PandoraPartyProject

シナリオ詳細

SunsetBeerParty

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 岸壁に打ち寄せる波の音。カモメの鳴き声。
 クローム・オレンジの光が水面に揺れている。

 海洋首都リッツバーグに知る人ぞ知る名店あり。
 快活な笑顔がトレードマークの看板娘の声がホールに響いた。
「はい! ワイズ・ラガー大ジョッキお待ちどうさま!」
「やっぱ、ヨナちゃんの笑顔は良いねえ」
「ははは! そんなこと言ってもおまけなんてしてやらないよぉ!」
 板間に靴と義足の音が鳴る。
 オーク材と石造りの店内は夕陽に照らされ、何処か懐かしさが漂う。
 華美な装飾や美女の踊り子が居るわけではないが、ほっと一息つける心地よさ。

 木戸を開いた『虚言の境界』リュグナー(p3p000614)は店内の活気に耳を傾けた。とても賑やかで明るい店だ。
 開けてもらったドアをくぐって、『ガスマスクガール』ジェック(p3p004755)が店へ踏み込む。
「賑やかジャン」
 レンズが灯りに煌めいて。果たして、ジェックはお肉と魚介の美味しそうな匂い――を感じられるのだろうか。
 この依頼では彼女の食を確保するのも、また重要なミッションかもしれない(?)!
「オーッホッホッホッ!!」
 おでこがきらり。
 ジェックに続いて灯りの下に立った『きらめけ!ぼくらの』御天道・タント (p3p006204)が腰に片手を当てた。
 活気あふれる店内、その宣伝にうってつけの存在。
 それこそ――フィンガースナップ!

   \きらめけ!/

   \ぼくらの!/

 \\\タント様!///

「は、わ」
 窓から差し込む夕陽の眩しさに目を細めた『差し伸べる翼』ノースポール(p3p004381)は隣の『炎の御子』炎堂 焔 (p3p004727)へと身を寄せる。
「大丈夫」
「うん、ごめんなさい」
 店内に黄昏の暖かな光が満ちている。
「賑やかだねー」
「そうですね!」

「やー、ようこそおいで下さいました! 今日はよろしくお願いしますよ!」
 にこやかに目を細めて、奥から出てきたのは大将だ。
「くははは! 我に任せておけ!」
 この日、イレギュラーズは店の宣伝に、来店を依頼されたのである。
 要するに楽しく食べて呑めば良いのだが、これも歴としたお仕事だ。
 この店は古くから知られる大衆居酒屋で、酒と食事は美味しいが、強いて言えばやや年齢層が高いという所がある。
 商売は順調で近々二号店が計画されており、そのあたりの、こう、その。あれなのだ。
「新規開拓といっても、具体的にはどんな層を狙っているのだろうか」
「沢山の人、カナ」
「此処は素直にお金持ちですわ!」
「小さい子とかも入れたりでしょうか」
「分煙は必要だよ」
 そこで様々な文化に幅広く親しんでいるイレギュラーズの老若男女(?)にオファーがかかった訳だ。
 ついでにご意見――といっても食べている姿をちらりと観察するだけだ――も頂戴できれば、店としてはきっと万々歳なのであろう。

 ともあれ一同はご予約の席に座り、さっそくメニューに目を通し始めた。
 さて、あとはあそこの黒板に季節のメニューが――
 その時、店のドアが静かにひらき、柔らかな光りが流れた。

「おや?」
 ドアを開けたクロバ=ザ=ホロウメア(p3p000145)が目を細める。
 奥の席に座る面々に見覚えがあるではないか。
 いや、見覚えなんてもんじゃない。
「あらまぁ……」
「意外なこともあるものですね」
「ほんとよぉ」
 クロバにお礼を一つ、奥を見るなり目を丸くしたアーリア・スピリッツ(p3p004400)と、帽子をとった新田 寛治(p3p005073)は間違いなく『飲み』繋がり。ひょっとしたらクロバはPPP, Ltd(おしごと)にも関係しているかもしれない。
 さて。寛治とクロバが手をあげると、席の一同が手招きする。
「珍しい取り合わせだな」
 クロバに応じたお仕事組が依頼内容を伝える。なるほどなるほど。
「せっかくですから、皆さんもご一緒されては?」
「いらっしゃい! いいねえ、楽しくなりそうじゃないか!」
 大将の提案にヨナが書き付けを片手に現れた。
「じゃあ、飲み物を聞いていいかい!?」

GMコメント

 もみじです。偶然の居合わせ。まさかこんなことがあるなんて。

●目的
 楽しく飲み食いする。
 お仕事組も後から組も一同に。
 目的は同じなのです!
 というわけで、優勝していきましょう。

●毎日週末亭
 海洋はリッツバーグの活気ある居酒屋さんです。
 料理とお酒に定評のあるお店。

 皆さんはご予約の大テーブルに通されました。

●メニュー
『フード』
 グリーンサラダ
 生ハムのサラダ
 ウィークエンドサラダ
 オニオンスライス
 アボガドの生ハムロール
 水牛モッツァレラのカプレーゼ
 バーニャカウダ

 盛り合わせ
  生ハム、サラミ、チーズ、ナッツ、自家製ピクルス

 揚げパスタ

 フリット
  イカ、海老、アボガド、芽キャベツ、ゴボウ

 フライ
  オニオン、ポテト

 鶏肉の唐揚げ
 軟骨の唐揚げ

 ブイヤベース
 1ポンドタリアータ
 スペアリブ

 明太ポテトチーズ
 ラタトゥイユ
 アボガドのポテトグラタン
 ムール貝のガーリック焼き
 トリッパ
 ラザーニャ

 アヒージョ
  海老、たこ、牡蠣、アサリ、タラ、イワシ、チキン、砂肝
  マッシュルーム、トマト、カリフラワー、アスパラ、べーコン
   ※温め直し可、茹でたてパスタを投入できます。

 ピッツァ
  マルゲリータ、マリナーラ、ビスマルク
  シーフード、ゴルゴンゾーラと蜂蜜

 パスタ
  アーリオオーリオ
  からすみと春キャベツのアーリオオーリオ
  キノコのアーリオオーリオ
  ボンゴレ(赤、白)
  カルボナーラ
  ボロネーゼ
  ペスカトーレビアンコ(赤、白)
  海老とトマトとクリームのパスタ
  アラビアータ
  生ハムとトマトの冷製パスタ

 パエリア
  海鮮、チキン

 リゾット
  トマト、チーズ

 グラタン
  海老、チキン、ミート

 バケット
 ガーリックトースト
 ブルスケッタ

 各種ジェラート
 アフォガート
 アマレッティ
 ティラミス
 グラニータ・ディ・カフェ
 チーズケーキ
 シフォンケーキ
 とろとろぷりん
 フレッシュフルーツのパフェ

『ドリンク』
 生ビール(ワイズ・ラガー)
 ハウスワイン(赤、白)
 スパークリングワイン
 リモンチェッロ
 グラッパ
 ノチーノ
 ジン各種
 ラム各種
 アーモンド酒、オレンジ酒、ハーブ酒
 他、各種ワイン、各種スピリッツ類、リキュール類
 各種カクテル類
 ソフトドリンクは紅茶、カプチーノ(ラテ可)、フレッシュジュース

●関係者
『ヨナ・ウェンズデー』
 このお店の看板娘のおねーさん。
 アーリア・スピリッツ (p3p004400)さんの関係者です。

●ご注意
 未成年の飲酒喫煙はできません。
 UNKNOWNは自己申告です。いや、まあ、リュグナーさん飲めますよね……はい。

●情報精度
 Bです。
 依頼人の言葉に嘘はありませんが、書かれているメニューが全てではありません。
 ありそうなものが、あるということ!

  • SunsetBeerParty完了
  • GM名もみじ
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年03月23日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費---RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

クロバ・フユツキ(p3p000145)
深緑の守護者
リュグナー(p3p000614)
虚言の境界
ノースポール(p3p004381)
差し伸べる翼
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
ジェック・アーロン(p3p004755)
冠位狙撃者
新田 寛治(p3p005073)
ファンドマネージャ
御天道・タント(p3p006204)
きらめけ!ぼくらの

リプレイ


 さらさらと波の音が優しく響く。
 目まぐるしく過ぎ去っていく『日常』の隙間に出来た『非日常』が此処にはあって。
 剣檄も大砲の音も決して邪魔などしない場所。

「ふふ、ヨナちゃんも元気そうで何より! ……ってちょっとぉ、二号店計画なんて聞いてないわよぉ!」
 激しい戦いはつい先日のように感じるのにと。『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)は注文を取りに来た友人ヨナ・ウェンズデーに笑顔を向けた。
「そうさ! 今まで内緒にしてたからね」
「ま、とにかく折角の縁だし! 飲んで食べて楽しみましょ!」
 ふわりと花の香りをさせながら、アーリアは『きらめけ!ぼくらの』御天道・タント(p3p006204)の椅子の背もたれに触れる。
「まあまあ! アーリア様はわたくしの隣! お隣にどうぞ!」
「ふふ。じゃあ遠慮無く」
 大人の気品。憧れのレディであるところのアーリアが自分の隣に座っている事実に。タントは頬を薄紅に染めた。年頃のタントにとって、アーリアが指先を動かす所作一つ取ってみても全てが美しく見えるのだろう。
 仕事でやってきた毎日週末亭に揃った面々に『差し伸べる翼』ノースポール(p3p004381)は目を瞬く。
 突然の事で吃驚したのも束の間。胸の奥から嬉しさが湧き上がって目を細めた少女。
 隣に座る『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)もつられて笑顔になった。
「こんな偶然もあるんだね」
「ビックリです!」
「でも食事は皆でした方が美味しいもんね、一緒に食べようよ!」
「はい! 折角ですから、思いっきり楽しみたいですね♪」
 まずはドリンクの注文からだろう。
 メニューをぱらぱらとめくるノースポールは隣に座る焔と一緒にソフトドリンクの欄を指さす。
 フレッシュジュースのメニューにはバナナやパイナップルなど、果物をそのままミキサーに掛けたものが載っていた。
「私はバナナのフレッシュジュースにします」
「じゃあ、ボクはとりあえずオレンジジュースで!」
 くすくすと笑い合う二人。メニュー一つ選ぶのにも笑顔が零れる姿は微笑ましいと『真実穿つ銀弾』クロバ=ザ=ホロウメア(p3p000145)は表情を和らげる。
「さて今日は飲みに明け暮れるとしますか」

 ここは、やはり最初の一杯は生ビールだろうか――

「とりあえず……」
「ビール? いや、今でこそビールですよ。クロバさん」
 黒縁眼鏡が印象的な『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)は知的な笑みでブリッジを上げた。
 店内に差し込むクローム・オレンジの陽光が眼鏡のレンズに光って眩しい。
「それにクロバさん、良いんですか? 無理にアルコールを頂く必要もないと伺っておりますが……」
「いいや、今日の俺は飲むね。いいところの酒を飲める機会というのも少ないし!」
 味覚がほんの僅かに戻って来た今だからこそ。味わえるものがあるのだから。チャンスは逃すべからず。

「依頼である以上手を抜くつもりは無いが」
 瞳を隠す包帯をカサリと触った『虚言の境界』リュグナー(p3p000614)の口元が僅かに緩んでいる。
 この状況を楽しまないなんて有り得ないと。
「まずは居酒屋らしく生ビールでも」
「はいよ!」
「む、年確はしないのか?」
「あんた飲めない歳じゃあないだろう?」
「まあ……勿論飲めるがな」
 こんな些細なやりとりでさえ、何だか面白いような気がしてしまうのは、場の空気に当てられたせいだろうかと。リュグナーはくつくつと笑った。
「取りあえずウけてみたケド……この依頼アタシ役にタタなくない?」
 首を傾げた『ガスマスクガール』ジェック(p3p004755)は、険しい表情をガスマスクの中で見せる。
 顔を覆うそれのせいで匂いも殆ど分からないし、ストローに通らないものは食べる事が出来ないのだ。
「そんなことは無いだろう。情報とは味や匂いだけではない。肌に触れる空気。周りの声。目に見える範囲でも楽しむことは出来るのではないか?」
 ジェックのつぶやきにリュグナーが応える。
「うーん……マァいっか! オイしいものとお喋りタノしもっと」
 ジェックはマンゴーのフレッシュジュースをヨナに示す。
「まずはワイズ・ラガー大ジョッキ! ここへきてこれから始まらないなんて人生の何割も損してる! ……未成年と下戸の方は仕方ないけどぉ」
「うちの看板商品だからね。美味しいよ。嬢ちゃんはどうする?」
 ヨナの問いにタントはフレッシュミックスジュースをオーダーする。

「それでは乾杯の音頭を……どなたがされますかしら?」
 氷の入ったグラスを手にしたタントの声に注目が集まる。こういう場ではきっと言い出した者がその任を担う。そういうものなのだ。
「こほん。では、私から。行きますわよ!」
 各自がグラスを高らかに持ち上げる。
 水平線に沈む太陽の残光がタントに降り注いだ。キラリと光る。

  \きらめけ!/

  \ぼくらの!/

\\\タント様!///

「乾杯」
「かんぱーい!」

 凛とグラスが鳴らされて。ジェックは心地よい音だと耳を澄ました。
「カンパーイ! ……ヨナちゃーん、もう一杯!」
「早いよ! アーリア!」
 ヨナとアーリアの息の合った応酬にドっと笑い声が湧く。


「いやー賑やかな席になりましたね。こういうお店なら、この雰囲気の方がいい」
 寛治はジョッキをカタリとテーブルの上に置いた。
 汗をかいたガラスが木目に染みを作る。
 視線を前へ向ければ、真剣な眼差しでメニューを見つめるクロバが居た。
「アボガドの生ハムロール、、鶏肉の唐揚げにアヒージョとボンゴレ(白)にガーリックトースト……」
 味覚が少し戻ったという彼は、水を得た魚の如く大量のメニューを羅列する。
 自分が美味しいを思うものを誰かと共有出来る事は、尊いものだと実感しているから。
 いつかきっと。この店にも『彼女』を連れてきたいとクロバは思うのだ。
 空になったジョッキを前にクロバは次のドリンクを吟味する。
「カクテル系で攻めるか」
 甘いお酒というものは度数が高いものも多い。
「あら、クロバくんはどんなお酒が好みなの?」
「えーっと……カシスオレンジとか。あ、オレンジ酒も気になる」
 アーリアの問いに酔いが回って来だしたクロバが答える。
 メニューに書かれてある文字があまり追えない。
「とりあえず、コレで!」
 クロバが指さしたのは、スクリュードライバーだ。羊の皮を被った狼タイプのカクテルである。

「とりっぱ? たりあーた??」
 家族向けのレストランやカフェでは見かけないような居酒屋メニューに目を輝かせるノースポール。
 こんな可愛らしい姿をしているが歴とした成人女性。
 しかし、飲めない体質も相まって中々足が向かない場所に来ることが出来て気持ちも高揚していた。
「とりっぱ……とり……鳥さんのお肉とか使ったお料理かなぁ」
 お洒落な文字が踊るメニューを抱えて焔が首を傾げる。
「……トリッパ、私は好きだけどうら若き乙女には刺激が強いんじゃないかしらぁ」
 アーリアの小さな声に隣に座るタントがスカートを握りしめた。
 刺激の強いものとは。大人的な表現である。

「たりあーたって何だか名前の響きはパスタっぽいけど」
 書いてあるのはパスタの所ではない。
「気になるモノがあれば知らずとも頼むが良い、此度覚えれば新たな知識となろう」
 リュグナーの言葉にこくこくと頷く二人。
「他のお店だと見たことないようなお料理が色々あって楽しいよね、どんなのなんだろう」
「まあ、タリアータとはおそらく肉類だろうな。一ポンドともなれば二人だけでは食べ切れぬかもな」
「はわっ! 大量のお肉!」
「おいしそう……」
 赤とオレンジの瞳が交わり、興奮気味に輝いた。
「これ、頼んでみてもいいですかね!?」
「いいとも」

 メニューを見ながらタントは嬉しそうに表情を緩める。赤い靴の先がふわふわと浮き上がっていた。
「このウィークエンドサラダってなんですかしら?」
「ええと、そういえば何が入ってるのかしらぁ?」
 長年通っているアーリアもこのサラダの詳細を知らないとは。タントはごくりと喉を鳴らす。
「……ふむ、ここは敢えて訊かずに頼みましょう!」
 未知の領域にいざ往かん!

「いやー、実は私、今日船釣りに行ってきましてね」
 両手を開いて、にこやかに話を始める寛治。
「良型の鯛が釣れたので、お店に調理をお願いしておいたんですよ」
 港町ならではのコネクション。それを遺憾なく発揮する手腕。
 ただ者では無いオーラが男から発せられている。
「どんな風に料理されて出てくるか楽しみです」
 確かに楽しみだとリュグナーは頷く。寛治が釣ってきた魚が有るのならばとリュグナーはメニューに視線を落とす。
 年齢層が高いという悩みがあるこの店。
 子供も好きそうなポテトフライやミートグラタンも頼んでみるのも悪くないだろう。
 出てきたミートグラタンを一口頬張り咀嚼する。
「ふむ、香りと味付けがしっかりしつつも他の料理の邪魔をしない濃さ」
 量も丁度よく、飽きが来な工夫がされている。バランスが丁度良い。
「んん~! 本当です! 美味しいですっ!」
「はふぅ。美味しいねえ」
 取り分けたミートグラタンを焔とノースポールも頬張った。

 ――――
 ――

「そんなわけで、私が毎日週末亭に期待したいのは、やはり海の幸」
 会話が途切れた隙間に入り込む巧みの話術。それが新田寛治という男。
「この店のメニューを見たときから気になっていたのですが、アヒージョに追いパスタが出来るのがいい」
 あの濃厚なエキスの詰まったアヒージョに絡まるパスタは絶品だろう。
 となると、悩むべくは具の方か。
「ここはヨナさんにお勧めを選んでいただきましょうか」
「アタシかい? そうだねえ。おすすめはエビとマッシュルームだね」
 みっちり身が詰まった海老と歯ごたえのあるマッシュルームから溶け出す旨味。
「いいですね。ではそれで」
「はいよぉ」


「ナニが食べれるカナ……」
 ガスマスク越しにテーブルの上に並ぶ料理を眺めるジェック。
 色取り取りのサラダやカクテル、美味しそうな肉の匂いが微かに入り込んで鼻腔を擽った。
 そんなジェックを隣で見つめるのは、タントである。
 特別仲良しのジェックが美味しい料理を食べられずにいるのは悔しい。
 何か食べられるものは無いかとメニューを見つめるタント。
「このとろとろぷりんなど、少し混ぜればいけそうですわね!」
「ぷりん?」
 しばらくして運ばれてきた滑らかなプリン。キラキラと光るカラメルと優しい光沢を放つベージュ。
 それを容赦無くかき混ぜるジェック。情緒は時に空腹の前に無力である。
 ガスマスクの隙間から差し込んだ細いストローで吸い上げて。
「これならノメる……かな? 甘くてイイね」
 レンズ越しにジェックが微笑むのが分かった。

「……ですが、甘味や飲み物ばかりでは勿体無いですわ」
 タントが取り出したるはタピオカ用の太いストロー。
「これを使って食べられるものを探してゆきましょう!」
 拳を握りしめるタントを微笑ましく見つめるジェック。

「でしたら、ジェックさんには、私からはブイヤベースをお勧めしましょう」
 寛治がスープ皿をジェックに差し出した。
「ぶいやべ」
 魚介の旨味がスープにしみ出して濃厚な味わいになるブイヤベース。
 こういった手の料理は熱い内が美味しい。
「ささ、ぐぐっとどうぞ」
 ぐぼぼぼ。
 凡そ儚い少女から発せられる音ではない吸引音。具が詰まっている。大きすぎたんだ!
「……不思議でフクザツな味だけど……オイシイ」
 僅かに吸い込んだ旨味スープに頬が染まる。

 目の前で繰り広げられるジェックストロー作戦に参戦しようと焔がうんうんと唸っていた。
「ジェックちゃんが食べられそうなもの……」
「パスタは如何ですかしら! グラタンは!?」
 細いパスタならばあるいはと思う焔。しかし、思いっきり吸えば気管に入り込んでしまわないか心配でもある。
「パスタは……ストローには通りソウ、だけど吸エルかな?」
「いけますわ!」
 タントの押しにこくりと頷いてストローに口をつけるジェック。
 ひゅごぉ。ジェックの吸引力は微弱である。
「ムムム……ど、どこまでツヅくのコレ……!」
 一本吸うだけで肩で息をするガスマスク。

「ジェックちゃんは食べられてるかしらぁ?」
 髪をラガーの色に染めたアーリアはこてりと首を傾げた。
「ほら! アヒージョ吸って!」
「あひーじょ?」
 ジェックの目の前には煮えたぎるアヒージョの姿。
「……エッコレ食べるの? チョウ熱そうヨ? エッ……」
「大丈夫だいじょうぶ……5日くらいの火傷でなんとかなるわよぉ!」
「じぇっく……ニャニャニャ!!」
 アーリアとクロバの押しに、さっきのプリンもブイヤベースも美味しかったしと、ストローをつけるジェック。
「アヒージョ……っは、ああ! やめた方が!?」
 タントの声を聞き取るより早く、ジェックは勢いよくアヒージョを吸い込んだ。



「――――アッッッッッツ!!!!!」




「このあたりで白ワインに行きたいところですね。お付き合い頂ける方は?」
 寛治の声にリュグナーとアーリア、クロバが手を上げる。
「はいよ。おまちどおさま!」
 タイミング良く運ばれてきた鯛料理。
 カルパッチョである。新鮮な身に程よいワインビネガーの酸味。彩りは赤いプチトマトと緑の水菜。
「鯛! いいわねぇ白ワインでいきましょう!」
 口元をほころばせて喜ぶアーリア。

 時間は進み料理も次々と運ばれてくる。
「丸っと一匹鯛のアクアパッツァだよ」
 ガーリックの利いたホクホクの鯛が野菜と貝に合わさっていた。
「わぁ!」
 ノースポールと焔が感嘆の声を上げる。

 その横をチーズと蜂蜜のピザが通り抜ければ、目線はそちらに釘付けになった。
「はわわ! ピザが黄金色に輝いてますっ! いろんな意味で危険な予感!」
「綺麗」
 アーリアがそのピザを「食べる?」とタントに問えば、頬を染めて頷く。
 魅惑のピザ。チーズと蜂蜜が蕩けて濃厚。
「炎堂さんっ……ヤバイですこれ!」
「ほんと、人を駄目にする味だよお」
 きゃあきゃあと少女達の声がテーブルに響いた。

「あーりあおねーさん! 俺に酒のじゅぎょうをおねがいします!!」
「あらあら。クロバくん酔ってるわね?」
 くすりと微笑んだアーリアはクロバの白ワインをそっとチェイサーに替える。
「ところで、クロバさん最近どうですか?」
「そうだな我も聞きたい所だ」
 ずいと乗り出した男性陣にクロバは口の端を上げた。
「ぁんですか、ぱんつマンにマネージャー……ノロケばなしィ? へへへ~……グラクロの時下宿先にお邪魔して一緒にチョコ作りましたね!!!!」
 呂律が怪しくなってきたクロバの惚気話に興味津々といった様子で焔は耳をそばだてる。
「えっ、クロバくんの恋のお話? そういうお話聞くのは大好きだよ!」
「ククっ、飲みの席には仕事の話と”恋愛”話と相場は決まっているらしいな……ふむ、ここに丁度良い人材がいるではないか?」
 リュグナーの手がクロバと焔に向けられた。
「んー? 焔ちゃんもそういうのー、分かるとしごお、になってー、きらの?」
 焔にはまだ恋人や恋愛はよく分からない。
 けれど、心の中に仄かに灯る温かさがある。戦場で苦しい時に浮かぶ顔がある。
「って、い、今はボクの話よりクロバくんの話でしょ!」
「そうですよお! クロバさんどうなんですかぁ!」
 陽気なノースポールの手にはファジーネーブルが握られていた。
 とろんとした瞳。ふわふわ心地で。可愛い見た目でお酒を飲んでいる。
「おさけ、おいしいですねぇ~……♪ えへへへぇ」
「あれぇ、ほむらちゃん酒は飲まないの!? あ、まだ一年早いのか。ごめーーん!!!」
「もおー! クロバくん飲み過ぎー!」
 普段の殺伐とした戦闘姿からは想像も出来ないようなクロバの姿に焔はタジタジだ。

 タントはじっとその様子を見つめていた。
「……わたくしも、お酒の飲める姿で召喚されたかったですわ」
 酒の席は楽しげでキラキラしているように見えてしまうから。
 そんなタントにジェックは寄り添っていた。
「デザート、たべヨ」
「ふふ、ジェックさんは優しいですわね」
 お揃いのストローで吸い上げるのは、特別にマスターが作ってくれたトロトロイチゴアイス。
 苺の甘酸っぱさが口の中に広がって自然を笑みがこぼれる。
「あれ、そういえば……何か依頼を受けていたような」
「そうだっケ? これオイシイ」
「まぁ良いですわね! オーッホッホッホッ!」
 タントの笑い声が店の中に響いた。

 クロバは彼女の名前に似たシフォンケーキをデザートに選び、ノースポールと焔はプリンを頬張りながら談笑する。
「そういえば、リュグナーさん、最近酷いミスをしたとか?」
「待て……祝いの寿司を持って転びローレットに醤油をぶちまけた件、なぜ貴様が知っている?」
 クイと眼鏡のブリッジを上げた寛治。地元のダチコーの情報網は伊達じゃ無い。

 アーリアは赤ワインを傾けて窓の外を見上げた。広がる夜空に想いを馳せる。
 特別な事など何も無い。つかの間の平穏を。楽しい時間を噛みしめながら。
 インデペンデンス・ネイビーの空に、瞬く星屑が流れていった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

ジェック・アーロン(p3p004755)[重傷]
冠位狙撃者

あとがき

 お疲れ様でした。如何だったでしょうか。
 皆さんの特別じゃない。特別なお話をお送りしました。
 ありがとうございました。

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