シナリオ詳細
ナンテコッタ!
オープニング
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「してイレギュラーズ殿。タピオカ? なるものをご存じですかな?」
フィッツバルディ派の貴族を名乗る老紳士は、開口一番にそういった。
知っている。あの、あれだ。もっちもっちした粒だ。
もしくはそいつがアイスミルクティーにゴロゴロ入ってる飲み物。
それをスンゲエ太っいストローで吸って頑張って飲むんだ。
流行ってるんだかそろそろ廃れてきたんだか。
そういう奴だ。
「そのなんでしたかな。そうそうパンナコッタでしたな! それを公がお召し上がりになりたいと」
ナンテコッタ!
イレギュラーズに戦慄が走った。
「てか。なんて?」
聞き返すイレギュラーズに、老紳士は額から滝のように流れる汗を拭う。
「つまり公が、ナタデココをご所望であると、申し上げたいので、ありまして……」
なあ、おっさん絶対わかってないやろ。
なあ!
イレギュラーズが詰めよると、おっさんは蒼白な面持ちで目線を逸らした。
ともあれだんだん話が読めてきた。
どうやら公に流行のスイーツを献上する依頼らしい。
問題は明白で、このおっさんが絶対に名前も正体もなんも分かってない事だ。
「こちらが当方で可能な限り調査した資料。マカロンのレシピと名店の地図にございます」
おっさんが汗を拭いながら付け加える。
「ですがレシピは、その。参考にしてもしなくても構わないのです」
「なんだ、炭酸でも入れろってか。それとも杏仁豆腐でも作らせる気か」
このおっさん、実際の所なにも分かってないことを自覚していやがるのではないか。
イレギュラーズは投げやりに問いかけつつ、差し出された羊皮紙の巻物を開く。
――ティラミスのレシピ。
材料。牛乳。
作り方。焦がさないよう、半固形になるまで煮詰めます。
「蘇……!!」
それから渡された地図。どうやら名店の場所らしいのだが。
そういやそこは、鯛焼きの生地が白い奴の屋台だった気がする。
イレギュラーズが険のある視線を突き刺すと、おっさんは口を鯉のようにぱくぱくさせた。
「なあ、おっさん。ちょっと落ち着いて座ろうか」
イレギュラーズはおっさんを座らせると、真正面から問いただす。
「実際、なんも分かってないんだよな」
「面目ない!」
おっさんはたちまち音を上げた。
実際レイガルテ公は本当に流行のスイーツを所望しているらしい。
ただ何といったのか、誰も聞き取ることができなかっし、聞き返すこともできなかった。
それでもおっさんはレイガルテ公の歓心を得ようと、どうにかお洒落なスイーツを調達したかった訳だ。
「今日の夜、ワシは晩餐会を開きます……それまでに調達せねばならんのです……!」
おっさんは悲壮極まる表情で平身低頭した。
晩餐会はおっさんが主催するもので、既にレイガルテを呼んでしまったらしい。
つか今、午後じゃん。
ナンテコッタ! もう時間がない。
イレギュラーズは会食の裏方となり、全力で食後のデザートをでっち上げる。
そしてレイガルテに食べてもらう他ないのだ。
「イレギュラーズの勇者様方、どうかお力添えを! どうか!!」
おっさん主催なら。この時間、こんな所に居ちゃダメだろ……。
- ナンテコッタ!完了
- GM名pipi
- 種別通常
- 難易度EASY
- 冒険終了日時2020年03月26日 22時10分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
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春先の日差しが照らす迎賓館。
ワルツが厚い壁を伝って流れてくる。
そんな屋敷の一室で瞳を輝かせるのは、『求婚実績(ヴェルス)』夢見 ルル家(p3p000016)であった。
「ついにこの時が来てしまいましたね……」
白い服に身を包んんだルル家が楚々と立ち上がる。
――拙者がフィッツバルディ公と結婚する日が!
その姿は花嫁――ならぬ小さなコックであった。
「拙者は真面目な宇宙警察忍者ですから!」
思う所はあれども『今日の仕事』が先決で。
「まずいですよ。まずい。アッ」
表情を強張らせた『裏ファンドマネージャ』古田 咲(p3p007154)が胸を押える。
この日イレギュラーズ一行は男爵が主催する晩餐会に招かれていた。残念ながら客ではなく裏方として。
「いや不味かったらいけないんですけどまずい」
推しメン(公)に会える可能性に、咲は男爵の馬車に飛び乗ってやって来たのだが。
とにかくイレギュラーズは、公のために流行のスイーツを作らなければならぬはめになってしまったのであった。
「実は……スイーツなんてまともに食べた事ないんです」
咲とてかつてはスキマ時間に「カロリーだけは取ろ……」とか思ってコンビニスイーツ食べたりなんかもした。あっ、もちろん召喚前の話だ。いわゆる異世界チキュウの想い出。
あのもっちもっちしたカスタードの鯛焼きとか好きで――味が、というか。あれ。鞄の中に入れて潰れてもあまり中身がまろびでないし、量が丁度いいし、トレーとか無しに袋に直で入ってるから、駅のホームで片手ではむあむむしゃむしゃやるのに大変適していたという選出基準で――
咲の頭ん中がぐるんぐるんしてる最中。
「こうなったら力を合わせてなんとかしなくちゃならないね。おにーさんも頑張るから」
さらっと述べて赤いエプロンを纏った『満月の緋狐』ヴォルペ(p3p007135)の笑顔が頼もしい。
「何事もなければ良いね?」
そんな軽く構えた瞳の奥には、真摯な光が宿って。
頬に手を当て考え込んだのは『終焉語り』リースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984)だ。
「デザイン重視ですね、これ」
あわわと慌てる『召剣士』パーシャ・トラフキン(p3p006384)、元気いっぱいに袖をまくった『どうしてこうなった』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)、表情一つ変えないまま何故か甘味を凝視している『旅人自称者』ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)は、どういう訳か(どういう訳か!)可愛らしいメイド服を着せられていた。
じゃなくて。リースリットが考えていたのはフィッツバルディ公爵は本当に甘味が好きなのだろうか、本当に所望したのだろうかといった素朴な疑問である。尤も『頭を使う者は甘味を好む』といった話もよく聞く所で、意外とまでは思わねど。
「平民の私なんかがそんな所に居ていいんですか……?」
パーシャ達が作るスイーツは貴族達が――それもよりによって幻想三大貴族と称されるレイガルテ公も食べるのだと言う。なんかもう汗も震えもとまらない。しし……ひつれいのないようにせねばならぬのだ。
だがしかし。所望された流行のスイーツとやらの正体がさっぱりわからない。
理由は男爵が聞きそびれたから。
「なんてこった、なのですよ」
ヘイゼルが天井を仰ぐ。
あの男爵。本件はなんとかなっても、またやらかしそうで心配なおっさんだった。
「本当にナンテコッタ!」
何を出せば良いか分からないというのは大変なことだ。
ノーヒント。頬に両手を添えたスティアが口を開ける。
流行は移ろうモノだと勢い、それから彼女持ち前の天真爛漫で押し切ればなんとかなりそうな気もする。
ではいざ。何を作るか。悩みどころだ。幾人かの眉間に皺が寄る。
黒いエプロンを身につけ腕を組んだ『ラド・バウD級闘士』シラス(p3p004421)が唸った。
ダメだ。今から流行りのスイーツを確かめている時間などありはしない。
ならばどうするか。
「俺はこう見えてスイーツにはちょいとうるさい方でね!」
一同の視線がシラスに集中した。
「もう俺はメモにあるもの全部作っちまうぜ!」
ナタデココにパンナコッタにティラミスに色々。あと蘇。
どれも有名なものばかりなれば、レシピは頭に入っている。
ええいままよ。やるしかないのだ。
ならばとスティアも思い立つ。
「私は紅茶のパンナコッタにするよ!」
さっきローレットで男爵と「ナンテコッタ!」とか言い合ったのが、妙にしっくりきたからなどという駄洒落ではない。断じて。本当ダヨ……。
●
厨房ではシェフ達が料理の仕込みに忙しそうだ。
「その辺なら自由に使って頂いて構いませんので、何かあれば仰って下さい」
「いえいえ、ありがとうございます」
「それじゃあ手を洗おうか」
腰を折る料理長に礼を述べ、まずはきっちりヴォルペ達は丹念に手を洗う。料理の基本だ。
猶予はあと数刻。なんせ既に仕込みの真っ最中である。
早く到着した貴族達は音楽鑑賞でもしながら、雑談に花を咲かせている頃だろう。
リースリットは考える。余り手の込んだもの、多くの量を作る時間はない。
つまりそこまで手間も時間もかからず、王都で流行しているスイーツとなると、なんだろう。
「やはり品目は多いほうが丸いでせう」
「そうですね、それぞれで色々お出しするのが良いかと」
ヘイゼルの言葉にリースリットが頷く。分からないなら種類豊富に攻めるのが安牌だ。
かぶらぬように各々で準備したい。
「公がご所望するスイーツ……え……公がスイーツ……!」
あまりの尊みに咲が目を見開く。
「kawaiiが過ぎません……? ギャップ……むり……」
おひげが粉砂糖とかクリームで汚れたら!
アッ……! ……つら!
「見たい……」 ←これも彼女の仕事だ。
そも、トレンドウトイ男爵には悪いが、こんな情報量と精度で正解なんて分かるわけがない。
ならば咲はイレギュラーズが一生懸命に作ったという付加価値に賭けるのみ。
「私は自分のリビドーを優先させます!!!」
なんという心意気。これぞ裏ファンド!
男爵が述べたものを全て作ってみると決めたシラスではあるが。
「バラバラにつくっても何だか普通って感じ」
シラスが頭を捻る。
公も歳だ。常識的に考えて、出したものを全て食べきれる訳ではない。
それに運良く召し上がってもらったモノのなかに当たりがあったというのもまた少し寂しい話だ。
何か目新しいことを――
「そうだ!」
シラスは早速下準備にとりかかる。その怜悧な頭脳が思い描いた物とは、果たして――
「ん。大丈夫だよ。リキュールを入れてもいいかもしれないね」
「それでは、いざ……!」
リースリットは料理長に相談して季節の果物をジュレに仕立てている。
「お見苦しくないように……」
一生懸命なパーシャは、誕生日に友人から頂いたエンジェルいわし型のパイを真似ている。
エンジェルいわしは貴族の間でも流行っている(まじか!)から間違いない。ないったらない。
もちろんいわしは入れないが、あとはこちらも別の友人に煎れてもらったハーブティー。
甘いパイに清涼なハーブティーは絶妙なのだが――
パーシャは胸の前でぎゅっと手を握る。不安で心臓が破裂しそう!
ヘイゼルが作るのは、タピオカミルクティー。やはり流行といえばこれだろう。
ただしホットなのだ。
タピオカパールを手に入れること、そして戻す時間の確保はなかなか難しいのではないか。
そもそも混沌にあるのか、キャッサバ。
「はてさて、ここは近い物を自作すべきでせうか」
「あるよ、ほら!」
あったのか料理長! 混沌にタピオカ!
それではロイヤルミルクティーをお願いしてみよう。
「なるほど。それじゃあ、やってみよう」
ヘイゼルと料理長がミルクティーに取りかかる。
――そうした中。
「ワシはデリシャス棒じゃなあ」
「棒なら我が輩はきなこである!」
「ワタクシは桜大根ザマス!」
ぇぇ、そういう系。
「あたくしは形も美しくなければと思いますわ。例えばエンジェルいわしのような」
ほらきた!
ヴォルペはドリンクのサーブついでに、集まった貴族達へそれとなく聞き込みを行っていた。
公は未だ到着していないようだが、これもヒントになるかもしれない。
料理のほうはスタンダードな幻想風のようだ。メインは魚が鯛とホタテと海老、肉は羊らしい。
デザートで味のバランスを崩さないようにしたいものだ。
味見は――お任せしないといけないのだが。
そんな時、給仕の一人が飛び込んできた。
「フィッツバルディ公がご到着されました!」
厨房に緊張が走る。
●
「アミューズ行きます」
きびきびとした厨房の声。
貴族達はワインに舌鼓を打ちながら、談笑しているようだ。
着々と準備が進む中で、いよいよ一品目の提供が始まっていた。
厨房はオードブルの準備に追われている。
その奥の方では、熱々の鍋から甘い香りが漂っていた。
ミルクとお砂糖、それからアールグレイを合わせた美味しそうな香りだ。
「こうして……っと」
スティアはゼラチンを溶かして鍋にいれかき混ぜる。
ダマが出来ないように混ぜ、ボウルに移して茶葉を丁寧に取り除く。
気泡が出来ないように容器に移し替え、すくい取って。
「ふう……っ!」
上手くいった。あとはフルーツやカラメルをお好みで使ってもらうのだ。
「拙者の店で出しているスイーツが食べたいのですね! いやー照れますねぇ!」
そんな訳でルル家が作るのはギャラクシー羊羹。
師匠から薫陶を受けて料理スキルを得るに至った料理だ。刮目すべし!
天然水、グラニュー糖、そしてギャラクシーパワー!
欠かせないのは熱いお茶で抜かりはない。
「ふう」
こちらも一息ついたリースリット。
苺と林檎とオレンジと。
ゆっくりと冷めていくジュレは、色とりどりで美しく。
さてさて。咲が作れるスイーツといえば。パンケーキであった。
小さな頃に母と作ったことを思い出す。そう言えば最近、実家に帰っていない。
(お盆にでも帰……か……帰れないじゃないですか!)
そう、世界を救わなきゃいけない!
ともかく洒落たものではなく、ちっちゃいシンプルなものに粉砂糖をかけクリームを絞って、おまけにさくらんぼを乗せちゃうのだ。
「おにーさんも仕上がってきたよ」
「俺は。あとはこれを――」
微笑むヴォルペと、佳境に入ってきたシラス。
イレギュラーズもまたスイーツ作りに集中していた。
厨房からはオードブルに続き、スープと温菜が提供されはじめた。
時間は刻一刻と迫っている。食べるときとは大違いだ。
「真鯛のフュメドポワソンでございます」
「ほう。久しい」
「ご無沙汰しております。ファーレルの二女、リースリットでございます」
美しすぎる給仕の娘が名乗り、ファーレルの名に近くの貴族がざわつく。
公と直接顔を合わせるのは、もうかれこれ蠍の一件以来となるか。
「しかしてその出で立ちは」
勝手に着せられたのだ……。デザートを用意させた件についても、男爵にはご説明願おうか。
「アワワワ!」
男爵が慌てる。あわわわじゃないよ。
「お口直しにグラニテは如何でせう」
ヘイゼルもまた、美しすぎる給仕を買って出ていた。
フィッツバルディ派の貴族達に、とある抗争から公共事業に発展した一件のその後などを伺いつつ。
順調そうで何よりだが、そろそろ答えが知りたい所。
しかし本当に何なのだろうか。
「子羊のロティです。こちらのお皿はお下げ致します」
これまた美しすぎる給仕の姿。
せっかくの機会だと、スティアも給仕をしているのだ。
視線の先はちらちらと公のほうへ注がれている。
見なければ後悔しそうだ思ったのは、黄金の鎧を纏った騎士が食べる姿で――
ががーん!
ザーズウォルカは立っている。席も料理もなかったのだ!
片隅ではヴォルペが視線を配って――
せっかくだからお貴族様を見ておこうと思ったのだ。
そんな訳で再び厨房である。
「アッ…………」
過呼吸気味の咲に、スティアが渡したのは公が召し上がった魚料理の皿。
「家宝にします……」
まってそれどろぼーじゃん。
●
「それじゃ、いよいよかな」
「まいりませう」
デザートだ。
そもそも特定できていない以上「公が所望したスイーツでござい」と露骨に出す訳にはいかない。
さりげなく出して、反応で特定出来たら初めからそれだった流れにもっていく。
ヘイゼルはこれぞコールドリーディングと述べていた。
そもそも露骨に出すこと自体が、何か、こう。奥ゆかしさがなくて微妙ではないか。
――本当なのですよ?
そんな訳で一皿目。
左はヴォルペのトゥンカロンだ。華々しい席に似合う豪華なマカロンで、色とりどりの可愛らしい生地とクリームを組み合わせて、一口大に。
後ろはマラサダ。外はサクサク、中はもちもちの所謂『揚げパン』である。揚げたてを提供することで食感を残して、粉砂糖は控えめに箸休めとする。
添えるのはココナッツのアイス。たっぷりと使って風味豊かに仕上げている。
右はティラミス。まろやかなマスカルポーネとココアパウダーの香り。スポンジには珈琲リキュールをたっぷりと香りよく。小さなココット器を使った大人味だ。
そして手前にはスティアとヴォルペが「これじゃないかな?」と考えたパンナコッタ。甘さは控えめに、酸味の利いたブルーベリーソースをたっぷりとかけてある。
ヘイゼルの暖かなタピオカミルクティーをお供に。
ほんの一口ずつを綺麗に盛り合わせ、さながら宝石箱のようだ。
公は――食べているじゃないか!
生真面目そうな表情で厨房に戻った一行は、まずはガッツポーズを一つ。
だがまだ気は抜けない。
「あわ……緊張が止まりません」
手に汗握るパーシャの横で、咲はお皿を食い入るように見つめている。
続いて咲のパンケーキとリースリットのジュレだ。
それからパーシャお手製のパイ。ここからはハーブティーも添えて提供するのだ。
公は――やっぱり食べているじゃないか!
厨房からカクカクと顔を覗かせた咲だが。
「ヒュッ……」
いま。あ……むり。公、お髭のクリーム……拭いた……
ヘイゼルは考える。考えるには糖分が重要で。
まあ、ムシャ。
ヘイゼルは皆様の用意した、バク。
スイーツを食べるので忙しいのであった。ハグハグ。
「よし」
シラス天井を仰ぎ、大きく息を吐く。
「間に合った……」
目の前には――なんかすんごい山ができあがっている。
ナタデココの上に、パンナコッタの層、ティラミスの層と重ねていき。
タピオカを散らして、ミルクティーで味付けを。マカロンは数を揃えて色合いに使う。
蘇は薄く刻んでベイクし、クッキーとして刺し。後はアイスで整えてやる。
正面にそびえる白鯛焼きが、なんだかおめでたい。
とんでもな感じに聞こえるが、調和の取れたゴージャスな一品・
トレンドスイーツパフェ。いやもういっそ――
「お待たせしました、ドラゴン昇天盛りです」
「貴様もおったか」
公はシラスをじろりと一瞥し――
あっ、食べてる食べてる!
●
あまり食事の席に長居する訳にも行かない。
一行は後片付けが進む厨房から、別室に案内されていた。
ようやく休憩という訳だ。
料理長はフルコースを一品ずつ、お弁当のように詰めた物を提供してくれた。
「みんなはこれもどーぞ」
ヴォルペは余ったスイーツを盛り合わせて、イレギュラーズの前に並べてやる。
おにーさんは――食べられないのだけれど。
「良かったー……」
パーシャがソファに崩れ落ちる。
「緊張の糸が切れたかな、皆で頂こうか」
「せっかくですし頂きましょう!」
「そうですね」
リースリットが同意する。
洒落にならぬ大役であったが、仕事は一応終わった。
よりによって男爵が公爵様を招く晩餐会の主催とは、ある意味気の毒とも言える。
「これだけで終わる私ではない!」
胸を張るスティアが用意したのは一抱えもあるパンナコッタ。
「スペシャルバージョンだ!」
すごい量だが――
「君だけが頼りだ!」
「拙者ですか!?」
ルル家ならやってくれる! まあ、味はとても良く。
みんなで心を込めて作ったデザートは、どれも見目良く、味わいも抜群で。
パーシャは思うのだ。誰かに喜んでもらうために頑張ったのだからと。
――そして。
「フィッツバルディ公! 拙者、公に貰って頂きたいものがあります!」
立ち塞がったのはザーズウォルカで。
「はい! 拙者です! 拙者を貰って下さい! つまり結婚してください!」
恋は戦争! スリルショックサスペンス!
CTで殴り続ければ相手は死ぬのです!
「拙者はいいですよ!
料理できますし仕事できますし!
美少女ですし! これからめちゃ成長しますし(願望)!
今なら死兆もついてきます!」 ←???
「賑やかで結構」
あ、無視した。立ち上がった。どこに行くの。公!
目も合わせず、去り際の口元は硬く結ばれたまま。
きっと答えははじめから決まっていた。
この誇り高い老貴族は、きっと『かこつけた』のだ。
つまるところ。フィッツバルディは、ただ見たかったのである。
何って。
貴様等の顔に決まっておろう。
なーんて。
見送る一同の中。ヘイゼルはマカロンをぱくりと。
「ほんなところなのでへう」
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
依頼お疲れ様でした。
きっと喜ばれたことでしょう。
MVPは本件の真相を引き当てた方へ。
あのおじいちゃん、たまにはみんなの顔が見たかったから思わせぶりなことしたんだね。
確たる所はわかんないけど、たぶんね……。
それではまた、皆さんのご参加を願って。pipiでした。
GMコメント
pipiです。
ゆるく遊びましょう。
●目的1 お仕事フェイズ
今回のお仕事です。
美味しそうなスイーツを作って提供しましょう。
みんなで作ったスイーツが、本日のデザートになるようです。
具体的には以下のような事を試みてみましょう。
・デザートのアイディアを出す。
・デザートを実際に作る。
・デザートに名前を付ける。
・給仕してみちゃう。
・仲間とおしゃべり。
・つまみ食い。自分達のスイーツの他に、まかないとか!
・ついでに後で自分達が楽しむ分も作っちゃいましょう。
●目的2 お遊びフェイズ
後は遊んじゃおう。
せっかく皆で作ったデザートです。
みんなで食べちゃいましょう。
無事に会食が終わったら、おっさんが別のお部屋をを貸してくれます。
豪華だ!
みんなでおしゃべりしたりして、楽しく過ごしましょう。
●ロケーション
幻想首都メフ・メフィートにある、フィッツバルディ派貴族ルドゥーテ男爵の迎賓館。
その厨房です。
数人のシェフ達が大忙しで料理を作っています。
広い厨房には様々な材料や調理器具がバッチリ揃っています。
練達製の便利なものもありますので、あると思ったものは大体あります。
あまり気にせず遊びましょう。
●お食事
なんかフレンチ的な奴です。ほしければ『お遊びフェーズ』で頂けます。
●登場人物
ルドゥーテ・トレンドウトイ男爵
依頼主のおっさんです。おっさんというか爺さんです。
『黄金双竜』レイガルテ・フォン・フィッツバルディ(p3n000091)
幻想三大貴族が一人。
晩餐会の主賓です。
くれぐれも粗相の無いように!
『黄金守護者』ザーズウォルカ・バルトルト
レイガルテの側に控える金ぴかの騎士です。
幻想最強の騎士様にして幻想最高のレイガルテ大好きマン。
『他の貴族』
男爵とかなんとかが、ご夫婦で参加しています。
『シェフや料理長』
厨房に居ます。皆さんに友好的かつ協力的です。
『騎士や兵士達』
あちこちに居り、それとなく守っています。
●相談
皆さんは豪華目な馬車に乗せられ、おっさんの迎賓館へ向かいます。
協力しても良いですし、個人プレーでも良いでしょう。
何品作っても、何人で給仕しても構わないので、好きにやりましょう。
やることなければ好きなスイーツの話でもしていましょう。
●情報精度
このシナリオの情報精度はDです。
多くの情報は断片的であるか、あてにならないものです。
様々な情報を疑い、不測の事態に備えて下さい。
こうなったのは、主におっさんがトレンドに疎いせいです。
●Danger!
当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。
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