PandoraPartyProject

シナリオ詳細

涙蜜の運び手

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ダアマの涙蜜
 村に生息する『ダアマ』と呼ばれる虫──彼らは明るい場所と賑わいを好み、気候が適しているのか、毎年この村で巣を作り蜜を貯蔵する。
 涙蜜と呼ばれる所以は巣にあった。形が言わば巨大な目。無類の潤みを持つまなこを隠した巣の下部に、三日月のような弧を描いた割れ目が生じ、暖かくなる頃にとろりと蜜が零れだす。その様相が、まるで瞼を閉ざして泣いているかのようで、村人たちは『ダアマの涙蜜』と呼ぶようになったらしい。
 ──村の伝承によると。
 元々この虫を連れてきたのは妖精だという。負傷した妖精を助けたところ、そのとき手にしていた花籠をお礼にと渡してくれた。その花籠でせっせと蜜を集めていた虫たちが、今の『ダアマ』の先祖らしい。
 彼らの齎した涙蜜は貴重な栄養源となり、村人たちは以来それを妖精への贈り物にしてきた。
 そして年に一度、涙蜜を受け取るため妖精がこの時期に村を訪れる。妖精を村人総出で歓迎するため祭りを催し、笑顔で見送るのが大事な習わしとなっていた。
 暮れかねた空が、木々を濃く深く染めていく頃。村の鐘が鳴ると同時に、今年も祭りが始まる──はずだった。

●情報屋
「妖精を追いかけてきたゴーレムがいる」
 涙蜜について話を終えたイシコ=ロボウ(p3n000130)は、早速本題に入る。
「フレッシュゴーレム、って呼ぶのが適してる? 死肉を繋ぎ合わせたみたいな、人型の」
 サイズはこれぐらい、とイシコが身振りで表したのは、人間で言うと五歳児ほど。つまり幼い子どもの姿をしたゴーレムだ。
「ものすごい速さで迫ってきたって。知る限り五体。でももっといると思う」
 逃げ惑いながら目にしたのが五体というだけで、茂みを散らす音はもっと多かった気がする、と当の妖精は話している。
 妖精──名をルアナといい、彼女は必死で村へ逃げ込んだ。するとゴーレムたちは追うのをやめて、ぞろぞろと森へ姿を眩ませた。機会を窺っているのかもしれない。いずれにせよ、このままだとルアナは郷里へ帰れず、村人たちも安心して過ごせない。こうしてローレットへ依頼が舞い込んだ次第で。
 そしてイシコが涙蜜についての情報を口にしたのにも、理由がある。
「村人にとって大事な涙蜜で、大事な行事。ルアナさんにとっても、すごく重要」
 ルアナの住む地域では、この涙蜜を外の村から持ち帰る役目が、たいへん重く、そして大きな意味を持つ。運び手に選ばれることを誉れとするそうだ。だからルアナも、家族や友人の期待を背負って門を潜ってきたという。
 最優先となるのはルアナの無事だが、大任を果たそうとする彼女の思いも、切り捨てないであげてほしいと、イシコは願いを寄せる。
「肝心の涙蜜は、くり抜いた硬い木の実に入れてあるって」
 用意されてはいるが、イレギュラーズの作戦によっては、別の器に移すなど適した持ち方があるだろう。その辺りは一任されている。
 とにかくルアナと涙蜜を守り、妖精郷の門へ向かう。そして涙蜜を手に彼女が門をくぐれば、任務完了だ。
 一度ここで言葉を途切れさせたイシコは、イレギュラーズの表情をひとりずつ確かめていく。
「お願い、できる? できるなら急いで村へ向かって、助けてあげて」
 ルアナは今もイレギュラーズのことを待っている。不安で胸が張り裂けそうになりながら、ずっと。

GMコメント

 お世話になります。棟方ろかです。

●目標
 妖精ルアナと涙蜜を、妖精郷へ無事に送り届ける
※涙蜜は、多少なら零したり落としても大丈夫です。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●ロケーション
 村への到着は夜。舞台は、鬱蒼とした森林迷宮。木々や茂みのおかげで、見通しも足場もよくありません。
 涙蜜の運び方に、特に制限はありません。ひとまとめにしても良いですし、小分けにしても構いません。
 交替で持つなり、誰かが持ち続けるなり、ルアナに任せるなり、そこもご自由にどうぞ。

●敵
 フレッシュゴーレム(子ども型)×5体以上
 正確な数は不明。イレギュラーズより多いです。体力はそこまで高くありません。
 森のどこかに潜んでおり、ルアナを狙って姿を現します。
 体当たりで吹き飛ばしたり、殴る蹴るなどの格闘の他、手足に纏わり付いて動きを阻害してきます。
 距離があるときは、死肉を投げつけてきます。とても痛くて、発狂するほど臭いです。
 「やー」とか「いー」ぐらいしか声を発しませんが、多少なら言葉が解ります。
 ルアナが門へ辿りつきそうになると撤退するので、殲滅しなくてもいいですし、してもいいです。

●NPC
 妖精ルアナ。見た目は10歳ぐらいの女の子で、身長30センチほど。
 戦いと無縁の日々を送ってきたのもあり、すごく怯えていますが、皆さんの指示には頑張って応えようとします。

 それでは、いってらっしゃいませ。

  • 涙蜜の運び手完了
  • GM名棟方ろか
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年04月11日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)
罪のアントニウム
サイズ(p3p000319)
妖精の守り手
マルク・シリング(p3p001309)
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
岩倉・鈴音(p3p006119)
劫掠のバアル・ペオル
ゼファー(p3p007625)
never miss you
ルリ・メイフィールド(p3p007928)
特異運命座標
羽住・利一(p3p007934)
特異運命座標

リプレイ

●森のなか
 藍に沈んだ森は、静謐を湛えたまま冷たい空気を運んでいく。その空気に包まれながら、ゆらりゆらりと進む灯りの色があった。ひとつふたつではなく、それぞれの意志を顔に塗った彼らは、見下ろす夜の木々にも圧されず歩いていく。
(古くから伝わる儀式なんだろうね。それも、大切な)
 研ぎ澄ませた五感に神経を集わせて、『特異運命座標』羽住・利一(p3p007934)は静かに息を整える。不安を解消するためにも、し損じるわけにいかない。言葉で模る前に胸中で自らの所思を確かめた。
 近くでは、妖精郷ってどんなとこだろうネ、と『劫掠のバアル・ペオル』岩倉・鈴音(p3p006119)が足取りをふわふわ弾ませていて。
「アタシも知らない景色が広がっていそうだネー」
 行ってみたい。好奇心の赴くがまま口にした鈴音に、故郷の話をされて嬉しかったのかルアナの目つきも緩む。
「い、いつか……あそびにきてほしい、かも」
 やや緊張を帯びた声音のルアナに、向こうではどんなものがあるのかと、鈴音が話題の引きだしを開けていく。菫とバニラの香を、甘く仄かに漂わせながら。
 お喋りに踊る彼女たちの姿を眺め、ゼファー(p3p007625)はぼんやりと道行きを照らす仲間たちの灯りへ目線を向けた。
(妖精さんが運ぶ蜜、ねえ)
 思えば最近は、メルヘンチックな雰囲気から程遠い事件ばかりだった。せっかく妖精と関わるのなら、想像に沿う雰囲気に浸るのも良い。そう思考を紡いだゼファーの眼差しは蕩けるようにやんわりとルアナを捉える。
「ま、今回は大船に乗った気分で居て頂戴な」
 無事に送り届けてあげると言外に込め、口端をあげた。そして徐に確かめるのは、鬱蒼とした森の。
(これだけ暗くて判別し辛いと、音を立てないのは困難よね)
 自分たちはもちろん、相手も。
 だからと耳を済ませたゼファーから少し離れた位置で、ぺこりと会釈する少女の姿がある。
「ルアナさんのこと、おねがいします」
 『特異運命座標』ルリ・メイフィールド(p3p007928)は『カースド妖精鎌』サイズ(p3p000319)へ手早く告げると、隊列の後ろへ急いだ。
 もちろんだ、と返して彼女の背を見送ったサイズは、隣で眉尻を下げているルアナへ向き直る。
 妖精と繋がりのある村というのは、サイズにとって興味深い。しかし今は専念するべき役目があると、視線を下げた先、ルアナが提げた水筒が目に飛び込んでくる。
 木材を加工してサイズが拵えた、涙蜜を運ぶための容器だ。きちんと妖精の身体に合わせた大きさで、ルアナが持っても違和感がない。蓋もしっかり締まっている。
(ルアナさんが襲われたりしない限りは、零れないはず。……零れさせない)
 村人にとって大切な涙蜜を、そして運び手である妖精を守るために、サイズは意気を滾らせていく。
 歩みが乱れにくいようにと踏ん張りを効かせて、マルク・シリング(p3p001309)は神秘の杖を掲げた。先端に燈る炎は『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)が分け与えたもの。
「どんどんつけておくよ!」
 焔が次から次へと灯りを生み出していく。おかげで夜に咲く赤き花は、焔自身だけでなく仲間の得物も、森を行き交う小さな影にも広がった。見た目から受ける印象とは違い、熱さに溺れない火だ。夜にのまれた森では拠り所となる。
 そのとき、緩やかに顔を四方へ向けていた利一が、眉をひくつかせる。ざわめきの狭間から漂う臭いは、あまりに微か。けれど注視する利一から逃れる術はなく。
 ──捕まえた。
 めざましい上達でなかったとはいえ、彼女は秘境探索家。未踏の地域を調査する状況に慣れている。
「皆、早速お出ましだよ」
 利一の一言で、仲間たちも態勢を整えた。
 焔が石や枝木に輝く赤を散らしている間、ルアナさん、と優しく呼びかけたのは『祈る者』クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)だ。
「ご安心ください。皆頼もしいですから」
 和らげた眦に笑みを宿せば、ルアナが顎を引く。
 蠢くのは死肉を繋ぎ合わせたかたまり。塊は人を模り、のそりのそりと歩くものもあれば、はしゃぐように跳ねたものもいる。だが、標的となる妖精ルアナを認めたかれらは途端に疾風のごとく駆け、イレギュラーズの元へ飛び込んできた。
「やアぁ……ッ」
 外見と同じくいびつな声が聞こえてくる。少年とも少女とも取れぬ、奇妙な泣き声。思わず眉をひそめるイレギュラーズも少なくなかった。
 子の姿かたちを装ったフレッシュゴーレムとの戦いの幕が、切って落とされる。

●始動
 拒むのは妖精に害為す存在。絶するために生むのは魔術による凍てついた幕。咄嗟にサイズが展開した氷の障壁は、ルアナとゴーレムとの間に立ちはだかった自らへの衝撃を抑えこむ。激しく氷を叩かれてふらつくも、ゴーレムの手足は決してルアナへ届かない。届かせはしないと噛み締めた。
 そして、ここからなら、と位置を見極めた利一が群がるゴーレムたちへ照準を定める。
 何はともあれ数を減らす──心掛けを第一に利一が揮った魔の力は、凍てつく弾を模り人型の死肉を貫く。直後、ルアナ、と妖精へ声をかけた。
「こっちは任せて。君は涙蜜をしっかり運ぶんだよ」
 大役を達成できるのは他でもないルアナ自身だ。それを再認識させる言葉に、妖精の細い肩が震える。気負いすぎてはならないと告げたところで、より強張らせるだけだろうと利一は眦を和らげた。
「皆から運び手に選ばれたんだ。君なら大丈夫」
 大丈夫、と短くもはっきりとした音を捧げる。
「やればできる!」
 利一の励ましを一身に受け、ルアナはきゅっと唇を結んで頷いた。その頃。
「さあさ。お目当てが目の前なとこ悪いんですけど」
 手を叩いたゼファーの大音声に、ゴーレムたちの顔が集まる。
 音にか声にか、とにかく反応を示した子を模す死肉へ張り上げたゼファーの一声が、ひりひりと森をも揺らす。声の主が見せる構えは、手練れのものだ。そして帯びる空気は悠然と、彼女がどれほどの強者かを敵へ知らしめる。
「先ずは私を倒してから行きなさいな? 簡単にはいかないでしょうけど」
「イぃいィ!」
 開幕の口上に、ゴーレムが呼応した。ゼファーの挑発に引き寄せられていく足跡が、ひたひたと暗夜の森が織り成す音に溶けていく。
 ふらついたかと思いきや、まっすぐゼファーめがけた子らを横目に、焔が槍を振るう。
「大事な祭事だから、邪魔なんてさせないよ!」
 ごう、と勇ましき音を引き連れて槍は宙空を裂き、穂先に宿った朱の光輝が死者だったものを溶断する。
(それに……死んだひとを使ったゴーレムなんて)
 斬撃は瞬く間ながら、余韻となって尾を引く火が葬った証となって天へ昇っていく。
「……ちゃんと眠らせてあげよう。ボク達で」
 自分たちにしかできないことなのだと、焔の双眸が語る。
 その通りです、と想いを繋げたのは佇んでいたクラリーチェだ。伏せた長い睫毛をゆっくり押し上げて、彼女は柔和な顔に物憂げな色を乗せる。
「ほんの少し、彼らにとっての糧等を得ているだけなのに」
 妖精も、村人も、蜜を蓄え善いものへ変える蜂たちも。
 何の変哲もない日常──それこそがいつぞやクラリーチェが夢見た穏やかな世界だ。ひとりきりでは叶わないと痛感したあの日から失われてしまった、とても温かな。
「どうして、それらを害する存在が多発しているのでしょうか……」
 ぐるぐると脳の奥まで渦が巻き、思量するたび胸が痛む。
 答えは出ないと解っているが、だからこそクラリーチェは糸口を求めた。すべてが平穏に過ごせる、そんな日を望んで。
 だから彼女が施したスイッチマニューバは、軽やかに主の足を舞い踊らせる。ダンスと呼ぶにはあまりにもささやかな足踏みが、翻した裾から黒を呼んだ。
 ──みぃつけた。
 そんな呟きがどこからともなく響き、死を迎えられずにいるゴーレムを喰らう。
 黒き囀りが一体を死へ引きずり込むのと同時、英雄を讃えた詩の加護を鈴音が披露する。
 鈴音の叙事詩を聞きつつルリが翼を止めれば、楽しげに揺れるカンテラも静まった。はばたきに応じる花がこの地になくとも、ルリが抱く彩りは森に咲き続けている。そしてその色が知るのは、灯りの先で掠れたゼファーの傷の音。
「けします」
 宣言の直後に、ルリの結い上げた癒しの術式が風に乗って舞う。
 僅かな時間、ほんのひととき吹いた優しさが、ゴーレムに纏わり付かれていたゼファーから苦痛を消していく。すぐにゼファーがあげた片手でルリへ礼を述べる。
 そして腕を広げたマルクの元から、解き放たれたのは目が眩むほどの光だ。聖なる輝きが、ルアナの元へ集おうとする数体のゴーレムを裁いた。
「させないからね」
 フレッシュゴーレムたちの目的は、叶えさせない。
 篭めた意志が鋭利な矢となって、死肉の子らを永い眠りに就かせていく。

●追跡者たち
 はじめの敵を倒し、さらに進んでいく道中で、肌に吸い付く気配を察した利一がカンテラを掲げる。暗きをも見通す眸が捉えたのは、迫りくる新たなゴーレム。
「増援だよ!」
 喚起は木葉を震わせて皆の耳朶を打つ。
 しかしこの瞬間、抑止を担えるのは自身のみ──そう判じ、利一が胸一杯に息を吸う。
「ゴーレムよ! お前らの相手はこっちだ!」
 堂々たる口上で戦意を高めれば、煽られたゴーレムに抱きつかれる。無邪気な幼子が飛び掛かってきたかのような勢いで、思わず利一も足元が覚束なくなった。
「く……っ、離し……!」
 反射的に引き剥がすと、掴んだ髪を数本ぷちりと引きちぎられた。瞬時に払おうとした彼女の腕をすんでのところで避け、相対したかのゴーレムは何を思ったから妖精に目もくれず森の奥へと走り去ってしまう。
 森が怯え出す。濃くなる戦いの空気にか、異形たちが闊歩するゆえか、その気を察してルアナの翅も震えた。
「大丈夫だよ!」
 そんなルアナを励ましたのは焔だ。
 滲む不安を炎の先端で知った焔は、燃え猛る爆弾を敵陳へ投げつけた後、すぐにルアナへ笑顔を向ける。
「ボク達がちゃんと送り届けてあげるから! ね!」
 遠くで破裂した赤が賑やかな中、焔の言葉にルアナもこくりと頷く。
 仲間たちの声かけもあり、色と光を失ったかのようなルアナの頬も、徐々に朱を取り戻していた。
 そこへ飛翔するのはゴーレムの投げた肉塊。なにせ相手は死肉で築かれた人のかたち。狂気に満ちた動きや攻撃を仕掛けてくるのも、護衛を担うサイズには想定してある事態。だから虚空を知るまなこを細めて、深々と息を吸う。
「そんなの対策済みだよ」
 降りかかる火の粉ならぬ腐った肉片を、己の身で受け止めてルアナを庇うサイズの姿勢は、はじめからずっと変わらない。
(ルアナさんには、指ひとつ触れさせないぞ!)
 サイズの視線は常に敵を射抜き、意識はルアナを守護する。気持ちを狂わせる臭気を掻き消して、再びサイズはゴーレムを睨みつけた。
 その間、ゼファーの打ち出した一の手が敵の骨身を砕き、二の手が心を砕く。
「悪いわね。こっちは譲れないのよ」
 研鑽を積んだゼファーの連撃に抗う術などゴーレムは持たず、崩れていくのを映したゼファーの瞳が、微かに揺れた。
 直後ルアナに執着するゴーレムの気配を感知し、鈴音が地を蹴る。執拗に迫る死の手を毒蛇で払いのけ、蘇った命に終わりを告げる。素早い動きにぽかんと口を開けて見守るルアナへ、鈴音は片目を瞑ってみせて。
「いざというときは、こう立ち回るのも良いのだルアナ」
 毒に侵された身が朽ちるのを確かめ、彼女は妖精を骸から遠ざける。
 死した者の身体が、その欠片が、縫い合わせられてちぐはぐな身なりを生んでいる。眼前の事実があまりにも痛ましくて、クラリーチェはそっと手を合わせた。
 生死と向き合い見つめる生者としても、聖職者としても、許されざるものだと神秘の加護を纏う。すかさず囀る闇が、鈴を思わせる高らかな音で場を飾る。
「死せるものは天に還るのが理。貴方たちも、還りましょう?」
 すべてを溶かして落とす闇の嗤いが、また一体のゴーレムを地へ還す。
 そうして、急襲を乗り切り敵は沈黙した。しかし一度や二度の静寂で終わるなど、イレギュラーズは誰も思っていない。
 安心のため息は暫し取っておき、天からの使者が招く救済のように、マルクが苦痛に喘ぐ仲間の心身を癒していく。
 重ねてルリが燈した治癒の力も戦場を駆ける。カンテラから零れた光をも巻き上げた力は、未来への展望を見せるかのように明るかった。
 それにしても──マルクは天を仰いだ。木々のざわめきに姿や音は紛れてしまう。敵の群れも例に違わずに。ゆえに目視と聴覚のみではすべてを覚れまいと、マルクは呼吸を整えて。
(……臭いが特徴的なら)
 微風がマルクの背を押し、鼻孔へ違和感を届けた。
「そこかな」
 手繰り寄せたにおいの根源を、マルクが指し示す。
 森の闇から飛び掛かってきたのは、僅か二体。天使の福音を鈴音が奏で、森林へ救いをもたらす間に、脇目も振らず発動させた利一の技が腐肉を破壊する。
「守ってみせる。絶対に」
 いかな反動が彼女を蝕もうとも、踏み締めた足裏から昇る熱は滾るままだ。
 一方、いびつな継ぎ目を辿るように拝み、サイズは思い浮かんだ単語を羅列していく。死肉、人型、ゴーレム──ネクロマンスかと考えた。だが、恐らく錬金術なのではとサイズの中で推測が定まりつつある。
 沈思に耽るにはまだ状況が許さないとサイズはかぶりを振り、涙蜜の入った筒を抱くルアナを一瞥した。
(……しっかり守らないとな)
 死の子が投げる腐肉がいかに厄介でも、ルアナを庇うべく阻むサイズを超えられはしない。
 途端に鼻がもげる程の異臭にサイズが呻くのを、マルクは目に留めた。すぐさまサイズへ近づき状況を超分析する。矢継ぎ早に放った大号令が空気を震撼させ、遠ざかったサイズの意識を連れ戻す。
 腰を低くして力を篭め、纏う闘気を火焔へ換えた焔が悲しき肉塊へ猛撃を繰り出す。着火した赤が暗がりを明るくし、ふ、と短く息を吐いてそこへ踏み込んだゼファーが描くのは、流麗な三日月にも似た──苛烈な一薙ぎ。
「ここは死合の場よ。もう、何も解らないのかもしれないけど」
 流浪の身にとって、留まれる死合の場は覚悟した上で立つところ。だから幼子を模した姿も、同じ土俵にいるのならばゼファーの迷いにはならない。一撃は最後まで縋ろうとしたゴーレムを地へ帰す。
 漸く、イレギュラーズの立つ森から戦の音が消え去った。

●別れ
 行く手を阻むゴーレムたちは間隔を開けて襲い掛かってきたものの、連携を絶やさず撃破に至った。
 おかげですっかり辺りは静まり返っている。そんな中、ゴーレムたちの死の痕跡を見下ろした焔の双眸が揺らめく。
「誰がこんな酷いことを……」
 噛み締めた情が掠れた声になって落ちる。
 すると森の暗所を眺めていたマルクが、顎へ手を添えて唸った。
「フレッシュゴーレムってことは、人造物だよね。一体……誰が……?」
 作り手となる存在がいるはずと巡らせた考えは、マルクの眉根を寄せさせる。
 そうですね、と応じたクラリーチェの脳裏を過ぎるのは、先刻まで動いていたゴーレムたちの姿。
「子供型……というのがまた、やるせないです」
「本当。形だけとはいえ、子どもっぽいのがヤな気分」
 そう言いながら肩を竦めたのはゼファーだ。瞥見した先、得体の知れぬ者の悪意から解放されたゴーレムの痕跡を、まなこに焼き付ける。
 触れたときには冷たかったと、戦いの最中に覚えた感触を思い起こして焔は亡骸へ囁く。ちゃんと後で埋葬してあげるから、と。
 そのとき、ルリが細腕を静かに伸ばす。彼女の示した先、虹色の輪がイレギュラーズたちを出迎えた。
 着いた、とサイズが零し、仲間たちも門の光に誘われるかのように、しかし最後まで警戒を解かずに近づく。
 喉を鳴らしたルアナが、門を前に停止した。訪れた別れの時間は、彼女が務めを果たし凱旋する時でもある。感情に震える彼女の傍へ近寄ったのは利一だ。そしてちらりと涙蜜を認めて。
「もっと自信を持っていいよ。それは君が頑張って守ったものだ」
「私が……?」
 一度は瞬いたものの、ふるふると頭を振ってルアナは精一杯の笑みを浮かべてみせる。
「うん、がんばれたよ。やればできる、だものねっ」
 支えになっていた言葉を繰り返すルアナに、利一たちは顔を緩めた。
 ありがとう、と声を張り上げたルアナを、やがて妖精郷の門──七彩に煌めくアーカンシェルが包んでいく。
「こんど会えたら、妖精郷に案内してくれヨー」
 そう告げた鈴音に大きく頷き、涙蜜の運び手は故郷へと帰っていった。
 イレギュラーズたちから受けとった温かさと、己の誇りである艶やかな涙蜜をしかと胸に抱いて。

成否

成功

MVP

羽住・利一(p3p007934)
特異運命座標

状態異常

なし

あとがき

 お疲れ様でした! 妖精ルアナも、今頃誇らしげに里へ帰っていることでしょう。
 ご参加いただき、誠にありがとうございました!
 また、どこかでご縁が繋がりましたら、よろしくお願いいたします。

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