PandoraPartyProject

シナリオ詳細

ラティラ・ククルア

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●門の番人
 手のひらを広げた、ちょうど手首から中指の先まで。そのくらいの背丈の少女がミニチュアのオルガンを弾いている。
 それは子供用のオルガンへ連結しており、さらに数台の通常のオルガンへ繋がり、そこから辺りを埋め尽くす大小のオルガンを経由して、最終的に少女の正面へ位置する巨人の如きパイプオルガンを謳わせている。
 ここは深緑の、外から見ればただの廃屋と化した教会に過ぎない。だがそこから溢れ出す妙なる音色。金管の輝きと音に埋もれ、少女は無心で鍵盤を叩く。やがて高い天井へシャンデリアのような輝きのかけらが集い、淡く光る魔法陣を描き出す。そこから2匹の妖精が飛び出してきた。
「門を開けてくれてありがとうシェルミー!」
「遊びに行ってくるね! 夜までには帰るよ」
 ピッチとパリーが手を取り合い、笑いながらくるくると天井付近を飛び回ると、そのまま建物の、結界の隙間、出入り口から外へ飛び出していった。
 妖精郷(アーカンシェル)、その門の開閉が少女の務めだ。妖精ではあるが、その背に羽根はなく、空を飛ぶ力はない。母から鍵の任を受け継いだ時、門の番人に空は不要と切り落とされた。彼女はアーカンシェルへ続く『鍵』。仲間の呼び声に答えて門を開け締めするだけの日々を、もうどのくらい過ごしてきたのだろう。
 シェルミーと皆は彼女を呼ぶ。

 シェルミー、おみやげだよ。この時期はキイチゴだね。
 シェルミー、おすそわけ。今年一番きれいな紅葉。
 シェルミー、ほら見て……。
 シェルミー……。

 仲間たちは優しく、無邪気だ。それゆえに……残酷だ。
 外を見たい。外へ行きたい。そんな思いがシェルミーのなかで膨らんでいく。彼女から見える外は、数え切れないほどのオルガンに阻まれたその奥、ステンドグラスの光の加減。昼は明るい、夜は暗い。雨というものがときどきステンドグラスを叩き、嵐がくると少しこわい。そのくらいだ。
 今日は静かだ。
 ひっそりと静まりかえって、森のささやきすら聞こえてこない。
 だからだろうか、ピッチとパリーは約束を守る子だし、帰ってくるまで時間がある。……少しくらい門を離れてもいいかしら。魔が差したというのだろうか。それとも、こらえきれないくらい孤独に毒されてしまったのか。シェルミーはそんなことを考えてしまった。森が何故沈黙をしているのか、普段の彼女なら思い至るのに。
 ちょっとだけ、ちょっとだけだから。
 シェルミーは自分にそう言い訳しながら席を立った。飛べないシェルミーが小さな足でてこてこ行くと、教会の出入り口まではけっこうな時間がかかる。早足で進み、時々休憩をはさみ、小さな胸に広がる冒険心をぎゅっと抱きしめる。
 そのとき、ステンドグラスの向こうへ、ぬぼーっとした妙な影が写っているのが見えた。背筋を氷が滑り落ちる。影が見えたのは一瞬だった。
(気のせいよね?)
 彼女がようやく出入り口へたどりついたのは2時間後だった。積み重なった本の階段をよいしょよいしょと登り、窓枠へたどりつく。そこにあるのが結界の隙間、ステンドグラスの隅が少し割れていて、妖精たちの出入り口に使われているのだ。
(これで、外へ……)
 けれど。
 そこから半身をのぞかせた彼女が見たのは、いくつもの長い影だった。見た目は彼女で言うなら妖精、すなわち人間の頭を体へめりこませ、胴体ばかり長くしたような異形。ゆうらりゆうらりと体を左右に振り、妙に長い両腕は地につきそうだ。見かけによらず俊敏そうでもある。その濁った、きときと動く両目が、シェルミーをとらえた。
 絹を裂くようなシェルミーの悲鳴が響き渡った。

●ヘルプミー&ヘルプハー!
 二匹の妖精がローレットへ飛び込んできた。【無口な雄弁】リリコ(p3n000096)は最初つむじかぜに巻き込まれたかと思った。
「聞いて聞いて! あたしパリー!」
「僕はピッチ、僕らの『門』が見たこともないモンスターに襲われているんだ」
「鍵役の子がいるの!」
「えっとね、長くて黒いのが7体もいてさ」
「いい子なの! やさしくてね! すごくいい子! たすけてほしい!」
「……ふたりとも、私の肩に止まってくれる?」
「「うん!」」
 落ち着かせようと思ったのだけれど、肩に止まった小さなふたりは、めいめいにまくしたてるのをやめない。困ったリリコは、おもしろそうに事態を眺めていた【色彩の魔女】プルー・ビビットカラー(p3n000004)を見上げた。
「シャイニングホワイトだわ、そちらのおふたりは妖精よリリコ。本来ならパステルハッピーミントだけれど、わざわざここまで飛んで来たということはダルグレーでブランディッシュレッドね。お話をうかがいなさい、リリコ」
「……ん」
 妖精たちの話によると、結界で守られた古い教会の中に妖精郷へ続く彼らの『門』があるそうだ。だが見たことも聞いたこともない胴長のモンスターが力づくで結界をこじ開けにかかっている。はるか遠く昔には、本当の出入り口を開けてくれた誰かが居たらしいのだけれど、もうその人はいなくなってしまった。代わりに妖精たちは自然にできた結界の隙間を出入り口にしてきたのだが、そこを感づかれてしまったらしい。
「……どんなモンスター?」
「とても気持ち悪いモンスターだよ。全身毛むくじゃらで真っ黒なんだ。目がいつもきときと動いていてぞっとする。まるでこっちの能力を測られてるみたいだった」
「それにとても胴と腕が長い。足の長さは普通だから、よけい不気味に見える。きっと近づくと、とんでもない打撃を受けちゃう!」
「生き物ってね、僕にはいつも心の色が見えるんだ。だけどあいつらは真っ黒に塗りつぶされてるんだよ。感情がないみたいでさ、本当に気持ちが悪いんだ」
「あたしたちの『門』はとても精密に作られているの。もし、あいつらが結界をこじ開けて中へ入ったら、一巻の終わり!」
「それに、教会の中には『門』の鍵役のシェルミーという子がいるんだ。きっとあの子も食べられちゃうよ」
「お願い、あいつらが結界を壊して教会へ入り込む前に倒して!」
「……ん」
 だいじょうぶ、イレギュラーズがいるから。リリコはそうとだけ言うと依頼書を書き始めた。

GMコメント

最近暖かくなっていたのですこぶる体の調子がいいみどりです。

やること
1)7体の異形を倒しきる
A)オプション シェルミーを外へ連れて行く

>エネミー
名も知れぬ異形 高HP高ATK型 エネミースキャン
・殴り飛ばす 物至単 ダメージ大 飛 ブレイク
・食いつき 物至単 ダメージ中 HP吸収小 AP吸収小
・頭突き 物近単 ダメージ大 混乱
・ダブルラリアット 物自範 ダメージ中 麻痺

>特記事項
何故かもっともレベルの高いPCを優先して攻撃する傾向があり食いつきを多用します。同じレベルのPCが複数いる場合は誰かひとりへ偏るようです。皆さんを見ると教会よりイレギュラーズを狙って攻撃してきます。

>戦場
教会の広場
戦闘に十分な広さ
足場ペナルティなし

>補足
シェルミーは小さく、さらに飛べないので手のひらに乗せて運んであげるといいでしょう。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • ラティラ・ククルア完了
  • GM名赤白みどり
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年04月04日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

リゲル=アークライト(p3p000442)
白獅子剛剣
エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
神話殺しの御伽噺
ヴァイス・ブルメホフナ・ストランド(p3p000921)
儚花姫
マルク・シリング(p3p001309)
ロゼット=テイ(p3p004150)
月光
カタラァナ=コン=モスカ(p3p004390)
海淵の呼び声
雪村 沙月(p3p007273)
月下美人
回言 世界(p3p007315)
貧乏籤

リプレイ

●疾駆
 一行は森の中を走り抜けていた。
 依頼書に書かれた目的地までもうすぐ、豊かだが薄暗い森を進めば、揺れた藪がざわめいた。
「シェルミーか、そんないい子を辛い目に逢わせるなどと俺の信じる騎士道に反する。何かあればリリコも悲しむしな。必ず助ける!」
 先頭を走る『死力の聖剣』リゲル=アークライト(p3p000442)が強く言い切った。嵐の王を冠する外套が答えるようになびく。やがて景色が割れ、廃墟と化した教会が見えてきた。
「あそこ、だ。」
『深海の金魚』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)が簡潔にそう言った。彼女の言うとおり、荒れた毛並みの黒い異形が七体、教会を襲っている。それを目の当たりにしたエクスマリアの深い黄金の髪が揺れる。……揺れるという生易しい表現ではない。長い長い髪は、明らかに警戒と敵意をもってうねる。その様子はまるで威嚇する蛇のようでもあり、彼女の身を案じ付き従う忠実な僕のようでもある。
 エクスマリアの後ろを、走るというよりも優雅に跳ねてついていく『儚花姫』ヴァイス・ブルメホフナ・ストランド(p3p000921)。大地を蹴るたびに真白なドレスが風を受けてそよぎ、着地のたびにふわりとスカートのすそが膨らむ。それを気に留めずさらに跳ねて前へ前へ。
「可笑しな生命がいるわね」
 異形の動きはどこか画一的で自由意志なるものが見受けられない。彼女はそう感じた。異形どもは異様に長い腕でもって教会へ殴りかかっている。
「いつ崩れてもおかしくない建物なのによく耐えているわ。話に聞いた結界のおかげかしら。嗚呼、でもさすがにステンドグラスが割れてしまいそう。助けに行かなくちゃ。……おいたはだめよ?」
 かぎりなく人間に近くとも人形であるヴァイスには、無機物の悲鳴が聞こえる。己の内へ隠された『門』と『鍵』のために、教会が身を挺している、ヴァイスにはそれがわかった。
 戦いの時が近づいてくる。緊張が膨らみ空気に圧を感じる。しかしそんなものは『海淵の呼び声』カタラァナ=コン=モスカ(p3p004390)にはどこ吹く潮風。
「みぎより ひだりより
 まえだけ みて いこう
 うしろは みちゃ だめ それが みのため
 ひたすら まえだけ みて いこう♪」
 うっすらひらいた蒼海を思わせる唇からあどけない歌声がこぼれる。一歩一歩踏み出すたびにうねりを帯びた不思議な衣が神秘的な美を匂わせ、布冠のうしろへ流れるイルカの尾へ似た髪が泳ぐように左右へなびいた。
 その脇を疾駆する『百錬成鋼之華』雪村 沙月(p3p007273)が落ち着いた声音で告げる。
「方針は各個撃破、狙いを絞り、早期解決を目指しましょう」
「もちろんだ。特にリゲルが言うとおりの、小さな妖精の救出が絡むとくればな。見たことない世界に憧れるか……俺にも覚えがあるよ」
 下草を踏みながら走り続ける『凡才』回言 世界(p3p007315)が応じた。沙月の言に皆もそれぞれにうなずく。沙月はアクアとペイルヴァイオレットの瞳をほんのりと満足げに細めた。
 ザクザクと音を立て、白衣をなびかせるままに突っ走る世界と、風に乗り舞い散る花びらのごとく音もなく地を駆ける沙月。対照的な二人だったが、今回の作戦に関しては上手くかみ合っているようだ。個性の強さは選択肢の多様性につながり、それはまさしく「特異運命座標」と呼ばれるにふさわしい行動へとつながるから。
 異形の長い胴体、そして拳。それを注視しながらマルク・シリング(p3p001309)は仲間へ語りかけた。
「あいつらが敵か。見るからに強烈な攻撃を仕掛けてきそうだよ。まともに相手をすれば僕じゃ1,2体でも厳しいところだ。7体から狙われたら、まず保たないけれど……信じてる」
 仲間へ感謝へ信頼をこめた視線を送ると、当然のように、任せろ、安心して、と四方から声が返ってくる。これから始まる鉄火場を前に、マルクの一言で皆の心がひとつになっていく。
 そうは言っても何事にも例外。『砂漠の冒険者』ロゼット=テイ(p3p004150)は(さっさと終わらせてお金もらって帰ろう)とか考えていた。何故って、最善手を打つために思考はいつもクリアでなければ。そのためにはいつだってシンプルがベスト。無駄な邪念は動きを鈍らせる。仕事の間は余計なことを考えるとよくない。たとえば話題の妖精の国。覗いてみたい気分もあるが……おっと、スピードがゆるんだ、それ見たことか。ロゼットは耳をぴんと立てた。受ける風は春先の冷たさ。余分な感情を削ぎ落とす。
「この者は思う。望むなら無事に帰ることだけでいいと。妖精たちにとっても同じだろう」
 最後の藪を抜けた。ロゼットは軽くジャンプして勢いを殺し、金に輝く瞳へ異形を映すなり、すこしぼんやりした表情へ初めて笑みを浮かべた。戦の笑みを。


 乱入したイレギュラーズの存在へ異形が気づいた。ゆうらり。長い胴をくねらせ、異形は一斉に一行へ体を向けた。それはただ偶然が重なった結果だったのだろうが、背筋を這い登る嫌悪感を抱かせるに十分だった。背丈も、姿も、まったく同じ異形が7体。
「妙だな、生物にはどうしても個体差ってもんがあるもんだが。犬だろうと猿だろうと雉だろうと、眺めてれば違いが見つかるのにな」
 世界は白衣のポケットへ片手を突っ込んだラフな姿のまま、利き手をかかげた。不思議と凛とした雰囲気に包まれる。
「妖精に倣い、ここは御伽噺と行こうか。我々は英雄、太古から語り継がれた存在、闇を払う銀の剣、絶えざる鬨の声は妙なる調べと化す。全軍突撃用意、英霊へ続け! 回言世界は各員がその義務を尽くすことを期待する!」
 力強い鼓舞が響き渡った。士気が上がる。沸き立つ戦意はより高い命中精度となるだろう。陣を固めるイレギュラーズの中、ヴァイスは異形の囁きを聞こうとした。
「……ねえ、何処から来たの? 何故こんなことをするのかしら?」
 それは単純だが、効果的な質問だった。聞くは薔薇道化の存在証明。人形が人形であるがゆえに使える、空っぽの心だからこそ受け入れることのできる音色。けれども、異形からの返事はない。黙しているのではない、秘しているのでもない。ただ、うつろ。真っ暗闇の中、空箱の隅をまさぐっているかのようなカサカサした虚無が伝わってくる。怪訝そうにヴァイスはまばたきした。きれいなまつげの生えそろったまぶたが触れあった瞬間、かちり、と小さな硬い音がした。
「そう、肺は空気を吸い、心臓は鼓動を打ち、筋肉は躍動している。でもこの子たち、自然に生まれた存在なのかしら。……まぁ、どちらでも私のやるべきことは変わらないわ」
 依頼だもの。両足をすばやく開き、戦闘態勢を整えたヴァイスは、次の瞬間目を見開いた。それはエクスマリアも同じだった。きときとと動いていた異形どもの瞳が、ある一点へ集中し、まるで狒々のような瞬発力で走り出したから。
「目当ては、マリア、か? しかも、存外速い、な。」
 異形どもがエクスマリアへ雪崩か津波のように向かってくる。彼女は右手へ炎を燈す。エクスマリアを守るように、長い髪が彼女を包むかのごとく動いた。
「灼けろ」
 とだけエクスマリアは声に出した。同時にすさまじい炎嵐が彼女の周囲へ巻き起こる。砂漠において、あまりに熱されすぎた風は焔の竜巻へ変わるというが、まさにそれを思わせた。だが。
「マルクさん!」
 リゲルが叫ぶ。狙いはエクスマリアの背後に立っていたマルクだった。ロゼットが半眼になる。
(今回の仕事仲間は名高い実力者ぞろい、エクスマリアが狙われてもおかしくはない。だのに素通りとは?)
 緊張を解かぬまま思考をめぐらせる。もしかして、と澄んだ思考の傍ら、ロゼットは遠き砂漠の息吹を感じながら不可視の悪意を異形の群れへ叩き込む。確かに通じたが、異形はロゼットへ見向きもしない。
(なるほど、最たる実力者、その中でも皆から守られている存在、それがトリガーなのだろう、あの不気味な者どもの。さては厄介このうえないな?)
 やれやれとため息をひとつ。もしも造物主なる者が――雲の上ではなくもっと卑近な意味でのそれがいるならば――そいつは大概に「いやなやつ」だ。ロゼットはそう思った。
(この者の放った悪意など、背後で手ぐすね引いているだろう相手に比べれば、かわいらしいものだろう)
 事実、炎の爆撃を受け、全身の毛を燃え上がらせながら、なお異形はマルクへ迫っている。最初の一体がマルクの肩へ食いつく。
「ぐっ、う……っ!」
 熱がはじけた。つづいて痛み。肩の肉をこそぎ取られ、マルクの全身へ激痛が走る。そこへ二体目が口を大きく開け……ガリッ! 何かへかじりつく音がした。
「これ以上は蟻も通さない!」
 リゲルだった。とっさに盾を装備した腕を差し伸べマルクを庇っている。そのままリゲルは異形が肉を食いちぎるのもかまわず、盾を使って強引にマルクと異形の間へ割り込んでいく。美しく磨かれた、けれども頑強なシリウスの大盾と、それを羽か何かのように自然に扱えるほど鍛え上げた肉体、その両者と何よりも鋼の意思でもって、リゲルは臆さず異形どもの前へ身を晒していた。
 異形はリゲルの盾へ汚らしいよだれを残し、殴打痕をつけていく。衝撃が体へ染みとおる。異形に群がられたリゲルは次々と攻撃を加えられ、あげく殴り飛ばされた。彼はかろうじて受身を取り、地を転がり追撃を避けると起き上がる。
「あの誉れ高きリゲルさんが押されている? どれだけ馬鹿力なのでしょうか、それとも人為的に操作された魔物なのでしょうか」
 内心の動揺を悟られぬために、沙月はあえて表情を殺すと集中した。涼やかな空気が沙月の周囲へ集まり内圧を高めていく。長いプラチナブロンドが浮き上がり、振袖と袴がはためき、覗いたブーツがきらり煌いた。
 リゲルはくじけない。
「お前達を殲滅すると宣言する! できるものなら止めてみろ!」
 名乗り口上を叩きつける青い瞳へは星の輝き。迸る戦意は護法のごとく。その様子を見て、沙月は静かに押し出した。凍てついた闘気を。所作としてはただわずかに、異形へ呼びかけるように利き手をそっと前へ。しかし遅れてやってきたのは比べ物にならない暴力的な力の本流。数体の異形が弱点を貫かれ、大きくかしいで、振り子のように振れながら元へ戻った。黒い体液が周囲へ飛び散り、胴からも垂れ落ちている。
「効いてるね。ふふっ、痛みは感じてるのかな。どうなのかなあ。気になるよね。リゲル君、ちょーとだけ下がって?」
 カタラァナは夢見る瞳で微笑んだ。大きく息を吸い込み、両腕を広げ、喜びにわななきながら旧き神の呼び声を歌う。

 てを さしのべて あかりを とって
 あるこう すすもう ふみだそう
 みちなき みちを ふみだして
 まっさかさまに おちていこう♪

 異形が反射的に顔を覆う。胴体へめり込んだ頭で出来る防御反応はそのくらいだったのだろう。耳がなくとも聴覚はあるのだ。いいや、鼓膜を破ったとしても、カタラァナの謡の前には無力だっただろうけれど。二体が崩れ落ちた。残りの数体の内いくつかが仲間を殴り始める。
「やみいろ こころは
 なにより よわい
 すべての いろを とりこんで
 まっくら くれよん ぬりつぶす♪」
 仲間たちは次から次へと奥義を繰り出した。リゲルが奮戦し、輝きを放ちながら攻撃を一手に引き受けている。彼でなくては成しえないタフさ。そこへマルクの支援が加わるとなればなおさら。血の混じった脂汗をぬぐうリゲルへ、マルクが聖句を唱える。
「親愛なる善き友全智全能、勇猛なるその御使い万意万能、我ら享受せん純白の福音、傷つきし者は幸いである、その者は奮起を知る、再起を知る、英気を知る、歓喜を知る、大いなるその御使い、親愛なる全知全能の」
 対して異形にはさまざまな状態異常がばら撒かれている。特にヴァイスとリゲルの致命は痛手だった。どれほどかみつきをくりかえしても、傷が治らない、疲労がとれない、さしもの異形もイレギュラーズたちの連携の取れた攻撃の前には磨り減っていく。難攻不落とも思えた異形ども。その行動パターンが突然変わった。
「ククルアアアアアアアアアア!!!」
 耳を劈く絶叫。異形どもは次々に叫びだし、刹那のあと、互いに互いへ食いつき始めた。
「共食い……?」
 世界が呆然とつぶやく。なんのために? 振りまかれた致命の影響で、そんなことをしても回復はしないはずだ。理解がおよばない。だがその間にも、ごりばきめぎゃずじゅるがりがりがりり、骨を砕き肉を飲む腸を食いちぎる無残な音が辺りへ木霊する。
 まっさきに異常事態を受け入れたのは、戦闘中常に戦略眼などを用いて異形の動きを注視していたエクスマリアだった。
「逃げられる!」
 そう叫ぶ。残った三体がてんでばらばらな方向へ狒々の速さで逃走しだした。イレギュラーズの頭は「何故」の一言で埋め尽くされていた。異形の目的も、行動も、何もかも謎だらけだ。それでもリゲルは黒星を撃ちこみ、一体の足止めへ成功。エクスマリアが飛翔斬を放ち、ロゼットが、沙月が、ヴァイスが遠距離攻撃を立て続けに放ってようやっと二体を倒すことが出来たが……。
 世界が舌打ちする。
「逃げられちまうとはな……」
 最後の一体だけは、森へ飛び込み姿をかき消していた。
「わけがわからん奴らだ。奴とかいう上等な呼び名が使える相手かは知らんが」
 世界は頭をがりがりかいた。同時に足元へ転がっていた死体を蹴飛ばす。
「どうする、こいつ? こんなものがあったらシェルミーが怖がるんじゃねえか?」
 辺りは惨憺たる有様。引きちぎられた異形の肉体がそこここへ。早くも異臭を放ち始めている。
「埋めよう、か。土壌が、汚染される、気配はないし、な。」
 じっと黒い体液を見つめていたエクスマリアがそう言った。


 おびえきったシェルミーは、教会へ入ってきたイレギュラーズの足音に驚いて影へ隠れた。
「どこだ、シェルミー?」
 世界はゆっくりとオルガンの海原を見渡す。
「とんだ目に遭ったようだがまだ時間はあるか? 幸い俺は今暇になった所でな。少しくらいならその冒険に付き合ってやれなくもないぞ? シェルミーの願いは、死ぬ必要があるほど悪い事ってわけでもないだろう?」
 そっと顔を出すシェルミー。ヴァイスが笑みを向ける。
「嵐は過ぎたわ。絶好のピクニック日和よ。行きましょうよ、外へ」
 ギフトの恩寵だろうか、その言葉は率直にシェルミーの心へ届き、警戒心を和らげた。
「ご覧になって、私のドレス。フリルがいっぱいで掴まるところもたくさんあるわ。みんなの肩に昇ったら、思いもよらない世界が見れるわ」
 シェルミーがそっと出てきた。その小さな体を見つめたエクスマリアは、髪を一筋伸ばした。
「おそろい、だな。マリアも、背が、低い。マリアの手も、小さい。この髪に、乗ると、いい、な。では、行こう。」
 シェルミーがこわごわ、だけど未知への興味を隠し切れず、エクスマリアの髪へ乗った。
「……あ、ありがとう。ええっと」
 飛べない妖精は、代わりに鈴のような声だった。シェルミーが強張った顔のまま皆を見回す。
(一人でずっと教会に居たのだっけか。イレギュラーズの存在は知っていても思い当たらないのだろう)
 そう考えたロゼットが軽く全員の紹介をし、自分たちがピッチとパリーに頼まれてやってきたことを伝えた。
「まあ、あのふたりの?」
 シェルミーの表情がやわらいだ。沙月がそれを見て安堵する。皆は教会の外へ出た。
「……まぶしい。これが日の光。みんなが言っていた森の緑」
 何の変哲もない風景が、シェルミーへとってのは宝物だった。すぐにあれはこれはと聞き始め、そのたびにエクスマリアが髪を伸ばし近づけてやる。沙月は穏やかな笑みを口元へ刷いて説明してあげた。
「これは楓の木です。メープルとも言い、シロップを作れます。季節が変われば真っ赤に染まります。紅葉と言う現象です」
「見てみたいわ」
「ええ、いいでしょう。機会があればお連れします」
「こちとら年中暇だからな。これからもたびたび出かけるのを手伝ってやらなくもない」
 世界が横から茶々を入れる。この思いに嘘はないと言外へシェルミーに伝えながら。和気藹々とそぞろ歩く一行をカタラァナは少しだけ離れて見守っていた。
(独りっきりがつらいんじゃなくて、独りっきりだって気づかされるのがつらいよね。僕にはわかる)
 いつも、「どうして?」なんて人の気持ちを聞いてしまうのがカタラァナの癖だ。なのに、こればっかりは、聞かなくとも気付いてしまった。彼女は柔和に目を閉じ、元気な声で歌いだした。
「まっさかさまに おちていこう
 たのしくっても つらくても
 えらんで すすんだ みちのりに
 かなしみ なんて あるもんか♪」
 シェルミーが皆を振り返る。
「ありがとう。本当に、ありがとう。うれしい、うれしいの」
 その瞳からは涙がほろほろとこぼれていた。シェルミーはひとりひとりへ近づけてもらい、肩に乗り礼を言った。マルクの肩に乗ったとき、彼は痛そうに顔をしかめた。
「……ケガ?」
「おかしいな。治癒はしてるのに」
 マルクは不安げにリゲルを見やった。彼もまた齧られた腕をさすっていた。

 持っていかれた。そんな気がした。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

リゲル=アークライト(p3p000442) [重傷]
白獅子剛剣
マルク・シリング(p3p001309) [重傷]

あとがき

シェルミーはこの後、ピッチとパリーに興奮に火照った頬でいかに外がすばらしかったか、イレギュラーズと過ごした時間がどんなに素敵だったかをそりゃあもう長~く話したそうです。ふたりはそれを微笑ましく聞いていたとか。

おつかれさま。あーんど、ご参加ありがとうございました。
異形との戦闘はいかがでしたでしょうか。いっつも気がつくと字数が足りないです。

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