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シナリオ詳細

<ハロウィンSD2019へ:屋上にて待つ>アルプトラオム・ヴァルプルギス

完了

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●天焦炎

跋扈せよ魑魅魍魎、甘い食感の
篝火へ焚べるは魔女の使い魔
旧き皮脱ぎ捨て生まれ変わる儀式

触れ嗅げ視ろよ、ついでに喰らえ
蜜の盃、黄金酒
星辰の彼方へ、ぶっとべハイテンション

今日だけは箒さえあれば大宇宙だって疾駆
今日のためマイデコカスタムニンバストゥエンティハンドレッド
はいはい唱えて魔法の呪文はベントラ・ベントラ・スペースフィプル

どんどんひゃらりは本日休業
代わりに響くの「Who are you?」

知ってるはずの知らないわたしと
知らないはずの知ってるあなたが
思惑、ニコイチ、ハンプティダンプティ
王様の家来100人がかりも
どうしようもならぬ春彩狂騒

●へい、大将、いつもの!

「……いわゆるお祭り依頼ね」

【無口な雄弁】リリコ(p3n000096)はそう言った。
 ぶっちゃけすぎぎぎ。「もう少し言い方ってものがあるでしょう、スモーキーグレーよ」なんて先輩からたしなめられるけれど、言ってるのが【色彩の魔女】プルー・ビビットカラー(p3n000004)だったりする。ともかく。
「……旅人が教えてくれたお祭りなの。春を讃える魔法の夜になるんだって。港町ローリンローリンへ来たみんな、普段とは違う姿に変わったり変わらなかったり、するんだって。イレギュラーズさんにやってもらいたいのは、祭りの盛り上げと警備」
 淡々とした口調には期待が滲んでいる。ハニーグリーンの大きなリボンがせわしなく左右へ振れている。リリコはあなた に来てほしいようだ。
「……お祭りは夜に広場で行われるの。普段は少しばかり治安がよくないけど、今日はみんな浮かれてるから楽しめると思う。出店もたくさん出る。有志たちが黄金の蜂蜜酒というものを振る舞うようだから、二十歳以上だったらどうぞ。マジックアイテムも色々ある」
 他になにか言うことはなかったかと、思案。リリコはかすかに頭を傾けていたがまっすぐに戻った。ぴこん。頭上のリボンが楽しげに跳ねる。
「……まず、盛り上げ。とても大事。来て見て歩いて、楽しんでくれるのがいちばん大事。余興をしたり、お店を出したりするのもいい。お祭りの象徴『ヴァルプルギスの篝火』は薪ではなく街の華やぎを糧に燃え上がるから」
 それから、とリリコは続ける。
「……警備。ひょっとしたらスリとか当たり屋がいるかもしれないから、見回りをお願い。それと……」
 リリコはいつも大事にしている図鑑で口元を隠した。半眼のまま見上げてくる。
「……旅人が言ってたの『おばけがでるかも』って」

GMコメント

みどりです。春を讃えるヴァルプルギスの夜なるお祭りです。きらめく夜空を赤く照らす焔とともにお楽しみください。

このシナリオでは昨年の「ハロウィンSD2019」及び「プレで指定されたイラスト」を可能な限り参照して描写します。やりそこねたからな。該当イラストを複数所持、あるいは所持していない方で「こいつでよろ」というのがあれば書式へどうぞ。無記入の場合の外見描写はあったりなかったりテキトー。

ノーマル・ノーマル二章立てラリー。
前半は見てのとおり。後半はプレしだい。お祭り、楽しんでくださいね。ラリーはイベシナよりPCさんをぶち描写できるんじゃ! というのは私の勝手なロマンであり、5人くらい来てくれたらそれだけでうれしい。

●書式
一行目【同行タグ】または無記入
二行目【行先タグ】または考えついたタグ
三行目 衣装指定 デフォは無記入
四行目 プレ本文

●行先タグ
【盛上】または考えたタグ
多ければ多いほどおけ。
文字通りお祭りを盛り上げていいし、離れたところで一人酒するもあり。楽しんだ人の勝ち、フリーダムに行こうぜ!

【警備】
篝火の守護者
おばけを追い払いましょう。おばけは街の人に紛れているので探してみてね、物理もちゃんと当たります。戦闘が始まったら街の人は大受けして神回避するので大丈夫。

●衣装指定
 原則不要。GM側で2019ハロウィンSDイラストを参照。
 ただし複数持ってる人や、別のイラストでという方は「アルバム一覧のイラストのタイトル」を記入して指定してください。タイトルが長すぎて字数が…という人は一時的にタイトルを「勇者ああああ」とかにしとくといい。水着でもええんやで、広場はあったかいから。

●シナリオ内ガジェット

※ヴァルプルギスの篝火
お祭りの象徴。直径10mという大きな焚き火。広場の真ん中に設置されています。見惚れるもよし暖まるもよし。大切な何かを永遠にするため灰にするもよし。

※広場
街の人が篝火を囲んで歌ったり踊ったり黄金の蜂蜜酒を楽しんだりしています。おや、半透明の人がいるぞ?

※魔女の箒じみたなにか
プレへ形状を記入すると一時的に飛行を得るガジェット。形状はこのシナリオにかぎりなんでもあり。デッキブラシでもUFOでも。アダムスキー型とか浪漫ありますね。

※黄金の蜂蜜酒
おしゃけ。出どころ不明、害はないよ、たぶんね? アルコールは二十歳から。アンノウンは自己申告。

※出店
一夜で切れる魔法のかかったマジックアイテムがメイン。光ったり姿が消えたり、そういうもの。食べ物系が少ないので出店すると喜ばれるかも。

※孤児院NPC プレで呼び出せます。
露店をだしています。売り物は振ると花火のような光が溢れ出す杖。子どもたちが集めた小枝へシスターが夜なべして魔法かけて作りました。ローレットのイレギュラーズには世話になっているお礼に無料でくれます。

男ベネラー おどおど 最年長 狼男
男ユリック やんちゃ キョンシー
『無口な雄弁』リリコ ハニーグリーンのセーラーワンピ 要するにいつもの
女ミョール 負けず嫌い ヴァンパイア
男ザス おちょうしもの 耳が長い以外は特に外見変更なし
女セレーデ さびしがりや 龍
男ロロフォイ 男の娘 ひよこ色のAラインワンピ
女チナナ ふてぶてしい 人魚
院長イザベラ くいしんぼう サキュバス

プルー姉さんは忙しいので来れませんでした。「トゥルーブラックとウォームオレンジのブルーシャインシルバーをフレグランスイエローしてきてちょうだい」との伝言をもらいました。

  • <ハロウィンSD2019へ:屋上にて待つ>アルプトラオム・ヴァルプルギス完了
  • GM名赤白みどり
  • 種別ラリー
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年05月17日 16時26分
  • 章数2章
  • 総採用数32人
  • 参加費50RC

第2章

第2章 第1節

●やがて月をも隠すモノ
 それが現れたのは突然だった。
 質量を持つ影。追い払われたおばけたちの恨みだろうか。それともこの魔法の夜に顧みられない闇が凝り固まったか、はたまた蜂蜜酒のせいか。見上げてひっくりかえった街の人がそのまま腰を抜かし、ほうほうのていで逃げ出し始める。ずしん、ずしん。揺れる街角、踊る煉瓦。巨人は広場の真ん中へ近づくと、四つ這いになり祭りの象徴『ヴァルプルギスの篝火』を食らい始めた。
 焔が消えていく、どんどん消えていく。暗くなっていく。巨人はさらに大きくなるけど……。

 なんの我らイレギュラーズ。

 そう今夜はアルプトラオム・ヴァルプルギス、つまりナイトメア・ワルプルギス。
 だけど、おあいにくさま、俺、僕、私、あるいは、はたまた? とにかくイレギュラーズ! ひとりひとり常に運命が特異な座標。ふたり、さんにん、力を合わせれば、わかりやすい悪夢なんかじゃ終われない終わらせない。焔が痩せ細っても、煌々と月が輝きはじめる。英気充填フルチャージ、魔法の夜、月の加護、焔のぬくもり、一身へ浴びて一心へ灯せば、祭りの邪魔する無粋は、尻百叩きと古慈記にも載ってるって――いま決めた!

===

『ヴァルプルギスの篝火』が消えないように大きなおばけを倒そう。途中参加も歓迎します。

 あなたは今、魔法の夜の影響で普段とは違った姿であり力が使えるはずです。(判定上は活性化スキルを参照しますので、演出の範囲内です。とはいえ、わりとしっちゃかめっちゃかしてOK。ファミリアーでゴリラ呼び出して攻撃させてもいい)。
 このラリーは今回でおしまい。楽しんでくださいな。

●書式
一行目【同行タグ】または空白
二行目 衣装指定 デフォは無記入 今回途中参加の人または月光学素子力メイクアーップしたい用
三行目 プレ本文

●エネミー
大きなおばけ
 まっくろくろすけな巨人めいたおばけ。神秘も物理もちゃんとあたります。常に四つん這いですが、地面から顔までかるく20m、体長は50mはあります。動きのろい、回避しない、防御も低いといいとこなしに見えて、とにかくタフ。全力全開で殴りまくりましょう。

・腕で払う 物超遠扇 肩を中心に扇状に右または左の腕をふるい、当たったイレギュラーズを跳ね飛ばします 万能 飛 ブレイク
・足で払う 物超遠扇 足の付根を中心に扇状に右または左の足で払い、当たったイレギュラーズを略 万能 飛 麻痺 足止め
・咆哮 神特レ 自分を中心にレンジ2のイレギュラーズへダメージ
・焔喰い HP回復中 BS回復中 『ヴァルプルギスの篝火』へダメージ

●特記事項 顔の前にいるイレギュラーズを特に攻撃する傾向あり 巨体すぎるので移動はもちろん方向転換も副行動扱い すべての行動はプレ効果により邪魔ができる

●前回のシナリオ内ガジェット
飛行アイテム使えます。とつげきだー。街の人は空気読んで退避してます。今の所おそるおそる見守っています。彼らが応援してくれるような素敵な振る舞いをすれば、いい結果につながるでしょう。

心情→やりたいこと(ここがメイン)→事後、の流れをさらっと頭に入れておくと書きやすいかもしれません。


第2章 第2節

グドルフ・ボイデル(p3p000694)

 すさまじい質量。強烈な威圧感。巨大なおばけを前にして、だがものともせずグロルフは高笑いした。
「ゲハハハッ! 出やがったか、本命がよお。雑魚ばかりで退屈してたところだぜッ!」
 ヴァルプルギスの篝火が一瞬大きく燃え上がる。まるでグドルフへ寄り添うように。彼の全身から炎のようなオーラが溢れ出し、ギラギラと抜身の刃のような光りを放ち、その影を揺らす。解放された闘気がまなこに捉えられるほど、純粋な殺意。炎にあぶられながら、グドルフは前歯の欠けた顔で壮絶な笑みを見せる。
「おおおおお!」
 グドルフはおばけの正面へ回り込むと跳躍した。ありえない高さまで瞬時に飛び上がる。
「こいつを食らいな!」
 顔面めがけて斧を打ち下ろす。鼻をかち割られたおばけ。痛みのせいか悶絶し、巨大な口で落下途中のグドルフを喰らおうとする。
「させるかあ!」
 返す刀で山賊刀で薙ぎ払う。黒く染まった歯列と刃がぶつかり、ぎゃりんと火花が散った。危うげなく着地したグドルフは、今度は篝火に沿って走り始めた。怒りにかられて追いかけてくるおばけに背中越しに怒鳴りつける。
「てめえをブチのめして、酒飲んでさっさと寝るんだよッ!」
 おばけの頭が冷えてきた頃を見計らい、またも炎のオーラに包まれ跳躍。おばけは手を振り回した。まともにくらい、吹き飛ばされたグドルフは受け身を取り両足でブレーキをかけた。戦いの興奮で目がギラギラしている。
「こうでなくちゃ歯ごたえがねえ」

成否

成功


第2章 第3節

ヨタカ・アストラルノヴァ(p3p000155)
楔断ちし者
武器商人(p3p001107)
闇之雲

 みんなが遊びに来たと言うのに、そこへ水を差す巨大な何か。ヨタカは色の違う瞳に決意をこめておばけを見上げる。
「……リリコ達が遊びに来てくれたのに…危険に晒す訳にはいかない…。…紫月…俺の月…共に行こうか。…俺の大事なヒトを…人達を攻撃するヤツを俺が…退ける…。」
「あァ、伴を頼むよ我が眷属。随分と困ったコが迷い込んだものだね。一夜の泡沫たる店とて壊されちゃあかなわんし、孤児院のコらもいるしね」
 武器商人は優しい瞳でヨタカを見つめた。
「案ずる事は無い、おまえの痛みは我(アタシ)が引き受けよう、おまえは我(アタシ)を害する敵を屠る事に集中すればそれでいい」
「…わかった…。…無茶はしてもいいけど、無理はしないでくれよ紫月…」
 ヨタカは夜明けのヴィオラをかまえた。ビロードのような調べが聞こえ始めると、ヨタカの周りへ星の煌めきが集まっていく。それは弦の上で踊り、弓を動かすたびに細かく砕けていく。
「…さあ…プレストでいくぞ…。」
 ヨタカはヴィオラを激しくかき鳴らした。楽器の唄声が弾け、集まっていた煌めきが調べに乗って、四重奏の楽譜へ変じておばけめがけて突き刺さる。ざくり、ざくり、まるで手裏剣のように楽譜はおばけの下半身を貫いていく。
 ――グオオオ!
 小賢しいと言わんばかりにおばけは脚を滑らせ、ヨタカたちを攻撃しようとした、けれども。二頭の獣が体当たりでそれを弾き返した。ルーンシールドで呼び出した黄金の狼、マギ・ペンタグラムのはずの白銀の狐、大きさは虎ほどもあろうか。防御を終えた二頭は主、武器商人の元へ帰り、低く唸って警戒を続ける。
「よくできたねキミたち。その調子で頼むよ」
 狐と狼の頭を撫で、武器商人は薄く笑った。再び攻撃が来る。
「さァ、お行き。主たる我(アタシ)が許す、存分に暴れておいで」
 二頭は応えて吠えると、迫りくる巨大な脛へ向けて駆け出した。恐れ知らずの勢いでダッシュし、その巨体を活かして頭突き、そして体当たり。さしものおばけもその強い衝撃に邪魔され思うように攻撃ができない。鋭い牙が黒い肉体を噛み砕けば、炭でも齧ったかのように真っ黒い蒸気が吹き出す。
「そうそう、いい調子だ。そのまま押さえつけておくれ」
 じたばたと暴れる脚へ、狼と狐は何度も体当たりをくりかえし、大切な主人たちへ攻撃が届かないよう押し返していく。その様子はまるで躾のなってない行儀の悪い子へ体罰でも加えているかのようだった。
 ヨタカは一層演奏に熱を入れた。曲調が変わる。輝きはさらに増し、宙を舞う楽譜は音符一つ一つが発光している。武器商人とそろいのこがねにしろがね、貴金属の美を乗せた楽譜がさらに量を増し、ヨタカと武器商人を包み込む。
「…コン・ブリオ・アレグロ…。…祭りの邪魔をするおばけは退散しろ…。」
「勇ましいね小鳥。ヒヒ、そんなおまえもかわいいよ」
 集まっていた楽譜が一気におばけへ放たれる。同時に二頭の獣も襲いかかっていく。

成否

成功


第2章 第4節

ポテト=アークライト(p3p000294)
優心の恩寵
リゲル=アークライト(p3p000442)
白獅子剛剣

「……とても大きなお化けね。皆様にとっては恐ろしい存在かしら」
 そう口にしつつも魔王の妃の表情は揺るぎない。その美しい瞳に宿っているのは若き魔王。街の人々を相手に魔王は声をはりあげた。
「私は断罪の魔王なり! だが怯えることはない 私はこの異形なる者が気に入らない、闇の覇者は私一人で十分! 故に滅ぼし、世界を元に戻そうではないか!」
 妃は腕を広げ、人々を妖しくも柔らかな微笑みで魅了する。
「大丈夫。わたくしの愛しいお方が倒してくださるから。夜を統べるのは魔王と決まっているのですもの」
 妃はうっとりと微笑を深め、近づいてきた魔王へ慎ましやかに礼をし恭順を示した。
「愛いやつめ。あの異形を倒すぞ。ついてきてくれるな? 我が妃よ」
「えぇ、勿論よ。わたくしの愛しい魔王様。貴方の背中はわたくしがお守りします」
「そなたがいるからこそ私は戦える」
「魔王様……」
 妃のおとがいを持ち上げた魔王は甘やかな唇を奪った。触れ合う感触に溺れるのは楽し、けれど今はまず。
「あの邪魔な異形を蹴散らさなくてはな」
「ええ……」
 残念そうに妃は魔王から離れる。そんな彼女を魔王は強く抱きしめ、もう一度。今度は出陣の決意を秘めてのキス。
「では行ってくる! 妃よ、巻き込まれぬ位置にいるのだぞ!」
「御武運を魔王様……! あぁ、でも……皆様応援して下さる? そうすれば、『ヴァルプルギスの篝火』が小さくなるよりも早く倒せそうです。どうか、お願い申し上げます」
 存在が宝石のような妃に請われて奮い立たない人々はいない。人々は魔王を応援し始めた。篝火の灯りが強くなる。
「共闘だ山賊!」
「ケッ、要らねえよ助太刀なんざ!」
 互いに悪態をつきながらも目は笑っている。魔王は左手を顔の前へ。その掌へ闇が生まれ、禍々しい柄が産まれる。魔王はずるずると手から魔剣を引き抜いた。大地から魔力が湧き上がり、ボロボロだった魔王のマントを豪奢であった在りし日の姿へ変える。魔王が剣を大上段に構えた。
「黒き星よ、降り注げ!」
 一気に振り下ろす。その動作と力ある命令によって召喚された煮えたぎる紅の隕石が、次々とおばけへ命中する。苦しみ、もがくおばけ。その間に地を駆け、おばけの眼前へ接近する魔王。
「覇を競うにはあまりに脆い。所詮気まぐれな闇の集合体か」
 ぐんと飛び上がり、魔剣でおばけの頬をざっくりと。その刃が二重にも三重にもぶれて見えるのは闇の波動をまとっているからだ。実際に一振りで二度、三度と切りつけられたおばけは煙を噴出させながら咆哮を放った。大音響がこだまする。
 苦しげに顔を歪める魔王。だがそこへ堕天使の羽がさらさらと舞い落ち、傷を癒やしていく。振り返れば祈るように手を組み歌う妃の姿があった。片翼だけの黒い翼からは魔力が渦巻き、歌声の上昇気流へ乗って羽と共に魔王へ降り注いでいるのだ。
「それでこそ我が妃よ」
 妃の加護に守られ、魔王は再び走り出した。

成否

成功


第2章 第5節

メルトアイ・ザ・ベルベットムーン(p3p000674)
悦楽種

「折角のお祭りに水を差すなんて、無粋なお・か・た」
 メルトアイは陶然と笑った。新しい玩具を手に入れたみたいに。触手が歓喜にわなないている。好奇心と欲望のままに動く『悦楽種(エピキュリアン)』の本領発揮だ。
「……ふむ、お祭りに一つ足りないものがあったのを思い出しましたわ。折角の機会です。盛大に打ち上げて参りましょうか。あれをひねるなんて赤子の手のようにたやすいこと。ですから、ここは、た・の・し・く、参りましょう♪」
 屋台からメルトアイは飛び出した。6本の触手、それぞれの先にぽうと光が収束していく。
「行きます、マジックフラワー大花火大会! 街の皆様、ごゆっくりご覧あそばせ♪」
 触手の一本から光弾が発射された。それはおばけに着弾すると、メルトアイが言ったとおり花火のように爆ぜた。赤い火花が飛び散り、おばけの側面を華やかに彩る。おお、と街の人々の声があがった。ヴァルプルギスの篝火は人々の活気を受け、あかあかと輝いている。
「まだまだいきますよ、お化け様にもお祭りの楽しさをお裾分け致しましょう」
 次は青、そのまたお次は緑、朝顔のように、UFOのように、突き刺さっては弾ける魔法の花火。両の手と更に触手からメルトアイはマジックフラワーを生み出していく。次々と飛来する痛みにのけぞる巨大なおばけ。
「さあ、締めと参りましょうか。お化け様も極楽のほうが心地よいでしょう♪」
 一際大きな花火が横腹で炸裂した。

成否

成功


第2章 第6節

零・K・メルヴィル(p3p000277)
つばさ
アニー・K・メルヴィル(p3p002602)
零のお嫁さん

(こぇぇぇぇぇぇぇ!!! 何あれ、お化け!? デカくない???)
 突然の闖入者に、白馬のオフィリアの上でパニクりかけた零の背中を柔らかなぬくもりがぎゅっと包んだ。耳元でかわいい悲鳴。
「わぁぁぁん零くん! なにか黒いおっきいのが出てきた~!」
 その声にはっと意識を取り戻す零。おばけが篝火を食っている。
「大変、篝火が小さくなっていく……これじゃお祭りが……。せっかくのデートも台無しに……」
「そんなことさせねぇっ! 祭りも、あー、うー、デートもっ! まだ終わらせない!」
(俺の大事なお姫様に、指一本ふれさせるかってんだ……ッ!)
「ちょい乱暴にオフィリアを走らせるからな! 俺に捕まってろよ!」
「う、うん! 零くんの言葉、信じてるよ……私も離れないからね……!」
 背中のぬくもりがさらに密着する。
(……というかアニーくっついてるとなんか嬉しすぎてにやけそうだ……でも今は我慢しろ、俺……!)
 ドギマギする心は押し隠して冷静に、冷静に……無理! だけどアニーだけはしっかり守る! 糸目をかっと開き、零は胸に秘めた覚悟を新たにすると、深呼吸してイメージを広げた。
 アニーの鼻が香ばしい匂いを感じた。かぎなれた匂い、フランスパンの、零くんの匂い。アニーはほっとして目を閉じた。だから周りいっぱいに大量のフランスパンが浮かんでいるなんてことも気づかなかった。
「動きが鈍いってならこれでどうだ……! くらえ! 《Bread bullet》!」
 零は利き手で鋭くおばけを指差した。王子の命令を受けたパンの弾丸飛雨がおばけをぶちのめす。直撃をくらったおばけは大きく体をくねらせる。
「よしっ、手応えありだな、修行の成果か?」
 子どもみたいに瞳を輝かせる零。横顔は凛としていて、あどけなさと精悍さが同居している。
(零くん、かっこいい……)
 ついつい肩口から零を見つめてしまうアニー。あれ、この距離って、すごく……近いよね? ふわっ、どうしよう、意識したら急に恥ずかしくなってきちゃった! 抱きつく力が弱まる。その時だった、おばけのキックがふたりを襲ったのは。
「きゃあああ!」
「アニー!」
 吹き飛ばされかけたアニーを、零は寸出のところで捕まえた。零もオフィリアからずり落ち、片手で手綱を、片手でアニーを掴んでいる。
「零くん、このままじゃ零くんまで落ちちゃう、離して……」
「バカ言うな……絶対離さねぇからな、アニー……!」
 けれどその時、零の体を麻痺が蝕んだ。まっさかさまに落ちていく二人。
「零くん!」
「アニー!」
 せめて相手だけは助けたい、ただそれだけを願いお互いに強く抱きしめ合う。
(神様、零くんだけは守って、お願い!)
 落下の衝撃に備え、アニーがメガ・ヒールを唱えようとしたその時、ぼすっ、何か柔らかいものの上にふたりは落ちた。
「オフィリア!」
 助かったと二人は胸をなでおろし、互いの体温に真っ赤になって顔をそらした。

成否

成功


第2章 第7節

生方・創(p3p000068)
アートなフォックス
ウェール=ナイトボート(p3p000561)
永炎勇狼
アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)
灰雪に舞う翼
ラデリ・マグノリア(p3p001706)
再び描き出す物語
レーゲン・グリュック・フルフトバー(p3p001744)
希うアザラシ
グレイル・テンペスタ(p3p001964)
青混じる氷狼
ブーケ ガルニ(p3p002361)
兎身創痍
天狼 カナタ(p3p007224)
夜砂の彼方に

 道節が踊っていた。手足を自由に翻し、柔らかな動きで楽しげに。音色にあわせ、篝火のゆらぎと一体化するように。その影は長く長く伸び、ぴょこん、ぴょこりん、道節が動くたびかわいらしいステップを踏む。子供たちは歓声をあげて周りで真似をし、大人たちが微笑ましくそれを見守る。そんな人の輪ができていたのに……。
「巨人のせいで興が削がれてしもた。あいつが篝火を独り占めしてる限り、踊るんはやーめた!」
 道節は頬をぷっと膨らませた。せっかくの見物人も逃げてしまったじゃないか、つまらない。そうだね、と一緒に踊っていた大角も重々しくうなずく。建物の影で息を潜めている子どもたちとその親に聞こえるよう、大角が元気な声を出した。
「大きいのが来たねー……あれにかがり火を食べつくされないうちにやっつけちゃおう! 魔法の夜なら魔法の姿で対抗だ!」
 はだけた襟からのぞく牡丹の痣が、篝火の炎を宿したようにあかあかと輝く。襟を引き締め、帽子をきゅっとかぶりなおし、大角はさあ行けとばかりに兵法書をいくつも投げ上げた。空で広がった兵法書がふわりと浮き上がり、大角を守るようにゆらゆらと周りをめぐる。
 現八もギフトで「信」の玉をお守り代わりに浮かび上がらせた。玉はまるで小鳥のように現八の肩へ止まった。そのまま現八は真っ黒なおばけを見やる。仲間たちが戦っているが、まだまだおばけは引きそうにない。
「それにしてもあいつは随分とでっかい輩だなぁ。倒すのにも骨が折れそうってもんだね、皆の衆? しかし我ら八犬士、何が相手でも退かない媚びない顧みない……なーんちゃって」
 どこまで本気? じつは九分九厘。茶化してみせて余裕もたっぷり、現八はひゅんと釣り竿をしならせ、舌なめずりをした。今日の釣果は、あれと決めている。
 荘介はというとおばけの存在に呆れてため息をついていた。ゆるい三編みを払い除け、ついでに前髪もさらりと払い視界を確かにする。
「……大きくなって帰ってきたな。さっきの仕返しのつもりか、全く……。俺がモデルにした犬川荘介は武士という人種らしいが、俺は治癒士だ、荒事は苦手なんだが」
「…ふふ…そうは言っても…やる気が溢れて見えるよ荘介さん…。…どうやら…ここからが…本番みたいだね…。…かなり膨れ上がっているけれど…的が大きくなった分…攻撃も当てやすくなったね…。…お祭りにふさわしく…悪いお化けには…派手に…散ってもらおうか…」
 毛野は覚悟を決めるとまぶたをわずかに落とし、広げた巻物を読み上げ始めた。ちらちらと細かな煌めきが毛野を取り巻いたと思ったら、それはやがて氷の欠片となって毛野の周りをめぐりはじめた。戦いの予兆が八犬士たちの合間で満ち満ちていく。
 親兵衛は森アザラシを抱きしめた。ふるりと震えるも振り払うように首を振る。「仁」の玉がふしぎと暖かくて、勇気をくれている気がする。
「……きゅう。あの大きさは怖いけど、新兵衛ならビビらないはず。それに来年もこの街で蜂蜜酒が飲みたいっきゅ! 八犬士みんなで戦えば怖いものなしっきゅ!」
「おう、そうだとも! 狩りってのは群れで行うもんだ!」
 信乃が、呵々大笑して親兵衛へ答えた。首から下げた「考」の玉もまた、信乃の笑いへ応じるように輝やきを放っている。
「俺たちだけと言わず、街の人へも、一役担ってもらおうとも。ハレの日ってのは誰もが平等になる日なんでな!」
 抜き放った村正を天へ掲げる姿は、群れ長の貫禄十二分。その華やかなる出で立ち、朗々とした耳に心地よい声、誰もが信乃へ目を奪われてしまう。
「でよう、コブンゴ。アンタならどうする?」
「そうだな。ヴァルプルギスの火は死者と無秩序な魂を追い払う為だから、火の勢いが戻れば巨人が弱体化するか?」
「それなら善は急げだ。そっちは任せたぞ」
「やれやれ人使いの荒い。だが任された。最高の成果をだしてみせようとも」
「悌」の玉を懐へしまい、小文吾はその上から軽く拳で胸をたたいた。己へ覇気を篭めるように。静かに闘志をみなぎらせ、小文吾はさっそく行動を開始した。

 詰め寄ってくるおばけ。最初に動いたのはやはり大角だった。兵法書は既に展開してある。大角は兵法書を引き連れて空への階段を数歩。宙空で意識を統一する。
「破壊のルーン! 雹を示すものハガル! 遠き国の暗き技法も我が智にて既に明らかなり、迷妄の暗闇よ去れ、我明るし、打草驚蛇の時は過ぎれり、いざや合戦、囲魏救趙の理!」
 大角は破壊を示すルーンを夜空へ大きく描いた。「H」、それだけのシンプルな、しかしながら魔力の凝集された一文字が、力強い筆致で白銀の墨痕鮮やかに書ききられる。「H」の一文字は空中で細かく分裂し、広がっていた兵法書に張り付いていく。兵法書の光が強まり、雹を編まれて作られた鎖が兵法書から飛び出しおばけへ巻き付く。だが巨大なおばけはそれだけでは勢いを殺しきれず、なおもこちらへずるずると迫ってくる。
「やるねえ! さっすが図体でかいだけある、じゃあこっちはどうかな?」
 今度は宙へ艶やかな書体の「神気閃光」の四文字。文字は、はらはらと下から崩れていき、花びらのように兵法書へ吸い込まれていく。
「神は天にいまし? なんの地にいまし。山にいまし、河にいまし、田にいまし。ヴァルプルギスの篝火にもおわす。師曰く、四つ辻に立ちて流れ行く百代の過客と八百万を拝む。我も師に習いて神と合一せんとす!」
 自分の周りへ展開していた巻物の一部がお化けへ向けてたなびき、美しく輝く鎖の網がさらに射出される。思うように動けず、暴れだすおばけ。
 ――ギン!
 おばけの指一本が切り落とされる。叩き込まれたのは魔も哭き喚く刀だ。
「なんもかんもおまえのせいや、あ~あ。憂さ晴らしにどついたろ!」
 傷口から噴煙を巻き上げながら、おばけは痛みのあまり咆哮をあげた。圧縮された音波が、空気が、壁となって八犬士へ襲いかかる。直撃を食らいかけた道節は素早く跳ねて後ろへ飛び下がり、ダメージを殺した。
「痛いやん、なにすんねん」
 道節は、こんなこともあろうかと! と、懐からずるり、徳利をひきずりだす。
「……戦闘中に飲酒はいかがなものか」
 苦言を呈する荘介に、道節はけらけら笑って返した。
「かまへんかまへん、せっかくのお祭りやのに、殺伐とした戦いなんて無粋やん、楽しく行こ!」
 煽った火酒が喉を焼く。まるで炎でも吐けそうだ。そう思ったから、「忠」の玉を握り込んだ手に再び刀を宿らせる。刀へ炎を吹き付ければ、轟々と炎上する魔術の刀身。
「祭りやさかいなあ。めいっぱい遊んだるで、仲間も街の人らもおばけサンも、俺のステップ、よぉ見といてな!」
 ズン、と叩きつけられた掌を紙一重でかわし、道節は腕を駆け上がり、おばけの肩へ登り軽く飛び上がって回転しながら切りつけた。もうもうと黒煙が上がる。
 そのまま落っこちてきた道節を荘介が受け止めた。
「我が独り子の草枕、旅にし行けば、竹玉を繁に貫き垂れ斎瓮に、木綿取り垂でて斎ひつつ、我が思ふ我が子、ま幸くありこそ」
 荘介が旧き歌を詠めば、足元から白き光が螺旋状に巻き起こり、頭上で頂点を結んで道節へ流れ込んでいく。
「おおきに」
「……よし、生きてるな、偉いぞ。礼はいい。俺は俺の役割に専念させてもらっているだけだからな」
「荘介、こっちもおねがーい!」
「こっちも頼むっきゅー!」
「……ああ、わかっている。まとめていくぞ!」
 現八と親兵衛の声に答え、荘介は利き手を鋭く奮った。しゃらん。ないはずの鈴の音が響いた。その神聖なる音色。八色の錦が荘介の背後を彩り、光りゆきてやがてすべて白へ溶けゆく。荘介はその白布をかき集め、空へ放り上げた。花火みたいに打ち上げられた光の玉が、おばけよりもはるか上で花開き、黄金の火花が地上へおりてくる。それはふしぎと熱くはなく、触れたところから痛みが引いていく。
 おばけも回復しようと篝火へ向かい体を捻じ曲げた。その最初の一歩になるはずだった腕に、何かが絡みついた。
「おっと、それを喰らわれたら困るんだよなー。祭りの邪魔をするやつは尻百叩き、僕の釣り竿でやってやろうか?」
 源八の釣り糸だった。手首に絡みついたそれを噛み切ろうと腕を上げるおばけ。
「そんなこと考えないほうがいいよ。根比べと行こうか?」
 ぐいん、強い力が現八をひっぱる。ぐいいと敷石に爪を立てて踏ん張る現八。そのままずるずるっと引きずられ、体勢不利と判断した現八は、いったん釣り糸を手元へ戻した。そして仕掛けへ重りを追加すると、自分の頭上で一回転。いい感じの手応えが返ってくる。
「心気一点、八卦無双! とかなんとか言ってみる!」
 釣り針が飛ぶ、重りを乗せて。今度こそ現八の釣り糸がおばけの左腕を封じ込めていた。糸はひどく頑丈で、万力のようにがっちりと腕を捕らえている。
「腕が取られちゃ、移動も方向転換も覚束ないでしょ! みんなー、今のうちだよー!」
「かしこまりー、どかーんと行くっきゅー! 召・喚・海入道海豹!」
 親兵衛の足元からおばけとためをはる大きさのアザラシが呼び出された。姫のごとく天女の羽衣をまとったそれは親兵衛を乗せたまま宙を飛んで後ろへ回り込み、言葉通りおばけへどかんと突撃。ヒレでその脚をがっしり抱きしめ動きを封じ込めた。
「これでキックはできないっきゅ! 小文吾さん褒めて褒めて!」
「ああ、よくやったぞ親兵衛!」
 馬車へ街の人から受け取った可燃物を詰め込みながら小文吾は声援を送った。気分が大きくなったのか、親兵衛は星空へ飛び出し、単身おばけの横へつける。狙うは喉、何度もくりかえす咆哮を邪魔するのだ。親兵衛が攻撃し、おばけの注意をそらしている間も、馬車の荷台はいっぱいになっていく。
 陣頭指揮をしているのは信乃だ。
「群れろ、恐れるな、我らには祭りがある。祭りには力がある! さあ集え、今宵は魔法の夜、老若男女も関係なし、我らがハレの日を取り戻そうぞ!」
 強く心を動かされた街の人が拳を真上へ突き上げる。人々の不安は信乃と小文吾の声にかき消えていた。
「よし、準備完了!」
 小文吾は猛禽の翼を広げ、ぱんぱんになった馬車を怪力で持ち上げる。勢いをつけて篝火へ突入、その瞬間、篝火は今夜最大に燃え盛った。
「…さて…祭りもそろそろ終わりだね…最後はド派手に行こうか…。 …八犬士の皆…準備はいいかな…? …お化けを囲んで総攻撃だ…」
 毛野がふうわりと微笑んだ。しかしその目は笑っていない。八犬士が位置に付き、一気呵成に猛攻を加える。
「柄で殴るだけだと思ったか? 手加減抜きだ!」
 信乃が突進し、五月雨にも似た連撃から外道とも呼ばれる太刀筋へ。反撃してきたおばけへ見事にやりかえし、村正の圧倒的な威力で押し返す。
 篝火から火の玉が飛び出してきた。小文吾だ。
「うおおおおおっ!」
 小文吾はおばけの顔面へ体当たりした。舞い踊る火の粉が曼珠沙華の花びらに見える。翼をはためかせ、何度も浄化の炎を叩き込む。
 毛野もまた魔狼の幻影をまとう傘を開き、舞うようにくるりとまわして数多の氷塊を作り上げた。そして、音もなく仕込み刀を抜き放つ。
 おばけが暴れている。無念の声をあげている。わがままを言うだだっこのように。毛野はさみしげな視線でおばけを見つめた。
「…帰ろうね…この世に居場所は…ないんだよ…?」
 次の瞬間、大きく体を捻り毛野は斬撃と氷塊を同時に撃ち出した。すさまじい勢いで着弾する氷塊そして、斬撃は、お化けの首を刈り取った。
 その途端、巨大な真っ黒おばけは、まっしろまーるい無数の小さなおばけに変わって弾けた。目を丸くする八犬士。広場や屋台の影のあちこちに、固まって小さく震えている無害なおばけ。
「…そう…もうすこし祭りを…楽しみたいのかな…」
 毛野は小さく笑って仕込み刀を収めた。

成否

成功


第2章 第8節

●真っ白に変わったおばけと踊ろう
 まんまるかわいい白いのいっぱい。正解のない世界でよかった。なにもかも曖昧、夜のあわい。暗闇は心地いい、住み心地がいいよね。一仕事終えてなにもかも静か。もう一度焔を、この胸へ燈そうよ。魔法の残滓キラキラ。もう一度言おうか「こんばんは、会いたかったよ」。

 さて帰るかとも告げずに山賊は去っていく。仕事は終わった、もう用はない。ユリックがその背へ向かってバイバイ。

 旧き夜とかわいい小鳥はお店を再開。列をなすまっしろおばけ相手に、イースターのとっておきをフォーユー。おばけからお金は取れないね、なんて旧き夜は苦笑気味。…でもまあ、がんばる…! 横顔に見とれていた小鳥は、はっと我に返り気合を入れた。

 魔王の夫婦は激戦を終え、街の人々へ感謝の言葉。無事に『ヴァルプルギスの篝火』は守られました。街の方の応援あってのことです。そしてわたくしの愛しい魔王様、ご無事で何よりです。魔王の頬へ贈るキスは愛情と一欠の安堵の証。

 先程のお約束を果たす時、ですかしら。メルトアイは意味深な笑みを浮かべて客を見回す。いずれにしましても、夜はまだまだこれから…ですわ♪ 触手がうねうね、小さな舌で唇ペロリ。

 王子と姫はデートの続き。白馬のオフィリアもはりきって星空へ高く高く。ねえ、零くん、篝火が小さく見えるよ。本当だ、あんなに大きく見えたのにな。(今度は落とさない、何があっても)、王子はそう誓い、胸の中のお姫様を抱きしめる。

 八犬士たちは思い思いに。篝火の前へ集い、その勇姿を眺め、蜂蜜酒をごくり。喉を焼くほど甘ったるくて強い酒。気分はふわふわ、いつのまにか街の人も巻き込んで飲めや歌えの大宴会。
 ……しかし、八犬士だったか。犬とは聞いたが、彼等は本当に犬人だったんだろうか。
 …いいんじゃないかな…そこまで気にしなくても…。
 そうそう、今ここに居る僕たちこそ八犬士。
 街の人にも建物にも、なぁんにも被害が出なくてオイラはうれしいよ。
 丸く収まって天晴、めでたいっきゅ。ね、小文吾さん!
 ああそうだな、篝火へ礼を、と一人が酒と菓子を投げ込めば、周りの八犬士もそれに倣う。うれしげにごうごうと燃えて答える篝火。灯りと熱、吹き上がる清浄な気流、心地よい空間。再び踊りだした彼に釣られて、他の者たちも、踊りだす。中には千鳥足もいるから、踊っているのかどうなのか。
 魔法の夜に感謝だなと、群長は笑う。

 だけど、本当はね、朝だって嫌いじゃないんだ。新しい一日は、祭りの洗礼を受けた瞳には、刺激と冒険がつまって見える。月があくびをしたらヴァルプルギスはおしまい。篝火は天へ昇り祝福の花火へ変わるだろう。お日様が始まりのベル代わりに投げ込む金色の光にだって、負けない虹を青空へかけて。

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