PandoraPartyProject

シナリオ詳細

手向けの花は零れゆく

完了

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●悪夢再び
 夜中に目を覚ますほど、恐ろしい夢を見た。
 肌着をじっとりと濡らすほどの冷や汗に『境界案内人』ロベリア・カーネイジはベッドから身を起こす。 
(夢に出て来たあの横顔、どこかで見た事があるような……)
 気付いてしまうと、確かめずにはいられない。ネグリジェ姿のままランプの灯りを頼りに、彼女は境界図書館を訪れた。
 すると、完結したと本を収蔵する本棚の列にひとつだけ不穏な気配を纏うものがあった。
 それを手に取り、中身を見たロベリアは驚嘆に目を見開く。
「あらあら。これはまた……悪趣味な宴が始まったものですね」

 かつて特異運命座標との死闘を経て死んだ筈の呪殺屋ブルーノ。
 彼の"蘇り"など誰が予想出来ただろう。しかもそれは当人が望んでの蘇生ではない。

 他の第三者が彼の呪いに目をつけ、呪術を奮うために無理矢理蘇らせたのだ。
 今のブルーノは、世界中に呪いを振りまく装置に組み込まれてしまった使い捨ての歯車(パーツ)にすぎない。
「私も……他人をとやかく言える立場ではありませんけど、彼と出会った特異運命座標がこの事を知ったら、止めに向かうでしょうね」

 止めるためには敵地に特異運命座標を送らなければいけない。
 再びあの苦痛に満ちた呪いを受けながらの戦いを強いる事になるのだ。
――できる限りの準備をしておかなければ。
 ロベリアはすぐさま用意をしに、自室へと身を翻した。

●箱庭の中の実験場
――嗚呼、僕は。

"これで終いだ、同類……せめて安らかに死ね"

――いつもヘザーを泣かせてばかりだ。

 貫かれ、花弁となって砕けた身体は跡形もなく風に浚われた。
 二度とこの地を踏む事はない。あってはならないと思っていた筈なのに。

「おや、意識を取り戻したね。おはよう」
 かけられた声にブルーノが目を開ける。視界に映る己の身体は生前のものではなく、人ならざるもの――死霊人形と化し、黒鉄の鎖に身動きを封じられていた。
「地獄にしては悪趣味が過ぎるな」
「ブルーノ、この世には天国も地獄もないよ。あるのは生々しい現実だけだ。
 君の呪いはとても素晴らしかったからね……後学のために魂を繋ぎとめておいたんだ。この死霊術師シレネが作り出した"死霊人形"の身体にね」

 無邪気に語るシレネを見据えながら、ブルーノは悟る。
 これは罰なのだ。道を誤り、罪なき命を手折り続けてしまった己への。

「なぁに、ずっと装置に縛り付けられる訳じゃない。君の魂に残された魔力が尽きるまでボタニカルガーディアンが刈り取られてしまえば、
 君の魂は燃え尽きる。それまでの辛抱だ。もっとも……この世界に、君の花兵を殺せる程の実力者はいないと思うけどね」

 ブルーノが殺された時、密かにシレネはその末路を観察していた。
 強大な力を誇る異世界の英雄、特異運命座標。彼らの力を再度この目で確かめられるだろうか。

「嗚呼――抱きしめたいな、特異運命座標。早くおいで、私の庭へ!」

NMコメント

●目標
 ボタニカルガーディアン(花兵)の討伐

●重要
 この依頼ではキャラクターに《散花の呪(さんかのしゅ)》という呪いがかかり、熱に侵される他、流す血や涙などの体液が花や花弁へと変化します。
 必ずプレイングの一行目に、ご希望の花を記載してください。思いつかない場合は「お任せ」と記載して戴ければ、こちらでイメージフラワーを考えて扱います。
 ラリーに同行者がいる場合は、二行目にお相手のIDとお名前をフルネームで明記してください。

●戦場
 異世界『フローズ』に作られた迷宮庭園。植木が壁をつくり、迷路のように巡らされた庭園です。
 景観の美しさとは裏腹に、そこは死霊術師シレネの実験場。ボタニカルガーディアンが跋扈し、迷い込んだ人間は必ず貪り殺されると恐れられています。
 

●登場人物
『死霊術師』シレネ
 剣はあれど魔法を扱える者が少ない『フローズ』の中で、珍しく死霊術が扱える少女です。
 迷宮庭園の創造主にして知識の探究者でもあり、異世界から不思議な力をもって現れる特異運命座標と、強大な呪術を持つブルーノに目をつけました。
 目的のためなら手段を択ばないマッドサイエンティストのような人物でもあります。

『死霊人形』ブルーノ
 生前は「呪殺屋ブルーノ」の通り名で恐れられていた人物。特異運命座標との死闘の末に亡くなりましたが、思い人の魂と添い遂げる事も許されず、シレネの玩具になってしまいました。
 今となってはもう、ボタニカルガーディアンを操り庭園に《散花の呪》を蒔くだけの道具と化しています。

『花屋の娘』ヘザー
 ブルーノが恋していた女性です。20代前半くらいの、花のように優しく笑う穏やかな女性でした。
 数か月前に流行り病で亡くなり、すでにこの世を去っています。

『境界案内人』ロベリア・カーネイジ
 特異運命座標に依頼した案内人。拘束衣を彷彿とさせる装束を身に纏い、足を戒めた姿の妖しい女性です。
 呼ばれなければ特に活躍はしませんが、何か求められればサポートにまわったり、顔を出したりするでしょう。 

●補足
 このラリーLNは『零れる涙はひとひらの』の続編です。読まなくても勿論参加可能ですが、読むとエモさが増すかもしれません。
https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/2881

 このラリーLNは一章完結となる代わり、お一人様何度でも参加が可能です。
 プレイングの募集期間内(オープニング公開から10日後まで)の総採用数によってエンディングが変化します。

 説明は以上となります。
 それでは、よい旅を!

  • 手向けの花は零れゆく完了
  • NM名芳董
  • 種別ラリー(LN)
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年05月06日 20時57分
  • 章数2章
  • 総採用数24人
  • 参加費50RC

第2章

第2章 第1節

●ある少女の独白
 死人の魂と言葉を交わす事が出来たのは物心ついてすぐだった。
「ねぇ。死んだ人が星になるっていうのは嘘なんだよ。この世界は死んだ後も、安住の地は無いの」
 事実を話しただけなのに、誰もが私を奇異の目で見るようになった。
 薄気味悪い、とか……気持ち悪い、とか……。

 嗚呼、この人達は自分達の知らない物を怖がっているんだ。それなら私が教えてあげる。
 沢山学んで、実験して、魂が救われる術を探そう。そうすればもう、誰も私を無視できない。

「立派じゃないか」
 何気ない一言だったんだろう。再会した彼は私の顔すら覚えていなかった。
 今となってはよく分かる。それ程にブルーノの心はヘザーに傾いていたのだ。

 それでも私は貴方を許そう。欠片も残らないくらい、魂を削り切りればーー消滅する事さえ叶えば、天国も地獄も無い世界で苦しむ事は無くなるのだから。

 さぁ、ここからがマッドサイエンティストの真骨頂。目的のためならば手段は選ばない。
 殺しにおいで……特異運命座標。君達こそが私の希望だ!

●吐き捨てられた花の名は
 複雑な迷宮庭園の最深部、中央にある女神像。
 重厚な門を潜りそこへたどり着くと、広がる景色は街のよう。

 女神像の噴水の周りに広場があり、煉瓦作りの民家が並ぶ。違和感があるとすれば、そこに人の気配が無いという事だ。——死霊術師のシレネという少女を除いては。
「よく辿り着いたね、特異運命座標……こほッ」
 熱に浮かされたように頬を染めた彼女が咳込むと、はらり。チグリジアの花びらが舞い落ちた。
 彼女もまた、呪いに耐え切れず蝕まれていたのだ。
「ブルーノとお揃いなんだ。綺麗だろう? それはさておき、私も見ての通り後がない。実験の最終段階に進むとしようか」

 シレネが指を鳴らすと、ブルーノを捉えた装置を無数の蔓が多いーーそれはやがて一つの塊となって、巨大な花兵と成る。
 その兵士の咆哮は、悲痛を帯びて庭に響いたーー。

======
※特異運命座標の活躍によって、目標に変化がありました。
●目標(いずれかの達成)

 1、ボタニカルガーディアン(花兵)ブルーノの討伐
 2、死霊術師シレネの討伐

※第二章のプレイングは、PCおひとり様につき1回採用させて戴く予定です。1と2どちらか選んでご参加ください。
※プレイングは5/2(土)終日まで受け付けます。
※以下はエネミーデータです。

◆死霊術師シレネ
 場に死霊を込めた死霊人形(トループ)を生み出し、特異運命座標にけしかけてきます。
 自身は強固な結界によって守っていますが、この世界の死霊術は、死者にダメージがいくと呼んだ術者にも同様のダメージを負わせる事が出来るようです。

◆ボタニカルガーディアン(花兵)ブルーノ
 5メートル強の植物で出来た巨人です。中距離へ棘の矢の雨を降らせ、巨大な蔓の拳で近距離のものを薙ぎ倒します。
 胴体に格としてブルーノを捉える植物の檻があり、守るように幾つか結界が張られているようです。
 中のブルーノの魂は特異運命座標たちの呼びかけによって目を覚ましています。

 以上、ご武運をお祈り申し上げます!


第2章 第2節

寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
冬宮・寒櫻院・睦月(p3p007900)
秋縛

 見上げる程の巨大な怪物。振り下ろされた拳を避け、睦月と史之は守り合うように身構える。
「共闘だよ。僕が攻めて、しーちゃんが守り。いいね?」
 返事の代わりに腕を引き寄せられ、睦月は史之に抱き着いた。文句を言う前に、先ほどまで睦月が居た場所に棘の矢が突き刺さる。
「……ッ!」
「カンちゃん、必ず俺の隣へ居て」

 当てさせるものか、一発も……!
 史之の瞳に宿る決意に、もう迷いの色はない。

(カンちゃんは本家だし俺のたった一人の幼馴染だもの。
……これでもね、大事に思ってるんだよ)
「どうしてか俺は、おまえを怒らせてばかりだけどね」

 舞い降りた光の翼が波動となり、襲い来る蔓の拳を引き千切る。その隙に躍り出たのは睦月だ。
(守られてばかりは嫌だって伝えたつもりなのに、しーちゃんは根が強情だから僕の話を聞いてくれない時がある。……なら、証拠を見せてあげる!)
 放たれた式符に生命が宿る。毒蛇の顎が花兵の崩れた部位に食い込んで、追い打ちのようにクリスタルキュアの呪殺が植物の身体をバラしていった。
(……効いてる!)
 睦月がチラと史之を見ると、彼は睦月を庇いながら理力の力で敵の意識を引きつけ続けているようだ。呪いの熱に侵されるその身は完全に攻撃を捌ききるには至らず、ウツギの花が足元へ零れ落ちていた。
「花びらが零れ落ちる度、こんなに胸が痛くなるなんて……後にも先にも、無いかもしれない経験だよね」
「カンちゃん、突然どうしたの?」
「これから先も! ……しーちゃんと一緒なのは変わらないけれど、思い出のひとつひとつを大切にしたいなって」
 花散の呪にも、死兆にもーー大切な人を奪わせない!

「死してなお操られるとは、想像を絶する苦しみでしょうブルーノさん、ブルーノさん! 鳥篭で安穏としているのがあなたの望みですか!?」
 睦月が叫ぶ。
 名は最古の呪いだという。それなら何度も呼びかけようーーこの声が枯れるまで。
 彼の思いが届いたか、花の巨兵は苦しみだして雨のように棘の矢を振り落とす。
「うわっ! ……?」
 身体中を鋭い痛みが襲ったかと思えば、一瞬にして和らいだ。キツく瞑った瞼を睦月が開くと、その身体は光に包まれてーー史之の天使の翼が癒しの祝福を受けている。
「ブルーノさん、あなたの最後を聞いたよ。これがあなたの望んだ結果なのか、愛する人へ会いたくないのか、目を覚ますんだ!」
 死者ならば魂の救済があるべきだ。こんな冒涜は許せない!

 二人の声に花兵の動きが鈍るーーその隙に。
「カンちゃん!」
「しーちゃん!」

 睦月の凍印天羽々斬と、史之の光翼乱破。2人の放った一撃が絡み合い一筋の光となって、幾重にも成る結界を突き破る。その光は衰える事もなく、巨人の核を貫いてーー。
 解放されたブルーノが離れたと同時、花兵の姿は破裂音を響かせた後、色とりどりの花弁となり、青空へと舞い散る。
 無数に振る花の雨。その下で、2人は手を握り合った。

成否

成功


第2章 第3節

久遠・U・レイ(p3p001071)
特異運命座標

「このまま消滅なんてだめだよ。絶対だめ」
 悲しいさよならなんて認めないわ。

 レイが見上げた花兵の巨人は、嘆きの集合体のようだった。
 戦うべく無理やり成長を促された花が口々に悲鳴をあげている。怨念と共に地を薙ぐ拳を跳躍して避け、巨人の腕を駆けあがる。
「はああああぁッ!!」
 身体に直接覚えこませた喧嘩殺法。その強力な一撃が植物の檻を歪に歪ませる。
(まだだわ。ヘザーが来るまでに、あの檻をーー)
「……ッ!」
 足場にしていた兵士の腕が針のむしろのように棘を突き出した。大きく飛びずさり、鮮血の代わりに黄色いスイセンの花を舞い散らす。

 血の流れぬ世界。平和にも聞こえるその言葉が、今だけは酷く残酷な響きを持っている。

『ブルーノ!』
『ヘザー!』

 待ち人着たりて、黄金の翼は眩しい程の光を帯びる。——戦闘続行。レイの闘気が極限まで高まっていく。その羽は飛べずとも、その眩い光(レイ)が彼女たりえる証。

「お眠りなさい……私は貴方を許します」
 ノーギルティ。不殺の一撃が檻を壊し、2つの魂が絡み合って空へと消える。

「綺麗で苦しい呪いもこれで終わりなのね。
 どうしてこうなってしまったのかしら……。最初は寂しかっただけなのよね…なぜこんなにも歪んでしまったのかしら」
 あぁ、やはり人の心は分からない……。

 レイが去った後も、花兵は動きを止めたまま形を成していた。生かされた植物が歓喜に震え、美しい花を咲かせていくーー。

成否

成功


第2章 第4節

Tricky・Stars(p3p004734)
二人一役

 遠い昔の後悔が深く根を張っている。
『間に合って良かったー! なぁ稔君、あの女、気に入らないからさっさと殺そう』
 声をかけられた稔は答えない。代わりに浅い呼吸だけが何度も頭の奥に響く。
『稔くーん?』
「……はぁ……はぁ……」
『……』

「君の相棒はもう手遅れだ。可哀相に、ここで死ねば天に還るどころか安住の地さえないのに」
 死霊人形が虚に迫る。シレネの楽しそうな笑い声が響いた。
『違うよ、安住の地は存在する』
 聖なるかな。虚の身体に降りてきた力が瞬時に死霊を浄化せしめた。
「なっ……!」
ーー天国も地獄もないのなら、その力は何処から降りてきた?
『死んだ奴は思い出の国に行くんだ。本当だよ、この目で見てきたんだから』
「君は何だ? 生者とは違う……まさか……」
 意思の弱まった者の結界など薄氷に等しい。遮るものを砕いて、目の前に立つ虚は嗤った。
『俺達は生きている人達の中で永遠に生き続けるんだよ。ああ、でも……』
「ち、近づくな!」
『シレネだっけ? お前は無理なんじゃない?
 誰も思い出してくれる人なんて居ないだろうし』

 ディスペアー・ブルー。
 絶望の海を歌うその声は、冷たい呪いを帯びてシレネの身体に纏わりつく。
 彼女が呪いに飲み込まれる刹那、唇を動かしたように虚の目には映った。

「ーー!」

 されど声は届かない。その海に抱かれたが最後、魂の芯まで溺れて消えるのだから。

『可哀想だな、生きた痕跡すら残せないなんて』

成否

成功


第2章 第5節

ペッカート・D・パッツィーア(p3p005201)
極夜

「お揃いって、お前……その花…」
 ブルーノと戦ったあの日、気づいた法則。
 チグリジアの花弁を零しながら戦うシレネの真意を悟り、ペッカートは溜息をついた。
「はぁ。ただ認められたかっただけかよ。これだから人間は……」
「知ったような口をッ!」
「ああ、知ってるとも。その望み叶えてやってもいい。無視なんてしねぇ。対価は俺を楽しませる事」
 俺の魔術と勝負だ。唇を端をつり上げ、彼は笑う。その手に現した光は全てを蝕む深き闇。群がる人形を侵し、シレネの体力を削っていった。
"最下層にでも落とそうか"
 この男は呪術に聡い。敗北を喫すれば、望む死は得られぬと少女は焦る。心の隙が敗北へ繋がると気付かずに。
「ぐあっ!」
 シャドウオブテラー。シレネの死角に潜り込んだペッカートの影が少女を裂いた。

 床に倒れこむシレネ。その身体が終わりを迎える前に、温かな光が彼女を癒す。
「……?」
「なぁ、ここで死んで本当に満足か?」
 驚きに目を見開くシレネ。
「苦しみもなければ救いもない。本当に何もないぞ? キミの今までの悔しさや絶望も小さな希望も感じた嬉しさも…努力すら消える。
 そんなの嫌じゃないか? だからブルーノ解放して自殺は延期しろよ」
「何故、そんな……」
「説得してるのかって? さぁな…はは、その表情を見るのが楽しいんだ。
 俺そういう存在なのさ」

 少女の頬が熱くなる。嗚呼、なんて天邪鬼で、度し難い……悪魔のように素敵な人!

成否

成功


第2章 第6節

ボーン・リッチモンド(p3p007860)
嗤う陽気な骨
ヒナゲシ・リッチモンド(p3p008245)
嗤う陽気な殺戮デュラハン
シオン・リッチモンド(p3p008301)
嘲笑うリッチ

 植物の巨兵を見上げ、ボーンは強く拳を握りしめた。
「どこまでも似た者同士だな、俺達は……」
 死後の魂を縛る檻。命を終えた後も与えられる束縛に苦しんだ日々を思う。
 彼の悲しみと共鳴するように巨人は拳を振り上げた。その手を退かせたのは一本の矢。
「何てツラしてるのよ」
 そうだ。ブルーノと俺とは決定的に違う事がある。それは支え合う家族がいるという事。
「ヘザーを連れて来てくれたんだな! ありがとう!流石、俺とヒナゲシの子だぜ!」
「骨の指で撫でるんじゃないわよ! 痛いじゃない」
 文句を言いかけてシオンは言葉を止めた。迷いを振り払った父親の横顔は、魔王の貫禄を帯びている。
「言いたい事沢山あるとは思うけどよ…今は手伝ってくれ! 親子で共闘だ!」
「分かってるわよ! でも、母さんは?」
「全て終われば会えるさ。心配するな!」
 少し離れた場所に、気配が2人と1匹ほど。
(損な役回りを押し付けちまったが……頼んだぜ、ヒナゲシ)

「待っていたよ、ヒナゲシ。君は私を殺してくれるんだろう?」
 死霊人形を巧みに操り、シレネが笑う。
(使い魔を感じて浴びたあの殺意ーーただ者じゃなかった。彼女こそが私の計画の最後のピース。魂を滅する程の殺意があってこそ、実験は完成する!)
 足元に群がる死霊人形をセキトが踏み壊す。蹴散らした後に魔剣を掲げたヒナゲシは、しかし。
「嗚呼、恥ずかしい!」
 シレネの目論見から逸れ、己の闇へ打ち勝っていた。
「なっ……!?」
「勝手に仇と同類だと思い込んで憎悪に呑み込まれて……今のボクの悪い癖だ。
 キミは『あいつ』の同類じゃなかったね。寧ろ恋愛観的にボクの同類っぽい?」

 その唇から零れる花の名を、ボクは知っている。
「だから殺そう。勇者として、デュラハンとしてーー今のボクに出来る、精一杯の"救い"を!」

 時を同じくしてボーンが吠える。死者の盾でシオンを庇いつつ、己が身は真っすぐに、ブルーノを捉える悲劇の檻へ。
「俺達は一度、誤った。歪な運命に溺れもした。だからこそ誓える。お前を……お前達を救ってやれると!!」

 行く手を阻む死霊をセキトが蹴散らし、降り注ぐ棘の矢をシオンの死霊弓が打ち砕く!

「何だって言うのよ! あんなにも無様に苦しんで戦っていたのに!」
 家族? 愛? そんな幻めいた物で持ち直したというの?
ーーあり得ない!
 目の当たりにした奇跡に怯え、シレネは力を一点に集約させた。恐怖のままに叩きつけたソレに、馬の嘶きが重なる。轟音と共に立ち昇る砂埃。
 殺った! と拳を握る少女。しかし晴れた視界の先に残されていたのは。
(ヒナゲシがいない? まさか、セキトを囮にーー)

 太陽を背に、跳躍したヒナゲシが魔剣を振り上げる。
 それと同時、シレネの動揺で動きを止めた巨兵の懐へボーンが深く潜り込んだ。

「スニーク&ヘル!!」
「骨哭ッツ!!」

 夫婦の声が重なったと同時、爆発音が庭一帯を揺るがせる。
 花の巨兵が引き裂かれ、無数の花弁と化して辺りへ降り注ぎーー。

「母さん!」
 瓦礫の中からフラフラと覚束ない足取りでヒナゲシが現れる。対峙するボーンもローブは破け、骨のあちこちにヒビが入る程の重傷だ。
 目の前まで迫ると、二人は無言のままガッ! と拳をぶつけ合いーー夫婦仲良く倒れ伏した。


「……本当、訳が分からないわ」
 シオンは相変わらずご機嫌ナナメだ。あれから暫く休んだ後、ボーンとヒナゲシはすっかりいつもの調子を取り戻し、陽気に健闘を讃え合っている。
「いつまで惚気あってるの、開いたわよ? 輪廻へのゲート」
 解放されたブルーノの魂は極限まで弱っていた。ヘザーの呼びかけが無くば、瞬く間に消滅していただろう。
『シオン、探したい霊がいる。頼めるか?』
 結果的に、ボーンからの指示は正しかったと言える。
(だから余計にイラッとするのよね……)

「何から何までありがとな、シオン」
「そういうのはいいから。時間が無いわ、早くお別れをしなさいよ」
 ボーンとヒナゲシの前へ、ブルーノとヘザーの魂が立つ。2人の魂はそれぞれの力を分け与え、互いに姿が薄らいでいたが、とても幸せそうだった。
『おいで』
 その様子を遠巻きに見ていたシレネの魂へ、ヘザーとブルーノが手を差し伸べる。戸惑う少女の背中を抱え、輪廻の輪へと還る3人。

 手向けられたヴァイオリンの音は美しく、青空へと響き渡った。

「さて、俺達も帰るぞ。ロべリアちゃんに無事の報告だ!」

成否

成功

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