ張ることが多い。仕方ないやつ!

『ベリィ』
 享年10歳。孤児院の第二の母的存在だった。
 黄泉返り事件の際に『黄泉返った』ことがある。騒動は現管理役である神父に気づかれる前にイレギュラーズが解決した。

『神父様』
 黄泉返りベリィが眠りにつくのと入れ違いに孤児院にやってきた神父。まだ青年。
 子どもたちからは『ちょっと厳しい』と評されている。そんなことないですと本人は否定。
 子どもたちのことは心から可愛がっている。立派な大人になる日が楽しみ。
 だから悪いことをしたら叱ります。

『その他の子どもたち』
 大人数で脱走したら絶対にバレる、ということで今回は置いていかれることになりました。
 以下三人はエクレウたちの脱走計画を知りません。
・アヴェ…9歳の少女。気が強くて好奇心旺盛。
・スカード…10歳の少年。寂しがりで誰かが傍にいないと不安になる。
・マタン…5歳の少女。一度寝たら朝まで起きない。

●他
 子どもたちは適当に安全そうなところにいるので、特に絡まず天体観測をお楽しみいただくだけでも大丈夫です。
 また、イレギュラーズの皆さんの言うことはよく聞きます。
 事前にエクレウとリュヌになにか指示したい場合は、脱走当日の夕方ごろに接触の機会があります。時間にして20分程度、二人のお使いの帰り道での接触です。

 そういえば夜盗が出るとか出ないとか言う話もあるので、道中はできればお気をつけください。

 混沌は色々と大変なことになっていますが、息抜きも兼ねてお気軽にご参加ください。
 関連シナリオ(『そんな風に君が笑うから。』『流星の蜘蛛』)は知らなくても全く問題ないです!

  • きらぼし、あのね。完了
  • GM名あいきとうか
  • 種別通常
  • 難易度EASY
  • 冒険終了日時2020年05月12日 22時20分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧 (8人)

ポテト=アークライト(p3p000294)
優心の恩寵
リゲル=アークライト(p3p000442)
白獅子剛剣
蜻蛉(p3p002599)
姫立金花
レスト・リゾート(p3p003959)
貯蔵食品の紅茶たいむ
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
希望の蒼穹
糸巻 パティリア(p3p007389)
跳躍する星
散々・未散(p3p008200)
L'Oiseau bleu

リプレイ

 白を基調とした街並みが、夕日を浴びて茜色に染まる。
 人々がのんびりと行き交う道の隅で、二人の少年が八人組と話していた。
 少年たちの手には食材が詰めこまれた紙袋。地元の子どもが道を教えているのだろうと、人々は一瞥したきり気に留めない。
 八人のうちのひとり、腰に空の鳥籠を下げた彼女が言う。
「では、合言葉は――」


 二十一時過ぎ、第二孤児院。
 二階から年少の三人が枕投げをする、ドタドタと騒がしい足音が聞こえてくる。声があまり漏れてこないのは、かつて神父が数度にわたって叱ったためだ。
 一階の居間ではその神父が帳簿をつけていた。別のソファでエクレウが聖書を開き、リュヌは立ったり座ったりしている。
 しんと静かな一階に、ノックの音が響いた。
「おや、こんな遅くにどちら様でしょうね」
 瞬いた神父が時計を見ながら立ち上がり、玄関に向かう。
 その背にリュヌが声を飛ばした。
「神父様、おれもう寝るわ」
「僕も。おやすみなさい、神父様」
「おやすみなさい!」
「はい、おやすみなさい」
 肩越しに振り返って微笑み、神父は客を出迎えに行く。
「落ち着きなさすぎ」
「エクレウもずっと同じページ見てたくせに」
 二人の少年が肘でつつきあう。玄関の扉が開かれる音がした。
 話し声が聞こえてきて、少年たちの緊張が安堵に変わる。そわそわは最高潮だ。開け放たれたままの扉の先、廊下の果てに見える神父の背と閉じられたカーテンを交互に見る。
 コツンコツン、と。
 庭に面した窓が控えめに叩かれる音に歓声を上げかけて、二人は互いに口を塞いだ。
 カーテンをそっと捲ると、昼間に会った八人組のうちの三人と目があう。音を立てないように注意して、エクレウが窓を開いた。
「あ、あの、あのっ」
「しぃ。お約束通り、青少年を拐かしにきましたよ」
 立てた人差し指を自身の唇に当て、散々・未散(p3p008200)が「なあんて」と冗談めかす。その腕には黒猫が抱かれていた。
「王子様、お迎えにあがりましたわ。さあ、星明かりのお散歩に繰り出しましょう~」
 二人の足元に用意してあった靴を並べ、『遠足ガイドさん』レスト・リゾート(p3p003959)も悪戯っぽく笑う。
「よろしくお願いします」
 子どもたちは囁き声を揃えて、靴を履く。その間に未散がそっと窓を閉めた。
「サイズはどうかしら~?」
「ぴったりです」
「大丈夫っす」
「ではこの先は拙者にお任せを。お二人を敷地の外に運ぶでござるよ。……拙者、ちょっぴり磯臭いでござるけど」
 困り眉になる『跳躍する星』糸巻 パティリア(p3p007389)にリュヌが興味津々の顔で鼻を近づける。
「おーっ」
 これが磯のにおいなんだ、と言いかけたその口をレストがとっさに手で覆った。
 しばらく息をひそめたが、神父が様子見にくる気配はない。
「ごめん」
「問題なしでござる。されどここからは隠密に」
「脱出するわよ~」
「合流地点までの道案内は、お任せしますね」
「はい」
 未散の言葉にエクレウが頷く。
 子どもたちを纏めて抱えたパティリアが、足音もなく移動を開始した。

 時間は少し巻き戻り、玄関の扉を開いた神父は驚く。
「イレギュラーズの皆様?」
「こんばんは、夜分遅くにごめんなさい」
 近所で評判の菓子店の袋を持った『希望の蒼穹』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)が軽く頭を下げる。
「ここの子どもたちとは縁がありまして……。差し入れをお渡ししたく、立ち寄りました」
「復興の視察依頼の帰りに立ち寄らせてもらったのよぉ。遅い時間にごめんなさいねぇ」
「そうでしたか、お疲れ様です、ありがとうございます」
 凛と背筋を伸ばして説明する『死力の聖剣』リゲル=アークライト(p3p000442)と、眉尻を下げて非礼を詫びた『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)に神父は得心し、相好を崩した。
「子どもたちは元気ですか?」
「ええ、とても」
 よかったと『優心の恩寵』ポテト=アークライト(p3p000294)が安心する。
「ぜひ会ってあげてください。子どもたちも喜びます」
「いえ、今回は」
 身を翻しかけた神父をポテトがとめた。神父がきょとんとする。リゲルが自然な口調で加えた。
「夜遅いですし、会うのはまたの機会に致します。皆の様子を、貴方から教えていただくだけで十分ですよ」
「そうですか?」
「あ、じゃあ私はちょっと顔見るついでに寝かしつけてこようかな。ポテト君」
「頼んだ」
 アレクシアが、ポテトが抱く大きめの猫と自身が持つお土産を交換する。
 庭の方から微かに声が聞こえた。
 すかさず紫がかった黒猫が鳴く。
「猫同士でお話しているのでしょうか。……では子どもたちの部屋までご案内を」
「前にもきたことあるから、案内とかは大丈夫! お気遣いありがとうございます」
「とんでもないです。今夜はエクレウでも寝かせられない日のようなので……。よろしくお願いします」
「任せてください」
 大きく頷き、アレクシアが請け負った。
「どうぞお入りください」
「お邪魔します」
 居間に足を向ける神父の背に、異口同音に発したイレギュラーズが続く。アレクシアは途中で猫とともに二階に向かった。

 扉を叩くと子ども部屋が一瞬だけ静まる。
「はぁ……、いぇっ!?」
「みんな久しぶり、元気にしてた?」
「あー! お姉ちゃんだ! 猫ちゃんだ!?」
 両脇に枕を挟んだアヴェが混乱気味の歓声を放つ。
 床で伸びていたスカードが跳ね起き、眠そうなマタンが瞠目した。
「枕投げの最中だったかな?」
「うん! でもお話にする!」
 ぐいぐいとアヴェがアレクシアを室内に引っ張る。
「エクレウとリュヌ、呼んでくる?」
「ううん、あとでお話してくるから大丈夫だよ」
「んー」
 スカードが気遣い、マタンは座ったアレクシアの膝に頭を載せた。
「猫ちゃんなでていい?」
「ええよ」
 大きめの猫、もとい『涙ひとしずく』蜻蛉(p3p002599)が返す。アヴェがはしゃぐ前に、「しー」とアレクシアが口を閉じさせた。
「魔法で喋る猫なん。……神父様には内緒よ」
 目を細める黒猫に少女は何度も頷く。
「さてと。お話ししながらおやすみしようか。ぐっすり眠るいい子には、明日の朝にプレゼントのお土産が神父さんからもらえるからね!」
 蜻蛉のオルゴールが鳴り出した。
 子どもたちの目が輝く。

 子どもたちの近況報告などで話が弾み、神父の頬がゆるゆるになったころ。
 居間のテーブルにはお土産の焼き菓子や本、お茶と、そしてお酒が置かれていた。
「子どもたちも寝たことだし、日ごろの労いもこめて一杯だけ、ね?」
 迷う素振りを見せた神父だったが、心は決まっていたらしくすぐにグラスをとる。
「では、一杯だけ……」
 アーリアが注いだ酒を、神父はおいしそうにひと口飲んだ。
「本もお菓子もありがとうございます。なにより、あの子たちを気にかけてくださって」
 土産としてリゲルが渡した本の表紙を、神父が愛し気に撫でる。信仰に関する一冊であるため、彼が読んだあとはエクレウも目にするのだろう。
「皆、眠ったようですね」
「アレクシアは子どもに人気があるんです。寝かしつけも上手ですよ」
 微笑むリゲルに神父は天井を見る。眼差しには信頼と尊敬が宿っていた。
「そういえば、星降りの丘の蜘蛛退治もなさったとか」
「そうよぉ」
「平和になったはずですが、まだ警戒中でしたか」
 蜘蛛退治に関わったアーリアとポテトがそれぞれ応じる。
「はい。警戒が解けたら、ピクニックにでも行きたいのですが」
「子どもたちもきっと喜びますよ」
 穏やかなリゲルの声に神父が幸せそうな顔をした。
「お待たせしました。子どもたち、いい子で寝ていますよ」
「ありがとうございます」
 寝かしつけを終えたアレクシアとただの猫を装う蜻蛉が合流する。アーリアはさり気なくこめかみに指を添えた。
 ――ミッション・コンプリート、折を見て貴軍も帰還されたし! 星降りの丘で待つ、オーバー。
(はぁい。こっちも引き上げるわぁ)
 感覚を繋いだ黒猫越しに聞こえる声に内心で返答し、自然な動きで時計を見る。
「あらぁ、もうこんな時間だわぁ。長話しちゃってごめんなさいねぇ」
「あ、本当だ」
「そろそろお暇します」
「なにかお困りごとがありましたらローレットへ。ご依頼お待ちしていますね」
 戸口に佇むアレクシアの分のお茶を用意しようとしていた神父は、名残惜しそうに首を傾けた。
「分かりました。本日はありがとうございました。皆様の戦いに神の祝福がありますように」
「にゃぁ」
 おおきに、と言う代わりに蜻蛉が鳴いた。

 無事に誘拐と合流を果たしたイレギュラーズと子どもたちは、星降りの丘を目指す。
 アーリアの黒猫にあとでニボシを貢ごう、と考えていた未散の足がとまった。
「この時間に、複数名の足音ですか」
「右よぉ」
 のんびりと間延びしているが的確なレストの指示で、素早く剣を抜いたリゲルが動く。
 飛んできた矢を半ばから斬った。
「まぐれだ」
「よぉ。持ちモン全部置いてってもらおうか」
 口々に言いながら、暗闇から十名の夜盗が姿を見せる。
 息をのむ少年たちをパティリアが少し強めに抱いた。アレクシアがパティリアと少年たちを背に庇う。
「心配ない」
「ちょっと待っててねぇ」
 ポテトが戦闘体制に移行し、アーリアが片目をつむる。彼我の戦力をざっと推測して、手を出すまでもないと蜻蛉は判断した。

 五分もかからずに夜盗を鎮圧し、一行は立ち入り禁止の札を横目に星降りの丘に到着する。
 それぞれが思い思いの場所で星を楽しむ中、アレクシアはリュヌの隣に腰を下ろした。
「怪我はない?」
「うん! 姉ちゃんたち、ほんと強いな」
 照れ笑いを浮かべ、アレクシアは自身の膝を抱き寄せる。
「あのとき、頑張ってくれて、助けを求めてくれて、ありがとう」
「……うん」
 少女が黄泉還った事件を指していると察し、リュヌが目を伏せる。
「姉ちゃんも、またきてくれてありがと」
「どういたしまして!」
 笑ってから、アレクシアは降り注ぐような星空に目を向けた。
「みんな本当に強いよね。私ももっと強くなりたい。弱い人を助けられるように」
「姉ちゃんも?」
「うん。まだまだ道半ばだけど」
「おれも、将来は弱い人を助けられるようになりたいんだ。家族も、そうじゃない人も、守りたい」
 真っ直ぐな少年の毅然とした双眸から目をそらさず、アレクシアが力強く頷く。

 エクレウの側には、レストがいた。
「すっごい眺めよね~」
「そうですね」
 無邪気に双眼鏡を覗くレストの隣で、エクレウが感嘆する。
「僕も初めてきましたが、本当にすごいです」
「ねぇねぇ、流れ星とか流れてないかしら~?」
 ええと、とエクレウも流れ星を探し始めた。
 礼儀正しい少年の表情は、ときおり翳る。やがてその首が下がった。
「人ってねぇ」
 沈黙を、レストが優しく破る。
「どんなに悔いがない、間違いがないって選択をしたつもりでもね、結局はもっといい選択肢があったんじゃないかって、後悔をしてしまう……。そういうものなのよ」
 はい、とエクレウが声なく肯定した。
 通りがかったパティリアが無言で、少年に寄り添うように座る。
「でもね、その気持ちは、アナタがそのことを本当に大切だと思っていたから、感じられる気持ちなの」
 小さく震える肩に、レストは手を置く。
「その気持ちを、どうか大切にしてあげて……、ね?」
「ありがとう、ございます」
 湿った声で礼を言って、エクレウが袖で目元を拭う。
 パティリアが口を開いた。
「レスト殿、目が」
「え?」
「あっ」
 気づいたエクレウが控えめに笑った。
「なにかしらぁ?」
 ぺたぺたとレストは目元に触れる。
 双眼鏡の跡が丸くついている目元を。

「かんぱぁい!」
「乾杯」
 人の姿に戻った蜻蛉とアーリアがグラスの縁を触れあわせる。
「んー! 満天の星空に美味しいお酒。最高だわぁ」
「ほんまに。綺麗やし、美味しいねぇ」
「私たち、雪見酒に星見酒って、飲んでばかりねぇ」
「そうやねぇ」
 言われてみればその通りで、蜻蛉はゆるりと目蓋を上下させた。
「ツェリくん、蜻蛉ちゃんに一目惚れしてない?」
「にゃあ」
「ふふ」
 してない、と言うようにアーリアの膝で黒猫のツェリが鳴く。蜻蛉は笑声をこぼした。
 ともあれ今日もお疲れ様、と労いあったところで、アーリアが本題に切りこむ。
「とーこーろーで、女の勘なんだけど、蜻蛉ちゃんって好きな人いるでしょー!」
「……あら、分かる?」
 嘘もはぐらかしもなく、素直に肯定した蜻蛉にアーリアの表情が輝いた。
 強めのお酒にほろ酔い気分で、蜻蛉はグラスを揺らす。
「うちね、ずーっと片想いしとるの」
「やっぱりねぇ。恋する乙女は綺麗なんだもの」
「そう言うてるアーリアちゃんやって、いい人おるんでしょ?」
 不意を突かれたアーリアが、すぐに吹き出した。
「ふふ、そっちも正解! ねぇ、どんなところが好きなの?」
「内緒」
「私も教えるからぁ」
「えぇー。ほんなら、少しだけ話そかな」
 蜻蛉がグラスを乾し、アーリアが二杯目を注ぐ。同じように蜻蛉がアーリアのグラスに酒を注いだ。
「ひとつ、約束してもらってもええ?」
「あら、なぁに?」
「海が静かになったら、またこうやって一緒に飲まへん?」
「もちろんよぉ!」
 満面の笑みで快諾して、アーリアは小指を出した。蜻蛉がはにかんで、アーリアの小指に自身の小指を絡める。

「久しぶりだな、エクレウ、リュヌ。私たちのこと覚えているか?」
「もちろんです」
「ポテト姉ちゃんとリゲル兄ちゃん!」
「二人とも元気そうだな」
 いつの間にか隣同士で座っていた少年たちを挟むように、ポテトとリゲルも柔らかな草に腰を落ち着ける。
「姉ちゃん、丘に入る前になにしてたんだ?」
「精霊に人がいないか調べてもらっていた」
 はぇぇ、とリュヌが興味深そうな顔をする。ポテトは二人にブランケットと温かいココアを配った。
「リゲル兄ちゃん」
「ん?」
「どうしたら強くなれる?」
 子どもの真剣な問いに、リゲルは誠実に応じる。
「方法は色々ある。共通して言えるのは、目標を持つことだ」
「目標?」
「こうでありたい。こうなりたい。そういった強い気持ちだ」
「……弱い人を守りたいとか、家族を守りたいとか?」
 騎士は爽やかに笑んで首肯した。
「いつか手合わせをしないかい? 俺を打ち負かすつもりでかかっておいで」
「いいのか!? お願いします!」
 身を乗り出してリュヌがお願いする。
 穏やかに家族を見るエクレウに、ポテトが問いを投げた。
「エクレウの将来の夢は、神父様だったか」
「はい。もうすぐ孤児院を出て、教会に身を置くことになっています」
「そうか。エクレウはしっかり者だからな、きっと大丈夫だが、頑張りすぎるな」
 不思議そうにエクレウが瞬き、リゲルが言を足す。
「子どもは大人を頼り、学ぶことも大切なんだ。だからひとりで抱えこみすぎるんじゃないぞ」
「なにかあれば、私たちも力になる」
「……はい」
 涙を堪えるように、エクレウが夜空を見る。リュヌが肩を触れあわせた。
「それにしても綺麗な星空だ」
「そうだろう? リゲルと期待と思っていたから、一緒にこられて嬉しい」
 口元をほころばせたポテトの周囲に、タンポポの花が咲く。
 綿毛になったそれをリゲルが一輪摘んで、光らせる。
 そっと吹くと、地上から煌めく綿毛が空へと飛んだ。
 星に至ろうとするように。
「強く生きるんだぞ。ベリィに胸を張れるように。自分に誇りを持てるように」
「はい」
 少年たちの声は、力強い。

(綺羅星さま、あのね)
 霊魂と縁深い未散は、しかし記録で知った死者の言葉を代弁しない。それはきっと、なにかが違うだろうから。
(子どもたちが健やかに育てるように、見守ってあげてくださいな)
 星空を瞳に映して祈る。天にも地にも届くように。
 睡る女の子にいつか、子どもたちが誇れるように。
 共に過ごした日々を決して忘れないと決意した魂が、寂しくないように。
(時折でいいから、煌めいてやって欲しいのです)
 地の果てを見るのは、難しいだろう。
 しかし星はどこにいても、夜に顔を上げれば散りばめられている。ふと瞬くだけでも、子どもたちはそこに少女の面影を見られるだろう。
 白く光る綿毛が飛ぶ。
 はっとして、未散は立ち上がり空を指し示した。
「流れ星、です!」
「え、どこ!?」
「本当だ……っ」
 慌てて子どもたちが願い始める。イレギュラーズも流れる星に願った。

「僕たちは元気ですって、祈ったんです」
 帰り道。
 疲れて眠ってしまったリュヌを背負うパティリアに、エクレウが静かに告白する。
「そうだったでござるか」
「……届いているでしょうか」
「届いているでござる」
 不安そうな少年に、パティリアは間髪いれずに断言する。
 二人がどうして星降りの丘に行きたがったのか、理由を知りたいという思いはあった。しかし結局、詮索しないことを選択してパティリアはここにいる。
 きっと、単なる思い出作りではない。
 それでもただ、幼い祈りは星に通じたと、信じて。
「このあとは安心安全にお部屋までお送りするでござるよ! エクレウ殿も眠くなったら言ってほしいでござる!」
「はい」
 夜明けにはまだ時間のある道を、エクレウは背筋を伸ばし、警戒を怠らないイレギュラーズとともに歩く。
 眠るリュヌの顔にも笑みがあった。

成否

成功

MVP

糸巻 パティリア(p3p007389)
跳躍する星

状態異常

なし

あとがき

お疲れさまでした。

子どもたちは神父様にバレることなく、部屋に戻されました。
少年たちは少しだけ大人になった顔で、これからそれぞれの道を歩んでいくことでしょう。

ご参加ありがとうございました!

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