PandoraPartyProject

シナリオ詳細

凋まずの花

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●情報屋
「おしごと」
 そう口を開いたイシコ=ロボウ(p3n000130)の双眸は、すぐさま傍らの妖精を示す。
 ちょこんと会釈した妖精は、八の字になった太めの眉を動かすことなく、潤んだ目でイレギュラーズを見つめている。
「あたし、レイニィ。お好きに呼んでくださいな」
 薄桃に煌めく翅、赤と橙の中間にある朱の髪、赤い宝石のような果実のドレス──森でも目立ちそうな妖精だ。
 イレギュラーズとの対面と自己紹介を軽く済ませた後、情報屋のイシコは本題に入る。
「仕事は大きく分けてふたつある。ひとつ。迷宮森林で、彼女と一緒に花を採取すること」
 レイニィの郷で『凋まずの花』と呼ばれる白い花。
 名の通り萎まないらしく、彼女によると薬になるのだという。わざわざ妖精郷の門(アーカンシェル)をくぐり、深緑の迷宮森林へ赴くほどだ。よほど欲しているものなのだろう。
 問題なのは、目的の花に見た目がそっくりな『腐花』と呼ばれるものも存在すること。本物か否かは、香りもしくはその効能でしか判別ができない。
「凋まずの花は上品な甘い香りがする。腐花も似た香りらしいけど、こっちは嗅ぐと大変」
 腐花の由来が「性根の腐った花」という話らしく、可憐な見目で人々を引き寄せ、その香りで口から零れる言葉を狂わせるという。
 いまいちピンとこないかもしれないが、普段は丁寧な口調の人が粗暴な言葉遣いをしたり、ごくごく普通の女の子が高飛車なお嬢様口調になったり、ワイルドな言動の人が驚くほどのマイナス思考発言をしたり、と状態も様々で。
 当人の性格や雰囲気そのものは平時と変わりないはずだ。しかし喋り方に引きずられ、性格が少しばかり変わってしまう人も、いるかもしれない。
「効果は短時間だから、おしごとを終えて帰還するまでには治る。たぶん」
 個人差があるゆえ、絶対とは言い切れずイシコが適当に濁す。
「どれが『凋まずの花』か『腐花』か、かぎ分けられるのはレイニィさんだけ」
 郷で残り香を実際に嗅いできた妖精──つまり彼女になら判別がつく。
 しかもなぜかレイニィは、腐花の香りに惑わされない体質だ。口調を狂わされたくないのであれば、花には近づかず、警護に務めるのが一番だろう。
「もうひとつのおしごと。花を探す間、脅威から彼女を守ること」
 花が咲いているという一帯の付近で、得体の知れない存在の目撃情報がある。
 レイニィの命が脅かされることのないよう、守ってほしいとイシコは話す。
「私が聞いたのは、スライム状の何か。レイニィさんも、それっぽいのを見たって」
 草木をも静かに飲み込み、地を這う濃緑の艶めく液体を見た深緑の住民がいる。あれは明らかに意思をもった動きだと、住民は話していた。
 レイニィも、幻想種の集落へ飛び込む前、迫ってくる緑の液体を見かけたという──色や形状から、おそらく同じ存在だろう。
「無理に倒さなくていい。とにかくレイニィさんに近づけないでほしい」
 そこでイシコがレイニィへ振り向き、ゆっくり頷く。
 すると妖精の少女は、イレギュラーズの顔をひとりひとり確かめて、よろしくお願いします、と頭を下げた。

GMコメント

 お世話になっております。棟方ろかです。
 出発までの期間が短めですので、ご注意くださいませ。

●目標
 『凋まずの花』の採取と妖精レイニィの護衛

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●ロケーション
 森林迷宮のとあるエリア。草の他に不思議な白い花が育っています。
 草花が人間の膝丈ぐらいまで伸びている一帯。
 白い花の香りによる影響か、動物は本能的に近寄りたがらない場所です。

●白い花(凋まずの花と腐花)について
『凋まずの花』の香りはリラックス効果がある程度で、変な事態には陥りません。
『腐花』の香りは、「嗅いだ人物の言葉遣いを一時的に狂わせる」もの。
✳喋り方の指定がプレイングにない場合、香りを嗅いだその都度ダイスで決めます。
✳PCの口調をおかしくされたくない方は、花に近づかないようお願いします。

●敵
 濃緑の液状スライム×6体
 花を探している間、あらゆるタイミングで、あらゆる方角から出現します。
 難易度相応の強さで、体力が多く、液状ゆえか自在な動きを得意とし、回避や防御技術も高いです。
 花の採取を終える頃には消えるので、追い払うだけで良いですが、倒しても良いです。
 身体にまとわりついて体力を吸ったり、少し離れたところから腐食液(触れた箇所が溶けて腐ったり、熱傷を負ったりする液体)を飛ばします。

●NPC
 妖精レイニィ。身長30センチほどの、外見年齢10歳の少女。戦えません。
 明るく好奇心旺盛ですが、言動はどちらかというと大人しめ。
 郷の外をあまり知らないので、皆さんの武勇伝や日常生活のお話には食いつきます。

 それでは、いってらっしゃいませ!

  • 凋まずの花完了
  • GM名棟方ろか
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年03月21日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

オーカー・C・ウォーカー(p3p000125)
ナンセンス
ツリー・ロド(p3p000319)
ロストプライド
黎明院・ゼフィラ(p3p002101)
夜明け前の風
錫蘭 ルフナ(p3p004350)
澱の森の仔
リウィルディア=エスカ=ノルン(p3p006761)
叡智の娘
ユースティア・ノート・フィアス(p3p007794)
夢為天鳴
ルリ・メイフィールド(p3p007928)
特異運命座標
ミィ・アンミニィ(p3p008009)
祈捧の冒険者

リプレイ

●森林
 物憂げにうずくまる茂みも、たわわに成った果実のダンスも気に留めず、かつての残滓を引き出した『妖精郷の門の門番』サイズ(p3p000319)は、疼く衝動のまま妖精レイニィへ声をかける。安心してくれ、と囁く声音は本人が思っていたよりも一層やさしく響いた。
「妖精鎌の名に懸けて、無傷で帰してやるからな」
 森がざわつく中、サイズが宣言する。困っている妖精はとにかく放っておけない。だからこそサイズが胸を張ると、不安入り混じったレイニィの顔に、安堵の朱が差す。
 ふむふむと頷く『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)の双眸に好奇心が宿る。
「妖精郷の話は興味深いね。聞いても聞き足りない」
 無垢な幼子にも似た眼の輝きが妖精を射抜き、思い出したように声を発する。
「妖精が作るという薬も気になるんだ」
「その話、僕も知りたいね」
 重ねて興味を示したのは『猫派』錫蘭 ルフナ(p3p004350)だ。
「そういう花があるとは聞いたことがあるけど、薬になるのは初耳だよ」
 植物に関してはルフナも明るい。
 何の薬になるのかと続きを促すと、レイニィは躊躇なく告げた──小さき者のこころとからだを癒すのだと。
 曖昧な物言いだが嘘めいた気配もなく、ルフナは顎に手を添えて唸る。
「それは……傷にも効くのかな?」
 ルフナがそう尋ねたのにも理由があった。最近は、生傷の絶えない人を見る頻度が高い。傷に効くなら協力するに吝かでない。
 するとレイニィがこくんと肯う。
「あたしたちみたいに小さくなくても、ちょっとした傷なら」
 図体に左右されるのか、体質によるのかは、少女にも判断つかない。薬学的な知識ではなく郷の言い伝えによるものらしい。
「あなたたち、お医者さん?」
 首を傾げたレイニィに、ルフナはすぐさま「違う」とかぶりを振り、ゼフィラは目を見開く。
「済まないね。医者ではないんだ。学者として記録しておきたいものでね」
「まあ! 学者さん!」
 先刻のゼフィラ同様、レイニィの笑みにも好奇の光が燈る。
 賑やかなやりとりを横目に、『特異運命座標』ルリ・メイフィールド(p3p007928)は落ち着かない様子でいた。
 そわそわと景色を窺うルリの近く、『大いなりし乙女』ミィ・アンミニィ(p3p008009)がぽつりと零すのは。
「妖精……私、初めて見た気がします」
 ミィのいた世界にも妖精という名の種は存在しているが、まさか召喚された先にもいるとは。世界の広さを、多くの世界があると再度意識したミィは、潤んだ瞳で天を仰ぐ。
「ボクもよーせーさんを見るのは初めてなのです……」
 ミィの呟きを聞いたルリが、そっと相槌を打つ。すると前を進んでいたレイニィがくるんと振り向いて。
「まあ! それじゃ驚かれたでしょう?」
 遠慮がちなレイニィの問いに、ルリはゆっくり頭を横に振る。
「うれしいのです。会うことができて」
 人目を避けて生きてきたルリにとって、妖精も他の種も等しく新鮮だ。
 ルリの面差しにこそ変化はないものの、頬がふくりと微かに持ち上がるのをレイニィは認めた。
「よかった、あたしも嬉しいです」
 キラキラと翅をはばたかせて告げたレイニィに、ルリもミィも眦を和らげる。
 妖精との交流を堪能する後ろ、『夢為天鳴』ユースティア・ノート・フィアス(p3p007794)は『腐花』について考えていた。
(人の言葉に影響を齎すとは……)
 なんとも奇妙な花だと思い浮かべた瞬間、傍から同じ単語が届く。
「奇妙な花があるものなんだね」
 音にしたのは『暁天の唄』リウィルディア=エスカ=ノルン(p3p006761)だ。
 やはり腐花の存在は意識せずにいられない。興味があると続けたリウィルディアに、ユースティアも頷く。
「はっきりとした毒性を有するよりも、ある意味恐ろしいものですね」
 身体を蝕む毒でない分、安心だと取るには早計な気がしてユースティアは前方を見据える。
 レイニィから花の特徴を聞いた『ナンセンス』オーカー・C・ウォーカー(p3p000125)は、凝然として佇む木々を眺める。森林迷宮と一口に言っても種々だが、今いる一帯は快い緑に包まれている。日光の綾に葉が踊り、木の実はカラカラと歌い出す。
 森林迷宮はこうしてイレギュラーズを出迎えた。

●花
 むっとするほど群れ立つ、草と土のにおい。湿った緑が風に撫でられる度、香りは彼らの鼻孔をくすぐる。
 探検家はよく嗅ぐものゆえ、ゼフィラはにおいに惑わされることなく、探索者便利セットを漁る。
 雑草と白い花が咲き誇るエリアへ、やっと足を踏み入れたのだ。
「捜索範囲を広げたい。私はこれで居場所を知らせるよ」
 ゼフィラが取り出したのは笛。花に夢中になるあまり、互いの位置がわからなくなる事態は避けたい。
 だからこそ彼女は笛を手に、皆とは別の方角へ歩みを進める。
「サイズさん、護衛おねがいするのです」
 後ろではルリが、サイズに会釈していた。
「ああ、がっちり庇い通せるよう頑張ろう」
 迷いなく返答したサイズに、ルリも安心して他を見る。仲間たちはすでに銘々動きはじめていた。
 ここからが本番だ。引き締まる思いでルリは自分の頬をぺちりと軽く挟む。
(しっかりするのです)
 奮い立たせて、彼女は持ち場へ急ぐ。
 レイニィの傍を漂い始めたサイズは、採取に勤しむ仲間たちを遠目で見守る。やがて、俯き植物ノートへ筆を走らせた。目に留まった草木、花のスケッチ、そうしたものを記していると。
「ねえ、あなたの冒険譚を聞かせてくださいな」
 花を探しながらレイニィが声をかけてくる。瞥見してみるも、まだスライムの気配はない。
「わかった。そうだな、ザントマンの話をしよう」
 わあ、とレイニィが手を叩いて喜ぶ。無邪気な笑顔を前にして、サイズのまなこも和らいだ。
(しっかり守らないとな)
 そう決意を漲らせたサイズは、せがむ少女へ徐に話を始めた。
 春告げの色彩が風に揺れる。ルフナが靡かせた薄紅の先、強風に草や花びらが舞い上がった。鼻先を動かすと、濃い緑のにおいがする。
「性根の腐った花、君たちも知っているんじゃないの?」
 ルフナが植物へ声をかけたところで、自由に伸びた雑草たちが楽しげにざわめく。
 幻想種の心得を持つルフナへ返るのは、知らない、知らない、と歌う声。花は知っている、でもそれは知らない。そう繰り返す草たちに、ルフナはなるほどと顎を引き、探索に戻った。
 濃淡が生みだす森の下、ミィは深く息を吸う。神秘の森に満ちる空気は、どこか冷たい。
「精霊さん、精霊さん」
 ミィの呼びかけに、植物たちがさらさらと揺らめく。
「魔物を目撃したり、森林内で変化があったり、しませんか?」
 濡れそぼつ双眸を、草木の狭間で遊ぶ精霊へ向けた。か細い願いを唇で象った彼女へ、精霊たちはひそひそと耳打ちを始める。
「緑色の、水みたいなの……ですか?」
 うんうんと首肯する精霊へミィが繋げた問いは、他の情報の有無だ。
 精霊によると、スライム以外の魔物らしき影とも、森の変化とも逢着していないらしい。少なくとも他の脅威は近隣にはないと知り、ミィはほっとする。
 自然との対話を試みていたユースティアは、次第に仲間たちを侵食していくであろう腐花の香りへ想いを馳せた。
(本質の一端を曝け出すのか、変質させてしまうのか……)
 喋り方が変わることの意味を論じるには情報が少なく、けれど真理を追求するには充分な要素が集まっている。おかげで考えずにいられなかったのだが。
「……やめておきましょう。触らぬ厄なら害は無し、です」
 沈思の末に行き着く先が末恐ろしく、ユースティアは睫毛を伏せた。
 オーカーは手帳へ目を通しつつ、幾つかの特徴に符合する花を探し続ける。黙々とこなしていると、色彩豊かな野から淡い白を何度か発見した。顔色ひとつ変えぬまま、オーカーはナイフを滑らせて花を切り、レイニィの元へゆく。
「こちらはいかがでございましょうか、レイニィ」
 言葉遣いの変化など気にも留めず、泰然自若としてオーカーは花を差し出した。可憐に咲いた花は、大柄なオーカーが持つとより小さく見える。
 レイニィはすんすんと鼻を鳴らし、頭を横に振った。違うと分かりオーカーは低く唸る。
「余程似通っているのでございましょう、腐花というものは」
「喋り方が変わるの、あまり気にしていないんだね」
 リウィルディアがそんな彼の様相に目を瞠るも、本人は平然としていて。
「口調がいかに変化しようとも、私には違いございませんので」
 断言したオーカーに、ふうんとリウィルディアが唸る。
 腐花の影響でこうなるのかと納得したリウィルディアは、やはり自分は吸いたくないなと決意を新たに燈した。
 ゼフィラもまた、発見した花の元へレイニィを呼ぶ。
「ふむ、レイニィ、香を確認してもらいたいのじゃが、構わぬか?」
 漂う香を吸い込んだゼフィラの言葉遣いが狂うも、淡々と告げる声調には微塵も変化が無い。くん、と確かめたレイニィが残念そうに肩を落とす。
「ごめんなさい、これじゃないですね」
 しょんぼりする妖精を前に、ゼフィラは緩く首を振る。腐花とわかれば、気持ちを切り替えるだけだ。
 花を探すため再び離れたゼフィラは、間を置かずしてスライムと遭遇する。けれど背は向けず、そろりと後退りながら声の届く距離にいたリウィルディアを呼ぶ。
「単身での戦闘は不得手なもんでのう。安全策を取らせてもらおうぞ」
 腐花の影響で口調こそ変わっているが、意に介さずゼフィラは話した。
「任せてよ」
 リウィルディアもまた気にせず応じる。
 そして前線を托したゼフィラが立つのは、仲間をひとりでも多く確かめられる位置。何故なら今からもたらすのは、時代が求めたもの──伝説と化した英雄の誇りなのだから。

●戦花
 直にスライムを目撃したことで、サイズは常より巡らせていた思考の玉を徐々に彫琢させていく。
(ほかの依頼でも見かけたが、こうも立て続けになると……)
 引っ掛かるのは、魔種が絡んでいるだろうという点。ブルーベルの手下か、はたまた姿をまだ見せていない魔種か。
 そこで瞥見したのは妖精であるレイニィだ。彼女が狙われては、本人もまともに採取できないだろうと懸念を過ぎらせて。
 よし、と拳を握り締めたサイズは、澄み切った氷の防護壁を築き上げる。
 言葉通り片っ端から白い花を摘んできたルフナが、レイニィの前へ佇んだ。
「変な言葉遣いヽ⊂か言ゎれても、イマイ于ピン`⊂こないょねー」
 言いながらルフナは若葉の瞳を揺らし、花を次から次へとレイニィの前に花を並べていく。これを確かめておいて欲しいと付け足して、ルフナは敵と向き合う。
 戦いの気配は、ユースティアの面差しを僅かに真剣なものへ変えつつある。お願い、と囁いたレ・イゾーコがユースティアの死角となる位置を見守ったのを確かめ、飛び交う腐食の液体を躱したユースティアは、祈るように瞼を閉ざし、呼気をひとつ。
 右手には結祈燈、左手にあるのは結祈飾。戦乙女の加護を纏いて放った力が、彼女の視線の先、スライムを打つ。
 妖精レイニィへは近づけさせない。その一心でミィは防御を強固にし、振り返った。
「お仕事はしっかりしますとも!」
 恐れを頬に塗りたくったレイニィへ、すかさず呼びかける。彼女の言葉を受け、胸を撫で下ろす妖精が見えた。
(しかし、何故魔物はレイニィさんを……?)
 過ぎる疑問がミィの中で膨れ上がる。
(イレギュラーズの血を奪っている、と噂も流れていますし……)
 胸中を掻き乱す不穏の気配が、ミィの顔をますます悲しげなものへ傾けていく。
 虚無のオーラを指先から解き放ち、リウィルディアは現れたターゲットを包み込む。
(まぁなんであれ、僕の役割は護衛だから)
 採取を任せていた分、早々に反応できた。柔和な笑みを湛えて敵を見据えたリウィルディアは、一向に反撃しないスライムに首を傾げる。だが機を窺っていたのか、やがて緑へ溶け込んだ相手が、跳ねた。
 リウィルディアへ飛んだスライムの着地点めがけて、オーカーがナイフを投擲して牽制する。
 それでも諦めずざらりとした草を撫でて動き回るスライムへ、ルフナが文句を投げつけた。
「ちょー空気言売めてなレヽんですけ`⊂゛」
「こっちにも、発見したのです」
 休みなく出現した敵を排除するべく、ルリは地を踏み締め魔力で編み上げた射出する。一点集中、貫く願う想いも乗せた弾は、蔓延る緑を木の幹へ叩きつけた。
 別のスライムは腐食液を吐き出し、ユースティアの脚部へ飛び散らせていた。液から滲んだ強烈な熱と痛みが、ユースティアを苛める。
 同時に、オーカーが片眉をぴくりと動かし振り返る。
 こっちだ、と声を上げて位置を知らせた時にはもう、どろりとした液体が迫っていた。艶めくからだは森に満ちる深い緑と混ざり、素早い動きが森で生じた幾つもの音と重なる。オーカーを襲った緑が、別の濃い緑を誘い、膝を折らせる。だがオーカーも容易く崩れはせず、ふらつきながら体勢を立て直す。
 遠く、仲間たちとスライムの挙動を目撃していたゼフィラが、なるほどと呻く。
「襲うタイミングが見事にバラけているようじゃのう」
 未だ引かぬ調子を連れたまま、ゼフィラは二色を宿す瞳に、しかと仲間を映す。瞬けば紫が滑り、移ろう銀が流れて味方の状態を分析した。問題解決ならば、ゼフィラの得意分野だ。
 放った大号令が、ユースティアからひりつく痛みを拭っていく。

●白い花
 海に揺蕩う絶望を歌うリウィルディアの声が、呪いを帯びた。口ずさんだ歌は群れの気を惹き、襲撃されたリウィルディアは意識を失うも再び立ち上がる。
 同時に四方で草葉が騒ぎ立てた。喧騒に乗じて地を這ってきたスライムに、サイズが逸早く動く。
「させない!」
 レイニィの元へは向かわせないと、奇怪な緑の液体へ立ちはだかる。レイニィへ狙いを定めていたスライムも、隙なく阻まれては標的へ到達できず、サイズとぶつかる。見目に反して力強い突進は、サイズを少しばかりふらつかせた。
 だが装甲を仕込んでいたのも功を奏し、深手を負わずに弾き返す。眼前での出来事におろおろと動揺するレイニィへ、大丈夫だからとサイズは力強く頷く。
 そうして耐えたサイズへ、ルフナが森の霊力を寄せる。一瞥した先、サイズに気圧されたのか、ぶるぶると往生するスライムがいて。
「何あれマヂぅレナる~」
 ルフナは、常であれば披露しないきゃたきゃたした朗笑を響かせる。その間にも、傷痍を拒む力がサイズへ癒しを招く。
 一方、間近まで接近してオーカーが繰り出したのは、盾での押し込み。防御への意識を高めて見舞った強打が、不定形の生物を抉る。
 矢継ぎ早、焦れたように湿る草の合間、ユースティアが駆ける。木々のお喋りに溶け込んだ彼女は、青白い光を湛えた双撃を繰り出す。魔が咲き誇る青には風音を乗せて、熱の篭った拳には集中力を集わせて。
 狙いは迎撃だが、ユースティアの迎撃は凄まじく、一体のスライムを瞬く間に屠る。彼女の剣撃を目の当たりにした他のスライムたちが、ぞろぞろと後退し始める。
「たわいもありませんね」
 ふう、と細長くこぼした息は、彼女の表情をいつもの穏やかな色へと戻す。
 その頃ルリの目と鼻の先に、スライムがいた。咄嗟に腕を前へ構えて腰を据え、取り縋ってきた緑に抗う。守りに集中したルリをふらつかせること叶わず、へばりついたスライムは惜しまず彼女から剥がれ、飛びのく。すると。
「いっ……」
 一瞬覚えた痛みで、反射的にルリが眉根を寄せる。様々な色彩を映す白い毛髪が数本、引き抜かれていた。きらきらとたなびく白と共に、スライムはすくすくと育った草生へ飛び込む。
 未だに残る一体めがけて、距離を保ったままゼフィラが手向けるのは結晶の槍。不定形も問わず串刺しにして、凍てつく程に透けた穂先で溶かす。スライムは逃げ惑う暇すら与えられぬまま、しゅうと音を立てて消えて行った。
 そのときだ。
「あった、ありました、これです!」
 イレギュラーズの耳に飛び込んできたのは、レイニィの明るい声。はしゃいだレイニィは、護衛として寄り添っていたサイズと手を軽く叩き合わせる。
 ほ、と小さく息を吐いたミィの傍で、敵の気配がすべて失せたのを認めてルフナが片目を瞑る。
「糸吉局スライムもょ<ゎからないままナニ゛し、意味不明ってカンジ」
「まだ戻らないんだね、それ」
 疾うにいつもの喋りを取り戻したゼフィラが、言の葉弾けたままのルフナを見て口端を上げる。当のルフナが朗々と語りを連ねていくと、絶妙な軽やかさが耳朶を打った。
 これはこれで花の効果として研究の糧になりそうだと、ゼフィラは彼の奇矯な言葉遣いにふむふむと頷くばかりだ。
 後は妖精郷へレイニィが帰るだけ。近くまで送り届ける道すがら、ミィは彼女から声をかけられる。あなたたちの話が、もっと聞きたいと。
「私、他の人程多くは語れない……と思います」
 遠慮を声音に含んでミィはゆっくり応じ、眉尻を下げて。
「それでも、日常は楽しいですよ。この世界へ来て日の浅い私でも、そう思うくらいに」
 話に合わせて穏やかな陽のように赤が揺れるのを見て、そっかあ、とレイニィがにっこりすると、ミィの顔にも笑みが咲く。あえかな微笑みの花が、凋まずの花を手にした妖精を見送った。

成否

成功

MVP

ルリ・メイフィールド(p3p007928)
特異運命座標

状態異常

なし

あとがき

 お疲れ様でした! 目的の花もゲットし、妖精さんは無事帰ることができました。
 ご参加いただき、ありがとうございました。
 またご縁が繋がりましたら、よろしくお願いいたします。

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