PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<Breaking Blue>シトラスの音色

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●後半の海へ!
「皆さん、この間のバカンスは楽しめましたか? 気を取り直して後半の海──攻略開始、なのです!」
 おー! と拳を突き上げる『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)。その手に持つ羊皮紙には海洋からの依頼であると印が捺してある。
 この時分だ、かの国からもたらされる依頼と言えば『絶望の青』に関するそればかり。つい先日その攻略を進める海洋王国とイレギュラーズたちがアクエリア島を制圧したことは記憶に新しいだろう。橋頭保を築いて後半の海へ進撃できるようになったことは大きいが、同時に前半の海で支払った代償も少なくない。
 航海は常に船員の命がかかっているものだが──まさか、呪いにかかってしまうなどと誰が思っただろうか。
 それは『廃滅病(アルバニア・シンドローム)』と呼ばれるもの。絶望の青に潜むであろう冠位魔種アルバニアによる死のカウントダウンである。絶望の青に踏み入れた者は何者であっても廃滅病にかかるリスクがあると思えば、更なる航海に躊躇する者も──。
「いないわけではありませんが、進むしかないって思っているかたも沢山いると思うのです。廃滅病を治す方法は1つしかない……『打倒アルバニア』なのですから!」
 しゅしゅっ、とユリーカは拳を振って戦う仕草をする。彼女の言う通り廃滅病の治療法としては元凶を倒す他見つかっていない。延命措置は行われてきたが、根本的な解決には至っていないのだ。
 敵の立場からすれば、絶望の青を進んでもらうだけでイレギュラーズが減っていくのだ。出来るだけ顔を見せたくないだろう。けれど『絶望の青攻略』に合わせて仕掛けてきている以上、このまま新天地(ネオ・フロンティア)を目指されるのは彼らにとって不都合で望まない結果のはず。
「皆さんが後半の海を進めば進むほど、アルバニアは出てこざるを得なくなるのです。そこを倒せば廃滅病完治! ネオ・フロンティア到達! です!」
 もちろん狂王種や厳しい荒波、移ろうように変わっていく天候など大きな壁はあるだろう。だが最も大きな壁は先から述べているアルバニアの影響だ。
「というわけで、皆さんにはアクエリア島から後半の海を進んでもらうのです。狂王種やアルバニアに従う魔種、漂う怨念……たくさんの障害がありますが、頑張って戦ってほしいのです」
 こんな情報も上がっているのです、とユリーカが情報の書かれた羊皮紙をイレギュラーズたちへ掲示する。覗き込むと幽霊船というワードが目に飛び込んだ。
 ボロボロに朽ちた船体。亡霊のクルー。響く怨嗟と嘆きの声。いかにも物語で出て来るような様だ。
「これまでの大号令でもたくさんの船が沈んでいますからね。こんな幽霊船がいっぱいあるはずなのです」
 霊が彷徨う時は心残りがあると相場が決まっている。特に大号令で向かった船とあらば想いを残した者たちが多くても納得だ。
 だがしかしそれはそれ。
「故人には冥福をお祈りしつつ、蹴散らしてボクたちは先に進むのです! えい、えい、おー!!」


●変わる天候、そして
 アクエリアより後半の海へ漕ぎだしたイレギュラーズの船は、荒波にもまれながらも順調に航海を続けていた。
「すっかり落ち着いて何よりだ」
 風で張った帆を見上げ、船員が小さく息をつく。たとえ束の間だとしてもやはり天候が良い方が落ち着くものだ。だが本当に『束の間』である。
「前方に黒い靄を発見! 近づいてきます!」
「回避、間に合いません!」
 早々に次なる天候──天候と言って良いのか定かでないが──に突っ込んだ船はそのスピードを緩めた。視界が悪い以上、何が起こるかわからない。
 おいおいどうすんだと船員たちの中でピリピリした空気が漂うが、絶望の青に入ってからは多少見慣れた光景だろうか。周囲に諫められながらも船員たちとイレギュラーズは辺りの警戒を行う。
 やがて。
「……何か聞こえるな」
「歌でしょうか。宴がしたくなりますね」
「楽しそうな声……」
 どこからか聞こえてきた騒ぎ声に一同は顔を見合わせた。こんな霧の中で? 誰が?
 その答えはすぐ知ることとなる。

 ──黒い靄に紛れて、傍まで迫った幽霊船が教えてくれた。


●歌い踊れ、いつまでも!

 歌え、歌え!
 踊れ、踊れ!

 陽気に楽しく過ごそうぜ!
 ピリピリしてちゃあ勿体ない!

 歌が下手? ああ問題ねえ、皆で歌えば誤魔化せるさ!
 踊れない? 任せてくれよ、こういう時は千鳥足でやるもんさ!

 さあさ、いつまでもいつまでも、死んでからだってずっとここで騒ごうぜ!

GMコメント

●成功条件
 幽霊船の撃破

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。不測の事態は起こりません。

●エネミー
・亡霊船長×1
 最も陽気な半透明の亡霊。歌って踊って、皆に号令をかけて宴を続けます。イレギュラーズたちの乗ってきた船へは乗り込んできません。
 遠距離レンジを得意としており、攻撃力と特殊抵抗に優れています。

宴続行:神特特:およそ5ターンごとに発生する大号令。ほら、宴しようぜ。【幽霊船の領地・領空内】【魅了】
仲間入り:神遠単:あんたも俺たちの仲間入りだ!【必殺】

・亡霊クルー×20
 半透明な亡霊たち。歌って踊って生者を引き釣り込もうとします。イレギュラーズたちの乗ってきた船へは乗り込んできません。
 近距離~中距離レンジを得意としています。攻撃力はそうでもありませんが、命中に優れています。

歌え!:神近域:はい、せーの!【狂気】
踊れ!:神近単:一緒に手を取ってさあ!【崩れ】

●幽霊船
 ボロボロに朽ちた船です。皆さんの乗る船と高さはそう変わらないため、接舷させて乗り込みます。
 甲板には所々に穴が空いています。立ち位置によっては敵へ適正レンジで届かないことがあるでしょう。

●フィールド
 地上は前述『●幽霊船』をご参照ください。尚、1度海へ飛び込むと甲板まで戻るためにかなりの時間を要します。
 空中は黒い靄が漂っており、飛行状態での戦闘は視認性の悪さから双方向(何かを与える、何かを受ける)にファンブルが増大します。
 また、このフィールド上ではAPが毎ターンロストします。

●ご挨拶
 愁と申します。歌うのは好きだけれど踊るのは下手です。
 停滞と刹那的快楽を望む幽霊たちに終止符を打ちましょう。皆さんは進まなくてはならないのですから。
 ご縁がございましたら、よろしくお願い致します。

●重要な備考
 <Breaking Blue>ではイレギュラーズが『廃滅病』に罹患する場合があります。
 『廃滅病』を発症した場合、キャラクターが『死兆』状態となる場合がありますのでご注意下さい。

  • <Breaking Blue>シトラスの音色完了
  • GM名
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年05月15日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

十夜 縁(p3p000099)
幻蒼海龍
セララ(p3p000273)
魔法騎士
デイジー・リトルリトル・クラーク(p3p000370)
共にあれ
サンディ・カルタ(p3p000438)
金庫破り
リゲル=アークライト(p3p000442)
白獅子剛剣
銀城 黒羽(p3p000505)
ミルヴィ=カーソン(p3p005047)
剣閃飛鳥
ソア(p3p007025)
無尽虎爪

リプレイ


「黒い霧の中から現れる幽霊船に亡霊の船員達……小説や映画なんかじゃ良くあるシチュエーションだな」
 『不屈の』銀城 黒羽(p3p000505)は近づいてくる幽霊船を眺めながら呟く。賑やかな声はあの幽霊船から聞こえているようだ。ここまで陽気な雰囲気を纏った幽霊船もなかなか見ないが、そもそも幽霊船の数自体が海洋王国近海とは異なるのである。
(この海には如何ほどの彷徨える幽霊船が漂っているのか……)
 絶望の青は無念に命を散らした船が、ヒトが多く沈んでいる。『死力の聖剣』リゲル=アークライト(p3p000442)はその数を想像しようとして無理だと小さく頭を振った。
 数え切れないほどの犠牲があったのだろう。だからこそ成し遂げられず、大号令を止める他なかったのだろうから。
「奴さん方の歌に誘われたりしねぇよう、俺たちが乗り移ったら離れてくれや」
「はい、あなた方もお気をつけて!」
 敬礼で返され、苦笑いを浮かべるのは『濁りの蒼海』十夜 縁(p3p000099)。自分自身はそう畏まられる身分でもないのだが、イレギュラーズというだけで彼らにとっては敬う相手なのだろう。実際、絶望の青踏破に多大なる貢献をしているのだから。
 誰よりも早く駆けた『Ende-r-Kindheit』ミルヴィ=カーソン(p3p005047)が2振りの曲刀を構える。軽やかに、嵐のような速さで迫った彼女の剣舞に亡霊はニヤリと笑った。
「イイ女だ」
 ミルヴィの肩へ伸ばした手はその体を掴めない──前に体を引かれたことで物理的にも宙を切る。視線を向ければ彼女はぱちりとウィンクしてみせた。
 アイドルたるもの易々と触れさせてはならない。その上で。
「アタシが歌と踊りでアンタ達を最っ高に楽しませてから極楽へ逝かせてアゲル♪」
「ははは! そりゃあいい! 野郎ども、宴の時間だ!!」
 船長の号令でクルーが陽気に応答する。最も、絶望の青のド真ん中で行われるには奇妙なこの光景に、イレギュラーズは誰1人として呑まれなかったが。
 それはそれとして。
「絶望の青にもこんな賑やかな連中がいるとは嬉しいね」
 嬉しそうに、けれど気怠げな十夜の様子にクルー達が反応を示す。あんたも歌と踊りに混ざったらどうだい? と。
 思ったことだろう。なんて気怠げな男かと。
 思ったことだろう。こいつなら堕とすのも容易だと。
(……ま、生憎と歌も踊りも付き合ってやる気はねぇがね)
 もちろん容易なわけがない。元より、そのようなことで来た訳ではないのだから。
 十夜は亡霊クルーたちを引き連れて甲板をふわりと蹴る。人1人が落ちてしまう程度の穴だが、飛び越える際に不思議な力を体が巡ったような気がして十夜は目を眇めた。
「……やれやれ、飛ぶ感覚ってのは何度やっても慣れねぇモンだ」
 海種は水中を泳ぐもの。本来ならば決して飛行種のように飛んだりしないのである。霊薬によってほんの少しばかり力を得た十夜も、その感覚は当分慣れそうになかった。
「さあ、一気に叩いていこう!」
 リゲルの生み出した火球は靄の外から降り注ぎ、クルーたちを挑発する。その直後、冷たく静謐な月の光が満ちた。
「馬鹿騒ぎも程ほどに弁えねば迷惑というものなのじゃ」
 『大いなる者』デイジー・リトルリトル・クラーク(p3p000370)は半眼でクルーたちをねめつけつつ、月光の結界に彼らを押し込む。黒羽は全身に闘気を纏うと、なるべく多くのクルーを狙って絡めとらんと操った。
「おう、あんたも歌うかい?」
「さあさ、ぼうっと突っ立ってんな!」
 クルーがわらわらと黒羽の元へ寄ってくる。喧しいことこの上ないがこの際関係ない。今ここに在るのは『進む者たち』であるイレギュラーズと『立ちはだかる者たち』である亡霊だ。どのような言動をしようと彼らという障害を押し退け進むまで。
「全員確りとやっつけてあげるからね!!」
 『雷虎』ソア(p3p007025)が交戦場の側面からふわふわと飛んでやってくる。甲板に着地するなりその足は力強く踏み込み、亡霊たちへ鋭利な爪を向けた。これをたかが爪と侮るなかれ。雷虎の爪はそれだけで凶器である。
 歌って踊って騒ぎたい幽霊たちとそれを意にも返さぬイレギュラーズたち。その乱戦となる最中、『魔法騎士』セララ(p3p000273)はとんと軽やかに降り立つ。その手には聖剣ラグナロクを携えて──。
「こんにちわ、幽霊さん。ボクとダンスはいかが?」
 これまた軽い足取りで、けれど確かな歩調と共にクルーたちの中へと飛び込む。その唇は楽しそうに歌を紡ぎ、その足は踊るようなステップを踏み。まるで舞うような手さばきでセララは斬撃を繰り出していく。攻撃を受けたクルーは痛そうな素振りを見せないものの、ほんの少しその存在を薄めたように見えた。
「嬢ちゃん、踊りが上手だな!」
「ふっふー。しっかりステップ踏まないとあっという間に終わっちゃうからね!」
 にこっと笑うセララ。その後方で『風の囁き』サンディ・カルタ(p3p000438)が武器を構える。本日の彼はその武器『自体』がメインウェポンと言って差し支えない。
「こーゆーので暴れるのは得意だぜ!」
 宴となれば暴れだす輩がいるのは恒例と言っても良い。そしてサンディの攻撃が命中する様は──『暴れる』という表現にふさわしいものだ。
 引き付ける仲間たちや攻撃手を避け、敵となる亡霊のみを狙い撃つ攻撃。それはただの打撃だけではなく、亡霊たちに実体がないにも関わらずペナルティを重くかけていく。
(こっちはさっさとカタをつけねーとな)
 ちらと視線を向ける先は、船長を魅了し引きつけんとするミルヴィ。回復手がいない以上、いつかどこかで限界は来るはずだ。
 イシュラークの加護を得たミルヴィの舞を眺めながら、船長は他のイレギュラーズへ向けて発砲する。その姿にミルヴィは目を細めた。
「オジサマ、余所見しちゃうノ?」
 仲間の様子も気になっちまうのさと肩を竦める船長。その姿は亡霊なれど、言動はまさに生者のそれだ。
「ね、一緒に踊りましょ?」
 余所見しないでとミルヴィが手を差し出す。無念を残して死んだ者を『怖い』などとは言っていられない。
 女の言動にニヤリと笑ってその手を取る船長。さあここからは1 on 1。ミルヴィにとって救いは彼をマークする際の邪魔者──クルーたちを仲間が押さえてくれていることだろう。
「さあ、次の相手はだあれ? ボクのダンスは激しいよ!」
 鋭利なる乱撃で数人の亡霊を消失させたソアはくるりと振り返り次の敵へ。楽しい亡霊たちだからこそ、いつまでもここで留まらせるわけにはいかない。
(だって、この海でこれだけ元気に幽霊やれるんだもの!)
 皆で仲良くあの世に行ったとしても、その先に待つは楽しいことばかり。そうでなくたって楽しくしてしまう。そんな予感がソアにはあるのだ。
 その相手である亡霊たちの多くを引きつけるは黒羽。彼は一切の攻撃を行わず、ただただ守りに徹していた。
(いつも通り、受けて受けて受け続けるだけだ)
 殺生は好まない。恐らくは相対する者が極悪であったとしても、だ。
 少し離れた場所で数人を相手していた十夜は、亡霊の踊りにペースを乱されることなく竜巻を起こして沈めていく。
「美味い酒でも積んでくれてりゃぁよかったんだが」
 流石にそこまでは揃えていないだろう。仕方ないと言えば仕方ない。それに廃滅病やその他諸々でいい加減気が滅入っていたことを考えれば、彼らという存在自体だけでも幾ばくかの気分転換になっている。
(こちらはあらかた片付いたかね。あちらさんは──)
 と十夜が見る先はリゲル。あちらも数人相手取り、些か動きを乱されているようだが押されていると言い切るには早すぎる。亡霊クルーたちの陽気なあの手この手にすかさず反撃しているのだ。
(俺達が追い詰められていると同時に、アルバニアも後が無い筈)
 なればこそここは攻勢になるべき。引いてしまえばアルバニアはまたどこかへ隠れてしまってもおかしくないだろう。
 ──生きた彼らと出会ってみたかった。
 剣を振れば振るほど、彼らの陽気さに触れれば触れるほどそう思わざるを得ない。それは彼らに呑まれててやるということでも、死者の仲間入りをしたいというわけでもなく。
 もしも、彼らと生きた時代が同じで。ここまで共に来た海洋軍のような立ち位置で。その上で──こうして宴を開けたのならと思ってしまうのだ。
 だがそれは叶わぬ可能性だとわかっている。リゲルの、リゲルたちの取る道は1つしかない。
 彼の放った斬撃で亡霊たちも思わず後方へ飛ばされる。その後を追い、セララによって真っすぐに斬り下ろされた剣筋が亡霊たちを巻き込んだ。ようやくドーナツをもぐもぐし終わったセララはステップを踏みながら「ねえ!」とクルーたちへ話しかける。
「幽霊さん達とこの船の名前を教えてくれない?」
「ん? そうだなぁ、じゃあまずは俺たちの愛する『彼女』から──」
 クルーたちは嬉しそうに『彼女』と称した船の名を。そして順番に名乗りあったり他者に紹介されたりと騒ぎ始める。その騒音でさえも霊的な何かでイレギュラーズへのダメージとなっているのだが、それと名前は別だ。
(絶望の青のこんな奥にいるって事は、ここまで進んできた優秀な人たちだったんだろうね)
 強く、死しても陽気な海の民。彼らのことを誰しもが忘れないように、伝え残してあげることこそがきっと弔いとなるだろう。
「賑やかなのは妾も嫌いではないのじゃがのう」
 やれやれと肩を竦めるデイジーは内1人へ魔光閃熱波を放つ。追ってサンディは自らの出せる最大火力で攻撃を放った。
(早く合流しないとな)
 あちらで1人耐え続けてくれている、ミルヴィのためにも。
 そのミルヴィはと言えば、船長を前にしてよろけそうになって──ぐ、と足へ力を込める。目の前でニタニタと笑みを浮かべていた亡霊がおや、と表情を改めた。
 アイドルが、踊り手がステップを乱すなんてあってはならない。最後の最後まで踊り続けるんだ!

 ──夢破れてもその先がないなんて誰が決めた?
 ──私は諦めない! いつだってStand and fight!
 ──どんなに苦しくても私が抱きしめてあげる

 より一層力強く情熱的に歌が響く。そこへクルーたちを倒した仲間たちが加勢した。
「貴方は既に亡くなられているのです。残念だが……この宴は、ここで終わらせる!」
「いいや、終わらねぇさ。あんたたちが仲間に入りゃあな!」
 凍てつくような斬撃に、けれど船長は笑ってみせる。その間近に十夜は足をつけて。
「おっさんももう少し頑張るかねぇ」
 か弱いと嘯く男が現す実力、その一欠片。直後に破壊的魔術が船長へも叩き込まれる。
「ようやく本命じゃな」
「そうだね! このまま押し切っちゃおう!」
 応えたセララがセララスペシャルで仕掛け、また別の角度からサンディの外三光が敵を追い詰める。
(ミルヴィは──)
 視線を巡らせたサンディが目にしたのは大柄な男。黒羽がミルヴィと亡霊の間に立ちはだかり、その闘気を全身から放っている。
「死んでんだから騒ぐな、静かに眠ってろ」
「おいおいヤロウかよ」
 立ちはだかった黒羽にげんなりした表情を浮かべる亡霊。しかしはっと表情を変えたと同時、その身は雷光に翻弄される。
「どこに逃げたって雷の雨を降らせてやるんだから!」
 眦を釣り上げたソアを見て、そして周囲を囲む者たちを見て。亡霊はやれやれと肩を竦めた。
「俺の仲間をダメにしやがって。どうしてくれんだ? あんたたちが仲間になってくれるかい? ああそれがいい、きっと共に宴をすれば楽しいに決まっているさ!」
 亡霊の笑い声がぞわりとイレギュラーズたちの耳元を這う。眉をひそめる者もいるが、正常さは失われない。
「オジサマ、最期まで踊り続けるヨ!」
 ミルヴィの幻想的な剣舞が視線を奪う。その合間に十夜の鋭い一撃が亡霊へ叩き込まれた。
「仲間にはならねぇがね。楽しませてはもらってるさ」
「じゃが、宴の続きはあの世で開くが良い。この海での狂乱は今日が最後じゃ」
 デイジーの現出させた月が亡霊を照らし、惑わし、狂わせようとする。そこへ動きを阻害せんとサンディが畳みかけるが、亡霊は止まらない。
 だって、自身がいなくなってしまったら、終わってしまうから。
「ヤロウに用はねえんだよなぁ!」
 硬質な音を立てて亡霊の持つ銃が黒羽へ向けられる。武器も亡霊同様に後ろが透けてみえるが、その殺傷力はこれまでも度々茶々をいれるように放たれたそれが証明していた。
「殺せるもんなら殺してみろよ、まぁ──」
 言い終わる前の発砲音。黄泉へ誘う1発。ぐらりとよろけた黒羽は、しかしその目に光を宿したまま船長を見据える。
「──俺はお前達の仲間にはならねぇけどな」
「ここが絶望の青じゃなかったらきっと仲良くなれた気がするんだけどね!」
 ソアは雷光を操りながら叫ぶように告げる。そう、絶望の青でさえなければ。あるいは彼らと絶望の青踏破を目指す仲間であったなら。そんな『もしも』を考えてしまうくらい賑やかで楽しそうな亡霊たちだった。

 けれど、そうではないから。

「ああ、どこかにそんな可能性があったとしても……在らざるべきものは討伐し、成仏してもらうしかない」
 リゲルの放った真っすぐな一撃が亡霊を貫く。まだか。いいやあと少し。
 敵を十字に斬りつけたセララは息つく間もなく剣を天へ。黒い靄より外から不穏な音が聞こえ始めた。
 そう、まるで嵐の前のような。
「これがボクのとっておきだよ!」
 空から一条の光が落ち、セララの掲げた聖剣へ流れ込む。雷光を纏った斬撃、その名は。
「ギガセララブレイク──ッ!!」
 セララの放った技が船長を飲み込み、その存在を削いでいく。
 終わりだ、と。誰もが思った。クルーも消え、船長も消えて。
「……宴もこれでお終い」
 消えゆく船長の姿にミルヴィはぽつりとこぼす。
 彼らも進まなければならない。永遠に宴を繰り返すことはもう出来ないから。
(帰りを待つ人達と、帰るための戦いが待ってるんだ……)
 だから、せめて今は安らかに──眠れ。



 幽霊たちの消えた船は水を打ったように静かだ。けれど幽霊たちの残留思念でも残っているのか、どこか不気味とは感じさせ難いものがある。
 チチチ、と戻ってきたファミリアーのネズミをデイジーは回収する。そして脅威が何も居ないことを見回して確かめ、悪戯っ子のように笑みを浮かべてみせた。
「馬鹿騒ぎは終いじゃ。というわけで物色に行くかの!」
 絶望の海で果てた船。帰らなかったこの船には一体何が積んであるのだろう?
 そんな好奇心がデイジーの中で膨れ上がって、探検へと1歩踏み出さずにはいられない。
 辺りを見てみると黒い靄は随分と晴れ、十夜の指示に従い離れていた船も視認できるほど。ソアが船のヘリから「おーい!」と大きく手を振れば、船はイレギュラーズたちに気づいて近づき始めた。
 再び接舷する頃にはデイジーも甲板へ戻ってきており、イレギュラーズたちは順に友軍の船へ移る。しんがりとなったサンディはちらりと無人の船を振り返った。
 幽霊たちの馬鹿騒ぎ。飲んで歌って踊り明かす──そんな宴も嫌いではない。けれど。
「進む気のねー船なんてのは、俺はまっぴらだぜ」
 サンディは捨て台詞とともに幽霊船を去る。友軍船が離れると、幽霊船もイレギュラーズが去るのを待っていたかのように動き始めた。
 どこへ向かうのか、それは誰も知り得ない。墓場を探しに行くのかもしれないし、当てもなく船だけで彷徨い続けるのかもしれない。そして恐らくは途中で力尽きるのだろう。もはや亡霊など存在しない船にさほど力が残されているとも思えない。
(次の世界でも充実した人生を送れるよう願いたいものだ)
 あの船に乗っていたクルーたちを思い出し、リゲルは想う。きっと今世でも──最後は無念に散ったかもしれないが──彼らは充実した人生だったのだろう。それほどの人間味を彼等からは感じた。だからこそ、願う。
 同時に思い出すのは魔種へ転じた元イレギュラーズ。彼は今もこの海で、戦い続けているのだろう。
 彼らのような、突然の別れや死は避けられない。そしてどこでもあり得ること。
(だからこそ今を、精一杯生き続けなければ)

 それがきっと──生者の務めだ。

成否

成功

MVP

銀城 黒羽(p3p000505)

状態異常

銀城 黒羽(p3p000505)[重傷]

あとがき

 お疲れ様です、イレギュラーズ。
 さあ、前へ進みましょう。

 MVPは必殺攻撃も臆さず受けた貴方へ。

 それでは、またのご縁をお待ちしております。

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