PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<ハロウィンSD2019へ:屋上にて待つ>アルプトラオム・ヴァルプルギス

完了

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●天焦炎

跋扈せよ魑魅魍魎、甘い食感の
篝火へ焚べるは魔女の使い魔
旧き皮脱ぎ捨て生まれ変わる儀式

触れ嗅げ視ろよ、ついでに喰らえ
蜜の盃、黄金酒
星辰の彼方へ、ぶっとべハイテンション

今日だけは箒さえあれば大宇宙だって疾駆
今日のためマイデコカスタムニンバストゥエンティハンドレッド
はいはい唱えて魔法の呪文はベントラ・ベントラ・スペースフィプル

どんどんひゃらりは本日休業
代わりに響くの「Who are you?」

知ってるはずの知らないわたしと
知らないはずの知ってるあなたが
思惑、ニコイチ、ハンプティダンプティ
王様の家来100人がかりも
どうしようもならぬ春彩狂騒

●へい、大将、いつもの!

「……いわゆるお祭り依頼ね」

【無口な雄弁】リリコ(p3n000096)はそう言った。
 ぶっちゃけすぎぎぎ。「もう少し言い方ってものがあるでしょう、スモーキーグレーよ」なんて先輩からたしなめられるけれど、言ってるのが【色彩の魔女】プルー・ビビットカラー(p3n000004)だったりする。ともかく。
「……旅人が教えてくれたお祭りなの。春を讃える魔法の夜になるんだって。港町ローリンローリンへ来たみんな、普段とは違う姿に変わったり変わらなかったり、するんだって。イレギュラーズさんにやってもらいたいのは、祭りの盛り上げと警備」
 淡々とした口調には期待が滲んでいる。ハニーグリーンの大きなリボンがせわしなく左右へ振れている。リリコはあなた に来てほしいようだ。
「……お祭りは夜に広場で行われるの。普段は少しばかり治安がよくないけど、今日はみんな浮かれてるから楽しめると思う。出店もたくさん出る。有志たちが黄金の蜂蜜酒というものを振る舞うようだから、二十歳以上だったらどうぞ。マジックアイテムも色々ある」
 他になにか言うことはなかったかと、思案。リリコはかすかに頭を傾けていたがまっすぐに戻った。ぴこん。頭上のリボンが楽しげに跳ねる。
「……まず、盛り上げ。とても大事。来て見て歩いて、楽しんでくれるのがいちばん大事。余興をしたり、お店を出したりするのもいい。お祭りの象徴『ヴァルプルギスの篝火』は薪ではなく街の華やぎを糧に燃え上がるから」
 それから、とリリコは続ける。
「……警備。ひょっとしたらスリとか当たり屋がいるかもしれないから、見回りをお願い。それと……」
 リリコはいつも大事にしている図鑑で口元を隠した。半眼のまま見上げてくる。
「……旅人が言ってたの『おばけがでるかも』って」

GMコメント

みどりです。春を讃えるヴァルプルギスの夜なるお祭りです。きらめく夜空を赤く照らす焔とともにお楽しみください。

このシナリオでは昨年の「ハロウィンSD2019」及び「プレで指定されたイラスト」を可能な限り参照して描写します。やりそこねたからな。該当イラストを複数所持、あるいは所持していない方で「こいつでよろ」というのがあれば書式へどうぞ。無記入の場合の外見描写はあったりなかったりテキトー。

ノーマル・ノーマル二章立てラリー。
前半は見てのとおり。後半はプレしだい。お祭り、楽しんでくださいね。ラリーはイベシナよりPCさんをぶち描写できるんじゃ! というのは私の勝手なロマンであり、5人くらい来てくれたらそれだけでうれしい。

●書式
一行目【同行タグ】または無記入
二行目【行先タグ】または考えついたタグ
三行目 衣装指定 デフォは無記入
四行目 プレ本文

●行先タグ
【盛上】または考えたタグ
多ければ多いほどおけ。
文字通りお祭りを盛り上げていいし、離れたところで一人酒するもあり。楽しんだ人の勝ち、フリーダムに行こうぜ!

【警備】
篝火の守護者
おばけを追い払いましょう。おばけは街の人に紛れているので探してみてね、物理もちゃんと当たります。戦闘が始まったら街の人は大受けして神回避するので大丈夫。

●衣装指定
 原則不要。GM側で2019ハロウィンSDイラストを参照。
 ただし複数持ってる人や、別のイラストでという方は「アルバム一覧のイラストのタイトル」を記入して指定してください。タイトルが長すぎて字数が…という人は一時的にタイトルを「勇者ああああ」とかにしとくといい。水着でもええんやで、広場はあったかいから。

●シナリオ内ガジェット

※ヴァルプルギスの篝火
お祭りの象徴。直径10mという大きな焚き火。広場の真ん中に設置されています。見惚れるもよし暖まるもよし。大切な何かを永遠にするため灰にするもよし。

※広場
街の人が篝火を囲んで歌ったり踊ったり黄金の蜂蜜酒を楽しんだりしています。おや、半透明の人がいるぞ?

※魔女の箒じみたなにか
プレへ形状を記入すると一時的に飛行を得るガジェット。形状はこのシナリオにかぎりなんでもあり。デッキブラシでもUFOでも。アダムスキー型とか浪漫ありますね。

※黄金の蜂蜜酒
おしゃけ。出どころ不明、害はないよ、たぶんね? アルコールは二十歳から。アンノウンは自己申告。

※出店
一夜で切れる魔法のかかったマジックアイテムがメイン。光ったり姿が消えたり、そういうもの。食べ物系が少ないので出店すると喜ばれるかも。

※孤児院NPC プレで呼び出せます。
露店をだしています。売り物は振ると花火のような光が溢れ出す杖。子どもたちが集めた小枝へシスターが夜なべして魔法かけて作りました。ローレットのイレギュラーズには世話になっているお礼に無料でくれます。

男ベネラー おどおど 最年長 狼男
男ユリック やんちゃ キョンシー
『無口な雄弁』リリコ ハニーグリーンのセーラーワンピ 要するにいつもの
女ミョール 負けず嫌い ヴァンパイア
男ザス おちょうしもの 耳が長い以外は特に外見変更なし
女セレーデ さびしがりや 龍
男ロロフォイ 男の娘 ひよこ色のAラインワンピ
女チナナ ふてぶてしい 人魚
院長イザベラ くいしんぼう サキュバス

プルー姉さんは忙しいので来れませんでした。「トゥルーブラックとウォームオレンジのブルーシャインシルバーをフレグランスイエローしてきてちょうだい」との伝言をもらいました。

  • <ハロウィンSD2019へ:屋上にて待つ>アルプトラオム・ヴァルプルギス完了
  • GM名赤白みどり
  • 種別ラリー
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年05月17日 16時26分
  • 章数2章
  • 総採用数32人
  • 参加費50RC

第1章

第1章 第1節

ヨタカ・アストラルノヴァ(p3p000155)
楔断ちし者
武器商人(p3p001107)
闇之雲

 露店というものはだいたいが簡易な作りなのだが、奇妙なくらい立派な店構えが広場の隅にあった。まるで当然のような顔をして、前からここに居ましたが何か、などと抜かしそうなくらい小さくも堂々とした店。
 テイクアウト用の大きな窓へ肘をついているのは誰? 薔薇の刺繍があるヴェールを深くかぶり、ドレープたっぷりの黒のレースを幾重にも重ねた闇色のドレス。その身を彩る古色の金鎖の戒めと、気だるげで品格高い姿はあの冠位もかくや。篝火の灯りがゆらゆらと、ドレスの陰影を誘うように深く浅く。ソレは身じろぎ一つしていないのに、見る側はまるでとてつもない神聖と暴虐を目の当たりにしているかのよう。街の人はその破滅を感じさせる誘惑と美に惹かれるものの、恐れ多くてとてもとても近づけない。
 が、そこは気にしないのが子供ってものだ。
「武器商人さーん! お菓子売ってるって聞いて来たよ。カワイイのある?」
「ぶきしょうにんさん、こんばんは」
「……いい夜ね、尊い旧き夜。どんなものを売っているのかしら」
 そう、かのモノは武器商人。ヴェールの下から、普段はさらりと垂らしている露糸の紫銀を髪飾りのように編み込んでいるのが、同じく普段は長い前髪の下へ隠れている夕闇の先の紫紺が見えている。
「こんばんはロロフォイ、セレーデ、リリコ。退屈していたところだよ、ふしぎと客が来なくてね、ヒヒ」
 すべてわかっていそうな笑みを浮かべ、武器商人はロロフォイへメニューを渡した。彼はきゃあきゃあ言いながらイースターの品書きをセレーデと一緒に眺めている。
「……小鳥はどうしたの、尊い旧き夜」
「それなんだよ、着替えは終わってるはずなのだけれどね。リリコ、そっちの扉から奥へ行って様子を見てきてくれないかい。我(アタシ)は店番をしてなくちゃ」
「……ん」
 言われたとおりサイドのドアから店内へ入ったリリコは、奥の部屋で丸まって倒れ込んでいるヨタカを見つけた。
「……小鳥。顔が真っ赤よ、熱? ……悪い風にあてられたの?」
「…風邪じゃない、そうじゃないんだ…。……気分は悪くない…このままでいたい…ただ、動けないんだ……。」
 ヨタカはいつもの姿ではなかった。チャイナカラーのアオザイに東洋風の振袖に仕立てたチェスターコート。武器商人の普段着だ。
「……なら、伝えてくるわ」
「…いや、それもしなくていい…!」
「……せめてこっちの毛布をかけるわね?」
「…問題ない、触れないでくれ…。」
「……問題だらけに見えるわ」
 リリコのリボンが困ったようにふわふわ揺れ、止まった。焚きしめられた金木犀の香に気づいたのだ。それはヨタカの服から漂っていた。上着には海の底のような錦糸の刺繍が踊り、分厚く豪奢なコートは丁寧に折り隠した悪意と純粋すぎる善意、そして狂熱で編み上げられている。
(……言えない…。…まるで紫月に、抱きしめられているようだなんて…。…助けて魔女様…。)

成否

成功


第1章 第2節

メルトアイ・ザ・ベルベットムーン(p3p000674)
悦楽種

 ボン・キュッ・バン。むっちむちで美味しそう。抱きしめたらふにふに、できるなら素肌でその感覚を味わってみた……。
 メルトアイの串焼き露店は盛況だった。強火で焦げ目をつけるたびにあたりへは香ばしい匂いが。それにつられてやってきた男ども&女どもはメルトアイの姿を見たとたん、ふらふら引き寄せられていくのだ。
「いらっしゃいませ、いらっしゃいませ♪ うふふ♪」
 だって桃色に花柄のかわいらしい浴衣……と、藤色のひもぱん。ちちばんどの代わりにチョーカー代わりのチョコレートカラーのリボン。それが長く尾を引いて死ぬ前に一度くらいはと病床のジジババまで起きてきそうなくらいわしわしやってみたくなるようなお胸へ続いている。大きくくつろげた浴衣は半脱げ状態。それを長い兵児帯で金魚のしっぽみたいに細いウエストごときゅっとしばり、そこから下は気持ちいいくらいミニスカ状態。さぞ解放的だろう。
 それ以上に目立つのは、背中から流れ出す二対のくねくね触手、腰からも一対の触手がうねうね、合計6本。肉色で微妙な凹凸がついたそれは何かを思わせる。その触手がソーセージやトウモロコシや焼きリンゴをお客へ渡し、小銭を掴み取っていく。
「ふふ、私の触手、気になりますか? それとも、此方ですかしら♪」
 手を伸ばしてきた客を逆に胸へ挟むように抱きしめ、メルトアイは融けた瞳で微笑む。
「残念ながら、今はお預けですわ。…ええ『今はまだ』♪」

成否

成功


第1章 第3節

グドルフ・ボイデル(p3p000694)

 ぼさぼさの蓬髪、分厚い胸板、見事な上腕二頭筋、太く頼もしい腰、帯はだらり、身なりは無頓着、けれど動きやすく。それは記憶の中の『山賊』そのものゆえに、魔法の夜とてグドルフには怖気づく。前歯の欠けた山賊は蜂蜜酒を流し込み酒精の囁きに身を任せていた。
「いい肴がねえな」
 とたん、背後に妙な気配。グドルフは振り向きざまその少年、ユリックを掴み上げた。
「よお、坊主。久し振りじゃねえかい」
「こっちのセリフだぜ、グドルフのおっちゃん」
「暇ならおれさまに付き合いな。今、祭りの邪魔ァする奴らを追い払う仕事中なんだよ」
「警備だな、了解したぜ!」
 グドルフに肩車されたユリックはわあとうれしげな声を上げた。視線が高い。いつもは見れない光景がある。
「変な奴を見つけたらすぐに言いな。追いかけてぶちのめしてやるぜ!」
「おっちゃん、右のほら、あそこ!」
「おうよ、任せな!」
 誰にも聞こえないほどの声で短尺の回復を唱え、グドルフはぼんやりした人影へ一気に詰め寄った。振り上げ、振り下ろす、シンプルながら斧の重さを乗せた豪快な太刀筋に人影は雲散霧消した。周りから沸き起こる拍手喝采。グドルフは呵々大笑する。山賊らしく。
「ゲハハハ、楽勝だぜえ! よおし、お手柄だ坊主。こいつは駄賃だ、好きなもん買ってきな!」
「マジかよ、ありがとなおっちゃん」
 ユリックへ小銭を握らせると、グドルフは人混みへ消えた。どこか哀愁を感じさせる背で。

成否

成功


第1章 第4節

生方・創(p3p000068)
アートなフォックス
ウェール=ナイトボート(p3p000561)
永炎勇狼
アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)
灰雪に舞う翼
ラデリ・マグノリア(p3p001706)
再び描き出す物語
レーゲン・グリュック・フルフトバー(p3p001744)
希うアザラシ
グレイル・テンペスタ(p3p001964)
青混じる氷狼
ブーケ ガルニ(p3p002361)
兎身創痍
天狼 カナタ(p3p007224)
夜砂の彼方に

 魔女の夜らしく大烏が飛んでいる。ファミリアーだと気付けるのは八犬士くらいだろう。
 仁の玉を抱えた森アザラシを小脇にしている灰色の獣人、犬江親兵衛。幼さを感じさせる短い狩衣の下からは脇腹に牡丹の痣。
 腰から下げた義の玉は深緑の若葉を思わせる色、着流しを肩肌脱ぎした背なには牡丹、緑に合う赤毛をざっくりと三編みにした獣人、犬川荘助。
 礼の玉を首から下げ、地に触れそうなほど長い襟巻きと羽飾りのついた粋な帽子をかぶっているココア色の獣人、犬村大角。
 智の玉をお守り代わりに首にかけ、白に青交じる獣人、犬坂毛野。和風の付け袖の合間から見えるのは右肘あたりに牡丹の痣。
 右頬へ誇るように牡丹の痣、額にはダイア状の一差し、信の玉を手にし釣り竿をかついだ黒い毛並みの獣人、犬飼現八。
 考の玉を飾り紐で首につけ、墨色の着流しに身を包んだ灰色に白の被毛の犬塚信乃。左腕からは牡丹の痣がチラ見えしている。
 片手には忠の玉を、反対の手には炎を踊らせ、包帯まみれの体。めくりあげた袖の左肩には牡丹が覗く、黒の鉢割れ獣人、犬山道節。
 きりりと巻いたふんどし姿、風になびく和装。悌の玉を持ち薄灰色で統一された毛皮に、額には一筋向こう傷、犬田小文吾。
 誰が誰など些細なことだ。八犬士は八犬士、それで充分。犬種に扮した獣人たちは篝火を見上げ、それぞれの玉を天へ掲げた。赤銅、若葉、輝紫、蒼海、蒼白、紫紺、藤黄、炎魁。灯火を受けた玉から光が空へ吸い上げられ溶けるように篝火へ舞い降りた。新たな力を受けた篝火には大きく燃え盛る。
「なんとも勇壮だね」
 炎を見上げていた大角が感動したように両腕を広げた。浴びる熱は春の日差しそのものだ。うららかで勝ち気、厳しい忍従の時は終わったのだと高らかに陽気に告げている。
「ああ、立派な篝火やんなあ」
 実体があるようでない炎というもの。それはこの祭りの象徴としてふさわしい気が道節にはした。夢幻のごとくゆらめくそれへ傷を帯びた手を伸ばす。
「こーら。そこ、飛び込みたいとか言わないよねぇ?」
 現八はふわりと道節の袖をつかみ、さりげなく制止する。
「……ふふ、見てるとついな。アカンね」
「異世界の「道節」と同じ道を歩むのは今じゃないよ。ここは混沌だしね」
「今日は焼かれてあげへんの。そのくらいは俺かてわかっとるよ」
「うん、えらいえらい、えらいよー、息してるし心臓ちゃんと動いてるし最高!」
 傍らの大角が道節の頭をたれ耳ごとわしゃわしゃ撫でる。
「目が2つあって鼻と口が1つあるとこも褒めてや」
「もちろん! 道節は本当にすごいね、熱も出してないし風邪も引いてないし、お祭りには遅れずやってきたし、たいへんよくできましたー!」
 そのまま道節の頭へ機嫌よく富士山花丸を書いてあげる大角と、隣から抱きつき、いっしょになってわしゃわしゃやりはじめる現八。
「やめぇな、せっかく祭りのために整えてきてんで、聞いてんの、待て待て、待てって」
 その様子を微笑ましく見守るシノと宗助、それから毛野。毛野の毛並みが炎の照り返しを受け、銀とも金ともつかない繊細な輝きを放つ。はんなりした立ち姿は八犬士一の美丈夫。遠巻きに女の子が黄色い声をあげているのに気づいているやらいないやら。いないな、確実に。そう思いシノはにやりと顎に手をあてた。
「ケノ、女難の相が出ているぞ」
「……え……?」
「周りを見てみろ。ケノに目が釘付けの婦女子でいっぱいだ」
 着物をきちっと着直した宗助から言われた毛野は、右見て左見て、若干首を傾げた。
「…どこに…?」
「そこだ。あなたにはそういうところがある。こっちは心配で気が気じゃない」
「まったくだ。ケノはたまに御しやすそうに見えるからな。街を歩く時は気をつけるように」
「…え…どうして…僕…注意されて…いるのかな…?」
「だからそこだ。そういうところだ」
 衣装と一緒に苦労性まで乗り移ったか、宗助は親指で眉間をぐりぐりやる。
「独り歩きはお勧めできないな。いったい何が起こるやらわかったものではない」
「…そんなこと…ないよ…? …お化けが…相手でも…自分の身は…自分で守れる…」
「そういうところだと言っているんだ、何故伝わらないんだ」
「はっはっは、ケノが悪いわけじゃない。コブンゴが近くでなくてよかったと考えるか。今頃倒れる連中まで出ているかもしれないからな。なあコブンゴ?」
 懐手で愉快そうに高笑いしているシノから話を振られた巨漢の小文吾(ちび小文吾さん付き)はこっちも不思議そうに頭をかいた。
「すまん信乃、何が言いたいのか、いまいちわからん。通訳してくれ親兵衛」
「お互いの精神衛生と心の平穏のためにやめとくっきゅ」
 ぬいぐるみにしか見えなかった仁の玉を持った森アザラシがひれをぱたぱた振った。親兵衛の姿をした誰かは森アザラシを抱っこしてにこにこしていた。今夜の二人は一心同体なので、どっちが本体だとかは決めつけないほうが良さそうだ。森アザラシだって本当にぬいぐるみで、親兵衛が腹話術をしているかもしれないし。けどまあ、こう見えて大人なのだ。八犬伝最年少だが実質最年長かもしれない。
 何やら座りの悪い顔をしていた小文吾だったが、両手で頬をぱんと叩き気合を入れた。
「よぅし、それじゃ各員分かれて警備へ回るとするか! 連絡は任せたぞ親兵衛」
「もちろんっきゅ、小文吾さん。上空からファミリアー通してハイテレパスするから余裕っきゅー。みんな何かあったらお空を見てほしいっきゅ!」
「「了解」」
 うなずいたり会釈をしたりと、それぞれ思い思いの返答をし、八犬士たちは人混みへ紛れていく。親兵衛はさっそく神経を集中して仲間の心の声を拾い上げた。
(それにしても祭りなのにあまり甘い匂いがしないな。出店のりんご飴とか好きだったんだが)。
「信乃さんがさっそく寄り道しだしたっきゅ、小文吾さん」
「信乃さんだからな。しかたない」
「こっちも寄り道してみるっきゅ? お祭りっきゅよ、何もなしは寂しいっきゅ」
「少しくらいならいいだろう」
「やったっきゅー! 小文吾さんのお墨付きっきゅ。おしゃけくださいっきゅ!」
「あまりはしゃぎすぎるなよ?」
「もちろん」
 親兵衛はきらんと目を光らせた。
「これは不真面目警備と見せかけて油断させる手口っきゅ」
「知恵が回るな」
(……しまったっきゅ。本気に取られたっきゅ)
 せめて索敵くらいましにやろうと、親兵衛は耳を澄ませた。人混みはザワザワと騒がしい、だがその中、奇妙に静かな一角がある。
「小文吾さんあそこ!」
「わかっている! 八犬士だ! 巻き込まれたいやつだけ前へ出ろ!」
 イレギュラーズだ、祭りの華だ! 周囲の人ごみが潮のように引いていく。取り残されたお化けの群れへ飛び込み、小文吾が拳を叩きつければ曼珠沙華の花びらが舞う。さらにワンツー、ジャブを繰り返せばお化けは簡単に消えていく。
「手応えがないのが逆に不気味だな」
「楽ならそれはいいことっきゅ!」
 合間を縫うように、親兵衛は矢をつがえる。放てばどかんと音がした。氷の結晶が吹雪のように荒れ狂い、冷気と狂気が振りまかれる。お化けたちは立ち向かうどころかさっさと逃げ去りだした。
「逃さないっきゅ! みんなまとめて散るっきゅ!」
 ゆらめく冷気を矢にまとわせ、親兵衛はさらに矢を打ち込んだ。
 大砲のようなその音を聞いたシノは武器商人のお菓子の最後の一口をはむりながら足を止めた。
「コブンゴとシンベイのやつ、やってるな。俺もそろそろ本気を出すか、おらぁ!」
 すべての感覚を高め、透視能力まで持っているシノに、お化けを探し出すことなどわけもない。腰に佩いた村正を抜く、と見せかけて鞘ごとぶん殴る。たぶん混沌肯定のせいで抜くに抜けないのだ。朧な刀身を内へ秘したまま、シノはゴンゴンお化けを殴りつける。
「ははっ、どうしたどうしたあ! 俺の太刀筋が見きれないか!?」
 右からくるお化けを払い、左からくるお化けを打ち返し、荒っぽいようで洗練されたシノの身のこなしは最低限の動きでお化けをはたき倒す。
(信乃さん真面目にやりだしたっきゅ。みんなもがんばるっきゅ!)
「…こちら…犬坂毛野…了解…」
 親兵衛の心の声を受け、毛野も
「…お化けが紛れてる…かあ…お祭りの雰囲気に誘われたのかな…?」
「かもしれないな」
「……どうして宗助さんまで…ついてくるの…?」
「放っておけないからだ」
「…大丈夫だってば…」
「本当にそうなら俺だってついてこない」
 やれやれと言った風情で腕を組む宗助に、毛野はくすくすと笑んだ。嫌なわけではないのだ。ただ少しくすぐったい。やがて半透明の人影を複数認め、両者は顎を引き真剣な目つきへ変わった。
「刀でどうにかなる相手とはまた奇妙な、それで追い払えるなら構わんが、ふむ。篝火へ向かっているな、悪さをされる前にどかしてしまおう、毛野」
「…うん…宗助さん…八犬士が一人、犬坂毛野……悪いお化けには…退散してもらうよ…」
 毛野が走り、宗助が追う。
「…行くよ…」
 毛野が勢いよく巻物を広げれば、召喚の句がぐるりと渦巻き、黒狼が形作られ飛び出した。勢いのままに黒狼はお化けへ突進し、お化けの腕に噛みついて大きく振り回した。首を反り返らせ、掴んだお化けを他のお化けへ投げつける。どんどんどん、とドミノ倒しになるお化け。そこへ宗助の白刃の煌めき。一閃、ニ閃、刀がひらめくたびにお化けは切り払われていく。血も吹き出さず、霞と化して消えていく姿に、たしかにこれは人外だと宗助は納得した。
「人に危害は加えんようだが、かといってそれ以外なら良いというわけでもない。俺たちに見つかったのが運の尽きだったな」
 背中合わせになったふたりは周りを取り囲むお化けたちに、武器を構え直してみせた。鋭い眼光が篝火のゆらめきにあわせてぬらり、光る。それを目前にしたお化けたちは冷たい体なりに背筋へ氷が滑り落ちたのか一目散に逃げていく。毛野は空を守るように飛ぶ大烏を見上げた。
(…こちら…犬坂毛野…一部のお化けには逃げられたよ…八犬士の皆…そっちの状況はどう…?)
(小文吾さんとの担当場所はいったん休憩モードっきゅ)
(俺のところはひとまず散らしたな。ケノ、悪い女に引っかからなかったか?)
(…からかうのはやめて…信乃さん…)
(うわわ、向こうからお化けがくるよ! それもけっこうな数が!)
 現八の悲鳴が飛び込んできた。そっちへ行ったかと宗助と毛野は加勢へ向かう。
「ほんとだ。いっぱいくるねー。群れの力を見せるよー」
 のんびり口に出した大角が兵法書を広げた。からりとした筆で宙へ字を画く。流麗な草書体で神気閃光、と。とたん、兵法書の文字が光り、鎖のように飛び出して次々とお化けを締め上げる。鎖に巻かれたお化けはあっけなく姿を消していく。もとより八犬士の敵ではないのだ。
「悪いことはダメだよ? 篝火に近づくのも、今夜はいけないことだからね」
 次々と光の鎖を打ち出しながら、大角はお化けを縛につけ、倒していく。
「やるね、けど僕だって捕物では名が知られてるんだよ!」
 現八は竿を逆手に持ち、お化けのみぞおちを突く。ぐえっと妙に人間臭い悲鳴が聞こえた。勢いまかせに回し蹴りを叩き込めば、クッションでも蹴ったような感触がして何もない空間へ変わる。そこから釣り針をひょいと投げ、逃げ出そうとしていたお化けの背に引っ掛ける。
「今はおとなしくしておいて僕たちがいなくなったら、篝火へ近づくつもりなんだよね?」
 ダメだよと現八は大角の口真似をした。
「堪忍ね、今日はなんだか喧嘩っ早くなってしもうとるさかい、遠慮してあげられへんわ」
 玉を握り込んだ拳を突き出し、道節は無音の衝撃波を撃つ。吹き飛ばされたお化けを火遁の術が襲う。
「大丈夫、どっちも直接傷つけるモンやないし。俺、優しいやろ?」
 道節は皮肉げに笑んで見せた。

成否

成功


第1章 第5節

零・K・メルヴィル(p3p000277)
つばさ
アニー・K・メルヴィル(p3p002602)
零のお嫁さん

 舞踏会のような一角をひときわ可憐な少女が足早に通り過ぎていく。白銀のティアラにはムーンストーンのアクセント。アニーが踏み出すたびに宝石がゆらりとプラチナブロンドといっしょに揺れる。歩きにくそうなのはヒールのあるミュールを履いているからか。それは女の子の夢みたいな桃色のドレスに隠れて見えないけれど。
 フリルとリボンがたっぷりのレースで腰を覆い、スカートは二弾重ね。クリノリンも入っていないのにゆったりふくらんだシルエットなのは、上質な布地をふんだんに使ったパニエを履いているからか、それとも一晩の魔法なのか。その秘密は胸元のエメラルドだけが知っている。
 人混みを抜けていくアニーの無防備な肩へ誰かが軽く触れた。振り返れば映画にも出れそうなキザ男。今夜のダンスの相手に決めましたと一方的にアニーの手を取る。
「やめてください、やめて。わたし、人を探しているんです」
 アニーは必死に振り払おうとするが、抵抗虚しく抱き寄せられそうになった。
「嫌がってるだろ、離せ」
 横から男の腕をつかんだ誰かがいた。その姿を視界へ入れたアニーは内心ほっとした。
「零くん!」
「無理強いはよくないだろ。な、なんなら俺が、あ、相手になる!」
 零くん、どうしたの、わたしのためにそこまで……。ほう、と男は腰のフルーレをすらりと抜いた。
「……えーと、だ、ダンスの」
 そっち? 拍子抜けしたのか男は笑い、すてきな王子様だ大事にするといいと告げて去っていった。その声音に嫌味な調子はなく、本心からのようだった。
「はあー、びっくりしたあ」
 零はずるずる座り込んだ。
「ありがとう零くん。その格好、やっぱり似合ってるね」
 零の衣装は御伽の国の王子様。アメジストで飾り付けられたミニクラウン。白の上着には上品な金の縁取り。肩のペリースの裏地が篝火の照り返しを受けて粋に輝く。ブルーのボトムにはゴールドのライン。しなやかな零の体を引き立たせるようだ。
「ね、零くん!本の中のお伽噺みたいに今夜は私を攫っていってほしいな。行き先は……うん、どこでも!」
「あ、あぁ、分かった。君が望むなら何処までも、俺のお姫様を攫っていくとしようか」
 ……なんて、と語尾に張り付く照れ笑い。零の頬が赤いのはきっと篝火のせい。子ロリババアのオフィリアが今夜は白馬に変じる。二人を背中へ載せ、夜空から篝火を眺めた。
「篝火がとっても綺麗。露天も賑やかだよね、後で何か買ってみたいな!」
「確かに空から見下ろす祭りも乙なもんだよな」
 アニーからぎゅっとしがみつかれて、零は夢見心地。いつまでもこんな時間が続けばいい、そう思った矢先。
「えへへ…とっても楽しい。でも、やっぱりこの時間もいつかは終わっちゃうんだよね……。それでも今だけは…零くんだけのお姫様でいさせてね……」
 返答に窮した零は手綱に集中するふりをした。
「……今だけと言わず、ずっと俺だけのお姫さまでいてくれても……」

成否

成功


第1章 第6節

ポテト=アークライト(p3p000294)
優心の恩寵
リゲル=アークライト(p3p000442)
白獅子剛剣

 手を取り合い、やってきたのはリゲルとポテト。二人の服装は黒と赤で統一されている。
 リゲルは普段の行儀よく整えられた銀髪はどこへやら。つややかでざっくりした黒髪に変わっている。黒いマントは裏地は赤く、裾はボロボロ。若木のような肉体を誇るように胸元から腹まで露出している上から、黒狐の襟巻きをしている。体を要所を覆う鎧は漆黒。瞳も青から赤へ変わり、頭にはねじくれた角まである。胸元の大きなハロウィンバッジがなければどこかの魔王かと見違えるほど、たしかにヴァルプルギスの夜に似合いの姿。
 ポテトのほうは例えるなら魔王の后、長く伸ばした美しいライトブラウンの髪を高く慎ましく結い上げ、三編みで根本を飾っている。華奢ながらも豪華な古式黄金のティアラには血のように赤いルビーが輝き、クリノリン入りと思われる大きく膨らんだドレスはやはり黒と赤。下地には燃え盛る心のような炎の色を用い、それを沈黙と秘め事の暗闇が押し隠している。ティアラと同じ古めかしくも豊かな表情を持つ黄金の縁取りが、溢れ出しそうな情熱と諦念を抑えているかのようだ。頭のかぼちゃの髪留と、白いお花のピアスが、これは仮装なのだと教えてくれていた。
 さて、そんなふたりは手をつないだまま、店を出すのにいい立地を探す。ちょうどいい場所があったので準備をしているとリリコがやってきた。
「……こんばんは」
「やあ。元気そうだな」
「素敵なお誘い有難う」
「……おかげさまで。いい匂いね」
「リゲルの得意なサンドイッチを作っているんだ。私は具材を作る係だぞ。挟んで詰めるのはリゲルのほうが上手だからな」
「ポテトのも俺は好きだけれどな。サンドイッチはポテトと共に日々訓練しているんだ。ポテトの腕と俺の技術で幸せ配るぞ!」
 そう言うとリゲルは変わった色のカット済み食パンを取り出した。魔女をイメージしたサンドイッチに欠かせない紫芋を練り込んだパンだ。それを使い、照り焼きチキンサンド、マヨもたっぷり卵サンド、野菜もたっぷり添えたローストビーフサンドに、今が旬のびわとさくらんぼのフルーツサンド。それを星で飾ったバスケットへ詰めてセット販売。
「良かったら子供達のおやつにどうだろう?」
「……おいくら?」
「お代なんていらない、笑顔で食べてくれる様子を想像すると嬉しくなるんだ」
「そうだぞ、遠慮なく受け取っておけ。このお化けのクッキーもどうだ?」
「……ありがとう」
 リリコはぺこりと頭を下げ、受け取ると去っていった。そこからはお客が殺到して、てんやわんや。品物はすぐに売り切れた。
「今回も良い出来だ。思えばポテトの美味い料理を毎日食べられる俺は幸せ者だな」
 リゲルは感謝と愛を込めてポテトの頬へキスを送った。
「ん」
 くすぐったげに肩をすくめたポテトは。
「リゲルこそ毎日美味しく食べてくれる。私のほうが幸せ者だ。いつもありがとう」
 お礼は熱を帯びて唇へ返された。

成否

成功


第1章 第7節

●お祭りは大盛況
 あちこちで飛ぶ「Who are you?」。
 だいじょーぶ、みんな知った仲間さ。篝火は今を盛りと燃え上がり、星空まで届きそう。

 だけど、そこへあいつが現れた。

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