PandoraPartyProject

シナリオ詳細

桜景逢魔

完了

参加者 : 8 人

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オープニング

●『暦』への依頼
「卯月、お前から俺を呼び出すということは……依頼か?」
「頭領、それに奥方もご機嫌麗しく。仰る通り、『暦』に依頼が寄せられた次第です」
 幻想の、人里離れた山の中にて。
 『お嫁殿と一緒』黒影 鬼灯(p3p007949)の呼びかけに応じるように現れたのは、鬼灯がまとめ上げた忍集団『暦』のひとり、卯月であった。
 鬼灯と、次いで『お嫁殿』に恭しく頭を下げた彼は、問いかけに対ししっかりと頷いた。
 『暦』への依頼は相応に手順を踏むもので、普通であればそうそう依頼できるものではない。依頼の方法を辿り、自ら行動に移した時点で依頼主の並ならぬ周年が透けて見えるというものだ。
「依頼は人探しにございます。ただし、すでに死んだ人間ですが」
 卯月の言葉に、ぴくりと鬼灯が眉を上げる。彼の声音に、どこか怒りを押し隠したようなトーンが混じっていたからだ。表情には(といっても目元しか見えぬが)おくびにも出さぬ辺り、たゆまぬ訓練の賜物だろう。
「依頼人は女性。探す相手はその娘御とのこと。数年前に桜の下で血を流して死んでいたとの証言がありますが、ほんの一瞬の間に姿を消したとのこと。
 それも、桜吹雪に視界を遮られた一瞬で……です。事件以降、同様の事件が何度か繰り返し起きていますが死体はすべて未回収。娘御は生前、『桜の精霊様が呼んでいた』と語っていたそうで」
 なるほど、と話を聞いた鬼灯は理解した。
 卯月は桜と名のつくものを非常に好んでいる。特に桜餅を大変に。だからこそ、桜に付随する悪逆非道な存在は到底許せないのである。
「桜が血で染まるから美しいなんて私は認めません。ね、頭領」
「そうだな、余り気分がいいものではない」
 卯月が鬼灯を呼び出したのは、頼れる頭領の判断を仰ぎたいというのと、その上でローレットに依頼する形で解決を、といったところか。
 両者はイレギュラーズの助力を頼る為、一路ローレットに向かうのだった。

●桜、怪しく
 卯月と鬼灯が依頼を持ってローレットに訪れた次の夜。空には煌々と月が輝いていた。
「こんな怪しい話を我(アタシ)に振るなんて、洒落が利いてる。黒影の旦那も、卯月の旦那もね」
「僕も、桜は好みで御座います。ですから、桜を出汁にして人を殺すような手合いがいるなら決して許せません」
 『闇之雲』武器商人 (p3p001107)にとっては興味深い怪異であり、『『幻狼』夢幻の奇術師』夜乃 幻 (p3p000824)にとっては余り好ましくない、寧ろ毛嫌いするタイプの存在だ。両者が鬼灯らに声をかけられたのは、偶然にしても天の采配を疑うほどに出来た話だった。
「私も、親しい人を魔物に殺されたので気持ちは分かります。弔ってあげられないなら尚更です」
「兄様が殺して死ぬようなタマじゃないから、僕にはピンとこないけどね……でも、里の若い子達をどうにかされたら不愉快出し、気持ちはわかるよ」
 『差し伸べる翼』ノースポール (p3p004381)の記憶の片隅には、未だ燻っている苦い記憶がある。故郷を奪われた痛みは、肉親を失うそれと同じかより大きなものだろう。
 一方で、『猫派』錫蘭 ルフナ (p3p004350)は先立って再会した肉親が肉親なだけに、命の心配まではしていなかった。だが、彼より非力な若い幻想種達は話が別だ。力なきものから何かを奪う行為は、彼にとっては『不愉快』な――つまりは最も許し難い類の行為、その一つであることは間違いあるまい。
「それにしても、桜というのは綺麗だね。この花に想いを寄せる人がいるのもわかる気がするよ。……この依頼が終わったら、そんな話も聞いてみたいねぇ」
 『宝飾眼の処刑人』シキ・ナイトアッシュ (p3p000229)が笑みを浮かべると、アクアマリンの瞳は輝きを増した。強烈な目的意識というより、道すがら他人の物語を問うついでに他人を助けるような感覚……それはそれで、紛うことなきイレギュラーズのあり方のひとつだ。
「海から出てもこんなに綺麗なものや楽しい事に会えるなら、僕に出来る限りそういうものを奪う相手は許せないんだよ」
「俺もそういうのは好きじゃないね。桜は愛でるもんだ。厄介者の隠れ蓑に使われるモンじゃない」
 海洋大号令をきっかけに世界を知った『ざ・こ・ね』Meer=See=Februar (p3p007819)は、絶望の海に潜む悪意を理解している筈だ。それに劣らぬものが、地上にあることも現在進行系で理解しつつある。……全くもって厄介な話だが。
 『精霊の旅人』伏見 行人 (p3p000858)は冗談めかして口を開くが、すでにその瞳は、そして耳は『敵』が精霊の類ではないことを知っている。問題の桜や、周囲に揺蕩う精霊達のざわめきを聞けば、酷い風評被害を受けたものだ、と文句の一つも言いたくなる。

 否、それが精霊であったとしても。
 情報屋と『暦』が集めた情報を照らし合わせれば、桜吹雪を模して現れた『それ』が人に益ある存在であろうはずもなし。

「その声、その空気、その怒り……素晴らしい、贄に化けて首を食いちぎる獣の情念か? 浅ましく呪わしく、そして愛おしい」
 ざわざわともつれ、撚り集まったその『花びら』は一人の女の姿を生み、妖艶というには凄惨すぎる笑みを浮かべてイレギュラーズを迎え入れた。

GMコメント

 リクエストありがとうございます。夜桜見物ついでに、ひとつ陰惨な悲劇の連鎖に幕引きを。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●成功条件
 『偽桜・血紅姫』、及び『偽桜・群体』撃破

●偽桜・群体×無数(数え切れないだけで限度はある)
 桜の花びらを模した『何か』。虫ではないが、正確な正体は不明。
 個別の攻撃力は低いが命中精度は非常に高く、精神系(混乱・恍惚・魅了など)のBSを低確率ながら付与してくる。
 加えて、個体群の1割程度が「必殺」つきの攻撃を行う。
 集中攻撃を受け続ければ、防技や抵抗でどうにもならないレベル。ヘイトコントロールとターゲット分散が出来ればそこまでの驚異ではないか。

●偽桜・血紅姫
 『群体』の一部が集団として意思を持ったもの。麗しい女性の姿をしているが性格は残虐無比。犠牲者達の死体は保存出来るよう『加工』して残している。美女ばかり狙っている節がある。
・常時2回行動。代わりにEXAが極めて低い。
・群体がまとまっているのでピンポイントな攻撃が効きづらい(「単」攻撃のダメージに若干の下方修正)
・群体操作(回復・発動時『群体』が若干減少)
・桜吹雪(偽)(神遠扇・万能・混乱)
・桜色の包容(物至範・窒息)
・桜頼無尽(神超貫・万能・溜2・Mアタック大)

●卯月
 鬼灯の配下『暦』の一人。
 タンク型であり、2名同時に庇うことが可能。【反】持ち。
 ギフト『桜花の誓いよ、血に染まれ』により、発動時のHP減少量に応じて防御力増。ただし移動不能になる。(瞬付・回数制限あり扱い。回数制限を超えると強制戦闘不能。ただし死なない)
 それなりの実力がある戦力としてカウント可能。但しタンクなので攻撃力は心許ない。

●戦場
 幻想山間部の一本桜の下。月夜が綺麗。
 現在、満開。

 以上です。
 なお、戦闘がうまいこと終われば花見もいいかもしれません。

  • 桜景逢魔完了
  • GM名ふみの
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年05月04日 22時20分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費---RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)
優しき咆哮
夜乃 幻(p3p000824)
『幻狼』夢幻の奇術師
伏見 行人(p3p000858)
北辰の道標
武器商人(p3p001107)
闇之雲
錫蘭 ルフナ(p3p004350)
澱の森の仔
ノースポール(p3p004381)
差し伸べる翼
Meer=See=Februar(p3p007819)
おはようの祝福
黒影 鬼灯(p3p007949)
やさしき愛妻家

リプレイ


「全く、あそこまで怒った卯月はなかなか見れないぞ」
 イレギュラーズが『偽桜』との接敵より僅かに時は遡る。
 丘の上まで歩く道すがら、鬼灯は卯月の側をちらりと見て息を吐く。普段から争い事を好まぬ筈の彼が、主に進言して戦いの場に来ているのだからその度合も推し量れよう。
「頭領……その話はそれくらいで」
「うン、桜は綺麗で好きだよ。そして怪異というのもアレはモノガタリの塊だからね。愛しいとも」
 武器商人はこの状況に対し、敵ですらも愛おしいと感じていた。ソレは愛しいと語る口で、相手を破滅させる術式を紡ぐのだろう。
「桜が人を攫う、ね。不可思議なこともあるもんだ……気に食わないなぁ」
「桜のせいで人が死に、そして人が攫われてしまうなんてこと、あってはいけません!」
 シキもノースポールも、桜が人の命を奪う理由にされることに憤りを覚えていた。美がそうある理由を、後付でも醜いものにすげ替えられて良しとする者はここには居まい。
「どうしてわざわざ死体を見せてから? ただの行方不明にだって誤魔化せそうなのに……」
「魔物の分際で人様の美醜を判ずるなんて、まったく烏滸がましい。そんな奴だし、何も考えてないんだろうね……と言いたいけど」
 Meerの尤もな疑問に、ルフナは少しだけ逡巡してから言葉を続ける。「わざとやってるんだよ」
『まあ! 大事な人の死体を見せものにするだなんて残酷なのだわ!』
「……怪異の側も桜に酔ったのかもしれないね」
 鬼灯の腕のなかで『嫁殿』がぷりぷりと怒りを露わにすると、行人は冷静に、しかし呆れた空気を隠さずに応じる。桜を真似て人を集め、人を食い物にするような怪異が、その空気や怪しい魅力に飲まれてしまった、と。その通りであれば、この上なく滑稽な顛末である。
「桜は血に濡れて美しいのでは御座いません。桜は短くとも美しく在ろうとするからこそ、美しいので御座います」
 幻は一本桜に近付くと、保護結界を展開し敵の出現を待つ。桜に手を出させない。出さない。その上で、桜を語る無粋者に『貴女はここまで醜いのですよ』と突きつけるのが彼女の目的だ。
 血紅姫と群体がイレギュラーズの前に現れるなり、武器商人は散策するような足取りで仲間達から距離を取る。その余りに自然な動きは、しかし無為無策の行動ではない。ソレは既に『呼んで』いるのだ。
「キミはどんなモノガタリを視せてくれるのだろうね、楽しみだなァ」
「……往け、逝けッ!」
 武器商人の声に被せるように血紅姫が困惑の色を露わに声を張る。その声に従うように群体がざわめき群がろうとすれば、わずかに離れた位置から行人が群体を誘い、受け入れようと手を広げる。
 シキは奇妙な形の――宛ら処刑剣のような得物を構え、誘い込むように声を張る。
「桜怪しく、桜錯乱……それじゃあ仲良く、丁々発止と参ろうか!」
「桜を巡る宵物語、月夜に引き摺り出して、そして終わらせよう」
 乱れ舞う群体、顔を引き歪めた血紅姫。
 決意、嫌悪、好奇心。様々な感情を綯い交ぜにしたイレギュラーズ。
 桜が静かに散り行く中、戦いは静かに幕を開ける。


「血紅姫様、貴女は血塗れで全く美しさがありません」
 幻は空中に手を伸ばし、桜の花弁を掴み取る。息をふきかけ、血紅姫へと舞わせる。それを媒介に、幻惑の奇術を差し向けた。
 奇術が向けられた部位は一瞬だけブレが生じ、しかし瞬時に復元された……が、血紅姫本体ははっきりとした嫌悪の色を隠さない。
 一瞬の幻影から囚われた血紅姫の視界を覆うのは、これまた幻影。だが、こちらははっきりと周囲に見えるタイプのそれ。『夢幻泡影』、そして『花蝶風月』と彼女が呼ぶ幻惑術の連携は、如何に異形であれど知性があれば相応の効果を持つらしい。
「小癪な真似を……!」
「攫った方々は返していただきます! これ以上、あなたの好き勝手にはさせないんだから!」
 ノースポールは血紅姫が腕を振り上げた瞬間に懐に入り込み、背の翼を羽ばたかせて羽根の嵐を巻き起こす。敵を構成する群体に混じるように吹きすさぶ羽根は、薄紅と白、そして群体の体液である紅色を呈し激しいコントラストを生み出していく。精密に、流麗に、しかして激しく振るわれるその攻勢は、それだけ多くの実戦に身をおいてきたことの証左でもある。
「桜を偽って人を不幸に陥れるのは感心しないな。俺の部下の心象に障る」
『桜の偽物さんは意地悪なのだわ!』
 鬼灯は式符を投げつけ、毒蛇を血紅姫に差し向ける。巧みに群体の配置をずらして避けようとしたそれはしかし、逃げ場すらも先読みしたかのような彼の精度の前に回避という選択すら奪われる。
 相手の実力に翻弄され、選択肢を狭められる。弄ぶように舞う敵の姿は、今まで蹂躙してきた弱者達とまるで違う。血紅姫にはそれが我慢ならない。
 だから、近くに居る者の自由だけでも奪ってしまおう、と。血紅姫は腕を伸ばす。指先から解け、吹雪のようにノースポールと鬼灯にまとわりつこうとする。
「頭領と奥方、ご友人を『偽物』に好きにはさせません」
 割って入ったのは、当然ながら卯月。癒し手のMeerよりも前衛を狙ったことを察知し、前進したのだ。
「卯月、無闇に前に出るな。役割は伝えただろう」
「Meer様の助力を頂いております。お二方に累が及ぶ前に、頭領に倒れられては『暦』の名折れですから」
 鬼灯の言葉に反論を返す卯月の目には、確固とした意志が宿っている。彼は前後不覚には陥っていない。状況を判断した上で、攻撃を受け止めている。二連の包容は間違いなく卯月を巻取り、痛打を負わせたが、しかし彼はその盾同様、小動(こゆるぎ)もしない。
「卯月さん、ごめんね! 終わったらすぐに手当てしてあげるからっ」
「数ばっかり多くて嫌になる。君達も同士討ちでもすればいいのに」
 Meerは治癒の機を窺いつつ、じりじりと距離を測る。卯月の前進は僅かずつ傷ついているが、まだ十分戦える。逸って治療に回る必要はない。攻撃手段を変え、他の仲間を狙う可能性の方が問題だ。
 これは長期戦であり消耗戦となるだろう。だからこそ、戦局を見る目が重要になるのだ。

「花びらが覆い隠してしまうなら、全部斬り捨てて暴いてやるさ」
 シキは繰り返し刃を翻し、次々と群体を切り落としていく。3人で手分けして受け持った群体は、兎角数が多い。いくら倒しても減る様子を見せないそれらは、普通の者なら心折れ、敗北すら受け入れかねない。
 だが、シキはこの状況を心底楽しんでいた。数が多いなら幾らでも斬れる。いつまでも暴れられる。巧みに剣を振るい、ときに横一閃に薙ぎ払う姿から歓喜の色すら浮かんで見える。
「ヒヒヒ、ナイトアッシュの方は楽しそうで何よりだねェ。伏見の旦那も好調らしい。これは益々我(アタシ)の立場がなくなっちゃうなァ」
「武器商人さんが言う事じゃないだろう。そこまで集らせておいて楽しそうに笑える人、そうはいないよ」
 武器商人は口元を愉快そうに歪め、群体をやり過ごしていた。彼が受け持つ敵の数は3者の中で最も多い。だというのに、彼の身は傷一つなく、立っているだけなのに堅牢な城塞の如くにすら見える。
 ……事実として、群体達は武器商人の身を貫くことができなかった。神秘には神秘、物理には物理で。人のカタチをしたそれは、何が来ようと無力化する準備を万全に整えていたのだ。
 一時前の武器商人を知る者なら、無限に倒れ、しかし立ち上がる底知れなさに目を剥いただろう。今は、そもそもが傷つけられぬ状況に翻弄される。
「確かに我(アタシ)はか弱いが。必殺の刃も、届かぬのであればなまくらに等しいと知るがいい。ヒヒヒヒ……!」
「いい趣味してるよ、本当。耐える準備ばっかり丁寧で、しかも誰も邪魔できないときてる。本当に――味方でよかったよ」
 ルフナは呆れたように笑うと、背負った光翼で群体を切り裂きにかかる。癒し手が本意気である彼の攻め手に、精度を求めることは酷だ。だが、無数に群れたそれらを狙うのは鴨打ちと何が違うというのか。
「数ばかりを頼って考えもなく襲ってくるような輩に、命の尊さが分かるとも思えないけどさ。桜を偽るその態度、精霊たちも気に入らないみたいだよ」
 行人は手甲を振るって群体を散らし、すぐさま守りの構えに戻る。傷の何割かは一瞬のうちに癒え、残った傷も悪化するより早くルフナの治癒で事なきを得る。
 傷の総量は間違いなく多い。だが、小刻みに治癒出来る以上はルフナの手に負えない状況ではない。
「ヒヒヒヒ、それにしても目減りするのが早すぎるねェ。そんなに黒影の旦那達が手強いのかい?」
 武器商人は嗤う。
 時折、波打つように枝分かれする群体達がどこへ向かったかなど考えるまでもなく、それが示す事実は唯一つ。
「そろそろ、美しい桜を愚弄するような真似は辞めて頂きましょうか。偽桜などと名乗るのも烏滸がましい醜悪さは、見るに堪えません」
 幻の誘うような声に、血紅姫は一瞬だけ身をよじらせ、渾身の一撃を放つべく身構える。即座に割って入った卯月の盾が血の如くに紅く染まる。
 Meerの治癒、ノースポールと鬼灯の猛攻が血紅姫へと向けられる。
 戦局は終盤を迎え、苛烈さは弥増していく。保護結界の中でも、桜が散るのは止められぬ。
 丘を薙ぐように吹いた風がもたらした桜吹雪は、月夜にあって誰そ彼の様相を呈しつつあった。


「怖くないよ、ほら、月は明るいよ、顔をあげて! こんなに頼もしい味方が揃ってるんだから、大丈夫、深呼吸して落ち着いていこっ!」
「本当にさ。こんないい夜に月見をしないまま倒れるなんて勿体ないよ。本当に」
 Meerが、ルフナが癒やし手としての全力を尽くし、仲間たちの治療にあたる。ギフト――半ば技能と化したそれにより本懐を貫いた卯月は片膝を尽き、荒い呼吸を続けていた。
 彼が守勢に徹したこと、そして背にした幻への敵意を引き受けたことで、血紅姫の行動に大幅な制約を与えることに成功したのだ。
 それはつまり、他の面々の猛攻を受けても治癒に回す余裕がないことと同義だ。
「当たれ……ッ!」
 羽根のような、否、羽根そのものを得物として突き出したノースポールの肘から先を、禍々しい黒が覆う。光すら飲む虚無の剣は群体の中心を貫き、渦を巻き、反転して呪いをばら撒く。
「卯月を痛めつけた礼はせねばな。好き勝手振る舞った夢の味はどうだった」
『許せないのだわ!』
 鬼灯と嫁殿は、それぞれ怒りを孕んだ声とともに不可視の糸を繰る。
 攻勢に窮し、治癒を求めようとした指先は群体であるにも関わらず動きを縛られ、一瞬の隙を生む。
「愉快だねぇ、嫁殿。アレは勝手にさせてはおけないね」
『全くその通りなのだわ! 武器商人さん達は大丈夫なのね?』
 嫁殿に視線を合わせ、ゆらりと歩いてくる武器商人の口元は相変わらず、緩く歪んだままである。
 そして、ルフナが血紅姫と相対す面々に治癒を行使している時点で、イレギュラーズは気付いていたし、血紅姫は気付くべきだったのだ。
「あ……ア……?!」
「誠に哀れな様で御座いますね、血紅姫様。ですが貴女は幸運です」
 幻は放った蝶を桜の花弁に変え、幻影を放つ。動きの精彩を欠き、声すらも出せなくなった血紅姫は桜吹雪の中に放り込まれ。
「今からお前が堕ちるのは醜い地獄だ」
「私が介錯してやる。娘さん達は返してもらうよ」
 鬼灯とシキの声を背景に、その『群体』は力を失ったように解けて地に落ち消えていく。
 桜の花弁とは明らかに違う薄汚れた紅色の斑点は、悪足掻きのように点々と桜から続いていく。そして、その終点にたどり着いた一同は、怪訝な顔で互いの顔を見合わせた。

 その後の顛末としては、酷く陳腐で。
 その場を掘り返したことで暴かれたのは、死蝋化した少女たちの遺体。幸か不幸か、死蝋化を遂げた故に白骨化を免れていたのである。

「にしても、見事な桜だねぇ。月夜に映えていっそうきれいだ」
「儚くて華やかで、これぞ桜花爛漫って感じだね!」
 全てが終わった後、一同は気を取り直して夜桜見物と洒落込んでいた。シキの感嘆の声へ応じるように、Meerはおもむろに歌い出す。即興とは思えないほどの節回しと声の徹りだ。
 鬼灯はひと心地ついた卯月に弁当やら桜餅やらを押し付け、食べる様子を見物している。
「美しい花を見るだけでも素敵ですが、それに美しい奇跡を添えるのも奇術師としての役目というもので御座いましょう」
 幻はおもむろに立ち上がると、シルクハットから出した蝶を操り、変化させ、桜の木が生えるように奇術を操る。それは満月の光と相俟って、幻想的な美しさを醸し出す。
「本当に立派な桜ですね……来年の春も、見に来たいです♪」
 ノースポールは満面の笑みで空を見上げる。桜の花弁は月光を散らし、彼女の指輪を照らし出す。あたかも彼女が今想う相手を見透かされたような自然現象は、その場の何より鮮やかに、彼女の頬を朱に染めるのだった。

成否

成功

MVP

武器商人(p3p001107)
闇之雲

状態異常

なし

あとがき

 大変おまたせいたしました。
 本来、シナリオで誰かを目的にああだこうだと策を講じる(乱暴に言うと『メタる』)のは参加する人達のことを想定すると禁じ手なんですが今回は敢えて

 あーっお客様いけません! いけませんお客様! アーッ!

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