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シナリオ詳細

<虹の架け橋>Hello clouds, hello rainbow

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●空ノ迷宮
「おしごと」
 集ったイレギュラーズたちへ、イシコ=ロボウ(p3n000130)は淡々と話し出す。
「妖精さんに関連する状況は聞いてる? 妖精郷の門(アーカンシェル)が壊されたって」
 これまでにイレギュラーズが守り抜いてきた門は無事だが、それらも現在機能が停止しており、詩歌『虹の架け橋』を紡がねば入れない。
「入った先は大迷宮ヘイムダリオン。ここを攻略して、アルヴィオンへの道を開く」
 しかしアルヴィオンへ赴くために必要なものがある──『虹の宝珠』と呼ばれる玉だ。
 此度のフロアに眠る『虹の宝珠』は見た目こそ硝子玉だが、勢いよくぶつけても割れない。また、光の射し具合で七色の輝きを見せてくれる、美しい玉でもある。大きさはこのぐらい、とイシコが親指と人差し指の先をくっつけて輪を作った。
 そして、虹の宝珠さえ入手すれば次のフロアへ進めるようになるのだと彼女は付け足す。
「今回攻略してほしいのは……空。不思議な空」
 眼界にようようと広がる、紺碧の空。
 雲は流れ続け、風も気まぐれで、空が生きていると実感させるフロアだ。そこに鳥の姿もなければ、眼下に陸地や海も無い。底の抜けた空が続くばかりで、ひとたび踏み外せば何処までも果てなく落ちてしまいそうだ。
 踏み外す──そう、訪れた者が立つのは雲の上。雲は千々のかたちと硬さで浮き、探索者の足場となる。
 雨で固まった土のように固い雲もあれば、重みで抜けてしまいそうな雲もあった。
 ところどころ透けた雲ならば、雲上に座ったままその白へ腕や足を突っ込める。うまくやれば──外の景色は見え難いが──雲の中に潜り込むこともできそうだ。
 雲から雲へ飛び移るか、ひとつの雲を操縦し、あるいは雲同士を繋げて足場を作ることでまともな探索が叶う。
「迷宮のどこかにある宝珠を探すのに、雲が不可欠」
 空は空だが、そこはあくまで不思議な迷宮の内部。
 飛んで探索するのも可能だが、雲を用いない飛行を迷宮が好まないらしく、前触れもなく謎の稲光に打たれたり、思わぬ突風に見舞われたりと、必要以上の妨害を喰らう可能性がある。飛ぶにしても雲をうまく使うのが無難だろう。
 しかし、雲の上を行けば安全だとも断言できない。
「変な雲も多い。えっと、分類としてはトラップに入る」
 イシコは、様々な性質の雲が探索者を待ち構えていると話す。
 高硬度の身で体当たりしてくるやんちゃな雲もあれば、気に入った相手を中に閉じ込めようとする雲もいて。
 他にも、暴れ馬のごとくぴょんぴょこ飛び回り、躾なければまともに足場や支えとして働いてくれない雲。
 触れられるのが恥ずかしくて、落ち着かせない限り猛スピードでどこかへ隠れようとする雲。
 一定の距離まで近づくと雲の塊をプププと吐き出し、執拗にぶつけて楽しむ意地悪な雲。
 ちぎって食べると、蕩ける甘さで満たしてくれるものの、熱ですぐ溶けてしまう雲。
 しくしくと泣いて雨を降らせてばかりで、なかなか進んでくれない弱虫の雲。
 何らかの風を吹かせない限りまともに動かない、頑固な雲。
 ──トラップと呼ぶに相応しくない気質のものも多いが、とにもかくにも、そうした変な雲が多い場所だとイシコは言う。
 いずれも見かけだけで判別するのは困難だ。しかし充分に注意を払い、対策をしていれば避けるのも難しくない。もちろん、あえてそれらの雲を利用するのも手だ。うまく使えば探索も捗るだろう。
 ちなみに、足を踏み外すなどして底なしの空を落ちて行った場合どうなるのかは、イシコにもわからないという。少なくとも死にはしない──判明しているのはそれだけだ。
「説明は終わり。……気をつけていってらっしゃい」
 最後にそう挨拶をして、イシコはイレギュラーズを見送った。

GMコメント

 お世話になっております。棟方ろかです。

●目標
 『虹の宝珠』の入手

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●ロケーション
 見渡す限りの青空。そこに漂う様々な雲を使って『虹の宝珠』を探しましょう。
 雲を利用しない飛行については、オープニングにある通り要らぬ妨害を受け易くなるため、飛びたい方もどうにかして雲を使ってみる方が良いと思います。

●トラップ雲について
 トラップ雲に引っ掛かると、HPが減ったり、能力値に補正がかかったり、状態異常に見舞われたり、思わぬ場所に移動させられるなどなど様々な作用が働きます。
 中には身体に影響せず、ちょっと気持ちが虚しくなるだけ……といったパターンの雲も。
 オープニングにある雲は一例ですが、傾向としてはあのような雰囲気の雲が多いです。
 全力で回避しようと努めるのも良いですが、あえて罠を踏むのも楽しいでしょう。

 それでは、いってらっしゃいませ!

  • <虹の架け橋>Hello clouds, hello rainbow完了
  • GM名棟方ろか
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年04月29日 22時06分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ドラマ・ゲツク(p3p000172)
蒼剣の弟子
ブーケ ガルニ(p3p002361)
兎身創痍
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
Tricky・Stars(p3p004734)
二人一役
華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)
ココロの大好きな人
ヴィクトール=エルステッド=アラステア(p3p007791)
懐中時計は動き出す
羽住・利一(p3p007934)
特異運命座標
メーコ・メープル(p3p008206)
ふわふわめぇめぇ

リプレイ

●果てしない空
 肌を焼くほどに青い空では、流れゆく雲の白が眩しい。
 耳をぴこぴこ揺らして『兎身創痍』ブーケ ガルニ(p3p002361)が思わず呟いたのは。
「こない高い所から落ちたら、ウサちゃんは死んでまうわ……」
 ブーケが覗き込んだ眼下では、陸地も海も見えないからこそ感覚が狂いそうな青色で満ちている。ふるりとこうべを振った彼の視線は、底なき青から逸らすように漂う白の群れへと向かう。
 どんな子がおるんやろ、と好奇を宿した瞳が艶めいた。
 傍で『蒼剣の弟子』ドラマ・ゲツク(p3p000172)の大きなまなこも燦々と輝く。
 今から自分たちが為すのは、妖精郷へと続く大迷宮の踏破。見も知らぬ迷宮の先に、妖精郷があるのだと考えるだけで肌が粟立つ。しかも単に硬く冷えきった床を踏み締めて進むのではない。これから渡るのは雲の上だ。
(随分と非現実的な、不可思議な経験になりそうですねぇ)
 ぞくりと込み上げるのは、寒さにも似た高ぶり。
 近くでは闘衣にくるまれた『二人一役』Tricky・Stars(p3p004734)が、全神経を集中させて虹の宝珠の行方を探し続ける。
「……見つからないな」
 瞬きを忘れるほど辺りを見ても、耳を傾けてもすぐに正体を現してくれる相手ではなさそうだ。雲に気を取られがちだが、難敵になるだろうと彼は顎を撫でて思考に耽る。
 そうして漂う静けさの中、風があまりにも清々しくて『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)は思い切り息を吸い込んだ。
「素敵な場所だね」
 真白に染まった足場へ踏みだし、言葉通り雲の上を歩いてみせる。見かけではわからなかったが、跳ね返る感触が彼女の足裏を刺激する。
 わあ、とはしゃいで進む焔の足取りに、 微かな吐息に笑みを含んで『お節介焼き』華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)が密かに口端を上げる。
「本当に雲の上を飛び回るなんてね」
 まるで絵本に入り込んだかのようだと、興味の赴くがまま、華蓮は数ある雲の群れから浮雲を見定めていく。
 仲間の行動を一頻り眺めた『忘却の揺籠』ヴィクトール=エルステッド=アラステア(p3p007791)も、徐に歩き出す。
「雲の上を、ですか」
 実際に歩くときになって血の気が引く。
(滅多にできない体験になりそうなのです……頑張らないとですね)
 落ちたらどうなるかを考えては際限がないと、自らへ言い聞かせることに励む彼とは別に、落下した先へ意識を傾ける者がいた。
(落ちても大丈夫とは……)
 下を覗き込んだ『特異運命座標』羽住・利一(p3p007934)はしかし、すぐさま頭を引く。興味はある。だが余計な行為は危機を招きかねない。目線をずらした彼女は、思わぬ光景を目撃した。
 軽々と跳んでいた焔の姿が、ずぼんっと雲の中へ潜ってしまった。ぎょっとして駆け寄る仲間たちをよそに、焔本人は頭を白から突き出して笑みを浮かべる。
「ぷはっ、びっくりした! ここマシュマロみたいになってた!」
 焔の例えに仲間たちが顔を見合せる。
「おいしそうだめぇ」
 マシュマロという響きから風味を想像したのか、頬を押さえた『すやすやひつじの夢歩き』メーコ・メープル(p3p008206)もうっとり目尻を下げた。
 こうして千々にかたち作られた白雲を架け橋として、若者は空をゆく。

●流雲
 誑す相手としては変わった存在だが、ブーケの物腰は常と変わらない。白の断片へそろりと近寄り、透けた白へ手を伸ばす。そうして声をかけては、雲が流れていく様を幾度か見送っていると、ひとつの雲が彼の元でじっとし始めた。
 ふわりと這わせた手に怯えるでも避けるでもなく、ちぎれた白はまるで彼をじっと見上げているようで。ブーケは眦を和らげ、一拍置いたのちに囁く。
「……乗ってもええ?」
 意図をもって保たれた柔和な目つきと声音が、張り詰めていた雲の緊張の綻びを察する。頷く仕種が見えたわけではないが、かの雲が自分に興味を抱いてくれたとブーケは感じる。
 だから彼は雲に乗る。
「散歩、付き合うてくれへん?」
 雲はやはりうんともすんとも言わず、けれど帯びる色彩の微細な変化だけはブーケに見えて──だからこの子にしようと意を決し、よそ見を捨てて相方と決めた雲と共にゆく。
 何より、多くの雲に好意を示すのではなく、ひとつの白を育てていくのが性に合っている。そう考え、彼は静かに顎を引いた。
 雲煙のたなびく世を渡り、利一は初めての経験である雲へ漸くつま先を突き出す。
「……これ、本当に大丈夫なんだよな?」
 声がややか細くなるのも無理はなかった。踏み締めてみればゆっくり雲が沈みだす。足をあげればまた元の形状に戻るが、この柔らかさは不安材料でしかない。深く息を吸い込み、利一は五感を研ぎ澄ませる。集中していれば、不安も紛れるだろうから。
 雲たちの表情がわからなくても、華蓮に迷いはなかった。彼女はかれらに歩み寄ろうと顔を突き出し、もこもこの雲へ穏やかに話しかける。
「お腹空かない? 一緒にご飯を食べましょう」
 優しく誘うと、白雲がぷるりと揺れた。おずおずと近寄る雲の気質を察し、大丈夫、と声をかけながら華蓮が薄い笑みを頬に乗せる。
 陶器でできた水筒を軽く揺らして、ちゃぷちゃぷと水音で気を惹く。
 そうこなくっちゃ、と喜んで華蓮がコルクを引き抜けば、開放された水筒の口からポンッと楽しげな音が弾けた。
 その後方、仲間たちが開いた道筋を頼りに、ぽすぽすと歩いていくのはメーコだ。
「やっぱり……雲の上を歩くってとっても楽しいめぇ」
 見晴らしはいいが、もっと見渡せる位置からならきっと虹の宝珠も探しやすいはず。そう考えてメーコは高みを目指そうと、雲によじ登っていった。
 上っていく彼女の足元では、いざ踏み出そうにも怖じけづいた虚の性分が身を叩いていて。
(待って本当に渡るの? ヤバくない? どう考えても無理じゃない!?)
 虚が耐えずに危険を訴えかけてきては、歩むタイミングが若干ながらずれてしまう。
(いいか押すなよ、絶対押すなよ。フリとかじゃないからマジで!!)
「ごめんよ」
 口を閉ざすことを知らない虚にではなく、雲に一言断りを入れて飛び移る。乗った瞬間、パチン音が弾けて彼のつま先は瞬く間に白へ埋もれた。明らかな意志を持って、雲が足に纏わりつく。
 遊ぼうと誘うかのように絡む白の断片は、動きに合わせてパチパチと鳴った。鳴れば鳴るだけ、眩暈を覚えてしまう。それにしても大きな泡が弾けるときの音とよく似ていると考え、稔は吐息だけで笑う。
「まるで妖雲だな」
 だが、いかに不吉な雲と言えど、Tricky・Starsにとっては舞台のいち装置に過ぎない。彼らは自由を取り戻すべく、阻む者を切り離していく。
 同じ頃、雲間に見える紺碧へ足を放り投げて、焔が堅めの白に腰かけていた。朱をなびかせて心地好い風に吹かれていると、まだ迷宮を去らないというのに沸き上がる名残惜しさが、彼女の胸中を掻く。
(どうせなら、のんびりお空のお散歩が楽しめる時に来たかったなぁ)
 友だちと一緒に雲の上を跳ね回り、座ってお弁当を食べて、おなかいっぱいになったらふわもこのベッドでのびのびとお昼寝をする。それができたら楽しそうなのにと、空想が現実の足を止め続けたところで、焔は我に返った。
(っと、いけないけない! 虹の宝珠を探しに来たんだったね)
 大袈裟に振ったかぶりの後、ぱちんと両頬を叩いて焔は再び立ち上がる。
 突然、プププと吐き出した雲の塊が、仲間たちの行く手へあれよあれよと降り注ぐ。
 そんな白雨の下を行くのは、ヴィクトールだ。攻撃が向かってきても、漢らしく進む彼ならば自身の傷の修復も叶う。ゆえに次なる雲を踏むのは恐る恐るでも、迫り来る脅威には落とされない。そして。
「雲さん!」
 白い塊を吹く雲に声をかけた。
「ボクと一緒に、遊びませんか? お散歩ですけど」
 微かに震えた彼の誘いに、雲はぴたりと白を吐くのをやめた。
 その一方。ドラマは、干し肉やドライフルーツを両の手に広げていた。種々の雲が存在するのなら、感情を持つ雲もいるだろう。だからこそ。
「初対面の相手と仲良くなるには、美味しい食事があるとより良いですから」
 そう呼びかけて開始したのは、空の上でのお食事タイム。まったりとしたひとときが、彼女たちを包み込んだ。

●上天気
 くるおしいほどの青が広がる眼界で、利一は己へやればできると言い聞かせていた。
(このくらいの距離、大丈夫……!)
 白から白へ渡るには、一種の勇気が要る。なにせ踏み外せば待っているのは、奈落と呼んでも差し支えない底なしの青。見果てぬ宝を求める気概と、この世界へ来てから鍛え上げた肉体を活かすならば今だ。着地した雲が無邪気に絡み付こうとも、泣き虫な雲がしがみついてこようとも、彼女は折れずに次なる雲へ跳躍する。
 そうして彼女が舞い、風光る中でヴィクトールはたった一歩を踏み出すのに時間をかけていた。
(ボクのような大の鉄騎種の男でも、支えてくださるのかどうか)
 怖い。素直に覚えた感情はすぐに拭えず立ち止まっている脇を、利一が跳んでいく。
「やればできる!」
 自らへかけた言葉だが、耳にしたヴィクトールにも声援として届いた。
「……せっかくですから、蒼空の空気も楽しみたいですね」
 大空を歩く機会を得たのだと、ヴィクトールは深呼吸したのち、しっかり前を見据える。
 そして二人が連ねた頑張りは、視線が揺蕩うメーコの足取りにも影響をもたらす。
「メーコも」
 広げた両腕で空を掻き、緩やかな歩みでメーコが続く。
(楽しいめぇ。でもなかなか見つからないめぇ)
 四方を見渡し、足元を見つめて、雲の隙間に転がっていないかじっくりと探すメーコは、いつしかまあるい雲に顔から突っ込んでいた。もふん、と沈んだかと思いきや、弾力のある白に押し返されてメーコが尻餅をつく。いたた、と呻きながら改めて見上げてみると。
「わあ、おっきいめぇ。それに……とってもいい触り心地めぇ」
 浮かぶ雲に頭をくっつけて、長い睫毛をそうっと伏せる。雲に引き寄せられた少女の意識を、睡魔はあっという間に連れ去ってしまった。
「喉が乾く頃でしょう、どうぞ」
 ドラマが多めに用意した水分を雲へ垂らす。するとふるりと震えた雲は鈍色の雨雲へと変化した。
 ふんふんなるほど、と感心しながら雲の特性を記録に取る彼女の近く、早い雲脚と並ぶようにして焔が雲から雲へ跳び移っていく。
「ねえ、虹の宝珠って知ってるかな?」
 移乗の度に問い掛けるも、漂う白雲は知らん顔。言葉を発するでもなく、頭を横か縦に振るわけでもない雲たちの反応は薄く、焔はううんと唸った。
(もしかして虹の宝珠って言われてもよくわからない、とかかな?)
 首を捻りながらも、カグツチの石突で雲橋を叩いて渡っていく。石のような音を立てる固い雲もあれば、力を入れずともカグツチが飲み込まれてしまうほど柔らかい雲もある。一瞥のみで判断はできず、念入りに確かめていく焔の着実さは、少しずつだが彼女を前進させた。
 その近くで、華蓮はやんちゃな雲と対峙していた──対峙と言っても、すでにお仕置きは済んでいる。彼女は、雲の性質を見極めるためじっくり向き合ってきた。そのため変化に富んだいくつもの雲彩を味方につけた華蓮にお怒りモードで追いかけられては、さすがのいたずらっ子も大人しくなるしかなかった。
 反省を示した雲が縮こまったのを目の当たりにして、華蓮が手招きする。恐る恐る近寄ったその雲へ彼女が贈ったのは、よしよしとあやす手つき。
「ほら、しゃきっとして。あなたもご飯にするのだわよ」
 慣れた様子で華蓮が水筒を差し出すと、しょんぼりしていた雲も次第に水分を取り戻していく。
 続けて華蓮は、雲へ香水を振りかけた。お近づきの印、と片目を瞑って。
 するとはじめての香りを雨のように撒き始める雲を、彼女はニコニコと見守った。
 和やかな雰囲気の片端では、Tricky・Starsの二人が頑固な雲に質問を試みていた。
「虹の宝珠に心当たりはあるだろうか?」
 頭の代わりに全身を固くした雲は、知らぬと言わんばかりにからだを横に揺らすばかり。
 そのときだ。
「虹の宝珠! あの先にあるのがそうかもって、雲さんが!」
 喉を開き声を張り上げた華蓮からの報せに、皆の顔が同じ方向を見て、そして駆け出す。
「本当ですか? やった、雲さん、いきましょう」
 ふにゃりと緩んだ面差しでヴィクトールが告げると、彼を支える雲が威勢よく跳んだ。
(見つかればよいですが……!)
 ヴィクトールは雲にしがみつきながら、青の果てへ視線を向けた。
 空の終わりは、まだ拝めそうにない。それが少し残念にも思えて、ヴィクトールは唇を引き結ぶ。

●青雲
 紡ぐブーケの囁きを、彼が織り成す情のかたちを、雲はひとつひとつ受け止めていた。受け止めながら、行く先で吸収していった雲たちにより、むくむくと大きくなっている。はじめに会ったときのサイズが嘘のようで、乗っているブーケも驚きが隠せない。
 直後、不思議そうな声を焔が轟かせる。
「あれっ? 気をつけて、おかしな雲がいるよ!」
 焔が注意を促した途端、わっ、とブーケが声をあげた。衝撃を受けて、懇意にした雲がバランスを崩しかける。咄嗟にブーケが体重の乗せ方で安定を取り戻すも、安堵より先に気づいたのは悪戯っ子な雲の存在で。放たれた稲光に、目の奥が痛む。
「いけずな雲。でも俺たちなら勝てるやんな」
 言うが早いか繰り出した衝術で、目映い雷ごと吹き飛ばす。
 するとちょっかいを出してきた黒い雲は、すっかり萎びてしまった。
「おおきにねぇ、頼れるのは雲ちゃんだけやわァ」
「めぇ」
 ひつじ雲を飲み込んだおかげか、返事をしてくれるようになった。鳴き方は偏っているが、音の幅でなんとなく感情も判る気がして、ブーケは風に遊ばれて緩んだ頬を撫で付けた。
 一方、ちぎっては投げ、ちぎっては投げを繰り返す白の塊に、随分乱暴な雲だ、とTricky・Starsが揃って想う。
 敵対するつもりも、空を荒らすつもりもないと彼が語りかけたというのに、雲は見向きもしない。一方的な遊び相手ができてはしゃいでいるのか、あるいは心根から悪戯好きなのかもしれない。意識せず稔が肩を竦める。
「上には上が居るということを分からせてやれば良いのだろう?」
 何でそうなるんだよ、と冷静なツッコミが内から入ったのにも構わず、彼は断雲へ歩み寄る。休みなく振りかかる塊と、踏んだ雲から突き出たしなやかな白糸に煽られるも、痛みの合間を縫ってどうにか暴れる雲を押さえ込む。
 そこへ一直線に癒しの音を飛ばしたのは、ドラマだ。
(この二年、身体を鍛えて速さを研ぎ澄ませて来ましたから)
 支えるための準備は抜かりない。だからこそ奏でた救いの音色が、青に強く響き渡る。
 そのとき、天上が一瞬だけ目映い輝きにあふれた。時間を忘れたかのように一斉に動きが止む。彼らの遥か青の先で、雲霞の中から利一が掬いあげた硝子玉こそ、七彩の光を映し出す虹の宝珠。
 痞えてばかりいた息を吐き出すも、そこに想い出が乗ってしまい、利一は瞼を伏せる。
(親父、元気にしてるかな……)
 此度の任は彼女にとって、言わば宝探しだった。未踏の地を調査する経験は山ほどあり、持たぬ知識の証を発見する喜びはよく理解している──だからこそ、胸の内がきゅっと窄まったように感じて。
「あったよ。君と、君の友人の言葉通り」
 真っ先に利一が宝珠を見せたのは、駆けつけた華蓮と雲だ。
 やったのだわ、と華蓮も喜びを目尻に寄せて、助言してくれた雲をぽんぽんと撫でる。
 宝珠を掲げれば、果てのない空に七色の光明が射す。離れていた仲間の元も普く照らす様に、瑞光とはこうしたものを言うのかもしれないと雲間から立ち上がったTricky・Starsが目を細める。
 やがて虹の光は集束し、一点を指し示した。するとメーコが身を預けていた雲の塊も、夢心地に浸る彼女を揺り起こす。
「あそこに……メーコもいくのめぇ」
 目許を擦り、少女も雲に揺られながら光の示す先へ向かいはじめた。
 そこでドラマはふと、かねてから疑問に感じていたことをが尋ねる。
「虹の宝珠は、あなた達にとってどういうモノなのでしょうか?」
 理に適わぬ異物か、それとも護るべきものか。
 しかし問いの意味を理解できずにいるらしく、雲は行き場なく漂うだけだ。不可思議な存在に沈思しつつ、ドラマも仲間たちの後を追った。

 雲上を歩んだ者も、雲と共に飛んだ者も、やがてひとつ所に集う。
「雲のかた、ボクを支えてくださってありがとうございます」
 長身で深々と頭を下げたヴィクトールに、雲も同じぐらいからだを丸めて感謝を示した。
 雲との別れを惜しみながらも、イレギュラーズは空のフロアを後にする。去り際、素敵な場所だったからこそ燻る心残りを、焔が言葉に換えて零した。
「また来てみたいな。探し物しにとかじゃなくて、お散歩に」
 願いもまたそれぞれの軌跡と同様、淡い光の粒になって群雲へ吸い込まれていく。
 終わりのない青空に、雲の橋が架かる。かれらは虹を渡る若者たちを、いつまでも見送っていた。

成否

成功

MVP

華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)
ココロの大好きな人

状態異常

なし

あとがき

 お疲れ様でした! ご参加いただき、誠にありがとうございました。
 またご縁がございましたら、よろしくお願いいたします。

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