シナリオ詳細
人形操糸
オープニング
●頼み
「珠緒、蛍。1つ頼まれちゃあくれねぇか」
目の前の女性──時塚・揚羽の言葉に桜咲 珠緒 (p3p004426)と藤野 蛍 (p3p003861)は揃って目を瞬かせた。
「ボクたちに?」
「いったい、どのような?」
頼まれてくれと言われても、どんな頼みなのか分からなければ判断のしようがない。揚羽も唐突だと思ったのか「すまねぇ」と少しばかり苦い表情を浮かべ、手元の作業をやめた。
揚羽の手元には珠緒と蛍が彼女より受け取った人形たちがいる。愛らしき少女人形たちは2人に出会ったことで揚羽のギフトによる恩恵を受け『望み通り』2人へ渡されたのだ。
「アンタたちへ……いや、イレギュラーズへの頼みだな。1体の人形を壊してほしい」
耳に届いた言葉を聞き、2人は表情を曇らせた。彼女の口から人形と出てきたということは。
「その子は、揚羽さんの人形……でしょうか」
「ああ。アンタたちに譲ったのとは違うさ、自律行動をしない人形だよ」
珠緒の問いに頷く揚羽。彼女が作る人形は──いや、作った人形は2つに分かれる。
1つはただの、ただのというには精緻で見事な芸術品。
そしてもう1つはと言えば、自律行動を始める芸術品だ。
元は前者のために作られている人形で、高額なそれらは主に貴族や裕福な家庭へ取り引きされる。だが、たまにその人形が人知れず動き出すことがあるのだ。
何故か? それは揚羽の持つ世界からの恩恵──ギフトの力。『作成した人形が、相性の良い所有者に出会うと自律行動能力を得ることがある』能力ゆえのこと。
必ずしもの巡り合わせではないが、それでも一期一会の縁。自律行動能力を得た人形は『持ち主と一緒に居てこそ完成品』というのが揚羽の拘りだ。つまり、ギフトの発動した人形は大抵相性の良い者へと渡されるのである。
さて、少し話が逸れてしまったが件の人形は自律行動をしない。貴族、裕福な家庭に貰われていった人形なのだろう。
「でも、どうして『壊す』だなんて、」
「作品にラクガキするような真似は、知った以上我慢ならねぇのさ」
蛍は揚羽の眼光に口をつぐむ。それに気づいた彼女はふっと目を閉じ、いささか伏せ気味で再び瞼を開けた。
「アンタたちに怒っても仕方ねぇんだけどな。つい出ちまうんだ」
自らの手で作り上げた作品(人形)が、他者の手で汚された。創作者にとってはこの上ない屈辱だろう。
人形があるのはラサだ、と揚羽は告げた。そこで悪事を働く盗賊がどうやら彼女の人形を手にしたらしい。
そこで売ってしまえば金になっただけで済んだだろうに──盗賊は何を思ってか、人形へ魔改造を施したのだと言う。
「オレのとこに連絡が入ってね。足取りを追わせてみればこれだ」
魔改造された人形と、共に商隊を襲う盗賊たち。すでにラサ側でも被害が上がっているそうだ。
「これ以上オレの作品で好き勝手は許さない。だから珠緒、蛍──
──頼まれちゃあくれねぇか」
●いつかのある日
「順調だな」
「あと2日もすれば次のオアシスです」
強い日差しに、それでも残り少ない行程からか商人たちの表情は明るい。気のせいか、荷を引くパカダクラたちの足も軽いようだ。
「だが無理は禁物だな。いつ何があるか──」
リーダーと思しき男が呟いたと同時、砂丘の陰から何かが勢いよく飛び出してくる。咄嗟に前へ出た護衛が目にしたのは人によく似たナニカ。
「……っ! 何だ、お前は!」
突き出された刃を剣でしのぎ叫ぶ護衛。その瞳はナニカをしかと映して、はっと大きく見開かれた。
「人……いや、人形……?」
人形というにはあまりにも奇怪な造形。だが残された胴体と頭は人のような──素人目に見ても『芸術』と称されるに差し支えない人の造形をしていた。
歪に分かれた脚が砂を踏む。腕に繋がったモーニングスターが勢いよく風をまとって振りかぶられた。
「荷を守れ! 奴らに手渡すな!」
商人たちが顔色を悪くしながらも叫ぶ。その周囲を複数の護衛が守るように取り囲むが、人形の襲撃を皮切りにわらわらと現れた男たちは汚い顔へ笑みを浮かべた。
- 人形操糸完了
- GM名愁
- 種別リクエスト
- 難易度-
- 冒険終了日時2020年05月17日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談8日
- 参加費---RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●
(……強い感情を先にみると、かえって落ち着くものですね)
事態を把握しながらも『いつもいっしょ』桜咲 珠緒(p3p004426)の感情は想像以上に波立たなかった。というのも胸の奥へ響かなかったというわけではなく、目の前で自分より強い感情を露わにする者がいたから。
ならば、自身のすべきは同じように感情を露呈させることではなく。
「揚羽さん、蛍さん」
珠緒の言葉に時塚・揚羽と『いつもいっしょ』藤野 蛍(p3p003861)が振り向く。
「珠緒も全力を持って、解決に臨みます」
それがきっと、珠緒のすべきことだろうから。
──とは思ったが。
(……やり過ぎたかも……いえ、本件に限っては容赦なしで参りましょう)
揃った仲間たちはいずれも頼もしい顔ぶれだ。このメンバーではやり過ぎてしまうかも、などと思ったが此度の依頼と依頼主のことを考えれば妥当といったところだろう。何より、人形の強さはこの砂漠において十分な脅威だ。
砂漠を歩く一同は、突然砂丘の影から飛び出してきた影に警戒態勢をとる。先んじて動いたのはふわりと足を浮かせた蛍だった。
魔力障壁を纏った蛍の力となるは自らの経験と技術、そして──依頼人、揚羽の怒りや悲しみだ。幻の桜に魅せられた人形は術者である蛍へ一直線に向かってくる。
「悪趣味だな。美意識のかけらも感じられない」
「あれが揚羽さんの作った人形ですか?」
『大号令の体現者』秋宮・史之(p3p002233)が眉を寄せる隣で『今は休ませて』冬宮・寒櫻院・睦月(p3p007900)が驚きの声を上げた。足は複数に分かれ、腕には武器の取り付けられた人形は聞いていたそれと随分異なっているのだから然もありなん。
「見る影もないではないですか。壊そう、ね、しーちゃん!」
「そうだねカンちゃん。早急に撃破して楽にしてあげよう。盗賊ともどもね」
2人は頷き、別々の方向へと動き出す。史之は人形の方へ、睦月は追って出てきた盗賊たちの方へと。
「おいでませおいでませ。獲物は此処に。刃は此処へ」
『玲瓏の壁』鬼桜 雪之丞(p3p002312)の手が鈴のような音を立てて打ち鳴らされる。睦月はそこへ式符によって致命の毒蛇をけしかけた。
「悪いが、力の限りで薙ぎ払わせて貰う──!」
『特異運命座標』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)は魅せる剣技にて盗賊たちへ迫りながらも一瞬、人形へと視線を向ける。
(人形を破壊しろ、か……)
元は人の美を追求したという人形。しかししなやかであっただろう腕は武骨な武器が装着され、見事な線を描いていただろう大腿部からは無数の足が砂地でバランスを取るため生えている。盗まれるだけでなく、手まで加えられているこの現状は許しがたいという事か。
だがしかし、まず戦うは盗賊たちから。特に──この中にいるであろう、人形へ命令を与えている存在からだ。珠緒も想いは同じようで、皆へ言霊となった言葉をかけながら敵の分析を進める。
(敵勢力の引き付けは、十分な精度。回復は秋宮さんと分担できる。ならば、珠緒は信頼のもと自身の役割に注力するのです)
全ては魔改造された人形を止めるために。かの人形が人を襲うことを望むはずもないだろうと『実験台ならまかせて』かんな(p3p007880)は魔槍を握る。彼女に詳しいことはわからないが、素敵な人形を作る者の作品なのだから、きっと。
「望まない戦いなんて、悲しいだけだもの。止めてあげないと……ね」
かんなの足が魔槍の石突を蹴る。槍へ込められた力が解放された直後、かんなの眼前を直線状に飛んでいった。それは人形を貫き、盗賊たちでさえも傷つけて。
「くそっ、そいつらも一網打尽だ!」
「そうだ! 周りごとやっつけちまえ!」
盗賊たちが口々に人形へ命令とも思える言葉を吐き、人形が反応する。史之はそんな人形へ向かって手をかざした。
(可哀想な人形だけれど、仲間へ危害を加えるなら戦おう)
この人形に罪はない。けれどもこうして向かってくるのなら心を鬼にする他ないのだ。
赤いプラズマの竜巻が人形を取り囲み、周囲を稲妻が飛び交う。翻弄される人形の懐まで飛び込んだ『Ultima vampire』Erstine・Winstein(p3p007325)は惑わせるような切っ先で人形へ迫った。
「この砂漠の地で何か起こそうものなら、私も黙ってられないわ」
ここはあの人の地だから。そして揚羽のためにも、人形のためにも──全力で尽くす。
人形が先ほどの命令によって行動を変える。迫るモーニングスターの勢いを仲間たちがいなしていくも、蛍はその様子すら見せない。そんな必要すらなかったからだ。
「その攻撃は効かないわ」
最初に纏った障壁が物理攻撃をはじいていく。蛍はその光景を横目に再び幻影の結界を張り巡らせた。
蛍の魅せる幻影が人形を引き付けるが、それも盗賊の命令によって『上書き』されるまでのこと。新たな命令が発せられれば当然それまでの命令は破棄される。どちらかと言えば盗賊以外の者によって人形の動きが変化する、という方が異常なのだ。
だがイレギュラーズとしてはその異常な状態が有難いのである。早いところ盗賊のリーダーを割り出し、撃破して人形を完全に引き付けてしまいたい。
『珠緒さん』
『ええ、蛍さん。……あの方です』
それとなく互いが視界に入るような立ち位置となった珠緒と蛍が目で頷く。
リーダーは小汚い布を被った男だと言われている。そして盗賊たちが声を上げるタイミングと、それを人形が傍受するタイミング。盗賊たちもある程度その対策をしていたようだが、完全に誤魔化せる精度でもない。
珠緒からの言葉により皆の矛先がリーダーと思しき男へ向く。だが盗賊たちの視線は雪之丞から逸らされない。いいや、逸らせない。
盗賊たちもイレギュラーズたちが自分たちを討伐する、ないしは捕縛するため遣わされた者たちであると気づいている。その力量からしても撤退することが賢明だろう。けれども少なくとも目の前の女を──雪之丞を倒さねばこの場を逃れられないと頭のどこかが告げているのだ。
雪之丞は彼らの攻撃を受け、いなしながら剛の剣で攻めていく。その足元は動くほどに柔らかい砂が零れ落ち、彼女の動きを鈍らせていくが致し方がない。
(逆に、それを見せる事で与し易い獲物と見せられればそれはそれで良い)
勿論倒されるつもりなど毛頭ない。人形へあのように利己的な改造を加えた輩とあっては、特に。
元々、人の形をしたモノには魂が宿りやすいと云われている。時塚・揚羽の作る人形にそのような現象が多いとなれば、彼女の腕は相当のものであろう。だからこそ──。
「──宝の持ち腐れとは、まさにこの事でしょう」
つと雪之丞の目が細められる。彼女と盗賊たちの間に飛び込んだベネディクトは「全くだ」と呟いて、槍による乱撃を叩き込んだ。何かを服の下に着こんでいるのか、彼の手に伝わるのは硬い手ごたえ。けれど全く効いていないわけではないそれに一瞬身を引けば、睦月の放った無数の晶槍が男めがけて一直線に飛ぶ。
「器物と書くように物は大事にすれば魂さえ宿るというのに、許せません」
睦月の瞳へ宿る光は──怒りか。敵1人を確実に倒そうという思いが見えるようである。
ここで殺すのは簡単だ。手加減などしなければ良い。けれど生きて罪を償う方がつらく苦しいこと。人形と揚羽の受けた苦痛に比べれば軽いものかもしれないが、殺して終わらせるよりずっと良いだろう。
珠緒は言霊を発し、続いてミリアドハーモニクスを発動しながら視線を史之へ向けた。
「秋宮さん、こちらのフォローもお願いできますか」
珠緒が主に回復を施すのは雪之丞だ。人形への指令によりいくらかダメージを受けている仲間に対しては史之がフォローしてくれている。しかしそれでも──度重なる盗賊たちの攻撃で、雪之丞の傷は目立ち始めていた。
けれど負けない、負けられない。ここで雪之丞が沈めば盗賊たちは自由に動き回るだろう。
「1人たりと──逃しません!」
崩れていく足元を気合で踏みしめ、雪之丞が強烈な一撃を放つ。それは護りをも砕かんとする重さで敵へと迫り、相手が行きつく暇なくベネディクトはその懐に迫った。
多少の間合いを潰し、槍が男を貫く。持ち前の技術で多少は受け流したようだが、男は立っていることもままならなくなったのかその場に崩れ落ちた。
一方の人形側。ひたすらに狂い咲く桜の幻影で引き付ける蛍は魔力障壁を張り、その周囲で仲間たちが早く人形を倒さんと奮闘していた。
珠緒の言霊が自身の魔力を回復させることを感じながら、Erstineは氷刃に全力を込めて仕掛けていく。次いで手の内に顕現させた白き魔槍を突き出し、そこに纏わせた魔力で追撃を行うかんな。
その直後、人形が上書きされた命令に従う。勢いよく射出されたモーニングスターはイレギュラーズたちの中心へ飛び込んでいき、痛いほどの爆風が蛍を、かんなを、周りの仲間たちを襲った。
(私にお手伝いできるのは……人形さんを早く行動不能にして、他の皆の負担を減らす事ぐらい)
ならば、最大限そこに力をつぎ込まなければ。かんなはふらつく足を叱咤して、再び人形へ──歪に改造されてしまった人形の足へ刃を向けた。彼女らへ強烈な支援を施す史之は人形へ目を向ける。
あれだけの足を持ちながら蛍と対等、あるいはそれ以上の素早さを出せることが驚愕だ。一刻も早く破壊してしまう必要があるだろう。それに先ほどから向けてくるモーニングスターの腕も。
攻撃と素早さに長けているのだろう人形は、しかし改造前より大きくなった足によって回避を苦手としているらしい。おかげで四肢を重点的に攻撃され、だいぶ傷が目立つ状態だ。
これが揚羽の人形であることを思えば、蛍の心はツキリと痛む。けれど人形の破壊は彼女からの頼みだ。
(たとえ貴方に心が無かったとしても……貴方を生み出してくれた人の心は、きっとそこにあるから)
改造され、自身以外の手が入った人形のことを『我慢ならない』と言った揚羽の心がそこに。
だから。
「これ以上踏みにじられる前に──止めるわ!」
より一層鮮やかに咲き誇る桜の結界が人形を離すものかと取り囲む。繰り返される攻防の中、史之の起こした竜巻が足を絡ませ潰し、かんなの手にした漆黒の刀が鬼の歌を奏でながら人形の腕を跳ね飛ばして。
「これがオーダーなの。だから……壊れてちょうだい」
Erstineの手にした武器が相手を惑わせる。囁いた敗北はErstineから──間もなくして、人形へともたらされた。
さあ残るはリーダーの欠けた盗賊たちのみ。人形へ相対していた仲間たちが加わったことでこのまま優勢で終わるはず、だった。
雪之丞への引き付けが解けたタイミングで盗賊たちが壊された人形に気づく。彼らがここまで大きく動けるようになったアレが壊されてしまったということは、このまま戦い続けても待つのは敗北だ。
素早く踵を返す者、その前に立ちはだかるベネディクト、鈴の如き硬質な音が入り乱れる。
「盗賊が、」
珠緒が声を上げるも、動き出した敵は止まらない。砂地を苦も無く駆ける盗賊たちの補足よりも雪之丞に再び引き付けられ、またベネディクトに足止めされた盗賊たちを倒す方が賢明だ。イレギュラーズたちは武器を握り、盗賊制圧に向けて動き出す。
「生憎と逃がしてやる心算は無い。……最も、降参するというなら必要以上に痛めつける様な真似はしないと約束するが」
ベネディクトの言葉に盗賊たちが狼狽える。当然だ、火力となる人形は倒され自身らは逃げられぬ状況に置かれている。戦うことを選択すれば、盗賊たちに待っているのは彼ら自身が想像した通り敗北だ。
ああ、と落胆の声が風に消えていく。盗賊たちは力なくその腕を下ろしたのだった。
●
珠緒によって治療を受けた盗賊たち。気絶していた者も間もなくして目を覚ました。そして拘束された自身の姿に取り囲むイレギュラーズたち、破壊され停止した人形を見て敗北を察したらしい。
「ハッ。殺すなら殺せよ」
自棄になった盗賊たちに、けれどErstineは緩く頭を振る。
「死を持って償わせるなんて……私はそんな綺麗事言えないの。国のお縄にかかってキツく拷問された方が、反省するってものでしょ?」
「ああ。然るべき場所へ出て貰うとしよう」
彼女とベネディクトの言葉に盗賊たちがチッと舌打ちし、顔を背ける。その傍らへ珠緒がしゃがんだ。
「あの人形を手に入れた経緯と、改造方法を」
その命を握っているのは自分らだと無言の圧をかけると盗賊たちはぽつぽつ喋りだす。その情報をまとめて揚羽へ報告すれば、今後の対策もすることだろう。
「人形の腕や、保管しているであろう美術品。その在処もお聞きしたいですね。それに逃げた仲間の向かった場所も」
奪うのならば奪われる覚悟もあるのだろう。ないのであれば今、自覚するだけだ。
雪之丞の言葉を聞きながらErstineが彼らから視線を外せば、壊れて止まった人形とそこに集まる数人の姿が見えた。
「どうしてかな。置物だとわかっていても人の姿をしていると放っておけないよね」
史之はそう呟き、視線を傍らの睦月へ向ける。祝詞を唱えてもらえないかと問えば睦月は1つ頷いて口を開いた。
(カンちゃん、いちおーかみさまだからね)
祝詞とは神へ奏上する言葉だ。口に出すことで霊力を発する文言は、きっと史之より睦月が述べた方が効力を発揮することだろう。
「しーちゃん。一働きしたら小腹がすいた。羊羹食べたい」
睦月の訴えに「あとでね」と告げ、史之は人形へ手を伸ばす。人形をこのままにしておくわけにはいかない。
「後から付け足された余分な部分はいらないわよね」
「ええ。必要なパーツだけ分けてしまいますね」
持ってきていた箱に傷ついた頭と胴を収め、破壊された足もかんなと睦月が選別したパーツからそれらしく、使えそうな1対を選ぶ。
「腕は流石に……」
「ないね」
史之の言葉に睦月が頷く。こればかりはどうしようもない。けれども他のパーツは箱に本来あるべき形へ収められた。これが人形にとっての棺になるのか、再生されるための揺り籠になるのかは揚羽にしかわからない。
「いくらか元が残っていれば、修理もできるでしょう」
盗賊たちの元からやってきた雪之丞は箱に収められた人形を見下ろし呟く。その眼窩に収められた眼球は宝石のように煌めいて、例え分かっていたとしても一瞬人間かと息を詰めてしまいそうだ。
「心を持たない人形だからこそ、使う側の人間が心を尽くしてあげないでどうするのよ……!」
蛍はその姿を見て、くしゃりと顔を歪める。元は綺麗だったのだろう人形は、人間のせいで壊されてしまった。物だから、心がないからと言って杜撰に扱っていい理由とはなり得ない。
「……揚羽さんに返しましょう。報告もしないといけないもの」
蛍の言葉に史之たちも頷き、蓋を閉めると外れてしまわないように紐で括る。頭部はやや破損してしまったが、人と同じ姿をさせているのなら記憶や記録を保持する部分はそこであろう。どうか無事であれと願う他ない。
「……人形、か」
Erstineは人形の姿が蓋で隠れると視線を逸らした。
かつてはErstineも『人形』と呼ばれていた。だからだろうか、ほんの少しばかりあの人形に心を寄せてしまうのは。
(でも……私はもう『人形』なんかじゃないから……)
混沌に来てからはイレギュラーズの1人。知人もできて、好きな人もできた。だから自身は人形じゃないと心に言い聞かせる彼女の頬は、その人を思い浮かべてしまったからか僅かに赤くて。
「……帰りましょう」
誤魔化すように咳ばらいをひとつ。一同は盗賊をラサの傭兵たちへ引き渡したのち、揚羽のもとへと足を運んだのだった。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れさまでした、イレギュラーズ。
揚羽の手元にはかの人形が戻ってきました。それをどのように扱うのかは彼女次第。
この度はご発注、ありがとうございました!
GMコメント
●成功条件
人形の破壊
(盗賊たちの撃破、あるいは捕縛)
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。不測の事態は起こりません。
●エネミー
・魔改造人形
元・揚羽の作った人形。現在は魔改造され、盗賊たちに操られています。もとは人の美を追求した人形でした。
脚はバランスを取りやすいようクモのごとく分かれており、両腕はそれぞれ剣とフレイル型のモーニングスターが装着されています。
素早さと攻撃力に長けています。反して回避は低めです。
剣のロンド:物近単:少しずつ異なる太刀筋で、素早く複数回切りつけてきます。【出血】
鉄の鎚:物中範:モーニングスターが迫ります。【失血】【ショック】
・盗賊×6
ラサで強奪行為を行う盗賊たち。これまではさほと大きな悪事を働いていませんでしたが、魔術に長けた者がおり、上手く人形を改造できたこともあって最近は動きが活発化してきました。
長くこの地にいるためか、砂地にも慣れているようです。防御技術にも優れています。攻撃力はさほどでもありません。
また、リーダーは小汚い布を被った男だと言われています。彼は他の盗賊と比べてステータスが若干高く、彼の指令を人形は聞くようです。
横取り:その時に使用するタイプの消耗品を奪われることがあります。
●フィールド
砂漠です。少し離れた場所にオアシスがありますが、戦う地点は人の往来もあまりありません。目撃情報を元に行けば襲いかかってきます。
砂地は足場が緩く、適切な何かで対処しなければ回避にマイナス補正が入ります。
※戦闘中の行動になるため、スキル・アイテムの使用方法には注意が必要です。
ゲームマニュアルページの『アイテム・非戦スキル・ギフトの使用例』も併せてご確認下さい。
●NPC
・時塚・揚羽
桜咲珠緒さん、藤野蛍さんの関係者。
練達に居を構える人形師です。
基本的にリプレイでは登場しません。
●ご挨拶
リクエストありがとうございます。愁です。
大変遅くなってしまいましたが、揚羽さんから皆様へのご依頼です。
それでは、プレイングをお待ちしています。
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