PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<Breaking Blue>ペンや剣より恐ろしいもの

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 楽園島「アクエリア」を制圧したイレギュラーズは、再び絶望の青を進軍する。
 大号令の為でもあり、死兆を得てしまった仲間――或いは己自身――の為でもある。
 魔種アルバニアは未だ姿を現さず、このままでは死兆がイレギュラーズたちを食い荒らしてしまう。
 死を悠長に待っている訳にはいかない。彼(あるいは彼女)が最も嫌がる事――絶望の青の攻略開始をもって、未だなお反旗を下すことはないとアルバニアに宣戦布告するイレギュラーズ。
 待ち受ける困難は小さくない。しかし、呪いに苦しむ者たちを救い、或いは新天地(ネオ・フロンティア)を見つけられるかも知れないという希望がある。
 かくして女王の号令のもと、“後半の海”への進撃は始まった。


 一隻の船が一面の青を征く。
 海洋が派遣した斥候船である。何かあれば灯りや信号で後続の本隊へ知らせる役目を担っている。
 死に最も近い船の乗員に志願したのは数名だが、彼らはみな精鋭だ。――その筈だった。
「……! 前方に霧! 桃色をしています!」
 慌てた様子で帆の上部から見張りをしていた男が叫ぶ。
 船長は慌てず、上を向いて指示をした。
「回頭してよけられるか?」
「無理です! 突然海から湧き出したように……!」
「前方に確認しました! これは回頭無理です! このまま突っ込みますよ!」
 操舵手が言う。他の船員も霧を確認し、各々の武器を思わずといった様子で撫でた。
「影が見えます! 幽霊船か狂王種です! 詳細は不明!」
「判った! 詳しく判るまで後ろにサインはするなよ! 総員戦闘準備!」
 船が桃色の霧に突っ込む。ふわり、ふわり、桃色に包まれる船。隣に誰がいるのかすら判らない霧の中、ふと悲鳴が上がった。

「きゃあああああーーーーッ!」

 ……。おかしい。
 船長が絹を裂くような悲鳴を聞いて不審がる。この船には“女は乗っていないのだ”。
 しかし、そこかしこで女の声が続き始めた。
「いやあ! なんですのこれ!?」
「あなた誰ですの!? 隣にいたのはジョージの筈ですわ!」
「船長! 幽霊船ですわ! すぐ至近距離ですわ、皆さま注意なさって!」
「いや貴方誰ですの!?」
 船が混乱に包まれる中、船長も己の体の異変を感じていた。
 胸部が重い。見なくても判る、乳房があるのだ。
 そして霧の中かろうじて見える己の腕はみるみる細くなり、肌は白く透き通る。
「これは……! いけませんわ! とにかく全員、接敵の準備をなさって!」
「ヒャッハアアーー!! ハーレムかァ!? ハーレムだなァ!?」

 コトン! コトン、コトン!

 この音を船長は知っている!
 船と船を結ぶ板を付けられた音だ。混乱している間に何者か――何者か、だって? そんなの、“幽霊船に決まってる”――に横付けされた!
 足場を渡って、霧の中、誰かが船に侵入する。船長は迷わずサーベルを抜いたが、其の重さに思わず唸った。
「船長! やりましたぜ!」
「こ、この! くらいなさーい!」
「へっへ、お嬢ちゃん! そんな細腕で剣を振り回しちゃいけねえよ!」
 戦闘音が聞こえるが、こちらが圧倒的に不利だ。女になった体の腕は弱く、剣を振り回すには頼りない。
 ここまでか――

「おいおい、まだ殺すなよ。こいつらは斥候だ。……船長は何処にいる?」
「……此処ですわ」

 コツ、コツ、コツ。
 上質なブーツの音を立てて歩いてくるのは、海賊帽子を被った髑髏。
 ――やはり、幽霊船か。ぬかった――しかし、自分の首一つで事足りるなら――
「……乗員には手を出さないでくださいませ」
「其れはこれからのアンタの返事次第だ、美人さん。アンタ達には斥候らしく、伝令の役目を与えたい」

 ――後ろに本隊がいる事は判ってる。
 その本隊に俺達の事を報告するんだ。証拠はアンタや乗員自身。これ以上ない証拠だろう?
 俺の手の中にある宝を壊して見せろ、そう伝えるんだ。俺たちはこの霧の中で待っている。

 サーベルを優雅に回しながらそう言った幽霊船長の手には、黄金の玉が握られている。

「此処までくる客人は初めてでね、俺達も高揚しているんだ。だから――首をコレクションしたいんだよ。じゃあ頼むぜ、船長さん。良い乳見せてくれてありがとよ」

 幽霊船長は踵を返すと、再び上質なヒールの音を響かせて、己の船に戻っていった。

GMコメント

 Q.性別不明の人はどうするの?
 A.お好きな性別で固定してどうぞ!(どうぞじゃねえ)
 こんにちは、奇古譚です。

●重要な備考
 <Breaking Blue>ではイレギュラーズが『廃滅病』に罹患する場合があります。
 『廃滅病』を発症した場合、キャラクターが『死兆』状態となる場合がありますのでご注意下さい。

●目標
 「桃霧の幽霊船」を制圧せよ

●立地
 海です。
 船はイレギュラーズが乗っている旗艦1、護衛船が2。
 そして今回は、斥候船1が加わります(戦力としてはかなり心許ないです)
 海賊船は常に桃色の霧に包まれており、発見は容易ですが、突然至近距離に現れるため注意が必要です。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●エネミー
 幽霊船長x1
 剣兵x10
 弓兵x10~

 護衛船の海洋兵たちに増援を要請することが出来ます。
 むしろイレギュラーズだけでは数で押されてしまうでしょう。
 コメディチックな能力に反し、彼らは戦闘に長けています。
 また、幽霊船長はアーティファクト「黄金の玉」を持っています。効力は不明です。

 また、注意すべきは桃色の霧です。
 これに包まれるとたちどころに「性別が逆転してしまいます」。
 ついでにお嬢様言葉と「~だぜ」言葉に強制的になってしまいます。
 ただの面白要素と侮るなかれ。
 女になれば、普段持っている剣は重くなり。
 男になれば、その軽さに思わずすっぽ抜けてしまうかも知れません。
 また、体で覚えていた間合いが信用できなくなるでしょう。


 アドリブが多くなる傾向にあります。
 NGの方は明記して頂ければ、プレイング通りに描写致します。
 では、いってらっしゃい。

  • <Breaking Blue>ペンや剣より恐ろしいもの完了
  • GM名奇古譚
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年05月07日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

リゲル=アークライト(p3p000442)
白獅子剛剣
アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)
灰雪に舞う翼
錫蘭 ルフナ(p3p004350)
澱の森の仔
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
橘花 芽衣(p3p007119)
鈍き鋼拳
ヴォルペ(p3p007135)
満月の緋狐
カンベエ(p3p007540)
大号令に続きし者
長月・イナリ(p3p008096)
狐です

リプレイ


 四隻の船が海に漂う。
 一隻は眼前に見ゆる桃色の霧から帰還した斥候船。そして残りの三隻は、イレギュラーズが乗る本隊一隻と護衛隊二隻。
 斥候船から乗り込んだ船長は、女性の姿に驚かれながらも、事のあらまし、そして幽霊船長からの“伝言”をイレギュラーズに伝える。
「挑発とは、余裕なものだな……」
「申し訳ありませんわ…」
「いえ、貴方たちは生きている。謝る事などないさ。幽霊船は俺たちが叩くので、斥候船は霧の外で待機を」
 『死力の聖剣』リゲル=アークライト(p3p000442)は前方に見える――まるで「俺たちはいつでも構わない」と言っているかのような――桃色の霧を見て、其れから眼前の女性(斥候船の船長)を見た。
「あの霧に触ると女のヒトになっちゃうのかー。……って事は、海賊も性別が変わってるのかな?」
「というか問題は、霧を抜けても性別が戻らない事じゃないかな……」
 『猫さんと宝探し』アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)が「女性になればきれいな声で歌えるかな?」なんて考えている隣で、『猫派』錫蘭 ルフナ(p3p004350)が憂鬱そうな顔をする。
「ワタシがやる事は、悪を倒す事……それに代わりはないんだけど。あれをやってみたいんだよね。筋肉で服をビリビリー! ってやつ」
 練達のサブカルでそういうの見たことある。『鈍き鋼拳』橘花 芽衣(p3p007119)は言う。しかし男性の間ならともかく、性別が戻ったら大変危ない事になるのでは?
「なんというか、妙な敵もいたもんだよねえ」
「そうだなあ。まあ、わしらのやる事は橘花さんの言う通り変わらん。敵を引き付け、叩き込む」
「……だね」
 『満月の緋狐』ヴォルペ(p3p007135)と『名乗りの』カンベエ(p3p007540)は頷き合う。乗り込み次第敵の注意を引こうという心づもりである。
 しかしカンベエは知らない。ヴォルペが「今回レディになる子って、絶対みんな可愛いのでは?」なんて考えている事を――!
「よし! お仕事の時間ね。性別が変わっちゃったって、逆に好都合! 敵は全部ぶっ飛ばすわよ! 海洋のみんなも宜しくお願いね!」
 『新米の稲荷様』長月・イナリ(p3p008096)の声に、おう、と随伴船から意気高揚の声が上がる。
 ――性別逆転? やってやろうじゃねえか。
 ――寧ろ良い経験になるぜ! うちの嫁さんの乳とどっちがデカいかねえ!
 そうして船は、桃色の霧の中へと突き進んでいく。



「見えました!! 黒い影です! 前方10時!」
 イレギュラーズが乗る船の見張り員が声を上げる。
 ふわり、ふわり、桃色が舞う。其れは互いが見えなくなるほどに濃くなって――やがて薄くなり、船を取り囲むように渦を巻いた。
「あれがエネミーのシップですわね!」
 リゲ子は胸にたわわに揺れるものを感じながらも、変わらず剣を取る。――重い。しかし、両手で握って振れるなら其れでいい!
 性別逆転の現象は、既に其の場にいる全員に現れていた。しかし臆する者はいない。誰一人として悲鳴は上げない。寧ろ興味深いと口端を上げるものばかり!
「いい度胸だなァ“侵略者”!」
 情報通り、黒い幽霊船はすぐ傍に鎮座していた。音もなく、気配もなく。船べりにコツ、と歩み寄るのは、黄金の球体を持った髑髏。
「…と? 男になってるやつもいるな……成程? 勇者に性の区別なし、って訳か?」
「こんにちはだぜぇ、船長さん。――首をコレクションしたいんだって?」
 『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)が言う。細身ながらも高身長、身軽そうな青年の姿になっている。内心結構「なにこれぇ!?」と驚いているがいやしかし。此処で表情を崩すわけにはいかないのだ。
「生憎お断りだぜ。大好きな王子様が、陸で待ってるもんでよ!」
「ハッハ! いい返事だぜ“お嬢さん”。そうだ、俺たちはお前らを待っていた。俺らはこんなナリになったって、結局海賊でしかないのさ。略奪する対象がいないってのは余りにもつまらなかった。つまらねェ海だったよ。大御所がそう望んでいたんだからな」
「大御所。……魔種の事ですの?」
 リゲルが問う。
「そうだな。俺たちは余り知らねえが、あいつは平穏無事で退屈な海を願ってた。停滞こそが美徳。笑えるだろ? 俺たちは其れが余りにもつまらなかった。だがお前らが現れた!」
 ばっ、と腕を広げる海賊船長。すると彼の背後で鞘抜きの音、弓を番える弦の音が響く。
「俺たちはお前らを歓迎しよう! 一度きりの逢瀬だが、この戦いを存分に楽しむとしようや!」
「上等ですわ! 楽しくなってきましたわね!」
 カンベエ子が笑う。黒い船からコトン、コトン、コトン! 板が張られ、剣を持った船員がなだれ込む!
「カンベエが此処に在り! さあ、首を取れるもんなら取って御覧なさい!!」
「首が欲しいなら奪ってごらんなさい。そう簡単には――あげられませんけれど!」
 カンベエとヴォルペ子が示し合わせて名乗りを上げる。男の名残――勇ましさを乗せたその口上は、敵兵を引き付けるには十分!
「よう船長! ワタシと一発踊ってくれねえか!」
 剣兵のうちに飛び込んだ芽衣男。筋肉でびりびりと服が破ける――事はなく。代わりに機械の鎧を飛び込み様に装着しながら、黄金の輝き目立つ船長にタイマンを挑む。
「いいねえ! 其の意気は嫌いじゃねえ! 野郎ども、容赦呵責なしだ!」
 船長は“乗った”。芽衣の拳と船長のサーベルが激しく火花を散らす。

「姫騎士のような体になろうとも、魂は変わらず騎士は騎士! ですわ!」
 リゲルは剣を構える。一瞬の集中、そして解き放つ火球! 弓兵の上に降り注ぐ炎は思考と理性を焼き焦がし、矜持高き姫騎士へ其の意識を向けさせる。更にリゲルは敵陣へと切り込み、両手で剣を振るい、其の重さすら逆に利用して敵の得物を弾き飛ばし、蹴り飛ばして海へと落とす。落ちた彼らがこの“絶望の青”でどうなるかは考えない。
「よーっし! 私も行きますわよー!」
 アクセル子(ただし鳥の特徴が強いので、余り女性らしい特徴は見受けられない)が元気よく飛び跳ねて、狙いを定める。激しく瞬け、邪悪よ去れ! 其の光は味方をすり抜け、敵だけを痺れさせ、其の防御を崩す!
「いいか! 1対1は避けるんだぁ! 常に複数人で動いて、囲まれないようにしろよぉ! 最優先は弓兵を頼むぜぇ!」
 アーリ男が随伴船に指示を出す。随伴船からは「ですわー!」と謎の返事が届き、やがて雨のような弓矢の攻防と、剣戟の交響曲が始まる。
 アーリア自身は後ろから雷撃を放つ。其れはまるで蛇のように曲線を描き、まさに乙女の刺繍が如く敵を貫き、名残の糸を残してゆく。

「――ッ! くそ……っ!」
 サーベルが大きく鎧の関節部を削ぎ、思わず後退する芽衣。
「悪い、回復頼む!」
「……わたくしの見た目が幼いのは仕方ないにしろ、性差がわかりづらいのは業腹ですわね……」
 仕方ないね。個人的には華奢なのはとてもいいと思う。
 ルフ子はじっとりと恨み言を吐きながらも、己の役目を忘れない。芽衣を森の清浄な気で癒していく。
「ありがとな!」
「いいえ。どうか無理はなさらずに! わたくしが付いています、皆様存分に戦いあそばせ!」
「……心強いと思いません? ヴォル子さん」
「ええ、とても心強いですわ、カン子さん!」
 剣兵を相手取り、二人の乙女は踊る。体の感覚が信用できないなら、とことんまで接近すればいい。今更其れを恐れる必要が、何処にあるだろう?
 剣の切り傷が増えるたび、ヴォルペの心は高鳴っていく。これが戦場! これが戦い! 守る事こそが指名なれば、この傷は勲章以外の何物でもない!
 ――カンベエもまた、異なる性に内心苦心していた。ずらしに体が付いてこない。受け流したつもりが、胸元が邪魔でうまくいかない。 けれどね、けれど!
「うまく流せないなら……! 受けてしまえばいいのですわー!」
 前へ、前へ、前へ! 切ってみろ、突いてみろ、薙いでみろ! その間にほら、スピリッツさんの蛇があなた方を痺れさせるでしょう! そして――可哀想に! 其の痺れを受けたら最後、傷を致命傷に変える死神の笑い声を聞くことになりましてよ!


「男の子になっても、射撃攻撃なら感覚の違いも無視できるんだぜ…!」
 イナ男は戦いに己を適応させていく。熱く、熱く、もっと熱く! 滾れ滾れ血よ滾れ! 爆炎は整列した弓兵を見事にバラバラにしていく。本来なら刀身周辺にしか起こせない爆発だが、魔獣の力を借りれば話は別だ。イナリは一気呵成に切り込む! 常より重い剣も振り回すには心強く、巻き起こした旋風は次々と剣兵たちを粉々に砕いていく!

「てぇーっ!!」
 弓が放たれる。其れは随伴船からの支援。こちらの損害は決して軽微ではない。倒れた者、治療する者、諦める者――それぞれいる。しかし相手に一太刀でも浴びせねば気が済まぬ。其れが兵というものだ。アーリアの指示通り近接を得意とするものたちは複数で1つの剣となり、幽霊船の乗員をただの骨たらしめていく。

「いいねえいいねえいいねえ! この高揚が! 欲しかったんだよ!!」

 船長が吠えて、手を掲げる。その手の中には黄金の玉。たちまちに、蜂蜜色に、輝いて――
「うわっ……!!」
「きゃあ!!」
 前衛を担っていた者が、全身を照らされる。其れは痛みと傷を伴うよこしまな光。
「神秘攻撃……!」
 剣を突き立てて膝を折る事だけは堪えたリゲルが、きっ、と黄金の玉を睨み上げた。
「立て直しますわ……!」
 ルフナが歌う。其の音色は味方を癒し、勇気付けていく。
 しかし小さな奇跡はぽつりぽつり、灯る。前衛は其の加護を得て、なんとかという様子で立ち上がる。この隙を逃すまいと切りかかる剣兵を、アーリアの雷蛇が貫いた。
「ハーレム目的のただの変態ではなかったみたいですわね!」
「そうさお嬢さん。俺がこの海で手に入れた唯一の宝だ」
 綺麗だろう、とリゲルに玉を見せつける船長。
「さっきの光もそうだが、霧もこいつのたまものだ。壊さなきゃあアンタら、永遠にそのままだぜ」
 弓兵は殆どいない。剣兵も前衛と随伴隊の奮闘で押され始めている。しかし其れでもなお警戒させるだけの威力をあの玉は持っていた。
「イレギュラーズの皆さん、やっちまってくださいまし!」
 船員が声を上げる。
「兵はわたくしたちでも何とかなります!」
「船長をどうにかしなければ総崩れですわ!」
「……皆……!」
 芽衣は唇をかむ。そうだ。自分たちがどうにかしなければならないのだ。いつだって何だって、この拳で切り開いてきたじゃないか!
「いくぜ……! 其の金の玉、割り砕いてやるよ!」
「怖いねえ!」
 イレギュラーズの8対の眼が、船長へと集まる。芽衣の衝撃波すら纏った拳の一撃が、船長のサーベルに叩き込まれた。
 みし、と刀身にひびが入る。
「これは燃える展開ですわ!」
 其の後ろから、飛び込むようにヴォルペが拳を振るう。其の急角度は船長の姿勢を崩すには十分。――しかして、煌めく船長の刃。其れを庇ったのはカンベエ!
「ヴォルペさん、芽衣さん、お洋服が乱れていてよ……!」
 どんな時も余裕だけは崩すまい。ウィンクを一つ、カンベエは投げる。
「どっかーん! ですわ!」
 全力を出して出して出しまくれ! アクセルは再び聖なる光を輝かせ、船長の魂を削る。
 続けて、アーリアが其の長い指に愛と別れを込めて、投げキスを送る。恋の炎は清らかではない。どろり蕩けるマグマのように、船長の体を焼き焦がす。
「……ッ! ははッ……!」
「此処が年貢の納め時ですわよ!」
 リゲルが放つ、星さえ凍る一撃。さて、アーリアが放り込んだ恋の炎と相殺するのだろうか。いいや。燃えて凍らせて、船長の体をひたすらにかき乱すのだ。
「はは……は、は……こりゃあ、いい……痺れるねえ……」
 船長が揺らぐ。其の隙をもう芽衣は見逃さない。

「これで! 全部、終わりだぜぇぇぇ!!!」

 必殺の一蹴。幕引きを招く。船長はもう――避けない。
 爆発が幽霊船を大きく揺らがせて……

 ――あーあ、全くもって“面白かった”。
 ――海賊はな、面白おかしく生きるのがいいのさ。
 ――弔いなんていらねえが、そうだな。エールを一本、海にくれてやれ。
 ――其れでいい。俺達にゃあ、其れでいい。



 幽霊船は船長を撃破して少し後、昔時の海賊たちと共に砂のように消え去った。
 同時に桃色の霧も晴れていく。
「――終わりましたわね」
 もう少しで性別も戻るかしら、とリゲルが呟く。
 後ろではルフナが懸命に味方のアフターケアに努めていた。大丈夫かい、とここぞとばかりにイケメンムーブをしているアーリアも一緒だ。
「そうですわね……何とか無事でよかった」
 ヴォルペが言って……今更のように、変わってしまった口調に笑う。
 お疲れ様、と彼らに歩み寄るイナリ。
「海洋の兵も、損害はそんなに多くないぜ。何とか航海を続けられそうだぜ」
「……」
「……」
「…?」
 は、とリゲルが最初に噴き出した。
 笑い声が海の真ん中で響き渡る。海はキラキラ輝いて、まるで宝石のようだった。あと少しだけ、この時間を楽しもう。絶望の中に見つけた光は、長く見つめていたいから。

成否

成功

MVP

リゲル=アークライト(p3p000442)
白獅子剛剣

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様でした。
海賊船長の性別を気にしている方が多かったですが……さて、どうでしょうね?
無事にアーティファクトは破壊され、斥候船の船員含め皆さんの性別はちゃんともとに戻ります、ご心配なく。
MVPはプレイングが余りにも適応しすぎていた貴方へ。すごい笑ってしまいました。
ご参加ありがとうございました!

PAGETOPPAGEBOTTOM