PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<バーティング・サインポスト>刺激的なパウダー・ブルー

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●命の削れる臭い

 ああ。
 とても、とても臭い。
 そうこの臭い。絶望の青へ入ってから、感じていたのはこの臭いだ。

 廃滅病の、死の臭い。
 これまでの大号令でも、そして今回も。絶望の青へ入った者を文字通り『見境なく』死の縁へ追い詰めていく呪いのようなもの。

 仲間たちの、敵の、命が削れる臭いがする。
 早く止めなくてはならない。仲間を助けるために──。


●橋頭堡を確保せよ
「どこもかしこも大忙し。君たちも俺たちも引っ張りだこだ」
 やになっちゃうね、なんて言う『黒猫の』ショウ(p3n000005)の面持ちは些か疲れているように見えるかもしれない。
 鉄帝は《歯車大聖堂》の件があり、深緑では妖精絡みで依頼が舞い込み、その他日常的な依頼だって途絶えるわけではない。そこへ重なってきたのが海洋の大号令──その続報とも言うべきもの。
「絶望の青にね、大きな島が見つかったんだ」
 これまで絶望の青で狂王種を倒し、幽霊船を退け、橋頭堡を探し続けていた海洋軍たち。ついにそれらしき島が見つかり、同時にそこへ潜む脅威も発見されたと言う。
 ──魔種だ、とショウは言った。
 滅びのアークを集める者たち。あの島は彼らの拠点と言っても良いかもしれない。
 とは言っても対処すべきはそれだけにとどまらない。島へ上陸するために、近海で鉢合わせる狂王種の相手も必要になる。今回の依頼はそれだとショウは言った。
 討伐対象はボルジェリと呼ばれるクラゲ。海上でも行動でき、その表面に毒を含んでいることが特徴だ。その動きは鈍いが、毒による攻撃はなかなかエグいらしい。
「狂王種っていうのは海洋生物や飛行生物の突然変異だから、海洋近海にも似たクラゲはいるんだけどね。そちらは正しく調理すれば良い刺身になるそうだよ」
 最も、より危険性のあるボルジェリは食べられないだろうが──食べられたとしても、此度はその味見をする暇などないだろう。流石に絶望の青のど真ん中で味見をするわけにもいかないし、持ち帰ろうとすれば鮮度が落ちてしまうだろう。
 今回確認されたボルジェリの群れは18体。個々がさしたる強さではなく、頭数による難易度も友軍のことを鑑みれば通常イレギュラーズたちが受けているものと大差ないと判断されている。つまり混沌肯定によりレベル1となった、イレギュラーズになったばかりの者たちでも力を合わせれば討伐できるということである。
「比較的倒しやすいかもしれないけれど、危険なことに変わりはない。十分気をつけて行くんだよ」
 『討伐できる』は『失敗しない』というわけではない。ショウはそう釘を刺すと、イレギュラーズへ依頼書を手渡した。


●海に揺蕩う毒クラゲ ~引退したとある海兵の手記~
 絶望の青は気候の変わりやすい場所もあれば、危険なモンスターも十分多い。ボルジェリというモンスターはそのような過酷な環境でただただ、揺蕩っていた。
 進路は波任せのようで、あまり自ら動くことはないようだ。モンスターたちは彼らを食べようとしてくるが、毒をもつその体に恐れをなして逃げていくか、食べてその毒で死んでいく。
 彼らの食事は目にも見えないような生物たちだと思われる。進んで食事に向かうのは時折やってくる私たち──『人間』くらいだと思われる。
 彼らは船へ張り付き、甲板まで登ってくる。そこに人間の気配を感じると、足で絡みついて海へ落とす。
 大変危険だ。だが彼らは水の中以外で遠くへ移動することを大変嫌うようだ。私が慌てて舵を切り、その海域を抜けようとすると彼らは慌てて海の中へ飛び込んでいった。
 この特性もあり、狂王種の中では比較的対処しやすいモンスターだと思われる──。

GMコメント

●重要な備考
 <バーティング・サインポスト>ではイレギュラーズが『廃滅病』に罹患する場合があります。
 『廃滅病』を発症した場合、キャラクターが『死兆』状態となる場合がありますのでご注意下さい。

●成功条件
 ボルジェリの撃破

●失敗条件
 成功条件を満たさず、海域から撤退する

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

●ボルジェリ×18
 クラゲのような外見をしたモンスターです。足で器用に体を支え、陸上でも活動が可能です。
 彼らは船を見つけると勝手に這い上がり、人を襲います。特定の海域まで行けば自らやってくるでしょう。
 特殊抵抗が高く、防御技術も高め。しかし命中と攻撃力はさほどでもないようです。
 特殊ルールとして、近距離より近くから攻撃を加えるとダメージ無しのクリーンヒット相当で【毒】のBS判定が入ります。

ビンタ!:物近単:毒を含む腕で思い切りビンタします。【毒】【麻痺】
ギュッ!:物近単:足でぎゅっと絞められます。ぎゅっと。【体勢不利】

●ロケーション
 船の上です。船にはイレギュラーズと操舵士の海洋軍人1名が乗っています。
 戦闘には支障のない広さ、環境です。

●友軍
・海洋軍船×2
 それぞれに10人程度の軍人が乗っています。最初の5ターンくらいはそれぞれの船で5匹ずつ相手をしてくれますが、その後は撤退しようとするためボルジェリが皆さんの方へ向かうでしょう。あまり頼りにならない戦力です。

●ご挨拶
 愁と申します。
 クラゲって水族館とかで見る程度には可愛いですよね。中にはこのように毒性のあるクラゲもいますので、皆さんは海に行く際気を付けてください。
 誰かが海に飲み込まれそうになった場合、特に指示がなければ船を操舵している者が海域を出ようと船を動かします。その場合も失敗になりますのでお気を付けください。
 それでは、ご縁がございましたらよろしくお願い致します。

  • <バーティング・サインポスト>刺激的なパウダー・ブルー完了
  • GM名
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年03月20日 23時00分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

鶫 四音(p3p000375)
カーマインの抱擁
グリムペイン・ダカタール(p3p002887)
わるいおおかみさん
アイゼルネ(p3p007580)
黒紫夢想
セレマ オード クロウリー(p3p007790)
性別:美少年
太井 数子(p3p007907)
不撓の刃
羽住・利一(p3p007934)
特異運命座標
ルーチェ=B=アッロガーンス(p3p008156)
異世界転移魔王
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
戦輝刃

リプレイ


 音を立て、3隻の戦艦と1隻の小型船が絶望の青を行く。この海域へ入ってからいくばくかの時が過ぎたが──。
「海、海、海!! 何処まで見ても塩水ばかり!!!」
 不服だと言わんばかりに『わるいおおかみさん』グリムペイン・ダカタール(p3p002887)が鼻を鳴らす。実際、不服なのだ。
 どこまで行ったって代わり映えのしない景色。常に漂う嫌な臭い。海の幸が出て来るかと思えば向かってきたのは嵐と大波。挙句にはクラゲの大群ときた。
「全く、食おうにも腹も膨れやしない!」
 早く地面に足を付けたいものだと言うグリムペインに、『特異運命座標』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)は端に用意されていたロープを拾い上げながら告げる。
「だが人間のような知能は無いにせよ、脅威には違いないさ」
「そうだね。安心して島に立ち入れるよう、キレイに掃除しないと!」
 『特異運命座標』羽住・利一(p3p007934)はベネディクトの言葉に頷きながら、抱えていた土嚢で通り道を作る。向こうから向かってくるのなら、その前に準備を終わらせなければならない。
「私にできること、ある……?」
 手伝いを、と利一に音もなく近づいた『黒紫夢想』アイゼルネ(p3p007580)は少しばかりびっくりされながらも、「土嚢を持ってきて」という彼女の言葉に頷いた。
 土嚢を持ち上げ、船の揺れで落とさないよう気を付けながらアイゼルネは指示された場所へ。土嚢を下ろしたらまた次の土嚢を運びに行く。
「ああ、俺も手伝うぞ」
「私も!」
「助かるよ」
 ベネディクトと『磨石のミーティア』太井 数子(p3p007907)へ短く返した利一は、土嚢と土嚢の間に板を挟み込むと立ち上がってそれらの出来を確認した。時間を鑑みればそろそろのはずだが、なんとか形にはなりそうだ。
 『カーマインの抱擁』鶫 四音(p3p000375)は仲間たちの乗る船と自らの小型船を並走させる。そろそろ現れるだろうモンスターとの交戦を思うと──正確には交戦により綴られる物語を思うと──楽しみで仕方がない。四音の口元に笑みが浮かんだ。
「そろそろだ! 船を止めるぞ!」
 操舵士が叫び、3隻がゆっくりとその速度を落とし始める。四音はそれらに合わせて小型船を止めると、近づいてきた船へ乗り移った。
(戦闘に気を取られて落ちるなんてことは早々ないでしょうけど)
 備えあって憂いなし。四音は船の縁から、海へ落下した時のためロープを垂らして波間を見つめる。すると間もないうちに白っぽく、大きな何かがいくつもやってくる様が見えた。
 ぷかぷかと近づいてくるクラゲの群れに数子がうわぁ……と顔を引きつらせる。四音はその表情を見て視線をクラゲ──ボルジェリへ向けた。
「クラゲというのは、強い毒性を持った危険な生物ですよね」
「ええ。せめて小さくて1、2匹だったら良かったのに……」
 大きいのも大量なのも可愛くない。毒を持つ種類なら立派に脅威だ。
「クラゲ……確か魔術や夢占いにおいては『恋愛運の向上』『思いがけない収入』の暗示だね。それとも『密かな不安』『己の腹黒さ』だったかな?」
 『性別:美少年』セレマ オード クロウリー(p3p007790)はモンスターたちを観察しながら綺麗な顔に薄く笑みを浮かべる。
 どんな意味にせよ、この絶望の青と呼ばれる海にはこれ以上ないくらいにふさわしい。ここにはその意味を如実に表すものばかりがある。
 例えば、心躍る大冒険。
 例えば、困難を介して育まれる情愛。
 例えば、隠された金銀財宝。

 そして──嫉妬の冠位の呪い。

「余たちの任務はいわば"露払い"みたいなものだろうよ。狂王種だろうがクラゲごとき、余の魔力で消し炭にしてくれるわ」
 『異世界転移ポン魔王』ルーチェ=B=アッロガーンス(p3p008156)は笑みを浮かべて武器を握る。狂王種とは言うが、テリトリーに何者かが入ってくるまで漂っているだけとは随分と呑気なモンスターである。それこそ彼女の全盛期ならばあっという間に消し炭とできただろう。そう思えば、混沌肯定という法則もいくばくか憎く思えてくる。
「口惜しいが仕方あるまい」
 全てを蹂躙できぬのならば、1体ずつ確実に仕留めていくまでだ。

「いいね。こんなドラマチックな話を解決するのは、飛び切り美しい主人公に限る。つまり──ボクだね?」
 キラキラとしたエフェクトを幻視しそうな美少年が、土嚢により狭められた甲板に立つ。特別ボルジェリが登ってこようとしなければ、彼らは漏斗へ吸い込まれていくようにこの挟まった道を通るという寸法だ。
「私は必要な時に直ぐに支援が行えるよう。皆さんの後ろに控えさせて頂きますね」
 そう告げて前衛と後衛の間を取る四音。理由としては戦闘力の差にもあるのだが、まあ嘘は言っていない。
(殴る蹴るとかならできるんですけどねー)
 それよりは仲間たちを治療した方が有益だ。適材適所というやつである。
 ざば、と何かが上がってくる音に次いで船のヘリを触手が掴む。ボルジェリを辞任した瞬間、セレマはディスペアーブルーを歌い上げた。
 この海を歌う冷たい呪いに、それでも這い上がってくるクラゲたち。すかさず利一がその精神に干渉しようと残留する力へ意識を注ぐ。グリムペインはいつのまにか手に持った黒漆塗の小槌を振った。
「そうら、大きくなあれ!」
 土嚢に登ろうとして板に遮られ、定められた道を進むボルジェリたちの先に不可視の何かが降り注ぐ。それでも臆さず前進する姿は考え無しと言うべきか、それともこの程度で臆する必要はないと考えているのか。
 ブルーノートディスペアー──コン=モスカの秘伝書を開き、ボルジェリの記述を探して視線を走らせる利一。その傍らを数子が駆け抜けた。
「さあ、掛かってきなさい! その体、真っ二つにしてあげるわ!」
 自己回復力を上げた彼女は肉弾戦を仕掛ける。ぬるぬるした体は触れるだけでも気持ち悪い。触手の掠めた腕が小さく痛みを訴えた。
 利一の作り出した罠とイレギュラーズの攻勢により、ボルジェリはあくまでの進撃を許されない。特にその中でも異質なのは──。
「見惚れてくれて構わないよ。その間に終わらせるから、ね」
 ──この美少年だと思う。
 儚く美しいこの美少年は今にもクラゲもどきに屈してしまいそうなのに、いつまで経っても倒れやしない。それどころか何も変化が起きないのである。
 実質はマイナスになった分だけプラスに戻って変化が見えないだけだが、わざわざそこまで説明しなければいけない理由もない。
 そんなセルマは前衛に立ち、後ろへ向かおうとする敵を徹底的に吹き飛ばしていた。その両脇では仲間たちがボルジェリたちを打ちのめす。
「ええ、ええ、皆さんとても頼もしいですね。ふふふ」
 四音は小さく微笑みながら天使の歌を響かせる。自分がすべきは皆を癒し続けること。万全な状態で戦い続けられるよう支援すること。彼らが全力で敵を打ちのめすと同様に、四音も全力で彼らのサポートをしなければ。
「フッハハ!! クラゲの踊り食い、というやつかな!?」
 グリムペインの笑い声と共に皿の上でダンスをするかのように巨大なフォークとナイフが縦横無尽。それはのらりくらりと受け流すことを許さない。
「私は私にできることをしないとね……」
 劇薬を仕込んだナイフから攻撃手段を変えたアイゼルネな瞬時に背後へ回り込み、ボルジェリへ暗器を向ける。回り込んだ時と同様にすぐさま離れた彼女へ追随し、ベネディクトは敵へと切りかかった。
「まだまだ、この程度で俺はまだ倒れないぞ……! 次だ!」
 ベネディクトは休む暇なく別のボルジェリへと攻撃を仕掛ける。その柔らかなフォルムへ確実な打撃を与えるのは難しい。その分攻撃の仕方を工夫しようと彼は槍でボルジェリの足を薙いだ。
 徐々に進行してくるボルジェリたちは、しかし不意にある場所で数体が網へ閉じ込められる。すかさずルーチェが魔力という名の破壊力をぶつけた。
「ふむ。まだ力が戻るには時間がかかりそうか」
 ボルジェリたちの損傷具合を見てルーチェは呟く。捕まったボルジェリたちは網の隙間からにゅるりと這い出した。自分たちを罠に嵌めた利一へその敵意は向けられ、その体へ触手が巻きつく。海の方へ引っ張られた利一はたたらを踏みながら「船を動かさないで!」と叫んだ。
 操舵士がその言葉に躊躇する間にも利一の体は海へ投げ出される。落ちる寸前、彼女の唇が何事かを呟いた。
 跳ねる水しぶき。操舵士が思わず駆け寄ると、大きく波打ったそこから利一が顔を出す。
「ボルジェリは離れたみたいだね」
 良かった、と呟きながら利一はウィングシューズでふわりと浮かぶ。ヘリから垂らされていたロープに捕まると、操舵士へ大丈夫だと言って甲板へ上がった。
「海の怪物の造形というのも中々興味深いですね」
 四音は仲間たちを回復しながら、器用に甲板を進むボルジェリへ視線を向ける。鮮度は落ちるというけれど、持って帰れたりするだろうか。調べてみれば何か新たな発見があるかもしれない。
 船の端に寄らないように、とマストの近くに陣取っていた数子はボルジェリに引かれるも腰は巻いたロープが阻止する。
(落ちたらお洋服が台無しになっちゃう……!)
 せっかくこの世界に来て、名もミーティアと名乗り、数子は生まれ変わったのだ。可愛いお洋服をずぶ濡れの磯まみれになんてしたくない思いで数子はボルジェリを倒す。負った傷を癒しながら数子は叫んだ。
「次はどいつかしら!? 私はまだやれるわよ!」

 周囲に気を払っていた利一は友軍が動き出したことに気づく。注視していたアイゼルネも同様だ。自分たちの乗る船を除く2隻は後方へと流れていく。
「船を!」
 そう叫ぶと、操舵士が頷いて舵を握る。ぐわりと船が揺れ、船首が撤退する2隻の方を向いた。
「敵が増えるよ、気をつけて」
「ああ。此方に群がるというなら好都合だ」
 ベネディクトは利一の言葉に頷き、ちらりと視線を撤退する友軍へと向けた。
(被害は大丈夫だろうか)
 操舵士が無線で連絡を取る術もあったが、そのような時間を取らせないままボルジェリたちが船へ上がってくる。ベネディクトは内1体へ接近すると槍で突き、そのまま甲板へと叩きつけた。
「さあさ今夜は舞踏会、幕が下りるまで踊っておくれ」
 グリムペインの前に骸の盾が顕現し、ボルジェリは彼の周りをくるくる回る。その動きが止まるのは自身が死を迎えた時だ。
 四音は声援で自らの精神力を底上げし、その力を回復へと回す。その一方でアイゼルネは自らが傷を受けることを気にせず敵の懐へと肉薄した。毒など効かない体だ、その脅威を気にする必要もない。それはグリムペインも同様だ。
「魔女の毒林檎よりも強い毒を持ってくるのだなあ」
 呑気な物言いで──実際恐れるに足りない──グリムペインは柔らかなボルジェリの体をフォークとナイフで切り刻んだ。
 利一がしつこく煽って数体を引きつける中、それらに引っかからなかった何体かがベネディクトへまとわりつく。下段からの攻撃に彼は耐えながら、ボルジェリたちを睨みつけた。
 保証された明日など誰も持っていないことをベネディクトは知っている。この世界でも、元の世界でも。生きていると言い張れるのは『今』だけだ。
(それでも終わりは幸せで終わって欲しいから)
 死の香りと共に触手がベネディクトの体を締め、海へ引きずり込もうとする。腰に巻いたロープがそれを食い止め、同時にセレマの魔力がボルジェリを叩いた。
「お礼は結構だよ。この程度じゃ死ねない身の上だからね」
 肩を竦める姿も美しく。セレマは視線を甲板へ巡らせる。
 そろそろ美少年を主人公とする物語も解決に向かうようだ。
 四音の響かせる天使の福音が仲間たちの体力を持ち上げる。反して弱ってきたボルジェリへ容赦ない魔弾がルーチェから叩き込まれた。利一が無理矢理に使用した因果を歪める力は、自らを傷つけると同時に敵へも刃を向けて。
「さあ、これで幕引きだ」
 グリムペインの放った不可視の刃は、ボルジェリを無残なほどに刻んだ。



 どろり、とボルジェリが溶けるように甲板へ崩れる。グリンペインは小さく鼻を鳴らした。
「クラゲは大概が水分だ、食えたものでもないな」
 こうなってしまえば殆ど何も残らないだろう。当然、食べるところなどありはしない。
 四音の小型船をけん引させ、3隻の船は動き始める。さほどもせず小さな島影がイレギュラーズたちの瞳に映った。それはまだ遠く、近づいていけば大きな島なのだろうということを感じさせる。進むにしろ引き返すにしろ、グリムペインが望む陸地はまだ遠いようだった。
 さああ、と潮風が甲板を吹き抜ける。舞う髪を耳にかけ、数子は目を細めた。
(とんでもない世界に来ちゃったけど、海は海ね)
 恐ろしいモンスターも出るし、廃滅病なる死の呪いが漂ってはいるが。それでもこの瞬間は『海だ』と数子も感じることができた。
 肌をべたつかせる潮風と、絶えまない波の音。急変する天候。
 知っている事、知らない事、それらが入り混じった絶望の青は全く同じではないけれど懐かしく思わせる。
(私は、こんなところで負けたくない)
 おそらく今より大変で強い敵にも遭うだろう。もうダメだと絶望することもあるだろう。それを乗り越えられるように──他のイレギュラーズのようにもっと強くなって、誰かを守れるようにならなければ。
「……ふん、なかなか面白いことを考えるものだな」
 ルーチェは島を見ながらにぃと笑みを浮かべる。
 この海域の奥へ進むための橋頭保であり、かつ魔種たちが占拠している島『アクエリア』。あそこを拠点とするため、海洋はここまで大きな制圧戦へ打って出た。そこには廃滅病が絡んでいることも間違いないが──海洋国民たちの大きな期待と冒険心がこの場所まで突き動かしたのも確か。
「悪い奴ー!! 怖い病なんかに私たちは負けないんだから!!」
 数子が海へ、アクエリアへ向かって叫ぶ。どこかに潜んでいるはずの冠位──アルバニアへ向けて。
「いつかブッ倒して全部消してやるから待ってなさあい!!」
 この言葉が届いているのか否か。けれど彼らの働きによって状況が少しずつ動きつつあるのは確かなことだ。

 さあ、制圧戦の全貌は、如何に。

成否

成功

MVP

ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
戦輝刃

状態異常

なし

あとがき

 お疲れ様でした、イレギュラーズ。

 MVPは多彩な攻撃方法で工夫を凝らした貴方に。

 またのご縁をお待ちしております。

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