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シナリオ詳細

<果ての迷宮>真白ラインヴァント

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●果ての迷宮
「先日、果ての迷宮の14階層が踏破されたそうです。なので新しい階層の攻略依頼が来ていますよ」
 ブラウ(p3n000090)が依頼内容の書かれた羊皮紙をずりずりずりとイレギュラーズたちの元へ引き寄せる。その中には『果ての迷宮』と聞いてもピンと来ない者もいるようで、ブラウは「説明しますね!」とカウンターの上を陣取った。
「幻想国の王都《メフ・メフィート》。その中央に存在しているのが果ての迷宮と呼ばれる地下迷宮です。
 一般の冒険者は立ち入り禁止ですが、ローレットにはこれまでの功績で攻略依頼が舞い込むようになった……と聞いています!」
 元々は幻想国を建国した勇者王がこの迷宮踏破を悲願としていた。今となっては幻想王侯貴族の伝統的な義務となっているそうで、この迷宮を攻略する際は彼らがスポンサーとして後ろについている。
「『ぜんじんみとう』の迷宮、ロマンがありますよね! 僕もこういう時ばかりは冒険者だったら、なんて……あっ死ぬのは嫌ですけれど」
 自らへ降りかかる不吉なことも、最悪を免れるほんの少しの幸運も、ブラウはありのままに評価する。故に、ここでイレギュラーズからちらほら話を聞くのだそうだ。
「果ての迷宮はただの迷宮ではありません。それぞれの階層に、全く違う空間が広がっているのですって。
 ……あ、ですよね! シャルルさん!」
 視界の端へ見えた姿にブラウがぴょんこぴょんこ。気づいた『Blue Rose』シャルル(p3n000032)が近づいてくる。彼女はひよことイレギュラーズを見比べて、ほんの少しばかり困った表情を浮かべた。
「ええと……これは、何の話?」
「あ、すみません! 果ての迷宮には色んな階層があるんですよーって話をしていたんです」
 ブラウの言葉に成る程と頷いたシャルル。薄青の瞳はイレギュラーズたちは向けられた。
「ボクが付いて行った時は水の中だったよ。何だっけ……竜宮城? とかいう建物に階層守護者がいて──」
「……うん? シャルルさん、階層守護者なんて前に話していましたっけ?」
 きょとんとブラウが目を瞬かせる。ひよこへ視線を向けたシャルルは言ってなかったっけと首を傾げた。
「その階層を守るエネミー……エリアボス、って言うとわかりやすいのかな。倒さないとその先に進めないから踏破ができない。
 でも、階層を踏破する条件はそれだけじゃ無くなってきたみたいだよね」
 先の階層へ進むにつれ、ただ倒すだけではなくなった。ゲームへ強制参加させられる階層もあれば、動物のお尻にキスをするという階層もあったと聞く。
「これまでの階層の知識、なんてものは当てにならないと思う。だから行きたいイレギュラーズが行けばいいんじゃないかな」
 セーブポイントまでは行けるしね、というシャルルの言葉にブラウが補足を入れる。
 セーブポイントとは文字通り。未踏の階層から探索を始めることができる。より正確に言えば『踏破した階層でセーブポイントを作ることで、そこまで転移することが可能である』。
 そのためのアイテムは幻想王家が所持しており、一般冒険者が果ての迷宮へ立ち入れない理由の1つでもあった。
「……ということで、今回もセーブポイントを作るまでがお仕事です! 参加される方はぜひぜひ、お土産話を持ち帰ってくださいね!」


●15層【真白ラインヴァント】
 魔法陣がゆっくりと明滅したのち、静かにその光を収束させる。その場から真っ先に歩みを進め、扉の前でくるりとイレギュラーズを振り返ったのは果ての迷宮探索の『総隊長』ペリカ・ロズィーアン(p3n000113)だ。
「さあ、ここからが15層。準備は良いわいね?」
 その心に持つはワクワクとした冒険心、好奇心、そして緊張感。
 イレギュラーズの面持ちを一瞥したペリカは彼らへ背を向けて、次への扉を押し開いた。

 ──ギギギ、ギ。

 音を立てて、ゆっくりと扉が開いていく。ペリカとイレギュラーズたちはその先を見て「うん?」と目を瞬かせた。
「真っ白だわさ」
 足を踏み出す、その道も白。左右上下どこを見ても真っ白で、距離感覚がおかしくなりそうだ。まっすぐ正面を見ると、小さくポツンと何かが建てられているように見える。
「扉っぽい……?」
 あそこまで辿り着けばクリアなんて、そう簡単にいくものだろうか。けれども見えるのは背後にあるセーブポイントへ繋がった扉と、正面のそれのみ。どこまで続くのかもわからないこの空間で迷子になるより、少しでも目印となるものがあるなら向かった方が安全か。
「ふむ。この階層は『色を奪う』みたいだわさ」
 突然そんなことを言い出したペリカはほら、と自らの手をイレギュラーズへ見せる。その指先からはサラサラと砂がこぼれ落ちるように色が抜けていた。
「完全には抜け切らないから、透明人間みたいなことにはならなさそうわい。けれどこの空間に居続ければそうならない保証はない」
 場合によっては撤退も考えないといけないわいね──ペリカは視線を移しながら告げる。『あんな風に』と。
 その先には真っ白な、輪郭のみしかないモンスターがこちらへと向かってくる姿があった。

GMコメント

●成功条件
 『誰の名代として参加して』扉まで辿り着き、この空間を抜ける
 その先でセーブポイントを作る

※セーブ、名代に関しては後述します。

●失敗条件
 参加者の半数が『色を奪われた』状態になる(ペリカストップがかかる)


※セーブについて
 幻想王家(現在はフォルデルマン)は『探索者の鍵』という果ての迷宮の攻略情報を『セーブ』し、現在階層までの転移を可能にするアイテムを持っています。これは初代の勇者王が『スターテクノクラート』と呼ばれる天才アーティファクトクリエイターに依頼して作成して貰った王家の秘宝であり、その技術は遺失級です。(但し前述の魔術師は今も存命なのですが)
 セーブという要素は果ての迷宮に挑戦出来る人間が王侯貴族が認めたきちんとした人間でなければならない一つの理由にもなっています。

※名代について
 フォルデルマン、レイガルテ、リーゼロッテ、ガブリエル、他果ての迷宮探索が可能な有力貴族等、そういったスポンサーの誰に助力するかをプレイング内一行目に【名前】という形式で記載して下さい。
 誰の名代として参加したイレギュラーズが多かったかを果ての迷宮特設ページでカウントし続け、迷宮攻略に対しての各勢力の貢献度という形で反映予定です。展開等が変わる可能性があります。


●階層特徴
 この階層は色を持つ者の『色彩を奪う』特徴があります。
 時間経過の他、後述するエネミーとの交戦でも奪われていきます。1度にどれだけの割合が奪われるのかはっきりとしていません。
 『完全に』色を奪われた状態になると能力値が全体的に低下します。戦闘不能になると、瞬時にこの状態となります。

●フィールド
 真っ白な空間です。長時間居続けると気が触れそうなくらい真っ白です。
 入口であった扉と、出口と思われる扉が存在しています。出口の扉には鍵がかかっています。
 エネミーたちはいつのまにやらポコポコと生まれて寄ってくるようです。

●エネミー
・スライム
 真っ白で輪郭しかありませんが、ぷるんぷるんと動く不定形の姿は多分スライムです。
 伸び上がって体当たり攻撃をしてきます。また、絡みつく攻撃には【麻痺】【停滞】のBSが確認されます。

・ウルフ
 真っ白で輪郭しか(略)、四つ足の獣なのでウルフと称します。
 噛みつき、引っ掻きなどの攻撃で仕掛けてきます。俊敏です。

・ヒト
 真っ白で(略)、人間の形をしています。
 ランダムに至近〜遠距離の攻撃手段を持っています。エネミーの中では最もしぶといです。
 ランダムに1人が次階層へ向かう扉の鍵を所持しています。

●同行NPC
・ペリカ・ロジィーアン
 タフな物理系トータルファイター。戦えますが、可能な限り調査に手を回したいようです。
 彼女が戦闘に参加する場合、戦力は上がります。その分、不明瞭なままの情報が多くなります。

●ご挨拶
 果ての迷宮は2度目まして、愁です。
 最終的にはヒトの形をした敵から鍵を奪い、出口の扉へ辿り着かなければなりません。この階層も踏破できるよう頑張りましょう!
 ご縁がございましたら、よろしくお願い致します。

  • <果ての迷宮>真白ラインヴァント完了
  • GM名
  • 種別EX
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年03月26日 22時10分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

エマ(p3p000257)
こそどろ
ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
愛娘
メートヒェン・メヒャーニク(p3p000917)
メイドロボ騎士
アト・サイン(p3p001394)
観光客
クリム・T・マスクヴェール(p3p001831)
血吸い蜥蜴
黎明院・ゼフィラ(p3p002101)
夜明け前の風
寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
天之空・ミーナ(p3p005003)
貴女達の為に
ミルヴィ=カーソン(p3p005047)
剣閃飛鳥

サポートNPC一覧(1人)

ペリカ・ロズィーアン(p3n000113)
総隊長

リプレイ


 扉をくぐれば、そこは誇張などない一面の真白な世界。話には聞いていたが──『Ende-r-Kindheit』ミルヴィ=カーソン(p3p005047)は目を丸くして辺りを見渡した。
 地面も白。
 空も白。
 どこまで見渡しても白ばかり。
 実は広大な部屋という可能性も考えられるが、それを検証する間にも平衡感覚が狂ってしまいそうだ。
「迷宮に入るのもずいぶん久しぶりだけど、相変わらず滅茶苦茶な場所だね」
「ああ。久しぶりの迷宮だが……やはり此処は何でもアリのようだ」
 第4層──水に満たされた階層以来の参加である『メイドロボ騎士』メートヒェン・メヒャーニク(p3p000917)は肩を竦める。階層に水が満たされている状況も無茶苦茶であったが、ただ真っ白な光景が続くというのもなかなか。こうも白くて何もない風景では絵に描くこともできやしない。
 同意した『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)は第3層からの再チャレンジである。あそこもトラップだらけの階層であったが、ここはここでかなり特徴的な場所だ。
「今回もまた、不可思議極まりない、が……蛙に尻を舐められ、犬の尻に口付けするよりは、遥かに迷宮らしい、か」
 『深海の金魚』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)は少し前に踏破した階層を思い出し、無表情へ微かに何とも言えないといった色を浮かべる。
 あの時は犬を捕獲してキス完了、と思いきや蛙に粘着され。尻を舐められ。なんか他人の尻を洗ったし。……いや、もう思い出すのはやめておこう。
 だがそんな光景を報告書でしか知らない者もいる。百聞は一見にしかずというやつで、やはり初めての探索者は純粋な冒険心の方が強い。
「こう言うダンジョン探索って言うのはこっちに来てからは初めてだが。やはりどこでもワクワクするな!」
 『血吸い蜥蜴』クリム・T・マスクヴェール(p3p001831)はキョロキョロと辺りを見回し、流石に目が痛かったのかしきりに瞬かせる。『剣砕きの』ラダ・ジグリ(p3p000271)も眉根を深く寄せていた。
「……話には聞いていたが、本当に階層自体がひとつの異世界のようだ」
 1つ前の階層はエルフなどが出てきたと聞いている。仲間たちの話も聞けば、異世界の如き各階層の話が出るわ出るわ。
 だがやはり、話を聞いた時と自らの目で見た時では違う。まざまざと見せつけられる。
 ──最も、この階層を眺め続けていたら雪目にでもなってしまいそうだが。
 でもさ、とポーションを一気飲みした『観光客』アト・サイン(p3p001394)が地面へ視線を落とす。あるのはただの白だ。
「魔術的な作用だとは思うが……それにしても妙な話じゃないか?」
「妙な話、かい?」
 メートヒェンの言葉にアトはああ、と頷く。
 通常、色というものは存在しない。色は光の屈折によって現れるものだ。空が夕暮れに茜色へ変わる現象も同様である。
 その原理でいけば──この真白な階層は、何処からか放射されている光を受けていると考えられる。
 その原理通りならば『色でないもの』の色は奪えない筈だ。
 アトは用意していた角灯の油にファルカウの枝より編み上げられたロープを浸す。火を近づければジリジリと煙が出始めた。
「火ってのは正確には色じゃなくて明かりだ! 色を奪えるかな!」
 アトがこの階層へ喧嘩を売るが如く声を上げる。反響音の聞こえない白の世界はかなり広いらしい。
「……まだここに留まっていても大丈夫そうわいね。かなり遠いみたいだわさ」
 『総隊長』ペリカ・ロズィーアン(p3n000113)が出口らしき扉の方を見て呟く。そちらからは先ほどと変わらず、うぞうぞと小さくモンスターが近づいてきているようだ。そこまで遅くなさそうに見えるが、まだ少しばかり検証の時間はありそうだ。
「初めて来たけれどあんまり楽しそうなところじゃないみたいだね」
 『大号令の体現者』秋宮・史之(p3p002233)は自分の手を見つめる。つま先からさらさらと色がこぼれ落ち、透明になっていく様はまるで──砂の落ちていく砂時計を眺めているようだ。
(色を奪う、ねぇ。……奇妙な仕掛けもあったもんだ)
 『ディザスター』天之空・ミーナ(p3p005003)は史之をちらりと見やる。その手から徐々に色の抜けていく様子を見て自身をも見下ろすと、髪の先から色素が抜けていく様が見えた。
「自分から色が抜かれる……そんなこと考えたこともありませんでしたよ」
 『こそどろ』エマ(p3p000257)もまた自分の体を、仲間の体を見下ろして呟く。色が抜けて、抜けて、いつか透明になってしまったら。あちらから迫ってくるモンスターと同じになってしまったら。
 笑えない──本当に笑えない。
(果ての迷宮の恐ろしさを垣間見ていますね、私)
 2層ほど前には色のない『アリス』もいた。この階層と何か関係があるのだろうかと思うものの、まずはこの階層を突破することが先決だ。
「ペリカさん、今回も情報収集をお願いいたします」
「承知だわさ! 進むのは任せたわいね」
 びしっ、とペリカがおどけて敬礼を決める。階層毎に様子が一変するから大変だろうが、これはペリカの仕事でもあるのだ。
(新参にも仕事の余地があるのはありがたい話だが)
 ラダは心の中でそう呟く。なにせ、長年潜っているペリカでさえも全貌を終えてはいない遺跡だ。
「ペリカさんってもうずっと穴を掘ってるんだよね? 俺たちで言うダンジョンブレーカー上位探索者かも」
「ダンジョンブレーカー?」
 きょとん、とペリカに聞き返された史之は「あれ?」と首を傾げる。てっきりそうだと思っていたのだが。違うのならばモンスター知識や鑑定眼などは使えないのだろうか。
 その話をすると、ペリカは首を傾げながらも「出来る限りの情報は集めるわいよ!」とサムズアップ。遺跡探索のためならなんでもござれ。もちろん戦いでも、探索でも。
「エネミーは、色を奪われているのか、それとも元から、そういうものとして、生まれているのか」
「多分、元からそういうものとして生まれているわいね」
 答えたペリカにエクスマリアが「どうして?」というように視線を向ける。
 この階層において色を奪われるということは、他階層──外界からの侵入者でなくてはならない。しかしペリカやイレギュラーズたちの前にこの階層へ踏み込んだものは『絶対にいない』。
「ここは前人未到の階層。あたし達の前に誰かが踏み込むことはありえないのだわさ」
 だからヒトを模したそれもおそらくこの階層の住人と呼ぶべきモノ。この白い世界で色を持った何かが生まれるなど考え難いものだった。
 などと話している合間にも、敵の輪郭が近づいてくる。温度を視覚的に認識するエマとメートヒェンの視界には、ただただ冷たい青色が広がっていた。その一方でアトのつけたロープの火は煌々と赤色を放っている。
 いや、それどころか──ロープ自体も消えていない。
「これは人……生者のみの色を奪っていくみたいわいね」
 自らの武器を握ったペリカは手元を見てそう呟く。彼女の手は少しずつ色素が抜けていくが、その手に捕まれた武器からは色がなくなっていかない。無機物は色が奪われないということらしい。
 ロープについた火は吸った油がなくなってしまったのか、その勢いを落とす。けれどもロープ自体もペリカの大剣同様ということだろう。
「なら、わざわざ火を付けなくても良さそうだ」
 ロープを垂らしていこうと握るアト。ラダも小さな松明に火をつけ、地面へと転がす。消えにくいそれは地面へ置かれても燃え、音を立てながら煙を上げた。これならばしばらく目印になってくれるはずだ。
 そこへ「うーん?」と怪訝そうな声を上げる史之。入口となっていた扉へ丸を刻もうとしたのだが、これがどうにも傷つかない。
「ならこれを使うか」
 アトがこんなときもあろうかと──本当はこの後使う予定だが、少しくらいならと──チャコールパウダーを取り出して地面に丸を書く。ぱっと見の目印であるし、無機物の色が消えないのであれば炭の粉末だって消えないなずだ。
 これで準備完了。まず目指すべきは──遠くに見えている、次の階層へのものと思しき扉。
「敵はあまり相手にしない方向でいいんですよね?」
 難しくないのであれば避けてしまいたい。イレギュラーズとペリカに必要なのは第16層へと続く鍵だ。
 不要な戦闘を回避できるのであればそれにこしたことはない、と本領発揮したエマがじっくり敵陣を観察する。
(まだ鍵を持った敵は出てきていませんか)
 視界に広がるのはひたすら青ばかり。エクスマリアも無機疎通をしようと試みるが、特に返事はないようだ。エコーロケーションで視認の悪さを補うクリムの脇をひゅん、と何かが通り過ぎていく。
「描く風景のことは置いておいて……今は陛下のために調査を進めようか」
 幻想王──フォルデルマンの名代として来たメートヒェンはクリムの脇を駆け抜け、敵陣へ突っ込んだ。探すはヒト型の輪郭。けれどまだ敵は現れていないらしい。
「さあ、色無き者達よ。お前達にこの闇はどう見える!!」
 ミーナが作り出した闇はメートヒェンとすれ違った四つ足の輪郭を飲み込む。その直後にメートヒェンもスライム型の輪郭を発見して引き付け、一同はそのまま出口である扉の方へと駆けだしたのだった。

 アトが伸ばせるところまでロープを伸ばし、ラダが松明を一定の間隔で燃やして落としていく。それも尽きれば、メートヒェンが持ってきた煙筒を転がして。
「こんな時はこいつを──」
 懐からチャコールパウダーを取り出そうとしたアトは、横からの攻撃に慌てて半身を翻した。振りかぶる余裕は持たせてくれないらしい。
 ミーナとメートヒェンへ群がり過ぎた敵の体をクリムの魔弾が突き抜け屠る。ゼフィラは一旦それらを無視し、移動しながら星夜ボンバーを爆発させた。
 爆発音とともにキラキラと星が散らばる。それらの色も特に変わることなく、さらに言うならばモンスターたちも見向きしない。
 目的は色でないということか、それとも生者の色にしか興味がないということか。
「あの輪郭しかないモンスターは扉の近くで湧かないみたいわいね」
 イレギュラーズに続いていたペリカが肩越しに振り返りつつ呟く。見ればモンスターたちは後方から徐々にその数を増やしており、前方から来る敵影は今の所見えない。第15層へ到達した時も不意打ちを食らうことはなかった。
「うーん、いませんねぇ」
 ころり、とキャンディを口の中で転がすエマ。その足は止めず、真っ直ぐ出口と思しき扉まで向かう。敵陣を駆け抜け、追い抜いて。一同は大きな扉の前までたどり着いた。
 その裏側は何もなかったが、ここは果ての迷宮──扉を開いたら異世界の如き空間が広がるくらい当たり前と言って良い。その光景を見るべく、アトはカギ穴を丹念に観察する。
 扉には錠前があり、これによって施錠されているようだ。無理やり壊せば──とも一瞬脳裏をよぎるが、この果ての迷宮において正しく踏破しなければ何が起こるかわからない。
 ならば、やはり鍵を見つけるしかない。
「皆! 鍵穴は普通だ!」
 ならば鍵もまた通常の、一般的に見られる形状である可能性が高い。
 ゼフィラは扉の周りへ探検者便利セットから取り出した松明を立てかける。それらを背にラダは欠陥ライフルを構えた。
 降り注ぐのは鋼の驟雨。執拗なる銃弾が敵を穴だらけにしていく。
「こちらからダメージを与えても少しずつ減っているわいね! 気をつけて!」
「マリアの肌も、白くなる、か。白髪は勘弁して欲しい、が……」
 撃退しないことには、鍵を奪取しないことには進めない。エクスマリアがギガクラッシュを叩き込み、その髪からさらりと色が抜け落ちた。
(どこだ、どこに、いる)
 無機ならば、エクスマリアの力で簡易ながらも意思の疎通ができるはずだ。応えてくれるだけでいい。どこにいるのか。
 わらわらと湧いてくる輪郭たちをミーナとメートヒェンが自らの方へ寄せ集める。それだけで2人から零れ落ちる色素の減りは早くなるが、それを食い止めんと史之が2人を癒す。アトとゼフィラの神子饗宴が仲間たちの力を押し上げ、クリムはため込んでいた魔力を放出した。
 砲撃とも呼べるような破壊的魔力を受け、何体かが塵と化す。死体もなくなってしまうのだからどれだけがこの辺りに霧散したのか不明だが、まだまだ見通しは悪いようだ。
「おっと、そう先を急ぐなよ。ここで、遊んでいきなっ」
 ミーナはペリカへ向かう敵の行く手を阻み、剣の切っ先を向ける。
 彼女を癒しながら、抜け落ちていった色に史之は視線を走らせた。床などが色づいているということはなさそう、だが。
(俺たちから抜けた色、能力らしきものはどうなるんだ?)
 まさかそれを吸収した強力な色付きモンスターが出てくる、なんてことはないだろうか。有り得ないとは言い切れないだけに、漠然とした不安が残る。
「さてさて、流れる血は何色でしょうね」
 エマは軽やかなステップで敵へと肉薄し、武器を振るった。何かの手応えを感じるが、こぼれ落ちるものは何も見えない。温度を視覚的に認識できるものには青い何かが溢れ、消えていく様が見えたことだろう。
(まあ、真っ白でしょうね)
 あとも残らず、この階層へ還るモンスターたち。早く鍵を持つ敵を見つけたいところだが──。
「──いた。アタリ、だ」
 ラダがライフルを構え、撃つ。そのずっと先にいるのは明らかな『色を持つ何か』を身に着けたヒト型。温度視覚では冷たい青色ばかりだが、普通の視覚ならばあまりにもあからさまな鍵の見え方に虚を突かれた者も少なくない。
 だが、現れたというだけで1歩前進だ。
 メートヒェンが周りに現れたモンスターごと罵倒して引き寄せにかかる。ゼフィラはその間にと彼女を取り巻く敵から弱っていそうなモノを無数の晶槍で串刺しにせんと追い詰め、エクスマリアが最後に叩き潰した。
 逃れんとする鍵持ちのヒト型は、突如として闇に包まれる。ミーナが追いかけてくる敵をそのままに走り出し、死神の領域を作り出したのだ。
「絶対に、逃さない!!」
 回り込むミーナ。さらにその周りを敵が取り囲む。ミーナはその個体の前に立ちはだかりながらもひらりと攻撃を避け、的確に受け止める。その力を攻撃に変え、ミーナはアイアースをヒト型へ叩き込んだ。
「えひひっ、そう簡単に捕まりませんよ!」
 密集した敵の中、軽い身のこなしで白い輪郭をかいくぐって執拗に短刃を敵へ向けたエマ。そこへ皆の後方からペリカが叫ぶ。
「皆! 抜け落ちた色はこの階層に霧散してるわい!」
「なら、色を持ったモンスターなんかは、」
「出ないと思うわいね! それなら白で隠さず、1箇所に集めるはずだわさ!」
 史之の問いにペリカが頷く。さらさらとこぼれ落ちた色素はあっという間に空中へ散らばり、階層の白に紛れて見えなくなってしまっているだけなのだと。
 だからより正確に言うならば『生者から色を奪うが、吸収してはいない』。
 少なくとも色を吸収される、それにより強くなるという事態は起こらないわけだ。なら良いかと言えば、決して油断はできないのだが。
 エクスマリアがその瞳に目の前の敵を移す。ぶよぶよとした動きを見せるスライムが緩慢なそれになると、すかさず背後に回り込んだアトが一撃を加えた。
「ヒトも、倒したい、が。スライムも、著しく邪魔になる、な」
 また色素の抜けた髪をゆらりとゆらしながら、エクスマリアはヒト型とスライム型を中心に屠っていく。思うように動けなくさせられる前に潰してしまいたいところだ。
「頑張って、皆!」
 仲間の傷を癒す史之にゼフィラが加勢する。天使の福音は彼女を中心に響き渡り、仲間の体力と戦線を上げた。
「僕たちはこの先へ行くんだ、止まってなんていられない」
 倒しきれずに増えていくモンスターを1匹でも減らそうとアトが音速の殺術で攻める。ラダのライフルは絶えず銃弾を放ち続け、ミーナへまとわりつく敵を翻弄し続けていた。
 だが、このままでは終わりがない。
「陛下にこんな報告はできないな……!」
 崩れ落ちかけたメートヒェンが、秘める力を振り絞って立ち上がる。持ち帰るのはいつだって成功の結果が良い。メートヒェンが放った大鎌のような軌跡は敵の1体を霧散させた。
「スリ……取れませんね」
 鍵持ちへ肉薄し、鍵をかすめ取ろうとしたエマが引きつった苦笑いを浮かべる。皆が気を張った戦闘時。個々の動きにはどうしても敏感になってしまうようだ。
(果ての迷宮、これまでも癖の強いモノばかりでしたが)
 あの鍵を奪取するには時間がかかりそうだ、とエマは武器を構える。口の中のキャンディが溶けるまでもう少し。
 史之は視線を巡らせ、敵が現れる場所を探す。もしこの背後にある扉が偽物だったのなら、次に考えられるのは。
(この階層の住人である敵にとって、そこは別の空間と行き来する扉なんじゃないか?)
 別の空間──すなわち別階層。本物の出口がそちらだと言われてもなんらおかしくはない。
 だが、目の前には壁のように立ちはだかる白、白、白。見通しの悪い向こう側で敵は現れ続けている。押しつぶされそうになる史之から、さらさらと色はこぼれ落ちていく。そのひと掴みを残すように1度踏ん張り、さらに運命に抗って少しばかりの色を取り戻し。
 史之の支援が仲間をもうひと踏ん張り、と背中を押す。
「扉がある、鍵が用意されている……ならばここは何かを守るのではなく、解かれるのを待っている迷宮だ」
 ラダは暴れる欠陥ライフルを押さえつけ、的確にモンスターへと狙撃する。その音はまるで大嵐のようだ。
 イレギュラーズたちが放つ渾身の攻撃に、しかし白い輪郭たちは止めどなく立ちはだかる。鍵を持つヒト型は遠くから矢のようなものを放ち、怒りに当てられたヒト型やスライム型が壁のごとく群がった。
 小さな舌打ちとともにミーナの体から色素が完全に奪われる。蠢く白の輪郭は残る者たちへと迫って。ゼフィラは咄嗟にペリカの前へ立つとその攻撃を庇う。
 見る間に色素の抜けていくゼフィラ。最も、他のイレギュラーズたちも例外ではない。

「──皆!」

 声を上げたのは大剣を握ったペリカだった。彼女へ素早く視線を向けるイレギュラーズたちに『総隊長』が叫ぶ。
「撤退するわい! 前のセーブポイントまで走って!!」

 誰もが思っただろう。
 ここまで来て、と。

 誰もが思っただろう。
 鍵がそこにあるのに、と。

 誰もが思っただろう。
 扉を開くまであと少しだ、と。

 けれど、階層踏破の指揮をするのは彼女だ。

 再び敵の方へと走り出すイレギュラーズたち。動けぬ仲間には手を貸し、入ってきた扉を目指して敵の間を駆け抜ける。
「絶対に生きて帰るわいね! 生きていれば、また挑戦できる!」
 撤退するイレギュラーズへ追いすがるモンスターたちの前へおどり出るペリカ。手に持つ大剣を振りかぶり、イレギュラーズが範囲から外れた瞬間豪快にぶん回す。
 彼女もすでに体の半分ほどは色を奪われていて。それでもイレギュラーズの殿を守るのはきっと──第1層での、イレギュラーズより前に挑戦した冒険者たちと同じことを繰り返さないために。
「ペリカさん、早く!」
 第14層から繋がっていた扉を潜り、エマが叫ぶ。余力のあるイレギュラーズも応戦しながら撤退した。残るはペリカ1人だけだ。ペリカは武器で敵を吹っ飛ばした隙に全力で駆け出す。
 ギギ、ギ──。
 ペリカがこちらへ来ることを察知したかのように、全開だった扉が閉まり出した。それはペリカを潜らせないため──ではなく、その後ろに続くモンスターをも潜らせてしまわないように。
 ペリカが潜り抜けたその直後、轟音を立てて扉が閉まる。へたり込んだイレギュラーズたちを色と、冷たい空気が包んだ。
「……色が戻ったようだ」
 ゼフィラの呟きに皆が視線を巡らせれば、色を奪われて薄くなっていた仲間たちが元に戻っている。階層を出たことによるものだろう。
 願わくば、その現象を『あちら側の扉』で知りたかったが。
「……帰るわい。しっかり休んで、次の挑戦に備えるだわね!」
 すっくと立ち上がったペリカがイレギュラーズを見る。進むことができず、こうして逃げ帰ったわけだが──誰1人として死んでいない。今はひとまずそれだけで良かった。

 まずは地上へ。ペリカは第14層と第15層間のセーブポイントを再度起動し、イレギュラーズとともに帰還したのだった。

成否

失敗

MVP

なし

状態異常

メートヒェン・メヒャーニク(p3p000917)[重傷]
メイドロボ騎士
クリム・T・マスクヴェール(p3p001831)[重傷]
血吸い蜥蜴
天之空・ミーナ(p3p005003)[重傷]
貴女達の為に
ミルヴィ=カーソン(p3p005047)[重傷]
剣閃飛鳥

あとがき

 次こそは。

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