PandoraPartyProject

シナリオ詳細

私が死に終わるまで待って

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●幽霊も旅がしたい
 流れる川に素足をつけて、石に腰掛けて涼む女性の姿。
 セミロングの黒髪が、木々を抜けるそよかぜに揺れてはふわふわと逆光に溶けるようだった。
 白いワンピースの裾をあげて、ちゃぷちゃぷと水面を蹴っている。
 彼女が今回の依頼人、スピネリア。28歳のカフェ経営者。
 いや、より正確に述べるなら……享年28歳の元カフェ経営者、である。
「さ、そろそろ出発しよっか。これから数日、よろしくね」
 彼女の姿は、どこかうっすらと透けていた。
 依頼内容は荷物の運送。
 荷箱の中身は、彼女の遺体。

 幻想王国で命を落としたスピネリア。彼女の遺体は幻想王国で一度葬儀にかけられたが、彼女『本人』の意思によりラサの故郷へと返すことが決まった。
「私の故郷はね、砂漠の真ん中にあるの。昔はちぃーさなオアシスだった場所なんだけど、もう枯れ果てちゃって無人の家と枯れた池跡しか残ってないのよ。あそこで生きていくことはもうできないからって仕方なく王国に流れてきたけど……けど思ったの。『こう』なった今なら、あそこでもう一度暮らせるじゃない? あたしラッキー! って」
 花が咲いたように、スピネリアは笑った。
 彼女のいう故郷に土地としての名はなく、彼女の案内なしで現地へたどり着くことはできない。
 逆に言えば、望まぬ客が訪れて家を荒らす心配もないというわけだ。
「それで折角だから、私の遺体もそこに埋めようって思ったの。
 なんだか素敵じゃない? 故郷にいつまでもいられるのって。
 あそこから見える遠い蜃気楼が、いまでも恋しいんだぁ」

 さて、こうした理由から『本人』に頼まれ『本人の遺体』を運ぶことになったイレギュラーズ。
 これにあたって直近、二つの問題があるようだった。
「幻想からその土地へ行くには、まず最初にヴェルミの森を抜けなくちゃいけないのよ。
 ここは悪霊が沢山住み着いている森だから、人間の遺体なんてあったらすぐに取り憑かれて食屍鬼(グール)化しかねないわ。
 そうならないように依頼人…………じゃなくて、ええと、依頼人の遺体を防衛しながら進んでもらうことになるわね」
 『色彩の魔女』プルー・ビビットカラー(p3n000004)はそう、ややこしそうな顔をして説明した。
 森を抜けたあとは一泊二日の旅路である。
 馬車に荷箱……もとい棺を載せて、イレギュラーズと依頼人の幽霊による九人旅となる。
 この道中に特別な危険はないが、黙って馬車を転がし続けるのも退屈してしまうだろう。
 気持ちを和らげるための工夫や、楽しむ工夫や、キャンプをたてる際に美味しいご飯を作る工夫などをしていくとよいだろう。
「旅は道連れっていうけれど、とんだ道連れもあったものね。けれど、こんなにいい最後もないわ。みんな、よとしくたのむわね」

GMコメント

■ヴェルミの森
 悪霊たちのすまう森
 遺体を防衛しながら、襲いかかる悪霊たちを追い払いましょう。
 悪霊たちは主に『マジックロープ』に近いスキルを用いて戦闘を仕掛けてきます。

※皆さんが充分にリソースを発揮すれば大丈夫ですが、万一遺体が霊的に傷つけられた場合、旅の途中でグール化してしまうでしょう。これは依頼の失敗扱いとなりますので、そもそもそうならないように戦ってください。
 
■旅
 砂漠を旅します
 日中退屈しないための工夫や、キャンプ中に美味しいご飯を食べる工夫など、依頼人であり同行人(霊)であるスピネリアと楽しく過ごしましょう。

■■■アドリブ度■■■
 ロールプレイをよりお楽しみいただくため、リプレイにはキャラクターのアドリブ描写を用いることがございます。
 プレイングやステータスシートに『アドリブ歓迎』『アドリブなし』といった形でお書きくだされば、度合いに応じて対応いたします。ぜひぜひご利用ください。

  • 私が死に終わるまで待って完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年04月17日 22時20分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧 (8人)

ラダ・ジグリ(p3p000271)
剣砕きの
イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)
業壊掌
炎堂 焔(p3p004727)
全ての黒幕焔ちゃん!
スノウ・ドロップ(p3p006277)
嗤うしかばね
ソア(p3p007025)
虎風迅雷
物部・ねねこ(p3p007217)
ネクロフィリア
長月・イナリ(p3p008096)
狐です
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
黒狼領主

リプレイ

●旅立ち
 荷が落ちないように整えた馬車に棺を載せて、縄で固定していく。
 本来なら悲しむべき場面のはずだけれど、その風景に悲壮感はなく、むしろ旅行に出かけるワクワクとした感情ばかりがあった。
 それもそのはず。棺にはその『当人』が腰掛け、旅立ちへの期待に胸が一杯だという顔をしていたからだ。
「楽しみね。死んでからの旅行なんて、生まれて初めてよ。人生がもう一回始まったみたいね」
 ニッコリと笑う依頼人スピネリア。
 死して尚ハッキリとした霊体として残り、ローレットへ遺体の運搬を依頼した人物である。
 あらかじめ断っておくと、彼女の死はきわめて希な例である。死して尚こうしてはっきりと……誤解を恐れずに言えば『いきいきと』している例はほとんど類をみない。
 ここ混沌の世においてもやはり死は終わりであり、死は別れである。でなければ、この世は生者より圧倒的に多い過去歴代の死者たちの霊でぎゅうぎゅう詰めになっていることだろう。暗殺家業もあがったりである。
 ゆえに、依頼を受けたイレギュラーズたちの反応もだいぶ希少なものだった。
「こうも穏やかに死者と話せるとは思わなかった。
 こんな依頼、後にも先にも今回だけかもしれないな」
 馬車に乗り込み、布に巻いたライフルを肩に立てかける『剣砕きの』ラダ・ジグリ(p3p000271)。
「そうなの? けどたしかに言われてみれば、こんな経験そうないわね」
 『新米の稲荷様』長月・イナリ(p3p008096)も同じ馬車に乗り込み、棺を積んだ馬車を振り返る。
「故郷が恋しいっていう気持ちはボクもよくわかるから、ちゃんと送り届けてあげないとね」
 にっこりと笑いかける『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)。
 遺体の運搬という仕事はそう珍しくないし、幽霊が依頼人というケースも決してないわけじゃない。
 だが幽霊本人から自分の依頼を運ぶよう依頼されたのは、確かに初めてかもしれなかった。
 笑顔をうけて、『特異運命座標』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)は真剣な顔で頷いた。
「遺体を本人の希望の場所へ届ける……。
 そうだな、死してなお戻りたいと思える場所は俺も少なからずある。
 依頼人の希望を叶える為に、全力を出させて貰おう」
 誰かのために。
 それがたとえ死者であったとしても。

「死んだ後でもポジティブなのはゼシュテル的にポイント高いね! 故郷にブジ着いたらカンパイしよう!」
 そう言いながら馬車の御者席に座る『業壊掌』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)。
 馬の手綱をしっかりと握ると、かわった乗客達にウィンクした。
「ゾンビがゴーストの護衛ですって。ワクワクしますね」
 こちらは歩く死体こと『ウケる』スノウ・ドロップ(p3p006277)。スピネリアとはまた別の意味で、死後の人生を楽しんでいる人間である。といっても、混沌世界にとって彼女は死体と定義されていないらしく、生きた人形やアンドロイドのたぐいと同じく生命として活動していた。
 一方で、そんな彼女でもドキドキするという『ネクロフィリア』物部・ねねこ(p3p007217)。
「死体護衛! 良い依頼ですね! 折角です♪ 道中でしっかりお洒落させて埋葬してあげるのです♪」
 スピネリアの遺体は死後専門業者のもと防腐処理が施されていたが、長く砂漠を旅するにあたって定期的な冷却や防腐の魔法をかけ続ける必要もあるだろう。
 ねねこの同行は、両者にとってウィンウィンなのだ。
 馬車が動き出す。
 かたかたと揺れる車輪の振動をうけて、『雷虎』ソア(p3p007025)は進む先をぼうっと眺めた。
「スピネリアさんの人生は28年……それが短かったのか長かったのか、ボクには分からないんだ」
 混沌世界の住人は、その寿命におおきなばらつきをもつ。
 ソアは特段長いほうだったが……。
「ボクなんてもっとずっと長い時間を過ごしたけれど、多分このお姉さんの方がたくさん生きたんだろうとも思うんだ。
 故郷のことを話すのを聞いて素直にそう感じたよ……素敵だなあ、って」
 生命の形は一定であると、あるSF作家は述べた。
 人類の寿命が何倍になろうとも生や死が極端に軽くなったりはしないと。仮に軽く感じたのであれば、それは己の価値が軽くなったに過ぎないと。
 事実、地球世界の令和日本では平均寿命が81歳ちょっととされるが、明治大正においてはこの半分ほどとされている。だからといって人口が半分になったり娯楽が消滅したりはせず、どころか人口は倍以上になり娯楽は多様なままだ。
 生きた長さではなく、きっと密度なのだろう……と。
 ソアはそんな風に思いながら、旅を始めるのだった。
 幽霊と死体と、砂漠の旅を。

●ヴェルミの森を抜けて
「森が鳴いてる……」
 馬車の上。ソアは耳をぴくりと動かして木々を見上げた。
 ここはルートの途中にあるいわゆる難関。ヴェルミの森である。
 ソアは木々や動物や風たちの声を聞き、言語化できない微妙なニュアンスを読み取っていた。
「やっぱりここにいるっていう悪霊たちのせいかな。なんだか怖がってるみたい」
「声や臭いはしないが……いや、これは……」
 ラダはそんな話を聞いて警戒をつよめたところ、遠くに浮かび上がる半透明な人影を発見した。
 攻撃のために実体化したのか、それとも元からそういうものなのか。どちらなりと構わない。見つけたからには撃つだけだ。
 構えるまでコンマ二秒。狙うまでコンマ一秒。肉体全てを射撃のための道具として、ラダは遠くに見える人影めがけライフル弾頭を打ち込んだ。
 こちらへ接近するよりもはやく打ち抜かれ、ゴム風船が割れるような音をたてて消滅していく悪霊。
 が、直後に次々と人影が浮かび上がり、対処不能なまでの数になって分散。馬車をかこうように接近してくる。
「馬車を止めろ。迎撃にかかる」
「「りょーかいっ!」」
 ソアと焔が同時に立ち上がり、かざした手の上にばちばちと電撃と火花を散らした。
 二人は互いの顔を横目で見てから、がしりと手を握り合う。
 伝達した電流と熱が互いに作用し合って、青白い高熱の柱となって吹き上がっていく。
「一気に行くよ!」
 組んだ手を同時に突き出すと、青白い光線が悪霊の一人を打ち抜き、その周囲へ拡散してはじけた光で悪霊たちが吹き飛んでいく。
 一方で側面方向へ回り込んできた悪霊へと向き直り、炎や電撃をそれぞれ発射するソアと焔。
「こっちは任せて。イナリは――」
「反対側ね!」
 馬車からぴょんと飛び降り、印を結んで額にあわせるイナリ。
 すると『天宇受賣命』が身体に宿り、髪が白色に染まって暴風にあおられたかのように吹き上がった。
 さらには衣装が妖艶なそれとなり、いつの間にか手にしていた桃色の大扇を返すと大杯が手に乗った。
 集まってくる悪霊たちにウィンクすると、地面に杯をこぼしていく。
 広がった甘い果実のような香りが悪霊たちをとらえ、乱し、自滅させていく。
 そうした一連の動きを終えたところで、イナリは憑依を解除してがくりと膝を突いた。
「ふう、ふう……やっぱりしんどいわね、これ」
「休んでるヒマはなさそうだよ」
 もう一台の馬車。イグナートは棺を護るように反転すると、足場を殴りつける反動で跳躍した。
 後方から複数の敵意を感知。
 前方から囲むように展開したのはあくまで囮。本命はこちらということだろうか。
「けど、行かせないよ!」
 イグナートは跳躍によって相手の上をとると、虚空を殴りつける連続パンチで拳型のオーラを大量発射。悪霊たちを超物理的に殴りつけていく。
「戦闘開始。へーい、新鮮な死体がここに居ますよ。腐りかけですが。あははウケる」
 スノウは持ち歩いているという自分の墓石を振りかざし、突撃してくる悪霊へと叩きつけた。
 悪霊一体を粉砕(?)したところで、もう二体の悪霊がスノウの腕や首へと伸ばした腕を巻き付けていく。
 まるでロープが巻き付いたような拘束に顔をしかめるスノウ。痛みにというより、動けない不自由に苦しんでいるようだ。
「死体損壊は大罪ですよ!」
 ねねこは意気揚々と飛び出すと、掲げたヒールボムを足下めがけて叩きつけた。
 治癒魔術が広範囲に広がりスノウたちを巻き込んでいく。
「あなたたち悪霊が騒ぐせいであちこちの無害な霊たちがおびえて逃げてしまっているじゃないですか。いくらなんでも迷惑千万なのです!」
 死体大好き物部ねねこにとって、死体を勝手に持ち出して損壊遺棄してしまうグールは結構な敵である。
 言い方を変えると推しの解釈違い二次創作地雷である。絶許。
「騎士さん、やっちゃってください!」
「騎士ではないが……わかった、やろう」
 マナガルムは馬車から飛び降り槍をぐるぐる回すと、迫る悪霊の一人を槍で貫き、勢いを殺すことなく周囲の悪霊をなぎ払った。
「これが悪霊か……追い払うついでに、出来るなら送ってやろう!」
 大回転するマナガルム。
 広がる漆黒のオーラが悪霊たちを切り裂き、回転をとめ見栄を切ったところでまとめてはじけ飛んでいった。

●砂漠の車輪
 ラサの大砂漠にはこんなことわざがある。
 旅の思い出は残っても、車輪の跡は残らない。
 広大な砂漠の炎天下。馬車に時折吹き付ける砂。
 ともすればバテてしまいそうな風景でも、しかし焔は元気そうだった。
「スピネリアさん。地元ではどんな供養をしていたの? ボクたちもそれに則ってお手伝いしたいな」
 焔のそんな話を受けて、懐かしそうに風にあたっていたスピネリアは振り返った。
「そうね。私たちの一族は『故郷を持たない一族』だったから、葬儀にも正しいやり方は伝わっていないのよ」
 スピネリアにとってかの土地は幼少の頃暮らした場所であるらしい。
 そういう意味では故郷だが、親世代にとっては十年ばかりとどまるための場所だったという。
「父は芸で身を立てていて、いくつかのオアシス街を季節ごとに行き来して、時折あの家に帰ってきたわ。あそこに家を建てたのも、丁度良い場所に小さな湧き水があったからよね」
 その湧き水もいつしか枯れ果て、あの場所は本当に砂だけの土地となった。
 残っているのは、それこそ思い出だけなのだろう。
「だから、そうね……遺体は棺から出して、砂に埋めてほしいかな。いつか虫が食べて、土になって、風になって、雨になって、どこかの湖にわくだろうから」
 自然回帰思想。スピネリアのような部族がよくもつとされる思想である。
「そういうことなら、現地に着くまで綺麗にしておかなくっちゃいけませんね」
 ねねこは定期的に棺を開いて、冷却や防腐の魔法をかけなおしていた。
 混沌には、(幻想王国ひとつとっても)葬儀の手法は多岐にわたる。いつか死者が肉体にかえり復活するのだという預言を信じて棺につめて土に埋めておく人や、天にかえるのだとして燃やす人や、大河は神聖な場所へ通じるとして川に流す人や、海とひとつになるべきとして燃やさず海に投げ入れる人もいる。透明なケースに詰めて家に飾っておくという秘宝種の話もあるほどで、当然葬儀屋も手広い商売だ。
 日本に暮らし火葬文化にあったねねこはその点、火葬を前提として一時的防腐処理に長けていた。元々もっていた知識や技術とあわせ、幻想王国で手に入るマジックアイテムを用いて丁寧にエンバーミングを施すのだ。
「死体なのににおわないんですね。あははウケる」
 スノウはその『ついで』として処理を受けていた。
 肉体がほぼ死体と同じスノウにとって、ねねこのエンバーミングはエステと同義であった。
 これほど相性の良い組み合わせもそうあるまい。
「ほら、果肉がとれたわよ」
 大きな鉢植えにそなえたアロエを素早く実らせるイナリ。
 ナイフで皮を剥いて果肉部分だけ取り出し、イグナートへと手渡す。
「え、このままイケるの?」
 受け取ったイグナートは半透明な棒状のぷるぷるを手に取って、しげしげと眺めた。
「甘くておいしいわよ」
「へえ……」
 イグナートはアロエを布で包み、ぎゅっと握りつぶす。非常識な握力によって潰されたアロエはジュースとなり、コップを満たした。
「砂漠って、他に食べられるものはないのかな?」
「水分補給の手段がこの有様だもの、そうそうないわよ。だから生き物も必死に工夫してるんでしょうね」
 砂漠にもそれなりに生き物はいて、それなりの生態系を作っている
 時に巨大なミミズが天高く飛び出すようなことも珍しくないが、このあたりの土地は比較的おとなしい生物ばかりのようだった。逆に言うと、すぐさま手に入る食料もまた少ない。
「心配ない。食料なら準備しておいた」
 マナガルムはそういって、馬車に積み込んだ布袋を指さした。

 夜。砂漠の夜は昼間とうってかわって凍えるほどに寒い。
 たき火を絶やすとすぐさま冷えて死んでしまうのではと思うほどである。
 そんな中、火のまわりに長い串を立てて焼いていくマナガルム。
 果実のタレにつけ込んだであろう鶏肉や野菜の串焼きである。
 焼き上がった一本をとって、かじってみる。
 キャンプで焼く肉はどうしてこうも格別なのか……。
 その横では、ラダがスピネリアにならってジャワティーを淹れていた。
 紅茶の一種で、地球で言うとジャワ島を由来とする温暖気候に根ざした茶葉である。
「茶にも色々あるんだな……喫茶店では、いつもこれを?」
「他にも色々、かな。お客は少なかったし、常連の好む茶葉を選んで出してた感じ。私は空気が好きで喫茶店をやってたクチだしね」
「空気、か……」
 ラダはいれたてのお茶に口をつけ、ほっと息をついた。
「生まれた土地に戻るとして、それからどうするんだ? 長い間一人きりはつらいだろう」
「そんなことないわよ。私、ひとりでいるのも好きだもの」
 空を見上げ、ほらと指を指す。
 星。鳥。風。雲。いつも異なる表情を見せる世界の風景を、どうやらスピネリアは愛していたらしい。幼少よりそうした場所で過ごしていたなら、きっとそういう心が育つのだろう。
「そっか、そうだよね……」
 話を聞いていたソアは、あらためて空を見上げた。
 『人間みたいになりたい』という気持ちから、人間の姿をとって人間社会に溶け込もうとしたソア。
 しかしそうであるよりもずっと前から、彼女は人間の一部だったのかもしれない。
 この広く広大な、物質に満ちた世界で、本当にひとりぼっちになるのはとても難しいことなのかもしれない。
 折りたたみ式の弦楽器を組み立てた焔が、弦をはじいて歌い始める。
 ラサに伝わる民謡が、はじく弦の音と共に夜空にのぼる。

●カーム
 荒れ果てた一軒家があった。
 人が住まぬと家は朽ちるというが、砂漠にたった小さな民家が朽ちるのは本当にはやいもので、壁と屋根も満足に残らずあちこちが砂で一杯になり、虫や動物があちこちに住み着いていた。
 これは掃除するのにも骨が折れるぞとイグナートたちが腕まくりしたところで、スピネリアはうーんと気持ちよさそうに背伸びをした。
「まずは、やることが一杯できたわね。これから楽しくなりそう!」
 自由気ままな幽霊暮らし。
 朽ちた家を整えるのに何十年かかっても、それは彼女の娯楽になるのだろう。
 ならば楽しみは奪うまいと、ひとまず葬儀を整えた。
 深く掘った砂に遺体を置き、少しずつ砂をかけて埋めていく。
 やがてこの肉体が世界の一部となりますようにと。
 一通りの葬儀を終えたところで、ラダが『おお』と声を上げた。
 振り返る焔たち。
 遠くに見える街の蜃気楼が、空にぼんやりと揺れている。
「懐かしいな……」
 スピネリアの目元に、透明な滴がながれた。
「サテ、と!」
 酒瓶を掲げるイグナート。
「今日は歌って飲もう。『新たな門出』を祝って!」
 歌い、踊り、酒を飲み。
 彼らは今日、死を祝った。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――人生はつづく

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