シナリオ詳細
彼岸の桜、春に酔う
オープニング
●彼岸桜
ーーはらり、はらり、はらはらり。
桜色の花弁が舞い落ちる。
桜の精に愛され、桜の精を愛した世界。その名を桜世界『桜花』と呼ぶ。
美しい桜の精の恩恵を受け、人々は日々を送っていた。
『桜花』に四季はなく一年を通して小春日和の春模様。
お祭り騒ぎの大好きな桜の精の為に毎日飲めや歌えやの宴を開かれる。
人々に愛されて咲き誇る『桜花』の桜。その美しさは幻の様だと”彼岸桜”と例えられるのだ。
「まるであの世の如き美しさ」
それはあの世とこの世、夢と現実、果ては現と幻の境さえ惑わせるほどだという。
それが桜の精の悪戯なのか、祝福なのかはわからないけれど。
此岸と彼岸の繋がるこの季節。浮世に迷う者がいたとて無理はないでしょう?
ーーはらり、はらり、はらはらり。
淡い花弁が舞い踊る。
生者を酔いに惑わせて。幻者に現を夢見させて。
あの世の如き桜は待っている。
満開の桜の下、今日も宴の時を待っている。
●お花見をしよう
「やぁ、いらっしゃい。突然だけどお花見しないかい?」
『境界案内人』カストル・ポルックスは穏やかな笑みで一冊の本を差し出した。
金で印字された桃色の装丁の可愛らしい本。
「この春爛漫の桜世界『桜花』は桜の精の坐す国でね。
お祭り好きな桜の精の為に夜ごと宴が開かれているんだ。
今回君たちにやって欲しいのは、その宴への参加だよ」
お酒も出るし、桜酒ってのが美味しいみたいだよ。そういって笑うカストル。
でもね、とその先に言葉を紡いだ。
その桜は現実との境を惑わせる。
美しさに惹かれてここにいないはずの誰かが迷い込む。
宴の最中、酔いの月。皆々それに気づかない。
もしも気づいてしまったら……。
「桜に連れていかれちゃうかもしれないんだって。よくよく気を付けて知らないふりをしなくてはね」
- 彼岸の桜、春に酔う完了
- NM名凍雨
- 種別ライブノベル
- 難易度-
- 冒険終了日時2020年04月07日 22時10分
- 参加人数4/4人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 4 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(4人)
リプレイ
●黒紅
「一年中春で桜の花がずっと見られる世界か。毎日花見ができるってのは楽しそうでいいな」
鋭利な双眸を気だるげに細め、『凡才』回言 世界(p3p007315)は咲き誇る桃色の花ーー彼岸桜を眺めて。
はらり。ひとひらが彼がのべた掌の上にそっと舞い落ちる。無遠慮に一度、指の先で撫でた。
それにしても見事な桜だ。見ていると何故だかじんわりと、感じるものがあるような……。
「現と幻の境を迷わせるってのも、嘘じゃないんだろうな。……ま、俺は甘味さえ食べられればそれでいい」
今回世界のお目当ては名物の桜餅だ。お菓子を詰めたポケットにぽん、と手を乗せると歩き出す。
「ん、ここらへんでいいか……? まぁ、桜が見れてゆっくり甘味が食べられれば上々だな」
桜の樹の影にひっそりと佇むベンチに腰掛けると、適当に桜餅の包みを破る。あ、と口を開けると、そのまま桜餅にかぶりついた。
「ん、美味い」
塩漬けされた桜の花がアクセントになって飽きさせないし、視界を埋める桜も相まって途端に気分が春めいたように感じてしまう。
一口二口、三口と。いささか大きめの桜餅をどんどん味わい、腹に収めてゆく。
(……ん? あれは……)
その時ふと、木立の影に見知った姿を見たような気がして。ぐっとレンズ越しに目を凝らす。
それは、元居た世界に……いや、異世界に飛ばされる前の、世界の生まれ落ちた世界に残した友人の姿の様に見えた。
鋭利な双眸が揺れる。ぼさぼさの黒髪をくしゃりと掻きまわした。そして、ひとつ大きく息をついてーー。
桜餅の最後のひとかけらを、口に放り込んだ。
幻の彼に話しかけるようなことはしない。それどころか近づくことさえ。
そりゃあ本音を言えば俺だって会って話をしたいさ。
でも、それでも。
「結局のところ幻だしな……」
そうなのだ。どれだけホンモノに見えようと、それは本物には代わり得ない。
それがわかっていて会うというのも、なんというか自分が虚しいわけで。
それなら、何もしない。遠くから見るに留めよう。
「……桜餅は確かにおいしいがこれだけだとさすがに物足りないな」
確か桜酒って変わった酒もあるんだったか?
普段は酒を飲んだりはしないけれど、せっかくなら少しだけ頂いていこう。
彼岸を思わす桜に当てられたのか否か。
今は少しばかり、酔いたい気分だ。
●白菫
穏やかに瞳を伏せて、お茶を一口啜る。
ふわりと立ちのぼる春の香に『夢為天鳴』ユースティア・ノート・フィアス(p3p007794)の頬が緩んだ。
「お茶も桜餅も、とても美味しいですね」
お酒は眺めるだけになってしまいますが……。ゆっくりと目線を上げ、満開の桜を見上げる。
桜の花弁が舞い散る世界の中で、ゆるりと時が流れているのを感じて。
慌ただしい日々の中でこのような時間は久しく、とても貴重なもののように思える。
「この様に静かに、花を見て過ごすのは、とても素敵ですね」
笑みを零し、しみじみと染み入るように呟いた。
桜の香を運ぶ風がユースティアの長い黒髪を揺らし、そっと思考に耽るように瞳を閉じる。
人の声、自然の声。
それらがほんのひととき耳をくすぐり、風と共に通り抜けていくのを感じた。
その一瞬に惹かれて、過ぎ去ってしまうのが惜しく感じられて。ユースティアは静かに耳を傾けて聴き入る。
このひと時を忘れないように。刻み込んだ心に、ずっと残り続けるようにと。
ザァッと巻き起こる風が桜を攫ってゆく。
瞳を開けば、ちょうど手に持った湯のみにひとひらの桜の花弁が舞い降りて。ゆらゆら、茶の上を揺蕩っているのであった。
ふと、ユースティアが視線を木立の向こうへとやれば、瞳を大きく開く。
そこには白く大きな狼が佇んでいた。静かな双眸でじっとユースティアを見ている。
この雄々しい獣はユースティア以外には見えていない幻なのか、周りの人々が騒ぎ出す様子はない。
ただ、まっすぐにユースティアを見詰めるのみ。
身の丈の大きなその姿は、恐ろしくもあったけれど。
「……桜餅が、気になるのですか?」
見紛うことなく、確かにその白く立派な尾を振って、鼻をひくつかせているのだ。
お腹が空いているのだろうか? ユースティアはそうっと自分の桜餅を掌にのせて手を伸ばしてみる。
ぴくり、白狼が小さく身を震わせた。
一歩ずつ。こちらを圧しない程度の歩調で近づいてくる。そうして目の前までくると、ぱくりとユースティアの掌上の桜餅をくわえた。
はぐ、と一気に食べ終えればぺろりとユースティアの掌を舐め、その場に座り込む。
白い尾は相変わらず嬉しそうに揺れていて、ユースティアも臆することなく触れることができた。
「とても気持ちがいいです……!」
もふもふ、ふわふわ。笑顔で柔らかな毛並みに手をうずめ、存分に堪能するのだ。
しばらく時が経って白狼がのそりと立ち上がり、ゆっくりと木立の向こうへ消えてゆく。
このひとときの出逢いを、ユースティアは新たに深く心に刻んだのだった。
●深緋
「彼岸の櫻ですか。もう少ししたら僕もお世話になるのかな。最も今はこの桜餅のほうが気になるけれど」
さらり、風と共に『今は休ませて』冬宮・寒櫻院・睦月(p3p007900)の髪が揺れた。
桜はどこの世界でも、その美しさに死の影を見せてしまうものなのだろうか?
不惑までには死ぬ定めと聞かされて育った睦月だが、今はもう状況が違う。混沌に喚ばれて早一か月、この先一体どうなるかはわからないけれど。
さて今は、ぱくり、手にした桜餅をひとくち。何を隠そう、和菓子は大の好物なのだ。
……けれど。
「これね、好きな味じゃないの。**ちゃん作って?」
隣に座っている幼馴染の彼にわがままをいってみる。
いつから隣にいたんだろう? いつでもいいか。これが桜の幻(ゆめ)なのか、影をもたない彼はきっと僕だけの**ちゃんだから。
そっと左手薬指の指輪に触れる。笑みがこぼれた。今日はいっぱい甘えてみよう。
**ちゃんは料理が得意だし、きっと桜餅もお手の物。僕のために作ってくれるの。
彼の作った桜餅をぱくり。ふわふわと勝手に笑ってしまう。
「うん、うん、この味。おいしいねうれしいね」
まるでおままごとみたいだなと思う。はじめて会った時からそうだったの。
**ちゃんは泥団子を作る役で、僕は食べる役。そうやってこどもみたいに遊んでいるような気がする。
でも**ちゃんの料理はね、僕のことを考えて作ってくれてる気がするんだよ。
だからおいしいとかおいしくないとか、本当はよく分からなくたって**ちゃんの料理はおいしいの。僕にとってはそれが”おいしい”なんだよ。
はらはらり。桜の花弁が舞い踊る。
「ねえねえ、膝枕して」
いつもはお小言を言う彼も、仕方ないなぁって笑ってくれるんだ。だって今日は僕の**ちゃんだもん。
ごろんと影をもたない**ちゃんの膝に頭を置く。ひんやりした温度と柔らかな感覚が頬に伝わって、ふふっと笑った。
だって全然違うんだ。本物はもっと硬くって、でもたしかに温かいから。
彼と**ちゃんはやっぱり違うのだ。
でも、いいや。
もう少し、夜が明けるまでは。
「傍にいてくれるんだよね? ……しーちゃん」
ここにはいない幼馴染の名を呼んだ睦月の頭に、はらり、ひとひらの花弁が舞い降りた。
●櫻桃紅
「美しい景色だ。桜狩りも悪くないな」
故郷の見事な桃の大樹を思い出しながら『七星御剣』ゲンセイ(p3p007948)はくいと杯を傾け、少しばかり酔い心地のまま咲き誇る桜に目を向けた。
ふと、樹の影に人の姿を見たように思って目を凝らす。今確かに、誰かが……。
ゲンセイははっと双眸を揺らした。
風に艷やかな黒漆の髪を揺らし、白蓮の旗袍を典雅に纏う、見知った彼女は。
まるで天女のように微笑んでいたから。
「師匠。俺一度でいいから師匠と酒を酌み交わしたかったんですよ」
ここに居ないはずの師匠はきっと、桜が見せる一瞬の幻(ゆめ)なのだろう。
ならばどうか少しくらい俺のわがままを許してくれ。
一杯の杯を交わさせてほしいのだ。
こくりと頷く師匠に、心から嬉しくて。いつぶりだろうか、ゲンセイは無邪気な子供のように笑った。
カツン。
交わした杯が音をたて、互いに桜酒に唇を浸す。話したいことがたくさんあった。
よくわからない世界に飛ばされたこと、そこで特異運命座標となったこと。
ゲンセイの話を師匠はどれもふふと微笑みながら聞いてくれた。
酔いも回りだした頃、師匠が驚いたようにゲンセイの後ろに視線をやる。
「師匠? どうしたのですか……あぁ」
こてんとゲンセイの背に頭を預けて眠るのは彼が相棒と想う彼女ーー七星剣の化身シュウレイだ。
胸には豆吉をしっかと抱き、口にあんこをつけては寝息を立てている。
「俺のせいでちっこくなったらしくて。本人、結構満喫してるみたいですけど」
今も口にあんこをつけているのを見るに、桜餅がよほど美味しかったのだろう。思わず苦笑が漏れる。
その姿に、何故か安堵したように師匠もまたくすくすと笑みを零して。
ひらひらり。舞う桜の中でふたり笑いあうのだった。
師匠がおもむろに立ち上がる。
楽しい時は終わるもの。”いつか”なんてほど優しくもなく。
それでも一瞬でも長く、一緒にいたくて。
ゲンセイは手を伸ばした。
伝えたかったことがまだ、伝えられていないだろう?
「師匠。俺、今はもう、誰も憎んでないですよ」
その言葉を最後に桜吹雪が舞う。ひとひらの花弁を掌に残し、一瞬の幻(ゆめ)を掻き消して。
最後に見えた師の顔が笑っていたと思うのは、あまりに身勝手だろうか。
目尻をそっと拭う。二胡を手に取り、緩やかに白銀の弓を動かした。
――遠き故郷に
――兄弟子達に
――気高き師に
あの永遠とも思えた桃花舞う日々を偲んで。
成否
成功
状態異常
なし
NMコメント
凍雨と申します。
桜の季節ですね、ちょっと不思議なお花見をしませんか。
●目標
お花見を楽しみましょう。
桜の精はお祭り騒ぎが大好きです。大事な人と、友人と、ひとり花見酒でも。
ご自由に桜を愛でて下さいな。
●世界観
春爛漫の桜の世界『桜花』。
大きな桜の樹の下で自由に桜を楽しめます。
参加者には桜花名物”桜餅”が振舞われるほか、成人PCは桜薫る美味しい”桜酒”も楽しめますよ。
●特殊ルール
彼岸桜と称される桜の美しさとお祭り騒ぎにつられて”ここにいないはずの誰かの幻”が宴に迷い込むことがあるそう。
もしも会いたいどなたかがいらしたらプレイングにご記載ください。
文字数に余裕があれば相手の口調なども書いて下さるとイメージに沿えるかと思います。
けれど大事なことがひとつ。
決して”幻たちに自身が幻であることを気づかせてはいけません。”
さもなくば桜に連れていかれてしまうかもしれません。
もちろん普通に桜を楽しんでいただくのも大歓迎でございます!!!
●サンプル
やぁ、……キミも来ていたなんてね、驚いたよ。
てっきりキミはもうこの世には……いや、なんでもないさ。
今日ぐらいは無礼講さ、こんなに綺麗な桜だ。花見酒でも酌み交わそうじゃないか。
桜の精さんは賑やかなのがお好きなのですね……!
せっかくですから私の歌をご披露しようかしら! あら、桜餅もなんて美味しそうなのかしら。
それでは桜餅を頂いてから、歌わせていただきますね!
それではご参加お待ちしております。
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