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シナリオ詳細

<バーティング・サインポスト>魚群

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●救いの島は
 絶望の海のただなかに、その島はある――。
 充分な船舶を寄港できるほどの余裕と、長い航海には欠かせない食料と水をたたえた奇跡の島。
 絶望の底に残された一縷の希望。海洋の人々は、それを『アクエリア』と呼んだ。
「我々の前に現れた希望。アクエリア。しかし今は、悪魔の住まう悪徳の島か……」
 海洋船団の船長は、海域を臨みながら、静かに呟いた。絶望の青の踏破を目指す海洋船団の前に現れた一筋の光明。後半海域へと向かう際にどうしても必要な中間地点である『アクエリア』。だが、海洋にとって重要なそれは、絶望の青を支配する冠位嫉妬、アルバニアにとっても、決して人の手に渡せぬ重要地であった。
 絶望の青を人が歩むことを良しとしないアルバニアは、この中継地アクエリアを、麾下の魔種、狂王種たちに、手厚く護らせていた。
 だが、海洋の人々にとって、この地を諦めるという手はない。
 この地を手に入れなければ――此度の大号令は失敗に終わるだろう。
 故に。
 この地に巣くう悪鬼羅刹の群れを駆逐する――。
 絶望の青における一大決戦が、今行われようとしていた。
「我々の任務は、この海域に潜む狂王種、マッドサーディンの撃破です」
 サーディン、つまり『いわし』である。とはいえ、狂王種たる以上、タダのいわしではない。
 その体長は、一尾が1メートルを超える。時に鎧すら切り裂くとされる刀のようなヒレと、鋭い牙を持ち、その性質は極めて凶暴。
 そして特筆すべき特徴として、一匹のリーダーの下、巨大な魚群を作り上げることがあるのだという。
 その魚群は高度に統率化され、さながら巨大な一匹の魚のように動き、船を、人を襲うのだという――。
「見つけたぞ! マッドサーディンの魚群だ!」
 その声に海面を見てみれば、船のように巨大な一匹の魚の姿があった――いや、よく見れば、それは違うという事に気づいただろう。1メートルほどの魚がひしめき、身を寄せ合い、さながら融合しているかのように密着している――それによって生まれた、一匹の魚のような、大量のマッドサーディンの魚群であると!
「来ます!」
 船員が声をあげた。途端、海原がざぶりと波をかき分けると、海面より飛び出してきたのは、『巨大な一匹の魚のようにみえる』『マッドサーディンの魚群』である! それは牙を――牙の役目を果たす魚だ――をぎちぎちとならし、海洋船をかみちぎるかのように襲い掛かる!
「応戦! 応戦!」
 船員達が次々と銃を撃ち放つ――だが、その銃撃を受けてなお、死するのは大量の魚群の中の一匹。すぐさま穴を埋めるようにそれは補充され、巨大な魚の形状を維持したまま、船へと襲い掛かる。
 魚群は、船を横断するように飛び越え、船上にいた数名の乗組員を飲み込んで再び海へと消えていった。
「うわ、シャレになりませんね、これ!」
 『小さな守銭奴』ファーリナ(p3n000013)は、イレギュラーズ達へと声をかけた。同船を申し出たのはファーリナだ。いち早くアクエリアに乗り込んで、なんかもうけ話がないか確認したい……と言ったかどうかでは定かではない。もしかしたら、イレギュラーズ達の事が心配だったのかもしれないが、それはさておき。
「マッドサーディンのリーダーは、赤い個体らしいです。こいつをやっつけられれば、群れは崩壊するはずです!」
 ファーリナが言う。つまり、イレギュラーズ達はこの魚群の攻撃をいなしつつ、リーダー個体である赤いマッドサーディンを探さなければならないのだ。
「さぁ、皆さん、頑張って生き残って、絶望の青を制覇しちゃいましょう! そしてら大儲けですよ! 大儲け!」
 そう言って、ファーリナはイレギュラーズ達を戦場へと送り出した。
 この巨大な魚群を倒し、島までのルートを制圧するのだ!

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 巨大な狂えるイワシ、マッドサーディンの魚群が現れました。
 速やかに撃退してください。

●成功条件
 マッドサーディンの魚群の撃退

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

●状況
 絶望の青、『アクエリア』近海の海を遊弋するマッドサーディンの魚群。
 魚群はアクエリアに近づく船を襲い、島に近づかせないようにふるまっています。
 皆さんは、この魚群を撃退し、島へのルートを制圧してください。

●マッドサーディンについて
 マッドサーディン自体は無数に存在しますが、便宜上巨大な魚群を『一匹の巨大な魚』として表します。
 マッドサーディンの魚群は巨大な群れであるため、基本的にダメージを与えても次から次へと補充されてしまい、群れを壊滅させることは難しいと思われます。
 そのため、マッドサーディンを撃退するためには群れのリーダーである特異個体『赤いマッドサーディン』を撃退する必要があります。
 赤いマッドサーディンを探すには、『一匹の巨大な魚状態』の魚群にある程度ダメージを与え、群れを一度分解させる必要があります。
 分解された群れは一度大量の魚群に分かれ海に逃げ込みます。この時に赤いマッドサーディンを探し、狙い撃ちにしてやればいいのです。
 赤いマッドサーディンは、『一匹の魚状態のときにより大きなダメージを与え』『水中から探せば』より見つけやすくなるでしょう。
 なお、赤いマッドサーディンを撃退できれば、群れは自然に分解され、何処かへと消えていきます。
 数匹残ったマッドサーディンが攻撃してくるかもしれませんが、簡単に撃退できるでしょう。
 あと、一応食べられます。イワシみたいな味がします。

●エネミーデータ
 マッドサーディンの魚群 ×1
 特徴
 『一匹の巨大な魚』状態のマッドサーディンです。
 主に牙による単体攻撃や、しっぽによる範囲攻撃を行ってきます。
 レンジは主に近距離~中距離。ごくまれに遠距離攻撃も行います。
 また、BSとして、出血を持ちます。

 赤いマッドサーディン ×1
 特徴
 魚群の中に潜む、群れのリーダーです。前述した方法で見つけ、狙い撃ちする必要があります。
 生命力はほかのマッドサーディンに比べて高いですが、戦闘能力は決して高くありません。
 確実にとらえられれば、容易く撃退できるでしょう。

●重要な備考
<バーティング・サインポスト>ではイレギュラーズが『廃滅病』に罹患する場合があります。
『廃滅病』を発症した場合、キャラクターが『死兆』状態となる場合がありますのでご注意下さい。

 以上となります。
 それでは、皆様のご参加をお待ちしております。

  • <バーティング・サインポスト>魚群完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年03月20日 23時00分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

Lumilia=Sherwood(p3p000381)
渡鈴鳥
ミミ・エンクィスト(p3p000656)
もふもふバイト長
ウィリアム・M・アステリズム(p3p001243)
想星紡ぎ
セリア=ファンベル(p3p004040)
初日吊り候補
アンジュ・サルディーネ(p3p006960)
海軍士官候補生
雪村 沙月(p3p007273)
月下美人
ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)
私の航海誌
ニコラス・コルゥ・ハイド(p3p007576)
名無しの

リプレイ

●おどる いわし
 ざばり、と、波間を超えて、海より何かが飛翔する。
 それは巨大な、一匹の魚だった。いや、よく見れば、魚の形を構成する、何かの群れに見えただろう。
 巨大な魚を構成するのは、1メートルほどの魚の群れである。自身の身体を、そのまま数十倍に巨大化させたような、狂暴な『いわし』の群れが描く巨大な『いわし』……それがマッドサーディンだ。
 船上にて応戦する海洋の兵士たちをあざ笑うように、マッドサーディンはその牙で、兵士たちに食らいつき、海へと引きずり込む……その悪夢のような光景のど真ん中に、イレギュラーズ達は降り立った!
「いわしを! 食べるな!」
 どーん、という効果音が付きそうな勢いで雄たけびを上げる『エンジェルいわし』アンジュ・サルディーネ(p3p006960)。食べられているのはイワシではなく人なのだがそれはそれ。これはキメ台詞みたいなものなので。
「というか、マッドサーディンもイワシ扱いなんですか?」
 小首をかしげつつ、尋ねる『虹を齧って歩こう』ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)である。ぐるり、とアンジュはその顔をウィズィの方へと向けると、
「ううん、ぜんぜん」
 真顔で口を開いた。
「ぜんぜん」
「うん。ぜんぜん、いわしじゃない。あれがいわし? 何言ってるの? あんな大きいやつなんていわしじゃないよ。いわしっていうのはね、自由で救われた存在じゃなきゃだめなんだよ。静かで、豊かで……」
 ばしゃーん、と、マッドサーディンが跳ねた。じろり、とアンジュがマッドサーディンを見据える。ふぅ~~、とため息をつきつつ、肩をすくめて、首を振った。
「だからあれは、マッドサーディンっていう名前のただの魚。いい?」
「あ、はい」
 仲間達は頷いた。
「それはそれとして、食べるのはやめてね」
「あ、はい」
 仲間達は頷いた。
 そう言う事になった。
「とにかく、許可は下りましたね」
 ぽん、と手を叩く『百錬成鋼之華』雪村 沙月(p3p007273)。
「アンジュさんが、いわしにこだわる事には興味がありますが――」
「え? 聞いちゃう? 聞いちゃう? 語っちゃうよ? 文字数上限まで語っちゃうよ?」
 目を輝かせるアンジュはさておいて。
「それはさておき。興味深い性質を持つ魚ですね。そこは流石に、絶望の青、と言った所でしょうか。興味はありますが、今は敵の排除が最優先」
 沙月の言葉に、
「だね。何かの物語みたいに、分かりやすい所にリーダーがいればいいんだけど……」
 答える『初日吊り候補』セリア=ファンベル(p3p004040)。マッドサーディンの討伐には、魚群のリーダーを発見し、撃退することがほぼ唯一の方法だ。
「なんにしても、まずはマッドサーディンをボコって、ダメージを与える必要があるのですね」
 『もふもふバイト長』ミミ・エンクィスト(p3p000656)の言葉に応じたかのように、マッドサーディンが再びはね、船体を揺らした。ぴぃ、と悲鳴を上げて頭を押さえるミミ。
「ひえぇ、もうちょっとぬるめな試練を求めるのですよマイゴッド!」
「皆さん、準備は良いですか?」
 『白綾の音色』Lumilia=Sherwood(p3p000381)が声をあげる。
「いつまで待っていても始まりません……速やかに退治して、後の道筋へとつなげましょう」
 Lumiliaの言葉に、仲間達は頷いた。各々が武器を手に、一気に船首へと躍り出る。
「イレギュラーズさん達か! 相手は手ごわいぞ!」
 海洋の船乗りが声をあげるのへ、
「こっちは大丈夫だ! それより操船の方を頼む!」
 『希祈の星図』ウィリアム・M・アステリズム(p3p001243)が声をあげる。同時に意識を集中し、『エンジェルいわし』のファミリアーを呼び出す。
「エンジェルいわし……『理解(わか)』ってるね、ウィリアムさん……!」
 と、感嘆の声をあげるアンジュであったが、ウィリアムは慌てた様子で頭を振ると、
「いや、俺が呼び出せる一番効率のいい水中生物がエンジェルいわしだっただけで……あ、いや、はい、わかってます! エンジェルいわしは最高!」
 ささ、っと呼び出したエンジェルいわしを海へと送り出すウィリアム。ひとまず準備はこれでよい。
「ついでに保護結界も張っておきました! これで攻撃の余波で船がダメになる可能性は無いのです!」
 ミミの言葉に、
「おうよ、さぁて、じゃあいわし漁……」
 と、答えた『博徒』ニコラス・コルゥ・ハイド(p3p007576)は、何者かからの無言の圧力を受けて、一瞬、言い淀んだ。ついでに咳ばらいを一つ。
「マッドサーディン漁と行くか!」
 その言葉に、仲間達は頷き、一斉に武器を構えた。そんな彼らをあざ笑うかのように、巨大な魚群はその巨体を大きく中空へと躍らせ、此方へと襲い掛かってきたのである!

●たたかう いわし
「さぁ、Step on it!! 一気に畳み掛けますよ!!」
 ウィズィが振りかざす、巨大なナイフ。ぐるり、と片手で回転させるや、さながら巨大な槍のごとく、船の横を泳ぐマッドサーディンの魚群へと叩きつける。突き刺さる、手ごたえ! 数匹のマッドサーディンを串刺しに、一気に切り払う!
「では、続きましょう」
 静かに振るわれる、沙月の指。そこから放たれた衝撃が、一筋の槍と化して、魚群を一直線に貫く! 二人の攻撃に、無数のマッドサーディンが脱落する中、しかし新たに現れた魚たちがその穴を埋め、まるで傷などなかったかのように振る舞う。
「なるほど、これは少々、厄介な性質ですねぇ」
 小首をかしげる沙月――だが、決して無意味な攻撃などではない。
「なら、広範囲を吹き飛ばす!」
 ウィリアムが術式を編み上げ、放つ神罰の光。横なぎに放たれた光線に、次々とマッドサーディンたちが脱落していくが、その端から次なる魚群が現れる。まるで表面の皮をはいだ、その端から皮が再生していくかのようだ。
「くそ、とんでもない魚群じゃねぇか!」
 ニコラスの放つオーラキャノンが、マッドサーディンの数匹を焼き魚へと変貌させた。だが、巨大な魚群はその数を減らしたようには見受けられない。
「気が遠くなりそうだが……これを続けるしかないんだよな!」
 ニコラスの叫びに、
「その通りなのです! こいつ等をボコり続ければそのうち……おっとぉ!?」
 答えるミミ。だが、その途中でマッドサーディンの魚群による体当りが、船上を揺らした。此方が足を止めた途端、マッドサーディンはその『シッポ』を振りかぶり、薙ぎ払うように船上を横断する!
 面による圧力ではなく、無数の鋭いマッドサーディンによる、線の斬撃――体に無数の浅い切り傷を作りつつ、イレギュラーズ達はマッドサーディンの攻撃を何とか受け切る。
「鬱陶しい奴ら……!」
 セリアがたまらず声をあげる。敵の攻撃はイレギュラーズ達の命を取るには至らなかったが、なるほど、決して浅いだけの攻撃ではない。
「ですが、攻撃を重ねなければなりません……!」
 Lumiliaの、お返しとばかりの斬撃が、マッドサーディンの魚群を薙いだ。その傷は瞬く間にふさがれてしまったのだが、しかしわずかながら、その『再生』速度が落ちつつあることに、イレギュラーズ達は気づいた。
「なるほど……集中して! 一気に大ダメージを与えるよ!」
 その、僅かな綻びに、セリアは意志力の銃弾を放った。爆ぜるマッドサーディンの魚群、僅かな綻びは、確かなものとなっていく。
「パパいわし、れっつごーだよ!!」
 アンジュが召喚した無数のエンジェルいわしの群れが、マッドサーディンの魚群へと突撃していく! 踊るいわし。舞ういわし。いわしといわしがぶつかり合い、いわし降り注ぐ中、ついにその時は訪れた。度重なる攻撃の衝撃に耐えきれなくなった群れの一部が爆発するように散開し、次々と海へと離脱していったのである。
「チャンスだ!」
 ウィリアムが叫ぶ――同時に、数名のイレギュラーズ達が海へと飛び込んだ!
 ウィリアムが、その視線をファミリアーとシンクロする……水中を踊り狂う、幾千ものマッドサーディンの群れ。
「くそ、この中から一匹を探せってのか……!?」
 思わず呻く。
「うわぁ、大量にびちびち飛び跳ねて! ちょっとひくレベルなのですよ!?」
 ミミもまた、たまらず叫んだ。水上には無数のマッドサーディンが踊り狂い、もはや水の海なのか魚の海なのかすらわからぬほどの様相を呈している。
「海の中はどう!?」
 アンジュが尋ねるのへ、答えたのはセリアだ。
「もうめっちゃくちゃ……ううん、ちょっと待って!?」
「居ました……あれですね?」
 セリアの差す方――大量の魚の中に紛れ、しかし確実に見えた、赤い一匹。それを見つけた沙月が声をあげる。
 確かにそれは、赤いマッドサーディンの姿だった。だがそれは魚群にかすれて、今にも消え去ろうとしている!
「逃がすか……!」
 ニコラスの放つオーラキャノンが、魚群を消し飛ばしながら直進する――赤いマッドサーディンを狙い、迫る光線。だが、僅かな所で、赤いマッドサーディンが飛び跳ねた。射線からわずか、ほんの僅かの回避!
「逃がす……かぁっ!」
 僅かに跳ねた、赤い点――ウィズィは船上からそれを見つけると手にしたナイフを投げつけた――逸れる! とっさの投擲に狙いが甘かったのか、爆発するように散っていくマッドサーディンの中で、赤いマッドサーディンは着水! 途端、マッドサーディンたちの動きは、統率の取れたように一か所にまとまっていく。巨大なベイト・ボールを作り上げるや、次の瞬間には再び一匹の巨大な魚へと変貌を遂げた!
「捉えられなかった……っ!」
 悔しげにうめくウィズィ。
「気持ちを切り替えろ! また魚が来るぞ!」
 ウィリアムの叫びに、ウィズィが顔をあげる。そこには再び、巨大な魚群が迫りつつあった。

●およぐ いわし
「ちくしょー、こい、いわしやろー! こうなったらもっかいボコってやるのです!」
 手にしたポーションをばらまきつつ、ミミが叫んだ。再び一匹の巨大な魚のような状態になったマッドサーディンたちが、挑発するように海を泳ぐ。
「でも……さっきより、勢いが落ちてるみたい……!」
 アンジュが叫んだ。
「分かるのか!?」
 ウィリアムが尋ねるのへ、アンジュは頷いた。
「わかるよ……いわしの事だもん……!」
 わかるらしい。
「それはそうとして……水中のメンバーはどうしますか? 一度引き上げます?」
 尋ねるLumiliaへ、声をあげたのはニコラスと沙月である。
「このままでいいぞ!」
「結局、再び海に潜ることになりそうですからね。ならば、此処から戦わせていただきます」
 二人の言葉に、セリアが続く。
「船上と海から、挟み撃ちだよ!」
「了解ですよ! 今度は逃がしません!」
 ウィズィは再び獲物を手にし、魚群を睨む。
 果たして魚群は再び船へと迫りくる――ウィズィは跳躍。巨大なナイフによる斬撃を、魚群へとお見舞いした。次々と脱落していく/補充されていくマッドサーディン。しかし、アンジュの言葉通り、その勢いは確実に衰えている。それを、ウィズィは感じ取っていた。
「今度こそ……Step on it!! 一気に貫きますよ!」
 ぐっ、と武器を構え、
「吹っ――飛べぇ!!」
 魚群そのものを吹き飛ばすかのような衝撃――! ぼこり、と巨大な穴が開いた魚群に、大慌て手で修復の魚たちが踊り狂う。
「さぁ、行きますよ。水中であろうとも、私の業の冴えは僅かとも綻びません!」
 鋭く放たれる、沙月の無拍子による一撃――! ウィズィの反対から放たれる衝撃が、まるで中央でぶつかり合うように、魚群に波紋を走らせる!
「ならば、風穴を開けて見せる!」
 放たれたウィリアムの青の刃が、悪を貫く星の聖剣が、一直線に魚群を走った。腹部に巨大な大穴をあけられた魚群が、一斉に恐怖と痛みの悲鳴を上げた。
「まだだよ!」
 セリアが吠えた。放たれた精神力の弾丸が、魚群に開けられた大穴をさらに広げる! ぎぎぎ、魚群が怯えるように、その身体を震わせた。
「おらぁっ! ぶっとべぇっ!!」
 続いて放たれる、ニコラスの一撃――大剣による突撃が、魚群に衝撃を走らせた。魚群は悲鳴を上げるようにのたうち回り――一気に分散する!
 雨のように降り注ぐマッドサーディンたち――次々と水中へと落ちていく中、それを見たのはアンジュの眼――。
「見つけたよ! 船の右手側! 落ちた!」
 確かに見えたのだ。あの赤い、一匹のマッドサーディンが。
「了解! 露払いは、任せろ!」
 ニコラスが放つオーラキャノンが、そこまでの道を作り上げた。一気に潜った沙月がそれを追う。
「逃がさないッ! 移動先を潰して追い込むぞ!」
 ウィリアムの放つ神威の光線が、赤いマッドサーディンの退路を塞ぐように海を走る。焦熱と爆発せんばかりにマッドサーディンが吹き上がり、赤いマッドサーディンが泳ぐ足を止めた。
「止まりやがったのです!」
 ミミの叫びに、沙月は水中で目を見開いた。赤く蠢くターゲット。こんなにわかりやすいのに、今の今まで見つけられたなかった個体。
 息を止め、手を伸ばす――ちっ、と、赤いマッドサーディンの身体をかすめた。跳ぶ。飛ぶ。赤いマッドサーディンが、上空へと逃れる――沙月は笑ってみせた。もう逃げ場などあるまい。そのように。
「これで……」
 上空には、ウィズィが、いた。
「お終い」
 振るわれるナイフが、赤いマッドサーディンの身体を両断した。ばしゃん、と、ウィズィが着水する。
 あれほど蠢いていたマッドサーディンたちは、リーダーが死んだ瞬間に、統率の取れた行動をの一切を止めた。そしてまるで潮が引くみたいに、一斉に、一斉に、船から離れていった。
 ざざざざざ、と。
 退いていく。
 後に残ったのは、まるで最初からそうだったかのように。
 穏やかな――海だった。
「ぶはっ」
 水面へと、ウィズィが顔を出す。船上を見上げる――海での戦いを選んだ、仲間たちと共に。
 船上では、仲間達が手を振っていた。自然、皆笑顔になっていた。
 一つの戦いを、成し遂げたのだから。

●おもう いわし
「皆さん、捕まってくださいなのですよ!」
 ミミが救命用の浮き輪を、海へと放り投げる。仲間達はそれに捕まって、やがて引き上げられた。
「タオル、タオルも用意したのです!」
 ミミがタオルを配るのを、船上へと降り立ったイレギュラーズ達は受け取って、水気をふき取る。
「皆さん、無事で何よりです」
 仲間達の無事を、Lumiliaは喜んでいた。船上では、イレギュラーズ達の奮闘を湛え、様々声をあげる船員達の姿があある。
「むぅ、水に入る気はなかったんですけどね。さむいし」
 ウィズィが声をあげるのへ、ニコラスは笑った。
「まったくだ! 海水でベッタベタだし風が冷てぇ。暴れたってのに寒いな、おい!!」
「ふふ……全くです。しかし、実に興味深い生物でした。世界は広いものですね」
 マッドサーディンの生態に、関心の声をあげる沙月である。
「確かに、妙な相手ではあったな……狂王種というのは、滅茶苦茶だな」
 頷くウィリアム。
「勘弁してほしいよ……研究サンプルになればいいと思ったけど、廃滅病が怖いし、持ち帰るのもなぁ」
 セリアがぼやく。何が原因で廃滅病にり患するかわからない以上、リスクは避けられるだけ避けた方がいいだろう。
「でも……これだけは覚えておいて。あのいわしだって、最初からおかしくなったんじゃない」
 アンジュが静かに――そう言った。
「だからあんまり責めないであげてね。あの魚もきっとこの海の被害者なんだ。
 ぜんぶぜんぶ──。
 この海と、魔種が悪いんだ」
「そうだな。アルバニア……か」
 ウィリアムが頷く。傍らには、ファミリアーとして呼び出したエンジェルいわしの姿があった。
「廃滅病を克服するためにも、対峙しなければなりませんね」
 沙月の言葉に、仲間達は頷く。
「やる事は山積みなのですね」
 ミミがため息をつくのへ、
「ま、一つずつ解決してくしかないか」
 セリアが答える。
「そうですね……そしていつか必ず、この海の果てを」
 ウィズィの言葉に、
「おう! 必ず、な!」
 ニコラスが頷き、海の上を見た。
 海上に太陽は輝き、いくつもの波が寄せては返す。その波の一つは、先ほどの逃げたマッドサーディンなのかもしれない。
 イレギュラーズ達は、その海の果てに想いを馳せ、
「じゃあ、最後に皆、これだけは覚えていってね!」
 アンジュは唐突にそう告げると、
「罪を憎んでいわし憎まず。OK?」
 にこやかに笑った。
 罪を憎んでいわし憎まず。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 皆さんのご活躍により、海洋艦隊はその任務を果たし、『アクエリア』攻略のための貢献を果たしました。
 マッドサーディンたちも、今はもしかしたら、穏やかに海を泳いでいるのかも、知れませんね。

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